(注)本内容は、企業会計審議会が平成2年5月29日に公表したしたもの
です。なお、オリジナルの設例とは異なる表現をしている部分があります。
実務への適用にあたっては念のため当該意見書等を確認して下さい。
[設例3] 保有資産のヘッジ取引(その1:分離方式と一体方式) |
平成二年五月二十九日
企業会計審議会第一部会
1 ヘッジ取引の状況
A社(決算日:各年3月31日)は、199×年3月1日に、10億円の国債を額面100円につき105円で購入した。この国債は約3ヵ月後に売却する予定である。A社は、この3ヶ月における債権の相場変動リスクを回避する目的で、債券先物市場で6月限月の債権先物10契約(10億円)の売建取引を行った。A社は、有価証券の評価基準として原価法を、また、先物に係る損益の認識基準として値洗基準をそれぞれ採用している。
国債の現物市場と債権先物市場の相場の動きは、次のとおりであった。
|
|
現物 |
先
物 |
現物市場(円) |
先物市場(円) |
3月 1日 |
購入時 |
売建約定時 |
105 |
100 |
3月31日 |
決算時 |
決算時 |
98 |
92 |
5月25日 |
売却時 |
決済時 |
95 |
89 |
|
上記の取引について、先物の相場変動による利益は、次のように計算される。
決算時(100円−92円)/100×1,000百万円=80百万円
決済時( 92円−89円)/100×1,000百万円=30百万円
(なお、証拠課金の授受、手数料及び税金は、考慮外としている〔設例4〕及び〔設例5〕において同じ。)
2 ヘッジ効果の判定
(1)決算時のヘッジ効果
事後テストとして、決算時において上記の先物取引についてヘッジ会計を適用することの適否を判定する必要がある。この事後テストは、次のとおりである。なお、事前テストの要件は満たされているものとする。
ヘッジ行為開始時から決算時までの間における現物国債の相場変動による損失:
(105円−98円)/100×1,000百万円=70百万円
現物国債と債券先物の相場変動による損益の比率:
70百万円/80百万円=88%
この結果、債権先物とヘッジ対象資産の相場変動には事後テストを満たす高い相関関係があり、決算時においてヘッジ会計を適用することが適当と判断された。
(2)売却・決算時のヘッジ効果
現物国債の売却時及び先物の決済時においても、事後テストとして、上記先物取引についてヘッジ会計を適用することの適否を判定する必要がある。この場合、ヘッジの有効性を判定する期間としては、@ヘッジ行為開始時からヘッジ行為終了時までの期間をとる方法と、A前期末からヘッジ行為終了時までの期間をとる方法が考えられる。
@の期間による判定を行う場合
ヘッジ行為開始時からヘッジ行為終了時までの相場変動による損益:
現物国債
(105円−95円)/100×1,000百万円=100百万円(損失)
債権先物
(100円−89円)/100×1,000百万円=110百万円(利益)
現物国債と債権先物の相場変動による損益の比率:
100百万円/110百万円=91%
Aの期間による判定を行う場合
前期末からヘッジ行為終了時までの相場変動による損益:
現物国債
(98円−95円)/100×1,000百万円=30百万円(損失)
債権先物
(92円−89円)/100×1,000百万円=30百万円(利益)
現物国債と債権先物の相場変動による損益の比率:
30百万円/30百万円=100%
この設例では、@及びAのいずれの方法によっても、債権先物とヘッジ対象資産の相場変動には高い相関関係があり、売却・決済時においてもヘッジ会計を適用することが適当と判断された。
3 ヘッジ会計の処理
購入・売建約定時、決算時、売却・決済時の各時点における処理は、次のようになる。
(単位:百万円)
(1)分離方式(損益繰延方式)による場合
@ 現物の購入・先物の売建約定時
現物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
有価証券 |
1,050 |
現金 |
1,050 |
|
先物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
先物の約定残高は、貸借対照表に計上しないので、会計処理は行わない。 |
|
A 決算時
現物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
有価証券の評価基準は原価法であるので、会計処理は行わない。 |
|
先物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
先物取引差金 |
80 |
繰延先物利益 |
80 |
|
B 現物の売却・先物の決済時
現物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
預金 |
950 |
有価証券 |
1,050 |
有価証券売却損 |
100 |
|
|
|
先物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
先物取引差金 |
30 |
繰延先物利益 |
30 |
現金 |
110 |
先物取引差金 |
110 |
繰延先物利益 |
110 |
先物利益 |
110 |
|
(2)一体方式(簿価修正方式)による場合
@ 現物の購入・先物の売建約定時
分離方式(損益繰延方式)による場合と同様に処理する。
A 決算時
現物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
有価証券の評価基準は原価法であるので、会計処理は行わない。 |
|
先物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
先物取引差金 |
80 |
有価証券簿価修正(注) |
80 |
(注)貸借対照表上、「有価証券簿価修正」は「有価証券」からの控除項目として表示する。 |
B 現物の売却・先物の決済時
現物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
預金 |
950 |
有価証券 |
1,050 |
有価証券簿価修正 |
110 |
有価証券売却益 |
10 |
|
先物
|
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
先物取引差金 |
30 |
有価証券簿価修正 |
30 |
預金 |
110 |
先物取引差金 |
110 |
|
INDEX
■先物・オプション取引等の会計基準目次
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