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目次

 

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成19年11月15日に公表した「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」から「設例」部分を除いたものです。「設例」は別に記載してあります。なお、実務への適用にあたっては念のためにオリジナルの当該適用指針等を確認してください。

企業会計基準適用指針第10号

企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針

(目的・適用指針・結論の背景)

平成17年12月27日

改正平成18年12月22日

最終改正平成19年11月15日

企業会計基準委員会

本適用指針は、平成20年3月10日までに公表された次の会計基準等による修正が反映されている。

・企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」(平成20年3月10日公表)

目次

目的

適用指針

T.範囲

U.用語の定義

V.取得と持分の結合の識別

1.取得と持分の結合の識別規準

(1) 取得と持分の結合の識別規準の概要

(2) 複数の取引が1つの企業結合を構成している場合の取扱い

(3) いわゆる三角合併などの取扱い

2.対価要件の取扱い

(1) 議決権のある株式の内容

(2) 対価要件の判定の前提

(3) 企業結合の対価として議決権のある株式以外の財産が交付された場合の取扱い

(4) 議決権のない株式等に議決権のある株式を交付した場合の取扱い

(5) 議決権のない株式を結合企業が現金により取得した場合等の取扱い

3.議決権比率要件の取扱い

(1) 議決権比率の判定基準日

(2) 議決権比率の算定基礎となる各結合当事企業の議決権数の計算方法

(3) 潜在株式の議決権行使の可能性の取扱い

(4) 議決権比率調整目的で潜在株式を発行した場合の取扱い

(5) 議決権比率の再判定

(6) 結合当事企業が3社以上の場合の取扱い

4.議決権比率以外の支配要件の取扱い

(1) 重要な経営事項の意思決定機関の構成員の過半数を占めている場合

(2) いずれかの結合当事企業の株主が有利な立場にある場合

(3) 企業結合日後2年以内に大部分の事業を処分する予定がある場合

(4) 多額のプレミアムが発生している場合

(5) 結合当事企業が3社以上の場合の取扱い

W.取得の会計処理

1.取得の会計処理の概要

2.取得企業の決定

(1) 取得企業の決定規準

(2) 結合当事企業が3社以上の場合の取扱い

3.本適用指針で取り扱う取得と判定された組織再編の形式ごとの会計処理

4.取得と判定された吸収合併、吸収分割、事業譲受及び現物出資の会計処理

本適用指針における取得企業の取扱い

5.取得原価の算定方法

(1) 取得原価の算定方法の概要

(2) 取得の対価の算定方法

(3) 支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定

(4) 企業結合の合意公表日後、企業結合日までに株式の交換比率等が変更された場合の取得の対価の算定

(5) 株式交付日の株価を基礎として取得の対価を算定できる場合

(6) 支払対価が取得企業の種類株式の場合の取得の対価の算定

(7) 支払対価が現金の場合の取得の対価の算定

(8) 支払対価が自社以外の株式(例えば親会社株式)の場合の取得の対価の算定

(9) 取得が複数の取引により達成された場合の取得の対価の算定

(10) 条件付取得対価の会計処理

(11) 取得に直接要した支出額の会計処理

(12) 株式交付費の取扱い

(13) 吸収合併存続会社が新株予約権等を交付したときの会計処理

6.取得原価の配分方法

(1) 取得原価の配分方法の概要

(2) 識別可能資産及び負債の範囲

(3) 識別可能資産及び負債への取得原価の配分額の算定

(4) 取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い

(5) 時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例

(6) 無形資産への取得原価の配分

研究開発費等会計基準により認識される無形固定資産

法律上の権利の範囲

分離して譲渡可能なものの範囲

開発の最終段階にある研究開発活動等の取扱い

(7) 研究開発費への取得原価の配分

(8) 企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分

企業結合に係る特定勘定に計上できる費用又は損失の範囲

取得の対価の算定に反映されている場合の要件

株価を基礎に株式の交換比率を決定した場合であっても「取得の対価の算定に反映されている場合」に該当する場合

企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理

(9) 退職給付引当金への取得原価の配分

(10) 被取得企業においてヘッジ会計が適用されていた場合の取得原価の配分

(11) 取得原価の配分における暫定的な会計処理の対象となる科目

(12) 暫定的な会計処理の確定又は見直し処理

(13) 取得企業の税効果会計

繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分

繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の確定

繰延税金資産の回収可能性

(14) のれんの会計処理

(15) 負ののれんの会計処理

7.取得企業の増加資本の会計処理

(1) 新株を発行した場合の会計処理

(2) 自己株式を処分した場合の会計処理

(3) 取得企業の株式以外の財産を交付した場合の会計処理

(4) 子会社が親会社株式を交付した場合(いわゆる三角合併などの場合)の会計処理

8.吸収合併消滅会社の最終事業年度の会計処理

9.逆取得となる吸収合併の会計処理

(1) 吸収合併存続会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(2) 結合後企業(取得企業)の連結財務諸表上の会計処理

(3) 結合後企業(取得企業)が連結財務諸表を作成しない場合の注記事項の算定基礎

10.逆取得となる吸収分割又は現物出資の会計処理

(1) 吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(2) 吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の会計処理

11.分離元企業の会計処理

(1) 移転した事業に係る適正な帳簿価額の算定

(2) 事業分離に要した支出額の会計処理

(3) 受取対価の時価

12.分離先企業における企業結合が取得と判定された場合の分離元企業の会計処理

(1) 受取対価が現金等の財産のみである場合(事業譲渡など)の分離元企業の会計処理

子会社を分離先企業として行われた事業分離の場合

子会社以外を分離先企業として行われた事業分離の場合

(2) 受取対価が分離先企業の株式のみである場合(会社分割など)の分離元企業の会計処理

分離先企業が子会社となる場合

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合)

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有している場合)

分離先企業が関連会社となる場合

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合)

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式(その他有価証券)を保有している場合)

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式(関連会社株式)を保有している場合)

分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合

(3) 受取対価が現金等の財産と分離先企業の株式である場合の分離元企業の会計処理

分離先企業が子会社となる場合

分離先企業が関連会社となる場合

分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合

(4) 分離元企業の税効果会計

分離元企業の繰延税金資産の回収可能性

分離元企業の繰延税金資産及び繰延税金負債の計上額

分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の取扱い

13.取得と判定された株式交換の会計処理

(1) 株式交換完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

子会社株式の取得原価の算定

株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

株式交換完全親会社が新株を発行した場合の会計処理

株式交換完全親会社が自己株式を処分した場合の会計処理

株式交換完全親会社が自社の株式以外の財産を交付した場合の会計処理

子会社が親会社の株式を対価として株式交換した場合の会計処理

株式交換完全親会社の税効果会計

(2) 株式交換完全子会社の個別財務諸表上の会計処理

(3) 株式交換完全親会社の連結財務諸表上の会計処理

投資と資本の消去

(4) 株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

14.逆取得となる株式交換の会計処理(株式交換完全子会社が取得企業となる場合)

(1) 株式交換完全親会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

(2) 株式交換完全子会社(取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(3) 株式交換後の連結財務諸表上の会計処理

15.取得と判定された株式移転の会計処理

(1) 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

子会社株式の取得原価の算定

株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

株式移転設立完全親会社の資本の会計処理

株式移転設立完全親会社の税効果会計

(2) 株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(3) 株式移転設立完全親会社の連結財務諸表上の会計処理

投資と資本の消去

株式移転完全子会社(取得企業)の純資産の引継ぎ

株式移転日が株式移転完全子会社(被取得企業)の決算日以外の日である場合の取扱い

X.持分の結合の会計処理

1.持分の結合の会計処理の概要

(1) 持分プーリング法の適用

(2) 持分プーリング法に準じた処理方法の適用

(3) 結合当事企業における適正な帳簿価額の算定

2.本適用指針で取り扱う持分の結合と判定された組織再編の形式ごとの会計処理

3.持分の結合と判定された合併(吸収合併及び新設合併)の会計処理

(1) 吸収合併消滅会社等の個別財務諸表上の会計処理

適正な帳簿価額の算定

(2) 吸収合併存続会社等の個別財務諸表上の会計処理

資産及び負債の会計処理

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

(自己株式を処分した場合の会計処理)

(自己株式の取得の会計処理)

(吸収合併消滅会社等が保有していた当該会社の自己株式の会計処理)

(抱合せ株式の消滅の会計処理)

(吸収合併消滅会社等の新株予約権者に新株予約権等を交付したときの会計処理)

会計処理方法の統一

みなし結合日から企業結合日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

企業結合(合併)に要した支出額の会計処理

(3) 結合後企業の連結財務諸表上の会計処理

みなし結合日から企業結合日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

みなし結合日前の結合当事企業間の取引の会計処理

4.持分の結合と判定された会社分割(共同新設分割及び吸収分割)の会計処理

(1) 吸収分割会社等の個別財務諸表上の会計処理

分割期日の前日の適正な帳簿価額の算定

事業分離(会社分割)に要した支出額の会計処理

分割期日に取得する吸収分割承継会社等の株式の会計処理

(2) 吸収分割会社等の連結財務諸表上の会計処理

(3) 吸収分割承継会社等の個別財務諸表上の会計処理

資産及び負債の会計処理

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

(自己株式を処分した場合の会計処理)

(自己株式の取得の会計処理)

会計処理方法の統一

分割期日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

5.持分の結合と判定された株式交換又は株式移転の会計処理

(1) 株式交換完全子会社等の個別財務諸表上の会計処理

みなし結合日の前日における決算又は仮決算の実施(適正な帳簿価額の算定)

連結決算日における決算又は仮決算の実施

株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

(2) 株式交換完全親会社等の個別財務諸表上の会計処理

子会社株式の取得原価の算定

株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

(自己株式を処分した場合の会計処理(株式交換の場合))

(3) 株式交換完全親会社等の連結財務諸表上の会計処理

企業結合年度の連結財務諸表及び資産、負債及び純資産の会計処理

自己株式の取得の会計処理(株式移転の場合)

会計処理方法の統一

みなし結合日から企業結合日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

みなし結合日前の結合当事企業間の取引の会計処理

企業結合(株式交換又は株式移転)に要した支出額の会計処理

Y.共同支配企業の形成の判定

1.共同支配企業の形成の判定規準

(1) 共同支配企業の形成の判定規準の概要

(2) 投資企業の中に一般の投資企業が含まれる場合における共同支配企業の形成の判定

2.独立企業要件の取扱い

3.契約要件の取扱い

(1) 共同支配となる契約等の要件

(2) 株主間の事前承認規定

4.対価要件の取扱い

5.その他の支配要件の取扱い

Z.共同支配企業の形成の会計処理

1.共同支配企業の形成の会計処理の概要

2.本適用指針で取り扱う共同支配企業の形成と判定された組織再編の形式ごとの会計処理

3.共同支配企業の形成と判定された合併(吸収合併)の会計処理

(1) 吸収合併存続会社(共同支配企業)の会計処理

資産及び負債の会計処理

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

(自己株式を処分した場合の会計処理)

吸収合併存続会社(共同支配企業)のその他の会計処理

結合当事企業の中に一般の投資企業が含まれている場合の取扱い

(2) 合併会社の株主(共同支配投資企業)の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

連結財務諸表上の会計処理

(3) 合併会社の株主(一般の投資企業)の会計処理

4.共同支配企業の形成と判定された会社分割(吸収分割又は共同新設分割)の会計処理

(1) 吸収分割承継会社等(共同支配企業)の会計処理

資産及び負債の会計処理

増加資本の会計処理

吸収分割承継会社等(共同支配企業)のその他の会計処理

投資企業の中に一般の投資企業が含まれている場合の取扱い

(2) 吸収分割会社等(共同支配投資企業)の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

連結財務諸表上の会計処理

共同支配投資企業の子会社が共同支配企業に投資している場合の会計処理

(3) 吸収分割会社等(一般の投資企業)の会計処理

[.共通支配下の取引等の会計処理

1.共通支配下の取引等の会計処理の概要

2.共通支配下の取引の範囲

3.共通支配下の取引等に係る対価

(1) 本適用指針における共通支配下の取引等に係る対価の前提

(2) 完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

4.本適用指針で取り扱う共通支配下の取引等の組織再編の形式ごとの会計処理

5.親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

子会社(吸収合併消滅会社)の会計処理

親会社(吸収合併存続会社)の会計処理

(親会社が子会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

(連結財務諸表上の帳簿価額が算定されていない場合の取扱い)

(2) 連結財務諸表上の会計処理

6.子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収合併消滅会社)の会計処理

子会社(吸収合併存続会社)の会計処理

(子会社が親会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

(2) 連結財務諸表上の会計処理

子会社が連結財務諸表を作成しない場合の注記事項の算定基礎

7.子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が親会社株式のみの場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割承継会社)の会計処理

(親会社が子会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

子会社(吸収分割会社)の会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

8.子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割承継会社)の会計処理

(分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額の算定)

(親会社が子会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

子会社(吸収分割会社)の会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

9.親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理

(事業譲渡の対価が現金等の財産のみの場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(事業譲渡会社)の会計処理

子会社(事業譲受会社)の会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

10.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

(子会社が親会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

(2) 連結財務諸表上の会計処理

11.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(会社分割の対価が子会社株式と現金等の財産の場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

12.親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

13.親会社が子会社を株式交換完全子会社とする場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(株式交換完全親会社)の会計処理

親会社(株式交換完全親会社)が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

(親会社(株式交換完全親会社)の会計処理)

(子会社(株式交換完全子会社)の会計処理)

中間子会社に対価を支払う場合の取扱い

子会社が孫会社を株式交換完全子会社とする場合の取扱い

(2) 連結財務諸表上の会計処理

子会社株式の追加取得の会計処理(投資と資本の消去)

株式交換日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

(3) 株式交換直前に子会社(株式交換完全子会社)が自己株式を保有している場合の取扱い

親会社(株式交換完全親会社)の会計処理

子会社(株式交換完全子会社)の会計処理

14.親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理

親会社(株式移転設立完全親会社)が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

(親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理)

(子会社(株式移転完全子会社)の会計処理)

子会社(旧親会社である株式移転完全子会社)の会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

株式移転日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

(3) 株式移転直前に子会社(株式移転完全子会社)が自己株式を保有している場合の取扱い

親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理

子会社(株式移転完全子会社)の会計処理

15.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が現金等の財産のみである場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

吸収合併存続会社の会計処理

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

16.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式のみである場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

吸収合併存続会社の会計処理

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

17.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

吸収合併存続会社の会計処理

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

18.同一の株主(個人)により支配されている会社同士の吸収合併の会計処理

18−2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

吸収分割会社の会計処理

吸収分割承継会社の会計処理

(2) 吸収分割会社である子会社の連結財務諸表上の会計処理

19.子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

吸収分割会社の会計処理

吸収分割承継会社の会計処理

吸収分割会社の株主(親会社)に係る会計処理

20.単独で株式移転設立完全親会社を設立した場合の会計処理

株式移転設立完全親会社の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

連結財務諸表上の会計処理

21.単独で新設分割設立子会社を設立した場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(新設分割会社)の会計処理

子会社(新設分割設立会社)の会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

22.単独で分割型の会社分割が行われた場合の会計処理

(1) 新設分割会社の個別財務諸表上の会計処理

(2) 新設分割設立会社の個別財務諸表上の会計処理

\.結合当事企業の株主に係る会計処理

1.被結合企業の株主に係る会計処理

(1) 受取対価の時価

(2) 受取対価が現金等の財産のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

子会社以外を被結合企業とした企業結合の場合

(3) 受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

関連会社を被結合企業とした企業結合の場合

子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合の場合

(4) 受取対価が現金等の財産と結合企業の株式である場合の被結合企業の株主に係る会計処理

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

関連会社を被結合企業とした企業結合の場合

子会社や関連会社以外を被結合企業とした企業結合の場合

2.結合企業の株主に係る会計処理

(1) 結合企業の株主に係る会計処理の考え方

(2) 子会社を結合企業とする企業結合の場合

(3) 関連会社を結合企業とする企業結合の場合

(4) 子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合の場合

3.分割型の会社分割における吸収分割会社及び新設分割会社の株主に係る会計処理

(1) 受取対価が新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式のみである場合の新設分割会社又は吸収分割会社の株主に係る会計処理

(2) 受取対価が現金等の財産と新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式である場合の新設分割会社又は吸収分割会社の株主に係る会計処理

4.現金以外の財産の分配を受けた場合の株主に係る会計処理

5.いわゆる三角合併などにおける結合当事企業の株主に係る会計処理

].開示

1.貸借対照表における表示

(1) のれん及び負ののれんの表示

(2) 企業結合に係る特定勘定の表示

(3) 共同支配企業への投資の表示

2.損益計算書における表示

(1) のれん及び負ののれんの償却額の表示

(2) 企業結合に係る特定勘定の取崩益の表示

(3) 移転損益の表示

(4) 交換損益の表示

3.注記事項

(1) 企業結合に関する注記事項

パーチェス法を適用した場合の注記事項

逆取得となる吸収合併の場合で、結合後企業が連結財務諸表を作成しないときの取扱い

(企業結合年度の取扱い)

(企業結合年度後の取扱い)

企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額

連結財務諸表原則を適用すべき企業結合におけるパーチェス法を適用した場合の注記事項

持分プーリング法を適用した場合の注記事項

合併が持分の結合と判定された場合の個別財務諸表上の注記事項

共同支配企業の形成が行われた場合の共同支配投資企業における注記

共通支配下の取引等に係る注記事項

子会社が親会社を吸収合併した場合で、子会社が連結財務諸表を作成しないときの注記事項

(企業結合年度の取扱い)

(企業結合年度後の取扱い)

連結財務諸表原則を適用すべき企業結合における共通支配下の取引等に係る注記事項

(2) 事業分離に関する注記事項

企業結合に該当しないため結合当事企業にはあたらない分離先企業における注記

(3) 子会社が企業結合した場合の親会社(結合当事企業の株主)における注記事項

(4) 重要な後発事象等の注記

企業結合に関する後発事象等

事業分離に関する後発事象等

子会社が企業結合した場合の親会社における後発事象等

4.企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額の開示(パーチェス法が適用される場合)

(1) 基本的な考え方

(2) 前提条件の例示

5.過年度の期首に企業結合が行われたものと仮定した当期の連結損益計算書等への影響の概算額を任意に開示する場合(持分プーリング法が適用される場合)

(1) 基本的な考え方

(2) 前提条件の例示

(3) 前提条件の開示

]T.適用時期等

]U.議決

結論の背景

検討の経緯

T.取得と持分の結合の識別

1.企業結合会計基準の取得と連結原則の子会社との関係

2.いわゆる三角合併などの取扱い

3.対価要件の取扱い

(1) 議決権のある株式の内容

(2) 対価要件の判定の前提

(3) 企業結合の対価として議決権のある株式以外の財産が交付された場合の取扱い

(4) 議決権のない株式等に議決権のある株式を交付した場合の取扱い

4.議決権比率要件の取扱い

(1) 判定基準日の考え方

(2) 調整議決権数の取扱い

(3) 対価要件における議決権と議決権比率要件における議決権の関係

(4) 潜在株式の議決権行使の可能性の取扱い

(5) 議決権比率の再判定

5.議決権比率以外の支配要件の取扱い

(1) 重要な経営事項の意思決定機関の構成員

(2) 多額のプレミアムの考え方

U.取得の会計処理

1.取得企業の決定

(1) 結合後企業が他の会社の子会社等に該当する場合の取得企業の決定の考え方

2.取得原価の算定方法

(1) 支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定

(2) 企業結合の合意公表日後、企業結合日までに株式の交換比率等が変更された場合の取得の対価の算定

(3) 株式交付日の株価を基礎として取得の対価を算定できる場合

(4) 取得が複数の取引により達成された場合の取得の対価の算定

(5) 吸収合併存続会社が新株予約権等を交付したときの会計処理

3.取得原価の配分方法

(1) 識別可能資産及び負債への取得原価の配分額の算定

(2) 取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い

(3) 時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例

(4) 無形資産への取得原価の配分

(5) 無形資産の認識要件を満たさないものの例

(6) 開発の最終段階にある研究開発活動等の取扱い

(7) いわゆるブランドの取扱い

(8) 研究開発費への取得原価の配分

(9) 企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分

(10) 企業結合に係る特定勘定に計上できる費用又は損失の範囲

(11) 取得の対価の算定に反映されている場合の要件

(12) 株価を基礎に株式の交換比率を決定した場合であっても「取得の対価の算定に反映されている場合」に該当する場合

(13) 企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理

(14) 取得原価の配分における暫定的な会計処理

(14-2)繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分

(15)繰延税金資産に対する取得原価の配分額の確定

(16)のれんの会計処理

(17) 負ののれんの会計処理

4.取得企業の増加資本の会計処理

(1) 新株を発行した場合の会計処理

(2) 自己株式を処分した場合の会計処理

(3) 取得企業の株式又は現金以外(例えば親会社株式)を対価とする場合の会計処理

5.吸収合併消滅会社の最終事業年度の会計処理

6.分離元企業の会計処理

(1) 分離元企業における受取対価の時価

(2) 分離元企業における移転損益の認識

(3) 分離元企業の連結財務諸表上においてパーチェス法が適用されることにより計上されるのれん(又は負ののれん)

(4) 分離元企業の税効果会計

7.取得と判定された株式交換及び株式移転の会計処理

(1) 株式交換完全親会社等の税効果会計の取扱い

(2) 株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合等の結合当事企業の個別財務諸表上の会計処理

(3) 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の子会社株式(取得企業株式)の取得原価の算定の簡便的な取扱い

V.持分の結合の会計処理

(1) 持分プーリング法の会計処理における企業結合年度の取扱い

(2) 持分の結合と判定された企業結合に対する持分プーリング法に準じた処理方法の適用

(3) 結合当事企業から引継ぐ資産及び負債に含み損益がある場合の取扱い

(4) 吸収合併存続会社等が新株を発行した場合の増加資本の会計処理

(5) 吸収分割承継会社等が新株を発行した場合の増加資本の会計処理

(6) 吸収合併存続会社が自己株式を処分した場合の増加資本の会計処理

(7) 吸収合併消滅会社が保有していた当該会社の自己株式及び抱合せ株式の消滅の会計処理

(8) 会計処理方法の統一

(9) みなし結合日前の結合当事企業間の取引の会計処理

(10) 企業結合に要した支出額の会計処理

(11) 分離先企業の企業結合が持分の結合と判定された場合の分離元企業の会計処理

(12) 株式交換又は株式移転における企業結合年度の連結財務諸表

(13) 連結決算日と株式交換完全子会社等となる結合当事企業の決算日が異なる場合の取扱い

(14) 株式交換完全親会社等の個別財務諸表上における株式交換完全子会社等の株式の取得原価の算定

W.共同支配企業の形成の判定

1.共同支配企業の形成の判定要件

(1) 共同支配企業に対する各投資企業の議決権比率が相違している場合の取扱い

(2) 投資企業の中に一般の投資企業が含まれる場合における共同支配企業の形成の判定

2.独立企業要件の取扱い

3.契約要件の取扱い

(1) 共同支配となる契約等の要件

(2) 契約上の取決めの形態

4.対価要件の取扱い

5.その他の支配要件の取扱い

X.共同支配企業の形成の会計処理

(1) 持分法に準じた処理方法と持分法との会計処理の相違

(2) 共同支配投資企業の子会社が共同支配企業に投資している場合の会計処理

Y.共通支配下の取引等の会計処理

1.共通支配下の取引の範囲

2.共通支配下の取引と少数株主との取引

2−2.完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

3.親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理

4.親会社が子会社から受入れる資産及び負債の修正処理

5.子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

(2) 連結財務諸表上の会計処理

6.子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

7.子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

8.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1) 親会社(吸収分割会社)における個別財務諸表上の会計処理

(2) 子会社(吸収分割承継会社等)における個別財務諸表上の会計処理

9.親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

9−2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

9−3.株式交換等の直前に子会社(株式交換完全子会社等)が自己株式を保有している場合の取扱い

10.共通支配下の取引等により発生したのれんの会計処理

Z.開示

1.表示

(1)のれん及び負ののれんの表示

(2) 企業結合に係る特定勘定の表示

2.注記事項

(1) 企業結合年度における企業結合全体では重要性がある場合の取扱い

(2) 逆取得となる吸収合併の場合で、結合後企業が連結財務諸表を作成しないときの取扱い

3.企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額等の算定方法

(1) 企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額

(2) 企業結合の結果、処分することが決定された重要な事業

4.重要な後発事象等の注記

[.適用時期等

設例は別に記載してあります。


目的

1.  企業会計審議会から、平成15年10月31日に「企業結合に係る会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)が公表された。また、当委員会は、平成17年12月27日に企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」(以下「事業分離等会計基準」という。)を公表した。本適用指針は、これらの 2つの会計基準を適用する際の指針を定めることを目的とする(第334項から第336項参照)。

なお、本適用指針は、平成17年12月27日に公表された企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」について、平成18年及び平成19年に所要の改正を行ったものである(第338-2項及び第338-3項参照)。

2.  本適用指針の構成は、原則として、企業結合の会計上の分類(取得、持分の結合、共同支配企業の形成、共通支配下の取引)ごと、かつ、「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「企業結合会計意見書」という。) 四 3.の定めに従い、代表的な企業再編(組織再編)の形式(合併、会社分割、事業譲渡・譲受、株式交換、株式移転等)ごとに個別財務諸表上及び連結財務諸表上の会計処理を示している(第334項参照)。

適用指針

T.範囲

3.  本適用指針は、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表について適用する。

U.用語の定義

4.  本適用指針における用語の定義は、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準における用語の定義と同様とする。

5.  前項のほかに、本適用指針では、以下の用語を定義する。

(1) 「吸収合併存続会社」とは、吸収合併後存続する会社をいう(会社法第749条第1項)。

(2) 「吸収合併消滅会社」とは、吸収合併により消滅する会社をいう(会社法第749条第1項第1号)。

(3) 「新設合併設立会社」とは、新設合併により設立する会社をいう(会社法第753条第1項)。

(4) 「新設合併消滅会社」とは、新設合併により消滅する会社をいう(会社法第753条第1項第1号)。

(5) 「吸収分割承継会社」とは、吸収分割において、ある会社が事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社をいう(会社法第757条)。

(6) 「吸収分割会社」とは、吸収分割において、事業に関して有する権利義務の全部又は一部をある会社に承継させる会社をいう(会社法第758条第1号)。

(7) 「新設分割設立会社」とは、新設分割により設立する会社をいう(会社法第763条)。

(8) 「新設分割会社」とは、新設分割をする会社をいう(会社法第763条第5号)。

(9) 「株式交換完全親会社」とは、株式交換において、ある株式会社の発行済株式の全部を取得する会社をいう(会社法第767条)。

(10)「株式交換完全子会社」とは、株式交換において、発行済株式の全部を取得される株式会社をいう(会社法第768条第1項第1号)。

(11)「株式移転設立完全親会社」とは、株式移転により設立する株式会社をいう(会社法第773条第1項第1号)。

(12)「株式移転完全子会社」とは、株式移転において、株式移転設立完全親会社に発行済株式の全部を取得させる株式会社をいう(会社法第773条第1項第5号)。

(13)「吸収合併存続会社等」とは、吸収合併存続会社及び新設合併設立会社をいう。

(14)「吸収合併消滅会社等」とは、吸収合併消滅会社及び新設合併消滅会社をいう。

(15)「吸収分割承継会社等」とは、吸収分割承継会社及び新設分割設立会社をいう。

(16)「吸収分割会社等」とは、吸収分割会社及び新設分割会社をいう。

(17)「株式交換完全親会社等」とは、株式交換完全親会社及び株式移転設立完全親会社をいう。

(18)「株式交換完全子会社等」とは、株式交換完全子会社及び株式移転完全子会社をいう。

V.取得と持分の結合の識別

1.取得と持分の結合の識別規準

(1) 取得と持分の結合の識別規準の概要

6.  共同支配企業の形成及び共通支配下の取引以外の企業結合は、取得又は持分の結合のいずれかに識別するとされている(企業結合会計基準 三 1.(1))。取得とは、「ある企業が他の企業(被取得企業)又は企業を構成する事業に対する支配を獲得して 1つの報告単位となること」(企業結合会計基準 二 4.)とされ、持分の結合とは、「いずれの企業(又は事業)の株主(又は持分保有者)も他の企業(又は事業)を支配したとは認められず、結合後企業のリスクや便益を引続き相互に共有することを達成するため、それぞれの事業のすべて又は事実上のすべてを統合して 1つの報告単位となること」(企業結合会計基準二 5.)とされている。

7.  取得と持分の結合の識別は、次の要件を順次判定し、すべての要件を満たした場合には持分の結合と判定し、1つでも要件を満たさなかった場合には、その時点で取得と判定するとされている(企業結合会計基準 三 1.(1))[付録:フローチャート1 参照]。

(1) 企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であること(以下「対価要件」という。)(第10項から第14項参照)

(2) 結合後企業に対して各結合当事企業の株主が総体として有することになった議決権比率が等しいこと(以下「議決権比率要件」という。)(第15項から第22項参照)

(3) 議決権比率以外の支配関係を示す一定の事実が存在しないこと(以下「議決権比率以外の支配要件」という。)(第23項から第28項参照)

このうち、(2)議決権比率要件の判定にあたっては、最初に、結合後企業(株式交換又は株式移転による企業結合の場合には、株式交換完全親会社等をいう。以下同じ。)を支配する株主が存在するかどうかを判定する(当該支配する株主が存在する場合には、その時点で取得と判定される。)(第339項参照)。[設例1]

(2) 複数の取引が1つの企業結合を構成している場合の取扱い

8.  企業結合会計基準 注解(注1)により、「複数の取引が1つの企業結合を構成している場合には、それらを一体として判定する」とされている。ただし、これらの取引が、1事業年度内に完了しない場合には、原則として、取得と判定するとされている(企業結合会計基準 注解(注2)1.)。

(3) いわゆる三角合併などの取扱い

9.  子会社が親会社の株式を対価として他の企業と企業結合する場合(いわゆる三角合併などの場合)の取得と持分の結合の識別は、次のように行う(第340項参照)。

(1) 連結財務諸表上、当該親会社と当該他の企業との企業結合とみなして第7項の判定を行う。

(2) 当該判定結果は、当該子会社の個別財務諸表の会計処理にも適用する。

なお、いわゆる三角合併などの場合において、取得と判定されたときの会計処理は、第82項、第114項及び第390項、結合当事企業の株主に係る会計処理は第298項、共通支配下の取引に該当するときの会計処理は、第243項から第245項及び第251項から第253項を参照のこと。

2.対価要件の取扱い

(1) 議決権のある株式の内容

10. 「議決権のある株式」(企業結合会計基準 三 1.(1)@)とは、次のいずれの事項に関しても、株主総会における議決権を有する株式をいう。

(1) 判定対象となる企業結合の承認に関する事項

(2) 取締役の選任及び解任に関する事項

したがって、議決権のある株式には、いわゆる普通株式のほか、株主総会において上記のいずれの議決権も有する議決権制限株式が含まれる(第341項参照)。

(2) 対価要件の判定の前提

11. 対価要件の判定の前提として、同時に次の要件のすべてが満たされていなければならないとされている(企業結合会計基準 注解(注2))(第342項参照)。

(1) 企業結合は、単一の取引で行われるか、又は、原則として、1事業年度内に取引が完了する。

(2) 交付株式の議決権の行使が制限されない。

なお、交付株式が第10項の株主総会における議決権を有している場合には、この要件を満たすものとする。

(3) 企業結合日において対価が確定している。

(4) 交付株式の償還又は再取得の取決めがない。

(5) 株式の交換を事実上無効にするような結合当事企業の株主の利益となる財務契約がない。

なお、これには、交付株式を担保とする貸付保証契約、一方の結合当事企業の株主に実質的に一定の利回りを保証するような契約等が含まれる。

(6) 企業結合の合意成立日前1年以内に当該結合目的で自己株式を取得していない。

ここで、企業結合の合意成立日とは、企業結合に関する契約書を承認する株主総会において議決権を行使できる株主が確定する日をいう。なお、結合目的で自己株式を取得するとは、自己株式の取得が当該企業結合を目的としていることが内部文書等により明らかな場合をいう。

また、一方の結合当事企業が他の結合当事企業の株式を取得する行為も同様に取り扱う。

(3) 企業結合の対価として議決権のある株式以外の財産が交付された場合の取扱い

12. 企業結合の対価として、議決権のある株式以外の財産が交付された場合であっても、それが次に掲げる現金等のときは、対価要件を満たしたものとして取り扱う(第343項参照)。

(1) 企業結合比率の端数調整のための現金

(2) 株主からの買取請求権に基づく現金

なお、最終事業年度の配当金見合いの合併交付金等は取得の対価に該当しないため、当該交付金等が交付された場合にも、対価要件を満たしたものとして取り扱う。

(4) 議決権のない株式等に議決権のある株式を交付した場合の取扱い

13. 企業結合の対価として議決権のある株式を交付した場合には、それと引き換えに取得した財産の内容を問わず、対価要件を満たしたものとして取り扱う。したがって、被結合企業が発行していた議決権のない株式に対して、結合企業が議決権のある株式を交付した場合にも、対価要件を満たしたものとして取り扱う(第344項参照)。

(5) 議決権のない株式を結合企業が現金により取得した場合等の取扱い

14. 議決権のない株式はもともと持分の継続・非継続とは無関係と考えられるため、被結合企業が発行していた議決権のない株式を結合企業が現金により取得した場合又は被結合企業が発行していた種類株式と同様の権利内容を有する種類株式を結合企業が交付した場合には、対価要件の判定対象外の取引として取り扱う。

3.議決権比率要件の取扱い

(1) 議決権比率の判定基準日

15. 「結合後企業に対して各結合当事企業の株主が総体として有することになった議決権比率が等しいこと」(企業結合会計基準 三 1.(1)A)とは、議決権比率が「50対50から上下概ね5パーセントポイントの範囲内」(企業結合会計基準 注解(注3))(概ね45%から55%の範囲内)にあることとされている。

ここで、議決権比率の判定基準日は、企業結合の合意成立日(第11項(6)参照)とする(第345項参照)。

ただし、株式の交換を伴わない会社分割の場合や、企業結合の合意事項として議決権のない株式に議決権のある株式を交付することとした場合(第13項参照)には、企業結合日に増加することとなる議決権数を加味して議決権比率を判定する(第344項なお書き参照)。

(2) 議決権比率の算定基礎となる各結合当事企業の議決権数の計算方法

16. 企業結合の合意成立日における各結合当事企業の議決権数は、それぞれ次のように算定する。[設例2]

議決権数=(行使し得る議決権の総数(第17項参照)− 調整議決権数(第18項参照))× 株式の交換比率 + 企業結合日に増加することが予定されている議決権数(第15項ただし書き参照)

なお、結合当事企業が、企業結合の合意成立日後に株主となった者に対して当該企業結合に関する議決権の行使を認めた場合には、当該議決権数を企業結合の合意成立日における各結合当事企業の議決権数に含めることとする。

17. 行使し得る議決権の総数とは、当該企業結合を承認する株主総会において行使し得るものと認められている総株主の議決権の数をいい、議決権のない自己株式、相互持合株式、単元未満株式は含まれない(日本公認会計士協会 監査委員会報告第60号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の取扱い」2(1)参照)。

また、結合当事企業が種類株式を発行している場合の行使し得る議決権の総数には、議決権のある株式(第10項参照)以外の種類株式は含めないことに留意する必要がある(第347項参照)。

18. 調整議決権数とは、企業結合の合意成立日においては議決権を有するものの、企業結合後は結合後企業に対する議決権が法律上行使できなくなることが明らかな株式に係る議決権の数をいう(第346項参照)。

例えば、組織再編の形式が吸収合併の場合には、次の株式に係る議決権が調整議決権数に含まれる。

(1) 吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社の株式に係る議決権数(抱合せ株式)

(2) 吸収合併消滅会社が保有する吸収合併存続会社の株式に係る議決権数(合併後の自己株式)

(1)については吸収合併消滅会社における行使し得る議決権の総数から、(2)については吸収合併存続会社における行使し得る議決権数から、それぞれ控除する。

(3) 潜在株式の議決権行使の可能性の取扱い

19. 議決権比率の判定にあたっては、「潜在株式の議決権行使の可能性を考慮することが必要である」(企業結合会計意見書 三 2.(1))とされている。

本適用指針では、企業結合の合意成立日においては潜在株式であるが、結合当事企業の意思により、企業結合の合意成立日の翌日から企業結合日の前日までの間に議決権のある株式に引き換えられたものを議決権比率の再判定(第21項(3)参照)の対象として取り扱うこととする(第348項及び第349項参照)。

例えば、結合当事企業が、取得事由を取締役会で定めた一定日が到来することとした取得条項付新株予約権(取得対価が株式であるもの)(会社法第236条第1項第7号イ、ロ、ニ及び第273条)を発行しており、企業結合の主要条件が合意されて公表された日(以下「企業結合の合意公表日」という。第38項参照)以後に、その一定日を企業結合の合意成立日の翌日から企業結合日の前日までの間の日と定めたことにより、企業結合日における議決権数に変動が生じた場合が該当する。

(4) 議決権比率調整目的で潜在株式を発行した場合の取扱い

20. 企業結合の合意成立日前1年以内に当該企業結合の議決権比率を調整する目的で潜在株式を発行した場合(例えば、株式の交換比率算定の基準となる株価の調整を目的として、権利行使確実な潜在株式を株主割当てにより発行した場合)には、議決権比率要件を満たさないものとして取り扱う。

(5) 議決権比率の再判定

21. 企業結合の合意成立日において議決権比率要件を満たしていた場合であっても、企業結合の承認に関与した当事者(結合当事企業及び企業結合の合意成立日における株主)の意思により企業結合の合意成立日における状況を変更したと認められる場合には、原則として、企業結合日において、それによる議決権数の増減を加味して議決権比率の再判定を行う(第351項参照)。[設例2]

具体的には、企業結合の合意成立日の翌日から、企業結合日の前日までに次のような取引を行った結果、企業結合日における議決権数に増減が生じた場合に議決権比率の再判定を行う。

(1) 自己株式の取得又は処分、増資又は減資等の資本取引(単元未満株式の買取請求による自己株式の取得、ストック・オプションの行使に伴う新株の発行又は自己株式の処分など、結合当事企業の意思によるものではないと認められる取引を除く。)

(2) 一方の結合当事企業による他の結合当事企業の株式の取得又は処分

(3) 取得条項付新株予約権の取得のうち、第19項の事由によるもの

(4) 結合当事企業の意思による取得条項付株式(会社法第2条第19号)の取得(議決権のない株式を取得し議決権のある株式を交付する場合や、議決権のある株式を取得し議決権のない株式や株式以外の財産を交付する場合(会社法第108条第1項第6号及び第107条第1項第2号))(第350項参照)

(5) 反対株主の買取請求による自己株式の取得

ただし、(1)及び(2)のうち当該株式の取得等が潜在株式の行使又は転換による株式の希薄化を防ぐために行ったことが内部文書等により明らかな場合や、(5)のうち当該事由により取得した自己株式を速やかに処分する予定がある場合には、議決権比率の再判定の対象外の取引として取り扱う。

(6) 結合当事企業が3社以上の場合の取扱い

22. 「結合当事企業が3社以上の場合には、議決権比率が最上位の結合当事企業を基準とし、他の各結合当事企業との議決権比率を結合当事企業が2社の場合の比率に還元した上で判定する。この場合において、最上位の結合当事企業と議決権比率が等しいと判定された結合当事企業が 1社以上あるときは、議決権比率が等しいと判定されなかった結合当事企業も含め当該企業結合は本要件を充たしたものとする」(企業結合会計基準 注解(注3))とされている。[設例3]

4.議決権比率以外の支配要件の取扱い

23. 第24項から第27項のいずれにも該当しない場合には、議決権比率以外の支配要件を満たしたものとするとされている(企業結合会計基準 注解(注4))。

(1) 重要な経営事項の意思決定機関の構成員の過半数を占めている場合

24. 「いずれかの結合当事企業の役員若しくは従業員である者又はこれらであった者が、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)の構成員の過半数を占めている」こと(企業結合会計基準 注解(注4)1.)。

構成員の過半数を占めているかどうかは、企業結合日において、次のすべての人数について判定する(第352項参照)。ただし、企業結合日において上記の要件を満たしていても、構成員の変更が予定されている場合には、その予定も加味して再度判定する。

(1) 委員会設置会社の場合

@ 取締役の人数

A 結合後企業に執行役会等、重要な経営事項に関する意思決定機関が設置された場合には、その構成員の人数

(2) (1)以外の会社の場合

@ 取締役の人数

A 結合後企業に常務会、経営会議等、重要な経営事項の意思決定機関が設置された場合には、その構成員の人数

ただし、いずれかの結合当事企業の役員等が代表取締役(又は代表執行役)や常勤取締役(又は執行役)の大半を占めるなど、重要な経営事項の意思決定機関において、主として業務執行に携わる役員の割合が大幅に異なる場合には、その実態を踏まえて判定する。

(2) いずれかの結合当事企業の株主が有利な立場にある場合

25. 「重要な財務及び営業の方針決定を支配する契約等により、いずれかの結合当事企業の株主が他の結合当事企業の株主より有利な立場にある」こと(企業結合会計基準 注解(注4)2.)。

例えば、次のような株式が企業結合日に存在する場合には、保有者の属性、潜在株式又は種類株式の発行の経緯及び現実的な議決権の行使可能性等を踏まえ、当該株式の存在と効果を考慮して、本要件を実質的に判定する(第348項及び第349項参照)。

(1) 特定の者に発行している潜在株式

(2) 企業結合の合意成立日(議決権比率要件の判定基準日)の翌日以降に増加した議決権のある株式(第21項による議決権比率の再判定の対象としたものを除く。)

(3) 拒否権を行使できる株式(会社法第108条第1項第8号)

(3) 企業結合日後2年以内に大部分の事業を処分する予定がある場合

26. 「企業結合日後2年以内にいずれかの結合当事企業の大部分の事業を処分する予定がある」こと(企業結合会計基準 注解(注4)3.)。

「大部分の事業を処分」に該当するかどうかは、当該結合当事企業の売上、利益及びキャッシュ・フロー並びに資産及び負債に与える影響を勘案して判断する。なお、企業結合日後 2年以内にいずれかの結合当事企業の大部分の事業を関連会社に移転する予定がある場合又は大部分の事業を分離して関連会社とする予定がある場合には、支配・被支配関係を重視する取得と持分の結合の識別の考え方を踏まえ、大部分の事業の処分に該当するものとして取り扱う。

また、「処分する予定」とは、いずれかの結合当事企業の大部分の事業を処分する計画が、企業結合の一環として、あらかじめ、結合当事企業の取締役会等の意思決定機関で決定されている場合をいう。なお、企業結合の合意公表日(第38項(1)参照)以後企業結合日までに、いずれかの結合当事企業の大部分の事業が処分された場合も、上記に準じて判定する。

(4) 多額のプレミアムが発生している場合

27. 「企業結合の対価として交付する株式の交換比率が当該株式の時価に基づいて算定した交換比率と一定以上乖離し、多額のプレミアムが発生している」こと(企業結合会計基準 注解(注4)4.)。

本要件は、平均株価(結合当事企業の企業価値算定にあたり考慮した期間に対応した平均株価をいう。)に基づいて算定した交換比率により議決権比率を算定すると、その比率が50対50から上下概ね5パーセントポイントの範囲外(概ね45%から55%の範囲外)となる場合に検討する。

結合当事企業の双方の企業価値を共通の合理的な評価技法により算定し、かつ、その企業評価額が概ね等しい場合には、「多額のプレミアムが発生している場合」に該当しないものとして取り扱う(第353項参照)。

(5) 結合当事企業が3社以上の場合の取扱い

28. 企業結合会計基準 注解(注4)では、「結合当事企業が3社以上の場合には、議決権比率が最上位の結合当事企業と議決権比率が等しいと判定されたすべての結合当事企業について判定手続を実施する」こととし、第24項から第27項の「いずれにも該当しなかった場合には、本要件の判定対象とならなかった結合当事企業も含め、当該企業結合は本要件を満たしたものとする」とされている。[設例3]

W.取得の会計処理

1.取得の会計処理の概要

29. 企業結合が取得と判定された場合には、「連結財務諸表上も個別財務諸表上も同様にパーチェス法を適用する」(企業結合会計意見書 三 3.(6))とされている。パーチェス法とは、被取得企業から受入れる資産及び負債の取得原価を、対価として交付する現金及び株式等の時価とする方法とされている。

30. パーチェス法は、取得企業の観点から企業結合をみるもので、取得企業は企業結合日において被取得企業が企業結合日前に認識していなかったものも含めて、取得した資産及び引き受けた負債のうち識別可能なものに取得原価を配分する。取得原価と取得原価の配分額との差額がのれん(又は負ののれん)であり、20年以内のその効果の及ぶ期間(又は20年以内の取得の実態に基づいた適切な期間)にわたり、合理的な方法により規則的に償却する。

31. 取得企業は、被取得企業の経営成績及びキャッシュ・フローの状況を企業結合日から損益計算書及びキャッシュ・フロー計算書に取り込むことになる。

なお、「企業結合日とは、被取得企業の純資産及び事業若しくは取得した事業に対する支配が取得企業に移転した日、又は結合当事企業の事業のすべて若しくは事実上すべてが統合された日」(企業結合会計基準 二 9.)をいい、会社法における組織再編の効力が発生する日と同じ日となる。本適用指針では、企業結合日を、合併の場合には合併期日、会社分割の場合には分割期日、株式交換の場合には株式交換日、株式移転の場合には株式移転日と記載している。

31-2. 企業結合に適用すべき会計基準としては、企業結合会計基準及び連結財務諸表原則(以下「連結原則」という。)がある(企業結合会計意見書 二)。このうち、企業結合会計基準は、合併、株式交換・株式移転、会社分割、営業譲渡・譲受、現物出資等に対して適用され(企業結合会計意見書 三 5及び四 3)、連結原則は、現金を対価とした子会社株式の取得に対して適用される(企業結合会計意見書 三5)。

このように、企業結合会計基準と連結原則が適用される組織再編の形式は異なるものの、その経済的実態が類似していることもあるため、連結原則を適用すべき企業結合であっても、企業結合会計基準の定めを適用して会計処理することが適当と考えられる場合(例えば、第47項(条件付取得対価の会計処理)、第62項(企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分)、第69項(取得原価の配分における暫定的な会計処理の対象となる科目)など)がある。このような場合には、企業結合会計基準の定めに準じて会計処理することができるものと考えられる。ただし、この場合、適用した会計処理に関連して、企業結合会計基準により一定の開示が求められているときは、当該定めに従い、必要な事項(例えば、第47項を適用した場合には、第306項における(6))を開示する必要がある。

なお、連結原則を適用すべき企業結合が行われた場合(上記のように企業結合会計基準の定めに準じて会計処理した場合を除く。)であっても、企業結合会計基準で定められている事項(例えば、パーチェス法を適用した場合の注記事項)を追加情報に準じて開示することを妨げるものではない(第310-2項及び第316-2項参照)。

2.取得企業の決定

(1) 取得企業の決定規準

32. 取得企業の決定は、次のように取得と持分の結合とを識別する規準と整合した形で行うこととされている(企業結合会計意見書 三 3.(1))。

(1) 対価要件で取得と判定された場合には、対価を支出した企業を取得企業とする。

(2) 議決権比率要件で取得と判定された場合には、議決権比率が大きいと判定された結合当事企業を取得企業とする。

(3) 議決権比率以外の支配要件で取得と判定された場合には、支配を獲得したと判定された結合当事企業を取得企業とする。

(2)について、議決権比率要件で取得と判定された場合のうち、結合後企業を支配する株主(親会社等)が存在するときは、企業結合前から当該株主により支配されていた結合当事企業(子会社等)を取得企業とする(第339項及び第354項参照)。

(3)について、第24項から第27項までの複数の要件を満たさなかった場合には、これらを総合的に判断して取得企業を決定する。

なお、組織再編の形式が会社分割(共同新設分割又は吸収分割)の場合には、上記の取得企業は、分離先企業における分離元企業から移転された事業自体を指すことがある。

(2) 結合当事企業が3社以上の場合の取扱い

33. 「結合当事企業が3社以上である場合には、議決権比率が最上位の結合当事企業と議決権比率が等しいと判定されたすべての結合当事企業について判定手続を実施し、取得企業を決定する」(企業結合会計基準 注解(注5))とされている。

3.本適用指針で取り扱う取得と判定された組織再編の形式ごとの会計処理

34. 本適用指針では、取得と判定された企業結合を大きく2つに分けて整理している。

(1) 企業又は事業の直接取得

ある結合当事企業が他の結合当事企業又は事業を直接取得する組織再編の形式には、合併、会社分割、事業譲受及び現物出資が含まれる。

(2) 企業の間接取得

ある結合当事企業が他の結合当事企業の株式の取得を通じて、他の結合当事企業を間接取得する組織再編の形式には、株式交換及び株式移転が含まれる(株式移転の場合には、株式移転設立完全親会社を経由した株式の取得)。

このような企業又は事業の直接取得と間接取得、あるいは、組織再編の形式の相違は、原則として、連結財務諸表上の会計処理には影響しないものの、個別財務諸表上の会計処理には影響がある。

このため、本適用指針では、代表的な組織再編の形式として次の3つを取り上げ、それぞれの会計処理を示している。

@ 吸収合併、吸収分割、事業譲受及び現物出資(第35項から第88項参照)

なお、吸収分割による企業結合が取得と判定された場合の吸収分割会社(分離元企業)の会計処理は、第89 項から第109 項にて示している。

また、共同新設分割が取得と判定された場合の新設分割設立会社の会計処理は、単独新設分割により設立された複数の新設分割設立会社が、その設立直後に合併したものとみなして会計処理する。具体的には、最初に単独新設分割の会計処理を行い(新設分割設立会社の会計処理は第261項(第227項)参照。なお、新設分割会社の会計処理は第260項(第226項)参照)、次に、取得企業と判定された新設分割設立会社が他の新設分割設立会社を被取得企業として合併の会計処理を行うことになる。

A 株式交換(第110項から第119項参照)

B 株式移転(第120項から第126項参照)

4.取得と判定された吸収合併、吸収分割、事業譲受及び現物出資の会計処理

本適用指針における取得企業の取扱い

35. 第36項から第83項までの定めは、吸収合併存続会社、吸収分割承継会社、事業譲受会社及び現物出資の受入会社が取得企業となる場合を前提としている。なお、「逆取得」の会計処理は第84項から第88項にて示している。

5.取得原価の算定方法

(1) 取得原価の算定方法の概要

36. 被取得企業(吸収合併消滅会社)又は取得した事業(会社分割、事業譲受又は現物出資により移転された事業)の取得原価は、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定するとされている(企業結合会計基準 三2.(2)@及びC)。

(2) 取得の対価の算定方法

37. 取得の対価は、「支払対価となる財の時価と取得した純資産の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定する」(企業結合会計基準 三 2.(2)@)とされている。

具体的には、第38項から第47項に従い、取得の対価を算定する。

(3) 支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定

38. 支払対価として取得企業の株式(自己株式を含む。以下同じ。)が交付された場合の取得の対価の算定は、次のように行う(第355項参照)。

(1) 取得企業の株式に市場価格(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計実務指針」という。)第48項)がある場合には、「企業結合の主要条件が合意されて公表された日前の合理的な期間における株価」(企業結合会計基準 三 2.(2)B)に交付株式数を乗じた額(第356項参照)。

「主要条件には、株式の交換比率が含まれる」(企業結合会計基準 注解(注7))とされ、「合理的な期間とは、原則として、主要条件が合意されて公表された日の直前数日間とする」(企業結合会計基準 注解(注6))とされている。

「企業結合の主要条件が合意されて公表された日」(企業結合の合意公表日)とは、株式の交換比率が公表された日をいう。また、会社分割など、株式の交換を伴わない場合には、交付する株式数が公表された日をいう。

「直前数日間」とは、通常5日以内をいう。ただし、当該期間に株価がない場合又は天災の発生等、極めて特殊な要因により株価が異常であると認められる場合には、企業結合の合意公表日前の一定期間の市場価格の平均に基づいて算定する。

なお、「株価」には終値のほか平均株価も含まれる。

(2) (1)がない場合で、取得企業の株式に合理的に算定された価額(金融商品会計実務指針第54項)があり、かつ、その価額が株式の交換比率の算定基礎として利用されているときは、企業結合の合意公表日までに算定している当該価額に交付株式数を乗じた額(第356項参照)。

合理的に算定された価額には、類似会社比準方式による評価額(金融商品会計実務指針第54項(1))、割引将来キャッシュ・フロー法による評価額(同項(2))などが含まれる。株式の交換比率の算定基礎として複数の評価額が利用されているときは、これらを加重平均するなど、当該価額を合理的に算定する。当該取扱いは、(3)にも適用する。

(3) (2)が算定できない場合で、被取得企業の株式に合理的に算定された価額があり、かつ、その価額が株式の交換比率の算定基礎として利用されているときは、企業結合の合意公表日までに算定している当該価額に交付株式数(交換比率考慮後)を乗じた額(第356項参照)。

(4) (3)が算定できない場合には、被取得企業から取得した識別可能資産(第56項の要件を満たした無形資産を含む。)及び負債の企業結合日の時価を基礎とした正味の評価額(第357項参照)。

39. 第38項(2)又は(3)において、株式の交換比率の算定基礎として利用された価額が、被取得企業又は取得した事業の時価や取得の対価となる財の時価として算定されたものではなく、結合当事企業がお互いに共通の前提の下であくまで適切な交換比率を算定するために事業価値を算定したものである場合には、合理的に算定された価額とみなすことはできないとされている(企業結合会計意見書 三 3.(2)B)。

ただし、適切な交換比率を算定する目的で算定された価額であっても、被取得企業又は取得した事業の時価や取得の対価となる財の時価に適切に調整していると認められる場合には、合理的に算定された価額とみなすことができる。

(4) 企業結合の合意公表日後、企業結合日までに株式の交換比率等が変更された場合の取得の対価の算定

40. 企業結合の合意公表日後、企業結合日までに、株式の交換比率や現金支払額等が変更された場合には、当該変更公表日の価額(株式の交換を伴う場合には、当該変更公表日前の合理的な期間における株価により第38項(1)から(3)の規定を適用した価額)により取得の対価を改めて算定する(第358 項参照)。

(5) 株式交付日の株価を基礎として取得の対価を算定できる場合

41. 取得の対価の算定において、株式交付日の取得企業の株式の株価が企業結合に関する「主要条件が合意されて公表された日前の合理的な期間における株価と大きく異ならない場合には、当該株式交付日の株価を基礎として算定することができる」(企業結合会計基準 三2.(2)B)とされている。

「大きく異ならない場合」とは、その価格の差異から生じる取得原価の差額(のれん(又は負ののれん)の差額)が財務諸表に重要な影響を与えないと認められる場合をいう(第359項参照)。なお、「株式交付日」とは、実務に配慮して、企業結合日とすることができる(以下同じ。)。

(6) 支払対価が取得企業の種類株式の場合の取得の対価の算定

42. 支払対価として取得企業の種類株式が交付された場合の取得の対価は、次のように算定する。

(1) 取得企業の種類株式に市場価格がある場合には、企業結合の合意公表日前の合理的な期間における市場価格に交付株式数を乗じた額(第38項(1)参照)。

なお、種類株式自体は市場で取引されていなくとも転換を請求できる権利を行使して、容易に市場価格のある普通株式に転換し取引できるような場合には、市場価格のある株式として取り扱われることがある(実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」Q2 のA(1))。

(2) (1)がない場合で、取得企業の種類株式について合理的に算定された価額があり、かつ、その価額が株式の交換比率の算定基礎として利用されているときは、企業結合の合意公表日の当該価額に交付株式数を乗じた額(第38項(2)参照)。

なお、合理的に算定された価額には、割引将来キャッシュ・フロー法やオプション価格モデルなどの評価モデルを利用した価額が含まれる(実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」Q3 のA(1))。

43. 第42項(2)の場合において、取得企業が交付する種類株式が支払対価のほとんどを占める場合で、当該種類株式の価額を合理的に算定することが困難なときは、被取得企業から取得した識別可能資産(第56項の要件を満たした無形資産を含む。)及び負債の企業結合日の時価を基礎とした正味の評価額により、取得の対価を算定する(第357項参照)。

(7) 支払対価が現金の場合の取得の対価の算定

44. 支払対価が現金の場合には、取得の対価は現金の支出額とするとされている(企業結合会計意見書 三 3.(2)@)。

(8) 支払対価が自社以外の株式(例えば親会社株式)の場合の取得の対価の算定

45. 支払対価が自社以外の株式(例えば親会社株式)の場合の取得の対価は、第38項に準じて算定する。

(9) 取得が複数の取引により達成された場合の取得の対価の算定

46. 取得が複数の取引により達成された場合の取得の対価は、「原則として、取得企業が被取得企業又は取得した事業に対する支配を獲得するに至った個々の取引ごとに取得の対価となる財の時価を算定し、それらを合算したものとする」(企業結合会計基準 三 2.(2)A)とされている。

したがって、取得企業が企業結合日直前に被取得企業の株式を保有している場合の取得の対価は、取得企業が交付する取得企業の株式の時価(第38項参照)と企業結合日直前の被取得企業の株式(関連会社株式又はその他有価証券)の帳簿価額(金融商品会計実務指針第57項(4))を合算して算定する。[設例4]

なお、企業結合日直前の被取得企業の株式の帳簿価額については、以下の点に留意する必要がある。

(1) 被取得企業の株式をその他有価証券に分類し、期末に時価による評価替えを行っていても、被取得企業の株式の帳簿価額は時価による評価前の価額となる。ただし、その他有価証券の評価差額の会計処理として部分純資産直入法を採用しており、当該有価証券について評価差損を計上している場合には、時価による評価後の価額により取得の対価を算定する。

(2) 被取得企業の株式に対して投資損失引当金を計上している場合には、当該金額を控除して算定する。

(3) 被取得企業の株式を企業結合日前に減損処理している場合には、減損処理後の帳簿価額を基礎として取得の対価を算定する(第360項参照)。

(4) 投資会社が持分法適用関連会社と企業結合した場合には、連結財務諸表上、企業結合日直前の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額を、個別財務諸表において計上されたのれん(又は負ののれん)の修正として会計処理する。[設例4]

なお、持分法による評価額には、連結財務諸表上、関連会社株式に含めて処理されているのれん(又は負ののれん)の未償却残高、未実現損益に関する修正額が含まれる。

(10) 条件付取得対価の会計処理

47. 条件付取得対価の会計処理は、次のように行うものとされている。

(1) 将来の業績に依存する条件付取得対価[設例5]

「企業結合契約において定められる、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して追加的に交付又は引渡される取得対価」(企業結合会計基準 注解(注9))(以下「条件付取得対価」という。)が、「被取得企業又は取得した事業の企業結合契約締結後の特定事業年度における業績の水準に応じて取得企業が対価を追加で交付する条項がある場合等」(企業結合会計基準 注解(注10))、企業結合契約合意後の将来の業績に依存する場合には、「条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれん又は負ののれんを追加的に認識する」(企業結合会計基準 三 2.(2)Dイ)とされている。

「追加的に認識するのれん又は負ののれんは、企業結合日時点で認識されたものと仮定して計算し、追加認識する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理する」(企業結合会計基準 注解(注11))とされている。

なお、条件付取得対価は、企業結合日後に追加的に交付又は引渡されるものに限定されるものと解される。

(2) 特定の株式又は社債の市場価格に依存する条件付取得対価[設例5]

「特定の株式又は社債の特定の日又は期間の市場価格に応じて当初合意した価額に維持するために、取得企業が追加で株式又は社債を交付する条項がある場合等」(企業結合会計基準 注解(注12))、「条件付取得対価が特定の株式又は社債の市場価格に依存する場合には、条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、次の処理を行う」(企業結合会計基準 三 2.(2)Dロ)とされている。

@ 追加で交付可能となった条件付取得対価を、その時点の時価に基づき認識する。

A 企業結合日現在で交付している株式又は社債をその時点の時価に修正し、当該修正により生じた社債プレミアムの減少額又はディスカウントの増加額を将来にわたって規則的に認識(償却)する。

(11) 取得に直接要した支出額の会計処理

48. 企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められるものは取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用として処理するとされている(企業結合会計基準 三 2.(2)C)。

取得原価に含める支出額とは、次の(1)及び(2)を満たしたものをいう。

(1) 企業結合に直接要した支出額

企業結合を成立させるために取得企業が外部のアドバイザー(例えば投資銀行のコンサルタント、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士等の専門家)に支払った交渉や株式の交換比率の算定に係る特定の報酬・手数料等をいう。社内の人件費(例えば社内のプロジェクト・チームの人員に係る人件費)等は、これに含まれない。

(2) 取得の対価性が認められるもの

現実に契約に至った企業結合に関連する支出額のことをいう。したがって、契約に至らなかった取引や単なる調査に関連する支出額は、企業結合に直接要した費用であっても取得原価に含めることはできない。

なお、企業結合に直接要した支出額であっても、被取得企業が支出した額については、取得企業の支出ではないため、それらを取得原価に含めることはできない。事業分離を伴う企業結合(共同新設分割又は吸収分割)の場合には、分離元企業が負担する取得の対価性が認められる取得に直接要した支出額は、分離元企業が取得する分離先企業(吸収分割承継会社等)の株式の取得原価に含めて処理される場合がある(第91項参照)。

また、企業結合に直接要した支出額として、現金に代えて自社の株式又は新株予約権を交付した場合には、その測定は、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」第14項及び第15項に準じて行う。

(12) 株式交付費の取扱い

49. 企業結合の際の株式の交付に伴い発生する費用(登録免許税、証券会社への業務委託手数料等)は、企業結合の対価というよりは、支払対価の種類に影響される財務的な活動としての性格が強い支出と考えられるため、取得原価には含めず、別途、株式交付費として会計処理する。

(13) 吸収合併存続会社が新株予約権等を交付したときの会計処理

50. 吸収合併が取得と判定された場合において、吸収合併存続会社が、新株予約権等を交付したときの会計処理は次のように行う。

(1) 吸収合併消滅会社の株主に対して、当該吸収合併消滅会社株式と引き換えに、吸収合併存続会社の新株予約権を交付したときは、取得の対価として処理する(第45項参照)。このとき、吸収合併存続会社が交付した新株予約権に付すべき帳簿価額は、原則として、吸収合併存続会社の新株予約権者となる者との間で新株予約権の交換条件を決定したときの時価によるが、当該時価と合併期日における時価とが大きく異ならない場合には、取得の対価を算定するときと同様、合併期日の時価によることができる(第41項参照)。

(2) 吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して、吸収合併消滅会社の新株予約権と引き換えに、吸収合併存続会社の新株予約権又は現金を交付したときは、取得に直接要した支出額に準じて取得原価に含める(第361項参照)。新株予約権に付すべき帳簿価額は、原則として、合併期日の時価による。ただし、吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して、吸収合併存続会社の新株予約権を交付する際に交付した新株予約権の時価と吸収合併消滅会社が付していた新株予約権の帳簿価額との差異が重要でないと見込まれるときには、吸収合併存続会社は、当該帳簿価額をもって交付した新株予約権の帳簿価額とすることができる。

これらの取扱いは、吸収合併以外の取得と判定された組織再編についても適用する。

6.取得原価の配分方法

(1) 取得原価の配分方法の概要

51. 取得原価(第36項参照)は、被取得企業から取得した資産及び引き受けた負債のうち企業結合日において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)に対して、その企業結合日における時価を基礎として配分し、取得原価と取得原価の配分額との差額はのれん(又は負ののれん)として資産(又は負債)に計上するとされている(企業結合会計基準 三 2.(3))(第448項参照)。

(2) 識別可能資産及び負債の範囲

52. 識別可能資産及び負債の範囲は、「被取得企業の企業結合日前の貸借対照表において計上されていたかどうかにかかわらず、企業がそれらに対して対価を支払って取得した場合、原則として、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識されるものに限定する」(企業結合会計意見書三 3.(3)A)とされている。

(3) 識別可能資産及び負債への取得原価の配分額の算定

53. 識別可能資産及び負債への取得原価の配分額は、企業結合日における次の時価を基礎として、算定するとされている(企業結合会計意見書 三3.(3)B)(第362項参照)。

(1) 観察可能な市場価格

(2) (1)がない場合には、合理的に算定された価額

合理的に算定された価額による場合には、市場参加者が利用するであろう情報や前提等が入手可能である限り、それらに基礎を置くこととし、そのような情報等が入手できない場合には、見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置くものとされている。

合理的に算定された価額は、一般に、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどの見積方法が考えられ、資産の特性等により、これらのアプローチを併用又は選択して算定することとなる(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「減損会計適用指針」という。)第28項(2))。

なお、金融商品、退職給付引当金など個々の識別可能資産及び負債については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準において示されている時価等の算定方法が利用されることとなる。

(4) 取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い

54. 前項にかかわらず、以下のいずれの要件も満たす場合には、被取得企業の適正な帳簿価額(第130項参照)を基礎として取得原価の配分額を算定できる(第363項参照)。

(1) 被取得企業が、企業結合日の前日において、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って資産及び負債の適正な帳簿価額を算定していること

(2) (1)の帳簿価額と企業結合日の当該資産又は負債の時価との差異が重要でないと見込まれること

(5) 時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例

55. 取得した資産に大規模工場用地や近郊が開発されていない郊外地のように時価が一義的には定まりにくい資産が含まれ、これを評価することにより、負ののれんが多額に発生することが見込まれる場合には、「その金額を当該土地等に合理的に配分した評価額も、ここでいう合理的に算定された時価であると考えられる」(企業結合会計意見書 三 3.(3)B)とされている。

したがって、当該資産に対する取得原価の配分額は、負ののれんが発生しない範囲で評価した額とすることができる。ただし、企業結合条件の交渉過程で取得企業が利用可能な独自の情報や前提など合理的な基礎に基づき当該資産の価額を算定しており、それが取得の対価の算定にあたり考慮されている場合には、その価額を取得原価の配分額とする(第364項参照)。[設例6]

(6) 無形資産への取得原価の配分

56. 「取得した資産に法律上の権利又は分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、取得原価を当該無形資産等に配分することができる」(企業結合会計基準 三 2.(3))とされているが、取得原価を無形資産に配分するためには、無形資産の独立した価額を合理的に算定できなければならない(第366項参照)。

なお、企業結合の目的の1つが、法律上の権利又は分離して譲渡可能な無形資産の取得であり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、取得企業は、利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置き、あるいは外部の専門家も関与するなどして、通常、取締役会等の会社の意思決定機関において、当該無形資産の評価額に関する多面的かつ合理的な検討を行っていることが想定される。このような場合には、一般的に、無形資産の独立した価額が合理的に算定できる場合に該当し、原則として、取得原価を識別可能資産となる無形資産に配分することとなる(第367項参照)。

研究開発費等会計基準により認識される無形固定資産

57. 「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識される」(企業結合会計意見書三3.(3)A)無形資産には、研究開発費等に係る会計基準(以下「研究開発費等会計基準」という。)により認識される市場販売目的のソフトウェア及び自社利用のソフトウェアが含まれる(研究開発費等会計基準 四 2.及び3.)。

したがって、取得企業が対価を支払って当該資産を取得した場合(企業結合後も取得企業が引き続き使用するなど取得企業が当該資産の価値を認識している場合)には、無形資産としての認識要件を満たすことになる。

法律上の権利の範囲

58. 「法律上の権利」(企業結合会計基準 三 2.(3))とは、次のいずれかに該当するものをいう。

(1) 特定の法律に基づく知的財産権(知的所有権)等の権利

これには、産業財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)、著作権、半導体集積回路配置、商号、営業上の機密事項、植物の新品種等が含まれる。

(2) 独立第三者と締結した契約に基づく権利で未履行のもの

これには、業務委託契約、請負契約、施設利用契約、商品売買契約、フランチャイズ契約等が含まれる。

分離して譲渡可能なものの範囲

59. 「分離して譲渡可能な無形資産」(企業結合会計基準 三 2.(3))とは、企業又は事業と独立して売買可能なものをいい、取得した資産を譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、単独で譲渡することが可能であれば当該要件を満たすことになる。

法律上の権利ではないが、分離して譲渡可能なものの例としては、顧客リスト(法律や契約により譲渡等が禁じられている場合を除く。)、特許で保護されていない技術、データベースなどがあげられる。

開発の最終段階にある研究開発活動等の取扱い

60. 企業結合日において、被取得企業における研究開発活動がほとんど最終段階にあると認められる場合には、分離して譲渡可能なもの(第59項参照)に準じて取り扱うことができる(第369項参照)。このような事例として、次のものがあげられる。

(1) 出願審査中の特許を受ける権利

(2) 臨床試験(第3フェーズ)終了後、当局に申請中の新薬

(7) 研究開発費への取得原価の配分

61. 「取得企業が取得対価の一部を研究開発費等(ソフトウェアを含む。)に配分したときは、当該金額を配分時に費用処理する」(企業結合会計基準 三 2.(3))とされている。

取得企業が取得の対価の一部を研究開発費等(ソフトウェアを含む。)に配分する場合とは、企業結合により取得した識別可能資産の取得企業における企業結合後の使途が、次のように研究開発費等会計基準の定めにより研究開発費として処理すべき要件に該当する場合をいう。

(1) 取得企業において、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できないもの(研究開発費等会計基準 注解(注1))

(2) 取得企業が市場販売目的のソフトウェアを制作しており、その最初に製品化された製品マスターの完成までの費用、及び製品マスター又は購入したソフトウェアに対する著しい改良に要した費用に該当するもの(研究開発費等会計基準 注解(注3))

当該識別可能資産への配分額は研究開発費とし、企業結合日(合併期日)の属する結合企業の事業年度(以下「企業結合年度」という。)の費用(一般管理費又は当期総製造費用)に計上する(第371項参照)。

(8) 企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分

62. 「取得後短期間で発生することが予測される費用又は損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には、負債として認識することができる」(企業結合会計基準 三 2.(3))とされている(第372項参照)。

当該負債(以下「企業結合に係る特定勘定」という。)の計上は、第63項から第65項の要件を満たしている場合に限られる。

なお、企業結合会計意見書の趣旨を踏まえると、企業結合会計基準で定める一定の要件を満たしている場合には、企業結合に係る特定勘定を認識することが適当と考えられる。

企業結合に係る特定勘定に計上できる費用又は損失の範囲

63. 「取得後短期間で発生することが予測される費用又は損失」(第62項参照)とは、次の要件のすべてを満たしたものをいう(第374項参照)。

(1) 企業結合日において、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識される識別可能負債に該当しないこと

(2) 企業結合日後5年以内に発生するものであること

(3) 特定の事象に対応した費用又は損失であること(ただし、識別可能資産への取得原価の配分額に反映されていないものに限る。)

(4) 被取得企業に係る費用又は損失であること

取得の対価の算定に反映されている場合の要件

64. 「取得の対価の算定に反映されている場合」(第62項参照)とは、「企業結合条件の交渉の過程で当該事象に係る金額が対価の算定に反映されていたことが契約条項等から明らかな場合をいう」(企業結合会計基準 注解(注14))とされている。

具体的には、次のいずれかの要件を満たしている場合をいう(第375項参照)。

(1) 当該事象及びその金額が契約条項等(結合当事企業の合意文書)で明確にされていること

(2) 当該事象が契約条項等で明確にされ、当該事象に係る金額が取得の対価(株式の交換比率など)の算定にあたり重視された資料に含まれ、当該事象が反映されたことにより、取得の対価が減額されていることが取得企業の取締役会議事録等により確認できること

株価を基礎に株式の交換比率を決定した場合であっても「取得の対価の算定に反映されている場合」に該当する場合

65. 株式の交換比率の決定の基礎の大半を株価に依存した場合には、企業結合条件の交渉の過程で考慮された事象と取得の対価との対応関係が明らかではないため、原則として、「取得の対価の算定に反映されている場合」(企業結合会計基準 三 2.(3))には該当しない。

ただし、このような場合であっても、取得の対価の算定にあたり考慮された事象が企業結合の合意公表日前の株価に反映されていると認められる場合には、「取得の対価の算定に反映されている場合」に該当することとなる(第376項参照)。

企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理

66. 企業結合に係る特定勘定は、「認識の対象となった事象が発生した事業年度又は当該事象が発生しないことが明らかになった事業年度に取崩す」(企業結合会計基準 三 2.(3))とされている。ただし、企業結合日以後、引当金又は未払金など、他の負債としての認識要件を満たした場合には、企業結合に係る特定勘定から他の適当な負債科目に振り替えることが必要になる。

また、企業結合に係る特定勘定は「企業結合日後5年以内に全額を取崩さなければならない」(企業結合会計基準 三 2.(3))とされている。当該取崩額は、原則として、特別利益に計上する。

なお、企業結合に係る特定勘定は取得の対価の算定日に金額が確定しているため、暫定的な会計処理(第69項参照)の対象外となる(第377項参照)。

(9) 退職給付引当金への取得原価の配分

67. 確定給付制度による退職給付引当金は、企業結合日において、受入れた制度ごとに退職給付に係る会計基準に基づいて算定した退職給付債務及び年金資産の正味の価額を基礎として取得原価を配分する。したがって、被取得企業における未認識項目を取得企業で引き続き未認識項目とすることはできない。

退職給付債務については、原則として、企業結合日において受入れる従業員等の分について、企業結合日の計算基礎により数理計算するが、企業結合日前の一定日における被取得企業が計算した退職給付債務を基礎に、取得企業が適切に調整して算定した額を用いることができる。

なお、被取得企業の退職給付制度について、制度の改訂が予定されている場合であっても、退職給付債務に関する測定は、企業結合日における適切な諸条件に基づいて行う。また、企業結合により、被取得企業の従業員に関する退職一時金や早期割増退職金の支払予定額が取得の対価の算定に反映されているときなど、第63項から第65項の要件のすべてを満たしている場合には、「企業結合に係る特定勘定」として取得原価の配分の対象とすることができる。

(10) 被取得企業においてヘッジ会計が適用されていた場合の取得原価の配分

68. 被取得企業でヘッジ会計を適用していたか否かにかかわらず、取得した金融資産又は引き受けた金融負債(デリバティブを含む。)は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)に従って算定した時価を基礎として取得原価を配分する。したがって、被取得企業においてヘッジ会計が適用されており、繰延ヘッジ損失及び繰延ヘッジ利益が計上されていても、取得企業はそれらを引継ぐことはできない。

取得企業において、取得した資産又は引き受けた負債に対してヘッジ会計を適用する場合は、企業結合日において新たにヘッジ指定を行うこととする。キャッシュ・フローを固定するヘッジ取引とする場合には、企業結合日に取得原価が配分されたデリバティブの時価相当額を前受利息等に振り替え、ヘッジ対象が損益として実現する期間の損益として処理する。[設例7]

(11) 取得原価の配分における暫定的な会計処理の対象となる科目

69. 取得原価の配分は、企業結合日以後1年以内に行わなければならないとされ(企業結合会計基準 三 2.(3))、また、「企業結合日以後の中間決算又は年度決算において、配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる」(企業結合会計基準 注解(注13))とされている。

暫定的な会計処理の対象となる項目は、繰延税金資産及び繰延税金負債のほか(第73項参照)、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られる。[設例8]

ただし、企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算日までの期間が短い場合など、被取得企業から受入れた識別可能資産及び負債への取得原価の配分額が確定しない場合(被取得企業の適正な帳簿価額の算定が企業結合日以後最初に到来する取得企業の中間決算又は年度決算には間に合わない場合等)も想定されるので、このような場合には、被取得企業から取得した資産及び引き受けた負債のすべてを暫定的な会計処理の対象とすることができる(第378項参照)。

(12) 暫定的な会計処理の確定又は見直し処理

70. 暫定的な会計処理の確定又は見直しにより取得原価の配分額を修正した場合には、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額が修正されたものとして会計処理を行う。

なお、取得原価の配分は、企業結合日以後1年以内に行わなければならないとされていることから(企業結合会計基準 三 2.(3))、暫定的な会計処理の確定又は見直しが、企業結合年度ではなく企業結合年度の翌年度において行われた場合には、企業結合年度の財務諸表は既に確定しているため、企業結合年度に当該修正が行われたとしたときの損益影響額(のれんの償却額等)を、企業結合年度の翌年度において、原則として、特別損益(前期損益修正)に計上する。[設例8]

(13) 取得企業の税効果会計

繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分

71. 組織再編の形式が、事業を直接取得することとなる合併、会社分割等の場合には、取得企業は、企業結合日において、被取得企業又は取得した事業から生じる一時差異等(取得原価の配分額(繰延税金資産及び繰延税金負債を除く。)と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額並びに取得企業に引継がれる被取得企業の税務上の繰越欠損金等)に係る税金の額を、将来の事業年度において回収又は支払が見込まれない額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する。繰延税金資産及び繰延税金負債は、暫定的な会計処理の対象とする。[設例32]

72. のれん(又は負ののれん)は取得原価の配分残余であるため、のれん(又は負ののれん)に対する税効果は認識しない(第378-2項参照)。

繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の確定

73. 企業結合日に認識された繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の見直しは、以下の場合がある。

(1) 暫定的な会計処理の対象としていた識別可能資産及び負債の取得原価への配分額の見直しに伴うもの

(2) 将来年度の課税所得の見積りの変更等による繰延税金資産の回収見込額の修正によるもの

(1) については、第70項に従い会計処理する。

(2) の繰延税金資産の回収見込額の修正のうち、企業結合年度における修正は、第70項に従い、企業結合日におけるのれんの額を修正し、企業結合年度の翌年度における修正は、第70項の定めにかかわらず、原則として、翌年度の損益(法人税等調整額)に計上する。

ただし、企業結合年度の翌年度における修正であっても、その修正内容が、明らかに企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の修正と考えられるとき(企業結合日以後1年以内に行われたものに限る。)は、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額を修正する(第379項参照)。[設例32]

74. 前項(2)の繰延税金資産の回収見込額の修正は、企業結合日と取得企業の事業年度との関係から、具体的には次のように処理することになる。

(1) 企業結合日が取得企業の事業年度期首の場合

企業結合日の1年後(企業結合年度末)に繰延税金資産への取得原価の配分額を確定し、その額が企業結合日の繰延税金資産への取得原価の配分額となる。

企業結合年度の中間会計期間末においては、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき計上する。これは基本的に「暫定的な会計処理」(第69項参照)として取り扱う。

(2) 企業結合日が取得企業の事業年度の期首の翌日から中間会計期間末までの場合企業結合年度の中間会計期間末及び企業結合年度末においては、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき計上する。これは基本的に「暫定的な会計処理」(第69項参照)として取り扱う。

企業結合日から1年を経過した日(実務上は、企業結合年度後最初に到来する中間会計期間末)において、企業結合日における繰延税金資産への取得原価の配分額が確定する。企業結合日において計上した繰延税金資産の額を修正する場合は前項に従い会計処理する。

(3) 企業結合日が取得企業の中間会計期間末の翌日から企業結合年度末までの場合

企業結合年度末及び企業結合年度後最初に到来する中間会計期間末においては、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき計上する。これは基本的に「暫定的な会計処理」(第69項参照)として取り扱う。

企業結合日から1年を経過した日(実務上は、企業結合年度後最初に到来する事業年度末)において、企業結合日における繰延税金資産への配分額が確定する。

企業結合日において計上した繰延税金資産の額を修正する場合は前項に従い会計処理する。

繰延税金資産の回収可能性

75. 繰延税金資産の回収可能性は、取得企業の収益力に基づく課税所得の十分性等により判断し、企業結合による影響は、企業結合年度から反映させる。

将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を過去の業績等に基づいて判断する場合には、企業結合年度以後、取得した企業又は事業に係る過年度の業績等を取得企業の既存事業に係るものと合算した上で課税所得を見積る。[設例32]

(14) のれんの会計処理

76. 「のれんは、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する」(企業結合会計基準 三 2.(4))とされている。

のれんの償却にあたり、次の事項に留意する必要がある(第380項から第382項及び第448項参照)。

(1) のれんの償却開始時期は、企業結合日となる。なお、みなし取得日による場合には、日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(以下「資本連結実務指針」という。)第31項の連結調整勘定の償却開始時期に準ずるものとする。

(2) のれんを企業結合日に全額費用処理することはできない(ただし(4)の場合を除く。)。

(3) のれんの償却額は販売費及び一般管理費に計上することとし、減損処理以外の事由でのれんの償却額を特別損失に計上することはできない(第302項参照)。

(4) 「のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる」(企業結合会計基準 三 2.(4))とされている。当該費用の表示区分は販売費及び一般管理費とする。

(5) 関連会社と企業結合したことにより発生したのれんは、資本連結実務指針第36項に準じて、持分法による投資評価額に含まれていたのれん(連結調整勘定相当額)の未償却部分と区別せず、企業結合日から新たな償却期間にわたり償却する。

(6) のれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定する。

77. のれんの未償却残高は、減損処理の対象となる(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という。)一 及び 二 8.)。特に、次の場合には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられるときがあるとされている(企業結合会計意見書 三3.(4))。

(1) 取得原価のうち、のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になる場合

(2) 被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合や、取得時に明らかに識別可能なオークション又は入札プロセスが存在していた場合

なお、のれんの減損損失を認識すべきであると判定された場合には、減損損失として測定された額を特別損失に計上することになる(第302項参照)。

(15) 負ののれんの会計処理

78. 「負ののれんは、20年以内の取得の実態に基づいた適切な期間で規則的に償却する」(企業結合会計基準 三 2.(5))とされている。

負ののれんの償却にあたり、次の事項に留意する必要がある(第383項参照)。

(1) 負ののれんの償却開始時期は、企業結合日となる。なお、みなし取得日による場合には、資本連結実務指針第31項の連結調整勘定の償却開始時期に準ずるものとする。

(2) 負ののれんを企業結合日に全額収益に計上することはできない(ただし、(4)の場合を除く。)。

(3) 負ののれんの償却額は営業外収益に計上することとし、特別利益に計上することはできない(第302項参照)。

(4) 「負ののれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理することができる」(企業結合会計基準 三 2.(5))とされている。当該利益の表示区分は営業外収益とする。

(5) 関連会社と企業結合したことにより発生した負ののれんは、資本連結実務指針第36項に準じて、持分法による投資評価額に含まれていた負ののれん(連結調整勘定相当額)の未償却部分と区別せず、企業結合日から新たな償却期間にわたり償却する。

(6) 負ののれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定する。なお、負ののれんの償却期間については、連結調整勘定(貸方)の償却に関する取扱い(資本連結実務指針第22項及び第63項)に準じて処理することが適当である。

7.取得企業の増加資本の会計処理

(1) 新株を発行した場合の会計処理

79. 企業結合の対価として、取得企業が新株を発行した場合には、払込資本(資本金又は資本剰余金)を増加させる。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(第384項、第385項、第408項及び第409項参照)。

取得企業が新株を発行した場合の増加資本の額は、第38項の取得の対価の算定に準じて処理する。

(2) 自己株式を処分した場合の会計処理

80. 企業結合の対価として、取得企業が自己株式を処分した場合には、増加資本の額(自己株式の処分の対価の額。新株の発行と自己株式の処分を同時に行った場合には、新株の発行と自己株式の処分の対価の額。)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少)として会計処理する(第388項参照)。[設例9]

なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。また、増加資本の額は第38項の取得の対価の算定に準じて算定する。

(3) 取得企業の株式以外の財産を交付した場合の会計処理

81. 企業結合の対価として、取得企業が自社の株式以外の財産を交付した場合には、当該交付した財産の時価と企業結合日の前日における適正な帳簿価額との差額を損益に計上する(第389項参照)。

(4) 子会社が親会社株式を交付した場合(いわゆる三角合併などの場合)の会計処理

82. 子会社が親会社株式を支払対価として他の企業と企業結合する場合(いわゆる三角合併などの場合)には、次のように会計処理する(第390項参照)。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

第81項に準じて会計処理を行う。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

個別財務諸表において計上された損益を、連結財務諸表上は資本取引として自己株式処分差額に振り替え、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下「自己株式等会計基準」という。)第9項、第10項及び第12項の定めに従って処理する。

8.吸収合併消滅会社の最終事業年度の会計処理

83. 吸収合併が取得と判定された場合の吸収合併消滅会社の最終事業年度の財務諸表は、吸収合併消滅会社が継続すると仮定した場合の適正な帳簿価額による(第391項参照)。

9.逆取得となる吸収合併の会計処理

(1) 吸収合併存続会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

84. 企業結合が合併の形式をとる場合において、取得企業が法律上存続する会社(吸収合併存続会社)と異なる場合、吸収合併存続会社の個別財務諸表では、持分プーリング法に準じた処理方法を適用するとされている(企業結合会計基準 三 2.(6)B)。したがって、吸収合併存続会社(被取得企業)の個別財務諸表上は、吸収合併消滅会社(取得企業)の資産及び負債を合併期日の前日の適正な帳簿価額により引継ぎ、当該資産及び負債の差額を以下のように会計処理する。[設例10]

(1) 新株を発行した場合の会計処理(第408項参照)

@ 株主資本項目の引継ぎ

ア 原則的な会計処理

吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

なお、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

イ 認められる会計処理

合併の対価として吸収合併存続会社(被取得企業)が新株のみを発行している場合には、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目(ただし、積立目的の趣旨は同じであるが、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社の間でその名称が形式上異なる場合に行う積立金の名称変更を除く。)を、自己株式の処理等を除き、そのまま引継ぐことができる。当該取扱いは、吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合も同様である。

また、吸収合併の手続とともに、株主資本の計数の変動手続(会社法第447条から第452条)が行われ、その効力が合併期日に生じる場合には、合併期日において、会社の意思決定機関で定められた結果に従い、株主資本の計数を変動させることができる。なお、株主資本の計数の変動に際しては、資本剰余金と利益剰余金の混同とならないように留意する必要がある(自己株式等会計基準第19項)。

A 株主資本以外の項目の引継ぎ

吸収合併存続会社(被取得企業)は吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の評価・換算差額等及び新株予約権の適正な帳簿価額を引継ぐ。したがって、例えば、吸収合併消滅会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額もそのまま引継ぐことになる。

(2) 自己株式を処分した場合(新株の発行を併用した場合を含む。)の会計処理

持分の結合と判定された場合の合併における自己株式の会計処理(第135項参照)に準じて処理する。

(2) 結合後企業(取得企業)の連結財務諸表上の会計処理

85. 第84項の逆取得となる吸収合併が行われた後に、結合後企業が連結財務諸表を作成する場合には、吸収合併存続会社を被取得企業としてパーチェス法を適用する。具体的には、吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日における連結財務諸表上の金額(吸収合併消滅会社が連結財務諸表を作成していない場合には個別財務諸表上の金額をいう。)に、次の手順により算定された額を加算する。[設例10]

(1) 取得原価の算定

第36項(取得原価の算定方法)と同様、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する。具体的な算定方法は、第37項から第50項に準じる。

ただし、取得の対価となる財の時価は、吸収合併存続会社(被取得企業)の株主が合併後の会社(結合後企業)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の吸収合併消滅会社(取得企業)の株式を、吸収合併消滅会社(取得企業)が交付したものとみなして算定するとされている(企業結合会計基準 注解(注8))。

(2) 取得原価の配分

吸収合併存続会社(被取得企業)から取得した資産及び引き受けた負債の会計処理は第51項から第78項に準じて処理する。

(3) 増加資本の会計処理

(1)で算定された取得の対価を払込資本に加算する。ただし、連結財務諸表上の資本金は吸収合併存続会社(被取得企業)の資本金とし、これと合併直前の連結財務諸表上の資本金(吸収合併消滅会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本金又は資本剰余金に振り替える。

(3) 結合後企業(取得企業)が連結財務諸表を作成しない場合の注記事項の算定基礎

86. 逆取得となる吸収合併が行われた後に、結合後企業が連結財務諸表を作成しない場合には、第85項に準じて算定された額を基礎として、パーチェス法を適用したとする場合に個別貸借対照表及び個別損益計算書に及ぼす影響額を注記する(第306項(10)参照)。

10.逆取得となる吸収分割又は現物出資の会計処理

(1) 吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

87. 企業結合が吸収分割又は現物出資による子会社化の形式をとる場合(逆取得となる場合)、吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)の個別財務諸表上は、吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額を引継ぎ、当該資産及び負債の差額を以下のように会計処理する。

(1) 新株を発行した場合の会計処理(第409項参照)

@ 移転事業に係る株主資本相当額の取扱い

吸収分割承継会社等に移転された(又は吸収分割会社等が移転した)事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による差額からAの移転事業に係る評価・換算差額等及び新株予約権を控除した額(以下「移転事業に係る株主資本相当額」という。)を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスになる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

A 移転事業に係る評価・換算差額等の取扱い

吸収分割承継会社等に移転された(又は吸収分割会社等が移転した)事業に係る評価・換算差額等及び新株予約権(以下「移転事業に係る評価・換算差額等」という。)については、吸収分割会社又は現物出資会社の移転直前の適正な帳簿価額を引継ぐ。

したがって、移転された事業にその他有価証券や土地再評価差額法に基づき再評価した土地が含まれ、吸収分割会社等が当該その他有価証券や土地を時価をもって分割期日の前日の貸借対照表価額としている場合には、吸収分割承継会社等は分割期日の前日のその他有価証券及び土地の貸借対照表価額並びにその他有価証券評価差額金及び土地再評価差額金もそのまま引継ぐことになる。

(2) 自己株式を処分した場合(新株の発行を併用した場合を含む。)の会計処理

持分の結合と判定された場合の合併における自己株式の会計処理(第135項参照)に準じて処理する。

(2) 吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の会計処理

88. 企業結合が吸収分割又は現物出資による子会社化の形式をとる場合(逆取得に該当する場合)の吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の個別財務諸表上及び連結財務諸表上の会計処理は、第98項及び第99項に従う。

11.分離元企業の会計処理

(1) 移転した事業に係る適正な帳簿価額の算定

89. 分離元企業において、事業分離により移転した事業に係る資産及び負債の帳簿価額は、事業分離日の前日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した適正な帳簿価額のうち、移転する事業に係る金額を合理的に区分して算定する(事業分離等会計基準第10項)。

なお、適正な帳簿価額には、時価(又は再評価額)をもって貸借対照表価額としている場合の当該価額及び対応する評価・換算差額等の各内訳科目(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金)の額が含まれることに留意する必要がある。

90. 第89項の適正な帳簿価額の算定にあたり、投資が継続しているとみる場合には、次のように事業分離が行われないものと仮定して、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を適用することとなる。

(1) 繰延税金資産の回収可能性

移転する事業に係る繰延税金資産の回収可能性を検討するにあたり、収益力に基づく課税所得等による場合には、事業分離が行われないものと仮定した場合の将来年度の課税所得の見積額による(第107項参照)。

(2) 固定資産の減損処理

移転する事業に係る固定資産の減損の検討にあたり、将来キャッシュ・フローを見積る場合には、事業分離が行われないものと仮定した場合の経済的残存使用年数による。

(3) 退職給付引当金

移転する事業に係る退職給付引当金は、退職給付制度の終了の例外として、事業分離が行われないものと仮定した場合の適正な帳簿価額による。

(2) 事業分離に要した支出額の会計処理

91. 事業分離に要した支出額は、分離元企業において、発生時の事業年度の費用として処理する(事業分離等会計基準第11項)。

ただし、次の場合のように、取得の対価性が認められる取得に直接要した支出額(第48項参照)は、新たな投資に係る取得原価(分離先企業から交付された株式等の取得原価)に含める。

(1) 分離先企業における企業結合が逆取得と判定された場合の分離元企業が負担した当該企業結合に直接要した外部への支出額

(2) 移転した事業に関する投資が清算されたとみる場合において、現金以外の財の受取りに直接要した外部への支出額

(3) 受取対価の時価

92. 移転損益を認識する場合の受取対価となる財の時価は、受取対価が現金以外の資産等の場合には、受取対価となる財の時価と移転した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定することとなる(事業分離等会計基準第12項)。

93. 市場価格のある分離先企業の株式が受取対価とされる場合には、受取対価となる財の時価は、原則として、事業分離の合意公表日(事業分離の主要条件が合意され公表された時点)前の合理的な期間における株価を基礎にして算定する。

ただし、事業分離日の株価が事業分離の合意公表日前の合理的な期間における株価と大きく異ならない場合には、当該事業分離日の株価を基礎として取得の対価を算定することができる(事業分離等会計基準第13項)。「大きく異ならない場合」とは、その株価の差異から生じる移転損益の差額が財務諸表に重要な影響を与えないと認められる場合をいう。

94. 分離先企業の株式などの受取対価又は移転した事業のいずれについても、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、次のいずれかを用いて算定された額を受取対価の額とすることができる(第393項参照)。

(1) 事業分離日の前日における分離先企業の識別可能な資産及び負債の時価に基づく正味の評価額のうち、受取対価相当額

(2) 事業分離日の前日における移転した事業に係る分離元企業の識別可能な資産及び負債の時価に基づく正味の評価額

この場合、識別可能な個々の資産及び負債の時価について、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、該当する資産及び負債について、その適正な帳簿価額を用いることができる。

12.分離先企業における企業結合が取得と判定された場合の分離元企業の会計処理

(1) 受取対価が現金等の財産のみである場合(事業譲渡など)の分離元企業の会計処理

子会社を分離先企業として行われた事業分離の場合

95. 分離元企業の子会社に事業分離し、その対価として現金等の財産のみを受け取った場合には、共通支配下の取引として取り扱う(事業分離等会計基準第14項)(第223項及び第225項参照)。

なお、分離元企業の会計処理において、現金等の財産とは、移転した事業と明らかに異なる資産が該当し、分離先企業の株式は含まれない(この点については、事業分離等会計基準第10項(1)を参照のこと)。これには、分離先企業の支払能力に左右されない資産や、分離先企業の支払能力の影響を受けるものの、代金回収条件が明確かつ妥当であり、回収が確実と見込まれる資産が含まれる。ただし、分割比率等に端数があるために生じた交付金は現金等の財産に含めないこととする。また、利益配当の代替としての交付金の部分は、受取対価には含まれない。

子会社以外を分離先企業として行われた事業分離の場合

96. 分離元企業の子会社以外に事業分離し、その対価として現金等の財産のみを受け取った場合には、分離元企業(事業譲渡会社等)は次の処理を行う(事業分離等会計基準第15項及び第16項)。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、時価(対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算する。)により計上し、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)との差額は、移転損益として認識する。

ただし、一般的な売却や交換と同じように、次のような分離元企業の重要な継続的関与によって、分離元企業が移転した事業に係る成果の変動性を従来と同様に負っている場合には、移転損益を認識することはできないことに留意する必要がある(本適用指針において、移転損益を認識するとしている場合には、同様の留意が必要となる。)(事業分離等会計基準第10項及び第76項)。

@ 移転した事業に対し買戻しの条件が付されている場合

A 移転した事業から生ずる財貨又はサービスの長期購入契約により当該事業のほとんどすべてのコスト(当該事業の取得価額相当額を含む。)を負担する場合

(2) 連結財務諸表上の会計処理

分離元企業の関連会社に事業を移転したことにより認識された移転損益は、企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」(以下「持分法会計基準」という。)第13項における未実現損益の消去に準じて処理する。

(2) 受取対価が分離先企業の株式のみである場合(会社分割など)の分離元企業の会計処理

97. 会社分割等、事業分離の対価として分離先企業の株式のみを受け取った場合には、当該分離先企業に対する分離元企業の株式の持分比率等により、分離先企業は次のように分類される。

(1) 事業分離により分離先企業が子会社となる場合(第98項及び第99項参照)

(2) 事業分離により分離先企業が関連会社となる場合(第100項から第102項参照)

(3) 事業分離により分離先企業が共同支配企業の形成となる場合(第196項及び第197項参照)

(4) 事業分離により分離先企業が (1)から(3)以外となる場合(第103項参照)

なお、(1)の場合には、分離先企業の企業結合が分離元企業を取得企業とする「逆取得」に該当することとなる。

分離先企業が子会社となる場合

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合)

98. 事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合には、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準第17項)。[設例11-1]

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する。したがって、分離元企業は、移転損益を認識しない。分離先企業の株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(第108項(2)参照)とともに、対価性が認められる取得に直接要した支出額を加算する(第91項参照)ことに留意する必要がある。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、当該マイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する(第394項参照)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

子会社(分離先企業)に係る分離元企業(親会社)の持分の増加額(Aイの金額)と移転した事業に係る分離元企業(親会社)の持分の減少額(@アの金額)との差額は、原則として、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)に区分して会計処理する。ただし、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)のいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて会計処理することができる。

@ 持分変動差額の計上

次の差額を持分変動差額とし、原則として事業分離日の属する事業年度の特別損益に計上する。(連結原則 第四 五 3 及び同注解(注解13))。

ア 移転した事業に係る分離元企業(親会社)の持分の減少額(移転事業に係る株主資本相当額に移転した事業に係る減少した親会社の持分比率を乗じた額)

イ 分離元企業(親会社)の事業が移転されたとみなされる額(移転した事業の事業分離直前の時価に移転した事業に係る減少した親会社の持分比率を乗じた額)

なお、持分変動差額は、子会社株式(分離先企業の株式)の取得原価とこれに対応する分離元企業(親会社)の持分との差額として算定することもできる。

A のれん(又は負ののれん)の計上

次の差額をのれん(又は負ののれん)とし、第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第396項及び第397項参照)。

ア 分離先企業に対して投資したとみなされる額(子会社となる分離先企業(被取得企業)の事業分離直前の時価に事業分離により増加する親会社の持分比率を乗じた額で、@イの金額と同額となる。)に対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算した額

イ これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(子会社となる分離先企業(被取得企業)の企業結合日における識別可能資産及び負債の時価に事業分離により増加する親会社の持分比率を乗じた額)

ただし、共同新設分割による子会社の設立のように、子会社となる分離先企業の個別財務諸表上、被取得企業の事業に対してパーチェス法を適用し、のれん(又は負ののれん)が計上されている場合には、分離先企業(子会社)の個別財務諸表に計上されているのれん(又は負ののれん)を連結財務諸表上もそのまま計上することができる。なお、この方法による場合ののれん(又は負ののれん)の額と、Aの方法により算定されたのれん(又は負ののれん)との差額が、少数株主持分の金額に影響を与えることになる。[設例11-2]

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有している場合)

99. 事業分離により分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合において、分離元企業が事業分離前に分離先企業の株式を有していた場合(事業分離前に分離先企業の株式をその他有価証券(売買目的有価証券の場合を含む。以下同じ。)又は関連会社株式として保有していた場合)には、第98項に準じて処理する。

ただし、分離元企業の個別財務諸表上、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、まず、事業分離前から保有している分離先企業の株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する(第394項参照)。

また、分離元企業の連結財務諸表上、のれん(又は負ののれん)については、次の差額として算定する(持分変動差額については、第98項(2)@に準じて処理する。)(事業分離等会計基準第18項)。[設例11-3]

(1) 分離先企業に対して投資したとみなされる額

当該金額は、子会社となる分離先企業の資産及び負債の評価方法にかかわらず、分離先企業に対する支配を獲得するに至った個々の取引ごとに取得の対価となる財の時価を算定し、それらを合算したものとするため、第98項(2)Aアに相当する金額に、事業分離前に分離元企業が保有している分離先企業の株式(その他有価証券又は関連会社株式)の帳簿価額を加算して算定する(第46項参照)。

(2) これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(第98項(2)Aイに相当する金額となる。)

なお、分離元企業が事業分離前に分離先企業の株式を子会社株式として保有しており、事業分離により分離先企業の株式(子会社株式)を追加取得した場合には、共通支配下の取引として取り扱う(事業分離等会計基準第19項)(第226項及び第229項参照)。

分離先企業が関連会社となる場合

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合)

100. 事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合には、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準第20項)。[設例12-1]

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業が受け取った分離先企業の株式(関連会社株式)の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する。したがって、分離元企業は、移転損益を認識しない。分離先企業の株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(第108項(2)参照)とともに、対価性が認められる取得に直接要した支出額を加算する(第91項参照)ことに留意する必要がある。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、第98項(1)なお書きに準じて処理する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

連結財務諸表の作成にあたり、関連会社(分離先企業)に対する持分法適用において、関連会社に係る分離元企業(投資会社)の持分の増加額と、移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額との間に生ずる差額は、原則として、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)に区分して会計処理する。ただし、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)のいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて処理することができる。

なお、持分法適用において、関連会社に係る分離元企業の持分の増加額は、持分法会計基準及び日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」(以下「持分法実務指針」という。)に従い、関連会社(分離先企業)に対する投資に対応する分離先企業の事業分離直前の資本(分離先企業の事業分離直前の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)に事業分離により増加する分離元企業の持分比率を乗じた額であり、Aイに相当する金額)として算定される。

@ 持分変動差額の計上

次の差額を持分変動差額とし、原則として事業分離日の属する事業年度の特別損益に計上する(連結原則 第四 五 3 及び同注解(注解13))。

ア 移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額(移転事業に係る株主資本相当額に移転した事業に係る減少した分離元企業の持分比率を乗じた額)

イ 分離元企業の事業が移転されたとみなされる額(移転した事業の事業分離直前の時価に移転した事業に係る減少した分離元企業の持分比率を乗じた額)

A のれん(又は負ののれん)の算定

次の差額をのれん(又は負ののれん)として、投資に含め、その償却は、第76項から第78項に準じて処理する。

ア 分離先企業に対して投資したとみなされる額(分離先企業の事業分離直前の時価に事業分離により増加する分離元企業の持分比率を乗じた額で、@イの金額と同額となる。)

イ これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(関連会社に係る分離元企業の持分の増加額)

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式(その他有価証券)を保有している場合)

101. 事業分離により分離先企業が新たに分離元企業の関連会社となる場合において、分離元企業が事業分離前に分離先企業の株式を有していた場合(事業分離前に分離先企業の株式をその他有価証券として保有していた場合)には、第100項に準じて処理する。[設例12-2]

ただし、分離元企業の個別財務諸表上、移転事業にかかる株主資本相当額がマイナスの場合には、第99項ただし書きに準じて処理する。

また、分離元企業の連結財務諸表上、のれん(又は負ののれん)については、次の差額として算定する(持分変動差額については、第100項(2)@に準じて処理する。)(事業分離等会計基準第21項)。

(1) 分離先企業に対して投資したとみなされる額(第100項(2)Aアに相当する金額に、事業分離前に分離元企業がその他有価証券として保有している分離先企業の株式の帳簿価額を加算した金額(第46項参照))

(2) これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(その取得ごとに対応する分離先企業の資本の合計額)

なお、この(2)の額は、持分法会計基準及び持分法実務指針に従い、その取得ごとに対応する分離先企業の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、取得日ごとに資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)に増加する分離元企業の持分比率を乗じた額の合計として算定される。

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式(関連会社株式)を保有している場合)

102. 事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を関連会社株式として有しており、事業分離により分離先企業の株式(関連会社株式)を追加取得した場合には、第100項に準じて処理する(事業分離等会計基準第22項)。[設例12-3]

分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合

103. 事業分離により分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合(分離先企業の株式がその他有価証券に分類される場合)には、分離元企業の個別財務諸表上、原則として、移転損益を認識する。また、当該分離先企業の株式の取得原価は、移転した事業に係る時価又は当該分離先企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価に基づいて算定する(事業分離等会計基準第23項)。

分離先企業の株式の取得原価の算定にあたっては、対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算することに留意する必要がある。

(3) 受取対価が現金等の財産と分離先企業の株式である場合の分離元企業の会計処理

分離先企業が子会社となる場合

104. 子会社へ事業分離する場合や事業分離により分離先企業が新たに子会社となる場合において、その対価として現金等の財産(第95項参照)と分離先企業の株式を受け取った場合には、共通支配下の取引又はこれに準じて取り扱う(事業分離等会計基準第24項)(第230項及び第232項参照)。

分離先企業が関連会社となる場合

105. 関連会社へ事業分離する場合や事業分離により分離先企業が新たに関連会社となる場合において、その対価として現金等の財産と分離先企業の株式を受け取った場合、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準第25項)。[設例13]

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業で受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上する。この結果、当該時価が移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を上回る場合には、原則として、当該差額を移転利益として認識(取得する分離先企業の株式の取得原価はゼロとする。)し、下回る場合には、当該差額を取得する分離先企業の株式の取得原価とする。分離先企業から受け取った現金以外の財産(分離先企業の株式を含む。)の取得原価の算定にあたっては、対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算することに留意する必要がある。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合、受け取った現金等の財産の時価と等しい金額については、移転利益に計上し、マイナスとなる移転事業に係る株主資本相当額については、まず、事業分離前から保有している分離先企業の株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する(第395項参照)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

事業分離により分離先企業が新たに関連会社となる場合や関連会社に事業を移転したことにより認識された移転利益は、持分法会計基準第13項における未実現損益の消去に準じて処理する。また、関連会社に係る分離元企業の持分の増加額と移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額との間に生じる差額は、第100項から第102項に準じ、原則として、のれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分して処理する。

分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合

106. 子会社、関連会社及び共同支配企業以外へ事業分離し引き続き分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外である場合や事業分離により分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合(分離先企業の株式がその他有価証券に分類される場合)において、その対価として現金等の財産と分離先企業の株式を受け取った場合、分離元企業は、原則として、移転損益を認識する。また、当該分離先企業の株式の取得原価は、移転した事業に係る時価又は当該分離先企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価と、対価として受け取った現金等の財産の時価との差額に基づいて算定する(事業分離等会計基準第26項)。

分離先企業から受け取った現金以外の財産(分離先企業の株式を含む。)の取得原価の算定にあたっては、対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算することに留意する必要がある。

(4) 分離元企業の税効果会計

分離元企業の繰延税金資産の回収可能性

107. 事業分離日の属する事業年度の前期末(事業分離日の前日における仮決算を含む。)において、分離元企業から移転する事業に係る資産及び負債の一時差異に対して計上する繰延税金資産の回収可能性は、次のように判断する。

(1) 分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断し、分離先企業の将来年度の収益力に基づく課税所得等は勘案しない(第399項参照)。

(2) ただし、投資が継続しているとみる場合には、事業分離が行われないものと仮定した移転する事業に係る将来年度の収益力に基づく課税所得等を勘案して判断する。

具体的には、事業分離が行われないものと仮定したときの分離元企業の将来年度の収益力に基づく課税所得等の見積額を、移転する事業に係る額と残存する事業に係る額とに区分し、移転する事業に係る課税所得等を基礎として回収可能性の判断を行う。また、移転する事業において課税所得等と相殺し切れなかった将来減算一時差異が生じ、残存する事業では相殺後に残余が生じている場合には、原則としてこれらを相殺することにより移転する事業に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する。

なお、分離元企業に残存する事業に係る資産及び負債の一時差異に対して計上する繰延税金資産の回収可能性については、事業分離を考慮した実際の分離元企業における将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断する(第400項参照)。[設例36]

分離元企業の繰延税金資産及び繰延税金負債の計上額

108. 分離元企業において、事業分離により移転する事業に係る資産及び負債が、分離先企業の株式など現金以外の受取対価と引き換えられ、新たに貸借対照表上、当該受取対価が計上される場合において、これらの金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額(税務上の帳簿価額)との間に生ずる差額(一時差異)に対する税効果会計の適用については、次のように取り扱う。

(1) 原則として、事業分離日以後最初に到来する事業年度末に適用する。したがって、期末に繰延税金資産及び繰延税金負債が計上され、その差額を期首と期末で比較した増減額が法人税等調整額として計上されることとなる(第401項参照)。

(2) ただし、投資が継続しているとみる場合には、移転損益を認識せず、事業分離日において移転する繰延税金資産及び繰延税金負債(移転した事業に係る資産及び負債の一時差異及び当該事業分離に伴い新たに生じた一時差異(税務上の移転損益相当額)に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の適正な帳簿価額であって、繰延税金資産については第107項(2)に準じて回収可能性があると判断されたもの。以下同じ。)の額を、分離先企業の株式の取得原価に含めずに、分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として計上する(第402項参照)。[設例37]

この場合、当該分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産については、従来の事業に係る投資が継続しているものとみて、事業分離日において移転する繰延税金資産を置き換えるものであるため、日本公認会計士協会 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」5(2)を参考として、例示区分@の会社に加え、例示区分A、B及びCただし書きの会社についても、その回収可能性があると判断できるものとする。このように取り扱う場合であっても、当該分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産については、事業分離後に事業分離日において移転する繰延税金資産の額以上に計上されることはないものとする。また、事業分離後、分離元企業が例示区分C(ただし書きの場合を除く。)の会社となった場合には、翌期における解消額に係る繰延税金資産の額を除き、当該繰延税金資産の回収可能性はないものと判断し、例示区分Dの会社となった場合には、当該繰延税金資産の回収可能性はないものと判断することに留意する必要がある。

分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の取扱い

109. 分割期日が分離元企業の期首である分割型の会社分割において、適格組織再編(適格合併等、税務上、簿価引継又は簿価譲渡として取り扱われる組織再編をいう。以下同じ。)に該当しない場合、分割期日の前日である前期末において、税務上の移転損益に係る未払法人税等と当該一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債が計上されるが、当該繰延税金資産の回収可能性の判断についても、原則として、第107項(1)と同様に、分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断する(第403項参照)。

13.取得と判定された株式交換の会計処理

(1) 株式交換完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

子会社株式の取得原価の算定

110. 株式交換による企業結合が取得と判定された場合、株式交換完全親会社(以下第117項まで取得企業は株式交換完全親会社とする。)の個別財務諸表では、「パーチェス法を適用した場合の取得原価で被取得企業株式(完全子会社株式)を計上する」(企業結合会計基準三 2.(6)@)とされている。

子会社株式の取得原価の算定は、第36項(取得原価の算定方法)と同様、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する。具体的な算定は、第37項から第50項(第46項を除く。)に準じて行う。[設例14]

ただし、株式交換完全親会社が作成する連結財務諸表において、みなし取得日に株式交換が行われたものとして会計処理する場合(第117項参照)には、第41項における株式交付日(企業結合日)をみなし取得日と読み替えることとする。

株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

110-2.株式交換に際して、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、当該新株予約権又は新株予約権付社債の時価を子会社株式の取得原価に加算するとともに、同額を新株予約権又は新株予約権付社債として純資産の部又は負債の部に計上する(第50項及び第404-2項参照)。

株式交換完全親会社が新株を発行した場合の会計処理

111. 企業結合の対価として、株式交換完全親会社が新株を発行した場合には、払込資本(資本金又は資本剰余金)を増加させる。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。株式交換完全親会社が新株を発行した場合の増加資本の額は第110項の取得の対価の算定に準じて処理する。

株式交換完全親会社が自己株式を処分した場合の会計処理

112. 企業結合の対価として、株式交換完全親会社が自己株式を処分した場合には、増加資本の額(自己株式の処分の対価の額。新株の発行と自己株式の処分を同時に行った場合には、新株の発行と自己株式の処分の対価の額。)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少)として会計処理する(第388項参照)。

なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。また、増加資本の額は、第38項の取得の対価の算定に準じて算定する。

株式交換完全親会社が自社の株式以外の財産を交付した場合の会計処理

113. 株式交換による企業結合の場合において、株式交換完全子会社の株主に対して、株式交換完全親会社の株式以外の財産を交付したときは、当該交付した財産の時価と企業結合日の前日における適正な帳簿価額との差額を株式交換日において、株式交換完全親会社の損益に計上する。

子会社が親会社の株式を対価として株式交換した場合の会計処理

114. 子会社が親会社株式を支払対価として他の企業と株式交換を行う場合には、次のように会計処理する。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

第113項に準じて会計処理を行う。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

個別財務諸表において計上された損益を、連結財務諸表上は資本取引として自己株式処分差額に振り替え、自己株式等会計基準第9項、第10項及び第12項の定めに従って処理する。

株式交換完全親会社の税効果会計

115. 株式交換完全親会社が取得した子会社株式(株式交換完全子会社の株式)に係る一時差異(取得のときから生じていた一時差異に限る。)に関する税効果は認識しない(第404項参照)。

ただし、予測可能な期間に当該子会社株式を売却する予定がある場合(一部売却で売却後も子会社又は関連会社にとどまる予定の場合には売却により解消する部分の一時差異に限る。)、又は売却その他の事由により当該子会社株式がその他有価証券として分類されることとなる場合には、当該一時差異に対する税効果を認識する。

なお、株式交換後に当該子会社株式に生じた一時差異は、通常の税効果会計の取扱いによる。

(2) 株式交換完全子会社の個別財務諸表上の会計処理

115-2.株式交換に際して、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式交換日の前日に株式交換完全子会社で付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

(3) 株式交換完全親会社の連結財務諸表上の会計処理

投資と資本の消去

116. 株式交換による企業結合が取得と判定された場合の資本連結手続は、連結原則に従い、次の(1)と(2)を相殺消去する(連結原則 第四 三 1)。また、両者の消去差額であるのれん(又は負ののれん)は、第76項から第78項に準じて会計処理する。[設例14]

(1) 株式交換完全親会社の投資

株式交換完全親会社の投資は、第110項により算定された子会社株式の取得原価(株式交換以前に株式交換完全子会社となる会社の株式を保有していた場合には、当該株式の取得原価を加算する。)とする。

(2) 株式交換完全子会社の資本

株式交換完全子会社の資本は、取得原価の配分方法(第51項から第78項参照)に準じて算定された識別可能資産及び負債の差額とする。

(4) 株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

117. 株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合には、連結原則 注解(注解9)に従い、株式交換の日の前後いずれか近い決算日(以下「みなし取得日」という。)に株式交換が行われたものとみなして会計処理することができる。ただし、みなし取得日は、原則的な取得原価の算定日である企業結合の合意公表日(第38項(1)参照)以降としなければならない。この場合の取得原価の算定において、企業結合日をみなし取得日と読み替える。また、取得原価の算定において、企業結合会計基準 三 2.(2)Bのただし書きを適用するときは、第41 項の株式交付日(企業結合日)をみなし取得日と読み替える。

14.逆取得となる株式交換の会計処理(株式交換完全子会社が取得企業となる場合)

(1) 株式交換完全親会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

118. 組織再編が株式交換の形式をとる場合において、株式交換完全親会社が被取得企業となる場合(株式交換完全子会社が取得企業となる場合)には、株式交換完全親会社の個別財務諸表上の子会社株式の取得原価は、株式交換完全子会社(取得企業)の「企業結合日における適正な帳簿価額による純資産額に基づいて」(企業結合会計基準 三 2.(6)@)算定するとされている。

具体的には、株式交換完全親会社(被取得企業)が取得する子会社株式(取得企業株式)の取得原価は株式交換完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することになる。

株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

118-2 .株式交換に際して、株式交換完全親会社(被取得企業)が株式交換完全子会社(取得企業)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社(被取得企業)が新株予約権付社債を承継する場合には、株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社(取得企業)の株式交換日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式交換完全子会社(取得企業)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して子会社株式の取得原価を算定する。 また、株式交換完全親会社(被取得企業)は、株式交換日の前日に株式交換完全子会社(取得企業)で付されていた適正な帳簿価額により新株予約権又は新株予約権付社債を純資産の部又は負債の部に計上する(第404-2項参照)。

(2) 株式交換完全子会社(取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

118-3.株式交換に際して、株式交換完全親会社(被取得企業)が株式交換完全子会社(取得企業)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社(被取得企業)が新株予約権付社債を承継する場合には、株式交換日の前日に株式交換完全子会社(取得企業)で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

(3) 株式交換後の連結財務諸表上の会計処理

119. 株式交換完全子会社(取得企業)は、株式交換完全親会社(被取得企業)を被取得企業としてパーチェス法を適用する。具体的には、株式交換日の前日における株式交換完全子会社(取得企業)の連結財務諸表上の金額(連結財務諸表を作成していない場合には個別財務諸表上の金額)に、次の手順により算定された額を加算する。

(1) 取得原価の算定

第36項(取得原価の算定方法)と同様、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する。具体的な算定方法は、第37項から第50項(第46項を除く。)に準じる。

ただし、取得の対価となる財の時価は、株式交換完全親会社(被取得企業)の株主が結合後企業(株式交換完全親会社)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の株式交換完全子会社(取得企業)の株式を、株式交換完全子会社(取得企業)が交付したものとみなして算定するとされている(企業結合会計基準 注解(注8))。

(2) 取得原価の配分

株式交換完全親会社となる会社(被取得企業)から取得した資産及び引き受けた負債の会計処理は第51項から第78項に準じて処理する。

(3) 増加資本の会計処理

(1)で算定された取得の対価を払込資本に加算する。

ただし、連結財務諸表上の資本金は株式交換完全親会社(被取得企業)の資本金とし、これと株式交換直前の連結財務諸表上の資本金(株式交換完全子会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本金又は資本剰余金に振り替える。

15.取得と判定された株式移転の会計処理

(1) 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

子会社株式の取得原価の算定

120. 株式移転による共同持株会社の設立の形式をとる企業結合が取得と判定された場合には、第32項(取得企業の決定規準)に従い、いずれかの株式移転完全子会社を取得企業として取り扱う。

121. 子会社株式(取得企業株式及び被取得企業株式)の取得原価は、それぞれ次のように算定する。[設例15]

(1) 子会社株式(取得企業株式)

@ 原則的な取扱い

企業結合日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定する(企業結合会計基準 三 2.(6)A)。

具体的には、株式移転設立完全親会社が取得する子会社株式(取得企業株式)の取得原価は、株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することになる。

A 簡便的な取扱い

株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日に算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が取得する子会社株式(取得企業株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができる(第404-3項参照)。

(2) 子会社株式(被取得企業株式)

被取得企業株式の取得原価はパーチェス法を適用して算定する(企業結合会計基準三 2.(6)A)。したがって、第36項(取得原価の算定方法)と同様、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する。具体的な算定方法は、第37項から第50項に準じる。

ただし、株式移転の合意公表日において株式移転設立完全親会社の株式の時価は存在しないため、取得の対価となる財の時価は、株式移転完全子会社(被取得企業)の株主が株式移転設立完全親会社(結合後企業)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の株式移転完全子会社(取得企業)の株式を、株式移転完全子会社(取得企業)が交付したものとみなして算定するとされている(企業結合会計基準 注解(注8))。

また、株式移転設立完全親会社が作成する連結財務諸表において、みなし取得日に株式移転が行われたものとして会計処理する場合(第126項参照)には、第41項における株式交付日をみなし結合日と読み替えることとする。

株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

121-2.株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転設立完全親会社は、株式移転完全子会社株式(取得企業株式又は被取得企業株式)の取得原価を次のように算定する(第404-2項参照)。

(1) 子会社株式(取得企業株式)

@ 原則的な取扱い(第121項(1)@参照)

第121項(1)@により算定された子会社株式の取得原価に、株式移転完全子会社(取得企業)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算する。また、株式移転設立完全親会社は、株式移転日の前日に株式移転完全子会社(取得企業)で付されていた新株予約権又は新株予約権付社債の適正な帳簿価額を純資産の部又は負債の部に計上する。

A 簡便的な取扱い(第121項(1)A参照)

第121項(1)Aにより子会社株式の取得原価を算定する場合であっても、株式移転完全子会社(取得企業)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額に加算する。

(2) 子会社株式(被取得企業株式)

第121項(2)により算定された子会社株式の取得原価に、当該新株予約権又は新株予約権付社債の時価を加算するとともに、同額を新株予約権又は新株予約権付社債として純資産の部又は負債の部に計上する(第50項参照)。

株式移転設立完全親会社の資本の会計処理

122. 株式移転設立完全親会社の資本の額は、払込資本(資本金又は資本剰余金)を増加させる。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

株式移転設立完全親会社の増加資本の額は第121項の取得の対価の算定に準じる。

株式移転設立完全親会社の税効果会計

123. 株式移転設立完全親会社が取得した子会社株式(取得企業及び被取得企業の株式)に係る一時差異(取得のときから生じていたものに限る。)に関する税効果の取扱いは第115項に準じる。[設例33]

(2) 株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

123-2.株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転完全子会社は株式移転日の前日に付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

(3) 株式移転設立完全親会社の連結財務諸表上の会計処理

投資と資本の消去

124. 株式移転による企業結合が取得と判定された場合の資本連結手続は、連結原則に従い、次の(1)@とA及び(2)@とAをそれぞれ相殺消去する(連結原則 第四 三 1)。(2)の消去差額は、のれん(又は負ののれん)とし、第76項から第78項に準じて会計処理する。[設例15]

(1) 株式移転完全子会社(取得企業)に関する会計処理

@ 株式移転設立完全親会社の取得企業に対する投資

株式移転設立完全親会社の投資は、第121項(1)により算定された子会社株式の取得原価とする。

A 株式移転完全子会社(取得企業)の資本

株式移転完全子会社(取得企業)の資本は、取得企業の適正な帳簿価額による株主資本とする。

両者はいずれも取得企業の適正な帳簿価額を基礎とした金額のため、消去差額は生じない。

(2) 株式移転完全子会社(被取得企業)に関する会計処理

@ 株式移転設立完全親会社の被取得企業に対する投資

株式移転設立完全親会社の投資は、第121項(2)により算定された子会社株式の取得原価とする。

A 株式移転完全子会社(被取得企業)の資本

株式移転完全子会社(被取得企業)の資本は、取得原価の配分(第51項から第78項参照)に準じて算定された識別可能資産及び負債の差額とする。

株式移転完全子会社(取得企業)の純資産の引継ぎ

125. 連結財務諸表上、株式移転設立完全親会社は株式移転完全子会社(取得企業)の純資産を、原則として、そのまま引継ぐ。株式移転完全子会社(取得企業)が連結財務諸表を作成している場合には、当該純資産の金額は株式移転完全子会社の連結財務諸表上の金額とする。[設例15]

ただし、連結財務諸表上の資本金は株式移転設立完全親会社の資本金とし、これと株式移転直前の株式移転完全子会社(取得企業)の資本金が異なる場合には、その差額を資本金又は資本剰余金に振り替える。

株式移転日が株式移転完全子会社(被取得企業)の決算日以外の日である場合の取扱い

126. 第117項(株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合の取扱い)と同様に取り扱う。

X.持分の結合の会計処理

1.持分の結合の会計処理の概要

(1) 持分プーリング法の適用

127. 企業結合が持分の結合と判定された場合には、当該企業結合に対して持分プーリング法を適用して会計処理するとされている(企業結合会計基準 三 3.)。当該会計処理は、持分の結合と判定された合併(吸収合併及び新設合併)、株式交換及び株式移転における結合当事企業に適用される。

128. 持分プーリング法とは、すべての結合当事企業の資産、負債及び資本(純資産)を、それぞれの適正な帳簿価額で引継ぐ方法とされている。組織再編の形式及び連結財務諸表・個別財務諸表の観点から、会計処理日などを整理すると、次のようになる(第405項参照)。

(1) 組織再編の形式が合併の場合

@ 結合後企業が連結財務諸表を作成する場合

ア 連結財務諸表上の会計処理

企業結合年度の期首(以下「みなし結合日」という。)に合併が行われたものとみなして連結財務諸表を作成するとされている(企業結合会計基準 三 3.(2))。

イ 個別財務諸表上の会計処理

合併期日に合併の会計処理を行う。なお、第312項(2)の事項を注記することができる。

A 結合後企業が個別財務諸表のみ作成する場合

合併期日に合併の会計処理を行い、第312項(2)の事項を注記する。

(2) 組織再編の形式が株式交換又は株式移転の場合

ア 連結財務諸表上の会計処理

みなし結合日に株式交換又は株式移転が行われたものとみなして連結財務諸表を作成するとされている(企業結合会計基準 三 3.(2))。

イ 個別財務諸表上の会計処理

株式交換又は株式移転日に株式交換等の会計処理を行う。なお、子会社株式の評価は、みなし結合日における株式交換完全子会社又は株式移転完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額とし、株式交換完全親会社等の増加資本は、払込資本を増加させる。

(2) 持分プーリング法に準じた処理方法の適用

129. 持分の結合と判定された企業結合のうち、事業の分離を伴うこととなる会社分割や現物出資などにおける結合企業については、持分プーリング法に準じた処理方法を適用する(第406項参照)。

持分プーリング法に準じた処理方法とは、以下の規定を除き、持分プーリング法と同一の処理方法をいうとされている(企業結合会計基準 注解(注15))。

(1) 資本(株主資本)の内訳の引継方法

(2) 企業結合年度の連結財務諸表の作成

したがって、この処理方法によった場合には、結合後企業は払込資本を増加させるとともに、企業結合日に企業結合が行われたものとして連結財務諸表及び個別財務諸表を作成することになる。

(3) 結合当事企業における適正な帳簿価額の算定

130. 企業結合が持分の結合と判定された場合には、結合当事企業は、適正な帳簿価額を算定しなければならない。適正な帳簿価額とは、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した帳簿価額とされている(第89項、第90項及び第407項参照)。したがって、結合当事企業の資産又は負債の帳簿価額に会計処理又は評価の誤りがある場合には、引継ぎ前にその修正が行われることになる(企業結合会計意見書 三 4.(1))。

なお、適正な帳簿価額には、時価(又は再評価額)をもって貸借対照表価額としている場合の当該価額及び対応する評価・換算差額等の各内訳科目(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金)の額が含まれることに留意する必要がある。

2.本適用指針で取り扱う持分の結合と判定された組織再編の形式ごとの会計処理

131. 本適用指針では、代表的な組織再編の形式として次の3 つを取り上げ、それぞれの会計処理を示している。

(1) 合併(吸収合併及び新設合併)(第132項から第148項参照)

(2) 会社分割(共同新設分割及び吸収分割)(第149項から第159項参照)

(3) 株式交換又は株式移転(第160項から第174項参照)

3.持分の結合と判定された合併(吸収合併及び新設合併)の会計処理

(1) 吸収合併消滅会社等の個別財務諸表上の会計処理

適正な帳簿価額の算定

132. 吸収合併消滅会社等(結合当事企業)は、合併期日の前日及びみなし結合日の前日に決算又は仮決算を行い、資産、負債及び資本(純資産)の適正な帳簿価額を算定しなければならない。

(2) 吸収合併存続会社等の個別財務諸表上の会計処理

資産及び負債の会計処理

133. 吸収合併存続会社等(結合後企業)は、吸収合併消滅会社等(結合当事企業)の合併期日の前日の適正な帳簿価額による資産及び負債を引継がなければならないとされている(企業結合会計基準 三 3.(1))(第407項参照)。[設例16]

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

134. 吸収合併存続会社等(結合後企業)は、合併期日の前日における吸収合併消滅会社等(結合当事企業)の資本金、資本剰余金及び利益剰余金を、自己株式の処理等を除き、原則として、そのまま引継がなければならないとされている(企業結合会計意見書 三 4.(1)及び企業結合会計基準 三 3.(1))。[設例16]

合併の対価として、吸収合併存続会社等が新株を発行した場合には、吸収合併消滅会社等の純資産の部の各項目を以下のように引継ぐこととなる(第408項参照)。

(1) 株主資本項目の引継ぎ

吸収合併存続会社等は吸収合併消滅会社等の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目(ただし、積立目的の趣旨は同じであるが、結合当事企業間でその名称が形式上異なる場合に行う積立金の名称変更を除く。)を、自己株式の処理等を除き、そのまま引継ぐことになる。当該取扱いは、吸収合併消滅会社等の株主資本の合計額がマイナスとなる場合も同様である。

ただし、合併の手続とともに、株主資本の計数の変動手続(会社法第447条から第452条)が行われ、その効力が合併期日に生じる場合には、合併期日において、会社の意思決定機関で定められた結果に従い、株主資本の計数を変動させることができる。なお、株主資本の計数の変動に際しては、資本剰余金と利益剰余金の混同とならないように留意する必要がある(自己株式等会計基準第19項)。

(2) 株主資本以外の項目の引継ぎ

吸収合併存続会社等は吸収合併消滅会社等の合併期日の前日の評価・換算差額等及び新株予約権の適正な帳簿価額を引継ぐ。したがって、例えば、吸収合併消滅会社等のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額もそのまま引継ぐことになる。

(自己株式を処分した場合の会計処理)

135. 合併の対価に吸収合併存続会社の自己株式が含まれる場合には、合併の対価として新株のみを交付した場合(第134項参照)に準じて、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の株主資本の構成をそのまま引継ぎ、処分した自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除する(第410項参照)。[設例16]

なお、株主資本以外の項目については、第134項(2)に準じて会計処理する。

136. (削除)

(自己株式の取得の会計処理)

137. 吸収合併により取得した自己株式(吸収合併消滅会社が保有していた吸収合併存続会社株式)は、吸収合併消滅会社における適正な帳簿価額により吸収合併存続会社の株主資本から控除する。

なお、当該自己株式を合併期日に消却した場合には、自己株式等会計基準第11項に基づき、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する(第411項参照)。

(吸収合併消滅会社等が保有していた当該会社の自己株式の会計処理)

138. 合併期日の前日において吸収合併消滅会社等が当該会社の自己株式を保有していた場合には、合併期日において当該自己株式を消滅させる。当該自己株式の消滅に対応して減額する株主資本項目は、その他資本剰余金とする(第411項参照)。

(抱合せ株式の消滅の会計処理)

139. 吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社株式(以下「抱合せ株式」という。)の帳簿価額は消滅させる。当該抱合せ株式の消滅に対応して減額する株主資本項目は第138項に準ずる(第411項参照)。[設例16]

(吸収合併消滅会社等の新株予約権者に新株予約権等を交付したときの会計処理)

140. 合併が持分の結合と判定された場合には、吸収合併存続会社等は、吸収合併消滅会社等における新株予約権の適正な帳簿価額を引継いだうえで、合併期日において、以下のように処理する(第361項参照)。

(1) 吸収合併消滅会社等の新株予約権者に対して吸収合併存続会社等の新株予約権を交付する場合

吸収合併存続会社等が交付した新株予約権の帳簿価額は、吸収合併消滅会社等から引継いだ新株予約権の適正な帳簿価額を付す。

(2) 吸収合併消滅会社等の新株予約権者に対して現金を交付する場合

吸収合併消滅会社等から引継いだ新株予約権の適正な帳簿価額と交付した現金との差額は、新株予約権消却損益等、適切な科目をもって、損益に計上する。

当該取扱いは、吸収合併以外の持分の結合と判定された組織再編についても適用する。

会計処理方法の統一

141. 吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社又は新設合併消滅会社同士(結合当事企業)の間で会計処理方法に違いがある場合には、「同一の環境下で行われた同一の性質の取引等については会計処理方法の変更に準じて、適切と考えられる方法に統一する」(企業結合会計基準 三 3.(3))とされている。会計処理方法の統一は、日本公認会計士協会 監査委員会報告第56号「親子会社間の会計処理の統一に関する当面の監査上の取扱い」に準じて行う。

なお、退職給付引当金に係る会計基準変更時差異の費用処理年数が吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社の間で異なっていても、当該差異は「同一の環境下で行われた同一の性質の取引等」には該当せず、会計処理方法の統一は求められないと解される。したがって、企業結合後においても各結合当事企業が採用していた費用処理年数をそのまま引継ぐものとする。

142. 会計処理方法の統一は、原則として、吸収合併存続会社等(結合後企業)が行い、会計処理方法の変更により生じた差額は企業結合年度の損益に計上するとされている(企業結合会計意見書 三 4.(6)A)。この場合、吸収合併存続会社等は、原則として、合併期日に会計処理方法を変更し、変更により生じた差額は特別損益に計上する(第412 項参照)。

会計処理方法の統一は、吸収合併存続会社又は吸収合併消滅会社、あるいは新設合併消滅会社が合併計画の中で合併期日前に行うことも正当な理由に基づく会計方針の変更として認められるが、この場合には、変更に伴う損益等の影響額を適切に開示するとされている(企業結合会計意見書 三 4.(6)A)。

複数の会計処理方法を統一する必要がある場合には、原則として、同一の事業年度に行うこととする。同一の事業年度に会計処理方法を統一できない場合には、その旨及び理由を開示する(第311項参照)。

みなし結合日から企業結合日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

143. 個別財務諸表上、みなし結合日から企業結合日の前日まで行われた吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社、又は新設合併消滅会社同士(結合当事企業間)の取引は、原則として、第三者間取引として扱う。ただし、それらの金額が重要な場合には、当該取引高を注記する(第312項(1)参照)。

したがって、企業結合年度の財務諸表の作成にあたり、吸収合併存続会社等(結合後企業)が企業結合日に引継ぐ結合当事企業の資産及び負債に、企業結合日の前日までに行われた結合当事企業間の取引から生じた損益が含まれていても、原則として、実現損益として取り扱い、消去しない。

144. ただし、企業結合の合意公表日後企業結合日の前日までに結合当事企業間で土地の売買など非経常的な取引が行われ、かつ、それが合理的な組織再編計画に基づくものとは認められない場合には、個別財務諸表上、内部取引とみなす。この場合、当該取引に係る損益の消去は、結合後企業の利益剰余金の期首残高の修正として会計処理する。

企業結合(合併)に要した支出額の会計処理

145. 合併が持分の結合と判定された場合には、合併に要した支出額は、「発生時の事業年度の費用として処理する」(企業結合会計基準 三 3.(5))とされている。合併に要した支出額には、株式交付費が含まれる(第415項参照)。

(3) 結合後企業の連結財務諸表上の会計処理

みなし結合日から企業結合日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

146. 吸収合併存続会社は、みなし結合日に合併が行われたものとみなして連結財務諸表を作成するとされている(企業結合会計基準 三 3.(2))(第128項参照)。また、「企業結合年度の連結財務諸表の作成にあたり、結合当事企業間の企業結合前の取引及びそれらから生じた損益は消去する」(企業結合会計基準 三 3.(4))とされている。したがって、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社、又は新設合併消滅会社同士(結合当事企業)の間で行われたみなし結合日から企業結合日の前日までの取引及びそれらから生じた損益は、連結財務諸表上、消去することになる。ただし、それらの金額に重要性が乏しい場合には、消去しないことができる。

みなし結合日前の結合当事企業間の取引の会計処理

147. 企業結合会計基準 三 3.(4)の定め(第146項参照)は、みなし結合日以後企業結合日の前日までの期間を前提としたものと考え、みなし結合日前における吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社、又は新設合併消滅会社同士(結合当事企業)の間の取引は、原則として、第三者間取引として取り扱う。

したがって、企業結合年度の連結財務諸表の作成にあたり、吸収合併存続会社等(結合後企業)がみなし結合日に引継ぐ結合当事企業の資産及び負債に、みなし結合日前までに行われた結合当事企業間の取引から生じた損益が含まれていても、原則として、実現損益として取り扱い、消去しない(第413項参照)。

148. ただし、企業結合の合意公表日後みなし結合日の前日までに結合当事企業間で土地の売買など非経常的な取引が行われ、かつ、それが合理的な組織再編計画に基づくものとは認められない場合には、連結財務諸表上、内部取引とみなす。この場合、当該取引に係る損益の消去は、みなし結合日における結合後企業の利益剰余金の修正として会計処理する(第414項参照)。

4.持分の結合と判定された会社分割(共同新設分割及び吸収分割)の会計処理

(1) 吸収分割会社等の個別財務諸表上の会計処理

分割期日の前日の適正な帳簿価額の算定

149. 分離元企業である吸収分割会社等は、分割期日の前日に決算又は仮決算を行い、移転する事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額を合理的に区分して算定する(事業分離等会計基準第10項及び同第77項)。

事業分離(会社分割)に要した支出額の会計処理

150. 吸収分割承継会社等(分離先企業)における企業結合が持分の結合と判定された場合には、会社分割に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する(事業分離等会計基準第11項及び同第79項)。

分割期日に取得する吸収分割承継会社等の株式の会計処理

151. 分離先企業である吸収分割承継会社等における企業結合が持分の結合と判定された場合、移転した事業の対価として分離先企業の株式を受け取った吸収分割会社等(分離元企業)は、次の処理を行う。

(1) 吸収分割会社等(分離元企業)が取得した株式が関連会社株式の場合

第100項から第102項に準じて会計処理する。

(2) 吸収分割会社等(分離元企業)が取得した株式がその他有価証券の場合

第103項に準じて会計処理する。

(2) 吸収分割会社等の連結財務諸表上の会計処理

152. 吸収分割会社等の連結財務諸表上、持分法適用において、吸収分割承継会社等(関連会社)に係る吸収分割会社等の持分の増加額と、移転した事業に係る吸収分割会社等の持分の減少額との間に生ずる差額は、次のように処理する(事業分離等会計基準第20項)(第100項参照)。

(1) 吸収分割承継会社等に対して投資したとみなされる額と、これに対応する吸収分割承継会社等の事業分離直前の資本(吸収分割承継会社等に係る吸収分割会社等の持分の増加であり、吸収分割承継会社等の事業分離直前の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)に、吸収分割等により増加する吸収分割承継会社等の持分比率を乗じた額)との間に生じる差額については、投資に含め、のれん(又は負ののれん)として処理する。

(2) 吸収分割会社等の事業が移転されたとみなされる額と、移転した事業に係る吸収分割会社等の持分の減少額との間に生ずる差額については、持分変動差額として取り扱う。

ただし、(1)と(2)のいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて処理することができる。

(3) 吸収分割承継会社等の個別財務諸表上の会計処理

資産及び負債の会計処理

153. 吸収分割承継会社等は、分割期日において、吸収分割会社等から移転される資産及び負債の適正な帳簿価額を引継ぐ(第407項参照)。

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

154. 吸収分割承継会社等は、移転された資産及び負債の差額は、以下のように会計処理する(第409項参照)。

(1) 移転事業に係る株主資本相当額の取扱い

移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)は払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

(2) 移転事業に係る評価・換算差額等の引継ぎ

移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)については、吸収分割会社等の移転直前の適正な帳簿価額をそのまま引継ぐ。

したがって、移転された事業にその他有価証券や土地再評価法に基づき再評価した土地が含まれ、吸収分割会社等が当該その他有価証券や土地を時価又は再評価額をもって分割期日の前日の貸借対照表価額としている場合には、吸収分割承継会社等は、分割期日の前日のその他有価証券及び土地の貸借対照表価額並びにその他有価証券評価差額金及び土地再評価差額金もそのまま引継ぐことになる。

(自己株式を処分した場合の会計処理)

155. 会社分割の対価として吸収分割承継会社が自己株式を処分した場合(新株の発行を併用した場合を含む。)には、第135項に準じて会計処理する。

(自己株式の取得の会計処理)

156. 会社分割により取得した自己株式(吸収分割会社から移転された吸収分割承継会社株式)は、吸収分割会社における適正な帳簿価額により吸収分割承継会社の株主資本から控除する。具体的な会計処理は第137項に準じる。

会計処理方法の統一

157. 吸収分割承継会社又は吸収分割会社から移転される事業(結合当事企業)の間で会計処理方法に違いがある場合には、「同一の環境下で行われた同一の性質の取引等については会計処理方法の変更に準じて、適切と考えられる方法に統一する」(企業結合会計基準 三3.(3))とされている。

会計処理方法の統一は、原則として、吸収分割承継会社等(結合後企業)が分割期日に行い、会計処理方法の変更により生じた差額は、企業結合年度の特別損益に計上する。具体的な会計処理方法の統一は第141項及び第142項に準じて行う。

分割期日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

158. 連結財務諸表及び個別財務諸表の作成にあたり、分割期日の前日までの吸収分割承継会社と吸収分割会社(結合当事企業)の間の取引は、原則として、第三者間取引として取り扱う。

具体的な会計処理は第147項及び第148項に準じて行う。

企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

159. 会社分割が持分の結合と判定された場合には、会社分割に要した支出額(株式交付費を含む。)は、発生時の事業年度の費用として会計処理する(第415項参照)。

5.持分の結合と判定された株式交換又は株式移転の会計処理

(1) 株式交換完全子会社等の個別財務諸表上の会計処理

みなし結合日の前日における決算又は仮決算の実施(適正な帳簿価額の算定)

160. 株式交換完全子会社等は、株式交換又は株式移転日にかかわらず、みなし結合日の前日に決算又は仮決算を行い、資産、負債及び資本(純資産)の適正な帳簿価額を算定しなければならない(第417項参照)。

連結決算日における決算又は仮決算の実施

161. 連結財務諸表の作成にあたり、各結合当事企業の決算日は統一する。したがって、株式交換完全親会社等の決算日(連結決算日)と株式交換完全子会社等の決算日が異なる場合には、株式交換完全子会社等は連結決算日に仮決算を行う必要がある(第418項参照)。

なお、株式交換完全子会社等の子会社の決算日の取扱いについては、連結原則注解(注解7)の定めに従い、連結決算日との差異が3か月を超えないときは、当該子会社の正規の決算を基礎として、連結財務諸表を作成できる。

株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

161-2.株式交換完全親会社等が株式交換完全子会社等の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合には、株式交換完全子会社等は、株式交換等の日の前日に付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

(2) 株式交換完全親会社等の個別財務諸表上の会計処理

子会社株式の取得原価の算定

162. 株式交換完全親会社等の個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、株式交換完全子会社等が企業結合日(株式交換又は株式移転日)に算定した適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定するとされている(企業結合会計基準 三 3.(6)@)。

株式交換完全親会社等が連結財務諸表を作成する場合には、株式交換完全子会社等は、みなし結合日の前日に決算又は仮決算を行うこととなるため(第160項参照)、当該企業結合日をみなし結合日と解釈し、子会社株式の取得原価は、株式交換完全子会社等のみなし結合日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額(株式交換以前に株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株式を保有している場合には、当該帳簿価額を控除した額とする。)により算定する(第419項参照)。

なお、株式交換完全子会社等の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合には、当該マイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等適切な科目をもって負債に計上する。

163. 株式交換完全親会社等が株式交換又は株式移転後も連結財務諸表を作成する必要のない場合には、子会社株式の取得原価は、株式交換又は株式移転日の前後いずれか近い株式交換完全子会社等の決算日の適正な帳簿価額による株主資本の額により算定できる(第419項ただし書き参照)。

株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

163-2. 株式交換完全親会社等が株式交換完全子会社等の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合には、株式交換完全親会社等は、株式交換完全子会社等の適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式交換完全子会社等で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して子会社株式の取得原価を算定する。また、株式交換完全親会社等は、株式交換等の日の前日に株式交換完全子会社等で付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を純資産の部又は負債の部に計上する(第404-2項参照)。

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

164. 株式交換又は株式移転により、株式交換完全親会社等が新株を発行した場合には、払込資本(資本金又は資本剰余金)を増加させる。増加する払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

株式交換完全親会社等が新株を発行した場合の増加資本の額は第162項(又は第163項)により算定された子会社株式の取得原価とする。

なお、株式交換完全子会社等の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、当該マイナスの金額をその他利益剰余金のマイナスとして処理する。

(自己株式を処分した場合の会計処理(株式交換の場合))

165. 株式交換の対価として、株式交換完全親会社が自己株式を処分した場合(新株の発行を併用した場合を含む。)には、第135項に準じて会計処理する。

(3) 株式交換完全親会社等の連結財務諸表上の会計処理

企業結合年度の連結財務諸表及び資産、負債及び純資産の会計処理

166. 株式交換完全親会社等は、株式交換又は株式移転日にかかわらず、みなし結合日(株式交換又は株式移転が行われた日の属する株式交換完全親会社等の事業年度の期首)に株式交換又は株式移転が行われたものとみなして連結財務諸表を作成するとされている(企業結合会計基準 三 3.(2))。したがって、株式交換完全親会社等は、みなし結合日において、株式交換完全子会社等(結合当事企業)の適正な帳簿価額による資産、負債及び資本(純資産)を引継がなければならない(企業結合会計基準 三 3.(1))。

株式交換完全子会社等(結合当事企業)が連結財務諸表を作成している場合には、上記の適正な帳簿価額は、当該連結財務諸表上の適正な帳簿価額とする。

167. 資本(純資産)の引継ぎについては、株式交換完全子会社等のみなし結合日における資本金、資本剰余金及び利益剰余金を、自己株式の処理等を除き、原則として、そのまま引継がなければならないとされている(企業結合会計意見書 三 4.(1))。

したがって、連結財務諸表上の資本(純資産)は、結合当事企業(株式交換完全親会社又は株式交換完全子会社等)の資本(純資産)をそのまま引継ぐ。ただし、連結財務諸表上の資本金は株式交換完全親会社等(結合後企業)の資本金とし、各結合当事企業の資本金の合計が株式交換完全親会社等(結合後企業)の資本金と異なる場合には、その差額を資本金又は資本剰余金に振り替える。[設例17]

なお、株式交換完全親会社等の増加資本金の決定にあたっては、連結財務諸表上、株式交換完全子会社等の株主資本の引継ぎが可能となるように配慮することが適当である。

また、株式交換完全親会社が株式交換以前に株式交換完全子会社の株式を保有していた場合には、連結財務諸表上、株式交換完全子会社の純資産の引継ぎにあたり、当該子会社株式の帳簿価額を株式交換完全子会社の株主資本項目から控除する。この場合、減額する株主資本項目(資本剰余金又は利益剰余金)については、株式交換完全親会社の意思決定機関等で定められた結果に従い、会計処理する。

自己株式の取得の会計処理(株式移転の場合)

168. 株式移転により株式移転完全子会社が取得した株式移転設立完全親会社株式(一方の株式移転完全子会社が保有していた他の株式移転完全子会社の株式)は、連結財務諸表上の自己株式として、当該株式移転完全子会社で付されていた適正な帳簿価額で株主資本から控除する。

会計処理方法の統一

169. 株式交換完全親会社と株式交換完全子会社又は株式移転完全子会社同士(結合当事企業)の間で会計処理方法に違いがある場合には、「同一の環境下で行われた同一の性質の取引等については会計処理方法の変更に準じて、適切と考えられる方法に統一する」(企業結合会計基準 三 3.(3))とされている。具体的な会計処理方法の統一は、第141項及び第142項に準じて行う。

170. 会計処理方法の統一は、原則として、個別財務諸表上の会計処理として、株式交換完全親会社等及び株式交換完全子会社等(結合当事企業)がみなし結合日に行い、会計処理方法の変更に伴う損益への影響額は企業結合年度の特別損益に計上する。

また、会計処理方法の統一は、株式交換完全親会社と株式交換完全子会社又は株式移転完全子会社(結合当事企業)が株式交換又は株式移転の計画の中でみなし結合日前において行うことも正当な理由に基づく会計方針の変更として認められるが、この場合には、変更に伴う損益等の影響額を適切に開示する(第412項参照)。

複数の会計処理方法を統一する必要がある場合には、原則として、同一の事業年度に行うこととする。同一の事業年度に会計処理方法を統一できない場合には、その旨及び理由を開示する(第311項参照)。

みなし結合日から企業結合日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

171. 「企業結合年度の連結財務諸表の作成にあたり、結合当事企業間の企業結合前の取引及びそれらから生じた損益は消去する」(企業結合会計基準 三 3.(4))とされている。したがって、企業結合年度の財務諸表の作成にあたり、結合当事企業(株式交換完全親会社と株式交換完全子会社又は株式移転完全子会社同士)の間で行われたみなし結合日から企業結合日の前日までの取引及びそれらから生じた損益は、消去することになる。ただし、それらの金額に重要性が乏しい場合には、消去しないことができる。

みなし結合日前の結合当事企業間の取引の会計処理

172. 企業結合会計基準 三 3.(4)(第171項参照)の定めは、みなし結合日以後企業結合日の前日までの期間を前提としたものと考え、みなし結合日前における株式交換完全親会社と株式交換完全子会社又は株式移転完全子会社同士(結合当事企業)の間の取引は、原則として、第三者間取引として取り扱う。

したがって、企業結合年度の連結財務諸表及び個別財務諸表の作成にあたり、株式交換完全親会社等(結合後企業)がみなし結合日に引継ぐ結合当事企業の資産及び負債に、みなし結合日前までに行われた結合当事企業間の取引から生じた損益が含まれていても、原則として、実現損益として取り扱い、消去しない(第413項参照)。

173. ただし、企業結合の合意公表日後みなし結合日の前日までに株式交換完全親会社と株式交換完全子会社又は株式移転完全子会社同士(結合当事企業)の間で土地の売買など非経常的な取引が行われ、かつ、それが合理的な再編計画に基づくものとは認められない場合には、内部取引とみなす。この場合、当該取引に係る損益の消去は、結合後企業の連結財務諸表上の利益剰余金の期首残高の修正として会計処理する(第414項参照)。

企業結合(株式交換又は株式移転)に要した支出額の会計処理

174. 株式交換又は株式移転が持分の結合と判定された場合には、株式交換又は株式移転に要した支出額は、「発生時の事業年度の費用として会計処理する」(企業結合会計基準 三3.(5))とされている。株式交換又は株式移転に要した支出額には、株式交付費が含まれる(第415項参照)。

Y.共同支配企業の形成の判定

1.共同支配企業の形成の判定規準

(1) 共同支配企業の形成の判定規準の概要

175. 共同支配企業の形成とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、共同で支配する企業を形成する企業結合をいう。

企業結合のうち、次の要件のすべてを満たすものは共同支配企業の形成と判定するとされている(企業結合会計基準 二 3.及び同 三 1.(2))。[付録:フローチャート2 参照]

(1) 共同支配投資企業となる投資企業は、複数の独立した企業から構成されていること(以下「独立企業要件」という。)(第177項参照)

(2) 共同支配投資企業となる投資企業が共同支配となる契約等を締結していること(以下「契約要件」という。)(第178項及び第179項参照)

(3) 企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であること(以下「対価要件」という。)(第180項参照)

(4) (1)から(3)以外に支配関係を示す一定の事実が存在しないこと(以下「その他の支配要件」という。)(第181項参照)

(3)の対価要件については、共同支配投資企業となる投資企業に支払われた対価を前提とした定めであり、一般の投資企業(第176項参照)に対するものは含まれない。

(2) 投資企業の中に一般の投資企業が含まれる場合における共同支配企業の形成の判定

176. ある企業結合において、共同支配投資企業となる投資企業の有する議決権の合計が、共同支配企業となる結合後企業の議決権の過半数を占めており、かつ、共同支配投資企業となる投資企業が第175項の要件のすべてを満たす場合には、投資企業の中に次のいずれかに該当する投資企業(以下「一般の投資企業」という。)が含まれていても、当該企業結合は共同支配企業の形成に該当するものとして取り扱う(第422項参照)。

(1) 共同支配となる契約等を締結していない投資企業

(2) 共同支配となる契約等を締結し、投資企業の役割が契約書に明示されていても、事実上、共同支配企業の重要な役割を担っていないと認められる投資企業(第178項(1)参照)

2.独立企業要件の取扱い

177. 共同支配企業の形成の判定にあたり、投資企業とその子会社、緊密な者及び同意している者は単一企業とみなす(緊密な者及び同意している者については、日本公認会計士協会監査委員会報告第60号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の取扱い」参照)(第423項参照)。

したがって、投資企業がこれらの者のみから構成されている場合には、共同支配企業の形成には該当しない。

3.契約要件の取扱い

(1) 共同支配となる契約等の要件

178. 共同支配企業の形成の判定にあたり、契約要件を満たすためには、契約等は文書化されており、次のすべてが規定されていなければならない(第424項及び第428項参照)。

(1) 共同支配企業の事業目的が記載され、当該事業遂行における各共同支配投資企業の重要な役割分担が取り決められていること(第425項参照)

なお、各共同支配投資企業の重要な役割分担が契約書に記載されていても、実態が伴っていない場合には本要件を満たしたことにはならない。

(2) 共同支配企業の経営方針及び財務に係る重要な経営事項の決定は、すべての共同支配投資企業の同意が必要とされていること(第426項参照)

重要な経営事項とは、一般に取締役会及び株主総会の決議事項とされるものをいい、例えば、予算及び事業計画、重要な人事、多額の出資、多額の資金調達・返済、第三者のための保証、株式の譲渡制限、取引上重要な契約、重要資産の取得・処分、事業の拡大又は撤退等があげられる。

なお、ある重要な経営事項の決議の際に賛成しなくとも積極的に反対しない限りは、その決議事項につき賛成したものとみなすこととしている場合には、原則として、「すべての共同支配投資企業の同意が必要とされていること」に該当せず、本要件を満たしたことにはならない。ただし、共同支配企業の経営への関与の仕方が他の共同支配投資企業となる会社と異ならないと認められるような場合(例えば、ある重要な経営事項の決議に係る上記の取扱いが当該共同支配投資企業の役割((1)参照)とは関連性の薄い経営事項に限定されている場合など)には、本要件を満たしたものとして取り扱う(第427項参照)。

(2) 株主間の事前承認規定

179. 重要な経営事項を共同支配企業の意思決定機関で決議する前に、すべての共同支配投資企業の事前承認が必要である旨、規定されている場合には、第178項(2)の要件を満たすものとして取り扱う。

4.対価要件の取扱い

180. 共同支配企業の形成の判定にあたり、「議決権のある株式」(企業結合会計基準 三 1.(1)@及び(2))(第175項(3)参照)とは、株主総会において、第178項(2)に規定されている重要な経営事項に関する議決権が制限されていない株式をいう。

したがって、一般に、共同支配企業となる結合後企業が、企業結合の対価として、共同支配投資企業となるすべての投資企業に対し、議決権に関して同一の権利内容を有する株式を交付していない場合には、共同支配企業の形成には該当しないことになる(第429項参照)。

5.その他の支配要件の取扱い

181. 共同支配企業の形成の判定にあたり、次のいずれにも該当しない場合には、その他の支配要件を満たしたものとされる(企業結合会計基準 注解(注4))(第430項参照)。

(1) いずれかの投資企業の役員若しくは従業員である者又はこれらであった者が、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)の構成員の過半数を占めていること(第24項参照)

(2) 重要な財務及び営業の方針決定を支配する契約等により、いずれかの投資企業が他の投資企業より有利な立場にあること(第25項参照)

(3) 企業結合日後2年以内にいずれかの投資企業の大部分の事業を処分する予定があること(第26項参照)

Z.共同支配企業の形成の会計処理

1.共同支配企業の形成の会計処理の概要

182. 企業結合が共同支配企業の形成と判定された場合には、「持分プーリング法に準じた処理方法を適用する」(企業結合会計基準 三 3.(7))とされている(第129項参照)。

2.本適用指針で取り扱う共同支配企業の形成と判定された組織再編の形式ごとの会計処理

183. 本適用指針では、代表的な組織再編の形式として次の2つを取り上げ、それぞれの会計処理を示している。

(1) 合併(吸収合併)(第184項から第191項参照)

(2) 会社分割(吸収分割又は共同新設分割)(第192項から第199項参照)

3.共同支配企業の形成と判定された合併(吸収合併)の会計処理

(1) 吸収合併存続会社(共同支配企業)の会計処理

資産及び負債の会計処理

184. 親会社を異にする子会社同士の吸収合併による共同支配企業の形成にあたり、吸収合併存続会社(共同支配企業)は、移転された資産及び負債を企業結合日の前日における吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額を引継ぐとされている(企業結合会計基準 三 3.(7)及び同注解(注15))。[設例18]

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

185. 吸収合併存続会社(共同支配企業)は、合併期日の前日における吸収合併消滅会社の純資産の部の各項目を以下のように処理する(第408項参照)。

(1) 株主資本項目の取扱い

@ 原則的な会計処理

吸収合併存続会社は吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

なお、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスの場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

A 認められる会計処理

合併が共同支配企業の形成と判定される場合には、合併の対価は原則として自社の株式のみであり、吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目(ただし、積立目的の趣旨は同じであるが、結合当事企業間でその名称が形式上異なる場合に行う積立金の名称変更を除く。)を、自己株式の処理等を除き、そのまま引継ぐことができる。

また、吸収合併の手続とともに、株主資本の計数の変動手続(会社法第447条から第452条)が行われ、その効力が合併期日に生じる場合には、合併期日において、会社の意思決定機関で定められた結果に従い、株主資本の計数を変動させることができる。なお、株主資本の計数の変動に際しては、資本剰余金と利益剰余金の混同とならないように留意する必要がある(自己株式等会計基準第19項)。

(2) 株主資本以外の項目の引継ぎ

吸収合併存続会社は吸収合併消滅会社の合併期日の前日の評価・換算差額等及び新株予約権の適正な帳簿価額を引継ぐ。したがって、例えば、吸収合併消滅会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額もそのまま引継ぐことになる。

(自己株式を処分した場合の会計処理)

186. 持分の結合と判定された場合の合併における自己株式の会計処理(第135項参照)に準じて処理する。

吸収合併存続会社(共同支配企業)のその他の会計処理

187. 吸収合併存続会社(共同支配企業)の個別財務諸表におけるその他の会計処理は、持分の結合と判定された合併の会計処理(第137項から第142項及び第145項参照)に準じて会計処理する。

結合当事企業の中に一般の投資企業が含まれている場合の取扱い

188. ある企業結合が共同支配企業の形成と判定された場合において、吸収合併消滅会社の株主の中に共同支配投資企業以外の投資企業(一般の投資企業)が含まれているときは、共同支配企業が一般の投資企業から取得した事業(資産及び負債)に対して、パーチェス法(第36項から第82項の会計処理)を適用する。

(2) 合併会社の株主(共同支配投資企業)の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

189. ある会社の子会社と他の企業との吸収合併が共同支配企業の形成と判定された場合の合併会社の株主(合併前の親会社)の個別財務諸表上の会計処理は、次のように行う。なお、いずれの場合も、結合後企業の株式(共同支配企業株式)の取得に直接要した支出額がある場合は、これを取得原価に加算する。

(1) 当該子会社が吸収合併存続会社(結合企業)の場合

当該子会社株式の適正な帳簿価額を、そのまま共同支配企業株式へ振替処理する。

(2) 当該子会社が吸収合併消滅会社(被結合企業)の場合

結合後企業の株式(共同支配企業株式)の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(子会社株式)に係る移転直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。したがって、合併会社の株主の個別財務諸表上、交換損益は認識されない。

連結財務諸表上の会計処理

190. 連結財務諸表上、これまで連結していた子会社については、共同支配企業の形成時点の持分法による投資評価額にて共同支配企業株式へ振替処理し、持分法に準じた処理方法を適用する。

持分法に準じた処理方法とは、共同支配企業の形成にあたり、共同支配企業に対する共同支配投資企業の持分の増加額と、移転した事業に係る共同支配投資企業の持分の減少額との間に生ずる差額を処理しないことを除き、持分法を適用する方法をいう(第431項から第433項参照)。したがって、結合当事企業に対する持分の減少額との間に生ずる差額は処理しないため、のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額は生じない。

なお、当該差額を構成するのれん(又は負ののれん)及び持分変動差額のいずれにも重要性が乏しいと認められる場合には、第152項と同様の会計処理を行うことができる。

(3) 合併会社の株主(一般の投資企業)の会計処理

191. 合併会社の株主のうち、共同支配投資企業以外の企業(一般の投資企業(第176項参照))の共同支配企業の形成時(企業結合時)の会計処理は、結合当事企業の株主の会計処理に従う。

4.共同支配企業の形成と判定された会社分割(吸収分割又は共同新設分割)の会計処理

(1) 吸収分割承継会社等(共同支配企業)の会計処理

資産及び負債の会計処理

192. 共同支配企業の形成にあたり、吸収分割承継会社等(共同支配企業)は、分割期日において、吸収分割会社等(共同支配投資企業)から移転される資産及び負債の適正な帳簿価額を引継ぐとされている(企業結合会計基準 三 3.(7)及び同 注解(注15))。[設例19]

増加資本の会計処理

193. 吸収分割承継会社等(共同支配企業)の増加資本の会計処理は、持分の結合と判定された会社分割の会計処理(第154項及び第155項参照)に準じて会計処理する(第409項参照)。

吸収分割承継会社等(共同支配企業)のその他の会計処理

194. 吸収分割承継会社等(共同支配企業)の個別財務諸表におけるその他の会計処理は、持分の結合と判定された会社分割の会計処理(第156項から第159項参照)に準じて会計処理する。

投資企業の中に一般の投資企業が含まれている場合の取扱い

195. ある企業結合が共同支配企業の形成と判定された場合において、吸収分割会社等の中に共同支配投資企業以外の投資企業(一般の投資企業(第176項参照))が含まれているときは、共同支配企業が一般の投資企業から取得した事業(資産及び負債)に対して、パーチェス法(第36項から第82項の会計処理)を適用する。

(2) 吸収分割会社等(共同支配投資企業)の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

196. 吸収分割会社等(共同支配投資企業)は、移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額に基づいて吸収分割承継会社等に対する投資(共同支配企業株式)の取得原価を算定することとされている(企業結合会計基準 三 3.(7)ただし書き)。

具体的には、吸収分割会社等が取得する共同支配企業株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(第108項(2)参照)とともに、対価性が認められる取得に直接要した支出額を加算する(第91項参照)ことに留意する必要がある。

なお、当該金額がマイナスとなる場合は、当該マイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目により負債に計上する。

連結財務諸表上の会計処理

197. 吸収分割会社等(共同支配投資企業)は、共同支配企業の形成にあたり事業を移転した場合には、共同支配企業に対する投資について持分法に準じた処理方法(第190項参照)を適用するとされている(企業結合会計基準 三 3.(7)ただし書き)(第431項から第433項参照)。

共同支配投資企業の子会社が共同支配企業に投資している場合の会計処理

198. ある吸収分割会社等(共同支配投資企業)の子会社が、同一の吸収分割承継会社等(共同支配企業)に投資している場合には、当該子会社も共同支配投資企業とみなし、第196項及び第197項に準じて会計処理する(第434項参照)。

(3) 吸収分割会社等(一般の投資企業)の会計処理

199. 吸収分割会社等のうち共同支配投資企業以外の企業(一般の投資企業(第176項参照))の共同支配企業の形成時(事業移転時)の会計処理は、分離先企業における企業結合が取得と判定されたときの分離元企業の会計処理に従う(第100項から第103項参照)。

[.共通支配下の取引等の会計処理

1.共通支配下の取引等の会計処理の概要

200. 企業集団内における組織再編の会計処理には、共通支配下の取引と少数株主との取引(以下、あわせて「共通支配下の取引等」という。)がある。

共通支配下の取引は、親会社の立場からは内部取引と考えられるため、個別財務諸表上、事業の移転元の適正な帳簿価額を基礎として会計処理され、連結財務諸表上はすべて消去されることになる。

一方、少数株主との取引は、親会社が子会社を株式交換により完全子会社とする場合など、親会社が少数株主から子会社株式を追加取得する取引等に適用される。当該取引は、親会社の立場からは外部取引と考えられるため、個別財務諸表上及び連結財務諸表上も時価を基礎として会計処理され、連結財務諸表上は、のれん(又は負ののれん)が計上されることとなる。

なお、少数株主との取引は、企業集団の最上位に位置する会社(以下「最上位の親会社」という。)が少数株主から子会社株式を追加取得する取引等に適用され、企業集団の最上位の親会社以外の親会社が少数株主から子会社株式を追加取得する取引等には適用されない。

本適用指針では、組織再編の形式が異なっていても、組織再編後の経済的実態が同じであれば、連結財務諸表上(合併の場合には個別財務諸表上)も同じ結果が得られるように会計処理を定めている(第437項参照)。

2.共通支配下の取引の範囲

201. 共通支配下の取引とは、親会社と子会社との合併や親会社の支配下にある子会社同士の合併など、「結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の企業により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいう」(企業結合会計基準 二 10.)とされている。本適用指針では、支配の主体である「同一の企業」には個人も含むものと解し「同一の株主」として取り扱う。[設例23]

なお、投資会社とその関連会社との企業結合は、共通支配下の取引には該当しない(第435項参照)。

202. 「同一の株主」により支配されている会社の判定にあたっては、ある株主と緊密な者(自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者をいう。)及び同意している者(自己の意思と同一の議決権を行使することに同意している者をいう。)が保有する議決権を合わせて、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配されているかを実質的に判定する。この支配の判定は、日本公認会計士協会 監査委員会報告第60号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の取扱い」に準じて行う(第436項参照)。

3.共通支配下の取引等に係る対価

(1) 本適用指針における共通支配下の取引等に係る対価の前提

203. 本適用指針では、共通支配下の取引等に係る会計処理の定めの記載の簡略化のため、組織再編の対価について、特に断りのない限り、以下の前提をおくこととする。

(1) 組織再編の形式が合併、会社分割(分割型の会社分割を含む。)、株式交換及び株式移転の場合の対価は、特に断りのない限り、結合企業の時価のある株式(新株の発行)のみとする。

なお、自己株式を処分した場合で、自己株式の処分の対価を、時価を基礎として会計処理するとき(自己株式を少数株主に交付するとき)は、取得の会計処理における該当する組織再編の形式に係る会計処理(例えば、第80項参照)に準じて処理する。また、適正な帳簿価額を基礎として会計処理する場合において、払込資本とする処理を適用するときは、自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本として処理し、吸収合併消滅会社の株主資本をそのまま引継ぐ処理又は分割型の会社分割において株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上する処理を適用するときは、持分の結合における該当する組織再編の形式に係る会計処理(例えば、第135項参照)に準じて自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除して会計処理する。

このほか、結合企業の時価のある株式以外の財を交付した場合であって、それを少数株主に交付したことにより、時価を算定する必要がある場合には、企業結合会計基準 三4.(2)@により、追加取得する子会社株式又は事業の取得原価は、当該株式又は事業の時価と、その取得の対価となる財の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定することとなる。また、いずれの時価の算定も困難な場合には第229項(2)に従うこととなる。

(2) 組織再編の形式が事業譲渡の場合の対価は、現金等の財産(第95項参照)とする。

(2) 完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

203-2.組織再編の対価が支払われない場合であっても、以下の組織再編の形式であって、結合当事企業のすべてが同一の株主に株式のすべてを直接又は間接保有されているとき(完全親子会社関係にあるとき)は、結合当事企業は、次のように処理する(第437-2項参照)。

(1) 合併の場合(子会社と他の子会社との合併の場合)

吸収合併存続会社の株主資本項目については、合併が共同支配企業の形成と判定された場合における「認められる会計処理」(第185項(1)A参照)に準じて処理する。増加すべき株主資本の内訳項目は、会社法の規定に基づき決定する。

なお、結合当事企業の株主(親会社)は、吸収合併消滅会社の株式の帳簿価額を吸収合併存続会社の株式の帳簿価額に加算する。

(2) 会社分割の場合

@ 親会社の事業を子会社に移転する場合

吸収分割会社である親会社は、第233項に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させる。なお、変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額(株主資本の内訳の配分については第446項参照)とする。

吸収分割承継会社である子会社は、親会社で変動させた株主資本の額を、会社法の規定に基づき計上する(第234項参照)。

なお、親会社の株主は会計処理を要しない。

A 子会社の事業を他の子会社に移転する場合

吸収分割会社である子会社は、第255項に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させる。なお、変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額(株主資本の内訳の配分については第446項参照)とする。

吸収分割承継会社である他の子会社は、吸収分割会社である子会社で変動させた株主資本の額を、会社法の規定に基づき計上する(第256項参照)。

なお、吸収分割承継会社である他の子会社が分割期日に吸収分割会社である子会社の株式を保有している場合には、当該吸収分割後の吸収分割会社の財務内容等を勘案して、期末において、当該吸収分割会社の株式の帳簿価額について、相当の減額の要否を検討することとなる。

また、吸収分割会社の株主(親会社)は、受け取る吸収分割承継会社の株式とこれまで保有していた吸収分割会社の株式が実質的に引き換えられたものとみなし(第295項参照)、分割型の会社分割における吸収分割会社等の株主に係る会計処理(第294項参照)に準じて処理する。

B 子会社の事業を親会社に移転する場合

吸収分割承継会社である親会社は、子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の親会社の会計処理(第218項から第220項参照)に準じて処理する。

吸収分割会社である子会社は、子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の子会社の会計処理(第221項参照)に準じて処理する。

4.本適用指針で取り扱う共通支配下の取引等の組織再編の形式ごとの会計処理

204. 本適用指針では、共通支配下の取引等として、次の組織再編を取り上げ、それぞれの会計処理を定める。

(1) 親会社と子会社との組織再編

@ 吸収合併(親会社(存続会社)、子会社(消滅会社))(第205項から第208項参照)

A 吸収合併(親会社(消滅会社)、子会社(存続会社))(第209項から第213項参照)

B 会社分割(子会社の事業を親会社に移転する場合)(第214項から第217項参照)

C 分割型の会社分割(子会社の事業を親会社に移転する場合)(第218項から第222項参照)

D 事業譲渡(親会社の事業を子会社に移転する場合)(第223項から第225項参照)

E 会社分割(親会社の事業を子会社に移転する場合)

(対価:吸収分割承継会社の株式のみの場合)(第226項から第229項参照)

F 会社分割(親会社の事業を子会社に移転する場合)

(対価:吸収分割承継会社の株式と現金等の財産からなる場合)(第230項から第232項参照)

G 分割型の会社分割(親会社の事業を子会社に移転する場合)(第233項から第235項参照)

H 株式交換(親会社(完全親会社)、子会社(完全子会社))(第236項から第238項参照)

I 株式移転(親会社と子会社が共同で完全親会社を設立する場合)(第239項から第241項参照)

(2) 子会社間の組織再編

@ 吸収合併(同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併)

(対価:現金等の財産のみである場合)(第242項から第245項参照)

A 吸収合併(同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併)

(対価:吸収合併存続会社の株式のみである場合)(第246項から第249項参照)

B 吸収合併(同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併)

(対価:吸収合併存続会社の株式と現金等の財産からなる場合)(第250項から第253項参照)

C 吸収合併(同一の株主(個人)により支配されている会社同士の合併)(第254項参照)

D 会社分割(ある子会社から他の子会社に事業を移転する場合)(第254-2項から第254-4項参照)

E 分割型の会社分割(ある子会社から他の子会社に事業を移転する場合)(第255項から第257項参照)

(3) 企業集団内における組織再編のうち、企業結合に該当しない取引

@ 単独株式移転による完全親会社の設立(第258項及び第259項参照)

A 単独新設分割による子会社の設立(第260項から第262項参照)

なお、本適用指針では、共通支配下の取引等ではないが、単独で行われる分割型の会社分割における新設分割会社の会計処理(第263項参照)及び新設分割設立会社の会計処理(第264項参照)についても定めている。

5.親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

子会社(吸収合併消滅会社)の会計処理

205. 子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び資本(純資産)の適正な帳簿価額を算定する。

親会社(吸収合併存続会社)の会計処理

206. 親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う(第438項参照)。[設例20]

(1) 資産及び負債の会計処理

親会社が子会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上するとされている。 [設例35]

(2) 増加資本及びのれんの会計処理

@ 株主資本の取扱い

親会社は、子会社から受入れた資産と負債との差額のうち株主資本の額を合併期日直前の持分比率に基づき、親会社持分相当額と少数株主持分相当額に按分し、それぞれ次のように処理する。

ア 親会社持分相当額の会計処理

親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、特別損益に計上する。

イ 少数株主持分相当額の会計処理

少数株主持分相当額と、取得の対価(少数株主に交付した親会社株式の時価)(第37項から第47項参照)に取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)(第48項及び第49項参照)を加算した額との差額をのれん(又は負ののれん)とする。のれん(又は負ののれん)は、第72項、第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。合併により増加する親会社の株主資本の額は、払込資本とし、第79項から第82項に準じて会計処理する。

A 株主資本以外の項目の取扱い

親会社は子会社の合併期日の前日の評価・換算差額等(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く。)及び新株予約権の適正な帳簿価額を引継ぐ。したがって、例えば、子会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額のうち、株式取得後(部分時価評価法)又は支配獲得後(全面時価評価法)に当該子会社が計上したものをそのまま引継ぐことになる。

(3) 中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱い

(2)において、子会社(吸収合併消滅会社)の株式を保有する、親会社(吸収合併存続会社)の他の子会社(中間子会社)に合併の対価を交付する場合には、子会社から受入れた資産と負債の差額のうち株主資本の額に合併期日の前日の持分比率を乗じて中間子会社持分相当額を算定し、その額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(第408項参照)。

なお、この場合、中間子会社が、子会社(吸収合併消滅会社)の株式と引き換えに取得した親会社株式の取得原価は、当該子会社株式の適正な帳簿価額により算定する。

(4) 子会社と孫会社との合併の場合(子会社が吸収合併存続会社となる場合)

(1)から(3)(ただし、(2)@イ(少数株主持分相当額の会計処理)を除く。)は、子会社を吸収合併存続会社としたその子会社(以下「孫会社」という。)との合併(子会社と孫会社との合併)についても、同様に適用する(第438-2項参照)。

この場合、子会社が孫会社株式を少数株主から追加取得する取引は、最上位の親会社と子会社の株主との取引ではないため、第200項なお書きによる少数株主との取引を適用せず、(2)@イの少数株主持分相当額は、(3)の中間子会社持分相当額に準じて処理する。[設例29-5]

(親会社が子会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

207. 親会社と子会社が合併する場合には、親会社の個別財務諸表では、原則として、適正な帳簿価額により資産及び負債を受入れるが(第206項(1)参照)、親会社が作成する連結財務諸表において、当該子会社の純資産等の帳簿価額を修正しているときは、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(連結調整勘定を含む。)により資産及び負債を受入れることとされている(企業結合会計基準 注解(注16))。

当該取扱いは、子会社とその子会社との合併(例えば、子会社と孫会社との合併)についても適用し、この場合の連結財務諸表上の帳簿価額とは、子会社にとっての連結財務諸表上の帳簿価額をいう。

「子会社の純資産等の帳簿価額を修正しているとき」の具体例及びその会計処理は、次のとおりである(第439項参照)。

(1) 連結精算表上のみの修正事項[設例20]

資本連結にあたり子会社の資産及び負債を時価評価している場合には、親会社の個別財務諸表上、時価評価後の金額により受入れる。また、連結財務諸表上、子会社株式の取得に係るのれんの未償却残高が計上されている場合には、親会社の個別財務諸表上も当該金額をのれんとして引継ぐ。

なお、親会社が株式の取得により、ある会社を子会社化し、当該子会社をその直後に合併した場合には、親会社は、当該子会社を連結子会社とした連結財務諸表を作成していないことが考えられる。このような親会社と子会社の合併は、株式の取得と合併が一体の取引と考えられるので(第8項参照)、親会社の個別財務諸表上は、合併期日において当該子会社を連結子会社とした場合の連結財務諸表上の帳簿価額(支配獲得時点における時価評価替後の帳簿価額をいい、当該子会社に対するのれん(又は負ののれん)の額を含む。)により資産及び負債を引継ぐことになる。なお、子会社が他の会社の株式を取得して子会社(親会社からみて孫会社)とし、その直後に子会社が孫会社を吸収合併した場合も同様に処理する。

(2) 未実現損益に関する修正事項[設例21]

連結財務諸表の作成にあたり、子会社の資産又は負債に含まれる未実現損益(親会社の個別財務諸表上、損益に計上された額に限る。)を消去している場合には、親会社の個別財務諸表上も、未実現損益消去後の金額で当該資産又は負債を受入れる。親会社の個別財務諸表上、当該修正に伴う差額は、特別損益に計上する。

ただし、実務上の観点から、企業結合後、短期間に第三者に処分される見込みの棚卸資産に係る未実現損益や金額的重要性が低いものについては、未実現損益の消去をせず、子会社の適正な帳簿価額をそのまま受入れることができる。

(連結財務諸表上の帳簿価額が算定されていない場合の取扱い)

207-2.親会社(子会社とその子会社との合併の場合における子会社を含む。)が、連結財務諸表を作成していないことにより、「連結財務諸表上の帳簿価額」が算定されていない場合であっても、「連結財務諸表上の帳簿価額」を合理的に算定できるときには当該帳簿価額を用いることとし、「連結財務諸表上の帳簿価額」を合理的に算定することが困難と認められるときは、子会社の適正な帳簿価額を用いることとする。

なお、親会社が他の会社の株式を取得して子会社化した直後に合併した場合(子会社が他の会社の株式を取得して子会社(親会社からみて孫会社)とし、その直後に子会社が孫会社を吸収合併した場合も含む。)は、通常、連結財務諸表上の帳簿価額を合理的に算定できる場合に該当するものと考えられる。

(2)連結財務諸表上の会計処理

208. 吸収合併が行われた後も親会社が連結財務諸表を作成する場合には、第206項(2)@アの損益は連結財務諸表上、過年度に認識済みの損益となるため、相殺消去する。子会社とその子会社との合併(例えば、子会社と孫会社の合併)においても、当該取扱いに準じて処理する。

6.子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収合併消滅会社)の会計処理

209. 親会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び資本(純資産)の適正な帳簿価額を算定する。

子会社(吸収合併存続会社)の会計処理

210. 子会社が吸収合併存続会社となり、親会社が吸収合併消滅会社となる合併は、共通支配下の取引に該当するため、子会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う(第440項参照)。[設例22]

(1) 資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上するとされている。子会社は、親会社が所有していた子会社株式を自己株式として株主資本から控除する。

(2) 増加資本の会計処理

移転された資産及び負債の差額は、資本(純資産)として処理する(企業結合会計基準 三 4.(1)@ロ)。具体的には、第84項(逆取得となる吸収合併の会計処理)に準じて会計処理する(第408項参照)。

(子会社が親会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

211. 子会社(吸収合併存続会社)が親会社(吸収合併消滅会社)と合併する場合には、子会社の個別財務諸表上、原則として、親会社の適正な帳簿価額により資産及び負債を受入れる(第206項(1)参照)が、当該合併前に子会社が親会社に資産等を売却しており、当該取引から生じた未実現損益を連結財務諸表上、消去しているときは、子会社の個別財務諸表上、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額により親会社の資産及び負債を受入れる(第439項参照)。

ただし、実務上の観点から、企業結合後、短期間に第三者に処分される見込みの棚卸資産に係る未実現損益や金額的重要性が低いものについては、未実現損益を消去せず、親会社の適正な帳簿価額をそのまま受入れることができる。

なお、合併前に親会社が連結財務諸表を作成していない場合には、「連結財務諸表上の帳簿価額」に代えて、親会社の適正な帳簿価額を用いることができる。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

212. 吸収合併が行われた後に子会社が連結財務諸表を作成する場合には、子会社の個別財務諸表における処理を振り戻し、親会社が子会社の少数株主から株式を取得したものとした会計処理を行う。

具体的には、連結会計方針として採用する子会社の資産及び負債の評価方法(部分時価評価法又は全面時価評価法)に従って計上された時価評価替後の資産及び負債を連結財務諸表上の帳簿価額として受入れ、また、合併に際し子会社が受入れた自己株式とそれに対する増加資本は内部取引として消去する。子会社の少数株主が保有していた子会社株式は、当該合併に際して、親会社株式との交換はないものの、連結財務諸表上、親会社株式との交換があったものとみなして、時価を基礎として取得原価を算定する(第441項参照)。

なお、連結財務諸表上の資本金は吸収合併存続会社(子会社)の資本金とし、これと合併直前の連結財務諸表上の資本金(親会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本金又は資本剰余金に振り替える。

子会社が連結財務諸表を作成しない場合の注記事項の算定基礎

213. 吸収合併が行われた後に、子会社が連結財務諸表を作成しない場合は、第212項に準じて算定された額を基礎として、親会社が吸収合併存続会社であるとみなした場合の個別貸借対照表及び個別損益計算書に及ぼす影響の概算額を注記する(第315項及び第441項参照)。

7.子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が親会社株式のみの場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割承継会社)の会計処理

214. 親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う(第442項参照)。[設例24]

(1) 資産及び負債の会計処理

親会社が子会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加資本の会計処理

移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く。)を引継ぐとともに、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)は払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(第409項参照)。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する(第445項参照)。

(3) 企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(親会社が子会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

215. 親会社が子会社(吸収分割会社)から受入れる資産及び負債は、原則として適正な帳簿価額により計上することになるが(第214項(1)参照)、親会社が作成する連結財務諸表において、当該移転事業に係る資産及び負債の帳簿価額を修正しているときは、企業結合会計基準 注解(注16)により、第207項に準じて、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(連結調整勘定を含む。)により資産及び負債を受入れる。

子会社(吸収分割会社)の会計処理

216. 子会社が取得する親会社株式の取得原価は、企業結合会計基準 三 4.(1)@ハにより、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定する。

具体的には、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)の親会社の会計処理(第226項参照)に準じて処理する。

また、事業分離(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

217. 連結財務諸表上の会計処理は次のように行う(第442項参照)。[設例24]

(1) 内部取引の消去

子会社が会社分割の対価として取得した親会社株式のうち分割期日の前日における親会社持分相当額とこれに対応する親会社の払込資本の増加額は、企業結合会計基準三 4.(1)Aにより、内部取引として消去する。

(2) 親会社株式のうち少数株主持分相当額の振替処理

子会社が取得した親会社株式のうち分割期日の前日における少数株主持分相当額は、自己株式等会計基準第15項に従い少数株主持分から控除する。

(3) のれん(又は負ののれん)の追加計上及び資本剰余金の加減

連結財務諸表上、次の@とAの差額をのれん(又は負ののれん)に計上するとともに、資本剰余金を同額加減する(第448項参照)。

@ 子会社に対して追加投資したとみなされる額(交付した親会社株式の時価に少数株主持分割合を乗じた金額と当該企業結合(会社分割)に直接要した支出額(取得の対価性のあるものに限る。)(第48項及び第50項参照)を加算した額)

A これに対応する子会社の事業分離直前の資本(追加取得持分)(親会社に移転された適正な帳簿価額による資産及び負債の差額のうち分割期日の前日における少数株主持分相当額)

ただし、当該企業結合(会社分割)に直接要した支出額(取得の対価性のあるものに限る。)に重要性が乏しい場合には、個別財務諸表上の会計処理と同様、発生した事業年度の費用に計上することができる。

8.子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割承継会社)の会計処理

218. 親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う(第443項参照)。[設例25]

(1) 資産及び負債の会計処理

親会社が子会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加資本及びのれんの会計処理

親会社は、子会社から受入れた資産と負債との差額を第206項に準じて会計処理する(第448項参照)。この場合、同項(2)@アの「子会社株式の適正な帳簿価額」は親会社が会社分割直前に保有していた子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額のうち、受入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額(第219項参照)と読み替える。

なお、当該組織再編において、親会社は子会社に対して新株を発行(又は自己株式を処分)すると同時に、子会社から当該株式を配当として受け取ることとなるため、親会社は発行した新株(又は処分した自己株式)を自己株式として保有することになる。会計上、親会社による新株の発行(又は自己株式の処分)と当該自己株式の取得は一体の取引とみて、親会社が取得した自己株式の帳簿価額はゼロとする(自己株式を処分した場合には、当該自己株式に対応する適正な帳簿価額を付す。)。

(3) 中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱い

(2)において、対価を中間子会社に交付する場合には、第206項(3)に準じて処理する。

(4) 孫会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合(子会社が吸収分割承継会社となる場合)

(1)から(3)(ただし、第206項(2)@イ(少数株主持分相当額の会計処理)を除く。)は、子会社を吸収分割承継会社としたその子会社(孫会社)からの分割型の会社分割についても、同様に適用する。

この場合、子会社が、孫会社株式を少数株主から追加取得する取引等は、第200項なお書きの少数株主との取引を適用せず、第206項(2)@イの少数株主持分相当額は(3)の中間子会社持分相当額に準じて処理する。

(分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額の算定)

219. 分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額は、次のいずれかの方法のうち合理的と認められる方法により算定する(第443項参照)。

(1) 関連する時価の比率で按分する方法

分割された移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)の時価と会社分割直前の子会社の株主資本の時価との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(2) 時価総額の比率で按分する方法

会社分割直前直後の子会社の時価総額の差額を分割された事業の時価とみなし、会社分割直前の子会社の時価総額との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(3) 関連する帳簿価額の比率で按分する方法

分割された移転事業に係る株主資本相当額の適正な帳簿価額と会社分割直前の子会社の株主資本の適正な帳簿価額との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(親会社が子会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

220. 親会社が子会社から会社分割により受入れる資産及び負債は、原則として適正な帳簿価額により計上することになるが(第218項参照)、企業結合会計基準 注解(注16)により、親会社が作成する連結財務諸表において、当該子会社の純資産等の帳簿価額を修正しているときは、第207項に準じて、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(連結調整勘定を含む。)により資産及び負債を受入れる。

子会社(吸収分割会社)の会計処理

221. 事業分離等会計基準第63項により、分割型の会社分割は、会社分割(従来は物的分割ともいわれた分社型の会社分割をいう。)と、これにより受け取った吸収分割承継会社の株式の分配という 2つの取引と考えられている。このため、次のように会計処理する。

(1) 会社分割の会計処理

吸収分割会社である子会社は、最初に第226項に準じた会計処理を行う。

(2) 現物配当の会計処理(株主に比例的に割当を行う場合)

次に子会社は、受け取った親会社株式(吸収分割承継会社の株式)の取得原価により株主資本を減少させる。減少させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた結果に従う(企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)第10項)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

222. 親会社が減少させた子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額及び発生した抱合せ株式消滅差額(第218項(2)参照)は、企業結合会計基準 三 4.(1)Aにより、内部取引として消去する。

9.親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理

(事業譲渡の対価が現金等の財産のみの場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(事業譲渡会社)の会計処理

223. 事業譲渡会社である親会社は、事業分離等会計基準第14項により、子会社から受け取った現金等の財産(第95項参照)を移転前に付された適正な帳簿価額により計上し、当該価額と移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)との差額は、原則として、移転損益として認識する。[設例26-1]

当該取扱いは、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合も同様である。

また、当該企業結合(事業分離)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

子会社(事業譲受会社)の会計処理

224. 事業譲受会社である子会社の個別財務諸表上の会計処理は、次のように行う。

(1) 受入れた資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、親会社における移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額により計上する。

また移転事業に係る株主資本相当額と交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額はのれん(又は負ののれん)として処理する。のれん(又は負ののれん)は、第72項、第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。[設例26-1]

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合にも同様に処理する。

(2) 増加資本の会計処理

株式を交付していないため、株主資本の額は増加しない。

なお、移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)は、対価が現金等の財産のみの場合においても、引継ぐことになる。

(3) 企業結合(事業譲受)に要した支出額の会計処理

企業結合(事業譲受)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

225. 親会社の個別財務諸表上認識された移転損益は、親会社の連結財務諸表上、連結原則における未実現損益の消去に準じて処理する。[設例26-1]

10.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

226. 親会社が会社分割により追加取得する子会社株式の取得原価は、企業結合会計基準 三4.(1)@ハ及び事業分離等会計基準第19項(1)により、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する。したがって、当該会社分割により移転損益は生じない(第444項参照)。[設例26-2] 子会社株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(第108項(2)参照)ことに留意する必要がある。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、まず、事業分離前から保有している子会社株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する。

また、当該企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

227. 子会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例26-2]

(1) 受入れた資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加資本の会計処理

移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)を引継ぐとともに、移転事業に係る株主資本相当額は払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(第409項参照)。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する(第445 項参照)。

(3) 企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(子会社が親会社から受入れる資産及び負債の修正処理)

228. 子会社(吸収分割承継会社)が親会社(吸収分割会社)から会社分割により事業を受入れる場合には、子会社が親会社を吸収合併する場合の子会社が親会社から受入れる資産及び負債の修正処理(第211項参照)に準じて処理する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

229. 親会社の連結財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例26-2]

(1) 内部取引の消去

事業の移転取引及び子会社の増資に関する取引は、企業結合会計基準 三 4.(1)Aにより、内部取引として消去する。

(2) のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額の会計処理

親会社は、事業分離等会計基準第19項(2)により、会社分割により追加取得した子会社に係る親会社の持分の増加額(追加取得持分)と、移転した事業に係る親会社の持分の減少額との差額を、のれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分し、それぞれ次のように処理する。

ただし、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)のいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて処理することができる。

また、親会社が移転した事業の時価又は子会社株式の時価の算定がいずれも困難な場合には、両者をまとめて、持分変動差額とすることができる。

@ 持分変動差額の計上

次の差額を持分変動差額とし、原則として分割期日の属する事業年度の特別損益に計上する(連結原則 第四 五 3 及び同注解(注解13))。

ア 移転した事業に係る親会社の持分の減少額(移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に、移転した事業に係る減少した親会社の持分比率を乗じた額)

イ 分離元企業(親会社)の事業が移転されたとみなされる額(移転した事業の時価に、移転した事業に係る減少した親会社の持分比率を乗じた額)

A のれん(又は負ののれん)の計上

次の差額をのれん(又は負ののれん)とし、第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。

ア 分離先企業に対して追加投資したとみなされる額(分離先企業(子会社)の時価に会社分割により増加する親会社の持分比率を乗じた額で、@イの金額と同額となる。)

イ これに対応する分離先企業の会社分割直前の資本(追加取得持分)

なお、追加取得持分は、企業結合会計基準 三 4.(2)A、連結原則 第四 五 1 及び同注解(注解12)により、連結会計方針として採用する子会社の資産及び負債の評価方法(部分時価評価法又は全面時価評価法)に従って算定する。

(3) 会社分割に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)の会計処理

当該会社分割に直接要した支出額(第91項参照)は、次のように会計処理する。

@ 親会社にとって子会社株式の取得としての性格が強いと認められる場合

個別財務諸表上、費用処理されている支出額をのれんに計上する。ただし、その支出額に重要性が乏しいと認められるときは、発生時の費用として会計処理することができる。

A 親会社にとって事業分離としての性格が強いと認められる場合

個別財務諸表上の会計処理と同様、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

11.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(会社分割の対価が子会社株式と現金等の財産の場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

230. 親会社が子会社に事業を移転し、受取対価に子会社株式のほか、現金等の財産(第95項参照)が含まれている場合には、以下のように処理する(事業分離等会計基準第24項)。[設例26-3] [設例26-4]

(1) 移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)がプラスの場合

@ 受け取った現金等の財産の適正な帳簿価額が移転事業に係る株主資本相当額より小さい場合

当該差額を子会社株式の取得原価とする。

A 受け取った現金等の財産の適正な帳簿価額が移転事業に係る株主資本相当額より大きい場合

当該差額を移転利益に計上する。

(2) 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合

現金等の財産の適正な帳簿価額と等しい金額については移転利益に計上し、マイナスとなる移転事業に係る株主資本相当額については、まず、事業分離前から保有している子会社株式の適正な帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する。

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

231. 親会社が子会社に事業を移転し、子会社が、支払対価として、自社の株式のほかに現金等の財産を交付した場合、当該子会社の個別財務諸表上の会計処理は、次のように行う。

(1) 受入れた資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加資本の会計処理

企業結合会計基準 三 4.(1)@ロにより、移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)については、親会社の移転直前の適正な帳簿価額を引継いだうえで、以下のように会計処理する。

@ 移転事業に係る株主資本相当額が交付した現金等の財産の適正な帳簿価額より大きい場合

当該差額を払込資本の増加として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

A 移転事業に係る株主資本相当額が交付した現金等の財産の適正な帳簿価額より小さい場合

払込資本をゼロとし、当該差額をのれんに計上する。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、当該マイナス金額をその他利益剰余金のマイナスとして処理する。また、交付した現金等の財産の適正な帳簿価額と等しい金額をのれんに計上する。

のれんは、第72項、第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。

(3) 企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

232. 個別財務諸表上認識された移転利益は、連結原則における未実現損益の消去に準じて処理する。また、子会社に係る分離元企業の持分の増加額と、移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額との間に生ずる差額は、第229項に準じ、原則としてのれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分して処理する。[設例26-3][設例26-4]

12.親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

233. 事業分離等会計基準第63項により、分割型の会社分割は、会社分割(従来は物的分割ともいわれた分社型の会社分割をいう。)と、これにより受け取った吸収分割承継会社の株式の分配という2つの取引と考えられている。このため、次のように会計処理する。

(1) 会社分割の会計処理

吸収分割会社である親会社は、最初に第226項の会計処理を行う。

(2) 現物配当の会計処理(株主に比例的に割当を行う場合)

親会社は、受け取った子会社株式(吸収分割承継会社の株式)の取得原価により株主資本を変動させる。変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額(自己株式等会計適用指針第10項、株主資本の内訳の配分については第446項参照)とする。

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

234. 吸収分割承継会社である子会社は、個別財務諸表上、次の処理を行う。

(1) 資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加資本の会計処理

子会社における増加資本は、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)の子会社の会計処理(第227項及び第228項参照)に準じて会計処理する(第445項参照)。

ただし、受入れた資産及び負債の対価として子会社の株式のみを交付している場合には、親会社で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができる(第446項参照)。この場合、株主資本の内訳の配分額は、親会社が減少させた株主資本の内訳の額と一致させる(第409項参照)。

(3) 企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として処理する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

235. 子会社が親会社から受入れた事業の対価として親会社の株主に子会社株式を交付したことにより減少する親会社持分の金額は、連結財務諸表上の帳簿価額により少数株主持分に振り替えることとする(第447項参照)。

13.親会社が子会社を株式交換完全子会社とする場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(株式交換完全親会社)の会計処理

236. 親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例27]

(1) 株式交換完全子会社株式の取得原価の算定

親会社が追加取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、企業結合会計基準 注解(注18)により、取得の対価(少数株主に交付した株式交換完全親会社株式の時価)に取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定することとされている(第110項参照)。

(2) 株式交換完全親会社の増加資本の会計処理

株式交換により増加する株式交換完全親会社の資本は、払込資本とし、第111項から第114項に準じて会計処理する。

親会社(株式交換完全親会社)が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

(親会社(株式交換完全親会社)の会計処理)

236-2.株式交換に際して、親会社が子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、親会社は、株式交換日の前日に子会社が付していた適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式交換完全子会社等で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して子会社株式の取得原価を算定する。また、親会社は株式交換日の前日に子会社で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を純資産の部又は負債の部に計上する(第404-2項参照)。

(子会社(株式交換完全子会社)の会計処理)

236-3.親会社が子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、子会社は、株式交換日の前日に株式交換完全子会社で付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

中間子会社に対価を支払う場合の取扱い

236-4.株式交換に際して、親会社(株式交換完全親会社)が、株式交換完全子会社以外の子会社(中間子会社)に対価を支払う場合、親会社が中間子会社から追加取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、株式交換日の前日に株式交換完全子会社が付していた適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式交換日の前日の持分比率を乗じた中間子会社持分相当額により算定する。また、その額を払込資本として処理する。

中間子会社が、株式交換完全子会社株式と引き換えに取得した親会社株式の取得原価は、当該株式交換完全子会社株式の適正な帳簿価額により算定する。

子会社が孫会社を株式交換完全子会社とする場合の取扱い

236-5.子会社がその子会社(孫会社)を株式交換完全子会社とする場合、子会社が追加取得する株式交換完全子会社株式(孫会社株式)の取得原価は、最上位の親会社と子会社の株主との取引ではないため、前項の中間子会社に対価を支払う場合における中間子会社持分相当額に準じて算定する。また、その額を払込資本として処理する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

子会社株式の追加取得の会計処理(投資と資本の消去)

237. 追加取得した子会社株式の取得原価と追加取得により増加する親会社の持分(追加取得持分)又は減少する少数株主持分の金額との差額は、企業結合会計基準 三 4.(2)Aにより、のれん(又は負ののれん)に計上し、のれん(又は負ののれん)は、第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する。

なお、追加取得持分又は減少する少数株主持分は、企業結合会計基準 三 4.(2)A及び連結原則 第四 五1及び同注解(注解12)により、連結会計方針として採用する子会社の資産及び負債の評価方法(部分時価評価法又は全面時価評価法)に従って算定する。

株式交換日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

238. 株式交換日が子会社の決算日以外の日である場合には、当該株式交換日の前後いずれか近い決算日(みなし取得日)に株式交換が行われたものとみなして処理することができる(連結原則注解(注解9))。ただし、みなし取得日は、原則的な取得原価の算定日である企業結合の合意公表日(第38項(1)参照)以降としなければならない。この場合の取得原価の算定は、企業結合日をみなし取得日と読み替えて行う。また、取得原価の算定において、企業結合会計基準 三 2.(2)Bのただし書きを適用するときは、第41項の株式交付日(企業結合日)をみなし取得日と読み替える。

(3) 株式交換直前に子会社(株式交換完全子会社)が自己株式を保有している場合の取扱い

親会社(株式交換完全親会社)の会計処理

238-2.株式交換直前に子会社が自己株式を保有しており、株式交換日において、親会社が当該自己株式(子会社株式)の取得と引き換えに子会社に対して自社の株式(親会社株式)を交付した場合の親会社の会計処理は、第236項に準じて処理するものとする。

なお、連結財務諸表上は、最初に第237項に従い会計処理し、次に、第238-3項に従い算定された株式交換完全子会社が保有する親会社株式の取得原価を自己株式に振り替える(第447-3項参照)。

子会社(株式交換完全子会社)の会計処理

238-3.自己株式と引き換えに取得した親会社株式の取得原価は、親会社が付した子会社株式の取得原価を基礎として算定する。また、親会社株式の取得原価と自己株式の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額としてその他資本剰余金に計上する(第447-3項参照)。

14.親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理

239. 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例28]

(1) 株式移転完全子会社株式の取得原価の算定

株式移転設立完全親会社が取得した株式移転完全子会社の株式(旧親会社の株式と旧子会社の株式)の取得原価は、それぞれ次のように算定する。

@ 株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)

ア 原則的な取扱い

株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、企業結合日における株式移転完全子会社(旧親会社)の適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定する(企業結合会計基準 三 2.(6)A)。

具体的には、株式移転設立完全親会社が取得する子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、株式移転日の前日における株式移転完全子会社(旧親会社)の適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することになる。

イ 簡便的な取扱い

株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日において算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が取得する子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、第121項(1)Aと同様に、株式移転完全子会社(旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができる(第404-3項参照)。

A 株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)

株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日における持分比率に基づき、旧親会社持分相当額と少数株主持分相当額に区分し、次の合計額として算定する。

ア 旧親会社持分相当額については、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定する。

具体的には、株式移転設立完全親会社が取得する株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価は株式移転完全子会社(旧子会社)の適正な帳簿価額による株主資本の額により算定する。

イ 少数株主持分相当額については、企業結合会計基準 三 4.(2)@により、取得の対価(旧子会社の少数株主に交付した株式移転設立完全親会社の株式の時価相当額)に取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定することとされている(第121項参照)。株式移転設立完全親会社の株式の時価相当額は、企業結合会計基準 注解(注8)により、株式移転完全子会社(旧子会社)の株主が株式移転設立完全親会社に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の数を、株式移転完全子会社(旧親会社)が交付したものとみなして算定することとされている。

なお、株式移転設立完全親会社は、取得した株式移転完全子会社(旧子会社)以外の子会社(中間子会社)が有していた株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価についても、旧親会社持分相当額(Aア参照)に準じて算定することとなる。

(2) 株式移転設立完全親会社の資本の会計処理

株式移転設立完全親会社の資本の額は、払込資本とし、第122項に準じて会計処理する。

親会社(株式移転設立完全親会社)が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

(親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理)

239-2.株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(旧親会社又は旧子会社)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転設立完全親会社は、株式移転完全子会社の株式(旧親会社の株式と旧子会社の株式)の取得原価を次のように算定する(第404-2項参照)。

(1) 株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)

@ 原則的な取扱い(第239項(1)@ア参照)

株式移転完全子会社(旧親会社)の適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式移転完全子会社で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して子会社株式の取得原価を算定する。

また、株式移転設立完全親会社は、株式移転日の前日の株式移転完全子会社で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を純資産の部又は負債の部に計上する。

A 簡便的な取扱い(第239項(1)@イ参照)

第239項(1)@イにより子会社株式の取得原価を算定する場合であっても、株式移転完全子会社(旧親会社)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を株式移転完全子会社(旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額に加算する。

(2) 株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)

株式移転設立完全親会社は、株式移転日の前日に株式移転完全子会社(旧子会社)が付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を子会社株式の取得原価に加算する。また、株式移転設立完全親会社は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日の適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を純資産の部又は負債の部に計上する。

(子会社(株式移転完全子会社)の会計処理)

239-3.株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(旧親会社又は旧子会社)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転完全子会社は株式移転日の前日に付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

子会社(旧親会社である株式移転完全子会社)の会計処理

239-4.株式移転に際して、株式移転完全子会社(旧親会社)が、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式と引き換えに取得した株式移転設立完全親会社株式の取得原価は、株式移転完全子会社(旧子会社)株式の株式移転直前の適正な帳簿価額により計上する。[設例28]

(2) 連結財務諸表上の会計処理

240. 連結財務諸表上の会計処理は次のように行う。

(1) 投資と資本の消去

@ 株式移転完全子会社(旧親会社)への投資

株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の取得原価と株式移転完全子会社(旧親会社)の株主資本を相殺する。

A 株式移転完全子会社(旧子会社)への投資

企業結合会計基準 三 4.(2)Aにより、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式の取得原価と株式移転完全子会社(旧子会社)の株主資本を相殺し、消去差額はのれん(又は負ののれん)に計上する。のれん(又は負ののれん)は、第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する。

なお、取得持分は、企業結合会計基準 三 4.(2)A及び連結原則 第四 五 1 及び同注解(注解12)により、連結会計方針として採用する子会社の資産及び負債の評価方法(部分時価評価法又は全面時価評価法)に従って算定する。

(2) 連結上の自己株式への振替

株式移転完全子会社(旧親会社)が株式移転完全子会社(旧子会社)の株式との交換により取得した株式移転設立完全親会社株式は、連結財務諸表上、自己株式に振り替える。

(3) 株主資本項目の調整

株式移転設立完全親会社の株主資本の額は、株式移転直前の連結財務諸表上の株主資本項目に少数株主との取引により増加した払込資本の額を加算する。

株式移転日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

241. 第238項(株式交換におけるみなし取得日)と同様に取り扱うこととする。

(3) 株式移転直前に子会社(株式移転完全子会社)が自己株式を保有している場合の取扱い

親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理

241-2.株式移転直前に子会社が自己株式を保有している場合の親会社の会計処理は、株式交換直前に子会社が自己株式を保有している場合の親会社の会計処理(第238-2項参照)に準じて処理する。

子会社(株式移転完全子会社)の会計処理

241-3.株式移転直前に子会社が自己株式を保有している場合の子会社の会計処理は、株式交換直前に子会社が自己株式を保有している場合の子会社の会計処理(第238-3項参照)に準じて処理する。

15.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が現金等の財産のみである場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

242. 吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準 三 4.(1)@イ)。[設例29-1]

吸収合併存続会社の会計処理

243. 吸収合併存続会社である子会社は、次の処理を行う。

(1) 受入れた資産及び負債の会計処理

子会社が他の子会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上し、吸収合併消滅会社の株主資本の額と取得の対価として支払った現金等の財産(第95項参照)(いわゆる三角合併のように子会社が親会社株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合における親会社株式を含む。以下、本項において同じ。)の適正な帳簿価額との差額を、のれん(又は負ののれん)として計上する。のれん(又は負ののれん)は、第72項、第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。[設例29-1]

(2) 増加資本の会計処理

株式を交付していないため、株主資本の額は増加しない。なお、吸収合併消滅会社の評価・換算差額等は、対価が現金等の財産のみの場合においても、引継ぐことになる。

(3) 企業結合に要した支出額の会計処理

企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

244. 事業分離等会計基準第35項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が受け取った現金等の財産は、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。この結果、当該価額と引き換えられた吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。[設例29-1]

ただし、いわゆる三角合併のように子会社が親会社株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合において、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が自己株式を取得する場合は、引き換えられた吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額により算定する(自己株式等会計適用指針第7項)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

245. 吸収合併消滅会社の株主(親会社)の個別財務諸表上認識された交換損益は、親会社の連結財務諸表上、連結原則における未実現損益の消去に準じて処理する。[設例29-1]

なお、いわゆる三角合併のように子会社が親会社株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合は、企業集団からみると、親会社が合併の対価として自己株式を処分する取引と同様に考えることができるため、連結財務諸表上、少数株主に交付した自己株式の時価と適正な帳簿価額との差額は、資本取引として自己株式処分差額に振り替える。また、連結財務諸表上、少数株主に交付した自己株式の時価と追加取得持分又は減少する少数株主持分(連結会計方針として採用する子会社の資産及び負債の評価方法(部分時価評価法又は全面時価評価法)に従って算定する。)との差額をのれんとして計上する。

16.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式のみである場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

246. 吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準 三 4.(1)@イ)。[設例29-2]

吸収合併存続会社の会計処理

247. 吸収合併存続会社である子会社は、次の処理を行う。[設例29-2]

(1) 受入れた資産及び負債の会計処理

吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である子会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加資本の会計処理

合併が共同支配企業の形成と判定された場合の吸収合併存続会社の会計処理(第185項参照)に準じて処理する(第408項参照)。

(3) 抱合せ株式の会計処理

吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である子会社の株式(関連会社株式又はその他有価証券)を保有している場合で、新株を発行したときの吸収合併存続会社の増加資本の会計処理は、次のいずれかの方法による。

@ 吸収合併消滅会社の株主資本の額から当該抱合せ株式の適正な帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスの場合にはその他利益剰余金の減少)として処理する。

A 吸収合併消滅会社の株主資本を引継いだ上で、当該抱合せ株式の適正な帳簿価額をその他資本剰余金から控除する。

(4) 企業結合に要した支出額の会計処理

企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

248. 事業分離等会計基準第38項及び第39項により、交換損益は認識されず、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が受け取った吸収合併存続会社の株式(子会社株式)の取得原価は、引き換えられた吸収合併消滅会社の株式(子会社株式)に係る企業結合日直前の適正な帳簿価額に基づいて計上する。[設例29-2]

(2) 連結財務諸表上の会計処理

249. 事業分離等会計基準第38項及び第39項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)は、連結財務諸表上、吸収合併存続会社に係る当該株主(親会社)の持分の増加額(吸収合併消滅会社の株主としての持分比率が増加する場合は、吸収合併消滅会社に係る当該株主(親会社)の持分の増加額)と吸収合併消滅会社に係る株主(親会社)の持分の減少額(吸収合併存続会社の株主としての持分比率が減少する場合は、吸収合併存続会社に係る当該株主(親会社)の持分の減少額)との間に生ずる差額を、のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額として取り扱う。[設例29-2]

17.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)

(1) 個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

250. 吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準 三 4.(1)@イ)。 [設例29-3] [設例29-4]

吸収合併存続会社の会計処理

251. 吸収合併存続会社である子会社は、次の処理を行う。[設例29-3] [設例29-4]

(1) 受入れた資産及び負債の会計処理

吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である他の子会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加資本の会計処理

企業結合会計基準 三 4.(1)@ロにより、以下のように会計処理する。

@ 吸収合併消滅会社の株主資本の額がプラスの場合

吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額から、合併の対価として支払った現金等の財産(第95項参照)(いわゆる三角合併のように子会社が親会社株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合における親会社株式を含む。以下、本項において同じ。)の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該金額を控除する。)を控除した額がプラスとなる場合には、当該差額を払込資本とする。

当該差額がマイナスとなる場合には、払込資本はゼロとし、のれんを計上する。

なお、のれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項から第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。

A 吸収合併消滅会社の株主資本の額がマイナスの場合

合併の対価として支払った現金等の財産の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該適正な帳簿価額を控除する。)と等しい金額をのれんに計上する(第448項参照)。

また、吸収合併存続会社の増加資本については払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

なお、いずれの場合においても、評価・換算差額及び新株予約権の適正な帳簿価額は、吸収合併存続会社にそのまま引継ぐ。

(3) 企業結合に要した支出額の会計処理

企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

252. 事業分離等会計基準第45項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が吸収合併存続会社から受け取った現金等の財産は、原則として、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。この結果、当該価額が吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額を上回る場合には、原則として、当該差額を交換利益として認識(取得する吸収合併存続会社の株式の取得原価はゼロとする。)し、下回る場合には、当該差額を取得する吸収合併存続会社の株式の取得原価とする。 [設例29-3] [設例29-4]

ただし、いわゆる三角合併にように、子会社が親会社株式と自社(吸収合併存続会社である子会社)の株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合、吸収合併消滅会社の株主(親会社)の取得する自己株式の取得原価は、吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額のうち引き換えられた部分に相当する額により算定する。この結果、吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額から当該自己株式の取得原価を控除した額が、取得する吸収合併存続会社の株式の取得原価となる。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

253. 吸収合併消滅会社の株主(親会社)が個別財務諸表上認識した交換利益は、親会社の連結財務諸表上、連結原則における未実現損益の消去に準じて処理する。また、吸収合併存続会社に係る株主(親会社)の持分の増加額(吸収合併消滅会社の株主としての持分比率が増加する場合は、吸収合併消滅会社に係る当該株主(親会社)の持分の増加額)と吸収合併消滅会社に係る株主(親会社)の持分の減少額(吸収合併存続会社の株主としての持分比率が減少する場合は、吸収合併存続会社に係る当該株主(親会社)の持分の減少額)との間に生ずる差額を、のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額として取り扱う。[設例29-3] [設例29-4]

なお、いわゆる三角合併のように、子会社が親会社株式と吸収合併存続会社である子会社の株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合は、連結財務諸表上、親会社株式を対価とした部分について資本取引として扱う。

18.同一の株主(個人)により支配されている会社同士の吸収合併の会計処理

254. 第201項により、同一の株主により支配されている会社同士の吸収合併は、共通支配下の取引に該当するため、吸収合併存続会社は次のように処理する。[設例23]

(1) 受入れた資産及び負債の会計処理

吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社から受入れる資産及び負債は、企業結合会計基準 三 4.(1)@イにより、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加資本の会計処理

合併が共同支配企業の形成と判定された場合の吸収合併存続会社の会計処理(第185項参照)に準じて処理する(第408項参照)。ただし、合併の対価に当該子会社株式以外の財産が含まれるときは、第251項に準じて処理する。

(3) 抱合せ株式の会計処理

吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の株式(関連会社株式又はその他有価証券)を保有している場合には、第247項(3)に準じて処理する。

18−2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

吸収分割会社の会計処理

254-2. 吸収分割会社である子会社の会計処理は、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の親会社の会計処理(第226項参照)に準じて処理する(第447-2項参照)。[設例11-4]

吸収分割承継会社の会計処理

254-3. 吸収分割承継会社である他の子会社の会計処理は、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の子会社の会計処理(第227項参照)に準じて処理する。[設例11-4]

(2) 吸収分割会社である子会社の連結財務諸表上の会計処理

254-4. 吸収分割会社である子会社が連結財務諸表を作成する場合の会計処理は次のように行う。[設例11-4]

(1) 吸収分割承継会社である他の子会社が吸収分割会社の子会社となる場合

@ 内部取引の消去

事業の移転取引及び子会社の増資に関する取引は、企業結合会計基準 三 4.(1)Aにより、内部取引として消去する。

A 持分変動差額の計上

吸収分割会社は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定された取得した子会社株式の取得原価(第254-2項参照)と、これに対応する吸収分割承継会社の事業分離直後の資本(企業結合日における適正な帳簿価額による子会社となる吸収分割承継会社等の資本に事業分離により増加する吸収分割会社等の持分比率を乗じた額)との差額を、持分変動差額として処理する。なお、当該会社分割により、のれん(又は負ののれん)は計上されない(第447-2項参照)。

(2) 吸収分割承継会社である他の子会社が吸収分割会社の関連会社となる場合

吸収分割会社は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定された取得した関連会社株式の取得原価(第254-2項参照)と、これに対応する吸収分割承継会社の事業分離直後の資本(企業結合日における適正な帳簿価額による関連会社となる吸収分割承継会社等の資本に事業分離により増加する吸収分割会社等の持分比率を乗じた額)との差額を、持分変動差額として処理する。なお、当該会社分割により、のれん(又は負ののれん)は計上されない(第447-2項参照)。

19.子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

吸収分割会社の会計処理

255. 吸収分割会社である子会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社の会計処理(第233項参照)に準じて処理する。

吸収分割承継会社の会計処理

256. 吸収分割承継会社である他の子会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社の会計処理(第234項参照)に準じて処理する(第409項参照)。

吸収分割会社の株主(親会社)に係る会計処理

257. 事業分離等会計基準第49項及び第51項と同様に、吸収分割会社の株主(親会社)が受け取った吸収分割承継会社の株式は、受け取る吸収分割承継会社の株式と、これまで保有していた吸収分割会社株式とが実質的に引き換えられたものとみなし、被結合企業の株主に係る会計処理(第294項から第296項参照)に準じて処理する。

20.単独で株式移転設立完全親会社を設立した場合の会計処理

株式移転設立完全親会社の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

258. 単独株式移転により株式移転設立完全親会社を設立した場合の株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理は、親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価の算定(第239項(1)@参照)に準じて処理する。

連結財務諸表上の会計処理

259. 親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理(第240項参照)に準じて処理する。

21.単独で新設分割設立子会社を設立した場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

親会社(新設分割会社)の会計処理

260. 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割会社(親会社)の会計処理は、会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社(吸収分割会社)の会計処理(第226項参照)に準じて処理する。

子会社(新設分割設立会社)の会計処理

261. 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割設立会社(子会社)の会計処理は、会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)の会計処理(第227項参照)に準じて処理する(第409項参照)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

262. 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割会社(親会社)の連結財務諸表上、事業の移転取引及び子会社の増加資本に関する取引は、企業結合会計基準 三 4.(1)Aにより、内部取引として消去する。

22.単独で分割型の会社分割が行われた場合の会計処理

(1) 新設分割会社の個別財務諸表上の会計処理

263. 単独で分割型の会社分割が行われた場合の新設分割会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社(吸収分割会社)の会計処理(第233項参照)に準じて処理する。

(2) 新設分割設立会社の個別財務諸表上の会計処理

264. 単独で分割型の会社分割が行われた場合の新設分割設立会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社から子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)(第234項参照)に準じて処理する(第409項参照)。

\.結合当事企業の株主に係る会計処理

1.被結合企業の株主に係る会計処理

(1) 受取対価の時価

265. 交換損益を認識する場合の受取対価となる財の時価は、受取対価が現金以外の資産等の場合には、受取対価となる財の時価と引き換えた被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定する(事業分離等会計基準第33項)。

266. 市場価格のある結合企業の株式が受取対価とされる場合には、受取対価となる財の時価は、原則として、企業結合の合意公表日前の合理的な期間における株価を基礎にして算定する。

ただし、企業結合日の株価が合意公表日前の合理的な期間における株価と大きく異ならない場合には、当該企業結合日の株価を基礎として受取対価を算定することができる(事業分離等会計基準第34項)。「大きく異ならない場合」とは、その株価の差異から生じる交換損益の差額が連結財務諸表及び個別財務諸表に重要な影響を与えないと認められる場合をいう。

267. 被結合企業の株主に係る会計処理上、結合企業の株式など受取対価の時価又は移転した事業の時価の算定が必要な場合には、当該時価を算定する。

ただし、結合企業の株式など受取対価又は引き換えられた被結合企業の株式のいずれについても、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、次のいずれかを用いて算定された額を受取対価の額とすることができる。

(1) 企業結合日の前日における結合企業の識別可能な資産及び負債の時価に基づく正味の評価額のうち受取対価相当額

(2) 企業結合日の前日における被結合企業の識別可能な資産及び負債の時価に基づく正味の評価額のうち受取対価相当額

この場合、識別可能な個々の資産及び負債の時価が、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、該当する資産及び負債について、その適正な帳簿価額を用いることができる。

(2) 受取対価が現金等の財産のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

268. ある子会社を被結合企業とし他の子会社を結合企業とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、共通支配下の取引として取り扱う(第244項及び第245項参照)。

なお、被結合企業の株主に係る会計処理において、現金等の財産とは、引き換えられた被結合企業の株式と明らかに異なる資産が該当し、結合企業の株式は含まれない(この点については、事業分離等会計基準第32項(1)を参照のこと)。これには、結合企業の支払能力に左右されない資産や、結合企業の支払能力の影響を受けるものの、代金回収条件が明確かつ妥当であり、回収が確実と見込まれる資産が含まれる。ただし、合併比率等に端数があるために生じた交付金は現金等の財産に含めないこととする。また、利益配当の代替としての交付金の部分は、受取対価には含まれない。

269. 子会社を被結合企業とし子会社以外を結合企業とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、当該被結合企業の株主(親会社)に係る会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて、次の処理を行う(事業分離等会計基準第35項)。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

被結合企業の株主(親会社)が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上し、引き換えられた被結合企業の株式の適正な帳簿価額との差額は、交換損益として認識する。

ただし、交換した株式に対する買戻しの条件などの被結合企業の株主の重要な継続的関与によって、交換した株式に係る成果の変動性を従来と同様に負っている場合には、交換損益を認識することはできないことに留意する必要がある(本適用指針において、交換損益を認識するとしている場合には、同様の留意が必要となる。)(事業分離等会計基準第32項及び第119項)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

関連会社を結合企業とする場合には、子会社株式である被結合企業の株式が現金等の財産のみと引き換えられたことにより認識された交換損益は、持分法会計基準第13項における未実現損益の消去に準じて処理する。

子会社以外を被結合企業とした企業結合の場合

270. 子会社以外を被結合企業とする企業結合により、被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合、被結合企業の株主は以下の処理を行う(事業分離等会計基準第36項及び第37項)。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

被結合企業の株主が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上し、引き換えられた被結合企業の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

子会社又は関連会社を結合企業とする場合には、被結合企業の株式が現金等の財産のみと引き換えられたことにより認識された交換損益は、連結原則及び持分法会計基準第13項における未実現損益の消去に準じて処理する。

(3) 受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

271. 結合企業の株式のみと引き換えられる企業結合において、当該被結合企業に対する持分比率等により、当該企業結合は次のように分類される。

(1) 子会社を被結合企業とする企業結合(第272項から第276項参照)

(2) 関連会社を被結合企業とする企業結合(第277項から第279項参照)

(3) 共同支配企業の形成となる企業結合(第189項から第191項参照)

(4) 子会社や関連会社以外の投資先(共同支配企業を除く。)を被結合企業とする企業結合(第280項及び第281項参照)

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

272. 子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業に対する持分比率が減少する場合、当該被結合企業の株主(親会社)に係る会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて行い(事業分離等会計基準第38項)、企業結合前に、被結合企業の株主が被結合企業の株式(子会社株式)に加え、結合企業の株式も有しており、当該結合企業の株主としての持分比率が増加する場合、当該被結合企業の株主としての持分の増加については、追加取得に準じて処理し、当該結合企業の株主としての持分の減少については、子会社の時価発行増資等における親会社の会計処理に準じて行う(事業分離等会計基準第39項)。

273. 子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が被結合企業の株主の新たな子会社となる場合(子会社株式から子会社株式)、被結合企業の株主(親会社)は、事業分離における分離元企業の会計処理(第98項及び第99項参照)に準じて、次の処理を行う。

(1) 個別財務諸表上、交換損益は認識せず、結合後企業の株式(子会社株式)の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(子会社株式)に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、結合後企業に係る株主(親会社)の持分の増加額(企業結合直前の結合企業の時価のうち被結合企業の株主の持分比率の増加に対応する金額)と被結合企業に係る株主(親会社)持分の減少額との間に生ずる差額については、のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額として取り扱う。

なお、被結合企業の株主は、結合企業を取得することになるため、連結財務諸表上、パーチェス法を適用する。

274. ある子会社を被結合企業とし他の子会社を結合企業とする企業結合により、結合後企業が引き続き被結合企業及び結合企業の株主の子会社である場合、共通支配下の取引として取り扱う(第248項及び第249項参照)。

275. 子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が関連会社となる場合(子会社株式から関連会社株式)(共同支配企業の形成の場合は含まれない。)、被結合企業の株主(親会社)は、事業分離における分離元企業の会計処理(第100項から第102項参照)に準じて、以下の処理を行う。

(1) 個別財務諸表上、第273項(1)と同様に、交換損益は認識せず、結合後企業の株式(関連会社株式)の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(子会社株式)に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、これまで連結していた被結合企業の株式については、持分法へ修正するとともに、結合後企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額との間に生ずる差額は、次のように処理する。

@ 結合企業に対して投資したとみなされる額(企業結合直前の結合企業の時価に増加する被結合企業の株主の持分比率を乗じた額)と、これに対応する企業結合直前の結合企業の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)との間に生じる差額については、投資に含め、のれん(又は負ののれん)として処理する。

A 被結合企業に対する持分が交換されたとみなされる額(交換された被結合企業の時価に減少したその株主の持分比率を乗じた額であり、@の結合企業に対して投資したとみなされる額と同額となる。)と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額との間に生ずる差額については、持分変動差額として取り扱う。

276. 子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が子会社や関連会社、共同支配企業以外となる場合(子会社株式からその他有価証券)、被結合企業の株主は、事業分離における分離元企業の会計処理(第103項参照)に準じて、次の処理を行う。

(1) 個別財務諸表上、原則として交換損益を認識し、結合後企業の株式の取得原価は、その時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、これまで連結していた被結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価)をもって評価する(連結原則 第四 八 3)。

関連会社を被結合企業とした企業結合の場合

277. 関連会社を被結合企業とする企業結合により、当該被結合企業(関連会社)に対する持分比率が減少するが、引き続き結合後企業が当該被結合企業の株主の関連会社である場合(関連会社株式から関連会社株式)、被結合企業の株主は以下の処理を行う(事業分離等会計基準第40項)。[設例30]

(1) 個別財務諸表上、交換損益は認識せず、結合後企業の株式(関連会社株式)の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(関連会社株式)に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、持分法適用において、関連会社となる結合後企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額との間に生ずる差額は、次のように処理する。

なお、持分法適用において、関連会社となる結合後企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額は、持分法会計基準及び持分法実務指針の追加取得の処理に従い、企業結合直前の結合企業の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)に増加する被結合企業の株主の持分比率を乗じた額(@参照)として算定される。

@ 被結合企業に対する持分が交換されたとみなされる額(企業結合直前の結合企業の時価に増加する被結合企業の株主の持分比率を乗じた額)と、これに対応する企業結合直前の結合企業の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)(関連会社となる結合後企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額)との間に生ずる差額については、投資に含め、のれん(又は負ののれん)として処理する。

A 被結合企業の株式が交換されたとみなされる額(被結合企業の時価のうちその株主の持分の減少額であり、@の被結合企業に対する持分が交換されたとみなされる額と同額となる。)と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額(被結合企業の株式に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に減少した被結合企業の持分比率を乗じた額)との間に生ずる差額については、持分変動差額として取り扱う。

ただし、@とAのいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて処理することができる。

278. 関連会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が被結合企業の株主の関連会社及び共同支配企業以外となる場合(関連会社株式からその他有価証券)、被結合企業の株主は以下の処理を行う(事業分離等会計基準第41項)。

(1) 個別財務諸表上、原則として交換損益を認識し、結合後企業の株式の取得原価は、その時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、これまで持分法を適用していた被結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価)をもって評価する(持分法会計基準第15項)。

279. 関連会社を被結合企業とする企業結合において、企業結合前に、被結合企業の株主が被結合企業の株式(関連会社株式)に加え結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該被結合企業の株主としての持分比率が増加(結合企業の株主としての持分比率は減少)する場合(関連会社株式から子会社株式又は関連会社株式)、当該被結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第42項)。

(1) 個別財務諸表上、交換損益は認識せず、当該被結合企業の株主が受け取った結合企業の株式の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(関連会社株式)に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、結合後企業に係る被結合企業の株主としての持分の増加については、結合後企業が関連会社となる場合には持分法適用会社の株式の追加取得に準じ、子会社となる場合には段階取得により関連会社が連結子会社になった場合における連結手続に準じて会計処理する。また、結合企業の株主としての持分の減少については、子会社又は関連会社の時価発行増資等における親会社又は投資会社の会計処理に準じ、持分変動差額を認識する。

子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合の場合

280. 子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が引き続き、子会社株式や関連会社株式にも該当しない(その他有価証券からその他有価証券)場合、被結合企業の株主の個別財務諸表上、交換損益は認識されず、結合後企業の株式の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する(事業分離等会計基準第43項)。

281. 子会社や関連会社以外の投資先(その他有価証券)を被結合企業とする企業結合において、企業結合前に、被結合企業の株主が被結合企業の株式に加え結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該被結合企業の株主としての持分比率が増加(結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業は当該株主の子会社又は関連会社となる場合、当該被結合企業の株主は次の処理を行う(事業分離等会計基準第44項)。

(1) 個別財務諸表上、交換損益は認識せず、当該被結合企業の株主が受け取った結合企業の株式の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(その他有価証券)に係る企業結合日直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、結合後企業に係る被結合企業の株主としての持分の増加については、結合後企業が関連会社となる場合には段階取得による持分法の適用に準じ、子会社となる場合には段階取得による連結手続に準じて会計処理する。また、結合企業の株主としての持分の減少については、子会社又は関連会社の時価発行増資等における親会社又は投資会社の会計処理に準じ、持分変動差額を認識する。

(4) 受取対価が現金等の財産と結合企業の株式である場合の被結合企業の株主に係る会計処理

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

282. 現金等の財産(第268項参照)と結合企業の株式を対価とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が引き換えられた場合、当該被結合企業の株主(親会社)に係る会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて行う(事業分離等会計基準第45項)ため、以下の処理を行う。

(1) 結合後企業が子会社となる場合や結合企業が子会社である場合、共通支配下の取引として取り扱う(第252項及び第253項参照)。

(2) 結合後企業が関連会社となる場合、事業分離における分離元企業の会計処理(第105項参照)に準じて行う。[設例31]

(3) 結合後企業が子会社及び関連会社、共同支配企業以外となる場合には、事業分離における分離元企業の会計処理(第106項参照)に準じて行う。また、連結財務諸表上、これまで連結していた被結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価)をもって評価する。

関連会社を被結合企業とした企業結合の場合

283. 関連会社を被結合企業とする企業結合により、現金等の財産と結合企業の株式を対価として関連会社株式である被結合企業の株式が引き換えられ、当該被結合企業(関連会社)に対する持分比率が減少するが、結合後企業が引き続き当該被結合企業の株主の関連会社である場合(関連会社株式から関連会社株式)、被結合企業の株主は次の処理を行う(事業分離等会計基準第46項)。

(1) 個別財務諸表上、被結合企業の株主が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上する。この結果、当該時価が引き換えられた被結合企業の株式に係る適正な帳簿価額を上回る場合には、原則として、当該差額を交換利益として認識(取得する結合企業の株式の取得原価はゼロとする。)し、下回る場合には、当該差額を取得する結合企業の株式の取得原価とする。

(2) 連結財務諸表上、交換利益は、持分法会計基準第13項における未実現損益の消去に準じて処理する。また、関連会社となる結合企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額との間に生ずる差額は、原則として、のれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分して処理する。

子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合の場合

284. 子会社や関連会社以外の投資先(共同支配企業を除く。)を被結合企業とする企業結合により、対価として子会社株式や関連会社株式以外の被結合企業の株式が、現金等の財産と結合企業の株式とに引き換えられた場合、被結合企業の株主は、金融商品会計基準に準じて会計処理する(事業分離等会計基準第47項)。

この場合、現金等の財産は新たな資産として、結合企業の株式は残存部分として取り扱われる。このため、当該現金等の財産の時価と消滅部分の適正な帳簿価額(当該被結合企業の株式の消滅直前の適正な帳簿価額を消滅部分に対応する現金等の財産の時価と残存部分である結合企業の株式の時価の比率により按分して、消滅部分に配分された金額)との差額を当期の損益として処理する。

2.結合企業の株主に係る会計処理

(1) 結合企業の株主に係る会計処理の考え方

285. 結合企業の株主に係る会計処理は、子会社や関連会社を結合企業とする企業結合により、当該結合企業の株主の持分比率が減少する場合には、子会社又は関連会社の時価発行増資等における親会社の会計処理に準じて処理する(事業分離等会計基準第48項(1)@)。企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式に加え被結合企業の株式も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業は当該株主の子会社又は関連会社となる場合には、受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理における被結合企業の株主としての持分比率が減少する場合の処理(第286項、第291項及び第293項参照)による(事業分離等会計基準第48項(2)@)。

(2) 子会社を結合企業とする企業結合の場合

286. ある子会社を結合企業とし他の子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が引き続き被結合企業及び結合企業の株主の子会社である場合、共通支配下の取引として取り扱う(第248項及び第249項参照)。

287. 子会社を結合企業とする企業結合によっても、結合企業の株主(親会社)は当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合により結合企業の株主(親会社)としての持分比率が減少し、結合後企業が引き続き子会社である場合(子会社株式から子会社株式)や関連会社となる場合(子会社株式から関連会社株式)、結合企業の株主(親会社)は次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(1)@)。

(1) 個別財務諸表上、結合企業が子会社から関連会社に該当することとなった場合には、子会社株式から関連会社株式に帳簿価額で振り替える。

(2) 連結財務諸表上、親会社の持分の一部が少数株主持分に振り替わることから生ずる差額は、持分変動差額とする。

なお、結合企業が子会社から関連会社に該当することとなった場合には、連結から持分法への修正を行う。

288. 子会社を結合企業とする企業結合によっても、結合企業の株主(親会社)は当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合により結合企業の株主(親会社)の持分比率が減少し、結合後企業が子会社及び関連会社、共同支配企業以外となる場合(子会社株式からその他有価証券)、結合企業の株主(親会社)は次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(1)@)。

(1) 個別財務諸表上、その他有価証券に時価で振り替え、原則として損益を認識する。

(2) 連結財務諸表上、これまで連結していた結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価)をもって評価する(連結原則 第四 八 3)。

(3) 関連会社を結合企業とする企業結合の場合

289. 関連会社を結合企業とする企業結合によっても、結合企業の株主は当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合により結合企業の株主としての持分比率が減少し、結合後企業が引き続き関連会社である場合(関連会社株式から関連会社株式)、結合企業の株主は次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(1)@)。

(1) 個別財務諸表上、何も会計処理しない。

(2) 連結財務諸表上、当該結合企業の株主の持分の一部が他の株主の持分に振り替わることから生ずる差額は、持分変動差額とする。

290. 関連会社を結合企業とする企業結合によっても、結合企業の株主は、当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合により結合企業の株主としての持分比率が減少し、結合後企業が関連会社及び共同支配企業以外となる場合(関連会社株式からその他有価証券)、結合企業の株主は次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(1)@)。

(1) 個別財務諸表上、関連会社株式からその他有価証券に時価で振り替え、原則として損益を認識する。

(2) 連結財務諸表上、これまで持分法を適用していた結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価)をもって評価する(持分法会計基準第15項)。

291. 関連会社を結合企業とする企業結合において、企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式(関連会社株式)に加え被結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業は当該株主の子会社又は関連会社となる場合(関連会社株式から子会社株式又は関連会社株式)、結合企業の株主は次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(2)@)。[設例30]

(1) 個別財務諸表上、結合企業が関連会社から子会社に該当することとなった場合には、関連会社株式から子会社株式に帳簿価額で振り替える。

(2) 連結財務諸表上、結合企業の株主が被結合企業の株式を子会社株式として有しており、結合後企業が子会社となる場合には第273項(2)の処理を行い、関連会社となる場合には第275項(2)の処理を行う。結合企業の株主が被結合企業の株式を関連会社株式として有しており、関連会社となる場合には第277項(2)の処理を行う。

(4) 子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合の場合

292. 子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合により、結合後企業が引き続き子会社株式や関連会社株式に該当しない場合(その他有価証券からその他有価証券)、結合企業の株主は何も会計処理しない(事業分離等会計基準第48項(1)A又は(2)A)。

293. 子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合において、企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式(その他有価証券)に加え被結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業は当該株主の子会社又は関連会社となる場合(その他有価証券から子会社株式又は関連会社株式)、結合企業の株主は次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(2)@)。

(1) 個別財務諸表上、金融商品会計実務指針第88 項に準じ、その他有価証券から子会社株式又は関連会社株式に振り替える。

(2) 連結財務諸表上、結合企業の株主が、被結合企業の株式を子会社株式として有しており、結合後企業が子会社となる場合には第273項(2)の処理を行い、関連会社となる場合には第275項(2)の処理を行う。結合企業の株主が被結合企業の株式を関連会社株式として有しており、関連会社となる場合には第277項(2)の処理を行う。

3.分割型の会社分割における吸収分割会社及び新設分割会社の株主に係る会計処理

(1) 受取対価が新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式のみである場合の新設分割会社又は吸収分割会社の株主に係る会計処理

294. 分割型の会社分割における吸収分割会社等の株主に係る会計処理は、受け取る新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式と、これまで保有していた吸収分割会社等の株式とが実質的に引き換えられたものとみなして、受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主の会計処理(第272項から第281項参照)に準じて行う(事業分離等会計基準第49項)。

295. 第294項及び第296項を適用するにあたっては、被結合企業の株主の会計処理における被結合企業の株式に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に代えて、会社分割直前の吸収分割会社等の株式の適正な帳簿価額のうち、合理的に按分する方法によって算定した引き換えられたものとみなされる部分の価額を用いる(事業分離等会計基準第50項)。

合理的に按分する方法には、次のような方法が考えられ、実態に応じて適切に用いる。

(1) 関連する時価の比率で按分する方法

分割された移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)の時価と会社分割直前の吸収分割会社等の株主資本の時価との比率により、吸収分割会社等の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(2) 時価総額の比率で按分する方法

会社分割直前直後の吸収分割会社等の時価総額の増減額を分割された事業の時価とみなし、会社分割直前の吸収分割会社等の時価総額との比率により、吸収分割会社等の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(3) 関連する帳簿価額の比率で按分

分割された移転事業に係る株主資本相当額の適正な帳簿価額と会社分割直前の吸収分割会社等の株主資本の適正な帳簿価額との比率により、吸収分割会社等の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(2) 受取対価が現金等の財産と新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式である場合の新設分割会社又は吸収分割会社の株主に係る会計処理

296. 分割型の会社分割により吸収分割会社等の株主が、現金等の財産(第268項参照)と新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式を受け取った場合、当該吸収分割会社等の株主に係る会計処理は、被結合企業の株主の会計処理(第282項から第284項参照)に準じて行う(事業分離等会計基準第51項)。

4.現金以外の財産の分配を受けた場合の株主に係る会計処理

297. 株主が現金以外の財産の分配を受けた場合、企業結合に該当しないが、当該株主に係る会計処理は、原則として、これまで保有していた株式が実質的に引き換えられたものとみなして、被結合企業の株主の会計処理(第268項から第281項参照)に準じて行う。

この際、これまで保有していた株式のうち実質的に引き換えられたものとみなされる額は、分配を受ける直前の株式の適正な帳簿価額を合理的な方法(第295項参照)によって按分し算定する(事業分離等会計基準第52項)。

5.いわゆる三角合併などにおける結合当事企業の株主に係る会計処理

298. ある企業の子会社が、結合企業として、当該ある企業の親会社の株式を対価として他の企業と企業結合する場合、当該取引の実質は、親会社と当該他の企業との企業結合である(第340項参照)。このため、その実質に従い、当該他の企業(被結合企業)の株主は、ある企業の子会社ではなく、当該ある企業(親会社)を結合企業とみなして、被結合企業の株主の会計処理を適用する。

].開 示

1.貸借対照表における表示

(1) のれん及び負ののれんの表示

299. 「のれんは無形固定資産の区分に表示する。負ののれんは固定負債の区分に表示する。のれんと負ののれんの双方が生ずる場合には、相殺して表示することができる。」(企業結合会計基準 四 1.)とされている。ただし、のれんと負ののれんを相殺して表示する場合には、いずれかの金額に重要性が乏しいときを除き、相殺表示している旨及び相殺前の金額を注記する(第449項参照)。

なお、「営業権のうちのれんに相当するもの及び連結調整勘定は、のれん又は負ののれんに含めて表示する。」(企業結合会計基準 注解(注19))とされている。

(2) 企業結合に係る特定勘定の表示

300. 企業結合に係る特定勘定(第62項参照)は、原則として、固定負債として表示し、その主な内容及び金額を連結貸借対照表及び個別貸借対照表に注記する。ただし、認識の対象となった事象が貸借対照表日後 1年内に発生することが明らかなものは流動負債として表示する(第451項参照)。

(3) 共同支配企業への投資の表示

301. 共同支配投資企業は、共同支配企業に対する投資(共同支配企業株式)を次のように表示する。

(1) 個別財務諸表上の表示

関係会社株式等の適切な科目をもって表示する。

なお、共同支配投資企業が連結財務諸表を作成していない場合には、損益等からみて重要性の乏しい共同支配企業に対する投資を除き、当該共同支配企業を形成した事業年度以後において、持分法に準ずる処理を適用した場合の投資の金額及び投資損益を個別財務諸表に継続的に注記する。

(2) 連結財務諸表上の表示

投資有価証券等の適切な科目をもって表示し、当該投資額を連結貸借対照表に注記する。

2.損益計算書における表示

(1) のれん及び負ののれんの償却額の表示

302. のれんの当期償却額は、販売費及び一般管理費に計上し、負ののれんの当期償却額は、営業外収益に計上する。ただし、いずれかの金額の重要性が乏しい場合には相殺表示することができる(第450項参照)。

なお、のれんの減損損失は、原則として、特別損失に計上する(減損会計基準 四 2.)。

(2) 企業結合に係る特定勘定の取崩益の表示

303. 企業結合に係る特定勘定の取崩益が生じた場合には、原則として、特別利益に計上する。また、重要性が乏しい場合を除き、その内容を連結損益計算書及び個別損益計算書に注記する。

(3) 移転損益の表示

304. 事業分離において、分離元企業が計上する移転損益は、原則として、特別損益に計上する。

(4) 交換損益の表示

305. 企業結合において、結合当事企業の株主が計上する交換損益は、原則として、特別損益に計上する。

3.注記事項

(1) 企業結合に関する注記事項

パーチェス法を適用した場合の注記事項

306. パーチェス法を適用した場合、重要性が乏しい取引を除き、企業結合年度において、次の事項を注記することとされている(企業結合会計基準 四 2.(1))。

(1) 被取得企業の名称及び事業の内容、企業結合を行った主な理由、事業を取得した場合は相手企業の名称及び取得した事業の内容、企業結合日、企業結合の法的形式、結合後企業の名称及び取得した議決権比率

(2) 財務諸表に含まれている被取得企業又は取得した事業の業績の期間

(3) 被取得企業又は取得した事業の取得原価及びその内訳。株式を交付した場合には、株式の種類別の交換比率及びその算定方法、交付又は交付予定の株式数及び評価額。株式交付日の株価を基礎に取得原価を算定している場合は、その旨

(4) 発生したのれん(又は負ののれん)の金額、発生原因、償却方法及び償却期間

(5) 企業結合日に受入れた資産及び引き受けた負債の額並びにその主な内訳

(6) 企業結合契約に規定される条件付取得対価の内容及びそれらの今後の会計処理方針

(7) 取得原価のうち研究開発費等に配分され費用処理された金額及びその科目名

(8) 取得原価の大部分がのれん以外の無形資産に配分された場合には、のれん以外の無形資産に配分された金額及びその主要な種類別の内訳並びに全体及び主要な種類別の加重平均償却期間

(9) 取得原価の配分が完了していない場合は、その旨及びその理由。企業結合年度の次年度以降において取得原価の当初配分額に重要な修正がなされた場合は、その修正の内容及び金額

(10)連結財務諸表を作成しない場合において、取得企業が存続会社と異なる企業結合に持分プーリング法に準じた処理方法を適用したときは、パーチェス法を適用したとした場合に貸借対照表及び損益計算書に及ぼす影響の概算額。ただし、当該影響額に重要性が乏しい場合は、注記を省略することができる。

(11)当該企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額。ただし、当該影響額に重要性が乏しい場合は、注記を省略することができる。

この場合、個々の企業結合については重要性が乏しいが、企業結合年度における企業結合全体について重要性があるときは、上記の(1)のほか、取得原価の算定に関する事項((3)、(6))及び取得原価の配分に関する事項((4)、(5)、(7)、(8)、(9))については、企業結合全体で注記する(第452項参照)。また、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができる。

なお、(9)について、繰延税金資産及び繰延税金負債に対する取得原価の配分額は、暫定的な会計処理の対象となるが、税効果会計の注記(繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳)にあわせて記載することができる。

逆取得となる吸収合併の場合で、結合後企業が連結財務諸表を作成しないときの取扱い

(企業結合年度の取扱い)

307. 逆取得となる吸収合併の場合で、結合後企業が連結財務諸表を作成しないとき(第306項(10)参照)に記載する「影響の概算額」の記載は、次のいずれかの方法による(第453項参照)。

(1) パーチェス法を適用した場合との差額による記載

@ 貸借対照表項目

資産合計、流動資産合計、固定資産合計、負債合計、流動負債合計、固定負債合計、純資産合計及びのれん(又は負ののれん)

A 損益計算書項目

売上高、営業損益、経常損益、税引前当期純損益、当期純損益、のれんの償却額(又は負ののれんの償却額)及び1 株当たり当期純損益

(2) パーチェス法を適用した場合の貸借対照表及び損益計算書の主要項目による記載

また、いずれの方法で記載する場合においても、第306項(2)のほか、取得原価の算定に関する事項((3)、(6))及び取得原価の配分に関する事項((4)、(5)、(7)、(8)、(9))に準じた記載を行う。

(企業結合年度後の取扱い)

308. 第307項の注記事項は、企業結合年度に開示を求めている趣旨を勘案し、企業結合年度の翌年度以降においても、「影響の概算額」の重要性が乏しくなった場合を除き、継続的に開示する(第453項参照)。

また、企業結合年度の翌期以降に連結財務諸表を作成することとなった場合には、「影響の概算額」の重要性が乏しくなった場合を除き、当該逆取得を反映した連結財務諸表を作成する。

企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額

309. 「企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額」(第306項(11))は、取得企業の業績推移の把握が可能となるように、次のいずれかの方法により算定されたものをいう。

(1) 企業結合が当期首に完了したと仮定した場合の売上高及び損益情報と取得企業の連結損益計算書上の売上高及び損益情報に係る各々の差額による記載

(2) 企業結合が当期首に完了したと仮定して算定された当該企業結合年度の売上高及び損益情報による記載

損益情報については、例えば、営業損益、経常損益、税金等調整前当期純損益、当期純損益及び1株当たり当期純損益などであり、実務的に算定可能な項目を開示する。

上記の注記にあたっては、算定方法と計算過程における重要な前提条件もあわせて開示する(第454項参照)。なお、企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額の算定方法における重要な前提条件の考え方と例示については、第326項及び第327項で示している。

310. 取得企業が連結財務諸表を作成していない場合は、注記の趣旨を勘案し、個別損益計算書への影響の概算額を、?09項に準じて注記する。

連結財務諸表原則を適用すべき企業結合におけるパーチェス法を適用した場合の注記事項

310-2.連結原則を適用すべき企業結合であるが、企業結合会計基準の定め(取得の会計処理)に準じて会計処理した場合で、その会計処理に関連して企業結合会計基準により一定の開示が求められているときは、当該定めに従い、必要な事項を開示しなければならない。

なお、連結原則を適用すべき企業結合が行われた場合(上記のように企業結合会計基準の定めに準じて会計処理した場合を除く。)であっても、企業結合会計基準で定められている事項(パーチェス法を適用した場合の注記事項)を追加情報に準じて開示することを妨げるものではない(第31-2項参照)。

持分プーリング法を適用した場合の注記事項

311. 持分プーリング法を適用した場合、企業結合年度において、次の事項を注記するとされている(企業結合会計基準 四 2.(2))。

(1) 結合当事企業の名称及びその事業の内容、企業結合の目的、企業結合日、企業結合の法的形式及び結合後企業の名称

(2) 議決権のある株式の交換比率及びその算定方法、交付又は交付予定の株式数、企業結合後の議決権比率及び当該企業結合を持分の結合と判定した理由

(3) 個別財務諸表に含まれる被結合企業の業績の期間

(4) 被結合企業から引継いだ資産、負債及び資本(純資産)の内訳

(5) 会計処理方法の統一及び企業結合前の取引等の消去の内容並びに企業結合に要した支出額及びその科目名

(6) 企業結合の結果、処分することが決定された重要な事業

この場合、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じであるときは、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができる。

上記(5)について、複数の会計処理方法を統一する必要がある場合に、同一の事業年度に会計処理方法を統一できない場合には、その旨及び理由をあわせて開示する(第142項及び第170項参照)。

上記(6)の記載においては、当該事業の内容、処分時期、処分方法、処分理由に加え、当該事業に係る貸借対照表計上額や処分予定事業で計上していた直前事業年度の売上高、営業損益などを開示する。なお、金額の記載が困難な場合は、その旨と理由を開示する(第456項参照)。

合併が持分の結合と判定された場合の個別財務諸表上の注記事項

312. 企業結合会計基準の趣旨を踏まえ、以下の事項を注記する。

(1) みなし結合日から企業結合日の前日における結合当事企業間の取引高に重要性がある場合には、当該取引高(第143項参照)

(2) 結合後企業が連結財務諸表を作成しない場合には、みなし結合日に合併したものとみなして算定した主要な損益計算書項目への影響の概算額(売上高、営業損益、経常損益、税引前当期純損益、当期純損益及び 1株当たり当期純損益)(第128項(1)A参照)

なお、結合後企業が連結財務諸表を作成する場合にも、(2)と同様の事項を個別財務諸表に注記することができる(第128項(1)@イ参照)。

共同支配企業の形成が行われた場合の共同支配投資企業における注記

313. 企業結合会計基準 四 2.(3)により、共同支配企業投資企業は、企業結合年度(共同支配企業を形成した事業年度)において重要な取引がある場合には、共通支配下の取引等に係る注記事項(第314項(1)、(2)参照)に準じて注記を行うこととされている。

このうち、実施した会計処理の概要の記載にあたっては、共同支配企業の特性及び持分プーリング法を適用した場合の注記事項を勘案し、共同支配企業の形成と判定した理由をあわせて注記する。

また、個々の共同支配企業の形成については重要性が乏しいが、企業結合年度における複数の共同支配企業の形成全体では重要性がある場合には、当該企業結合全体で注記する(第452項参照)。

連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じである場合には、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができる。

共通支配下の取引等に係る注記事項

314. 企業結合年度において重要な取引がある場合には、次の事項を注記するとされている(企業結合会計基準 四 2.(3))。

(1) 結合当事企業又は対象となった事業の名称及びその事業の内容、企業結合の法的形式、結合後企業の名称、取引の目的を含む取引の概要

(2) 実施した会計処理の概要

(3) 子会社株式を追加取得した場合には、企業結合会計基準 四 2.(1)B、C、E及びF(第306項(3)、(4)、(6)及び(7))に準ずる事項

この場合、個々の共通支配下の取引等については重要性が乏しいが、企業結合年度における複数の共通支配下の取引等全体では重要性があるときは、当該企業結合全体で注記する(第452項参照)。

また、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じである場合には、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができる。

子会社が親会社を吸収合併した場合で、子会社が連結財務諸表を作成しないときの注記事項

(企業結合年度の取扱い)

315. 子会社が親会社を吸収合併した場合で、子会社が連結財務諸表を作成しないとき(第213項参照)は、以下のいずれかの方法により算定された個別貸借対照表及び個別損益計算書に及ぼす影響の概算額を注記する。ただし、当該影響額に重要性が乏しい場合は、注記を省略することができる。

(1) 親会社が子会社を吸収合併したものとした場合との差額による記載

@ 貸借対照表項目

資産合計、流動資産合計、固定資産合計、負債合計、流動負債合計、固定負債合計、純資産合計及びのれん(又は負ののれん)

A 損益計算書項目

売上高、営業損益、経常損益、税引前当期純損益、当期純損益、のれんの償却額(又は負ののれんの償却額)及び1株当たり当期純損益

(2) 親会社が子会社を吸収合併したものとした場合の貸借対照表及び損益計算書の主要項目による記載

(企業結合年度後の取扱い)

316. 第315項の注記事項は、企業結合年度に開示を求めている趣旨を勘案し、企業結合年度の翌年度以降においても、「影響の概算額」の重要性が乏しくなった場合を除き、継続的に開示する。

また、企業結合年度の翌期以降に連結財務諸表を作成することとなった場合には、「影響の概算額」の重要性が乏しくなった場合を除き、当該逆取得を反映した連結財務諸表を作成する。

連結財務諸表原則を適用すべき企業結合における共通支配下の取引等に係る注記事項

316-2.連結原則を適用すべき企業結合であるが、企業結合会計基準の定め(共通支配下の取引等)に準じて会計処理した場合で、その会計処理に関連して企業結合会計基準により一定の開示が求められているときは、当該定めに従い、必要な事項を開示しなければならない。

なお、連結原則を適用すべき企業結合が行われた場合(上記のように企業結合会計基準の定めに準じて会計処理した場合を除く。)であっても、企業結合会計基準で定められている事項(共通支配下の取引等に係る注記事項)を追加情報に準じて開示することを妨げるものではない(第31-2項参照)。

(2) 事業分離に関する注記事項

317. 分離元企業は、事業分離が共通支配下の取引等や共同支配企業の形成に該当しない場合、事業分離年度において、当該事業分離に関する次の事項を注記する(事業分離等会計基準第28項)。

(1) 事業分離の概要

分離先企業の名称、分離した事業の内容、事業分離を行った主な理由、事業分離日及び法的形式を含む事業分離の概要

(2) 実施した会計処理の概要

@ 個別財務諸表においては、以下の内容

ア 移転損益を認識した場合には、その金額、移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額並びにその主な内訳

イ 移転損益を認識しなかった場合には、その旨、受取対価の種類、移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額並びにその主な内訳

A 連結財務諸表においては、持分変動差額の金額及び会計処理

(3) 連結財務諸表における事業の種類別セグメントにおいて、当該分離した事業が含まれていた事業区分の名称

(4) 当期の損益計算書に計上されている分離した事業に係る損益の概算額これには、分離した事業に係る売上高や営業損益が含まれ、セグメント情報の開示に関する会計手法に準じて算定される。

(5) 分離先企業の株式を子会社株式又は関連会社株式として保有すること以外に、分離元企業の継続的関与があるものの移転損益を認識した場合、当該継続的関与の主な概要。

ただし、軽微なものついては注記を省略することができる。なお、当該継続的関与については、例えば、次のような場合が考えられる。

@ 分割時の財産額を限度として弁済の責任を負うこととなる個別催告を受けなかった吸収分割会社の債権者に対する重要な債務がある場合(その旨及び金額)

A 移転した事業に係る出向者に対して出向差額を負担する場合(ただし、明らかに移転する事業の時価の調整項目である場合を除く。)

B 移転した事業から生ずる財又はサービスの長期購入契約がある場合

なお、重要性が乏しい取引については、注記を省略することができるものとし、個々の取引については重要性が乏しいが、事業分離年度における取引全体について重要性がある場合には、(1)及び(2)を注記する(第452項参照)。

また、個別財務諸表又は連結財務諸表において適用がないものについては当該財務諸表において注記を要しないこととし、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じである場合には、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができる。

企業結合に該当しないため結合当事企業にはあたらない分離先企業における注記

318. 分割型の単独新設分割における新設会社のように、企業結合に該当しないため結合当事企業にはあたらない分離先企業においても、第311項(1)及び(4)に準じて注記する。

(3) 子会社が企業結合した場合の親会社(結合当事企業の株主)における注記事項

319. 子会社を結合当事企業とする株主(親会社)は、結合当事企業(子会社)の企業結合により、子会社に該当しなくなった場合には、当該企業結合日の属する連結会計年度において、連結財務諸表上、当該企業結合に関する次の事項を注記する(事業分離等会計基準第54項)。

(1) 子会社が行った組織再編の概要

各結合当事企業の名称、その事業の内容、企業結合を行った主な理由、企業結合日及び法的形式を含む企業結合の概要

(2) 実施した会計処理の概要

(3) 事業の種類別セグメントにおいて、当該結合当事企業が含まれていた事業区分の名称

(4) 当期の連結損益計算書に計上されている結合当事企業に係る損益の概算額

(5) 結合当事企業の株主が結合後企業の株式を関連会社株式として保有すること以外に、結合当事企業の株主の継続的関与があるものの交換損益を認識した場合、当該継続的関与の主な概要。ただし、軽微なものについては注記を省略することができる。

この場合、重要性が乏しい取引については、注記を省略することができるものとし、個々の取引については重要性が乏しいが、連結会計年度における取引全体について重要性があるときは、(1)及び(2)を注記する(第452項参照)。

(4) 重要な後発事象等の注記

企業結合に関する後発事象等

320. 貸借対照表日後に完了した企業結合が重要な後発事象に該当する場合には、第306項(ただし、第306項(2)及び(9)から(11)までを除く。)、第311項(ただし、第311項(3)及び(5)を除く。)、第313項及び第314項に準じて注記を行い、未確定の事項については注記を要しないとされている(企業結合会計基準 四 2.(4))。

321. 企業結合の主要条件が合意されたが貸借対照表日までに完了していない場合や貸借対照表日後に企業結合の主要条件が合意された場合(ただし、第320項に該当する場合を除く。)には、当該企業結合の識別結果に従い、企業結合会計基準 四 2.(4)に準じて注記を行う(第457項参照)。

事業分離に関する後発事象等

322. 分離元企業は、貸借対照表日後に完了した事業分離が、重要な後発事象に該当する場合には、第317項に準じて注記を行う。ただし、未確定の事項については注記を要しない(事業分離等会計基準第30項)。

323. 分離元企業は、事業分離の主要条件が合意されたが貸借対照表日までに完了していない場合や貸借対照表日後に事業分離の主要条件が合意された場合(ただし、第322項に該当する場合を除く。)には、第317項(1)に準じて注記を行う(事業分離等会計基準第29項)(第457項参照)。

子会社が企業結合した場合の親会社における後発事象等

324. 子会社を結合当事企業とする株主(親会社)は、貸借対照表日後に完了した企業結合が、重要な後発事象に該当する場合には、第319項に準じて注記を行う。ただし、未確定の事項については注記を要しない(事業分離等会計基準第56項)。

325. 子会社を結合当事企業とする株主(親会社)は、企業結合の主要条件が合意されたが貸借対照表日までに完了していない場合や貸借対照表日後に企業結合の主要条件が合意された場合(ただし、第324項に該当する場合を除く。)には、第319項(1)に準じて注記を行う(事業分離等会計基準第55項)(第457項参照)。

4.企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額の開示(パーチェス法が適用される場合)

(1) 基本的な考え方

326. 当該企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額(以下、本項及び次項において「連結損益計算書への影響の概算額」という。)の算定にあたっては、以下の事項に留意する必要がある(第454項参照)。なお、過年度の期首に企業結合が行われたものと仮定した当期の連結損益計算書への影響の概算額を追加的な情報として任意に開示する場合(企業結合会計意見書 三 6 なお書き)も同様の考え方による。

(1) 連結損益計算書への影響の概算額算定にあたり、金額的に重要性があると見込まれるものについては、前提条件を設定する。

この場合、取得企業の業績推移の把握に役立つ情報を提供するという趣旨を踏まえて、どのような項目について前提条件を設けるかを判断する。

(2) 取得企業における恣意的な判断を排除する。

@ 期首から企業結合日までの期間に被取得企業が計上した特別損益は、原則としてそのまま反映する。この場合、特別損益に重要性がある場合には、その内容を注記する?/p>

A 企業結合のシナジー効果を期首に遡って算定しない。

(3) 取得企業が通常の努力で入手可能な情報を使用する。

@ 取得企業の期首時点における被取得企業の資産・負債の時価の再測定は行わない。

(例えば、企業結合時に生じたのれんや持分変動差額については、再計算を行う必要はない。)

A 被取得企業の当期首から企業結合日までの期間において適正に算定された収益及び期間損益を基礎とする?/p>

なお、1 株当たり当期純損益を注記する場合(第309項参照)には、通常の1 株当たり当期純損益に以下の額を適切に調整する。

ア 連結損益計算書への影響の概算額として加算した被取得企業の損益

イ アに対応した期間における被取得企業の平均株式数に企業結合による株式の交換比率を調整した株式数

(2) 前提条件の例示

327. 連結損益計算書への影響の概算額の算定の前提条件の例示としては、以下のものがあげられる。

(1) 取得企業と被取得企業の決算期が同じ場合

@ 当期首から企業結合日までの間の結合当事企業間における取引については消去する(内部利益相当額も消去)。

A 被取得企業から受入れた重要な資産及び負債については、取得後の会計方針に基づいた調整計算(減価償却費、退職給付引当金繰入額等)を行う?/p>

B 企業結合時に新たに認識された重要なのれん等の無形固定資産の償却額、負ののれんの償却額の調整計算(例:企業結合時の当該のれん等の金額に基づく年間の償却額等を算定し、結合企業が計上した償却額等を控除)を行う。

C 現金を対価とした企業結合において、現金調達のための借入金額が重要である場合では、金利費用の調整計算を行う?/p>

D 当期純損益への影響額算定のために適用する税率は、取得企業の見積実効税率とする。

(2) 取得企業と被取得企業の決算期が異なる場合

@ 取得企業と被取得企業の決算期が同じ場合の考え方を基礎としつつ、被取得企業の期間損益を月数按分等の合理的な方法により、取得企業の期首から企業結合日までの期間に対応した被取得企業の適正な収益、期間損益を算定し、その上で一定の調整を行う?/p>

A 調整項目は、決算期が同じ場合と同様とする?/p>

なお、決算期の差異が3か月を超えない場合で、企業結合後の連結財務諸表の作成において連結原則注解(注解7)(決算日に差異がある場合の取扱いについて)に従う場合は、比較可能性の確保の観点から、影響の概算額の算定期間も同様の取扱いとする。

例えば、X2年2月に株式交換(株式交換完全親会社(取得企業)の決算期が3月期、株式交換完全子会社(被取得企業)の決算期が12月期とする。)が行われた場合には、株式交換完全親会社(取得企業)は、株式交換完全子会社(被取得企業)の直前期(X1年1月〜X1年12月)の業績を基礎に連結損益計算書への影響の概算額を算定することになる?/p>

5.過年度の期首に企業結合が行われたものと仮定した当期の連結損益計算書等への影響の概算額を任意に開示する場合(持分プーリング法が適用される場合)

(1) 基本的な考え方

328. 過年度の期首に企業結合が行われたものと仮定した当期の連結損益計算書又は個別損益計算書への影響の概算額(以下、本項から第330項までにおいて「連結損益計算書等への影響の概算額」という。)を追加的な情報として任意に開示する場合(企業結合会計意見書 三 6 なお書き)のその算定にあたっては、以下の事項に留意する必要がある。なお、持分プーリング法に準じた処理方法が適用される場合において、過年度の期首に企業結合が行われたものと仮定した当期の連結損益計算書等への影響の概算額を追加的な情報として任意に開示する場合も同様の考え方による。

(1) 金額的に重要性があると見込まれるものについて前提条件を設定する。

結合後企業の業績推移の把握に役立つ情報を提供するという趣旨を踏まえて、どのような項目について前提条件を設けるかを判断する。

(2) 結合当事企業における恣意的な判断を排除する。

@ 企業結合年度と同様に、会計処理方法の統一、企業結合前の取引の消去などを行う?/p>

A 各々の結合当事企業において適正に算定された収益及び期間損益を基礎とする?/p>

B 企業結合のシナジー効果を遡って算定しない。

なお、1株当たり当期純損益を注記する場合には、通常の1株当たり当期純損益に以下の額を適切に調整する。

ア 連結損益計算書等への影響の概算額として加算した結合当事企業の損益

イ アに対応した期間における各結合当事企業の平均株式数に企業結合による株式の交換比率を調整した株式数

(2) 前提条件の例示

329. 連結損益計算書等への影響の概算額の算定の前提条件の例示としては、以下のものがあげられる。

(1) 結合当事企業間における重要な取引は相殺消去する。

(2) 結合当事企業の重要な債権債務は相殺消去し、それに伴い貸倒引当金は減額修正する。

(3) 重要な取引によって取得した棚卸資産、固定資産その他の資産に含まれる損益は全額消去する。

(4) 結合当事企業間において重要な減価償却資産の売買が行われた場合には、当該取引により生じた損益を消去した後の帳簿価額を基礎とした減価償却費に修正する。

(5) 会計方針の統一は、開示対象期間の最初の事業年度期首に行われたと仮定する。その場合の変更に伴う損益は特別損益ではなく、当該事業年度の期首の利益剰余金に直接賦課する。なお、重要な会計方針に不統一がある場合は、その旨を開示する。

(3) 前提条件の開示

330. 連結損益計算書等への影響の概算額の算定にあたって採用した前提条件のうち、重要なものについては、その内容を開示する。

]T.適用時期等

331. 平成18年改正の本適用指針の適用時期は次のとおりとする(第459項参照)。

(1) (2)の事項を除き、平成18年4月1日以後開始する事業年度から適用する(企業結合会計意見書 四)(事業分離等会計基準第57項)(第458項参照)。ただし、平成18年改正の本適用指針公表日前の組織再編については、平成17年公表の本適用指針(平成18年改正前の本適用指針をいう。以下同じ。)によることができる。

(2) 第203-2項、第206項(4)、第218項(4)、第247項(3)及び第254項(3)の取扱いは、「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(平成18年法務省令第87号)により改正後の会社計算規則(平成18年法務省令第13号)が適用される組織再編から適用する。

331-2. 平成19年改正の本適用指針は、平成20年4月1日以後の組織再編について適用する。 ただし、平成19年改正の本適用指針は、その改正日以後終了する事業年度における平成20年3月31日以前の組織再編についても適用することができる(この場合、第331項(2)の事項に係る適用時期については、同項の定めによる。)。

332. 平成17年公表の本適用指針の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理については、同適用指針の適用後においても継続することとし、同適用指針の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な修正は行わないものとする。

]U.議 決

333. 平成17年公表の本適用指針は、第95回企業会計基準委員会に出席した委員12名全員の賛成により承認された。

333-2. 平成18年改正の本適用指針は、第118回企業会計基準委員会に出席した委員11名全員の賛成により承認された。

333-3. 平成19年改正の本適用指針は、第140回企業会計基準委員会に出席した委員11名全員の賛成により承認された。

結論の背景

検討の経緯

334. 企業会計審議会から平成15年10月31日に公表された企業結合会計意見書 四 3.により、企業結合会計基準を「実務に適用する場合の具体的な指針等については、今後、関係府令を整備するとともに」、「企業会計基準委員会において適切に措置していくことが適当である」とされ、また、その指針については、「合併、株式交換・株式移転、会社分割、営業譲渡・譲受等、企業再編の形式ごとの連結財務諸表上及び個別財務諸表上の適用方法」を含むとされている。

335. また、当委員会は、事業分離における分離元企業の会計処理及び結合当事企業の株主に係る会計処理等を定めるため、平成17年12月27日に事業分離等会計基準を公表した。

336. 当委員会では、これらの2つの会計基準の適用に関する指針を企業再編(組織再編)の形式ごとに統合したものとして、本適用指針を示している。これは、ある1つの組織再編は、企業結合及び事業分離、さらには関連する株主の会計処理にも関係することが多いため、 2つの会計基準の適用に関する指針を一体として示した方が利用者の便宜に資すると考えたことによる。

337. 当委員会では、平成17年7月に企業会計基準適用指針公開草案第8号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(案)」を公表し、広く各界の意見を求めた。

当委員会では、寄せられた意見も参考にしてさらに審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、本適用指針を公表することとした。

338. なお、当委員会では、平成17年12月9日に企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」を公表している。このため、本適用指針においては、企業結合会計基準で用いられている資本及び純資産額という用語を同会計基準における用語に置き換えている。

338-2. 平成18年には、平成18年5月1日に会社計算規則が施行されたことに伴う改正(自己株式等会計基準の改正に対応する改正及び共通支配下の取引等に関する会計処理の一部改正)や、株式交換等に伴う株式交換完全子会社等の会計処理に関する定めを新設するなどの改正を行った。

338-3. 平成19年には、会社法における合併等対価の柔軟化に関する規定が平成19年5月に施行されたことに伴う改正や、株式交換に伴う株式交換完全子会社の会計処理に関する定めを追加するなどの改正を行った。

T.取得と持分の結合の識別

1.企業結合会計基準の取得と連結原則の子会社との関係

339. 取得と持分の結合の識別の検討にあたり、企業結合会計基準における「取得」と連結原則における「子会社」との関係、すなわち、両基準の「支配」概念を整理する必要がある。

例えば、A社の100%子会社a社とB社の100%子会社b社が合併し、合併会社ab社に対するA社とB社の議決権比率は51対49となったものとする。

(1) 連結原則によれば、A社はab社の議決権の過半数を所有し、意思決定機関を支配しているため、ab社はA社の子会社と判定されることになる。

(2) 企業結合会計基準 三 1.(1)A及び同 注解(注3)によれば、議決権比率要件(結合後企業に対する議決権比率が概ね45%から55%の範囲内であること)を満たしているため、議決権比率以外の支配要件を満たせば持分の結合と判定されることになる。

このように、連結原則によればA社は合併後のab社を「支配」したこととなるが、企業結合会計基準によればA社とB社はともにab社を「支配」したとは認められず「持分の結合」と判定される可能性がある。

しかしながら、結合後企業が子会社に該当する場合など、連結原則上、結合後企業を支配する株主が存在する場合には、次の理由により、当該企業結合は「取得」と判定することが合理的と考えられる。このため、本適用指針では、議決権比率要件において結合後企業を支配する株主が存在する場合には、その時点で「取得」と判定することとした(第32項参照)。[設例1]

@ ある株主が結合後企業を支配している場合には、経済的実態が「持分の結合」(企業結合会計基準 二 5.)と判定されるような状況にはなく、また、会計基準間の整合性の観点から「取得」(企業結合会計基準 二 4.)と判定することが合理的であること

A 「取得と持分の結合の識別」(企業結合会計基準 三 1.)において、結合後企業が他の会社の子会社に該当する場合の取扱いは定められていないが、企業結合会計意見書三 2.(3)の記載から、総体としての株主による判定は、公開企業同士の合併等、結合当事企業に多数の株主が存在することを前提とした定めと解され、もし、結合後企業が他の会社の子会社に該当するような場合には「取得」と判定することが想定されているものと解されること

B 企業結合会計意見書 三 2.(3)Aでは、議決権比率以外の支配要件に関する記述の中で「既に議決権比率が等しいという数値基準を充たしているのであるから、結合後企業の株主総会の支配関係について改めて株主を個別に分析してその支配関係を判定することは行わないこととした。」とされ、結合後企業の株主構成は考慮しないこととされている。しかし、企業結合会計意見書は、上記Aの理由から、結合後企業を支配する株主が存在するような場合には、議決権比率の判定の時点で「取得」と判定され、議決権比率以外の支配要件では、結合後企業の株主の中に当該結合後企業を支配する株主は存在しないことを前提とした記述と解されること

2.いわゆる三角合併などの取扱い

340. 子会社が親会社の株式を対価として他の企業と企業結合する場合には、取得と持分の結合の識別において、対価要件を満たさないため、常に当該子会社が他の企業を取得したものと判定されてしまうことになる(共通支配下の取引に該当する場合及び逆取得に該当する場合を除く。)。

しかし、当該取引の実質は、親会社と他の企業との企業結合であるため、その実質に従い、連結財務諸表上、当該親会社と当該他の企業との企業結合とみなして判定することとした。また、連結財務諸表と個別財務諸表における取得企業の整合性の観点から、その判定結果を当該子会社の個別財務諸表の会計処理にも適用することとした(第9項参照)。

3.対価要件の取扱い

(1) 議決権のある株式の内容

341. 平成13年の商法改正により、株主総会の一部の事項について議決権を行使できない種類株式の発行も認められるようになったため、どのような議決権を有する株式が議決権のある株式に該当するかという論点がある。

企業結合会計意見書 三 2.(3)により、持分の継続・非継続の判断にあたり「支配をより重視する最近の国際的な動向にも配慮し、企業結合に伴って支配・被支配の関係が生じたときは、支配される側の持分はそこで継続を断たれると考えることとした」とされ、支配・被支配の関係が重視されている。

このように、支配を重視する企業結合会計基準の趣旨を踏まえ、本適用指針では、議決権のある株式とは、次のいずれの事項に関しても、株主総会における議決権を有する株式をいうものとした(第10項参照)。

(1) 判定対象となる企業結合の承認に関する事項

(2) 取締役の選任及び解任に関する事項

(1)については、当該企業結合の承認に関する議決権そのものであること、(2)については、取締役が重要な経営事項の意思決定と執行又はその監督を行うことから、取締役の選任及び解任に関する議決権は、支配・被支配の関係を判定するにあたり極めて重要と考えたからである。

なお、本適用指針では、議決権のある株式の議決権とは、株主総会における議決権をいうものとし、種類株主総会における議決権は含まないものとしている。結合当事企業の株主に交付する株式の内容について差異を設けることは、持分の結合の概念にはなじまないと考えられるからである。

(2) 対価要件の判定の前提

342. 企業結合会計基準 注解(注2)に示されている対価要件の判定の前提(第11項参照)は、企業結合の対価として、形式的には議決権のある株式を交付していても、実質的には議決権のある株式以外の財産を交付していると認められる場合には、対価要件を満たさなかったものとして取り扱う趣旨と解される。

このうち、企業結合の合意成立日前1年以内に当該結合目的で自己株式を取得していないことが前提の1つとされている。企業結合会計基準 注解(注2)で定められている対価要件の判定の前提は、限定列挙と解されるが、一方の結合当事企業が他の結合当事企業の株式を取得する行為も自己株式を取得することと経済効果は同様と考えられるため、本適用指針では、当該取引を自己株式を取得する取引に準じて取り扱うこととした(第11項(6)また書き参照)。

(3) 企業結合の対価として議決権のある株式以外の財産が交付された場合の取扱い

343. 企業結合会計基準 三 1.(1)@により、対価要件の内容は「企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であること」とされている。ここで「原則として」と規定されていることから、議決権のある株式以外が交付されても対価要件を満たす場合とは、どのような取引があるかという論点がある。

本適用指針では、対価要件は、被結合企業の株主にとって持分が継続しているかどうかという観点から判断することが適当と考え、現金等、議決権のある株式以外の財産を対価とした場合でも、その程度が一般に重要性が乏しいと考えられる場合には、対価要件を満たしたものとして取り扱うこととした(第12項参照)。

(4) 議決権のない株式等に議決権のある株式を交付した場合の取扱い

344. 取得と持分の結合の識別は、概念上は、結合当事企業の株主の持分が継続しているかどうかによる判定であるため、対価要件の取扱いも持分の継続・非継続の観点から考えることが適当である。

例えば、被結合企業が発行していた議決権のない種類株式に結合企業が議決権のある株式を交付しても、いずれの結合当事企業の株主にとっても持分の継続が断たれるわけではない。また、対価要件を議決権のある株式同士の交換取引に限定すると、株式と事業との交換となる会社分割の場合には、常に対価要件を満たさないことになり、妥当な判定結果とはならない。

このため、企業結合の対価として議決権のある株式を交付し、それと引き換えに取得した財産が議決権のある株式以外の場合であっても、対価要件を満たしたものとして取り扱うこととした(第13項参照)。

なお、会社分割の場合や被結合企業が発行していた議決権のない種類株式に対して結合企業が議決権のある株式を交付した場合には、企業結合日において、被結合企業の議決権のある株式が新たに増加することになるが、当該議決権数の増加は、議決権比率要件において考慮されることになる(第15項ただし書き参照)。

4.議決権比率要件の取扱い

(1) 判定基準日の考え方

345. 議決権比率要件の定めについて、企業結合会計基準 三 1.(1)Aでは、「結合後企業に対して各結合当事企業の株主が総体として有することになった議決権比率」によることとされているため、その判定基準日はいつかという論点がある。

本適用指針では、次の理由により、企業結合の合意成立日(第11項(6)参照)を議決権比率の判定基準日とすることとした(第15項参照)。

(1) 企業結合にあたっては、各結合当事企業の代表取締役が株式の交換比率等を含む企業結合に関する契約書を作成し、さらに、通常、各結合当事企業の株主総会において当該契約書を承認することが必要になる。

「結合後企業に対して各結合当事企業の株主が総体として有することになった議決権比率」は、当該契約書に記載された株式の交換比率に大きく依存していることを踏まえると(当該契約書には、株式の交換比率のほかに、定款変更、追加される取締役及び監査役など結合後企業の基本的事項が規定されることとなる。)、当該契約書を承認した当事者(当該契約書を作成した代表取締役(結合当事企業)及びそれを承認した株主)の意思決定を重視して議決権比率の判定を行うことが、結合後企業に対する支配・被支配の関係を重視する企業結合会計基準の趣旨に合うものと考えられること

(2) 実務上、結合当事企業が企業結合の合意成立日に、議決権比率の判定結果を、概ね把握できることが適当であること

(2) 調整議決権数の取扱い

346. 議決権比率の算定にあたり、「行使し得る議決権の総数」から「調整議決権数」を控除することとしている(第18項参照)。これは、結合後企業に対する支配・被支配を考えた場合、企業結合の合意成立日においては議決権を有していたとしても、結合後企業に対する議決権が、法律上、行使できなくなることが明らかな株式に係る議決権数については、議決権比率の算定基礎となる議決権数から控除することが適当と考えられるためである。

(3) 対価要件における議決権と議決権比率要件における議決権の関係

347. 本適用指針では、対価要件における議決権のある株式の議決権と議決権比率要件における議決権は同じ権利内容を指すと考え、2つの判定要件における議決権の内容について整合性を図ることとした(第17項参照)。

(4) 潜在株式の議決権行使の可能性の取扱い

348. 議決権比率の判定にあたり、「潜在株式の議決権行使の可能性を考慮することが必要である」(企業結合会計意見書 三 2.(1))が、本適用指針では、議決権比率の判定にあたり、これを限定的に取り扱い(第19項参照)、議決権比率以外の支配要件において、その実態を踏まえて判定する(第25項参照)こととした。その理由は次のとおりである。

(1) 本適用指針では、議決権比率の判定基準日を企業結合日ではなく、企業結合の合意成立日としている。これは、支配・被支配関係の判定にあたり、企業結合を承認した当事者の意思決定を重視したためである。したがって、実際に、企業結合に関する意思決定に関与していない潜在株主の議決権は、原則として、議決権比率要件の考慮の対象外とすることが整合的であると考えた。

(2) 潜在株主は企業結合に関する意思決定に関与していないが、議決権比率要件の数値の客観性を確保しつつ、その潜在株主の意思を適切に推定する方法として、企業結合の合意成立日における潜在株式のうち、行使可能又は転換可能な状態にあり、かつ、経済的に行使又は転換することが合理的であるものは、すべて行使又は転換されたものとみなす方法も考えられるのではないかとの意見がある。しかしながら、当該取扱いは、実際に行使又は転換していないことを考慮すると、支配・被支配の関係を判定するうえで不合理な結果を伴う可能性があることから、適当ではないと考えられる。むしろ、潜在株式の存在は、議決権比率以外の支配要件においてその実態を踏まえて判定することが適当であると考えた。

349. 次に、議決権比率要件において考慮すべき潜在株式の議決権とはどのようなものかが論点となる。

会社法上、新株予約権(会社法第2条第21号)には、取得条項付新株予約権(会社法第236条第1項第7号イ及び第273条)がある。取得条項付新株予約権は、通常の新株予約権と異なり、一定の事由(取得事由)が生じたことを条件として、新株予約権の発行会社が新株予約権を取得し、対価として株式等を交付することができるものである。ただし、取得事由の定め方は様々であり、また、取得した新株予約権の対価として交付する財産が議決権のある株式以外の場合には、財産交付後も結合当事企業の支配・被支配の関係に変化を生じさせるものではない。このため、本適用指針では、結合当事企業が企業結合の合意成立日の翌日から企業結合日の前日までの間に取得条項付新株予約権の取得の対価として議決権のある株式を交付した場合のうち、新株予約権の取得事由が結合当事企業の意思によるものと認められるもののみを議決権比率要件において考慮することとした。

一方、通常の新株予約権については、株式交付の請求権を有しているのは、新株予約権者であって、結合当事企業又は結合当事企業の株主ではないため、議決権比率要件において考慮すべき潜在株式には該当しないものとして取り扱うこととした。

なお、企業結合日以後に、新株予約権者などの潜在株主が潜在株式を行使又は転換し、結合後企業の議決権数に変動が生じても、議決権比率の判定基準日を企業結合の合意成立日としているため、本要件の判定においては、原則として考慮しないこととした。

ただし、企業結合の合意成立日後に潜在株式が結合当事企業の意思とは関係なく行使又は転換され、結合後企業が他の会社の子会社に該当した場合には取得と判定されることになる(第7項参照)。また、企業結合日後も行使されない潜在株式の議決権行使の可能性は、議決権比率以外の支配要件で考慮されることとなる(第25項参照)。

350. 会社法の下では、取得条項付株式(会社法第2条第19号)の制度がある。 取得条項付株式のうち、結合当事企業の意思により、議決権のない株式から議決権のある株式に引き換えられた場合、又は議決権のある株式から議決権のない株式に引き換えられた場合には、議決権比率の変動に関して、取得条項付新株予約権と同様の経済的効果がある。 このため、取得条項付株式のうち一定の要件に該当するものは、取得条項付新株予約権の取扱いと同様、議決権比率の再判定の対象とすることとした(第21項(4)参照)。

(5) 議決権比率の再判定

351. 議決権比率の判定においては、企業結合の承認に関与した当事者の意思決定を重視する立場から、その判定基準日を企業結合の合意成立日としている(第15項参照)。

このため、本適用指針では、もし、企業結合の合意成立日における状況を当事者自らの意思により変更したと認められるような第21項(1)から(5)の取引があった場合には、企業結合日において、当該取引による議決権数の増減を加味して議決権比率の再判定を行うこととした。

ただし、当該取引のうち、結合後企業に対する支配・被支配の関係を生じさせるものではないと認められる場合には、議決権比率の再判定の対象外の取引として取り扱うこととした。

5.議決権比率以外の支配要件の取扱い

(1) 重要な経営事項の意思決定機関の構成員

352. 議決権比率以外の支配要件の1つとして、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)の構成員の人数がある。 本適用指針では、持分の結合と判定される場合とは、次のいずれの人数も結合後企業の過半数を特定の結合当事企業の関係者(役員等)が占めないときであるとした(第24項参照)。

(1) 取締役の人数

(2) 取締役会以外の重要な経営事項の意思決定機関の構成員の人数

取締役会の構成員については、社外取締役、非常勤取締役も含まれるが、いずれかの結合当事企業の役員等が常勤取締役あるいは執行役の大半を占めるなど、主として業務執行に携わる役員の割合が大幅に異なる場合には、その実態を踏まえて判定することとした。

また、いずれかの結合当事企業の代表者の割合が大幅に異なる場合にも、上記の取扱いに準ずることになる。代表者は単独では重要案件を決定できないものの、法律上も実務上も業務執行に関する広範な権限を有していることを考慮したためである。

(2) 多額のプレミアムの考え方

353. 公開企業同士が企業結合する場合、株式の交換比率算定における最も重要な要素は、一般に株価と考えられる。このため、承認された株式の交換比率と株価に基づいて算定した株式の交換比率との間には支配の獲得を目的とした企業結合の場合を除き、重要な乖離はないと考えられる。

ただし、実務上、株式の交換比率の算定にあたり、結合当事企業は、市場における企業の評価となる株価のみならず、お互いの事業の状況や財務内容について外部の専門家とともに詳細な調査を行い、さらに企業結合後のシナジーなども考慮した評価額を別途算定することが通常である。 企業結合に関する契約書を承認する株主総会に提案される株式の交換比率には当該評価額も考慮されているため、当該交換比率と株価に基づいて算定した株式の交換比率とは必ずしも同じにはならない。

したがって、第27項では、多額のプレミアムの発生の判定にあたり、結合当事企業の双方の企業価値を共通の合理的な評価技法により算定していることを要件として、当該算定結果が概ね等しいときには、多額のプレミアムが発生している場合に該当しないものとして取り扱うこととした。これは、持分の結合と判定される可能性のある企業結合の場合には、お互いの企業価値を算定することが想定され、逆に、ある企業が他の企業との株式の交換比率を一方的に公表しているような場合には、取得として取り扱うことが適当であるとの考えを考慮したものである。

この他、多額のプレミアムに該当するかどうかの判定規準として数値規準(例えば企業結合の合意公表日直前の株価と当該株価に交換比率を乗じた額とを比較し、一定割合以上の乖離率が発生しているかどうか)を用いることも検討したが、具体的な数値を示すことは困難なこと、また、必ずしも数値規準による判定が適切とはいえないと考え、数値規準による判定は行わないこととした。

なお、取得と持分の結合の識別規準では、結合当事企業の企業規模、すなわち、株価に基づき算定された時価総額が概ね等しいことは要件として明示されていないが、持分の結合と判定される企業結合は、議決権比率要件を満たし、かつ、本要件も満たしていることになるので、結合当事企業の企業規模も概ね等しいことが想定されていると解される。

U.取得の会計処理

1.取得企業の決定

(1) 結合後企業が他の会社の子会社等に該当する場合の取得企業の決定の考え方

354. 「取得企業の決定は、取得と持分の結合とを識別する規準と整合した形で行うこと」(企業結合会計意見書 三 3.(1))とされている。

本適用指針では、議決権比率要件で取得と判定された場合のうち、結合後企業に支配株主が存在するときは、以下の理由により、当該株主により企業結合前から支配されていた結合当事企業(子会社等)を取得企業とすることとした(第32項参照)。

(1) 当該企業結合は、結合後企業を支配する株主の意思により行われたと考えることが合理的であり、企業結合前から子会社等である結合当事企業を取得企業とすることが企業結合の実態に適合していると考えられること

(2) 連結財務諸表上の取得企業と個別財務諸表上の取得企業とを整合させることが適当と考えられること

2.取得原価の算定方法

(1) 支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定

355. 取得の対価は、「支払対価となる財の時価と取得した純資産の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定する」(企業結合会計基準 三 2.(2)@)こととされている。本適用指針では、企業結合会計基準の趣旨に従って、支払対価として取得企業の株式が交付された場合の取得の対価の算定における優先順位を示している(第38項参照)。

356. 企業結合会計意見書 三 3.(2)@により、「公開企業が自己の株式を交付して非公開企業の純資産を取得した場合には、通常、その公開企業株式の時価の方が非公開企業の純資産の時価よりも高い信頼性をもって測定できることから、取得原価は公開企業株式の時価を基礎にして算定されることになる」とされている。このため、取得企業が公開企業の場合には、第38 項(1)に従い、原則として、交付した株式の市場価格を基礎に取得の対価を算定することとした。

次に、取得企業の株式に市場価格がない場合には、取得企業の株式の「合理的に算定された価額」を基礎として取得の対価を算定し、それができない場合には、被取得企業の株式の「合理的に算定された価額」を基礎として取得の対価を算定することとした。このように本適用指針では、取得企業又は被取得企業の株式の時価の算定において「合理的に算定された価額」も時価の 1つとして取り扱っている。これは、独立第三者間取引として行われる株式の交換比率の決定において、「合理的に算定された価額」が利用されている場合には、当該価額が取引時点の時価を表していると考えられるからである。

この点に関して、金融商品会計実務指針第63項では、「市場で売買されない株式について、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価(合理的に算定された価額)とはしない」としているが、これは期末における評価を前提とした定めと考えられるので、取引価額の測定である取得の対価の算定においては、このような「合理的に算定された価額」も時価として取り扱うことが合理的である。

なお、取得企業が非公開企業、被取得企業が公開企業の場合の取得の対価の算定は、原則として、被取得企業株式の市場価格に基づいて取得の対価を算定する。

以上の評価方法により取得の対価を算定した場合には、取得原価の算定と取得原価の配分(第51項参照)とは別個の手続として行われるため、通常、のれん(又は負ののれん)が生じることになる。

357. 最後に、取得の対価の算定方法として上記のいずれの方法によることも困難な場合には、被取得企業から取得した識別可能資産及び負債の正味の評価額により取得の対価を算定することとした。これは、「企業結合会計上の測定値として妥当と認められる時価純資産額が算定されている場合には、その時価純資産額を基礎にして取得する純資産の時価を算定できる」(企業結合会計意見書 三 3.(2)B)とされていることに対応するものである。この方法によった場合には、取得原価の算定と取得原価の配分が一体の手続となるため、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を除き、のれん(又は負ののれん)は発生しない。

なお、被取得企業から取得した識別可能資産には、第56項の要件を満たす識別可能な無形資産を含むことに留意する必要がある。

(2) 企業結合の合意公表日後、企業結合日までに株式の交換比率等が変更された場合の取得の対価の算定

358. 企業結合の合意公表日後、企業結合日までに、株式の交換比率等が変更された場合には、取得の対価が修正されたものと考え、当該変更公表日前の合理的な期間における株価を用いて取得の対価を算定し直すこととした。

なお、企業結合日後に株式の交換比率等が変更された場合には、企業結合日の会計処理の修正として「将来の業績に依存する条件付取得対価」の会計処理に準じて取得の対価を算定する。

(3) 株式交付日の株価を基礎として取得の対価を算定できる場合

359. 企業結合会計基準 三 2.(2)Bにより、取得の対価となる財の時価は「株式交付日の株価が当該主要条件が合意されて公表された日前の合理的な期間における株価と大きく異ならない場合には、当該株式交付日の株価を基礎として算定することができる」とされており、「大きく異ならない場合」の解釈が論点となる。

取得の対価の算定基礎となる株価の測定時点の相違による差異は、取得原価の差異を意味することとなり、取得企業で計上されるのれん(又は負ののれん)の金額に影響を与えることとなる。また、のれん(又は負ののれん)は償却をとおして取得企業の将来の損益に影響を与えることになる。

このため、本適用指針では、株式交付日(企業結合日)の株価を基礎として取得の対価を算定できる場合の条件として、測定時点の相違による株価の差異だけでなく、取得企業の財政状態及び経営成績に与える影響も加味して総合的に判断することとした。

なお、「大きく異ならない」の解釈を数値規準(例えば企業結合の合意公表日の株価と株式交付日の株価との乖離が一定割合以下とするなど)によることも検討したが、企業結合の規模や結合当事企業の財政状態及び経営成績も考慮することが適当であると考えたため、数値規準による判定は行わないこととした。

(4) 取得が複数の取引により達成された場合の取得の対価の算定

360. 取得の対価は、「原則として、取得企業が被取得企業又は取得した事業に対する支配を獲得するに至った個々の取引ごとに取得の対価となる財の時価を算定し、それらを合算したものとする」(企業結合会計基準 三 2.(2)A)とされている。したがって、取得企業が企業結合前から保有していた被取得企業の株式をその他有価証券に分類し、期末に時価評価を行っていても、企業結合前から保有していた株式に対応する部分の取得の対価は、当該株式を取得したときの時価、すなわち、帳簿価額を基礎に算定することになる。

本適用指針では、取得企業において、企業結合前に被取得企業の株式を減損処理している場合には、減損処理後の帳簿価額を基礎として取得の対価を算定することとした。当該方法によると、帳簿価額は株式取得時の時価を表さないことになるが、これは以下の点を考慮したためである。

(1) 減損処理前の帳簿価額に基づき取得の対価を算定すると、過年度に実施した減損損失相当額をのれんとして資産に計上することとなり、また、その償却額を再び損益に計上することになること

(2) 減損処理を行った場合には帳簿価額が改訂されているため、減損処理前の帳簿価額により取得の対価を算定することは実務上、困難な場合があること

(5) 吸収合併存続会社が新株予約権等を交付したときの会計処理

361. 吸収合併消滅会社が新株予約権を発行している場合、当該新株予約権は合併の効力発生日に消滅することになるが(会社法第750条第4項)、吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる吸収合併存続会社の新株予約権又は現金に関する事項を、合併契約において定めなければならないとされた(会社法第749条第1項第4号及び第5号。なお、会社法上、新設合併又は吸収合併以外の組織再編においては対価として現金を交付することはできない。)。

当該吸収合併が取得と判定された場合、吸収合併存続会社(取得企業)が吸収合併消滅会社の新株予約権者に交付した新株予約権又は現金は、取得に直接要した支出額に準じて会計処理することが適当と考えられる(第50項(2)参照)。なお、当該吸収合併が共通支配下の取引等にあたり、吸収合併消滅会社の少数株主に対して新株予約権を交付したときには、子会社である吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額を引継ぐこととなる(第206項(2)A参照)。

また、当該吸収合併が持分の結合と判定された場合、吸収合併存続会社は吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による純資産額を引継ぐことになる。このため、会計上は、新株予約権の法的な取扱いにかかわらず、吸収合併存続会社は、合併期日において、吸収合併消滅会社の新株予約権の適正な帳簿価額をいったん引継いだうえで、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社の新株予約権者との取引は、合併期日において、持分の結合の考え方に照らして、会計処理することが適当と考えた。具体的には、吸収合併存続会社が自社の新株予約権を交付した場合には、吸収合併存続会社が交付した新株予約権は吸収合併消滅会社の新株予約権の適正な帳簿価額を付すこととし、吸収合併存続会社が現金を交付した場合には、その差額を損益に計上することとした(第140項参照)。

当該取扱いは、吸収合併のほか、新設合併、会社分割における新株予約権に関する会計処理にも適用する。

3.取得原価の配分方法

(1) 識別可能資産及び負債への取得原価の配分額の算定

362. 識別可能資産及び負債の時価は、企業結合日の時価を基礎として算定される。企業結合会計意見書三3.(3)Bでは、「時価は、強制売買取引や清算取引ではなく、いわゆる独立第三者間取引に基づく公正な評価額であり、通常、それは観察可能な市場価格であるが、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額である」とされている。

合理的に算定された価額は、一般に、以下に示すような見積方法が考えられ、資産の特性等により、これらのアプローチを併用又は選択して算定する(減損会計適用指針第28項(2)及び第109項)(第53項参照)。

(1) コスト・アプローチ

同等の資産を取得するのに要するコストをもって評価する方法をいい、例えば原価法が該当する。

(2) マーケット・アプローチ

同等の資産が市場で実際に取引される価格をもって評価する方法をいい、例えば取引事例比較法が該当する。

(3) インカム・アプローチ

同等の資産を利用して将来における期待される収益をもって評価する方法をいい、例えば収益還元法や割引将来キャッシュ・フロー法が該当する。

(2) 取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い

363. 取得原価の配分額は、取得した資産及び引き受けた負債の企業結合日における時価を基礎として算定することが原則であるが、実務の負担を考慮して、被取得企業の帳簿価額が適正であり、かつ、その帳簿価額と時価との差異が重要でないと見込まれる場合には、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価の配分額を算定できることとした。

したがって、例えば、土地など、通常、適正な帳簿価額と時価等との差異が重要になると想定される項目については、当該方法の適用について慎重に判断する必要がある。

(3) 時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例

364. 取得原価の配分額の算定にあたり、時価が一義的に定まりにくい土地等の資産を何らかの仮定に基づき評価すると、多額の負ののれんの発生が見込まれる場合には、企業結合条件の交渉過程で当該資産はもともと低く評価されていたと考えられるので、当該資産の評価を改めて行う意義は見出しづらい。

このため、当該資産に対する取得原価の配分額は、負ののれんが発生しない範囲で評価した額(当該資産を何らかの仮定に基づき評価した額から追加的に発生することが見込まれる負ののれんを控除した額)とすることができる。

ただし、時価が一義的に定まりにくい資産であっても、取得企業は企業結合条件の交渉過程で、利用可能な独自の情報や前提など合理的な基礎に基づき、一定の評価を行っていることが想定される。このため、本適用指針では、取得の対価の算定にあたり、その評価額が考慮されている場合には、その評価額を基礎に取得原価を配分することとした。したがって、このような場合には、当該資産に対する取得原価の配分額を備忘価額とすることは適当ではない。

なお、当該取扱いは、時価が一義的に定まりにくい資産に限定したものであるので、合理的な評価が可能である資産について、当該取扱いを適用することは認められない。

(4) 無形資産への取得原価の配分

365. 企業結合会計意見書 三 3.(3)Aにより、識別可能資産及び負債の範囲は、「我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識されるもの」とされている。しかし、現在、我が国においては、無形資産に係る包括的な会計基準が存在しないため、本適用指針では、無形資産に関連する会計基準(研究開発費等会計基準など)及び現在の実務慣行を参考にして無形資産に関する取扱いを示している。したがって、今後、無形資産に関する会計基準が整備された時点で、本適用指針の関連箇所は見直されることがあり得る。

366. 企業結合会計基準 三 2.(3)では、無形資産の認識要件として、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識されるもの」のほかに、「法律上の権利又は分離して譲渡可能」という要件をあげている。ただし、企業結合において取得企業は純資産を一括して取得するため、取得原価を無形資産に配分するためには、時価の算定が必要になる。このため、本適用指針では、無形資産に取得原価を配分できる場合の要件として、その独立した価額を合理的に算定できる場合であることを明示することとした。

なお、会社法において、のれんの未償却残高のうち一定の額が「分配可能額」から控除されるため、のれんと無形資産とで「分配可能額」の算定に関する取扱いが異なることに留意する必要がある。

367. 「取得した資産に法律上の権利又は分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、取得原価を当該無形資産等に配分することができる」(企業結合会計基準 三 2.(3))とされている。この定めは、我が国において無形資産に関する包括的な会計基準が存在しない中での取扱いを前提としていると解されるが、実務上、企業結合の目的の 1つが、認識要件を満たした無形資産の取得にあり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、取得企業は、利用可能な独自の情報や前提等を基礎に一定の見積方法(第53項参照)を利用し、あるいは外部の専門家も関与するなどして、通常、取締役会その他の会社の意思決定機関において、当該無形資産の評価額に関する多面的かつ合理的な検討を行っていると考えられ、一般に、このような場合には、無形資産の独立した価額を合理的に算定できる場合に該当することになるものと考えられる。

のれん(又は負ののれん)は取得原価と取得原価の配分額との差額概念であり、もし、このような識別可能な無形資産が存在するとすれば、取得企業は無形資産をのれんから区分して会計処理することが企業結合会計基準の考え方と整合的と考えられる。

(5) 無形資産の認識要件を満たさないものの例

368. 法律上の権利(第58項参照)又は分離して譲渡可能(第59項参照)という認識要件を満たさないため、無形資産として認識できないものの例としては、被取得企業の法律上の権利等による裏付けのない超過収益力や被取得企業の事業に存在する労働力の相乗効果(リーダーシップやチームワーク)がある。これらは識別不能な資産としてのれん(又は負ののれんの減少)に含まれることになる。

(6) 開発の最終段階にある研究開発活動等の取扱い

369. 被取得企業において、開発の最終段階にあるもの、具体的には、出願審査中の特許を受ける権利、あるいは臨床試験は終了しているものの認可を得ていない新薬など最終的な成果物に近いものについては、法律上の権利となる可能性が高いため、分離して譲渡可能な場合も想定される。

また、のれんとして会計処理するよりも識別可能な無形資産として適切な科目により会計処理する方が、企業結合後の貸借対照表の表示又は適正な償却費の計算の観点から、より望ましい場合がある。

このような観点から、本適用指針では、これらについては分離して譲渡可能なものに準じて取り扱うことができることとした。

(7) いわゆるブランドの取扱い

370. 企業結合によって取得した、いわゆるブランドについて、のれんと区分して無形資産として認識可能かどうかという論点がある。これについても法律上の権利又は分離して譲渡可能なものの要件を満たし、かつ、その独立した価額を合理的に算定できる場合には無形資産として取得原価を配分することができる。

ブランドは、プロダクト・ブランドとコーポレート・ブランド(企業又は企業の事業全体のブランド)に分けて説明されることがある。両者は商標権又は商号として、ともに法律上の権利の要件を満たす場合が多いと考えられるが、無形資産として認識するためには、その独立した価額を合理的に算定できなければならない。このうち、コーポレート・ブランドの場合には、それが企業又は事業と密接不可分であるため、無形資産として計上することは通常困難であるが、無形資産として取得原価を配分する場合には、事業から独立したコーポレート・ブランドの合理的な価額を算定でき、かつ、分離可能性があるかどうかについて留意する必要がある。

(8) 研究開発費への取得原価の配分

371. 企業結合会計基準 三 2.(3)では、「取得企業が取得対価の一部を研究開発費等(ソフトウェアを含む。)に配分したときは、当該金額を配分時に費用処理する」としている。このため、本適用指針では、取得原価を研究開発費に配分し、費用処理する場合の要件を明らかにすることとした。

当該要件の検討にあたり、企業結合会計基準で要件が定められていないものは、関連する他の一般に公正妥当と認められた企業会計の基準、具体的には研究開発費等会計基準における以下の定めと整合性を図ることが適当と考えた。

・研究開発費を構成する原価要素に該当する場合、すなわち、機械装置、特許権等のように通常は資産性があるものであっても、特定の研究開発目的にのみ使用し、他の目的に使用できないものは取得時の研究開発費として費用処理することとされている(研究開発費等会計基準 注解(注1))。

・ソフトウェア制作における研究開発費に該当する場合、すなわち、市場販売目的のソフトウェアについては、研究開発の終了時点とされる最初に製品化された製品マスターの完成までの費用及び研究開発終了後であっても製品マスター又は購入ソフトウェアに対する著しい改良に要した費用は研究開発費として費用処理することとされている(研究開発費等会計基準 注解(注3))。

したがって、本適用指針では、取得原価を研究開発費に配分する場合とは、次の2つの要件を満たしたときであると考えた。

(1) 識別可能資産に該当すること(識別できないものはのれんに計上される。)

(2) 当該識別可能資産の取得企業における使途が研究開発費等会計基準 注解(注1)又は(注3)に該当すること

なお、被取得企業が実施していた研究プロジェクトを取得企業が継続する場合であっても、取得企業の会計処理(取得原価を研究開発費に配分するかどうか)は、被取得企業における会計処理(資産計上又は費用処理)に影響されるものではない。これは、パーチェス法は取得企業の観点から企業結合をみる会計処理であり(第30項参照)、また、研究プロジェクトの位置付けは、取得企業と被取得企業の間で異なる場合もあるためである。

(9) 企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分

372. 「取得後短期間で発生することが予測される費用又は損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には、負債として認識することができる」(企業結合会計基準 三 2.(3))とされている。

これは、当該費用又は損失を負債として認識した方が、「その後の投資原価の回収計算を適切に行いうる」(企業結合会計意見書 三 3.(3)A)ためである。すなわち、企業結合の条件交渉の過程で、被取得企業に関連して発生する可能性のある将来の費用又は損失が取得の対価に反映されている場合(取得の対価がそれだけ減額されている場合)には、被取得企業が企業結合日前に当該費用又は損失を負担したと考えられるので、これらの費用等を企業結合日以後の取得企業の業績に反映させない方が取得企業の投資原価の回収計算を適切に行うことができると考えられるからである。

373. 企業結合に係る特定勘定として負債計上する費用又は損失としては、例えば、以下が考えられる。

・人員の配置転換や再教育費用

・割増(一時)退職金

・訴訟案件等に係る偶発債務

・工場用地の公害対策や環境整備費用

・資産の処分に係る費用(処分費用を当該資産の評価額に反映させた場合で、その処分費用が処分予定の資産の評価額を超過した場合には、その超過額を含む。)

なお、これらの費用又は損失を企業結合に係る特定勘定に計上する場合は、第63項から第65項のすべての要件を満たした場合に限られることに留意する必要がある。

(10) 企業結合に係る特定勘定に計上できる費用又は損失の範囲

374. 第63項では、「取得後短期間で発生することが予測される費用又は損失」(企業結合会計基準 三 2.(3))の範囲を明確にしている。

同項(1)の「企業結合日において、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識される識別可能負債に該当しないこと」については、もし、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識される識別可能負債に該当する場合には、当該識別可能負債として取得原価を配分しなければならないので、企業結合に係る特定勘定として認識することはできないことを明確にしている。

同項(2)の「企業結合日後5年以内に発生するものであること」については、「取得後短期間」(企業結合会計基準 三 2.(3))の具体的な取扱いであり、経営計画の策定期間及び当該負債の計上限度期間の観点から、企業結合日後 5年以内とすることとした。

同項(3)の「特定の事象に対応した費用又は損失であること(ただし、識別可能資産への取得原価の配分額に反映されていないものに限る。)」については、「認識の対象となった事象が発生した事業年度又は当該事象が発生しないことが明らかになった事業年度」(企業結合会計基準 三 2.(3))に当該負債を取り崩す必要があることから、当該負債として認識できるものは特定の事象に対応した費用又は損失であることを明確にしている。したがって、具体的な事象が特定されていない将来の営業損失については当該負債の認識の対象とはならない。なお、特定の事象に対応した費用又は損失が取得原価の配分額に反映されている場合には、資産の評価額がすでに減額されているため、当該要件を満たさないことになる。

同項(4)の「被取得企業に係る費用又は損失であること」については、パーチェス法は取得企業の観点から会計処理を行うものであること、取得の対価に反映される事象は、被取得企業に関連した費用又は損失と考えることが合理的であることから、取得企業に係る将来の費用又は損失は当該負債の対象とはならず、企業結合日後に発生する被取得企業に係る費用又は損失に限定することを明確にしている。

(11) 取得の対価の算定に反映されている場合の要件

375. 第64項(1)は、企業結合会計基準 注解(注14)による取扱いを示したものであるが、実務上、「企業結合条件の交渉の過程で当該事象に係る金額が対価の算定に反映されていたことが契約条項等から明らかな場合」は少ないと考えられる。

そこで本適用指針では、企業結合会計基準の趣旨を踏まえつつ、実務上の利用を想定して、新たに第64項(2)の要件を示している。具体的には、当該事象そのものは契約条項等で明確にされていることが必要であるが、当該事象に係る金額と取得の対価との関係については、取得の対価を決定する取得企業の取締役会等、会社の意思決定機関で、その決定にあたり重視された資料に当該事象が含まれ、かつ、それが取得の対価に反映されていることが取締役会議事録等の文書により確認できれば、当該要件を満たすものと考えた。

(12) 株価を基礎に株式の交換比率を決定した場合であっても「取得の対価の算定に反映されている場合」に該当する場合

376. 公開企業同士の企業結合において、株式の交換比率の決定要因の大半を株価に依存した場合には、企業結合条件の交渉の過程で考慮された事象と取得の対価との関係が明らかではないため、原則として「取得の対価の算定に反映されている場合」には該当しない。

ただし、株価を基礎に株式の交換比率を決定した場合であっても、企業結合条件の交渉過程で考慮された事象に係る被取得企業の将来のキャッシュ・アウト・フローの発生の可能性がもともと株価に反映されていると考えられるような場合、例えば、被取得企業が有する偶発債務について、企業結合日においては引当金の要件を満たしていないものの、企業結合の合意公表日前に当該偶発債務に関する事実が公表されており、合意公表日前の株価にそれが反映されていると認められるような場合には、「取得の対価の算定に反映されている場合」に該当することになる(第65項参照)。

(13) 企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理

377. 企業結合に係る特定勘定は、企業結合に係る「未決算勘定」としての性格が強いと考えられるので、当該負債の計上後に、引当金又は未払金など、他の負債項目としての認識要件を満たした場合には、当該負債から他の適当な負債科目に振り替える必要がある。

したがって、例えば、当該負債の認識の対象が被取得企業に係る偶発損失の場合には、当該偶発損失が発生したとき、又は発生しないことが明らかとなったときに当該負債を取り崩し、また偶発損失引当金の要件を満たしたときに当該引当金に振り替えることになる。

なお、本適用指針では、当該負債は暫定的な会計処理の対象外とすることとした(第66項参照)。当該負債の計上は、取得の対価に反映されていることが前提となるため、取得の対価の算定日に当該金額は確定していると考えられるからである。

(14) 取得原価の配分における暫定的な会計処理

378. 企業結合会計意見書 三 3.(3)Cにより、「識別可能資産及び負債を特定し、それらに対して取得原価を配分する作業は、企業結合日以後の中間決算又は年度決算前に完了すべきであるが、それが困難な状況も考えられる」とされ、また、企業結合会計基準 四 2.(1)Hでは、「取得原価の配分が完了していない場合は、その旨及びその理由」を(連結)財務諸表に注記することが求められている。このように、暫定的な会計処理は取得原価の配分作業について困難な理由があるときに限り容認されるものと考えられる。

また、本適用指針では、第54項(取得原価の簡便的な配分処理)の要件を満たす場合には、識別可能資産及び負債に対し、その適正な帳簿価額を基礎として取得原価を配分することができるとしている。取得企業が、このような簡便的な取得原価の配分処理を適用した場合には、取得原価の配分作業について困難な理由があるときには該当しない。

よって、暫定的な会計処理が認められる項目とは、原則として、識別可能資産及び負債の企業結合日における時価と被取得企業の適正な帳簿価額が大きく異なることが想定され、その時価の算定に時間を要するものに限られると考えた。

なお、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価を売上債権に配分した後に発生した貸倒損失(設定された貸倒引当金を上回る損失額)は、取得企業の貸倒損失として費用計上しなければならず、当該損失をのれんに振り替え、資産計上することは認められない。

(14-2) 繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分

378-2.のれん(又は負ののれん)については、配分残余という性格上、税効果を認識しても同額ののれん(又は負ののれん)が変動する結果となるため、あえて税効果を認識する意義は薄いと考えられる(第72項参照)。

なお、平成18年度税制改正により、非適格合併等における税務上ののれん(資産調整勘定又は差額負債調整勘定)に関する規定が定められているが、当該税務上ののれんが認識される場合においては、その額を一時差異とみて、第71項に基づき繰延税金資産又は繰延税金負債を計上した上で、配分残余としての会計上ののれん(又は負ののれん)を算定することに留意する必要がある。

(15) 繰延税金資産に対する取得原価の配分額の確定

379. 本適用指針では、繰延税金資産の回収可能額を修正した場合、企業結合年度における修正は、企業結合日ののれんを修正し、企業結合年度の翌年度における修正は、原則として、翌年度の損益(法人税等調整額)に計上するものの、その修正内容が、明らかに企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の修正と考えられるときは、企業結合日に遡及してのれんを修正することとしている。これは、以下の理由による。

(1) 繰延税金資産の回収可能性は、将来年度の課税所得の見積額等により判断することとなるが、取得した事業について取得した当初に合理的な見積りを行うことは困難な場合が多いと考えられる。したがって、企業結合年度末における繰延税金資産の回収見込額の修正は、すべて企業結合日ののれんの修正として処理することが適当であること

(2) 企業結合年度の翌年度(ただし、企業結合日以後1年以内に限る。)に繰延税金資産の回収見込額の修正が行われた場合にも(1)と同様に処理する考え方もあり得るが、企業結合年度末における繰延税金資産の回収見込額の判断を重視するとともに、企業結合年度の翌年度の修正のうち、企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の修正と考えられるときは、企業結合日に遡及してのれんを修正するとすることにより、企業結合年度の繰延税金資産の回収見込額は適正なものとなること

(16) のれんの会計処理

380. 本適用指針において、のれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに決定することを明確にした。これは企業結合ごとにのれんの発生原因が異なるためである。

また、のれんの償却額は販売費及び一般管理費に計上することとした。これは、以下の理由による。

(1) のれんの規則的な償却を行う方法を採用した理由として、企業結合会計意見書 三3.(4)では、「企業結合の成果たる収益と、その対価の一部を構成する投資消去差額(連結財務諸表の場合は連結調整勘定)の償却という費用の対応が可能になる」こと、また、「のれんは投資原価の一部であることに鑑みれば、のれんを規則的に償却する方法は、投資原価を超えて回収された超過額を企業にとっての利益とみる考え方とも首尾一貫している」とされている。企業結合後の収益が営業収益に計上される限り、のれんを含む投資原価の償却分も営業費用に計上し、投資原価の回収状況を営業損益として表示することが企業結合会計基準の趣旨に合致するものと考えられること

(2) 連結原則における連結調整勘定(借方)の償却額の会計処理との整合性を図るため

381. 検討状況の整理に対するコメントの中には、企業結合に伴って発生するのれんを、発生時に一括償却し、その償却額を特別損失に計上する会計処理を認めるべきであるとの意見が寄せられた。当該意見は、のれんの効果の及ぶ期間を合理的に算定するのは困難であることから、特別損失での一括償却を認めることで、償却期間に対する恣意性の排除及び貸借対照表の健全性の早期確保が可能であること(保守主義の原則)等を論拠とするものである。

しかしながら、以下の理由から、のれんを企業結合日に全額費用処理し、これを特別損失に計上することは適当ではないと考えた。

(1) 取得企業は、被取得企業との企業結合にあたって、取得する資産及び引受ける負債の純額を超える何らかの価値(例えば、被取得企業の継続企業としての要素の価値や企業結合により期待されるシナジーなど)を見出し、それに対して自社の株式等の対価を支払ったと考えられる。一方、企業結合日にのれんを全額費用処理することは、会計上、のれんの価値が消滅したものとすることと同じである。のれんに資産価値があると考えられるにもかかわらず、その価値が消滅したものとして会計処理することは、過度の保守主義(企業会計原則注解(注4))に該当し適当ではない。また、のれんは、その効果の及ぶ期間にわたり償却するとしている企業結合会計基準の定めに反することになる。

(2) 繰延税金資産の回収見込額の算定、引当金の計上額の算定など、合理的な見積りが必要とされる会計処理は、多数存在する。また、償却期間の算定が容易ではないのは、有形固定資産の耐用年数を見積る場合にも当てはまる。一般に、償却の基礎となる資産の有効期間は、売却による回収額と利用による回収額が等しくなると考えられる時点までの期間であり、それは資産に含まれるのれんの価値が消滅するまでの期間を見積っていることにほかならない。したがって、のれんの償却期間の見積りが困難であることを理由にのれんを企業結合日に全額費用処理することは、現行の他の会計処理との整合性が図れないことになる。

(3) 投資家に開示する企業結合後の損益情報は、取得企業が投資原価(取得原価)と比べてどれだけの利益を獲得しているかを示すことが重要である。のれんを減損処理以外の事由で企業結合日に全額費用処理し、これを特別損失に計上した場合、それ以後、のれんの償却額が発生しないため、企業結合の投資原価がその後の営業損益には反映されないことになる。この結果、企業結合後の営業損益は、企業結合の成否に関する情報としての有用性を欠くことになる。

382. のれんの効果の及ぶ期間を合理的に見積った結果として、稀ではあるが、のれんの償却額が企業結合年度に全額計上されることはあり得ると考えられる。ただし、この場合には、企業結合年度の営業収益でのれんにあたる無形価値への投資原価(取得原価)の回収が期待されているため、のれんの償却額は特別損失ではなく、営業費用(販売費及び一般管理費)に計上されることになる(第380項(1)参照)。

なお、実務上、のれんの償却期間の決定にあたり、企業結合の対価の算定の基礎とした投資の合理的な回収期間を参考にすることも可能である。

(17) 負ののれんの会計処理

383. 負ののれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに決定することを明確にした。これは企業結合ごとに負ののれんの発生原因が異なるためである(第78項参照)。

また、負ののれんの償却額は、営業外収益に計上することとしている。これは、以下の理由による。

(1) 負ののれんの規則的な償却を行う方法を採用した理由として、企業結合会計意見書三3.(5)では、負ののれんは「想定された発生原因に合理性を見出すことは困難な場合が多い」ため、「承継した資産の取得原価総額を調整する要素とみて、正の値であるのれんと対称的に、規則的な償却を行う」とされており、その償却額を営業外収益として表示することが企業結合会計基準の趣旨に合致するものと考えられること

(2) 連結原則における連結調整勘定(貸方)の償却額の会計処理との整合性を図るため

4.取得企業の増加資本の会計処理

(1) 新株を発行した場合の会計処理

384. 企業結合の対価として、取得企業が新株を発行した場合には、払込資本、すなわち、資本金又は資本剰余金を増加させることとした(第79項参照)。パーチェス法の会計処理においては、取得企業の増加資本は払込資本を増加させることが適当と考えられるためである。したがって、留保利益である利益剰余金を増加させることはできない(第408項及び第409項参照)。

385. 取得企業の増加資本は、会計上、払込資本に限定した上で、具体的にどの株主資本項目を増加させるかは、分配可能額を定める会社法の規定に基づき決定することとなる。

従来の実務では、合併又は分割型の会社分割(人的分割)において、吸収合併存続会社又は吸収分割承継会社は企業結合日において時価以下で評価された吸収合併消滅会社又は分割会社の資産及び負債を承継し、また、吸収合併消滅会社又は分割会社の分配可能な剰余金を利益剰余金等として引継ぐ処理が一般的に行われてきた。これは、旧商法の下では、合併及び分割型の会社分割(人的分割)において剰余金の引継ぎに関する制度があり、また、企業結合に関する会計基準が整備されていなかったためと思われる。

386. この点に関し、会社法においては、剰余金の引継ぎに関する制度は原則として廃止され、企業結合が取得と判定された場合、企業結合により増加する資本のうち、どの株主資本項目を増加させるかは、吸収合併消滅会社又は分割会社の資本構成にかかわりなく、吸収合併存続会社又は吸収分割承継会社が任意に決定できることとされた。

387. 本適用指針では、第384項の考え方に従い、企業結合の手続の中で剰余金が直接増加したとしても、会計上は分配可能な払込資本が増加したものと考えて、その他資本剰余金を増加させることとした。

(2) 自己株式を処分した場合の会計処理

388. 平成17年公表の本適用指針では、自己株式の処分のみの場合と新株の発行と併用される場合の2つの定めを設け、前者については、増加資本の額を自己株式の処分の対価として自己株式の処分の会計処理を行い、後者については、増加資本の額を新株の発行及び自己株式の処分の株式数の比率により按分し、処分した自己株式に相当する額については自己株式の処分の会計処理を行うこととしていた。

平成18年改正の本適用指針では、対価が新株のみの場合の処理及び会社計算規則との整 合性を考慮し、増加資本の額(自己株式の処分の対価の額)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額について、払込資本(資本金又は資本剰余金)を増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金を減少)させることとし(第80項及び第112項参照)、会計上、取得企業の増加資本を払込資本に限定した上で、具体的にどの株主資本項目を増加させるかは、分配可能額を定める会社法の規定に基づき決定することとした。

(3) 取得企業の株式又は現金以外(例えば親会社株式)を対価とする場合の会計処理

389. 会社法では、吸収合併、吸収分割又は株式交換の場合において、吸収合併消滅会社の株主、吸収分割会社若しくはその株主又は株式交換完全子会社の株主に対して、吸収合併存続会社、吸収分割承継会社又は株式交換完全親会社の株式を交付せず、金銭その他の財産を交付することができるとされている。

企業結合会計意見書 三 3.(2)@では、「取得原価は対価の形態にかかわらず、支払対価となる財の時価で算定される」としているため、企業結合の対価として、取得企業の株式又は現金以外の財産を交付した場合にも、取得の対価は交付した財産の時価を基礎として算定することになる。この場合、交付した財産の時価とその適正な帳簿価額との差額をどのように処理するかの論点がある。

本適用指針では、取得企業が企業結合の対価として取得企業の株式又は現金以外の財産を交付した場合には、資産の処分取引として考え、その差額は取得企業の損益に計上することとした(第81項参照)。

390. 子会社が親会社株式を支払対価として他の企業と企業結合する場合には、企業集団からみると、親会社が企業結合の対価として自己株式を処分する取引と同様に考えることができるため、連結財務諸表上は資本取引として取り扱うことが適当である。このため、子会社の個別財務諸表上、損益に計上した親会社株式の処分差額を連結財務諸表上は自己株式処分差額に振り替えることとした(第82項参照)。

5.吸収合併消滅会社の最終事業年度の会計処理

391. 合併による企業結合に持分プーリング法が適用される場合、吸収合併消滅会社は消滅するものの、会計上は持分が継続しているため、吸収合併消滅会社は、最終事業年度に資産及び負債の適正な帳簿価額を算定し、その額が吸収合併存続会社に引継がれることになる。

これに対して、合併による企業結合にパーチェス法が適用される場合、吸収合併消滅会社は会計上も清算されたとみるため、吸収合併消滅会社の最終事業年度の財務諸表は、正味売却価額に基づくことが考えられる。しかしながら、実務における費用対効果を勘案して、吸収合併消滅会社の最終事業年度の財務諸表は、吸収合併消滅会社が継続すると仮定した場合の適正な帳簿価額によることとした(第83項参照)。

6.分離元企業の会計処理

(1) 分離元企業における受取対価の時価

392. 分離元企業において、移転した事業に対する投資が清算されたと考えられる場合でも、取得した分離先企業の株式の時価又は移転した事業の時価の算定が困難なときには、分離元企業において移転損益を認識することは適当ではないという意見がある。

しかしながら、企業結合・事業分離においては様々な事業価値評価がなされており、特に、投資が清算されたと考えられる場合は、第三者との間の外部取引であるため、何らかの形で事業の価値を算定していると考えられること、企業結合会計基準では、取得と判定された企業結合(少数株主との取引も含む。)に対して、時価の算定の困難性を理由として、帳簿価額によることができる旨の定めはないことなどから、事業分離に関する会計処理上、分離先企業の株式の時価又は移転した事業の時価の算定が必要なとき(例えば、移転損益を認識するとき)には、原則として、当該時価を算定することとした。

393. 分離先企業の株式などの受取対価又は移転した事業のいずれについても、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、代替的に、識別可能な分離先企業又は移転した事業に係る資産及び負債の時価に基づく正味の評価額を用いることができる。

これは、受取対価又は移転した事業全体の公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合の取扱いであるため、当該正味の評価額にのれん(又は負ののれん)は含まれない。

(2) 分離元企業における移転損益の認識

394. 分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離において、分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合、経済実態として、分離元企業における当該事業に関する投資がそのまま継続していると考えられる(事業分離等会計基準第87項)。また、分離先企業が新たに関連会社となる場合も、現行の会計基準等における考え方を踏まえれば、事業分離により分離先企業が新たに子会社となる場合と同様に、移転された事業に関する投資が継続しているとみることが適当と考えられる(事業分離等会計基準第98項から第100項)。

したがって、当該取引においては、移転損益は認識されず、当該分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する(第98項(1)及び第100項(1)参照)。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合、資産の貸借対照表価額はマイナスにならないことから分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)の取得原価はゼロとし、当該マイナスの金額(事業分離前に分離先企業の株式を有していた場合には、まず、当該分離先企業の株式の適正な帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナス金額)は株式の評価的な勘定として「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上することが適当と考えられる。当該負債の事業分離後の会計処理は、分離元企業が当該分離先企業の株式を処分したときには損益に振り替え、現物配当(分割型の会社分割を含む。)を行ったときは株主資本を直接変動させるなど、通常の有価証券の会計処理に従うこととなる。

395. 事業分離等会計基準では、現金等の財産(第95項参照)と分離先企業の株式を受取対価とする事業分離において、分離元企業は、個別財務諸表上、次の処理を行うとしている。

(1) 子会社へ事業分離する場合や分離先企業が子会社となる場合には、共通支配下の取引又は共通支配下の取引に準ずる取引として取り扱う(第104項参照)ため、分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、移転前に付された適正な帳簿価額により計上し、当該価額が移転事業に係る株主資本相当額を上回る場合には、当該差額を移転利益として認識することとなる(第230項参照)。

(2) 関連会社へ事業分離する場合や事業分離により分離先企業が新たに関連会社となる場合には、共通支配下の取引にあたらないため、分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、時価で計上し、当該時価が移転事業に係る株主資本相当額を上回る場合には、原則として、当該差額を移転利益として認識することとなる(第105項参照)。

なお、これらの場合において、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)がマイナスのときには、前項と同様に、分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)の取得原価をゼロとしても、現金等の財産を受け取ったため、当該差額の取扱いが問題となる。受け取った分離先企業の株式が子会社株式又は関連会社株式となる場合について投資は継続しているという事業分離等会計基準の考え方を踏まえ、(1)又は(2)のように移転利益を認識するとしても、積極的に認識するわけではないため、受け取った現金等の財産の額を超えて移転利益を計上することは適当ではないと考えられる。したがって、受け取った分離先企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)の取得原価をゼロとしても、受け取った現金等の財産の額(分離先企業が子会社の場合は移転前に付された適正な帳簿価額、分離先企業が関連会社の場合は時価)と等しい金額については、移転利益として認識せざるを得ないが、マイナスの移転事業に係る株主資本相当額(事業分離前に分離先企業の株式を有していた場合には、まず、当該分離先企業の株式の適正な帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナス金額)については、当該分離先企業の株式の評価的な勘定として「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上することとした。

(3) 分離元企業の連結財務諸表上においてパーチェス法が適用されることにより計上されるのれん(又は負ののれん)

396. 分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合、企業結合会計意見書 三3.(6)により、分離先企業については分離元企業の連結財務諸表上、パーチェス法を適用することとなる。このため、原則として、分離元企業(親会社)の持分に相当する取得原価(分離先企業に対して投資したとみなされる額)と取得した資産及び引き受けた負債に配分された純額(対応する分離先企業の事業分離直前の資本)との差額は、のれん(又は負ののれん)に計上されることとなる。

例えば、共同新設分割(従来の分社型)により、分離元企業(新設分割会社)A社はa事業(当該事業に係る諸資産の適正な帳簿価額480、当該事業の時価800)を、B社は b事業(当該事業に係る諸資産の適正な帳簿価額100、当該事業に係る諸資産の時価150、当該事業の時価200)を新設分割承継会社Y社に移転し、A社はY社を子会社(持分比率80%)、 B社はY社を関連会社(持分比率20%)とするものとする。

A社はB社から受入れた事業の80%を取得するため、B社の資産(及び負債)は100%支配することとなるが、のれんは80%しか買い入れていないとみる見方が考えられる。この場合には、 A社の連結財務諸表上、パーチェス法を適用するにあたり、のれんは40(B社のb事業の時価200の80%と識別可能な資産(及び負債)に配分された純額150の80%との差額)(借方)が計上されることとなる。これは少数株主持分に相当する部分ののれんについては問題があるといわれていること(「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」(以下「連結意見書」という。)第二部 二 5.(1)B)にも対応するものと考えられる。

ただし、共同新設分割による子会社の設立のように、まず、子会社となる分離先企業の個別財務諸表上で、取得した事業につきパーチェス法の適用により買入れのれん50が計上され、その後、分離元企業(親会社)の連結財務諸表上、子会社となった当該分離先企業の80%持分を有したと考える場合には、子会社となった分離先企業で計上した買入れのれん50をそのまま計上することができるのではないかという見方がある。

この見方においては、A社の連結財務諸表上、パーチェス法の適用による取得原価は200とみるものであり、この取得原価と識別可能な資産(及び負債)に配分された純額150との差額50借方)としてのれんが算定されることとなることは企業結合会計基準の考え方に従っているものと考えられる。また、この場合、のれんは有償取得されているとみなされることや、当該のれんは連結意見書が指摘するような親会社の持分について計上した額から推定して計上するわけではないこと、さらに、少数株主持分に相当する部分10ののれんの償却額は少数株主損益に含まれることとなるため、当期純損益の算定における償却額の負担についても問題となるわけではないと考えられる。

397. この論点は、@子会社となる分離先企業への事業の移転と、A分離先企業の株式を対価として受け取ることにより当該分離先企業が子会社化することとが、同時であることによって生ずるものと思われる。すなわち、それらが同時ではない場合(例えば、子会社となる企業において他から取得した事業に係るのれんが計上されており、当該企業を取得し子会社化した場合)には、既に子会社で計上されているのれん全額を親会社の連結財務諸表において計上することとなるが、それらが同時である場合には、親会社の持分に対応するのれんの計上しか認められないかどうかという論点である。

このような場合、原則として、親会社の持分に対応するのれん40を計上するものと考えられるが、共同新設分割による子会社の設立のように、まず、子会社となる分離先企業の個別財務諸表上で、取得した事業につきパーチェス法の適用によりのれん(又は負ののれん)50が計上され、その後、分離元企業(親会社)の連結財務諸表上、子会社となった当該分離先企業の持分を有したと考えられるような場合には、それらが同時に生じていても、いわば子会社で取得した事業(のれん(又は負ののれん)を含む。)について持分を有するものと捉える見方も否定できないものとして、本適用指針では、子会社となった分離先企業で計上したのれんをそのまま計上することができるものとした。

なお、前者の場合には、分離元企業(親会社)の連結財務諸表上、親会社ののれんとして40が計上されているため、その償却額は少数株主持分に負担させないが、後者の場合には、子会社となった分離先企業ののれん(又は負ののれん)として50が計上されているため、その償却額の一部は少数株主持分に負担させることとなる。

(4) 分離元企業の税効果会計

398. 分離元企業において、事業分離により移転する事業に係る資産及び負債が、現金以外の受取対価と引き換えられ、新たに当該受取対価が計上される場合には、一般的な交換の場合と同様に、新たに貸借対照表に計上された資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額(税務上の帳簿価額)との間に差額(一時差異)が生ずる場合がある。例えば、分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離では、次のような場合がある。

(1) 分離元企業において移転損益が認識されない場合(例えば、持分の結合と判定された企業結合の場合)、分離先企業株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定される(第98項参照)。適格組織再編に該当する場合、税務上も、分離先企業株式の取得原価は、移転した事業に係る資産及び負債の税務上の帳簿価額に基づくため、この場合には、分離先企業株式に関して、移転した事業に係る資産及び負債の一時差異と同額の一時差異が生ずる。

(2) 分離元企業において移転損益が認識されないが、適格組織再編に該当しない場合には、税務上、分離先企業株式の取得原価は、当該株式の時価に基づくため、この場合には、基本的に、分離先企業株式に関して、移転した事業に係る資産及び負債の一時差異と同額の一時差異に加え、新たに税務上の移転損益相当額が一時差異として生ずる。

(3) 分離元企業において移転損益が認識される場合、分離先企業株式の取得原価は、当該株式の時価又は移転した事業の時価に基づいて算定される。これが適格組織再編に該当する場合、税務上、分離先企業株式の取得原価は、移転した事業に係る資産及び負債の税務上の帳簿価額に基づくため、この場合には、分離先企業株式に関して、当該株式の時価又は移転した事業の時価と移転した事業に係る資産及び負債の税務上の帳簿価額との差額が、一時差異として生ずる。

(4) 分離元企業において移転損益が認識され、適格組織再編に該当しない場合には、分離先企業株式の取得原価は時価となるが、当該株式の時価の測定時点が企業会計と課税所得計算とでは異なるなどの場合には、一時差異が生ずる。

399. 分離元企業における税効果会計の主な論点としては、まず、事業分離日の属する事業年度の前期末(事業分離日の前日における仮決算を含む。)において、分離元企業が移転する事業に係る資産及び負債の一時差異に対して計上する繰延税金資産の回収可能性の判断をどのように行うかという論点がある。これについては、一般的な売却や交換の場合と同様に、分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断する(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第21項)こととなり、分離先企業の将来年度の収益力に基づく課税所得等は勘案しないものと考えられる。

400. ただし、投資が継続しているとみる場合(第398項(1)及び(2)参照)には、事業分離日において分離元企業で認識された繰延税金資産及び繰延税金負債は、通常、分離先企業において引継がれるため、分離元企業から分離先企業に移転することとなる。事業分離日の直前において、分離元企業は、移転する繰延税金資産及び繰延税金負債の適正な帳簿価額を算定するが、その回収可能性は、事業分離が行われないものと仮定したときの分離元企業における将来年度の収益力に基づく課税所得等に基づき判断することとなる。

なお、事業分離が行われないものと仮定して回収可能性を判断するのは移転する事業に係る繰延税金資産であって、残存する事業に係る繰延税金資産については、事業分離日以後は移転する事業から生じる課税所得等が分離元企業に帰属しないことから、同様の仮定をおいた課税所得等に基づいて判断するわけではなく、事業分離を考慮した実際の分離元企業における将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断することに留意する必要がある(第107項(2)参照)。

401. 次に、事業分離により移転する事業に係る資産及び負債が、分離先企業の株式など現金以外の受取対価と引き換えられ、新たに貸借対照表上、当該受取対価が計上される場合において、これらの金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額(税務上の帳簿価額)との間に生ずる差額(一時差異)に対して税効果会計をいつ適用するかが論点として挙げられる。これについては、一般的な交換の場合と同様に、分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離でも、原則として、事業分離日以後最初に到来する事業年度末に適用するものと考えられる。したがって、期末に繰延税金資産及び繰延税金負債が計上され、その差額を期首と期末で比較した増減額が法人税等調整額として計上されることとなる(税効果会計に係る会計基準 第二 二 3)。

402. しかしながら、投資が継続しているとみる場合には、事業分離日において分離元企業で認識された繰延税金資産及び繰延税金負債が分離先企業に移転することとなる(第400項参照)ため、これと同時に、分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として、同額計上することが適当と考えられる(第108項(2)参照)。

これは、投資が継続しているとみるため、連結財務諸表上は、当該繰延税金資産及び繰延税金負債を含めた移転する事業に係る帳簿価額が子会社に対する投資原価となるものの、個別財務諸表上、分離先企業の株式の取得原価は、移転する事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額とし、税効果については、事業分離日において移転する事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債が引き換えられた分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債に置き換わったとみるものである。仮に個別財務諸表上、同額の繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しない場合には、分離元企業で認識された繰延税金資産及び繰延税金負債が分離先企業に移転するため、当該金額が分離先企業株式の取得原価を構成することとなり、期末に計上される分離先企業株式に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債や、それに関連する法人税等調整額が適切に算定されなくなってしまうという弊害が生ずる。このため、個別財務諸表上はこのような弊害を避けるため、事業分離日において移転する事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債は、分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として同額計上することとした。

403. 分割型の会社分割において適格組織再編に該当しない場合、税務上は分割期日の前日において移転損益に課税されることとなり、分離元企業が移転する事業に係る資産及び負債は時価に評価替えされたものと同様と考えられるため一時差異が生じ、翌日の分割期日に当該一時差異は解消することとなる。

特に、分割期日が分離元企業の期首である場合には、分割期日の前日である前期末において、税務上の移転損益に係る未払法人税等と当該一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債が計上されるが、当該繰延税金資産の回収可能性の判断についても、原則として、分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断することとなると考えられる。

7.取得と判定された株式交換及び株式移転の会計処理

(1) 株式交換完全親会社等の税効果会計の取扱い

404. 株式交換又は株式移転により株式交換完全親会社等は株式交換完全子会社等の株式を取得することになるが、当該企業結合にパーチェス法が適用される場合、取得した子会社株式に係る一時差異に対する税効果を認識するかどうかが論点となる。

本適用指針では、以下の理由から、株式交換完全親会社等が株式交換完全子会社の株式を継続保有する方針の場合には、株式交換又は株式移転のときから生じている子会社株式に係る一時差異について、税効果を認識しないこととした。

(1) 継続保有を前提として新規に子会社株式を取得したにもかかわらず、税効果を通じて株式の取得時に損益を認識することは適当ではないこと

(2) 将来における投資の売却により解消する一時差異は、親会社が売却時期を決定でき、かつ予測可能な将来期間に売却を行う意思がない場合は税効果を認識しない(連結税効果実務指針第32項及び第37項)という連結財務諸表における税効果の取扱いと整合的であること

(2) 株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合等の結合当事企業の個別財務諸表上の会計処理

404-2.株式交換又は株式移転に際し、株式交換完全親会社等が株式交換完全子会社等の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合の結合当事企業の会計処理は、次のようになる。なお、以下は株式移転を前提として記載するが、株式交換の場合も同様の考え方となる。

(1) 株式移転完全子会社の個別財務諸表上の会計処理

株式移転完全子会社は、新株予約権又は新株予約権付社債に係る義務の履行を免れたため、株式移転日の前日に純資産の部又は負債の部に計上していた新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第115-2項、第118-3項、第123-2項、第161-2項、第236-3項及び第239-3項参照)。

(2) 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

@ 株式移転完全子会社の株式を株式移転完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本相当額で評価すべき場合(第118-2項、第121-2項(1)、第163-2項、第236-2項、第239-2項参照)

株式移転完全子会社が株式移転日に認識した新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を株式移転日の前日の適正な帳簿価額による株主資本相当額に加算して株式移転完全子会社の株式の取得原価を算定することとした。

これは、株式移転と新株予約権の交付及び新株予約権付社債の承継が同時に行われたものと考えられるため、新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額を株式移転日の前日の株式移転完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本相当額に反映させることが適当と考えられるためである。

また、株式移転設立完全親会社では、株式移転完全子会社で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債を純資産の部又は負債の部に計上することになる。

A 株式移転完全子会社の株式を時価で評価すべき場合(第110-2項及び第121-2項(2)参照)

当該新株予約権又は新株予約権付社債の時価を子会社株式の取得原価に含めるとともに、同額を新株予約権又は新株予約権付社債として純資産の部又は負債の部に計上することになる。

ただし、株式移転設立完全親会社と株式移転完全子会社が、新株予約権付社債の承継の対価等として債権債務を認識すべき契約を株式移転計画の作成と同時(実質的に同時と考えられる場合を含む。)に締結することも想定される。このような場合には、実質的に当該債権又は債務の額だけ承継された新株予約権付社債等に係る義務の履行を免れたことにはならないため、会計上は、新株予約権付社債の承継等と当該債権債務の認識を一体として処理することが適当と考えられる。具体的には、株式移転設立完全親会社では債権を認識するとともに、同額を子会社株式の取得原価から控除し、株式移転完全子会社では債務を認識するとともに、同額を新株予約権付社債の承継等に伴う利益から控除することが適当と考えられる。

また、株式移転設立完全親会社では、株式移転完全子会社の株式の取得原価から新株予約権又は新株予約権付社債として計上すべき額を控除した額が払込資本として計上される。

(3) 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の子会社株式(取得企業株式)の取得原価の算定の簡便的な取扱い

404-3.株式移転設立完全親会社が取得する株式移転完全子会社(取得企業)の株式の取得原価は、原則として、株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することになるが、株式移転は株式の取得による企業結合となるため、実務上、株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額を算定することが困難な場合が考えられる。

このため、株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日後に、多額の増資、自己株式の取得等の資本取引や、重要な減損損失の認識がないなど、株式移転日の前日までの間に適正な帳簿価額による株主資本の額に重要な変動が生じていないと認められる場合には、簡便的に、株式移転設立完全親会社が取得する子会社株式(取得企業株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができることとした(第121項(1)A参照)。

V.持分の結合の会計処理

(1) 持分プーリング法の会計処理における企業結合年度の取扱い

405. 企業結合が持分の結合と判定された場合には、結合後企業の財務諸表は企業結合前からあたかも企業結合が行われていたかのように作成する方法が諸外国の会計基準で採用されてきた。一方、我が国においては、連結財務諸表については、「有価証券報告書における開示が 1年を単位として独立しており過年度の修正再表示の慣行がないこと等を考慮して、期首に企業結合が行われたものとみなして損益を合算する処理を求めることとした」(企業結合会計意見書 三 4.(2))とされているが、個別財務諸表についてはこのような定めはない。

本適用指針では、会計上、個別財務諸表も連結財務諸表と同様に企業結合年度の期首に企業結合が行われたものとみなして作成することが望ましいものの、このような会計処理を採用することとした場合、法制度との調整をはじめ、実務に与える影響が大きいと想定されることから、組織再編の形式が法的にも一体となる合併の場合には、個別財務諸表における持分プーリング法の適用について、企業結合日(合併期日)を基礎とした会計処理を行うこととした(第128項(1)@イ参照)。

ただし、この方法によった場合、企業結合年度における吸収合併存続会社の個別損益計算書には、吸収合併消滅会社等のみなし結合日から企業結合日までの業績等は含まれないことになる。このため、結合後企業が個別財務諸表のみ作成する場合は、みなし結合日に合併した場合と同様の損益情報を開示することとした(第128項(1)A参照)。

なお、連結損益計算書上は、組織再編の形式が合併の場合であっても、みなし結合日に企業結合されたものとして会計処理するため、吸収合併存続会社の連結損益計算書上は、みなし結合日から企業結合日までの結合当事企業間の取引は内部取引として消去することになるが、個別損益計算書上は、吸収合併消滅会社等のみなし結合日から企業結合日までの業績は合算されない。このため、本適用指針では、吸収合併存続会社の個別損益計算書上、同期間における結合当事企業間の取引は第三者間の取引として扱い、企業結合日において存在する未実現損益相当額も、例外的な場合(第148項参照)を除き、そのまま受入れることとした。

(2) 持分の結合と判定された企業結合に対する持分プーリング法に準じた処理方法の適用

406. 企業結合会計基準では、持分の結合と判定された企業結合について、持分プーリング法を適用して会計処理することとしているが、本適用指針では、会社分割(吸収分割及び共同新設分割)など事業分離を伴う企業結合の場合(分離先企業が結合当事企業となる場合)には、以下の理由から、持分プーリング法に準じた処理方法を適用することとした(第129項参照)。

(1) 資本(株主資本)の内訳の引継方法に関する事項

分離元企業(吸収分割会社)では、移転した事業と引き換えに受入れた分離先企業(吸収分割承継会社)の株式の取得原価を、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定することとなるため、分離元企業の資本の内訳に変動は生じない。

したがって、吸収分割承継会社において分離元企業(吸収分割会社)の資本構成を引継ぐことは困難であること

(2) 企業結合年度の財務諸表の作成に関する事項

企業結合年度の期首とは、結合企業(吸収分割承継会社)の事業年度の期首を指すと解されるが、事業分離等会計基準では、分離元企業における会計処理は事業分離日に行うこととされ(事業分離等会計基準第10項)、事業分離又は企業結合が分離先企業の事業年度の期首に行われたものとみなすことは想定されていないこと

(3) 共同支配企業の形成の会計処理との整合性

「共同支配企業の形成には、持分プーリング法に準じた処理方法を適用する」(企業結合会計基準 三 3.(7))とされているが、例えば、持分の結合と判定された共同新設分割には、共同支配企業の形成と同様、持分プーリング法に準じた処理方法を適用することが整合的と考えられること

なお、企業結合会計基準では、持分の結合と判定された企業結合の場合に持分プーリング法に準じた処理方法を適用する旨の定めはないが、企業結合会計基準では、事業分離を伴わない企業結合である合併、株式交換及び株式移転を想定した定めと解されるので、本適用指針とは矛盾しないものと考えられる。

(3) 結合当事企業から引継ぐ資産及び負債に含み損益がある場合の取扱い

407. 企業結合が持分の結合と判定された場合には、結合当事企業(吸収合併の場合には吸収合併消滅会社)から引継ぐ資産及び負債について、含み損益があっても、結合後企業(吸収合併の場合には吸収合併存続会社)は適正な帳簿価額をそのまま引継がなければならない(第130項及び第153項参照)。

この結果、結合後企業が結合当事企業から引継ぐ適正な帳簿価額による資産総額が負債総額を下回る場合もあり得るが、このような場合であっても、結合後企業はその適正な帳簿価額により個々の資産及び負債を引継ぐ必要があり、企業結合に際して資産及び負債を評価替えすることは認められない。

なお、適正な帳簿価額とは、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して算定された帳簿価額をいうため、例えば、減損会計基準などが適用されていることが前提であることに留意する必要がある。

(4) 吸収合併存続会社等が新株を発行した場合の増加資本の会計処理

408. 吸収合併存続会社の増加資本の取扱いについて、本適用指針では、以下の企業結合の類型ごとに定めている。

(1) 取得の場合(第79項参照)

吸収合併存続会社(取得企業)は、受入れる資産及び負債の取得原価を、対価として交付する株式の時価で測定することになる。このため、払込資本(資本金又は資本剰余金)は、発行した新株の時価により増加することになり(第384項から第387項参照)、また、吸収合併消滅会社の株主資本以外の各項目である評価・換算差額等は吸収合併存続会社には引継がれないことになる。

(2) 持分の結合の場合(第134項参照)

吸収合併存続会社等は、合併期日の前日における吸収合併消滅会社等の資本金、資本剰余金及び利益剰余金を、自己株式の処理等を除き、原則として、そのまま引継がなければならないとされている(企業結合会計意見書 三 4.(1)及び企業結合会計基準 三3.(1))。よって、 吸収合併消滅会社等の株主資本項目及び株主資本以外の項目も、原則として、そのまま引継がれることになる。

(3) 吸収合併消滅会社等の資産及び負債を適正な帳簿価額で引継ぐ場合((2)の場合を除く。)

@ 株主資本項目の会計処理

吸収合併存続会社等の増加する株主資本の会計処理は、吸収合併消滅会社等の資本(純資産)の引継ぎが強制される持分の結合の場合を除き、原則として、払込資本を増加させることになると考えられる。したがって、本適用指針では、吸収合併消滅会社等の適正な帳簿価額により資産及び負債を引継ぐこととされる場合であっても、吸収合併が持分の結合と判定されたときを除き、吸収合併存続会社等は、原則として、払込資本を増加させることとした。

ただし、以下の場合には、吸収合併消滅会社等の合併期日の前日の株主資本を引継ぐことができることとした。

ア 逆取得又は共同支配企業の形成の場合(持分プーリング法に準じた処理方法が適用される場合)

吸収合併が逆取得と判定された場合(第84項(1)参照)又は共同支配企業の形成と判定された場合(第185項参照)には、持分プーリング法に準じた処理方法が適用される(企業結合会計基準三 2.(6)B及び三 3.(7))。当該会計処理方法は、株主資本の内訳の引継方法を除き、持分プーリング法と同一の処理方法をいう(企業結合会計基準 注解(注15))が、必ずしも、吸収合併消滅会社等の株主資本の各項目の引継ぎを禁止しているわけではないと解される。このため、持分の結合と判定される場合の要件(対価要件)も考慮し、吸収合併の対価が吸収合併存続会社の株式のみである場合には、吸収合併消滅会社の株主資本をそのまま引継ぐことができることとした。

イ 共通支配下の取引

共通支配下の取引については、企業集団内における資産・負債の移転であり、企業結合会計基準において株主資本の引継ぎ方法については、特に示されていないこと等から、少数株主との取引や抱合せ株式が生じる場合(例えば、親会社が子会社を吸収合併した場合(第206項(2)参照))を除き、@と同様、吸収合併の対価が吸収合併存続会社の株式のみであるときは、吸収合併消滅会社の株主資本をそのまま引継ぐことができることとした。

このような会計処理が適用される場合としては、子会社が親会社を吸収合併した場合(第84項を参照した第210項(2)及び第440項参照)、同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の場合(第185項を参照した第247項(2)参照)及び同一の株主(個人)により支配されている会社同士の合併の場合(第185項を参照した第254項(2)参照)がある。

A 株主資本以外の項目の会計処理

資産及び負債の適正な帳簿価額には、時価(又は再評価額)をもって貸借対照表価額としている場合の当該価額及び対応する評価・換算差額等の各内訳科目(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金)の額が含まれると解されることから(第130項参照)、吸収合併存続会社が交付する対価の種類にかかわらず、株主資本以外の項目については、原則として、そのまま引継ぐこととした。

(5) 吸収分割承継会社等が新株を発行した場合の増加資本の会計処理

409. 吸収分割承継会社等の増加資本の取扱いについて、本適用指針では、以下の企業結合の類型ごとに定めている。

(1) 取得の場合(第79項参照)

吸収分割承継会社等(取得企業)は、受入れる資産及び負債の取得原価を、対価として交付する株式の時価で測定することになる。このため、払込資本(資本金又は資本剰余金)は、発行した新株の時価により増加することになり(第384項から第387項参照)、また、吸収分割会社等の株主資本以外の各項目である評価・換算差額等は吸収分割承継会社等には引継がれないことになる。

(2) 吸収分割会社等の資産及び負債を適正な帳簿価額で引継ぐ場合

@ 株主資本項目の会計処理

吸収分割承継会社等は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。これは、吸収分割会社等では、事業移転の対価として吸収分割承継会社等の株式を受入れ、その取得原価として移転事業に係る株主資本相当額を付すことになるため、吸収分割会社等の株主資本の額に変動はなく、吸収分割承継会社等は、吸収分割会社等の株主資本の各項目を引継ぐことはできないためである。

吸収分割承継会社等が移転事業に係る株主資本相当額を払込資本として会計処理する場合としては、例えば、逆取得の場合(第87項(1)参照)、持分の結合の場合(第154項参照)、共同支配企業の形成の場合(第193項参照)、共通支配下の取引のうち、子会社が親会社に会社分割した場合(第214項(2)参照)、親会社が子会社に会社分割した場合(第227項(2)参照)、単独で新設分割設立子会社を設立した場合(第227項を参照した第261項参照)がある。

A 株主資本以外の項目の会計処理

持分の結合と判定された吸収合併の会計処理の考え方(第408項参照)と同様、吸収分割承継会社等が交付する対価の種類にかかわらず、株主資本以外の項目については、原則として、そのまま引継ぐこととした。

(3) 分割型の会社分割において株主資本の内訳を適切に配分した額で計上できる場合共通支配下の取引(共通支配下の取引に係る会計処理に準じて処理する新設分割による子会社の設立を含む。)において、吸収分割承継会社等が受入れた資産及び負債の対価として吸収分割承継会社の株式のみを交付している場合には、吸収分割会社等で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができるものとしている(第446項参照)。

このような場合として、親会社が子会社に分割型の会社分割した場合(第234項(2)ただし書き参照)、子会社が他の子会社に分割型の会社分割した場合(第234項を参照した第256項参照)、単独で分割型の会社分割をした場合(第234項を参照した第264項参照)がある。

なお、これらの場合において、吸収分割会社等は、通常の分割型の会社分割や現物配当の処理と異なり、受け取った吸収分割承継会社等の株式の取得原価に、これに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を加減した額により、吸収分割会社等の株主資本を変動させることになる。

これは、吸収分割承継会社等は、移転前に付された吸収分割会社等の適正な帳簿価額で受入れた資産及び負債を計上し、かつ、吸収分割会社等で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額で株主資本の内訳を計上することになるが、この処理を行うにあたって、吸収分割承継会社等の株主資本の額は、吸収分割会社等が変動させた株主資本の額と一致させることとなるためである(第234項(2)ただし書き参照)。

(6) 吸収合併存続会社が自己株式を処分した場合の増加資本の会計処理

410. 合併が持分の結合と判定された場合、吸収合併存続会社は合併期日の前日における株主資本の構成を、原則として、そのまま引継がなければならないとされているが、吸収合併の対価として自己株式を処分する場合には、処分する当該自己株式の帳簿価額及び処分差額の処理が問題となる。特に、新株の発行と併用された場合に、この問題は顕著となる。

平成17年公表の本適用指針では、自己株式の処分のみの場合と新株の発行と併用される場合の2つの定めを設け、後者においては、@増加資本の額を新株の発行及び自己株式の処分の株式数の比率により按分し、処分した自己株式に相当する額については自己株式の処分の会計処理を行う方法と、A吸収合併消滅会社の合併期日の前日における株主資本の構成をそのまま引継いだ上で、処分した自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除する方法を認めていた。

ここで@の方法を採用した場合には、吸収合併消滅会社の株主資本のうち払込資本だけではなくそれ以外の部分(利益剰余金)の構成に影響が及ぶことになるが、対価が新株のみであるときと同様に吸収合併消滅会社の株主資本の構成をそのまま引継いだ上で、処分した自己株式の帳簿価額を払込資本の中で処理(その他資本剰余金から控除)することがより整合的と考え、平成18年改正の本適用指針では、合併の対価に自己株式が含まれる場合には、Aの方法のみを認めることとした。これは、自己株式等会計基準により、募集株式の発行等の手続による自己株式の処分に係る差額は払込資本(その他資本剰余金)の中で処理される(自己株式等会計基準第9項及び第10 項)ことや、平成18年改正の自己株式等会計適用指針において、募集株式の発行等の手続により自己株式の処分及び新株の発行が同時に行われた場合にも払込資本の中で処理されることが明記された(自己株式等会計適用指針第11項)ことなどによる(第135項参照)。

(7) 吸収合併消滅会社が保有していた当該会社の自己株式及び抱合せ株式の消滅の会計処理

411. 企業結合会計意見書 三 4.(1)により、持分プーリング法が適用される吸収合併を前提に、抱合せ株式(吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社の株式)の適正な帳簿価額を、吸収合併存続会社の増加資本の額と相殺するとされているが、企業結合会計基準では、以下の点に関する定めはない。

(1) 吸収合併存続会社の増加する株主資本のうち、どの項目に影響させるのか

(2) 抱合せ株式の適正な帳簿価額が吸収合併消滅会社の資産から負債を控除した金額を上回った場合に吸収合併存続会社のどの株主資本項目から減額するのか

抱合せ株式の適正な帳簿価額を合併により増加するどの株主資本項目から減額すべきかは一義的には決まらないと考えられるが、持分の結合と判定された合併の場合には、結合当事企業は過年度から一つの企業に統合されていたものと仮定し、次の 4つの株式保有の類似性を検討した。

@ 抱合せ株式(吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社の株式)(第139項参照)

A 吸収合併存続会社が合併により取得した自己株式(吸収合併消滅会社が保有していた吸収合併存続会社の株式)(第137項参照)

B 合併により消滅した吸収合併消滅会社の自己株式(吸収合併消滅会社が保有していた当該会社の自己株式)(第138項参照)

C 吸収合併存続会社が保有する当該会社の自己株式

これらは、外部株主(結合当事企業以外)から株式を取得し、一つの企業とみた結合当事企業の株主資本を払い戻しているという点で経済実態は同じであり、また、法律上、どちらの企業が吸収合併存続会社になるかにより@とA及びBとCの状態は入れ替わることとなり、これらの 4つの株式保有の状態について本質的な差異はないものと考えた。このため、平成17年公表の本適用指針では、Cの自己株式を消却した場合の会計処理に照らして、自己株式又は抱合せ株式の消滅に対応して減額する株主資本の項目は、結合後企業(吸収合併存続会社)の取締役会等、会社の意思決定機関で定められた結果に従うこととしていたが、平成18年の自己株式等会計基準の改正に伴い、平成18年改正の本適用指針では、その他資本剰余金とすることとした。

また、@の抱合せ株式の消滅とBの吸収合併消滅会社が保有する当該会社の自己株式の消滅の会計処理について、平成17年公表の本適用指針においては、最初に吸収合併消滅会社から引継ぐ剰余金から控除し、控除しきれない場合には吸収合併存続会社の剰余金から控除することとしていた。しかし、平成18年改正の本適用指針では、持分の結合と判定された合併の場合には、結合当事企業は過年度から一つの企業に統合されていたものと仮定することを踏まえ、自己株式の消滅に対応して減額する株主資本項目は、自己株式を消却した場合の会計処理に照らし、その他資本剰余金のみであることを定め、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社のそれを区別せずに取り扱うこととした。

なお、上記会計処理の結果、その他資本剰余金の残高がマイナスとなった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金をゼロとし、当該マイナスの金額をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額することとなる(自己株式等会計基準第12項)。

(8) 会計処理方法の統一

412. 結合当事企業の会計処理方法の統一により生じた差額は、企業結合会計意見書 三 4.(6)Aにより、「企業結合年度の損益として処理する」とされているが、「企業結合計画の中で企業結合前の各結合当事企業の財務諸表において正当な理由に基づく会計方針の変更として行うことも認められる」とされている。このため、結合当事企業の会計処理方法の統一は、企業結合年度又は企業結合年度前の年度のいずれかの年度で行うこととなる。

また、持分プーリング法の適用にあたり、我が国においては、企業結合年度の期首に企業結合が行われたものとした連結財務諸表の作成及び開示が求められているため、企業結合年度に会計処理方法の変更を行う場合には、原則として、会計方針を期首に変更したものとして会計処理を行い、変更に伴う損益への影響額を結合後企業の特別損益に計上することとした(第142項及び第170項参照)。

(9) みなし結合日前の結合当事企業間の取引の会計処理

413. 「企業結合年度の連結財務諸表の作成にあたり、結合当事企業間の企業結合前の取引及びそれらから生じた損益は消去する」(企業結合会計基準 三 3.(4))とされている。ここで、消去の対象となる企業結合前の取引とは、みなし結合日前の取引を含むかどうかという論点がある。

持分プーリング法の会計処理は、結合当事企業が過年度から企業結合していたものとみなして会計処理するという見方からすると、みなし結合日前において行われた結合当事企業間の取引はすべて内部取引と考え、それらから生じた損益も消去することが適当である。

しかし、結合当事企業が企業結合されたものとみなして実際に連結財務諸表を作成するのは企業結合年度期首からであり、仮に、みなし結合日前の期間においてなされた取引から生じた利益を未実現損益とみなして結合当事企業から引継いだ資産から控除すると、当該利益は過年度の財務諸表に計上されているにもかかわらず、企業結合年度以降、当該資産が第三者に販売された時点で再び利益に計上されることとなり適当ではないと考えた。

このため、本適用指針では、みなし結合日前の取引は原則として第三者間取引として取り扱うこととし、取引及びそれから生じた損益の消去は、原則として、企業結合年度に行われた取引に限定することとした(第147項及び第171項参照)。

414. ただし、企業結合の合意公表日後みなし結合日の前日までの間に結合当事企業間で土地の売買など非経常的な取引が行われ、かつ、それが合理的な組織再編計画に基づくものとは認められない場合には、以下の理由により、当該取引を内部取引とみなし、関連する損益を結合後企業の利益剰余金の期首残高の修正として会計処理することとした(第148項及び第173項参照)。

(1) 適正な帳簿価額の引継ぎに関する潜脱行為にあたること

(2) 結合後企業の利益剰余金への影響が長期かつ多額になる可能性があること

(10) 企業結合に要した支出額の会計処理

415. 持分の結合と判定される企業結合は自社の株式の交付が前提となり、それは「企業結合の対価を構成しないと考えられる」(企業結合会計意見書 三 4. (5))ことから、当該新株の発行は資金調達としての性格よりは、企業結合に要した支出額としての性格が強いと考えられる。

このため、本適用指針では、持分の結合と判定される企業結合において発生した新株の発行に要する支出額は、会社法上の繰延資産(株式交付費)に該当する場合であっても、企業結合に要した支出額として発生時の事業年度の費用として処理することとした(第145項、第159項及び第174項参照)。

(11) 分離先企業の企業結合が持分の結合と判定された場合の分離元企業の会計処理

416. 分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離(企業結合)が持分の結合と判定されたものの、分離先企業が子会社や関連会社、共同支配企業以外となる場合には、分離元企業にとって投資が清算されたとみなされるため、取得する分離先企業の株式の取得原価は時価となり、移転損益を認識することとなる。

このようなケースとしては、例えば、A社、B社、C社の3社による共同新設分割により、各分離元企業の有することとなる分離先企業の議決権比率が45:45:10のような場合における C社が該当する。このような事態は、企業結合会計意見書 三 2.(3)@でも指摘されているように、結合当事企業が3社以上の場合、議決権比率が等しいと判定されなかった企業の持分の継続性の判定が、議決権比率が等しいと判定された企業についての最終的な判定に結果として依存するという問題に関連するものであり、例外的な場合と考えられる。

(12) 株式交換又は株式移転における企業結合年度の連結財務諸表

417. 株式交換又は株式移転による企業結合の場合には結合当事企業は法的には一体とならないため、企業結合後も株式交換完全親会社等と株式交換完全子会社等の決算日が異なることがある。このため、持分の結合と判定された株式交換又は株式移転の場合における連結財務諸表の作成にあたり、株式交換完全子会社等の業績をいつから取り込むのかが問題となる。

本適用指針では、次の理由により、結合後企業(株式交換完全親会社等)の事業年度の期首に企業結合が行われたものとみなして連結財務諸表を作成することとし、結合当事企業(株式交換完全子会社等)は、みなし結合日の前日に決算又は仮決算を行い、適正な帳簿価額を算定することとした。

(1) 企業結合会計基準 三 3.(2)により、企業結合年度の期首に企業結合が行われたとみなして連結財務諸表を作成するとされており、また、みなし結合日については、連結原則注解(注解9)の定めによるみなし取得日に相当する取扱いは定められていないこと

(2) 第418項と同様、持分の結合と判定される場合には、連結財務諸表に取り込まれるべき各結合当事企業の業績の期間は同一であることが適当であること

(13) 連結決算日と株式交換完全子会社等となる結合当事企業の決算日が異なる場合の取扱い

418. 持分の結合と判定された株式交換又は株式移転の場合における連結財務諸表の作成にあたり、連結決算日(株式交換完全親会社等の決算日)と株式交換完全子会社等の決算日に差異があっても、連結原則注解(注解7)の定めに従い、決算日の差異が 3か月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として、連結財務諸表を作成できるかどうかという論点がある。

本適用指針では、以下の理由により、株式交換完全親会社等と株式交換完全子会社等の決算日が異なる場合には、株式交換完全親会社等の決算日に株式交換完全子会社等の決算日を統一することとした(仮決算の実施を含む。)(第161項参照)。

(1) 持分プーリング法が適用される企業結合を前提とすれば、結合当事企業の規模が同程度であると想定されるため、株式交換完全親会社等と株式交換完全子会社等の決算日(結合当事企業間の決算日)が相違することは適当ではないこと

(2) 連結原則注解(注解7)の定めは企業結合が取得と判定された場合を前提としたものと考えられること

(14) 株式交換完全親会社等の個別財務諸表上における株式交換完全子会社等の株式の取得原価の算定

419. 企業結合会計基準 三 3.(6)@により、「株式交換又は株式移転による企業結合の場合、結合当事企業の企業結合日における適正な帳簿価額による純資産額に基づいて完全子会社株式の取得原価を算定する」とされている。

本適用指針では、株式交換完全親会社等が連結財務諸表を作成する場合には、以下の理由により、株式交換完全子会社等の株式の取得原価の算定基準日とされている当該企業結合日をみなし結合日と解釈することとした(第162項参照)。

(1) 株式交換又は株式移転による企業結合の場合、実務上、企業結合日(株式交換日又は株式移転日)と決算日が異なることが多いと思われること

(2) 企業結合が持分の結合と判定された場合、企業結合年度期首に企業結合が行われたものとみなして連結財務諸表を作成することになるため、株式交換完全子会社等となる結合当事企業はみなし結合日の前日に決算又は仮決算を行うことになる。したがって、株式交換完全子会社等は、原則として、みなし結合日の前日において適正な帳簿価額による純資産額(株主資本の額)を算定していること

(3) 当該企業結合日をみなし結合日と解釈することにより、株式交換完全親会社等の投資(株式交換完全子会社等株式の帳簿価額)と株式交換完全子会社等の資本は一致し、個別財務諸表と連結財務諸表との整合性が図られること。したがって、このような解釈を行うことは、企業結合会計基準の趣旨に反するものではないと考えられること

ただし、株式交換完全親会社等が企業結合後も連結財務諸表を作成する必要のない場合には、実務上の配慮から、株式交換日又は株式移転日の前後いずれか近い株式交換完全子会社等の決算日の適正な帳簿価額による株主資本の額により株式交換完全子会社等の株式の取得原価を算定できるものとした(第163項参照)。

なお、持分の結合と判定された株式交換において、株式交換完全親会社が当該株式交換以前に株式交換完全子会社の株式を保有していた場合には、第411項の持分の結合と判定された合併における抱合せ株式の会計処理の考え方に準じ、株式交換完全親会社の個別財務諸表における子会社株式の取得原価及び増加すべき払込資本は、株式交換日の前日の株式交換完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額から当該子会社株式の帳簿価額を控除して算定することとした(第162項参照)。

W.共同支配企業の形成の判定

1.共同支配企業の形成の判定要件

420. 共同支配企業の形成の判定要件として、本適用指針では、共同支配及び共同支配企業の定義並びに企業結合会計意見書 三 2.(4)の趣旨を踏まえ、独立企業要件及び契約要件を明示することとした。したがって、共同支配企業の形成の判定要件は、企業結合会計基準 三1.(2)による対価要件及びその他の支配要件を加えた 4つの要件となる(第175項参照)。

(1) 共同支配企業に対する各投資企業の議決権比率が相違している場合の取扱い

421. 企業結合会計基準により、共同支配企業に対する議決権比率は、共同支配企業の形成の判定の対象外とされているため、第175項の要件を満たしている場合には、共同支配企業に対する各投資企業の議決権比率が相違しても、当該企業結合を共同支配企業の形成と判定することになる。これは、以下の理由によるものと解される。

(1) 共同支配企業の意思決定に関する関与については、共同支配となる契約を締結していることから、議決権比率の大小にかかわりなく、他の共同支配投資企業と同等の取扱いとなること

(2) 共同支配企業に対する投資資金の回収は、配当による回収のほか、共同支配企業との取引による回収(例えば、ある共同支配投資企業が共同支配企業とライセンス契約を締結し、その使用料によりリターンを得る場合)など様々な形態が考えられるため、共同支配企業に対する持分割合が相違することをもって共同支配企業の形成に該当しない(又は投資企業が共同支配投資企業に該当しない)とすることは適当ではないこと

(2) 投資企業の中に一般の投資企業が含まれる場合における共同支配企業の形成の判定

422. 共同支配企業は、複数の独立した企業により共同で支配されることとなるが、当該共同支配企業に出資する企業には、共同支配投資企業のほかに、共同支配となる契約等を締結していないため、当該共同支配企業を共同支配しないこととなる投資企業(一般の投資企業)が含まれている場合がある。

本適用指針では、このような一般の投資企業が存在していても、共同支配投資企業となる投資企業の有する議決権の合計が、共同支配企業となる結合後企業の議決権の過半数を占めており、かつ、共同支配投資企業となる投資企業が第175項の要件のすべてを満たす場合には、当該企業結合を共同支配企業の形成と判定することとした(第176項参照)。

これは共同支配企業の株主の中には、主として資金調達の役割を担うのみで、経営に関与することを目的としていないものが存在する場合(一般の投資企業にとっては純投資を目的としている場合)もあり得ることから、このような株主が存在することのみをもって、共同支配企業の形成に該当しないと判定することは適当ではないと考えたためである。

2.独立企業要件の取扱い

423. 本適用指針では、以下の理由により、共同支配企業の形成の要件の1つとして独立企業要件を明示することとした(第175項(1)参照)。

(1)「共同支配企業とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいう」(企業結合会計基準 二 6.)とされ、定義上、投資企業に複数の独立した企業が含まれていること

(2) 複数の独立した企業の存在は、重要な経営事項の決定はすべての共同支配投資企業の同意によるという契約要件の前提となるものであること

ここで、独立した企業とは、連結原則 第三 一の定め及び日本公認会計士協会 監査委員会報告第60号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の取扱い」による現行の連結の範囲との整合性を図ることとし、子会社、緊密な者及び同意している者のいずれにも該当しない者とした(第177項参照)。

3.契約要件の取扱い

(1) 共同支配となる契約等の要件

424. 「共同支配企業の形成か否かの判定については、通常、共同支配であることが契約等から明らかであるので、そのような企業結合については、議決権比率による判定は行わずに議決権比率以外の要件による判定を行うこととした」(企業結合会計意見書 三 2.(4))とされ、議決権比率による判定の代わりに共同支配となる契約等の有無により判定することとされている。このため、契約要件は共同支配企業の形成の判定にあたり本質的な要件と考えられ、契約書等の記載を踏まえ、実質的な判定を行う必要がある。

425. 独立した企業同士が共同支配企業を形成する場合には、共同支配企業の事業目的を明確にした上で、各共同支配投資企業は、通常、共同支配企業における重要な役割分担に関する取決めを行い、それぞれ技術、営業網、人的資源、資金等の経営資源を拠出することが想定される。

したがって、本適用指針では、共同支配となる契約等には、共同支配企業の事業の目的及び各投資企業の当該事業遂行における重要な役割分担に関する取決めが明記されており、また、実態を伴っていることが必要と考えた。なお、共同支配となる契約等を締結し、共同支配投資企業の役割が契約書に明示されていても、実態が伴っていないと認められる投資企業は一般の投資企業として取り扱われることになる。

426. 共同支配企業の形成の判定要件から議決権比率要件が排除されていること及びいずれの企業も単独ではその支配を獲得しないという共同支配の形態から、本適用指針では、共同支配企業の重要な経営事項の決定は、多数決による議決ではなく、すべての共同支配投資企業の同意を求めることとした。ここで、重要な経営事項とは、株主総会及び取締役会における決議事項をいう。これは、企業結合会計基準 注解(注4)1.では、重要な経営事項が決議される意思決定機関として取締役会があげられており、これとの整合性を図るためである。

427. 共同支配企業の形成の判定にあたり、共同支配企業に対する各共同支配投資企業の議決権比率は要件とされていないが、共同支配企業の経営に対する各共同支配投資企業の関与の仕方は、原則として、同じであることが必要と考えられる。このため、ある重要な経営事項の決議の際に賛成しなくとも積極的に反対しない限りは、その決議事項につき賛成したものとみなすこととされた投資企業は、他の投資企業に比べ、共同支配企業への経営の関与の仕方が異なると考えられ、原則として、契約要件を満たしたことにはならない。

ただし、各共同支配投資企業は、共同支配企業の事業遂行に対してそれぞれ異なる役割を担っている場合が想定されるため、そのような取扱いが、当該共同支配投資企業の役割とは関連性の薄い経営事項に関するものに限られることなどが契約等により確認できる場合には、共同支配企業の経営への関与の仕方が異なるとは言えないと考えられるため、契約要件を満たすものとして取り扱うこととした。

(2) 契約上の取決めの形態

428. 共同支配となる契約等は、文書化されていなければならない。当該文書は、合弁事業基本契約書、株主間協定書、株主間の覚書、共同支配企業の定款等のさまざまな名称・形態が考えられ、共同支配となる契約等は、これらのいずれかに明記されることになる。

なお、共同支配となる契約の要件ではないが、共同支配となる契約等には、本適用指針でいう重要な経営事項に関する規定のほか、通常、次のような事項が規定される。

(1) 共同支配企業の企業形態、存続期間及び報告義務

(2) 共同支配企業の資本金、共同支配投資企業の出資比率

(3) 成果の配分方法

4.対価要件の取扱い

429. 共同支配投資企業は、共同支配企業の重要な経営事項に関する意思決定に直接参加することになるため、議決権のある株式とは、第178項 (2)に規定されている重要な経営事項に関する議決権が制限されていない株式とすることとした(第180項参照)。このため、ここでいう議決権の内容は、支配・被支配関係の判定を目的とする「取得と持分の結合の識別」における議決権の内容とは異なることになる。

また、共同支配投資企業に交付する共同支配企業の株式の議決権の内容について、差異(優劣)を設けることは共同支配の趣旨に反すると考えられるため、共同支配企業の形成に該当するためには、共同支配投資企業となるすべての投資企業に対し、議決権に関して同一の権利内容を有する株式を交付しなければならないことになる。

5.その他の支配要件の取扱い

430. その他の支配要件の取扱いは、原則として、取得と持分の結合の識別と同様である(第181項参照)。なお、共同支配企業の形成の判定要件から議決権比率要件が除外されているため、企業結合会計基準 注解(注4)4.の判定は省略することとした。

X.共同支配企業の形成の会計処理

(1) 持分法に準じた処理方法と持分法との会計処理の相違

431. ある企業結合が共同支配企業の形成に該当する場合には、重要な経営事項の決定は、すべての共同支配投資企業の同意によりなされることから、共同支配投資企業は共同支配企業を単独で支配しているわけではなく、また、各共同支配投資企業における共同支配企業への投資の性質は、これまでの関連会社に対する影響力とも異なるものである。このため、共同支配企業への投資の連結財務諸表上の会計処理は子会社に適用される会計処理(連結法)、あるいは、関連会社に適用される会計処理(持分法)とは異なるものとなる。

432. 企業結合会計意見書 三 4.(7)では、次の「差額」を処理しないとされている(第190項及び第197項参照)。

(1) 共同支配企業に対する投資の取得原価(第196項参照)

(2) 共同支配企業の資本(第193項参照)のうち共同支配投資企業の持分比率に対応する額

本適用指針では、上記の共同支配企業に対する投資の連結財務諸表上の会計処理を「持分法に準じた処理方法」としている。なお、事業移転時に当該「差額」を処理する持分法とは、次の点が異なることとなる。

@ 持分法を適用すると、移転した事業に係る適正な帳簿価額と事業の時価との差額に減少する持分比率を乗じた額は、持分変動差額として損益又は利益剰余金に賦課されるが、持分法に準じた処理方法を適用すると、持分変動差額は発生しない。

A 持分法を適用すると、他の共同支配投資企業から拠出された事業の時価と識別可能資産及び負債の正味の評価額(時価)との差額に共同支配企業に対する持分比率を乗じた額は、のれん(又は負ののれん)として処理されることになるが、持分法に準じた処理方法を適用すると、のれん(又は負ののれん)は発生しない。

433. 共同支配投資企業の会計処理について、国際的な会計基準において認められている比例連結法によることも認められるのではないかという論点がある。しかし、企業結合会計意見書 三 4.(7)により「差額」を処理しないとされているため、比例連結法は企業結合会計基準では想定されていない会計処理と解される。

(2) 共同支配投資企業の子会社が共同支配企業に投資している場合の会計処理

434. 共同支配投資企業の子会社が共同支配となる契約等を締結していないことをもって一般の投資企業として取り扱うと、実質的に当該子会社は共同支配投資企業と一体であるにもかかわらず、共同支配企業の形成時に子会社では事業の移転損益を計上することが可能となる場合がある。このため、ある共同支配投資企業の子会社が、同一の共同支配企業に投資している場合には、当該子会社も共同支配投資企業とみなすものとした(第198項参照)。

Y.共通支配下の取引等の会計処理

1.共通支配下の取引の範囲

435. 「共通支配下の取引とは、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の企業により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいう」(企業結合会計基準 二 10.)とされている。ここで、支配の主体となる「企業」の範囲、すなわち、共通支配下の取引として扱う範囲が論点となる。

企業結合会計基準では、企業集団内における企業結合を独立企業間の企業結合と区別し、共通支配下の取引として個別財務諸表上の会計処理を定めている。これは、企業結合会計意見書 三 5.(1)で示されているとおり、共通支配下の取引が、「親会社の立場からは企業集団内における純資産等の移転取引として内部取引」と考えられるため、連結財務諸表と同様に、個別財務諸表の作成にあたっても企業結合の前後で当該純資産等の帳簿価額が相違することにならないよう、企業集団内における移転先の企業は移転元の適正な帳簿価額により計上するためである。

このような趣旨を考えると、支配の主体である「企業」には、親会社が公開企業である場合のほか、非公開企業や外国企業も含まれるものと考えられる。また、企業集団は支配により形成されていることを考えると、支配の主体が企業であれ、個人であれ本質的な差異はない。よって、企業結合会計基準により支配の主体として「企業」が示されているが、本適用指針では、支配する主体には個人も含むものとして取り扱うこととした(第201項参照)。

なお、関連会社との企業結合は、親会社及び子会社から形成される企業集団内における企業結合ではないと解されるため、共通支配下の取引には該当しない。したがって、関連会社との企業結合は、取得と持分の結合(第6項参照)、共同支配企業の形成(第175項参照)のいずれかに識別されることになる。

436. 支配の主体が企業であれ、個人であれ本質的に差異はないとする考えから、支配の主体が個人の場合でも企業の場合と同様に支配力基準により判定が行われることになると考えられる。このため、同一の株主による支配の判定には、ある株主と緊密な者及び同意している者による議決権の保有を考慮することにより、支配の判定を実態を踏まえて行うこととした(第202項参照)。

なお、株主が個人の場合、同一の株主とみなす者の範囲として、近親者等の血縁関係を含めることが適当であるとの考え方もある。しかし、近親者等の血縁関係であれば一律に同一の株主とみなすと、共通支配下の取引を拡大しすぎる可能性もあることから、そのような考え方は採用しなかった。

2.共通支配下の取引と少数株主との取引

437. 企業結合会計基準では、企業集団内における組織再編の会計処理として共通支配下の取引と少数株主との取引(共通支配下の取引等)を定めている。

共通支配下の取引は、親会社の立場からは企業集団内における内部取引であるが、少数株主との取引は、企業集団を構成する子会社の株主と、当該子会社を支配している親会社との間の取引であって、それは企業集団内の取引ではなく、親会社の立場からは外部取引とされている(企業結合会計意見書 三 5.(2))。

ただし、企業集団内における組織再編のうち、例えば、親会社(吸収合併存続会社)と子会社(吸収合併消滅会社)との合併において、親会社が子会社の資産及び負債を受入れることは企業集団内における内部取引であるが、親会社が合併の対価として交付する株式の交付先は子会社の株主(少数株主)となるなど、それらの区別は必ずしも明確ではない。

したがって、企業集団内における組織再編のうち、どの取引を外部取引と考え、少数株主との取引に準じた会計処理を適用し、のれん(又は負ののれん)を認識するのかが主要な論点となる。

この論点について、本適用指針では、組織再編の形式が異なっていても、組織再編後の経済的実態が同じであれば、連結財務諸表上(合併の場合には個別財務諸表上)も同じ結果が得られるように会計処理を検討した。

このため、本適用指針では、企業結合会計基準により会計処理が定められている株式交換等の会計処理を共通支配下の取引等の会計処理の基本とし、この他の代表的な組織再編と考えられる取引について、それと整合的な会計処理を検討した。

2−2.完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

437-2.同一の親会社に支配されている子会社同士(兄弟会社同士)が吸収合併し、吸収合併存続会社となる子会社が吸収合併消滅会社の株主(吸収合併存続会社の親会社)に対価を支払わない場合には、原則として、吸収合併存続会社は受入れた資産及び負債の差額のうち株主資本の額を負ののれん(又はのれん)として会計処理することになる(第243項(1)参照)。

しかし、当該吸収合併において完全親子会社関係にある場合には、実務上、合併の対価(例えば吸収合併存続会社の株式)を吸収合併消滅会社の株主(親会社)に支払わない場合がある。これは、合併の対価を支払うか否かにかかわらず、親会社の当該子会社に対する持分比率は合併の前後で100%と変化はなく、企業集団の経済的実態には何ら影響がないためと考えることができる。

このため、完全親子会社関係にある子会社同士の吸収合併においては、対価の支払いの有無が会計処理に大きな影響を与えることは適当ではないと考え、吸収合併存続会社が、吸収合併消滅会社の株主に対価を支払わなかった場合には、吸収合併消滅会社の株主資本の額を引継ぐこととした。

なお、会社法上、吸収合併存続会社が、合併に際して株式を発行していない場合には、資本金及び準備金を増加させることは適当ではないと解されるため、会計上は、吸収合併消滅会社の株主資本の各項目を原則として引継ぐこととしたうえで、増加すべき株主資本の内訳項目は、会社法の規定に従い、吸収合併消滅会社の資本金及び資本準備金はその他資本剰余金として引継ぎ、利益準備金はその他利益剰余金として引継ぐことになる。

また、実務上、親会社に株式の100%を保有されている子会社が2社あり、一方の完全子会社(吸収分割会社)から他の完全子会社(吸収分割承継会社)に事業の移転を行い、他の完全子会社は対価を支払わないとき、あるいは親会社(吸収分割会社)が完全子会社(吸収分割承継会社)に対して事業の移転を行い、完全子会社は対価を支払わないときがある。このような場合にも、上記と同様の理由から、吸収分割会社で取り崩した株主資本の額を吸収分割承継会社は引継ぐこととした。

上記の会計処理は、組織再編の対価が支払われるか否かは企業集団の経済的実態には影響を与えないことが前提であるため、完全親子会社関係にある場合に限り、適用することに留意する必要がある。

3.親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理

438. 共通支配下の取引等となる合併の会計処理においては、まず、子会社から受入れた資産及び負債の差額を親会社持分相当額と少数株主持分相当額に按分し、共通支配下の取引として扱う部分(内部取引として扱う部分)と少数株主との取引に準じて扱う部分(外部取引として扱う部分)とを区分することとした。

これは、企業集団内における合併と株式交換は、組織再編後の経済的実態は同じと考え、合併後の財務諸表と株式交換後の連結財務諸表との整合性を図ることとしたためである。

具体的には、まず、株式交換の会計処理において少数株主との取引(外部取引)として取り扱われるのは、子会社の純資産のうち少数株主持分相当額の取得に関する部分であるため、合併の会計処理においても当該少数株主持分相当額の取得を少数株主との取引に準じて処理し、親会社が少数株主に交付する株式を時価で算定し、これと当該少数株主持分相当額との差額をのれん(又は負ののれん)として計上することとした(第206項(2)@イ参照)。

次に親会社持分相当額とこれに対する投資原価である子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額(抱合せ株式消滅差額)をどのように会計処理するかが論点となる。

すなわち、当該差額は株主との資本取引から生じたものではないため、親会社の利益剰余金を増減させることになるが、その処理方法は利益剰余金を直接増減させるべきか、それとも損益に計上した上で利益剰余金を増減させるべきかが議論された。

利益剰余金を個別損益計算書の末尾で直接増減させる会計処理は、従来の実務慣行と思われるが、本適用指針では、次の理由から、抱合せ株式消滅差額を損益に計上した上で利益剰余金を増減させることとした。

(1) 抱合せ株式消滅差額が差益の場合は投資額を上回る回収額を表し、逆に、差損の場合には投資額を下回る回収額を表すことになるので、合併を契機に、このような子会社を通じた事業投資の成果を親会社の個別損益計算書に反映させることが適当と考えられること

(2) 抱合せ株式消滅差額が差益の場合には、子会社から配当金を受け取った後に合併した場合と、また、差損の場合には、子会社投資に係る評価損を計上した後に合併した場合と組織再編の経済的実態が同じと考えられるので、それらの取引と同様の結果が得られるように会計処理することが望ましいと考えられること

(3) 利益剰余金の増減は、原則として当期純利益に反映されたもののみから構成されることが適当であること

438-2.子会社が保有する孫会社株式は、企業集団の最上位の親会社が保有する子会社株式と同様、事業投資の一形態と考えることができる。このため、子会社(吸収合併存続会社)とその子会社(吸収合併消滅会社)が合併した場合(子会社と孫会社が合併した場合)には、企業集団の最上位の親会社(吸収合併存続会社)とその子会社(吸収合併消滅会社)が合併したときと同様に処理することが、共通支配下の取引の会計処理として首尾一貫しているものと考えられる。

このため、子会社の孫会社に対する投資原価(吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社の株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額)と合併に伴い子会社が受入れる資産及び負債の差額のうち当該投資原価に見合う株主資本の額との差額を損益(抱合せ株式消滅差損益)に計上することとした(第206項(4)参照)。

4.親会社が子会社から受入れる資産及び負債の修正処理

439. 企業結合会計基準 注解(注16)において、「親会社と子会社が企業結合する場合において、子会社の資産及び負債の帳簿価額を連結上修正しているときは、親会社が作成する個別財務諸表においては、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(連結調整勘定を含む)により計上する。」とされている。

本適用指針では、当該修正の対象には、未実現損益が含まれるものとし、さらに、修正対象となる未実現損益は、親会社が子会社に対して行った資産等の処分により、親会社の個別財務諸表上、損益に計上したものに限定している。したがって、以下の点に留意する必要がある。

(1) 親会社(吸収合併存続会社)から子会社に資産を売却し、さらに当該子会社がこれを他の子会社(吸収合併消滅会社)に売却した後に親会社が他の子会社を吸収合併した場合には、修正対象となる未実現損益は、親会社が子会社に資産を売却したことによる損益のみとなり、子会社が他の子会社へ資産を売却したことによる損益は、修正の対象とはならない。

(2) 親会社(吸収合併存続会社)と子会社(吸収合併消滅会社)が企業結合する場合でも、親会社が当該子会社から受入れた資産及び負債の帳簿価額を連結財務諸表上、修正していても、親会社の適正な帳簿価額を基礎として会計処理することとなる。なお連結財務諸表上は、当該内部取引に係る修正を引き続き行うことに留意する必要がある(企業結合会計基準 三4.(1)A)。

(3) 子会社と他の子会社との企業結合(子会社とその子会社の企業結合を除く。第207項ほか参照)においては、連結財務諸表上、当該子会社の資産又は負債の帳簿価額を修正していても、子会社の適正な帳簿価額を基礎として会計処理することとなる(企業結合会計基準三 4.(1)@及び同 注解(注16))。

なお、子会社(吸収合併存続会社)が親会社(吸収合併消滅会社)を吸収合併した場合には、子会社が親会社に処分した資産を合併により子会社が再び受入れることとなる点を重視し、企業結合前に子会社が親会社に資産等を処分したことにより生じた未実現損益を連結財務諸表上、消去している場合には、子会社は連結財務諸表上の帳簿価額により親会社の資産及び負債を受入れることとした(第211項参照)。

5.子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理

(1) 個別財務諸表上の会計処理

440. 親会社と子会社との合併において、子会社が吸収合併存続会社となる場合であっても、共通支配下の取引に該当するため、子会社は親会社から受入れた資産及び負債の差額は、資本として処理することになる(企業結合会計基準 三 4.(1)@ロ)。

本適用指針では、当該合併により増加する子会社の「資本」(株主資本)について、当該企業結合は持分の結合ではないため、原則として、払込資本を増加させることとした。

ただし、子会社が吸収合併存続会社となるのは特殊な事情による限られた場合であると考えられること、また、子会社にとっては吸収合併により投資の回収を行ったわけではないと考えられることにより、合併が共同支配企業の形成と判定された場合の取扱いと同様に親会社の資本構成を引継ぐことも認められることとした(第210項及び第408項参照)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

441. 親会社と子会社との合併において、子会社が吸収合併存続会社(親会社が吸収合併消滅会社)となる場合は、企業集団の観点から取引の実態をみると、親会社を吸収合併存続会社とみなした吸収合併と同様に考えることができる。したがって、子会社が連結財務諸表を作成する場合は、子会社において行った個別財務諸表上の処理を振り戻し、当該合併以前の連結財務諸表における処理を合併後も継続するように会計処理することが適当と考えた。

このため、本適用指針では、連結会計方針として採用する子会社の資産及び負債の評価方法(部分時価評価法又は全面時価評価法)に従って計上された時価評価替後の資産及び負債を連結財務諸表上の帳簿価額として受入れ、また、合併に際して子会社が受入れた自己株式(子会社が親会社から受入れた子会社株式)とそれに対する子会社の増加資本については内部取引として消去することとした(第212項参照)。また、合併後に子会社が連結財務諸表を作成しない場合は、経済的実態に即した情報が開示されなくなること、及び合併後も連結財務諸表を作成する場合との比較から、親会社を吸収合併存続会社とみなした場合の財務情報のうち、一定の事項について注記を求めることとした(第213項参照)。

6.子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

442. 会社分割により子会社(吸収分割会社)が親会社(吸収分割承継会社)に事業を移転する場合の連結財務諸表上の会計処理は、実質的に少数株主持分相当額の取得と考えられる部分については、以下の理由により、少数株主との取引に準じて処理することとした。具体的には、子会社に交付する親会社株式のうち実質的に少数株主に交付したものと考えられる部分を時価で測定し、これと親会社が受入れた資産及び負債の差額のうち少数株主持分相当額との差額をのれん(又は負ののれん)として計上することになる。

(1) 当該会社分割は、形式上、親会社と少数株主との間で取引は行われていないものの、両者は、親会社に移転された事業と子会社に交付する親会社株式が等価となるように取引条件が決定されており、その経済的効果の観点から、実質的に少数株主持分相当額の取得と考えられる部分があること

(2) 企業集団内における当該会社分割と分割型の会社分割(第218項参照)は組織再編後の経済的実態は同じと考えられ、会社分割後の連結財務諸表と分割型の会社分割後の連結財務諸表との整合性を図ることが適当であること

一方、個別財務諸表における当該会社分割の会計処理は、少数株主の出資比率にかかわらず、すべて共通支配下の取引として取り扱い、移転先企業(親会社)は移転元企業(子会社)の適正な帳簿価額に基づいて会計処理することとした。これは、親会社と子会社との取引において、少数株主の出資比率により個別財務諸表上の会計処理を区別することは、現行の会計慣行にはないことを考慮したためである(第214項参照)。

なお、会社分割の実施と同時に子会社が取得した親会社株式を現物分配すると分割型の会社分割と同様の組織再編となる。したがって、会社分割後の連結財務諸表と分割型の会社分割後の連結財務諸表との整合性を図るということは、当該現物分配は連結財務諸表には影響を与えない取引であることが説明されなければならない。現行の会計基準では、連結財務諸表上、連結子会社が保有する親会社株式のうち親会社持分相当額は自己株式として株主資本から控除し、少数株主持分相当額は少数株主持分から控除することとされている(自己株式等会計基準第15項)。したがって、当該会社分割により子会社が取得した親会社株式のうち少数株主持分相当額は、連結財務諸表上、もともと少数株主持分から控除されているため(親会社持分相当額は、内部取引として消去される(第217項(1)参照))、子会社が、親会社株式を少数株主に分配しても連結財務諸表の資産総額、純資産額(株主資本項目の内訳を含む。)等には影響を与えないことになる。したがって、本適用指針の会社分割の連結財務諸表上の会計処理は、現行会計基準と整合しているものと考えられる。

7.子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

443. 分割型の会社分割により子会社(吸収分割会社)が親会社(吸収分割承継会社)に事業を移転する場合の会計処理は、合併の会計処理に準じて、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を親会社持分相当額と少数株主持分相当額に按分し、当該少数株主持分相当額の会計処理について少数株主との取引に準じた取引として取り扱い、親会社持分相当額は内部取引として取り扱うこととした。これは、企業集団内における合併と当該分割型の会社分割は、組織再編後の経済的実態は類似しており、合併後の財務諸表と事業の移転部分に応じた分割後の連結財務諸表との整合性を図ることとしたためである。

ただし、分割型の会社分割の場合には、合併と異なり、会社分割後も分離元企業(子会社)が存在し、その子会社では移転した事業に係る純資産が減少することになるため、親会社では、受入れた事業と保有していた子会社株式の部分的な引き換えが行われたとみて、親会社が保有する子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額のうち、引き換えられたものとみなされる額を減額する会計処理が必要になる(第218項参照)。

8.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1) 親会社(吸収分割会社)における個別財務諸表上の会計処理

444. 会社分割により親会社が子会社に事業を移転する取引は、共通支配下の取引に該当するため、分離先企業(子会社)の株式のみを受取対価とする場合には、分離元企業(親会社)が受け取った分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定することとなり、移転損益は認識されない(第226項参照)。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、まず、事業分離前の子会社株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナス金額については、当該子会社株式の評価的な勘定として「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上することとした(第394項参照)。

(2) 子会社(吸収分割承継会社等)における個別財務諸表上の会計処理

445. 会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合においては、分離先企業(子会社)は、分離元企業(親会社)の株主資本の内訳を引継ぐことができないため、払込資本を増加させることとなる(第227項(2)参照)。

ただし、分離先企業である子会社において、分離元企業(親会社)の移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合、どのように会計処理するかが問題となる。これについては、払込資本をマイナスとして表示することはないと考えられるため、移転事業に係る株主資本相当額のマイナスを過去の損益の修正とするか、当期の損益とするか、将来に繰り延べるかという見方がある。共通支配下の取引は、企業結合の前後で当該純資産の帳簿価額が相違することにならないような配慮がなされていること、持分プーリング法の場合には株主資本項目の内訳を引継ぐこととなることなどを考慮して、移転に係る対価が当該子会社の株式のみである場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとすることとした。

9.親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

446. 分割型の会社分割は、会社分割(従来は物的分割ともいわれた分社型の会社分割をいう。)とこれにより受け取った吸収分割承継会社又は新設分割設立会社の株式の分配という 2つの取引と考えられていることから、まず、吸収分割会社である親会社も吸収分割承継会社である子会社も、吸収分割会社又は吸収分割承継会社の会計処理を行うこととなる(第233項及び第234項参照)。このため、吸収分割承継会社である子会社においては、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を払込資本とすることとなる。

しかし、吸収分割承継会社である子会社における増加資本の会計処理においては、従来のように吸収分割会社自体が分割したものと捉え、親会社で計上されていた株主資本の内訳を配分することも認めてはどうかという実務上の要請を考慮し、本適用指針では、受入れた資産及び負債の対価として吸収分割承継会社(子会社)の株式のみを交付している場合には、親会社で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができるものとした(第234項(2)ただし書き参照)。この場合には、配分に際して用いた適切な方法を吸収分割会社において注記することが望ましい。

なお、事業分離日(分割期日)後に吸収分割承継会社(子会社)の株式が吸収分割会社の株主に交付されていたり、受入れた資産及び負債の対価として吸収分割承継会社(子会社)の株式以外の現金等の財産(第95項参照)が含まれていたりする場合には、前段のような取扱いは認められないことに留意する必要がある(第409項参照)。

447. 分割型の会社分割により親会社(吸収分割会社)が子会社(吸収分割承継会社)に事業を移転する場合の連結財務諸表上の会計処理は、増加する少数株主持分と同額の親会社持分(剰余金)を減らすのみとなり、持分変動損益は認識しない。また、子会社に対する持分比率も増加しないため、のれんも認識しないことになる。したがって、連結財務諸表上の帳簿価額のうち、少数株主に移転した金額を直接、少数株主持分に振り替えることになる(第235項参照)。

9−2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

447-2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合(会社分割の対価が吸収分割承継会社である他の子会社の株式である場合)、共通支配下の取引であるため、吸収分割会社である子会社が取得する、吸収分割承継会社である他の子会社の株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定することとなる。したがって、吸収分割承継会社である他の子会社が、吸収分割会社である子会社の子会社及び関連会社となる場合のほか、それ以外となる場合(他の子会社の株式がその他有価証券に分類される場合)でも、移転損益を認識しない(第254-2項参照)。

また、この場合において、吸収分割会社である子会社の連結財務諸表上、会社分割前後における当該吸収分割会社である子会社の持分の差額は、持分変動差額として取り扱うこととなる。これは、子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合は、企業集団を構成する子会社を支配している最上位の親会社と当該子会社の企業集団外の株主との間の取引である少数株主との取引に該当しないためである。このため、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合(第229項参照)と異なり、のれん(又は負ののれん)は計上されないこととなる(第254-4項参照)。

9−3.株式交換等の直前に子会社(株式交換完全子会社等)が自己株式を保有している場合の取扱い

447-3.株式交換又は株式移転の直前に子会社(株式交換完全子会社等)が自己株式を保有している場合、会社法上、親会社(株式交換完全親会社等)は株式交換日又は株式移転日に当該自己株式(子会社株式)を取得し、これと引き換えに対価(親会社株式など)を子会社に交付しなければならない。この場合、子会社が取得した親会社株式及び親会社が取得した子会社株式に付すべき帳簿価額には、以下の 2つの考え方がある。

(1) 子会社における自己株式の帳簿価額とする考え方

(2) 親会社株式の時価とする考え方

(1)の考え方は、当該株式交換又は株式移転を共通支配下の取引として捉えるものであるが、本適用指針では、次の理由から、(2)の考え方によることとした(第238-2項参照)。

@ 当該株式交換又は株式移転にあたり、会社法上、親会社は、子会社が保有する自己株式に対して対価(親会社株式など)を交付し、子会社株式を取得することとなるが、もともと、株式交換日又は株式移転日に子会社が自己株式を保有するかどうか(株式交換日又は株式移転日の直前までに自己株式を消却するかどうか)は結合当事企業の意思決定の結果に依存する。このため、親会社と子会社との間で行う株式の交換は、当該株式交換又は株式移転と一体の取引として捉える必要はなく、会計上は、共通支配下の取引として処理する必然性はないこと

A 子会社にとっては、当該株式交換又は株式移転により、資本控除されている自己株式が親会社株式という資産に置き換わり(資本取引の対象から損益取引の対象に変わり)、その連続性はなくなることになる。このため、子会社が取得する親会社株式の帳簿価額に自己株式の帳簿価額を付すのではなく、新たに取得する親会社株式の時価を基礎として処理することによって、株式交換又は株式移転後の子会社の損益を適切に算定することができること

10.共通支配下の取引等により発生したのれんの会計処理

448. 企業結合が行われた場合、のれん(又は負ののれん)は、例えば、以下の場合に発生する。

(1) 取得(第51項参照)

(2) 共通支配下の取引のうち、親会社が子会社と合併する場合(第206項(2)@イ参照)、子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合(連結財務諸表上の会計処理)(第217項(3)参照)及び子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合(第218項(2)参照)等における少数株主との取引又はそれに準じた取引

(3) (2)以外の共通支配下の取引

@ 吸収合併消滅会社の株主資本の額又は移転事業に係る株主資本相当額が、交付した現金等の財産の適正な帳簿価額を上回る場合(対価が現金等の財産のみ)の当該差額としての負ののれん

ア 親会社から子会社へ事業譲渡(第224項(1)参照)

イ 同一の株主により支配されている子会社同士の合併(第243項(1)参照)

A 吸収合併消滅会社の株主資本の額又は移転事業に係る株主資本相当額が、交付した現金等の財産の適正な帳簿価額を下回る場合(対価が株式のみである場合以外)

ア 吸収合併消滅会社の株主資本の額又は移転事業に係る株主資本相当額がゼロ以上のときの交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額としてののれん

・親会社から子会社へ事業譲渡(対価は現金等の財産のみ)(第224項(1)参照)

・親会社から子会社へ会社分割(対価は現金等の財産と株式)(第231項(2)A参照)

・同一の株主により支配されている子会社同士の合併(対価は現金等の財産のみ)(第243項(1)参照)

・同一の株主により支配されている子会社同士の合併(対価は現金等の財産と株式)(第251項(2)@参照)

イ 吸収合併消滅会社の株主資本相当額又は移転事業に係る株主資本相当額がゼロ未満であるときの交付した現金等の財産の適正な帳簿価額と同額ののれん

・親会社から子会社へ会社分割(対価は現金等の財産と株式)(第231項(2)A参照)

・同一の株主により支配されている子会社同士の合併(対価は現金等の財産と株式)(第251 項(2)A参照)

(1)ののれん(又は負ののれん)は、時価を基礎として算定された取得原価と識別可能資産及び負債の時価を基礎とした取得原価の配分額との差額として算定される。

(2)ののれん(又は負ののれん)は、時価を基礎として算定された取得原価と、受入れた資産及び負債の移転元の適正な帳簿価額との差額として算定されるため、当該資産及び負債の企業結合日における時価と適正な帳簿価額との差額(含み損益)も、のれん(又は負ののれん)に含まれることになる。

(3)ののれん(又は負ののれん)は、受入れた資産及び負債の移転元の適正な帳簿価額と、対価として交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額として算定される。なお、共通支配下において、現金のみを対価として子会社株式だけを受け取る場合には、これまでの実務上の取扱いに照らして、個別財務諸表上、企業結合会計基準ではなく、金融商品会計基準の定めを優先して適用することが適当と考えられる。したがって、この場合には、個別財務諸表上、のれん(又は負ののれん)は生じないこととなる。

本適用指針では、上記ののれん(又は負ののれん)は、その性格がそれぞれ異なるものの、企業結合会計基準の定めに従い、いずれも第72項、第76項から第78項に準じて会計処理するものとした。

Z.開 示

1.表 示

(1) のれん及び負ののれんの表示

449. のれん及び負ののれんの残高は、取得企業の将来の業績を予測する上で重要なため、総額表示することが原則であるが、相殺表示している場合には、その旨及び相殺前の金額を注記することとした(第299項参照)。

450. のれん及び負ののれんの当期償却額の損益計算書上の表示区分は、連結原則注解(注解23)3 と整合させることとした。

また、のれんと負ののれんは発生原因が異なることから、その償却額を損益計算書に適切に表示するため、総額表示を原則とすることとした(第302項参照)。

(2) 企業結合に係る特定勘定の表示

451. 企業結合に係る特定勘定は、被取得企業が負担した将来の費用又は損失を、認識の対象となる事象が発生するまで取得企業の負債に計上して繰り越すもので、いわば「未決算勘定」としての性格が強いと考えられる。このため、当該負債は、貸借対照表上、原則として、区分掲記し、その主な内容及び金額を財務諸表に注記することとした。

また、企業結合に係る特定勘定の流動・固定区分の取扱いは、実務を考慮して、認識の対象となった事象が、貸借対照表日後1年内に発生することが明らかな場合にのみ流動負債に計上することとした(第300項参照)。

2.注記事項

(1) 企業結合年度における企業結合全体では重要性がある場合の取扱い

452. 個々の企業結合は結合後企業又はその株主の業績に重要な影響を与えないとされる場合であっても、1 事業年度の企業結合を合算すると連結財務諸表又は個別財務諸表に重要な影響を与えるときがある。そのような場合には、個々の企業結合が重要な場合と同様、投資意思決定情報として有用性が高いので、財務諸表作成者の事務負担を考慮しつつ、海外の企業結合に係る会計基準における開示規定を参考にして、一定の開示を求めることとした(第306項、第313項、第314項、第317項及び第319項参照)?/p>

(2) 逆取得となる吸収合併の場合で、結合後企業が連結財務諸表を作成しないときの取扱い

453. 企業結合会計基準 四 2.(1)Iでは、連結財務諸表を作成していない場合において、取得企業が吸収合併存続会社と異なる企業結合に持分プーリング法に準じた方法を適用したときは、パーチェス法を適用した場合の個別貸借対照表及び個別損益計算書に及ぼす影響の概算額を注記するとされている(第306項(10)参照)。これは、追加的な情報開示を要求しないと、経済的実態に即したパーチェス法を適用した場合の情報が一切開示されず、投資情報としての有用性が確保されないこと、また、連結財務諸表を作成している会社との比較可能性も確保されないこととなることなどから、パーチェス法を適用した場合の重要な情報について注記を求めていると解される?/p>

これらの趣旨を踏まえ、「影響の概算額」の記載は、貸借対照表及び損益計算書の主要項目について、被取得企業に対してパーチェス法を適用した場合との差額又はパーチェス法を適用した場合の貸借対照表及び損益計算書の主要項目を記載することとした。また、企業結合年度における注記事項と同様の情報を、重要性が乏しくなった場合を除き、継続的に開示することとした(第307項及び第308項参照)。

なお、当該「影響の概算額」並びに第312項及び第315項の「影響の概算額」は、第306項(11)の「企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額」のような仮定情報とは異なり、会計基準に定めのある手法に基づき作成される情報である。

3.企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額等の算定方法

(1) 企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額

454. 企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額(以下、本項及び次項において「連結損益計算書への影響の概算額」という。)の算定にあたっては、その前提条件等が企業結合ごとに異なることが想定され、詳細な方法を示すことは困難と考えられる。

このため、本適用指針では、連結損益計算書への影響の概算額の算定の基本的な考え方を示すとともに、実務に配慮し、前提条件を例示している(第326項及び第327項参照)。

したがって、当該情報を開示する場合には、本適用指針に示されている考え方に則して、企業結合ごとに一定の判断を加えることが必要になる。

455. 連結損益計算書への影響の概算額の開示(企業結合会計基準 四 2.(1)J)は、企業結合により企業業績が大きく変化することが予想されることから、結合後企業の業績推移の把握に役立つ情報の開示が目的と解される。

これらの点を踏まえて、連結損益計算書への影響の概算額の記載は、以下のいずれかの方法による開示を求めることとした(第309項参照)。

(1) 企業結合が当期首に完了したと仮定した場合の売上高及び損益情報と取得企業の連結損益計算書上の売上高及び損益情報に係る各々の差額による記載

(2) 企業結合が当期首に完了したと仮定して算定された当該企業結合年度の売上高及び損益情報による記載

(1)については、例えば、3月決算のA社(取得企業)が9月末にB社(被取得企業)を取得した場合、A社の実際の連結損益計算書(B社の業績は10月から翌年3月末までの6か月間が反映される。)と、 A社が当該事業年度の期首にB社を取得したと仮定したときのA社の連結損益計算書(B社の業績は期首から翌年3月末までの12か月間が反映される。)との差額を開示することになる?/p>

また、連結損益計算書への影響の概算額に関する開示項目としては、財務諸表利用者が収益及び利益動向を適切に推定できるように、売上高だけでなく、実務上可能な範囲で、当期純損益や 1株当たり当期純損益などの損益情報を記載することとした。なお、金額表示については、取得企業の業績推移の把握に役立つ情報という観点から、財務諸表における金額の表示単位よりも大きい単位で表示することも可能であると考えられる。

さらに、(1)又は(2)の連結損益計算書への影響の概算額は、一定の前提をおいて算定されるものである。重要な前提条件は、財務諸表利用者が企業業績の推移を適切に把握するために有用な情報であるので、影響の概算額の算定にあたっての重要な前提条件についても開示することとした。

なお、連結損益計算書への影響の概算額の開示の重要性の判断については、我が国では今まで当該情報の開示慣行がないことや作成者の負担を勘案して数値基準によるガイドラインを設けるべきであるという意見もあるが、海外の基準でも、数値基準によるガイドラインを設けておらず、また、我が国において、重要性の判断基準に、数値基準を設けないこととしてきた経緯もあることから、業績推移の把握に役立つ情報を開示するという注記の趣旨を踏まえて判断していくこととし、数値基準によるガイドラインを設けないこととした。

取得企業が連結財務諸表を作成していない場合は、注記の趣旨を踏まえ、個別損益計算書への影響の概算額を開示することとした(第310項参照)。

(2) 企業結合の結果、処分することが決定された重要な事業

456. 企業結合会計基準 四 2.(2)Eの「重要な事業の処分」とは、取得と持分の結合の識別に用いられる「いずれかの結合当事企業の処分予定の大部分の事業」に該当しないが、次期以降の業績に重要な影響を及ぼす可能性のあるものであると解される。「持分の結合」と判定した理由は注記事項として別途開示が求められていることを踏まえると、実務上可能である限り、当該事業の内容、処分時期、処分方法、処分理由などの定性的な情報に加えて、当該事業に係る資産及び負債の貸借対照表計上額や処分予定事業における直前事業年度の売上高、営業損益なども開示することとした(第311項参照)。

4.重要な後発事象等の注記

457. 企業結合会計基準 四 2.(4)では、重要な後発事象の注記として、貸借対照表日後に完了した企業結合を対象としているが、企業結合が完了していない場合においても、企業結合は投資判断情報として重要な情報なため、日本公認会計士協会 監査委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」では、「合意成立又は事実の公表のとき」や「取締役会等の決議があったとき」は、開示後発事象として取り扱うとされている。

企業結合が完了しておらず、企業結合会計基準 四 2.(4)に規定されている重要な後発事象に該当しないものについて、企業結合の合意公表日が当該事業年度中の場合には「追加情報」として、また、企業結合の合意公表日が当該事業年度直後の場合には「開示後発事象」として、企業結合会計基準 四 2.(4)で示された注記事項に準じた開示を行うこととした(第321項参照)。

また、事業分離等においても、同様に取扱うこととした(第323項及び第325項参照)。

[.適用時期等

458. 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準の適用時期は、事業年度を基準とし、平成18年4月1日以後開始事業年度から適用することになるが、会社法は、事業年度にかかわりなく、企業結合日又は事業分離日が会社法施行日以後の企業結合又は事業分離について適用される。このため、以下の期間における企業結合又は事業分離等に係る会計処理は、次のように取扱うことになると考えられる。

(1) 平成18年4月1日以後に開始する事業年度のうち、会社法施行期日前の期間(会社法適用前期間)における取扱い

企業結合日又は事業分離日が会社法適用前期間となる企業結合又は事業分離等に係る会計処理については、旧商法に定める範囲内で企業結合会計基準又は事業分離等会計基準を適用することとなる。

なお、例えば、企業結合会計基準に従ってのれんを計上し、これを20年以内の期間で償却することは、その償却を行うこととなる事業年度末において会社法が施行されている場合には、認められるものと考えられる。また、企業結合会計基準に従って負ののれんを計上し、これを20年以内の期間で償却することは、旧商法及び旧商法施行規則においてこれを禁止する明文の規定がないことから、公正な会計慣行を斟酌する(旧商法第33条第2項)ことにより、認められるものと考えられる。

(2) 平成18年3月31日以前に開始する事業年度のうち、会社法施行期日以後の期間(会社法適用後期間)における取扱い

企業結合日又は事業分離日が会社法適用後期間となる企業結合又は事業分離等に係る会計処理については、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準の適用前であるが、他に明文の会計処理の定めがないため、既に公表されているこれらの会計基準に準じて処理することができる。

なお、会社法適用後期間においては、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う(会社法第431条)とともに、会社法に関する法務省令に準拠することに留意する必要がある。

459. 平成18年及び平成19年改正の本適用指針の適用により、事業年度の会計処理が中間会計期間における会計処理と異なることとなる場合であっても、いわゆる中間・年度の首尾一貫性が保持されていない場合には該当しないものとする。

なお、平成18年及び平成19年改正の本適用指針の公表日の前後において経済的に同一の事象と考えられる組織再編が同一事業年度(又は同一中間会計期間)内に行われており、かつ、適用される会計処理が異なる場合には、重要性の乏しいものを除き、その旨及びその内容を追加情報に準じて連結財務諸表又は財務諸表に注記することが適当である(第331項及び第331-2項参照)。


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