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|目次| |
(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成18年7月5日に公表した「棚卸資産の評価に関する会計基準」から「結論の背景」部分を抜粋したものです。「目的・会計基準」は別に記載してあります。
平成18年7月5日 企業会計基準委員会 本会計基準は、平成20年3月10日までに公表された次の会計基準等による修正が反映されている。 ・ 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(平成20年3月10日改正) 目次 23. 我が国においては、これまで、取得原価をもって棚卸資産の貸借対照表価額とし(原価法)、時価が取得原価よりも下落した場合には時価による方法を適用して算定すること(低価法)ができるものとされてきた。このように、棚卸資産の貸借対照表価額に関しては、原価法と低価法の選択適用が認められてきたため、会計方針として、棚卸資産の評価基準及び評価方法を記載するものとされてきた。なお、原価法を適用している場合でも、時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とする(強制評価減)ものとされてきた。 24. 棚卸資産の評価基準については、平成13年11月のテーマ協議会において、レベル2の優先度(比較的優先順位の高いグループであるレベル1 以外のグループ)とした提言がなされている。これは、会計処理の継続性が求められるものの、企業により原価法と低価法の選択適用が認められていることに対する是非や、国際的な会計基準との調和の観点から行われた提言と考えられる。 25. 当委員会では、テーマ協議会からの提言を受け、低価法に関する実態調査を行い、また、学識経験者を含むワーキング・グループを設け、棚卸資産の評価基準及び開示について検討してきた。その後、平成17年4月に棚卸資産専門委員会を設置し、専門委員による討議や参考人として専門委員以外の財務諸表作成者の意見聴取など幅広く審議し、同年10月には「棚卸資産の評価基準に関する論点の整理」(以下「論点整理」という。)を公表した。 当委員会では、論点整理に対して寄せられた意見を踏まえ、さらに検討を重ね、平成18年4月に「棚卸資産の評価原則に関する会計基準(案)」を公開草案として公表し、広く意見を求めた。その後、当該公開草案に対して寄せられた意見を参考にして、審議を行い、その内容を一部修正した上で、本会計基準を公表することとした。 26. なお、我が国の会計基準を設定するにあたって、概念フレームワークを明文化する必要性が各方面から指摘されたのを受け、当委員会は、外部の研究者を中心としたワーキング・グループを組織して、その問題の検討を委託し、平成16年9月に討議資料「財務会計の概念フレームワーク」を公表している。この討議資料に示されているのは、当委員会の見解ではなく、当委員会に報告された当該ワーキング・グループの見解であるが、会計基準開発の過程でその有用性がテストされ、市場関係者等の意見を受けてさらに整備・改善されることにより、会計基準設定の指針になることが期待されている。このため、本会計基準を検討するにあたり、当委員会では、この討議資料の一部も素材として議論を重ねた。 27. すべての企業における棚卸資産に本会計基準を適用するが、棚卸資産であっても、他の会計処理により収益性の低下が適切に反映されている場合には、本会計基準を適用する必要はない。また、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産であっても、金融商品会計基準に定める売買目的有価証券や、「研究開発費等に係る会計基準」に定める市場販売目的のソフトウェアのように、棚卸資産に該当せず、他の会計基準において取扱いが示されているものは、該当する他の会計基準の定めによる。 28. これまで、棚卸資産の範囲は、原則として、連続意見書 第四 に定める次の4項目のいずれかに該当する財貨又は用役であるとされている。 (1) 通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役 (2) 販売を目的として現に製造中の財貨又は用役 (3) 販売目的の財貨又は用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨 (4) 販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨 29. 連続意見書 第四では、前項(4)のように、棚卸資産には、事務用消耗品等の販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨も含まれるとしている点で、国際的な会計基準と必ずしも同じではないといわれている。このような財貨は、製造用以外のものであっても、短期的に消費される点や実務上の便宜が考慮され、棚卸資産に含められているが、一般に重要性が乏しいと考えられる。 30. このため本会計基準では、棚卸資産の範囲に関しては、連続意見書 第四の考え方及びこれまでの取扱いを踏襲し、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産のほか、従来から棚卸資産に含められてきた販売活動及び一般管理活動において短期間に消費される事務用消耗品等も棚卸資産に含めている。このように、本会計基準では、棚卸資産の範囲を従来と変えることなく、その評価基準を取り扱っている。 31. 棚卸資産には、未成工事支出金等、注文生産や請負作業についての仕掛中のものも含まれる。 32. 論点整理に関して寄せられたコメントの中には、販売用不動産や開発事業等支出金に関して、棚卸資産の範囲に含まれることに異論はないものの、その価格の測定に幅がある点や客観性を欠くという理由をもって、収益性の低下に基づく簿価切下げの対象から除外することを求める意見があった。この点については、これまでも強制評価減の適用に際し、販売用不動産等の時価や評価損の金額の算定が行われていることから、対象から除外する理由としては乏しいと判断した。 33. 本会計基準では、連続意見書 第四で用いられていた正味実現可能価額という用語に代えて、「正味売却価額」という用語を用いている(第5項参照)。これは、実現可能という用語は不明確であるという意見があることや、「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という。)において正味売却価額を用いていることとの整合性に配慮したものであるが、これらの意味するところに相違はない。 34. 売価とは、売却市場における市場価格に基づく価額であり、このような市場価格が存在しないときには、合理的に算定された価額をいう。棚卸資産の種類により種々の取引形態があるが、ここでいう取引形態には、取引参加者が少なく、当該企業のみが売手となるような相対取引しか行われない場合までも含む。そのため、合理的に算定された価額には、観察可能でなくとも売手が実際に販売できると合理的に見込まれる程度の価格を含むことに留意する必要がある。 (これまでの取扱い) 35. 我が国において、これまで棚卸資産の評価基準が原則として原価法とされてきたのは、棚卸資産の原価を当期の実現収益に対応させることにより、適正な期間損益計算を行うことができると考えられてきたためといわれている。すなわち、当期の損益が、期末時価の変動、又は将来の販売時点に確定する損益によって歪められてはならないという考えから、原価法が原則的な方法であり、低価法は例外的な方法と位置付けられてきた。 (棚卸資産の簿価切下げの考え方) 36. これまでの低価法を原価法に対する例外と位置付ける考え方は、取得原価基準の本質を、名目上の取得原価で据え置くことにあるという理解に基づいたものと思われる。しかし、取得原価基準は、将来の収益を生み出すという意味においての有用な原価、すなわち回収可能な原価だけを繰り越そうとする考え方であるとみることもできる。また、今日では、例えば、金融商品会計基準や減損会計基準において、収益性が低下した場合には、回収可能な額まで帳簿価額を切り下げる会計処理が広く行われている。 そのため、棚卸資産についても収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合には、品質低下や陳腐化が生じた場合に限らず、帳簿価額を切り下げることが考えられる。収益性が低下した場合における簿価切下げは、取得原価基準の下で回収可能性を反映させるように、過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理である。棚卸資産の収益性が当初の予想よりも低下した場合において、回収可能な額まで帳簿価額を切り下げることにより、財務諸表利用者に的確な情報を提供することができるものと考えられる。 37. それぞれの資産の会計処理は、基本的に、投資の性質に対応して定められていると考えられることから、収益性の低下の有無についても、投資が回収される形態に応じて判断することが考えられる。棚卸資産の場合には、固定資産のように使用を通じて、また、債権のように契約を通じて投下資金の回収を図ることは想定されておらず、通常、販売によってのみ資金の回収を図る点に特徴がある。このような投資の回収形態の特徴を踏まえると、評価時点における資金回収額を示す棚卸資産の正味売却価額が、その帳簿価額を下回っているときには、収益性が低下していると考え、帳簿価額の切下げを行うことが適当である。 (品質低下又は陳腐化に起因する簿価切下げとそれ以外に起因する簿価切下げ) 38. 品質低下や陳腐化による評価損と低価法評価損との間には、その発生原因等の相違が存在するといわれてきた。
39. これまでは、低価法を例外的処理と位置付けてきたことと相俟って、品質低下・陳腐化評価損と低価法評価損の間には、その取扱いに明確な差異がみられた。しかし、発生原因は相違するものの、正味売却価額が下落することにより収益性が低下しているという点からみれば、会計処理上、それぞれの区分に相違を設ける意義は乏しいと考えられる。また、特に経済的な劣化による収益性の低下と、市場の需給変化に基づく正味売却価額の下落による収益性の低下は、実務上、必ずしも明確に区分できないという指摘も多い。以上により、本会計基準では、これらを収益性の低下の観点からは相違がないものとして取り扱うこととしている。 (正味売却価額の考え方) 40. 前述したように本会計基準では、棚卸資産の場合、販売により投下資金の回収を図るため、正味売却価額が帳簿価額よりも低下しているときには、収益性が低下しているとみて、帳簿価額を正味売却価額まで切り下げること(第37項参照)が他の会計基準における考え方とも整合的であると考えている。 41. 棚卸資産への投資は、将来販売時の売価を想定して行われ、その期待が事実となり、成果として確定した段階において、投資額は売上原価に配分される。このように最終的な投資の成果の確定は将来の販売時点であることから、収益性の低下に基づく簿価切下げの判断に際しても、期末において見込まれる将来販売時点の売価に基づく正味売却価額によることが適当と考えられる。 42. なお、期末の正味売却価額という場合でも、一般的に、販売までに要する期間があることから、それは期末における将来販売時点での正味売却価額を指すことも多い。例えば、契約により取り決められた一定の売価(第8項参照)や、仕掛品における加工後の販売見込額に基づく正味売却価額などが該当する。もっとも、将来販売時点の売価を用いるとしても、その入手や合理的な見積りは困難な場合が多いことから、合理的に算定された価額として、期末前後での販売実績に基づく価額も用いられる(第8項参照)。このため本会計基準では、いずれも含まれるように、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とするものとした(第7項参照)。 43. また、期末の売価に基づき正味売却価額を把握する場合には、突発的な売価変動の影響を受けるおそれがあるという指摘がある。本来、正味売却価額は、将来販売時点の見込みであるため、期末時点の正味売却価額が突発的な要因により、異常な水準となっているときには、期末時点の正味売却価額を用いることが不適切であることは明らかである。そのような場合には、期末における正味売却価額を用いるとしても、期末時点の売価ではなく、期末付近の合理的な期間の平均的な売価に基づく正味売却価額によることが適当である。 (正味売却価額がマイナスの場合) 44. 見積追加製造原価及び見積販売直接経費が売価を超えるときには、正味売却価額はマイナスとなるが、その場合には、棚卸資産の帳簿価額をゼロまで切り下げたとしても、当該マイナス部分については、反映できない。 例えば、売価100、見積追加製造原価及び見積販売直接経費120、仕掛品の帳簿価額30の場合、正味売却価額はマイナス20であり、簿価切下額は50となる。収益性の低下により仕掛品の帳簿価額30をゼロまで切り下げたとしても、残る20の損失は認識されない。 このように、切り下げるべき棚卸資産の帳簿価額が存在しない場合でも、マイナスの正味売却価額を反映させるため引当金による損失計上が行われることがある。これらについては、企業会計原則注解 注18との関連で別途扱うべき問題であると考えられる。 (期末時点の正味売却価額の下落が収益性の低下と結びつかない場合) 45. 期末における正味売却価額は、本来、将来販売時点の正味売却価額を意味する(第41項参照)ことから、期末時点の正味売却価額が帳簿価額より下落していても、期末において見込まれた将来販売時点の正味売却価額が帳簿価額よりも下落していない場合には、正味売却価額の下落が収益性の低下に結びつかないため、簿価切下げを行う必要はないこととなる。 しかしながら、期末付近の合理的な期間の平均的な売価に基づく正味売却価額を用いたにもかかわらず、期末直後に当該価額以上の金額で販売されたような極めて例外的な場合を除けば、期末の正味売却価額が帳簿価額より下落しているものの、収益性が低下していないことを示すことは通常困難であると考えられる。このため、本会計基準では、期末の正味売却価額の下落が収益性の低下に結びつかない場合は、極めて限定的であると想定している。 46. なお、反対に、期末時点の正味売却価額が帳簿価額よりも下落していないものの、将来販売時点の正味売却価額が帳簿価額よりも下落している場合が考えられる。この場合、すぐに販売可能であれば、企業は販売により投資を回収すると考えられるが、契約や事業遂行上等の制約により、すぐに販売できないものは、収益性の低下を反映するように帳簿価額を切り下げる必要がある。ただし、他の会計処理によって収益性の低下が適切に反映されている場合には、この限りではない。 (販売活動及び一般管理活動目的で保有する棚卸資産の簿価切下げ) 47. 販売活動及び一般管理活動目的で保有する棚卸資産に関しては、棚卸資産の範囲には含まれるものの(第3項及び第30項参照)、販売により投資が回収されるものではないため、価格の下落が必ずしも収益性の低下に結びつかないと考えられる。しかし、少なくとも当該棚卸資産の価格下落が物理的な劣化又は経済的な劣化に起因している場合、収益性の低下に準じて通常の販売目的の棚卸資産と同様に簿価切下げを行うことが適当である。 (正味売却価額の見積り) 48. 棚卸資産の売却市場において、市場価格が存在する場合には、当該市場価格に基づく価額を売価とするが、棚卸資産については、市場価格が存在することは多くない。そのため、企業は、売却市場における合理的に算定された価額による必要がある。当該価額は、同等の棚卸資産を売却市場で実際に販売可能な価額として見積ることが適当であり、これには、実務上、期末前後での販売実績に基づく価額や、特定の販売先との間の契約で取り決められた一定の売価も含まれる(第8項参照)。しかしながら、実務上、収益性が低下していないことが明らかであり、事務負担をかけて収益性の低下の判断を行うまでもないと認められる場合には、正味売却価額を見積る必要はないと考えられる。 49. 正味売却価額について、期末前後での販売実績に基づく価額を把握することさえも困難な場合があるという意見がある。しかしながら、そのような場合には、製造業における原材料等を除き、陳腐化が生じている場合が多い。これまでも、実務上、販売されずに滞留在庫となっている棚卸資産や処分を予定している棚卸資産については、その状況に応じて、帳簿価額を処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)まで切り下げたり、一定の回転期間を超える棚卸資産について規則的な簿価切下げを行うことにより、棚卸資産の収益性の低下を財務諸表に反映させてきた。本会計基準では、そのような簿価切下げの方法も、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて取り扱うことができるものとしている(第9項参照)。 50. 製造業における原材料は、製品を構成することとなり、完成後の製品売価に基づく正味売却価額が帳簿価額を上回っていれば、帳簿価額を切り下げる必要はない。しかし、通常は、再調達原価の方が把握しやすいと考えられるため、正味売却価額が再調達原価に歩調を合わせて動くと想定されるときには、再調達原価によることができるものとした。再調達原価の方が把握しやすいという点は、原材料等に限らず他の購入品の場合でも同様と考えられるため、本会計基準では、正味売却価額が再調達原価に歩調を合わせて動くと想定されるときには、継続して適用することを条件に、正味売却価額の代理数値として再調達原価によることができるものとした(第10項参照)。再調達原価には、購入に付随する費用が含められるが、重要性等を考慮して、含めないものとすることができる。 51. 企業が複数の売却市場に参加し得る場合(第11項参照)とは、次のように、特定の棚卸資産に関して企業自身が複数の販売経路を有しており、その販売経路ごとに売価が異なる場合をいう。 (1) 消費者への直接販売と代理店経由の間接販売 (2) 正規販売とアウトレット (3) 特定の販売先との契約により一定の売価で販売することが決定されている場合とそのような契約がない場合 52. 前項のように複数の売却市場が存在する場合、企業は売価の高い市場に参加することが想定される。その売価は、売手である当該企業が実際に販売できると見込む売価であることに留意する必要がある。なお、複数の売却市場が存在し、売価が異なる場合であっても、棚卸資産をそれぞれの市場向けに区分できないときには、それぞれの市場の販売比率に基づいた加重平均売価等による。 (収益性低下の判断及び簿価切下げの単位) 53. 棚卸資産に関する投資の成果は、通常、個別品目ごとに確定することから、収益性の低下を判断し、簿価切下げを行う単位も個別品目単位であることが原則であるが、次のような場合には、複数の棚卸資産を一括りとした単位で行う方が投資の成果を適切に示すことができると判断されるため、複数の品目を一括りとして取り扱うことが適当と考えられる(第12項参照)。 (1) 補完的な関係にある複数商品の売買を行っている企業において、いずれか一方の売買だけでは正常な水準を超えるような収益は見込めないが、双方の売買では正常な水準を超える収益が見込めるような場合 (2) 同じ製品に使われる材料、仕掛品及び製品を1 グループとして扱う場合(売価還元法を採用している場合) 54. 小売業等の業種においては、棚卸資産の評価方法として、次に示す原価率(連続意見書第四に定める売価還元平均原価法の原価率)による売価還元法を採用しているケースが多いが、この場合でも、期末における正味売却価額(棚卸資産の値入率又は回転率の類似性に基づくグループの売価合計額から見積販売直接経費を控除した金額)が帳簿価額よりも下落しているときには、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする必要がある(第13項参照)。 【連続意見書 第四に定める売価還元平均原価法の原価率】 (期首繰越商品原価+当期受入原価総額)÷(期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額-値上取消額-値下額+値下取消額) 55. 他方、値下額及び値下取消額を除外した売価還元法の原価率(連続意見書 第四に定める売価還元低価法の原価率)を採用している企業がある。値下額及び値下取消額を除外した売価還元法の原価率を適用する方法は、収益性の低下に基づく簿価切下げという考え方と必ずしも整合するものではないが、本会計基準では、これまでの実務上の取扱いなどを考慮し、値下額等が売価合計額に適切に反映されている場合には、当該原価率の適用により算定された期末棚卸資産の帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができることとした(第13項ただし書き参照)。 (洗替え法と切放し法) 56. 固定資産の減損処理においては損失発生の可能性の高さを要件とするのに対し、棚卸資産における収益性の低下は、期末における正味売却価額が帳簿価額を下回っているかどうかによって判断するため、簿価切下額の戻入れを行う洗替え法の方が、戻入れを行わない切放し法に比して、正味売却価額の回復という事実を反映するため、収益性の低下に着目した簿価切下げの考え方と整合的であるという考え方がある。 57. 他方、収益性の低下に基づき過大な帳簿価額を切り下げ、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理において、いったん費用処理した金額を正味売却価額が回復したからといって戻し入れることは、固定資産の減損処理と同様に、適切ではないという考え方がある。この場合、評価性引当金により費用処理を間接的に行っているのであれば、見積りの変更により戻し入れるが、直接的に帳簿価額を切り下げる場合は、切放し法が整合的であるとされる。 58. 実務上、収益性低下の要因を物理的な劣化や経済的な劣化による場合とそれ以外の場合に区分できる企業においては、前者の要因による売価が反騰することは通常考えられないことから、前者については切放し法、後者については洗替え法による処理が適切との指摘もある。しかし、洗替え法を採用した場合であっても、正味売却価額の回復がなければ、戻入額と同額以上の簿価切下額が期末に計上されるため、損益に与える影響は切放し法による場合と変わらない。このため、要因別に区分できるときには、簿価切下げの要因ごとに選択できるものとした。また、これまで洗替え法と切放し法の両方が認められてきたことから、洗替え法と切放し法のいずれが実務上簡便であるかに関しては、企業により異なる。これらの理由により、本会計基準では、洗替え法と切放し法のいずれによることもできるものとし、いったん採用した方法に関しては、継続して適用しなければならないものとした(第14項参照)。 59. この場合、1つの経済実態に対して複数の会計処理が認められることは適当ではないという指摘がある。確かに、前期末に帳簿価額を切り下げた棚卸資産の正味売却価額が回復し、かつ、当期末時点で在庫となっている場合には、両者の結果が異なる。しかしながら、一般的に、正味売却価額が回復するケースは、必ずしも多くないと考えられることや、仮に正味売却価額が回復している場合には、通常、販売され在庫として残らないと見込まれることから、洗替え法と切放し法の選択を企業に委ねても、結果は大きく異ならないものと考えられる。 60. 当初から加工や販売の努力を行うことなく単に市場価格の変動により利益を得るトレーディング目的で保有する棚卸資産については、投資者にとっての有用な情報は棚卸資産の期末時点の市場価格に求められると考えられることから、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とすることとした。その場合、活発な取引が行われるよう整備された、購買市場と販売市場とが区別されていない単一の市場(例えば、金の取引市場)の存在が前提となる。また、そうした市場でトレーディングを目的に保有する棚卸資産は、売買・換金に対して事業遂行上等の制約がなく、市場価格の変動にあたる評価差額が企業にとっての投資活動の成果と考えられることから、その評価差額は当期の損益として処理することが適当と考えられる。 61. トレーディング目的で保有する棚卸資産に係る会計処理は、売買目的有価証券の会計処理と同様であるため、その具体的な適用は、金融商品会計基準に準ずることとしている。したがって、金融商品会計基準のほか、その具体的な指針等も参照する必要がある。 62. 企業が通常の販売目的で保有する棚卸資産について、収益性が低下した場合の簿価切下額は、販売活動を行う上で不可避的に発生したものであるため、売上高に対応する売上原価として扱うことが適当と考えられる。 ただし、収益性が低下した場合において、原材料等に係る簿価切下額のうち、例えば品質低下に起因する簿価切下額など製造に関連し不可避的に発生すると認められるものについては、製造原価として処理することとなる。なお、そのような場合であっても、当該簿価切下額の重要性が乏しいときには、売上原価へ一括計上することができるものと考えられる。 63. 簿価切下額が、販売促進に起因する場合には販売費として表示することが考えられるが、本会計基準では当該会計処理を示していない。これは、当該会計処理を認めた場合には、販売促進に起因するという意味を拡大解釈し、本来販売費として処理すべきではない簿価切下額についても販売費とするような濫用のおそれがあるという、公開草案に寄せられた意見を踏まえたものである。ただし、これは、棚卸資産を見本品として使用する場合に、他勘定振替処理により販売費として計上する処理まで否定するものではない。 64. なお、収益性の低下に基づき帳簿価額を切り下げる場合には、従来の強制評価減が計上される余地はないものと考えられることから、正味売却価額が帳簿価額よりも著しく下落したという理由をもって、簿価切下額を営業外費用又は特別損失に計上することはできない。 65. 洗替え法を採用する企業において、前期末に計上した簿価切下額の戻入額の損益計上区分と、当期の簿価切下額の損益計上区分とが異なる場合、前期の戻入額と販売による当期の売上総利益のマイナス(販売されていない場合には、追加の簿価切下額)が両建計上されてしまうため、両者を同じ区分に計上することが適当である。 66. これまで低価法による棚卸資産の評価減に関しては、注記又は売上原価等の内訳記載が求められてきたことや、国際的な会計基準でも同様の注記が求められていることから、本会計基準では、収益性の低下に基づく簿価切下げにより費用計上された金額の注記又は独立掲記を求めている。 67. これまでの会計慣行では、棚卸資産の評価基準を原価法から低価法に変更した場合には、期末棚卸資産の評価から低価法を適用することが一般的であり、そこで求められる低価法評価損は、売上原価又は営業外費用として表示される。しかしながら、これまで原価法を適用してきた企業においては、強制評価減適用の要否は検討していたとはいえ、棚卸資産の回転期間の長い企業など、少なくない金額の簿価切下額が生ずるケースも想定される。 このため、簿価切下額のうち期首の棚卸資産に係る部分に関しては、前期損益修正損の性格があり、特別損失として計上することを許容すべきという意見があることから、適用初年度の例外として定めた(第21項参照)。 68. 適用時期に関して、公開草案の段階では、平成19年4月以後開始する事業年度から本会計基準を適用することとしていたが、公開草案に対して寄せられたコメントの中には、本会計基準を導入するための企業側の受入準備が整わないという意見があった。かかるコメントを踏まえ、当委員会において審議した結果、早期適用を認めつつ、適用時期を1年遅らせ、平成20年4月1日以後開始する事業年度から適用することとした。なお、本会計基準を早期適用する場合には、次の点に留意する必要がある。 (1) 一部適用は認められないこと 通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準に係る会計処理(第7項参照)と、トレーディング目的で保有する棚卸資産の評価基準に係る会計処理(第15項参照)を、時期を違えて適用することによる弊害を防ぐため、本会計基準の早期適用にあたり一部適用は認めない。 (2) 連結財務諸表における連結子会社にも適用すること 本会計基準を早期適用する場合には、財務諸表提出会社の個別財務諸表と連結財務諸表の両方について同時に適用する。 (3) 早期適用にあたっては、受入準備が整った段階から適用できること 本会計基準を早期適用する場合であっても期首からの適用を前提としているが、受入準備が整った段階から適用することができる。そのため、受入準備が整っていないという理由により、中間会計期間末には、早期適用しないときでも、その後受入準備が整った場合には、事業年度末から適用することができる(第21項の方法を含む。)。 ただし、この場合には、中間・年度の会計処理の首尾一貫性が保持されていない場合の取扱いに準じて、本会計基準が中間会計期間には適用されていない旨、その理由及び当中間会計期間で本会計基準を適用した場合の当中間財務諸表に与える影響額を注記する。 以上 INDEX |
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