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(注)本内容は、企業会計審議会が平成16年11月29日に公表したものです。

なお、実務への適用に当っては念のためオリジナルの当該意見書を確認して下さい。

財務情報等に係る保証業務の概念的枠組みに関する意見書

平成16年11月29日

企業会計審議会

 

目次

一 審議の経緯等

1 審議の背景

2 審議の目的及び経緯

3 本意見書の位置付け

4 現行制度との関係

二 保証業務の意味

1 保証業務の定義

2 保証業務の分類

3 保証業務の実施の前提

4 保証業務の定義に合致しない業務

三 保証業務の要素

四 保証業務に関わる当事者

1 三当事者の存在

2 業務実施者

3 主題に責任を負う者

4 想定利用者

五 主題

1 主題の要件

2 主題の事例

3 主題の性格

六 規準

1 規準の要件

2 規準の適用

3 想定利用者の利用可能性

七 証拠

1 証拠の入手

2 職業的専門家としての懐疑心

3 証拠の十分性及び適切性

4 重要性

5 保証業務リスク

6 証拠収集手続の種類、実施の時期及び範囲

7 利用可能な証拠の量と質

八 保証報告書

1 保証報告書の記載

2 結論の報告

3 結論の報告に係る除外等

4 保証業務に適合しないおそれが生じた場合

九 業務実施者の氏名の不適切な使用


一 審議の経緯等

1 審議の背景

(1) 財務諸表の信頼性を確保することは、証券市場の健全な発展に必要不可欠であり、財務諸表の開示及び公認会計士(監査法人を含む。)による監査の充実に対して社会から寄せられる期待は大きい。とりわけ、財務諸表の監査については、近年の企業規模の拡大や国際化、会計基準の精緻化並びに投資者等の利害関係者からの効果的かつ効率的な監査の要求も高くなる中で、監査人の判断にも高い専門性と公正不偏性が強く求められてきている。

このため、当審議会は、平成14年に公認会計士による財務諸表の監査の規範となる監査基準の全面的な改訂を行った。また、近年の会計不正問題など会計及び監査を取り巻く環境の変化を受けて、公認会計士の役割や責任が改めて問われることとなったことも踏まえ、平成15年に公認会計士法の大幅な改正が行われ、公認会計士の使命の明確化や独立性の強化、会計専門家教育の充実などが図られている。

(2) また、財務諸表以外の財務情報の開示とその信頼性の確保に対する社会からの多様な期待も高まり、特に四半期財務情報の開示が国際的にも一般化しつつある中で、財務情報の信頼性の確保に係る費用対効果の観点から、監査の水準には至らないが一定の信頼性が確保できる業務として、いわゆるレビュー業務の必要性が増大しているとの指摘がある。さらに、内部統制等の財務情報以外の事項にも独立の立場からの信頼性の確保が求められる状況にある。

(3) 一方、社会からの多様な期待を背景として、公認会計士の行う業務は範囲を拡大し、多様なものとなってきており、公認会計士やその監査を巡る近年の諸問題の背景には、このような業務の拡大の影響があると言われている。すなわち、監査並びにその周辺業務の拡大と合わせて、企業のさまざまな活動に関するコンサルティング等の非監査業務もまた活発に行われるようになった。特に米国では、監査法人における非監査業務の比重が高まった中で、監査人としての業務とそれ以外の業務との相違が曖昧となり、結果として、監査人としての独立性が損なわれたことが監査の信頼性を低下させたとの指摘もある。

このような問題に対しては、監査人による監査業務と非監査業務の同時提供が監査人の独立性を侵害するとして、現在では、国際的にも、原則的に両者の同時提供を制限する方向にあり、そのためにも、業務の範囲の明確化が一層重要となっている。

(4) 公認会計士監査の充実強化に関しては、国際的には、国際会計士連盟の国際監査・保証基準審議会において、「国際監査基準」の策定が進められている。その過程では、従来の監査業務のみならずレビュー業務などを包摂した“Assurance; Engagements”(保証業務)という概念により、関連する業務の枠組みを整理している。

「国際監査基準」は、近い将来、欧州連合諸国の域内上場会社に適用される方向での議論も行われており、国際的調和の視点からも、職業的専門家による保証業務に関するわが国の概念的枠組みを明らかにする必要がある。

2 審議の目的及び経緯

(1) 法定監査を中心としたわが国の監査制度は、財務諸表の信頼性を確保し投資者の保護を図るために、社会的にも重要な公益性の高い業務であり、その信頼性の確保については、業務を担う者のみならず、広く関係者の理解を求めることが必要である。また、併せて、財務諸表の監査以外にも四半期財務情報のレビューなど、保証業務の範疇に入る業務の中には公益性の高いものも認められる。

保証業務の枠組みは、国際会計士連盟においては自らの職業的規範として検討されているが、わが国では、保証業務の公益性の観点から、当審議会において、幅広い関係者による議論を通じ、保証業務の意味を確認し、その要件と範囲の明確化を図ることにより、監査をはじめとする保証業務に対する社会からの信認を確保することを目的として、保証業務の概念的枠組みの整理を行うこととした。

(2) 上記の背景を踏まえ、当審議会では、平成16 年2月20日に開催した総会において、財務諸表の保証に関する概念整理を審議事項として決定し、同年3月から、第二部会において具体的な検討を開始した。審議においては、諸外国の状況や歴史的背景、わが国において現に行われている種々の業務の態様などを参考に検討を進め、平成16 年6月に「財務情報等に係る保証業務の概念的枠組みに関する意見書(公開草案)」を公表して、広く各界からの意見を求めた。当審議会は寄せられた意見を参考にしつつ更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「財務情報等に係る保証業務の概念的枠組みに関する意見書」として公表することとした。

3 本意見書の位置付け

(1) 本意見書は、「監査基準」のように、特定の保証業務を前提として適用されることを意図するものではない。したがって、本意見書に示された概念的枠組みが直接に業務上の規範となるものではないが、個々の保証業務に関する基準等は、本意見書における概念的枠組みを基礎として設定されることになる。特に、財務情報を対象とする保証業務には、社会的にも重要な公益性の高い業務も存在することに鑑み、その基準等は、本意見書の概念的枠組みの中で、幅広い関係者による公正かつ透明性のある適切な手続を通じて、一般に公正妥当と認められる規範として設定される必要がある。

(2) なお、本意見書では、財務情報等に係る保証業務に関する概念整理を行うことを主たる目的としているが、内部統制など財務情報以外の事項を対象とした業務も含めた幅広い観点から、包括的に保証業務の概念を整理し、その中で財務情報等に係る保証業務も位置付けられるという枠組みを採っている。したがって、本意見書に示された概念的枠組みは、財務情報以外の事項を対象とする保証業務にも援用することが可能と考えられ、今後、各方面において活用されることが期待される。

4 現行制度との関係

証券取引法、公認会計士法等の財務諸表の監査を巡る現行の法制度は、それ自体、保証業務という概念を前提としているものではない。本意見書は、財務情報等を対象とする保証業務を中心とした概念的枠組みの整理を行うことを目的としているが、現行の法制度との関係については、今後、それぞれの法目的に基づいて、保証業務が制度上位置付けられていくこととなると考えられる。なお、本意見書に示された保証業務の概念的枠組みに照らせば、例えば、公認会計士の行う保証業務は、公認会計士法における「監査又は証明」業務を包含するものと捉えることができる。

二 保証業務の意味

1 保証業務の定義

保証業務とは、主題に責任を負う者が一定の規準によって当該主題を評価又は測定した結果を表明する情報について、又は、当該主題それ自体について、それらに対する想定利用者の信頼の程度を高めるために、業務実施者が自ら入手した証拠に基づき規準に照らして判断した結果を結論として報告する業務をいう。

2 保証業務の分類

(1) 保証業務は、通常、一定の規準によって主題を評価又は測定した結果を表明する情報(以下、「主題情報」という。)を主題に責任を負う者が自己の責任において想定利用者に提示することを前提として行われる。主題に責任を負う者が自己の責任において主題情報を想定利用者に提示しない場合に、業務実施者が、主題それ自体について一定の規準によって評価又は測定した結果を結論として表明する保証業務があるが、この場合においても、業務実施者は、主題それ自体に対する責任を負うものではなく、主題それ自体の信頼の程度を高めることに責任を負う。

(2) 保証業務は、保証業務リスクの程度により、合理的保証業務と限定的保証業務に分類される。合理的保証業務では、業務実施者が、当該業務が成立する状況のもとで、積極的形式による結論の報告を行う基礎として合理的な低い水準に保証業務リスクを抑える。これに対して、限定的保証業務では、合理的保証業務の場合よりは高い水準ではあるが、消極的形式による結論の報告を行う基礎としては受け入れることができる程度に保証業務リスクの水準を抑える。

(3) 保証業務の定義及び分類によれば、以下の業務はそれぞれ次のように理解される。

@ 財務諸表の監査は、主題たる企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況について、主題に責任を負う者としての経営者が、一定の規準としての会計基準に従って測定し、その結果を主題情報たる財務諸表として投資者に提示する。これを受けて、業務実施者である監査人は、想定利用者である投資者の財務諸表に対する信頼の程度を高めるために、監査リスクを合理的に低い水準に抑え、監査手続を実施して自ら入手した監査証拠に基づき、提示された財務諸表が会計基準に従って企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示しているかどうかについて積極的形式によって結論を報告する。

A 内部統制に係る保証業務において、主題に責任を負う者としての経営者が、内部統制の有効性等についての主題情報を自己の責任で想定利用者に提示しない場合には、業務実施者が主題たる内部統制それ自体を、その有効性に関する評価の規準に照らして判断し、その結果を結論として表明することとなる。

B 限定的保証業務として、いわゆるレビュー業務がある。例えば、財務情報のレビュー業務においては、主題に責任を負う者としての経営者が当該財務情報を一定の作成基準に従って作成しているかどうかについて、業務実施者が自ら入手した証拠に基づき判断した結果を、財務情報が当該作成基準に従って作成されていないと認められる事項が発見されなかったとの消極的形式によって結論を報告する。この場合、当該業務の実施に当たって、保証業務リスクは、消極的形式による結論の報告を行う基礎として受け入れることができる程度の水準に抑えることとなる。

3 保証業務の実施の前提

(1) 業務実施者は、職業的専門家としての倫理を遵守し、かつ、業務の遂行に当たっては独立の立場から公正不偏の態度を保持し、さらに、自らの業務を適正に遂行するための専門的な技能や知識を有し、品質管理に関する業務規範に服することが求められる。

(2) 業務実施者は、保証業務の受託に当たり、前項の業務実施者に関する要件に加え、想定利用者の範囲やニーズの内容、主題に責任を負う者の特徴、契約の条件、主題の性格、規準の特徴、入手可能な証拠、報告の方法等について、保証業務を適正に遂行できるものであるかを判断することが求められる。

(3) 業務実施者は、保証業務について要請される要件及び保証業務の実施に関する基準に準拠して適切に業務を行わなかった場合には責任を負う。通常、限定的保証業務における実施手続は、合理的保証業務の場合よりも限定されるため、業務実施者の責任の対象となる範囲も制限されることになる。

4 保証業務の定義に合致しない業務

(1) 保証業務の定義によれば、例えば、以下の業務は保証業務ではないと理解される。

@ 業務実施者が、主題に責任を負う者又は特定の利用者との間で合意された手続に基づき発見した事項のみを報告する業務(「合意された手続」という。)。これは、実施される手続が主題に責任を負う者又は限られた利用者との間の合意によって特定されるため、業務実施者が自らの判断により証拠を入手しないこと、及び、手続の結果のみが報告され結論が報告されないことから、保証業務の定義を満たさない。

A 業務実施者が、財務情報の作成及び作成への関与を行う業務(「財務諸表等の調製」という。)。これは、業務実施者が財務情報の作成及び作成への関与を通じて、主題及び主題情報に対して責任の一部を担うことになることから、保証業務の定義を満たさない。

B 業務実施者が、主題に責任を負う者の経営又は税務上の判断に関わる助言や調査等を行う業務。これは、主題に責任を負う者のみの利用又は利益のために行う業務であり、保証業務の定義を満たさない。

C 業務実施者が、税務申告書の作成及び納税者の代理を行う業務。これは、税務申告書の作成及び納税者の代理を行うことを目的とする業務であり、保証業務の定義を満たさない。

(2) 保証業務の定義に合致しない業務に係る報告は、保証業務に係る報告と明確に識別される必要がある。このため、保証業務の定義に合致しない業務に関する報告書においては、想定利用者に保証業務の報告書との誤解を与えるおそれがある用語や表現を用いることは適当ではない。

三 保証業務の要素

保証業務は、次の要素から構成され、それぞれの要素に関する要件に適格である必要がある。

(1) 業務実施者、主題に責任を負う者及び想定利用者の三当事者の存在

(2) 適切な主題

(3) 適合する規準

(4) 十分かつ適切な証拠

(5) 合理的保証業務又は限定的保証業務について適切な書式の保証報告書

四 保証業務に関わる当事者

1 三当事者の存在

保証業務は、業務実施者、主題に責任を負う者及び想定利用者からなる三当事者が関わることにより成立する。

2 業務実施者

業務実施者とは、財務諸表の監査における監査人など特定の保証業務に関して業務実施者の固有の名称を使用する場合も含め、保証業務を実施する者をいう。

業務実施者は、独立の立場から公正不偏の態度を保持することが最も重視されるため、自らが主題に責任を負う者及び想定利用者となることはできない。

業務実施者は、職業的専門家としての倫理の遵守など保証業務の実施の前提となる要件を満たし、他の職業的専門家の業務の利用を含め、自らが実施すべき手続、実施の時期及び範囲の決定について責任を有する。

3 主題に責任を負う者

主題に責任を負う者が、主題情報を自己の責任において想定利用者に提示する場合と、これを提示しない場合がある。主題に責任を負う者は、必ずしも業務実施者と契約する当事者である必要はない。

4 想定利用者

想定利用者は、業務実施者が作成した保証報告書を利用する者である。保証報告書の名宛人以外であっても、当該保証報告書を入手可能な者は、想定利用者に含まれる。

保証報告書は、すべての想定利用者向けのものであるが、想定利用者が多数であって特定できない場合には、主題に対して重要かつ共通の利害を有する主要な利害関係者を想定利用者とみなすことができる。一定の想定利用者が業務の要件の決定に関わる場合であっても、実施すべき手続、実施の時期及び範囲は、業務実施者が自らの責任で決定する。想定利用者又は利用目的を特定する場合には、その利用者又は利用目的を制限する旨を保証報告書に記載する。また、主題に責任を負う者は、想定利用者の1人となることはできるが、唯一の利用者となることはできない。

五 主題

1 主題の要件

保証業務における適切な主題は、識別可能であり、一定の規準に基づいて首尾一貫した評価又は測定を行うことができ、かつ、業務実施者が主題情報に対する保証を得るために十分かつ適切な証拠を収集することができるものをいう。

2 主題の事例

保証業務の対象となり得る主題又は主題情報には、例えば次のようなものがある。

(1) 財務諸表で表示又は開示される企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を主題とすると、財務諸表の表示又は開示が主題情報となる。

(2) 非財務的な成果又は状況を主題とすると、その効率性や有効性を示す指標が主題情報となる。

(3) 設備能力のような物理的な特徴を主題とすれば、その記録や仕様が主題情報となる。

(4) 内部統制やIT システムのようなシステムやプロセスを主題とすれば、それらの有効性について示すものが主題情報となる。

(5) コーポレート・ガバナンスやコンプライアンス又は人的資源管理のような行為を主題とすれば、その遵守状況や有効性を示すものが主題情報となる。

3 主題の性格

主題には、定量的か定性的か、客観的か主観的か、確定的か予測的か、一定時点に関するものか一定期間にわたるものか、といった異なる性格があり、それらの性格は、業務実施者が主題情報に係る保証を得る際の正確性及び入手可能な証拠の説得力に影響する。このため、保証報告書には、かかる主題の性格を記載する必要がある。

六 規準

1 規準の要件

保証業務における適合する規準とは、主題に責任を負う者が主題情報を作成する場合及び業務実施者が結論を報告する場合に主題を評価又は測定するための一定の規準であり、次のような要件を備えている必要がある。ただし、業務実施者が、一定の規準として、自らの期待、判断及び個人的な経験を用いることは適切ではない。

(1) 目的適合性

想定利用者による意思決定に役立つ結論を導くのに資する規準であること

(2) 完全性

各業務環境の下で得られる結論に影響を与える要因のうち関連する要因のいずれもが省略されていない規準であること。なお、目的適合的であるならば、表示及び開示の規準が含まれる。

(3) 信頼性

同一の環境で同一の資格を有する業務実施者が利用するとき、主題の評価又は測定を合理的にかつ首尾一貫して行うことができる信頼性のある規準であること

(4) 中立性

偏向のない結論を導くのに資する中立的な規準であること

(5) 理解可能性

明瞭かつ総合的な結論を導くことに資するもので、著しく異なる解釈をもたらすことなく、保証業務を構成する三当事者にとって理解可能な規準であること

2 規準の適用

規準は、上記の要件を満たすものとして確立されているもののほか、主題に応じて個別に策定されることもある。確立された規準とは、法令のほか、例えば、財務諸表の作成に関しては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準など、幅広い関係者による公正かつ透明性のある適切な手続を通じて権威ある又は認められた機関によって公表されたものである。業務実施者は、個々の保証業務について規準の適合性を評価するが、主題が確立された規準により評価又は測定されている場合には、当該規準が業務実施者における適合する評価又は測定の規準となる。個別に策定される規準については、上記の要件に基づき業務実施者が特定の業務に対する規準としての適合性を評価する。

3 想定利用者の利用可能性

主題がどのように評価又は測定されているのかを理解するためには、想定利用者にも規準が利用可能であることが求められる。想定利用者にとって利用可能な規準とは、以下のような規準である。

(1) 公表されている規準

(2) 主題情報において明示されている規準

(3) 保証報告書において明示されている規準

(4) 広く一般に理解を得られている規準

規準が特定の想定利用者にのみ利用可能である場合、又は、特定の目的にのみに適合するものである場合には、当該規準に基づいた結論を報告する保証報告書の利用は、当該特定の利用者又は特定の利用目的に制限される。

七 証拠

1 証拠の入手

業務実施者は、主題情報に重要な虚偽の表示が含まれていないかどうかについて、職業的専門家としての懐疑心をもって保証業務を計画し、実施し、十分かつ適切な証拠を入手する。証拠収集のための手続の種類、実施の時期及び範囲を決定する際には、業務実施者は、重要性、保証業務リスク及び利用可能な証拠の量及び質を検討する。

2 職業的専門家としての懐疑心

業務実施者は、主題情報に重要な虚偽の表示が存在する可能性を考慮し、職業的専門家としての懐疑心をもって保証業務を計画し、実施する。職業的専門家としての懐疑心とは、業務実施者が証拠として入手した情報の妥当性について探究心をもって批判的に評価することを意味する。また、業務実施者は、証拠として利用する情報の信頼性について、当該情報の作成及び保存に関する内部統制を含めて検討する。

3 証拠の十分性及び適切性

(1) 業務実施者は、証拠の量的な十分性及び目的適合性や信頼性などの質的な適切性を勘案して、必要とされる証拠を入手することが求められる。単に証拠の入手量を増やすことにより質的な適切性を補うことはできない。また、効率的に証拠を入手することが求められるが、費用上の観点から、十分かつ適切な証拠の収集を省略することは妥当ではない。

(2) 証拠の信頼性は、その源泉と性格だけでなく、証拠が入手された状況によっても影響を受ける。また、業務実施者は、入手した証拠が他の源泉からの証拠又は異なる性格の証拠と首尾一貫していない場合には、その不一致を解消するために追加的な証拠を必要とするかどうかを判断することになる。

(3) 業務実施者は、保証報告を裏付ける証拠の十分性と適切性を評価する場合には、職業的専門家として懐疑心をもって判断することが求められる。

4 重要性

業務実施者が、証拠を収集する手続の種類、実施の時期及び範囲を決定するとき、並びに、主題情報に虚偽の表示があるかどうかの判断をするときに、重要性が考慮される。特定の業務に係る重要性や質的及び量的な要因の相対的な重要性の評価は、業務実施者の判断に委ねられるが、業務実施者は、重要性を考慮するに当たっては、想定利用者の意思決定に影響する要因を理解して判断し、相対的な重要度、主題の評価又は測定に対する種々の要因の影響の程度、及び想定利用者の利害等といった、量的並びに質的要因の観点から検討を行うことが求められる。

5 保証業務リスク

(1) 保証業務リスクは、主題情報に重要な虚偽の表示がある場合に業務実施者が不適切な結論を報告する可能性をいい、一般に次の要素から構成される。

@ 固有リスク(関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、重要な虚偽の表示がなされる可能性をいう。)

A 統制リスク(重要な虚偽の表示が、関連する内部統制によって適時に防止又は適時に発見されない可能性をいう。)

B 発見リスク( 業務実施者により重要な虚偽の表示が発見されない可能性をいう。)

なお、業務実施者がこれらの各構成要素を検討する程度は、業務環境、特に主題の性質及び合理的保証業務か限定的保証業務かの区別により影響を受ける。

(2) 業務実施者は、保証業務リスクを合理的保証業務又は限定的保証業務に求められる水準に抑えるため、固有リスク及び統制リスクを個別に又は結合して評価することにより、発見リスクの水準を決定し、それに基づいて、証拠を収集する手続の選択、実施の時期及び範囲を決定する。

(3) 合理的保証業務においては、積極的形式で業務実施者の結論を報告する基礎として、合理的保証が得られる業務環境にある限り、業務実施者は、合理的な低い水準となるまで保証業務リスクを抑える。限定的保証業務においては、保証業務リスクの水準を、合理的保証業務における水準よりも高く設定することができる。しかし、限定的保証業務においても、証拠を収集する手続、実施の時期及び範囲を組み合わせることによって、業務実施者は、消極的形式で報告を行う際の基礎としては十分に有意な保証水準を得ることにより、想定利用者にとっての信頼性を確保することが必要である。

6 証拠収集手続の種類、実施の時期及び範囲

(1) 合理的保証業務においては、業務実施者は、積極的形式により結論を報告するために、次のような相互に関連性のある系統だった業務プロセスを経て、十分かつ適切な証拠を得る必要がある。

@ 主題及び内部統制を含む業務環境の理解

A 業務環境の理解に基づく主題情報に重要な虚偽の表示が存在するリスクの評価

B リスクの評価に応じ、業務全般の計画の策定、実施すべき手続の種類、実施の時期及び範囲の決定

C 識別されたリスクに明確に関連付けられた手続の実施

D 証拠の十分性及び適切性の評価

(2) 限定的保証業務においても、主題及び業務環境の理解を含む相互に関連性のある系統だった業務プロセスは必要であり、手続の適用を通じて十分かつ適切な証拠の収集が求められる。しかしながら限定的保証業務における十分かつ適切な証拠の収集手続の種類、実施の時期及び範囲は合理的保証業務に対して限定的である。一般に、限定的保証業務であるレビューでは、主に分析的手続及び質問によって、レビューにおいて求められる十分かつ適切な証拠が得られると考えられている。

7 利用可能な証拠の量と質

(1) 業務実施者が利用可能な証拠の量及び質は、主題が予測的である場合などの主題又は主題情報の特徴による影響、主題に責任を負う者からの制約や物理的な制約による影響を考慮して検討する。

(2) 業務実施者が、環境的要因や主題に責任を負う者又は契約の当事者から制約を受けることにより、十分かつ適切な証拠が入手できない場合には、結論の報告に必要な基礎を得ることはできない。

八 保証報告書

1 保証報告書の記載

業務実施者は、適用した一定の規準や実施した手続に関する事項などを含めて、業務を実施して得た保証に関する結論を保証報告書により報告する。保証報告書には、当該保証業務が合理的保証業務であるのか又は限定的保証業務であるのかの区別が明確に理解されるように記載する。

2 結論の報告

(1) 合理的保証業務の保証報告書においては、業務実施者は、保証業務の対象となる主題又は主題情報について、保証業務リスクを合理的保証業務に求められる水準に抑えるための手続を実施したことを記した上で、積極的形式によって結論を報告する。その場合、すべての重要な点において、一定の規準に照らして適正性や有効性等が認められるかどうかを報告する。

(2) 限定的保証業務の保証報告書においては、業務実施者は、保証業務の対象となる主題又は主題情報について、保証業務リスクを限定的保証業務に求められる水準に抑えるための手続を実施したことを記した上で、消極的形式によって結論を報告する。その場合、すべての重要な点において、一定の規準に照らして適正性や有効性等がないと考えられるような事項が発見されなかったかどうかを報告する。

(3) 保証報告書における結論の報告には、主題に責任を負う者による想定利用者への主題情報の提示に対する結論を報告する方法と、直接に主題に対する結論を報告する方法がある。主題に責任を負う者による想定利用者への主題情報の提示がない場合は、業務実施者は、直接に主題について積極的形式又は消極的形式によって結論を報告する。

3 結論の報告に係る除外等

業務実施者の業務範囲に制約がある場合には、結論を表明しないか又は限定付の結論を報告するかを検討する必要がある。

また、業務実施者が、主題又は主題情報について、すべての重要な点において、一定の規準に照らして、適正性や有効性等が認められるとの結論を得られなかった場合には、その重要性を勘案して、限定付の結論又は適正性や有効性等が認められないとの結論を報告することとなる。

4 保証業務に適合しないおそれが生じた場合

保証業務を受託した後に、一定の規準が必要とされる要件を満たしていないか、あるいは主題が保証業務に適切でないことが判明した場合には、業務実施者は、その重要性や影響の程度を勘案して、限定付の結論若しくは適正性や有効性等が認められないとの結論を報告するか又は結論を表明しないなどの措置を取る。また、保証業務の継続の可否についても検討することとなる。

九 業務実施者の氏名の不適切な使用

業務実施者は、受託した保証業務以外の目的で自己の氏名又は名称が不適切に使用されないよう努める。

 

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