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賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準目次

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成20年11月28日に公表した「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」から「結論の背景」部分を抜粋したものです。なお、実務にの適用にあたっては念のためにオリジナルの当該会計基準等を確認してください。

企業会計基準第20号

賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準

(結論の背景)

平成20年11月28日

企業会計基準委員会

 

 

目次

結論の背景

経緯

本会計基準における考え方

用語の定義

賃貸等不動産の範囲

賃貸等不動産に関する注記事項

四半期財務諸表における注記事項

適用時期等


結論の背景

経緯

11. 我が国において固定資産に区分されている不動産は、一般に、原価評価(取得原価から減価償却累計額等を控除した金額で計上)されている。これに対して、国際財務報告基準(IFRS)では国際会計基準(IAS)第40号「投資不動産」において、棚卸資産や企業が自ら使用するものを除く、賃貸収益又はキャピタル・ゲインを目的として保有する投資不動産は、時価評価(時価で計上し、減価償却をしていない取得原価との差額を損益に計上)と原価評価の選択適用であり、原価評価されている場合は時価等を注記することとされている。

12. 平成14年8月に企業会計審議会から公表された「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損意見書」という。)では、そのような投資不動産についても、時価の変動をそのまま損益に算入せず、他の有形固定資産と同様に取得原価基準による会計処理を行うことが適当であるとされていた(減損意見書 六 1)。また、そのような投資不動産の時価の注記に関しては、その要否や投資不動産の範囲も含め、理論及び実務の両面で、なお検討を要する問題が残されていることから、今後の検討課題とされていた(減損意見書 六 2)。

13. 一方、会計基準の国際的なコンバージェンスに向けた取組みとして、企業会計基準委員会は、平成17年3月から国際会計基準審議会(IASB)との共同プロジェクトを開始し、投資不動産の取扱いについて議論を行ってきた。また、平成17年7月に欧州証券規制当局委員会(CESR)から公表された「EU 同等性評価に関する技術的助言」において、補正措置の1つとして投資不動産の取扱いが挙げられている。当委員会は、平成19年8月に公表した「東京合意」(会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意)を踏まえ、平成19年12月に投資不動産専門委員会を設置し、専門委員による討議など幅広い審議を行った。本会計基準は、平成20年6月に公表した公開草案に対して当委員会に寄せられたコメントを検討し、公開草案を一部修正した上で公表に至ったものである。

本会計基準における考え方

会計処理

14. 減損意見書では、国際財務報告基準における投資不動産の時価評価について、活発な市場を有する一部の金融資産に比べ時価を客観的に把握することは困難であること、賃貸収益を目的として保有されるような不動産であっても、直ちに売買・換金を行うことに事業遂行上の制約がある場合等、事実上、事業投資と考えられるものについては、時価の変動を企業活動の成果とは捉えないという考え方が妥当であることなどから、時価評価を行い、その差額を損益とすることは適当ではないとされていた。

15. その後、当委員会は、平成18年7月に企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「棚卸資産会計基準」という。)を公表し、当初から加工や販売の努力を行うことなく単に市場価格の変動により利益を得るトレーディング目的で保有する棚卸資産については、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)は、当期の損益として処理することとしている(棚卸資産会計基準第15項)。このため、不動産であっても、このようなトレーディング目的で保有する棚卸資産に該当するものがあれば、時価評価されることとなると考えられる。

しかしながら、単に賃貸収益を得ることを目的として不動産が保有される場合や、キャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されていても、活発な取引が行われるよう整備された購買市場と売却市場とが区別されていない単一の市場が存在しない場合には、時価によって直ちに売買・換金を行うことには制約があるため、当該不動産を時価評価し、その差額を損益とすることは適当ではないと考えられる。

したがって、本会計基準においても、会計処理については減損意見書で示された考え方を踏襲している。

時価の注記

16. 減損意見書では、国際財務報告基準における投資不動産については、原価評価による会計処理を行うことが適当であるが、投資情報としてその時価を注記することが適当であるという意見と適当でないという意見が示されている。前者の意見は、国際財務報告基準が原価評価による会計処理を選択した場合には時価を注記するよう求めていることとの調和や他の有形固定資産と比べ相対的に換金性が高いという性格に鑑みたものとされている。また、後者の意見は、活発な市場を有する一部の金融資産に比べ時価を把握することが比較的困難であること、また、直ちに売買・換金を行うことに事業遂行上の制約がある場合に時価を注記することは、財務諸表利用者にとって有用な情報を提供することにならないのではないかなどの理由によるものとされている。このように、減損意見書では、時価の注記に関して、その要否や投資不動産の範囲も含め、理論及び実務の両面で、なお検討を要する問題が残されていることから、今後の検討課題とされていた。

17. その後、当委員会は、平成20年3月に企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)を改正し、証券化の拡大や金融商品の多様化等、金融取引を巡る環境が変化する中で、有価証券やデリバディブ取引以外の金融商品についても時価情報に対するニーズが拡大していること等を踏まえ、すべての金融商品についてその状況やその時価等に関する事項の開示の充実を図っている。

すなわち、改正された金融商品会計基準では、すべての金融商品を時価評価することは検討を要する問題が残されているものの、損益計算とは離れて、市場価格がない場合でも金融商品の時価を開示することは、財務諸表利用者に対して有用な財務情報を提供することになるという意見も多いこと、また、企業において金融商品のリスク管理等を一層徹底するインセンティブを高めるためにも金融商品の時価等を開示することに意義があるという意見もあること、さらに、国際的な会計基準では、金融商品に係る時価やリスクに関して広く開示が求められていることから、時価等に関する事項の開示の充実を図っている。この結果、改正された金融商品会計基準では、貸付金など事業投資としての性格が見受けられるものであっても、時価を注記することとなった。

18. このように金融商品の時価の注記対象を拡大したことを踏まえ、本会計基準では、一定の不動産については、事実上、事業投資と考えられるものでも、その時価を開示することが投資情報として一定の意義があるという意見があること、さらに、国際財務報告基準が原価評価の場合に時価を注記することとしていることとのコンバージェンスを図る観点から、賃貸等不動産に該当する場合には、時価の注記を行うこととした。

用語の定義

棚卸資産に分類されている不動産

19. 流動資産に分類されている棚卸資産は、棚卸資産会計基準において、通常の販売目的で保有するものとトレーディング目的で保有するものに区分され、それぞれの評価基準が定められている。不動産のうち、通常の販売目的で保有する棚卸資産に含まれる販売用不動産や開発事業等支出金については、販売努力をいかに行うかによってその成果が異なるものと考えられる。このようなものには、第三者のために建設中又は開発中の請負工事等に基づく未成工事支出金も含まれる。また、トレーディング目的で保有する棚卸資産については、市場価格に基づく価額をもって評価するとされている。このような観点から、本会計基準では、国際財務報告基準と同様に、棚卸資産に計上されている不動産については、時価等の開示対象から除くこととした。

物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産

20. 物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産は、それらを保有している企業において、当該不動産から市場平均を超える成果を生み出すことを期待して使用されている。したがって、その企業にとっての価値は、通常、市場の平均的な期待で決まる時価ではないと考えられるため、本会計基準では、国際財務報告基準と同様に、時価等の開示対象から除くこととした。

21. ただし、本会計基準は、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産など、開示対象となる賃貸等不動産以外の不動産についても、その時価を開示することを妨げるものではない。

賃貸等不動産の範囲

貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産

22. 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」では、貸借対照表上、企業が営業又は事業の用に供するために賃貸している不動産は「有形固定資産」に分類し、投資不動産(投資の目的で保有する土地、建物その他の不動産)については「投資その他の資産」に分類することとされている。当該投資不動産は、市場平均を超える成果を期待して保有されているものではなく、その時価そのものが企業にとっての価値を示しており、また、それが国際財務報告基準における投資不動産に該当することは異論がないと考えられるため、当該投資不動産は賃貸等不動産の範囲に含まれる。

将来の使用が見込まれていない遊休不動産

23. 企業活動にほとんど使用されていない状態にある遊休不動産のうち、将来の使用が見込まれていない遊休不動産は、売却が予定されている不動産と同様に、処分によるキャッシュ・フローしか期待されていないため、時価が企業にとっての価値を示すものと考えられる。このため、本会計基準では、国際財務報告基準と同様に、当該不動産を賃貸等不動産の範囲に含めることとした。

なお、企業が将来の使用を見込んでいる遊休不動産は、その見込みに沿って、賃貸等不動産にあたるかどうか判断することとなる。また、現在の遊休状態となってから間もない場合であって、将来の使用の見込みを定めるために必要と考えられる期間にあるときには、これまでの使用状況等に照らして判断することが適当であると考えられる。

賃貸されている不動産

24. 本会計基準では、固定資産に分類されている不動産を、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産と、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産とに区別している(第4項(2)参照)。後者のうち、貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産(第5項(1)及び第22項参照)や将来の使用が見込まれていない遊休不動産(第5項(2)及び第23項参照)については、売却による回収額を意味する時価以上のキャッシュ・フローは見込めないため、これらを保有する企業にとっては時価が意味を持つと考えられる。

しかし、それ以外の第三者に利用させることによってキャッシュ・フローの獲得を図る不動産については、特に、事業遂行上の制約等から売却する意図がない場合や、不動産を第三者に利用させる努力をいかに行うかによってその成果が異なる場合、その企業にとっての当該不動産の価値は、時価の変動に応じて必ずしも変動するものではないと考えられる。

25. 国際財務報告基準では、第三者に利用させることによってキャッシュ・フローの獲得を図る不動産については、当該企業がその利用者に対して提供する付随的なサービスが取引全体の中で重要な場合、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理目的で保有されている不動産と同様に取り扱うものとしている。この際、付随的なサービスの重要性が低い場合としてオフィスビルの借手に提供する保全や営繕のサービスを例示し、その重要性が高い場合としてホテルを所有し運営する際の客に対するサービスを例示しているが、それらを区分する規準は定量的指針も含め詳細には定められていない。したがって、国際財務報告基準では、定義及び例示に従い個々の企業で判断基準を設定して首尾一貫した判断を行い、区分が困難な場合においては当該判断基準の注記を求めている。

26. このような国際財務報告基準の考え方を踏まえ、当委員会では、第三者に利用させることによってキャッシュ・フローの獲得を図る不動産について、その利用者に対する付随的なサービスが重要かどうかによって判断する方法が検討された。

検討の過程では、ホテルの運営業務のみならず、我が国における比較的短期間の賃貸借契約や借手が法的に強く保護されている実情に照らせば、テナント管理を含めたオフィスビル等の運営業務についても、利用者に対する付随的なサービスが重要といえるのではないかという意見があった。さらには、そのような事業を目的として保有されている不動産は、賃貸されているという形態は同じでも、そもそも投資の目的で保有する土地、建物その他の不動産とは性格が異なるため開示対象には該当せず、国際財務報告基準の考え方を踏まえた場合、これまで貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産や将来の使用が見込まれていない遊休不動産だけが開示対象になるという意見もあった。

27. 一方、利用者に対する付随的なサービスの重要性で判断することは実務上容易ではなく、むしろ第三者に利用させることによってキャッシュ・フローの獲得を図る不動産については、すべて開示対象としてはどうかという意見があった。

ただし、これに対しては、国際財務報告基準と異なり自ら運営するホテルも開示対象となるという指摘や、一部の物流施設やレジャー関連施設等については、ホテルと同様に主として不動産を利用させ当該利用者に対する付随的なサービスが重要なものなのか、それとも物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理目的で保有されている不動産と同様に主として利用者にサービスを提供し付随的に不動産を利用させているものなのかを判別することは困難な場合もあるという意見があった。

また、提供する付随的サービスが重要な不動産についても開示対象とした場合、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理目的で保有されている不動産を開示対象外にすることと矛盾するのではないかという指摘があった。

28. 検討の結果、本会計基準では、利用者に対する付随的なサービスの重要性を判断基準とすることは実務上容易ではないと考えられること、また、会計処理ではなく時価等の注記を行う開示対象範囲の問題であることから、形式的な区分を重視し、貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産(第5項(1)参照)や将来の使用が見込まれていない遊休不動産(第5項(2)参照)に加え、賃貸されている不動産(第5項(3)参照)についても一律に開示対象とすることとした。また、第三者に利用させることによってキャッシュ・フローの獲得を図る不動産と考えられても、例えば、自ら運営しているホテルやゴルフ場等、賃貸されている不動産に該当しないものは開示対象外となる。

ただし、不動産がホテルやゴルフ場等として使用されていても、その所有者が第三者に賃貸し第三者が運営業務を行っている場合には、当該所有者にとっては賃貸されている不動産であり開示対象となる。この結果、本会計基準における開示対象は、国際財務報告基準を適用した場合と同等又はそれ以上のものになると考えられる。

なお、賃貸されているオフィスビルや駐車場などの不動産は、形式的な区別に基づくものであり、投資の目的で保有する不動産には必ずしも該当しないと考えられることから、これらを総称して、本会計基準では、「賃貸等不動産」とすることとした。

賃貸等不動産として使用される部分の割合が低い不動産の取扱い

29. 賃貸等不動産の範囲を定めるにあたっては、賃貸されているという形式的な区分を重視したため、賃貸等不動産として使用される部分を含む不動産について、賃貸等不動産として使用される部分は、原則として賃貸等不動産に含めることとしている。しかしながら、賃貸等不動産として使用される部分の割合が低い場合は、全体が賃貸等不動産として使用されている不動産とは必ずしも同様のものではないと考えられるため、賃貸等不動産に含めないことができることとした(第7項参照)。

賃貸等不動産に関する注記事項

30. 本会計基準では、第18項で示した理由から、賃貸等不動産については、時価の注記を行うこととした。この際、貸借対照表計上額と当期末における時価のみならず、当該賃貸等不動産の期中における主な変動や損益も併せて注記することによって、財務諸表利用者が賃貸等不動産の収益性や投資効率などを総合的に把握することに役立つ情報を提供できると考えられたことから、国際財務報告基準と同様に、それらの注記も行うこととした。

31. リース取引の対象となっている賃貸等不動産については、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」に従った注記も併せて行うことに留意する必要がある。

四半期財務諸表における注記事項

32. 企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」第19項(21)及び第25項(20)で定める「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するために重要なその他の事項」として、企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」第80項に鑑み、企業結合などにより賃貸等不動産が前事業年度末と比較して著しく変動している場合には、四半期会計期間末における賃貸等不動産の時価及び四半期貸借対照表計上額を記載することとなる。

適用時期等

33. 本会計基準では、企業の受入準備を考慮して平成22年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用するものとし、四半期財務諸表に関しては、翌事業年度から適用することを原則とした。この場合、中間財務諸表に関しては、平成22年4月1日以後開始する事業年度の中間会計期間から適用されることとなる。

なお、本会計基準を原則適用の事業年度以前の事業年度の期首から適用することも妨げられないため、例えば、平成21年1月1日以後開始する事業年度から適用することができる。ただし、この際、適用開始の前事業年度末に時価等の情報が開示されていない項目であっても、四半期財務諸表において前事業年度末と比較し著しい変動がある場合には、第32項の注記事項が必要となることに留意する必要がある。

34. 審議の過程では、賃貸等不動産に関する注記事項は、管理状況等に応じて用途別、地域別等に区分して開示することができる(第8項参照)が、これはセグメント情報の開示にも関連するため、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」の適用時期と合わせることが実務上、受け入れやすいという意見もあった。

しかし、当該区分は管理状況等に応じて行うことができるとしているものであること、また、当該意見を踏まえ期首からの適用とすると、適用開始の前事業年度末に時価等の情報が開示されていない項目であっても、四半期財務諸表において前事業年度末と比較し著しい変動がある場合には、第32項の注記事項が必要となることから、改正された金融商品会計基準と同様に、平成22年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用することとした。

35. 本会計基準により、新たに注記する事項は、会計基準の変更に伴う会計方針の変更にはあたらないこととなる。

以上


INDEX

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