(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成14年2月21日に公表したものです。なお、実務への適用に当ってはオリジナルの当該適用指針等を確認してください。
企業会計基準適用指針第2号
自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準適用指針
(目的・適用指針・結論の背景・設例) |
平成14年2月21日
企業会計基準委員会
目的
1. 企業会計基準第1号「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準」(以下「自己株式等に関する会計基準」という。)が平成14年2月21日に公表されている。この適用指針は、当該会計基準の実務上の指針を定めるものである。
適用指針
範囲
2. 本適用指針における範囲は、「自己株式等に関する会計基準」における範囲と同様とする。ただし、本適用指針においては、代用自己株式としての使用による自己株式の処分及び新株予約権の行使に伴う自己株式の交付による処分についても取扱う。
用語の定義
3. 本適用指針における用語の定義は、「自己株式等に関する会計基準」における用語の定義と同様とする。
資本の部の区分
4. 資本の部の表示は以下の例による。
|
個別財務諸表
T 資本金
U 資本剰余金
1 資本準備金
2 その他資本剰余金
(1) 資本金及資本準備金減少差益
(2) 自己株式処分差益
V 利益剰余金
1 利益準備金
2 任意積立金
3 当期未処分利益
W 土地再評価差額金
X その他有価証券評価差額金
Y 自己株式
資本合計 |
連結財務諸表
T 資本金
U 資本剰余金
V 利益剰余金
W 土地再評価差額金
X その他有価証券評価差額金
Y 為替換算調整勘定
Z 自己株式
資本合計
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|
自己株式の会計処理
自己株式の取得及び保有
5. 連結貸借対照表の注記として開示する期末に保有する自己株式の株式数は、@親会社が保有する自己株式の株式数に、A子会社及び関連会社が保有する親会社株式等の株式数のうち親会社等の持分に相当する株式数を加えたものとする。
自己株式の処分
(中間決算における処理)
6. 中間決算における自己株式処分差額の会計処理は、年度決算と同様に取り扱うものとする。なお、年度決算においては中間決算における処理を洗替処理する。
(代用自己株式としての使用による処分)
7. 吸収合併、株式交換及び吸収分割において代用自己株式を交付した場合、引き継がれる純資産額のうち代用自己株式部分に相当する額を当該自己株式の処分の対価とし、その額から自己株式の帳簿価額を控除して自己株式処分差額を算出する。引き継がれる純資産額のうち代用自己株式部分に相当する額は、代用自己株式の株数を株式交付総数で除した値を引き継がれる純資産に乗じて算定する。当該自己株式処分差額は、新株発行の手続を準用して自己株式を処分する場合の自己株式処分差額の会計処理と同様に扱う。
(新株予約権の行使に伴う自己株式の交付による処分)
8. 新株予約権の行使に伴い自己株式を新株予約権者に交付する場合の自己株式処分差額の会計処理は、新株発行の手続を準用して自己株式を処分する場合の自己株式処分差額の会計処理と同様に扱う。なお、自己株式処分差額を計算する際の自己株式の処分の対価は、新株予約権の行使の際の払込額と新株予約権の発行価額の合計額とする。
(改正商法前に付与されたストック・オプションの行使に伴う譲渡差額)
9. 旧商法第二百十条ノ二に基づき、特定の取締役又は使用人に対しあらかじめ定められた価額をもって会社よりその株式を自己に譲渡すべき旨を請求する権利(以下「改正商法前に付与されたストック・オプション」という。)の行使に備えるために取得した自己株式を、ストツク・オプションの行使により譲渡した場合に生ずる譲渡差額(自己株式の譲渡価額とストツク・オプション
の行使価額との差額)は、新株発行の手続を準用して自己株式を処分する場合の自己株式処分差額の会計処理と同様に扱う。
自己株式の処分及び消却時の帳簿価額の算定
10.
自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、株式の種類ごとに、会社の定めた評価方法に従って算定する。ただし、改正商法前に付与されたストツク・オプションの行使に備えるために取得した自己株式に関しては、帳簿価額の算定を区分して行えるものとする。
連結財務諸表における子会社及び関連会社が保有する親会社株式等の取扱い
11.
「自己株式等に関する会計基準」第30項及び第32項に会計処理を定めている連結子会社における親会社株式の売却損益及び持分法の適用対象となっている子会社及び関連会社における親会社株式等の売却損益は、関連する法人税、住民税及び事業税を控除後のものとする。(設例1参照)
12. 一株当たり純資産額を計算する際の発行済株式総数及び一株当たり当期純損益を計算する際の期中平均株式数には、次の@及びAは含まれないものとする。
@ 親会社の保有する自己株式の数
A 子会社及び関連会社が保有する親会社株式等の株式数のうち親会社等の持分に相当する株式数
開示
13. 個別財務諸表における利益処分計算書の表示は以下の例による。
当期未処分利益の処分
T 当期未処分利益
U 利益処分額
利益準備金
配当金
役員賞与金
任意積立金
その他
V 次期繰越利益
その他資本剰余金の処分
T その他資本剰余金
U その他資本剰余金処分額
配当金
その他
V その他資本剰余金次期繰越高
14. 連結財務諸表における連結剰余金計算書の資本剰余金の部及び利益剰余金の部の表示は以下の例による。
資本剰余金の部
T 資本剰余金期首残高
U 資本剰余金増加高
増資による新株式の発行
自己株式処分差益
その他
V 資本剰余金減少高
配当金
自己株式償却額
その他
W 資本剰余金期末残高
利益剰余金の部
T 利益剰余金期首残高
U 利益剰余金増加高
当期純利益
その他
V 利益剰余金減少高
配当金
役員賞与
自己株式償却額
その他
W 利益剰余金期末残高
適用時期及び経過措置
15. 本適用指針の適用時期及び経過措置に関する取扱は、「自己株式等に関する会計基準」と同様とする。
議決
16. 本適用指針は、第9回企業会計基準委員会に出席した委員13名の賛成により承認された。
結論の背景
自己株式の会計処理
自己株式の処分
(代用自己株式としての使用による処分)
17. 代用自己株式は、吸収合併、株式交換及び吸収分割(以下「合併等」という。)において以下の場合で使用される。
@ 吸収合併の際に、合併会社が被合併会社の株式に対して、新株発行に代えて自己株式を交付する場合
A 株式交換の際に、完全親会社となる会社が完全子会社となる会社の株主に対して、新株発行に代えて自己株式を交付する場合
18.
代用自己株式としての使用による処分が、新株発行の手続を準用した処分と異なるのは、後者が処分の対価が通常現金であるのに対し、前者は対価が合併等により引き継がれる純資産になる点である。処分の対価が現金であれば処分差額は入金額と帳簿価額の差額になるが、合併等に際して自己株式を交付する場合には、その取引をどう考えるのか、何を処分の対価とみるのか、あるいは承継する純資産をどう評価するのか、によって処分差額も異なっている。
19. この問題に対しては、以下の二つの考え方があると思われる。
@ 代用自己株式としての使用による処分を自己株式の消却と合併等による純資産の増加に分解して会計処理する考え方
A 代用自己株式の処分の対価を、合併等により引き継がれる純資産の一部と考え会計処理する考え方
20.
「自己株式等に関する会計基準」では、新株発行の手続を準用した処分の際に、@の考え方を採用していない。したがって、本適用指針でも、それとの整合性からAの考え方を採用することとした。ちなみに@の考え方によると、新株発行の手続を準用した処分については、自己株式がまず処分財源で消却され、その上で新株発行によって払込資本部分が増えることとなる。
21.
Aの考えを採用した場合には、合併等により引き継がれる純資産額の一部を処分の対価としてどのように測定するかが問題となる。この問題については、引き継がれる純資産の額が合併等の会計処理により決められているため、代用自己株式の処分の対価は、当該純資産のうち代用自己株式部分に相当する額、つまり代用自己株式の株数を株式交付総数で除した値を引き継がれる純資産額に乗じた額となると考えた。
22.
ここで、仮に引き継がれる純資産が交付した株式の時価で測定される場合には、現金を対価として自己株式を交付した場合の処分と、取引としての性格は類似している。それは、自己株式を時価で処分するケースに準じた会計処理とみることもできる。
23.
他方、被取得会社等の純資産が簿価で引き継がれる場合、それが自己株式の処分に先立って決められている以上、対価の額は所与と考えるほかはない。したがって、この場合にも、処分の対価は、当該純資産簿価額のうち代用自己株式部分に相当する額とみなすことが適切であると考えた(設例2参照)。なお、被取得会社等の資産及び負債が原則的に簿価で引き継がれるが、一部の資産が時価以下で引き継がれる場合の取扱いも同様になると考える
24. 代用自己株式処分による自己株式処分差額は、新株発行の手続を準用して生じた自己株式の処分差額と同様とすることが適切と考えた。
25.
第23項のケースにおいて引き継がれる純資産のうち代用自己株式の処分の対価以外の金額の会計処理、すなわち、どの資本の部の項目を増加させるかは、代用自己株式がなかった場合(新株式が発行された場合)に想定された資本の部の各項目の増加額の比率で、按分して計算することが望ましい。
26.
なお、商法では、代用自己株式を交付する会社は、原則として承継する純資産の金額から代用自己株式の帳簿価額及び合併交付金等を控除して増加する資本金の限度額を算出し、当該金額から増加する資本金の金額を控除して資本準備金を計上することとされている。また、合併、分割においては被合併会社又は分割会社で計上されていた留保利益を引き継ぐこともできるとされている。よって、これらの商法の規定に本適用指針の代用自己株式の会計処理及び引き継がれる純資産のうち代用自己株式の処分の対価以外の金額の会計処理が抵触する場合には、個別財務諸表上は、商法の規定に合わせる調整が必要になる。これに対し、連結財務諸表においては、商法の制約がないため、本適用指針の方法によることとなる。
(新株予約権の行使に伴う自己株式の交付による処分)
27.
改正商法において「新株予約権とは、これを有する者(新株予約権者)が会社に対しこれを行使したる時に会社が新株予約権者に対し新株を発行し又これに代えて会社の有する自己の株式を移転する
義務を負うものをいう」とされ、自己株式の処分の一形態として新株予約権の行使に伴う自己株式の交付が定められている。これらの新株予約権の行使に伴う自己株式の交付については、株主との間の資本
取引の性格を有するため、新株発行に準じた自己株式の処分と同様に会計処理を行うことが適切であると考えた。すなわち、新株予約権者への交付に伴う自己株式の処分の対価と自己株式の帳簿価額の差額を自己株式処分差額とし、その処分差額の処理は新株発行の手続に準じて自己株式を処分する場合と同様とすることが適切であると考えた。
28.
新株予約権の制度のもとでは、新株予約権の発行決議の際に、新株予約権の発行価額及び新株予約権の行使に際して払込をすべき金額が定められ、前者は新株予約権の発行時に、後者は新株予約権の行使時に会社に払込まれるが、この
新株予約権の発行価額を自己株式の処分の対価に含めるか否かが問題になる。
29.
本適用指針では、新株予約権の発行価額と、新株予約権の行使に際して払い込まれる金額は、いずれも新株予約権が行使された場合には払込資本の性格を有する点では同様であること、また、新株予約権の行使に際して新株が発行される場合は、商法で新株予約権の発行価額及び新株予約権の行使に際して払込をすべき金額の合計額の一株当たりの額がその新株一株当たりの発行価額とみなされることとの整合性から、両社を自己株式の
処分の対価と考えることが適切であると考えた。
30.
なお、改正商法では、ストツク・オプションは新株予約権の有利発行の一形態(無償での新株予約権の発行)とされる。ストツク・オプションの会計処理は広く検討が進められている段階であり、本適用指針では、ストツク・オプション目的の新株予約権の会計処理を他の新株予約権の会計処理と区別していない。
31.
新株予約権の会計処理については、拠出資本への算入と権利行使との関係等、今後本質的な検討が行われる可能性があり、その結果によっては上記の結論に影響を与える余地がある。よって、上記は新株予約権の取扱が確定するまでの当面の取扱いとする。
設例
設例1 連結財務諸表における子会社及び関連会社が保有する親会社株式等の取扱い
ケース1 連結子会社の場合
前提
1. P社(親会社=上場会社)はS社(子会社)の株式の80%を所有している
2. 平成X1年3月31日(決算日)に、S社の保有するP社株式の帳簿価額は100、時価は150であった。S社はP社株式をその他有価証券に分類した。税率は40%とする。
3. 平成X1年5月19日にS社はP社株式全体を200で市場売却し、売却益100を計上した。
4. 平成X2年3月31日(決算日)にS社はP社株式売却益100に対応する税金40を計上した。
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S社の仕訳 |
連結修正仕訳 |
(1) S社によるP社株式の期末時価評価 |
平成X1年3月31日(決算日)決算仕訳 |
P社株式(その他有価証券) |
50 |
繰延税金負債 |
20 |
|
|
その他有価証券評価差額金 |
30 |
|
繰延税金負債 |
20 |
P社株式(その他有価証券) |
50 |
その他有価証券評価差額金 |
30 |
|
|
自己株式 |
80 |
P社株式(その他有価証券) |
100 |
少数株主持分 |
20 |
|
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(2) S社によるP社株式の売却(評価差額期首洗替仕訳は省略) |
平成X1年3月31日(決算日)決算仕訳 |
現金預金 |
200 |
P社株式(その他有価証券) |
100 |
|
|
有価証券売却益 |
100 |
|
有価証券売却益 |
80 |
法人税等 |
32 |
|
|
自己株式処分差益(その他資本剰余金) |
48 |
|
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(注)
(1) S社によるP社株式の保有
連結財務諸表上自己株式として控除する金額=S社の取得価額100×80%=80
(2) S社によるP社株式の売却
連結財務諸表上自己株式処分差益として処理する金額=60(P社株式売却益100−対応する税金40)×80%=48
ケース2 持分法適用関連会社の場合
前提
1. P社(上場会社)はS社(関連会社)の株式の30%を所有している。
2. その他の前提は、ケース1と同様とする。
|
S社の仕訳 |
連結修正仕訳 |
(1) S社によるP社株式の期末時価評価 |
平成X1年3月31日(決算日)決算仕訳 |
P社株式(その他有価証券) |
50 |
繰延税金負債 |
20 |
|
|
その他有価証券評価差額金 |
30 |
|
S社株式(関連会社株式) |
9 |
その他有価証券評価差額金 |
9 |
その他有価証券評価差額金 |
9 |
S社株式(関連会社株式) |
9 |
|
(2) S社によるP社株式の売却(評価差額期首洗替仕訳は省略) |
平成X1年3月31日(決算日)決算仕訳 |
現金預金 |
200 |
P社株式(その他有価証券) |
100 |
|
|
有価証券売却益 |
100 |
|
S社株式(関連会社株式) |
18 |
持分法投資損益 |
18 |
持分法投資損益 |
18 |
自己株式処分差益(その他資本剰余金) |
18 |
|
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(注)
(1) S社によるP社株式の保有
連結財務諸表上自己株式として控除する金額=S社の取得価額100×30%=30
(2) S社によるP社株式の売却
連結財務諸表上自己株式処分差益として処理する金額=60(P社株式売却益100−対応する税金40)×30%=18
設例2 代用自己株式としての使用による処分(被合併会社の資産、負債を簿価で引き継ぐケース)
前提
1. Y社はX社を吸収合併した。X社の資産の簿価は60、時価は100であり、負債は0とする。
2. X社の資本勘定は、資本金20、未処分利益10であった。Y社とX社の間に資本関係はない。
3. Y社は、X社の取得の対価としてY社の株式100株をX社の株主に交付したが、うち40株(40%部分)は自己株式を交付した。
4. Y社が使用した代用自己株式の帳簿価額は20であった。
5. Y社は、合併時にX社の資産をX社の帳簿価額で受け入れ、X社の資本勘定の構成をそのまま引き継ぐこととした。
X社のB/S
|
資産
(時価) |
60
(100) |
資本金
資本準備金
未処分利益 |
30
20
10 |
|
Y社の会計処理
(代用自己株式の処分に関する処理)
|
借方 |
貸方 |
引継資産(40%部分) |
24 |
自己株式 |
20 |
|
|
自己株式処分差益(その他資本剰余金) |
4 |
|
(新株発行に関する処理)
|
借方 |
貸方 |
引継資産(60%部分) |
36 |
資本金 |
18 |
|
|
資本準備金 |
12 |
|
|
未処分利益 |
6 |
|
(注)
1. 代用自己株式の処分の対価=引き継がれる純資産額60×(代用自己株式の株数(40株)÷合併で交付する株式総数(100株))=24
2. 自己株式処分差額=代用自己株式の対価24−代用自己株式の帳簿価額20=4
3. 増加する資本金=X社資本金30×(代用自己株式以外に発行する株数(60株)÷合併で交付する株式総数(100株))=18
(この例では、X社の資本勘定の構成をそのまま引き継ぐことを前提としているため、X社の資本金額30を按分計算して増加する資本金を算定している。)
4. 増加する資本準備金、未処分利益の計算も増加する資本金の計算と同様に行う。
以上
INDEX
■自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準目次|
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