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目次

 

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成17年12月27日に公表した「事業分離等に関する会計基準」から「結論の背景」部分を抜粋したものです。「目的」及び「会計基準」の部分は別に記載してあります。

なお、実務への適用にあたっては念のためにオリジナルの当該基準等を確認してください。

企業会計基準第7号

事業分離等に関する会計基準

(結論の背景)

平成17年12月27日

企業会計基準委員会

 

本会計基準は、平成20年3月10日までに公表された次の会計基準等による修正が反映されている。

(1) 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(平成20年3月10日改正)

(2) 企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」(平成20年3月10日公表)

目次

目的及び会計基準の部分は別に記載してあります。

結論の背景

経緯

用語の定義と範囲

会計処理の考え方

企業結合会計基準における持分の継続

持分の継続と分離元企業の会計処理及び結合当事企業の株主に係る会計処理の考え方

分離元企業の会計処理と結合当事企業の株主に係る会計処理の考え方の関係

分離元企業の会計処理

分離元企業の会計処理の基本的な考え方

受取対価が現金等の財産のみである場合の分離元企業の会計処理

受取対価が分離先企業の株式のみである場合の分離元企業の会計処理

受取対価が現金等の財産と分離先企業の株式である場合の分離元企業の会計処理

開示

資産の現物出資等における移転元の企業の会計処理

結合当事企業の株主に係る会計処理

被結合企業の株主に係る会計処理の基本的な考え方

受取対価が現金等の財産のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

受取対価が現金等の財産と結合企業の株式である場合の被結合企業の株主に係る会計処理

結合企業の株主に係る会計処理

分割型の会社分割における分割会社の株主に係る会計処理

現金以外の財産の分配を受けた場合の株主に係る会計処理

開示

適用時期


結論の背景

経緯

60. 企業会計審議会から、平成15年10月に公表されている企業結合会計意見書 四 3.では、企業結合会計基準を実務に適用する場合の具体的な指針等については、今後、関係府令を整備するとともに、企業会計基準委員会において適切に措置していくことが適当であるとしている。このため、当委員会では、具体的な指針等を取りまとめるために、平成15年11月以降、企業結合専門委員会を設置し、審議を行うこととした。

61. 企業結合会計基準では、企業結合に該当する取引を対象とし、結合企業を中心に結合当事企業の会計処理を定めている。しかし、企業再編(組織再編)では、その他に、分離元企業の会計処理や結合当事企業の株主に係る会計処理なども検討する必要がある。このため、当委員会では、別途、事業分離専門委員会を設置し審議を行い、それまでの議論を、平成16年4月には「事業分離等に係る会計処理に関する論点の整理」として、また、平成17年1月には「『事業分離等に係る会計基準』の検討状況の整理」としてそれぞれ公表している。その後、これらに対して寄せられたコメントも参考にし、論点として掲げた項目を含め、審議を行い、平成17年7月に、企業会計基準公開草案第5号「事業分離等に関する会計基準(案)」を公表し、広く各界の意見を求めた。当委員会では、当該公開草案に対して寄せられた意見も参考にしてさらに審議を重ね、その内容を一部修正して、本会計基準を公表することとした。

用語の定義と範囲

事業分離

62. 事業分離は、会社分割や事業譲渡、現物出資等の形式をとり、分離元企業が、その事業を分離先企業に移転し対価を受け取る。分離元企業から移転された事業と分離先企業(ただし、新設される企業を除く。)とが1つの報告単位に統合されることになる場合の事業分離は、企業結合(企業結合会計基準 二 1.)でもある。この場合には、分離先企業は結合企業にあたり、事業分離日と企業結合日とは同じ日となる。

なお、複数の取引が1 つの事業分離又は企業結合を構成している場合には、それらを一体として取り扱うことに留意する(この点については、第4項及び企業結合会計基準 注解(注1)を参照のこと)。通常、複数の取引が1 事業年度内に完了する場合には、一体として取り扱うことが適当であると考えられるが、1つの事業分離又は企業結合を構成しているかどうかは状況によって異なるため、当初取引時における当事者間の意図や当該取引の目的等を勘案し、実態に応じて判断することとなる。

分割型の会社分割

63. 従来、人的分割ともいわれた分割型の会社分割(第9項(3)なお書き参照)には、分割会社の株主の保有する株式数の割合に応じて交付される按分型と、その株式数の割合とは異なる割合で交付される非按分型がある。

このような分割型の会社分割については、分割会社の株主に対する現物の分配と同様の1つの取引と考える見方があるが、会社法(平成17年法律第86号)においては、会社分割(従来は物的分割ともいわれた分社型の会社分割をいう。)とこれにより受け取った承継会社又は新設会社の株式の分配という2つの取引と考える見方がなされていることから、本会計基準においては、原則として、2つの取引と考えている。このため、分割型の会社分割に係る分離元企業(分割会社)の会計処理については、特段の定めをしていない。

現物出資等

64. 現物出資などにより、事業には該当しない資産を移転し移転先の企業の株式を受け取る場合がある。また、会社法においては、自己株式の処分等に際して、現金以外の財産が給付される場合の手続等も示されている。このため、本会計基準では、事業分離に該当する場合のほか、事業分離には該当しないが、資産を移転し移転先の企業の株式を受け取る場合における移転元の企業の会計処理を示している。

被結合企業の株主

65. 企業結合により被結合企業の株主は、現金等の財産(負債の引受けを含む。)や結合企業の株式を得る(企業結合会計意見書 三 2.(2))。合併や株式交換・株式移転等による企業結合では、被結合企業の株主が保有していた被結合企業の株式は、結合企業の株式と引き換えられることが多い。

結合企業の株主

66. 本会計基準における結合当事企業の株主に係る会計処理には、被結合企業の株式を保有していた株主の会計処理のみならず、結合企業の株式を保有している株主の会計処理も含んでいる。これは、企業結合により、結合企業の株主は当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該結合企業に対する持分比率が変動する場合があり、その場合の結合企業の株主に係る会計処理を定める必要があることによる。

会計処理の考え方

企業結合会計基準における持分の継続

67. 一般的な会計処理においては、企業と外部者との間で財を受払いした場合、企業の支払対価が現金及び現金等価物のときには、購入(新規の投資)の会計処理が行われ、企業の受取対価が現金及び現金等価物のときには、売却(投資の清算)の会計処理が行われる。

また、企業と外部者との間で現金及び現金等価物以外の財と財とが受払いされたときには、交換の会計処理が行われる。

しかしながら、企業結合においては、企業と外部者の間の取引ではなく、企業自体が取引の対象となる場合があるため、必ずしも一般的な会計処理のように企業の観点からは判断できず、この場合には、総体としての株主にとっての投資が継続しているかどうかを判断せざるを得ない。このため、企業結合会計基準は、結合当事企業に対する総体としての株主の観点から、持分の継続が断たれた側では、いったん投資を清算し、改めて当該資産及び負債に対して投資を行ったと考えられるものとし、持分が継続している側では、これまでの投資がそのまま継続していると考えられる(企業結合会計意見書 三 2.(1))ものとしている。

68. このように、企業結合会計基準では、持分の継続か非継続かという概念を用いて、企業結合には「取得」と「持分の結合」という異なる経済的実態を有するものが存在すると考え、「取得」に対してはパーチェス法により、「持分の結合」に対しては持分プーリング法により会計処理することとされている(企業結合会計基準 三 1.(1)、2.及び3.)。

これらは、一般的な会計処理に照らせば、次のように考えられる(この点については、企業結合会計意見書 三 2.(1)を参照のこと)。

(1) 「取得」と判定された場合に用いられるパーチェス法は、購入(新規の投資)の会計処理に該当する。また、企業の損益計算の観点からいえば、企業結合時点での資産及び負債の時価を新たな投資原価とし、そのような投資原価を超えて回収できれば、その超過額が企業にとっての利益となる。

(2) 「持分の結合」と判定された場合に用いられる持分プーリング法は、ある種の非貨幣財同士の交換の会計処理に該当する。また、企業の損益計算の観点からいえば、投資の清算と再投資は行われていないのであるから、結合後企業にとっては企業結合直前の帳簿価額がそのまま投資原価となり、この投資原価を超えて回収できれば、その超過額が企業にとっての利益となる。

持分の継続と分離元企業の会計処理及び結合当事企業の株主に係る会計処理の考え方

69. 企業結合会計意見書において、企業結合の会計処理に用いられている「持分の継続・非継続」という考え方は、企業結合の会計処理に固有のものではなく、むしろ一般に事業の成果をとらえる際の投資の継続・清算とも整合した概念であり、実現概念に通ずる考え方(第71項参照)である(企業結合会計意見書 三 1.)。すなわち、第67項で示されたように、企業結合には、企業自体が取引の対象となる場合があり、総体としての株主にとっての投資が継続しているかどうかを判断せざるを得ないときがあるため、その特徴を踏まえ、企業結合の会計処理を、結合当事企業にとって一般的な会計処理と整合することができるように考えられたのが「持分の継続・非継続」という概念である。このため、企業結合における結合企業の会計処理のみならず、分離元企業や結合当事企業の株主もあわせた企業再編(組織再編)の会計処理を、同じ考え方に沿って統一的に行うことが考えられる。

70. 「持分の継続・非継続」の基礎になっている考え方、すなわち、一般に事業の成果をとらえる際の投資の継続・清算という概念によって整理すれば、分離元企業の会計処理及び結合当事企業の株主に係る会計処理は、次のように考えられる。

(1) 売却や異種資産の交換の会計処理に見られるように、いったん投資を清算したとみて移転損益や交換損益を認識するとともに、改めて時価にて投資を行ったとみる場合この場合には、事業分離時点や交換時点での時価が新たな投資原価となり、その後の損益計算の観点からは、そのような投資原価を超えて回収できれば、その超過額が企業にとっての利益となる。

(2) 同種資産の交換の会計処理に見られるように、これまでの投資がそのまま継続しているとみて、移転損益や交換損益を認識しない場合

この場合には、事業分離や株式の交換によっても投資の清算と再投資は行われていないとみるため、移転や交換直前の帳簿価額がそのまま投資原価となり、その後の損益計算の観点からは、この投資原価を超えて回収できれば、その超過額が企業にとっての利益となる。

71. 投資の継続・清算という概念は、投資が実際に続いているのか終了したのかということではなく、会計上の利益計算において観念的に用いられている考え方であり、実現概念とも表裏の関係をなしている。実現概念の核心や本質をどこに見出すのかについては、これまでにもさまざまな議論が繰り返されてきたが、投資から得られる成果がその主要なリスクから解放されたかどうかに着目する考え方は、比較的有力なものと思われる。

事業投資に係る利益の計算においては、当該事業投資の担い手たる企業の期待(投資額を上回る資金の獲得)がどれだけ事実へと転化したのかに着目して成果をとらえることが適当である。ただし、事実への転化は、必ずしも資金それ自体の流入を意味するわけではなく、将来の環境変化や経営者の努力に成果の大きさが左右されなくなった場合や、企業が従来負っていた成果の変動性(すなわち事業投資のリスク)を免れるようになった場合には、投資は清算されたものとみなされ、事業投資の成果は確定したものといい得る。

このため、損益計算の観点からは、分離元企業や結合当事企業の株主にとって、事業分離や企業結合により従来の事業投資の成果が確定したものといえるのかどうかを考察することとなる。

72. 企業結合会計基準では、企業結合に該当する取引を対象とし、結合企業(分離先企業)を中心に結合当事企業の会計処理を定めている。結合企業(分離先企業)が、移転する事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額を引継ぐ場合(例えば、持分の結合と判定された企業結合の場合)、原則として、分離元企業が対価として受け取る分離先企業の株式等の取得原価は、当該適正な帳簿価額となるため、移転損益は生じないと考えられる。

一方、結合企業(分離先企業)が、取引時点の取得の対価となる財の時価をもって取得原価とする場合(取得と判定された企業結合の場合)でも、必ずしも、分離元企業が対価として受け取る分離先企業の株式等の取得原価をその時価とし、移転損益を認識することとなるとは限らない。これは、一般的な売買又は交換取引においても、例えば、売却代金の回収リスクが相当程度ある場合や売却後に重要な継続的関与がある場合のように、資産の譲受者が新規の購入として取得の対価となる財の時価をもって取得原価とする場合でも、それによって必ず資産の譲渡者が投資の清算として実現損益を認識するとは限らないことにも見られるものである。また、総体としての株主にとっての投資が継続しているかどうかの観点から、企業結合が取得又は持分の結合と判定されたことをもって、結合当事企業の個々の株主に係る会計処理が必ずしも決まるわけではない。これらは、各企業の会計処理が、取引の相手企業の会計処理と常に対称となるわけではなく、個々の企業の判断によって行われていることから生ずるものと考えられる。

このため、本会計基準では、結合企業(分離先企業)において取得と判定された企業結合(パーチェス法により会計処理する場合)であっても、必ずしも分離元企業が移転損益を認識するわけではなく、また、結合当事企業の株主が交換損益を認識するわけではないという考え方に立っている。

分離元企業の会計処理と結合当事企業の株主に係る会計処理の考え方の関係

73. 次のように、事業分離における分離元企業と、100%子会社を被結合企業とする企業結合における当該被結合企業の株主(親会社)とでは、経済的効果が実質的に同じであることから、両者の会計処理を整合的なものとすることが適当と考えられる。

(1) 事業分離は、分離元企業が100%所有(支配)する事業を分離先企業に移転し、当該分離元企業が対価を受け取る。

(2) 被結合企業の株式をすべて保有している場合(100%子会社を被結合企業とする場合)の企業結合は、当該被結合企業の株主(親会社)が子会社である被結合企業の株式を通じて100%所有(支配)する事業を結合企業に移転し、当該結合企業から対価を受け取る。

さらに、被結合企業の株主が親会社である場合には、被結合企業の株式をすべて保有しているとき(被結合企業が100%子会社の場合)でも、すべては保有していないとき(被結合企業が100%子会社以外の子会社の場合)でも整合的な会計処理とすることが適当と考えられる。

分離元企業の会計処理

分離元企業の会計処理の基本的な考え方

移転損益を認識するかどうかについて

74. 本会計基準では、一般に事業の成果をとらえる際の投資の継続・清算という概念に基づき、実現損益を認識するかどうかという観点から、分離元企業の会計処理を考えている。

これは、企業結合の会計処理を一般的な会計処理と整合させるために考えられた「持分の継続・非継続」という概念の根底にある考え方である(第69項参照)。分離した事業に関する投資が継続しているとみるか清算されたとみるかによって、一般的な売却や交換に伴う損益認識と同様に、分離元企業において移転損益が認識されない場合と認識される場合がある(第10項参照)。

75. 投資が継続しているとみるか清算されたとみるかを判断するためには、具体的に明確な事実として観察することが可能な要件を定める必要がある。企業結合会計基準では、企業結合における「持分の継続」を「対価の種類」と「支配」という操作可能な2 つの観点から判断することとしている(企業結合会計意見書 三 2.(1))ため、事業分離においても、これらを要件としてはどうかという意見がある。

しかしながら、事業分離の場合には、移転損益が認識されるかどうかが論点となるため、一般的な購入、売却や交換の会計処理と同様に、企業結合と事業分離の会計処理における観察可能な具体的要件が必ずしも同じになるとは限らない。

本会計基準では、企業結合会計基準と同様に、一般に事業の成果をとらえる際の投資の継続・清算という概念に基づいて、事業分離の会計処理を考えるものの、観察可能な具体的要件については、他の会計基準の考え方との整合性を踏まえると、対価が移転した事業と異なるかどうかという「対価の種類」は該当するが、「支配」については必ずしも該当しないため、企業結合会計基準と同じものとはならないと考えている。

76. さらに、一般的な売却や交換の会計処理に照らせば、例えば、買戻しの条件が付されている事業分離のように、継続的関与があり、それが重要である場合には、移転損益を認識することはできないと考えられる。分離先企業が子会社や関連会社にあたるかどうかを判断する際、持分比率以外の要素も加味するため、一定の継続的関与(例えば、分離元企業が分離した事業又は分離先企業に対して、多くの融資や重要な営業又は事業上の取引を行うことなど)は既に考慮されているものと考えられる。しかし、それ以外に、分離元企業の継続的関与がある場合には、移転損益の認識にあたり、実現概念や投資のリスクからの解放という考え方(第71 項参照)に照らして実質的に判断する必要がある。この結果、重要な継続的関与によって、移転した事業に係る成果の変動性を従来と同様に負っていると考えられる場合には、移転損益を認識することはできないこととなる(第10項(1)参照)。

もっとも、一般的な売却や交換と同じように、分離先企業の株式を子会社株式又は関連会社株式として保有するため、連結上は移転した事業に係る成果の変動性を従来と同様に負っていても、個別上、それ以外に分離元企業の重要な継続的関与がなく、現金等の財産を受け取る場合には、移転損益を認識することとなる。また、継続的関与があっても重要ではなく、移転損益を認識する場合もあるが、この場合には、当該継続的関与の主な概要を注記することが適当である(第28項(5)参照)。

なお、重要な継続的関与があるため、受取対価に現金を含むものの移転損益を認識しない場合には、移転した事業を裏付けとする金融取引として会計処理することとなると考えられる。

分離元企業における移転した事業に係る資産及び負債の帳簿価額

77. 分離元企業において、移転した事業に関する投資が清算されたとみる場合には、移転損益を認識し(第10 項(1)参照)、投資が継続しているとみる場合には、移転損益を認識せず、移転直前の適正な帳簿価額をそのまま投資原価とする(第10項(2)参照)。

いずれの場合においても、分離元企業において、事業分離により移転した事業に係る資産及び負債の帳簿価額は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した適正な帳簿価額であることが必要である。したがって、分離元企業は、重要な会社分割などの場合には、事業分離日の前日に決算又は仮決算を行い、適正な帳簿価額を確定させる必要がある。

78. さらに、事業分離における分離元企業の場合には、合併における被合併会社と異なり、事業分離日の前日における分離元企業の適正な帳簿価額を、事業分離により移転する事業に係る部分と分離元企業に残る部分とに分割計画や分割契約、事業譲渡契約に従い、適切に区分する必要がある。

79. 事業分離に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として処理する。これは、移転した事業に関する投資が継続しているとみる場合には、事業分離によって受け取る対価を構成しないと考えられること、また、投資が清算されたとみる場合でも、通常の売却に要した支出額は発生時の費用として処理することによる。

なお、移転した事業に関する投資が清算されたとみる場合において、移転した事業に係る支出ではなく、現金以外の財の受取りに直接要した外部への報酬・手数料等の支出であって、その取得の対価として認められる金額は、新たな投資に係る取得原価に含めるものと考えられる。

分離元企業において移転損益を認識する場合の時価

80. 分離元企業において、移転した事業に関する投資が清算されたと考えられる場合、通常、事業分離日において移転損益を認識する。この際、受取対価の金額の算定は、一般的な交換取引における考え方と同様に、その交換のために引き渡された財の時価と取得した財の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で測定される(企業結合会計意見書三 3.(2) @)。

81. 移転損益は事業分離日に認識するとしても、いつの時点の時価で測定すべきか、すなわち、売却価額といえる移転する事業の時価又は受取対価となる財の時価は、事業分離の合意公表日(事業分離の主要条件が合意され公表された時点)の時価で測定されるべきか、事業分離日の時価で測定されるべきかという論点がある。特に、分離元企業が対価として分離先企業の株式を受け取る場合においては、主要な交換条件が合意されて公表された時点での株価を用いるべきか、事業分離日の株価を用いるべきかが論点となる。

この点については、企業結合会計基準において示されている考え方(企業結合会計意見書 三 3.(2) B)と同様に、結合当事企業は、お互いの本来の事業価値等を適切に反映した結果として、企業結合の主要条件の合意に至っているのが通常であり、また、そのような合意内容が公表された後の受取対価の時価変動には、分離元企業が分離先企業に移転する事業の本来の価値とは必ずしも関係しない影響が混在している可能性もあることから、受取対価となる市場価格のある分離先企業の株式の時価は、原則として、事業分離の合意公表日の時価に基づいて算定する。

受取対価が現金等の財産のみである場合の分離元企業の会計処理

82. 第71項で示されたように、ある事象が生じたときに投資の清算とみるかどうかということは、投資が実際に終了したのかということではなく、会計上の利益計算において観念的に用いられている考え方であり、投資のリスクから解放されたかどうかによりとらえられてきたものと考えられる。この際、事業分離の対象となる事業への投資(事業投資)は、これまでの会計基準においても、事前に期待される成果がどれだけ事実へと転化したのかに着目して成果がとらえられており、事業分離により、企業が従来負っていた成果の変動性(すなわち事業投資のリスク)を免れるようになった場合に、投資は清算されたものとみなされる。このため、分離元企業が現金など、移転した事業と明らかに異なる財産を受取対価としてある事業を移転した場合には、通常、分離元企業の投資が清算されたとみなされる。

83. 事業分離において、分離先企業が子会社となる場合や子会社を分離先企業とする場合には、共通支配下の取引又はそれに準ずる取引となり、親会社の立場からは企業集団内における純資産等の移転取引として内部取引と考え、個別財務諸表の作成にあたっても、基本的には、企業結合の前後で当該純資産等の帳簿価額が相違することにならないよう、企業集団内における移転先の企業は移転元の帳簿価額により計上すること(企業結合会計意見書 三 5.(1))となる。したがって、共通支配下の取引又はこれに準ずる取引のうち、分離先企業の株式を受取対価とする場合には移転損益を認識しないものの、現金等の財産を受取対価とする場合において、分離元企業が受け取った現金等の財産の移転前に付された適正な帳簿価額が、移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額と異なるときには、当該差額を移転損益として認識せざるをえないこととなる(第14 項(1)参照)。

移転した事業と明らかに異なる現金等の財産のみを受取対価とし、関連会社へ事業分離する場合には、共通支配下の取引には該当しないため、子会社や関連会社以外へ事業分離する場合(第16 項参照)と同様に、分離元企業で受け取った現金等の財産は、原則として、時価で計上することが適当と考えられる。この結果、当該時価と移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額との差額は、分離元企業の個別財務諸表上、原則として、移転損益として認識する(第15項(2)参照)。

84. 分離元企業の連結財務諸表上、子会社や関連会社を分離先企業として行った事業分離により認識された移転損益を内部取引として消去するにあたっては、連結原則及び持分法会計基準第13項における未実現損益の消去に準じて処理する(第14項(2)及び第15項(2)参照)。この場合、分離元企業において、事業分離により移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額を算定するために生じた減損損失などの損益は、消去される内部取引に該当しないことに留意する。

受取対価が分離先企業の株式のみである場合の分離元企業の会計処理

85. 分離先企業の株式を受取対価とする事業分離は、現金等の財産のみを受取対価とする事業分離と異なり、当該株式を通じて移転した事業と引き続き関係を有することとなるため、投資の継続とみなされる可能性がある。

86. 分離元企業が分離先企業の株式を受け取る結果、持分比率等により、分離先企業は、分離元企業の子会社や関連会社となる場合がある。このため、本会計基準では、分離元企業の会計処理について、企業結合会計基準や連結原則、持分法会計基準による定めとの関係から、個別財務諸表上の取扱いと連結財務諸表上の取扱いをそれぞれ定めている。

分離先企業が子会社となる場合

(移転損益を認識するかどうかについて)

87. 分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離において、分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合、経済実態として、分離元企業における当該事業に関する投資がそのまま継続していると考えられる。したがって、当該取引において、移転損益は認識されず、当該分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定する(第17項(1)参照)。このような考え方は、次のように、企業結合会計基準においても、具体的に示されている。

(1) 新設分割による子会社の設立(企業結合会計意見書 三 5.)

(2) 現物出資又は吸収分割による子会社化の形式をとる企業結合(企業結合会計意見書三 3.(6)及び企業結合会計基準 三 2.(6)C)

(分離元企業の連結財務諸表上において生ずる差額について)

88. このように、分離先企業が子会社となる場合、親会社となる分離元企業において移転損益は認識されないが、分離元企業の連結財務諸表上、移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額による純資産額とこれに対応する分離元企業(親会社)の持分との間に差額が生ずる場合がある。

89. 当該差額については、次のような見方が考えられる。

(1) 事業分離によって分離先企業が新たな子会社となるため、企業結合時(支配獲得時)に生じたのれん(又は負ののれん)を構成するものとして取り扱う見方

(2) 事業は既に支配されているため、支配獲得後における子会社の時価発行増資等において生ずる持分変動差額として取り扱う見方

(1)の見方による場合、連結上のパーチェス法の適用につき、連結上、増加した少数株主持分の額を取得原価とすることとなるが、企業結合会計基準における取得原価の算定は、支払対価となる財の時価と取得した資産の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で測定されるため、当該差額は企業結合会計基準におけるのれんの定義を満たしていないと考えられる。

本会計基準では、(2)の見方(第17項(2)参照)、すなわち、企業結合会計基準の考え方に沿って、分離元企業における当該事業に関する投資が継続しているとみるとともに、連結原則に従い、支配獲得後に生じた当該差額は、子会社の時価発行増資等に伴い生ずる親会社持分の増減額(持分変動差額)として取り扱う(連結原則 第四 五 3)見方によっている。

また、この考え方は、既存の企業に事業分離し当該分離先企業が新たに子会社となる場合と、新設した子会社に事業分離し当該子会社が他の企業や他の企業の事業を受入れ親会社の持分比率が減少する場合とは、経済的に同一の効果となるため、同じような会計処理になることが適当であるという意見に基づくものである。

さらに、この考え方は、当該差額が、分離元企業の事業の時価に増加した少数株主の持分比率を乗じた額(分離元企業の事業が移転されたとみなされる額)と移転した事業に係る適正な帳簿価額による純資産額に増加した少数株主の持分比率を乗じた額(移転した事業に係る親会社の持分の減少額)との差額に等しくなるため、その部分がいわば少数株主に売却されたと言えるのではないかという意見にも対応するものである。このため、第17項(2)では、分離元企業の事業が移転されたとみなされる額と移転した事業に係る親会社の持分の減少額との間に生ずる差額については、持分変動差額として取り扱うものとした。

90. 連結原則では、持分変動差額は、原則として、損益として処理する(連結原則 第四 五 3)とされている。これは、「連結財務諸表上の払込資本は親会社の株主の払込資本のみであり、子会社の払込資本は連結上の払込資本を構成しないと解釈していることから、親会社の増減資によらないこのような差額は、連結剰余金を構成することになる。」(「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」(以下「連結意見書」という。)第二部 二5(2)B)と考えられていることによる。

ただし、「子会社の時価発行増資等による持分変動は企業集団の業績とは無関係であるとの意見があることに鑑み、発生の頻度、金額の異常性等を勘案して、利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがあると認められる場合には、連結剰余金に直接加減することができることとする。」(連結意見書 第二部 二 5(2)B)とされている。

これに対して、事業分離により分離先企業が子会社となる場合、分離元企業は、移転した事業に対して投資が継続しているとみているため、この立場を強調すれば、このような差額は、連結財務諸表上の利益剰余金に直接加減することが原則的な処理となるのではないかという見方もある。さらに、当該差額を利益剰余金に直接加減する場合、その後、子会社への投資が清算されたとみるときには、当該差額を損益に含める処理(例えば、子会社株式売却損益の修正とする。)が必要となるのではないかという見方もある。

これらを再検討することは、連結原則を大幅に見直すこととなるため、現段階において当該論点に関する検討は行わないこととし、本会計基準では、当該連結原則に従い会計処理するものとした。

91. 企業結合会計基準では、共同支配企業の形成の場合、持分プーリング法に準じた処理方法を適用することとし、また、共同支配企業を共同で支配する企業(投資企業)が、当該共同支配企業の形成にあたり事業を移転した場合には、当該共同支配企業に関する投資の取得原価(移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定する。)と、共同支配企業の資本のうち投資企業の持分比率に対応する部分との差額は処理しない(企業結合会計意見書 三 4.(7)及び企業結合会計基準 三3.(7))としている。

この会計処理と分離先企業が子会社となる場合における会計処理(第17項(2)参照)とは異なるが、共同支配企業の形成では、例外的に、連結原則と異なる会計処理として差額は処理しないこととしているものと考えられる。

(分離元企業の連結財務諸表上において取得が複数の取引により達成された場合のパーチェス法の適用について)

92. 事業分離前に分離元企業は分離先企業の株式を有しその他有価証券又は関連会社株式としているが、分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離により、分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合のように、取得又は支配が複数の取引により達成された場合、企業結合会計基準におけるパーチェス法の適用(企業結合会計基準 三2.)は、連結原則における全面時価評価法(連結原則 第四 二1(2))の適用と整合的ではあるが、部分時価評価法(連結原則 第四 二1(1))の適用とは整合的ではない。

しかしながら、企業結合会計意見書 三 1.では、一般的には連結原則にいう他の会社の支配の獲得も企業結合に含まれるが、連結原則に会計処理に関する定めがあるものについては、企業結合会計基準の対象取引から除くこととしたとされていることから、部分時価評価法か全面時価評価法かという子会社の資産及び負債の評価方法(連結原則 第四 二1及び第七 3(3))は、現金による取得を前提とした連結財務諸表上の会計処理の原則及び手続であり、それ以外による取得については企業結合会計基準によるものと解される。このため、本会計基準ではこの点を明確にした(第18 項(2)なお書き参照)。

(子会社への事業分離による分離先企業(子会社)の株式の追加取得について)

93. 分離先企業の株式(子会社株式)を受取対価とする子会社への事業分離は、企業結合会計基準の定めから、企業集団を構成する子会社の株主と子会社を支配している親会社との間の取引である少数株主との取引(企業結合会計意見書 三5.(2))に準じて処理することが考えられる。

この場合には、個別財務諸表上、子会社株式の取得原価は、当該株式の時価又は支出した対価となる財の時価で測定される(企業結合会計基準 三4.(2)@)ため、この金額と移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額による純資産額との差額は移転損益として計上されることとなる。

しかしながら、分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離により、分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合と同様に、分離先企業の株式(子会社株式)を追加取得する事業分離において、当該事業に関する投資は継続しているものとみなされ移転損益は認識されないと考えられることから、そのような会計処理は適当ではない。このため、分離元企業の個別財務諸表においては、共通支配下の取引と同様に移転損益は認識されず、追加取得した分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定する(第19項(1)参照)。

94. 一方、分離元企業の連結財務諸表上、事業分離前後の分離元企業(親会社)の持分は、一般に増減することとなる。このうち、分離先企業(子会社)に対して追加投資したとみなされる額と、これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(追加取得持分)との間に生ずる差額は、子会社株式の追加取得から生ずるものであり、企業結合会計基準における少数株主との取引(企業結合会計基準三4.(2)A)に該当するものである。したがって、少数株主との取引に準じ、その差額は、のれん(又は負ののれん)として処理することになる(第19項(2)@参照)。

また、それ以外の部分は、分離元企業(親会社)の事業が移転されたとみなされる額と、移転した事業に係る分離元企業(親会社)の持分の減少額との差額であって、既に支配されていた分離元企業(親会社)の事業に係る持分の減少額であり、支配獲得後における子会社の時価発行増資等において生ずる持分変動差額として取り扱う(第19項(2)A参照。この考え方については第89項も参照のこと。)。

95. このように、分離元企業(親会社)の連結財務諸表上、子会社への事業分離を少数株主との取引に準じて処理する場合には、事業分離により生ずる親会社の持分の差額は、のれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分して取り扱われることとなるが、のれん(又は負ののれん)の金額に重要性が乏しいと考えられる場合のほか、分離元企業である親会社が移転した事業の時価又は分離先企業の株式(子会社株式)の時価の算定が困難な場合には、当該差額をまとめて持分変動差額とすることができる(第19項(2)また書き参照)。

これは、子会社への事業分離は、完全な独立第三者間の事業分離ではないことに加え、全面時価評価法の場合には、追加取得の場合にも子会社の資産及び負債を時価で評価しないことなどから、実務上、分離元企業である親会社が移転した事業の時価又は分離先企業の株式(子会社株式)の時価の算定が困難な場合にまで、これらの時価を用いる必要はないと考えられることによる。

分離先企業が関連会社となる場合

(移転損益を認識するかどうかについて)

96. 分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離において、分離先企業が新たに関連会社となる場合、分離元企業による当該事業に関する投資は清算されたものとみて移転損益を認識するという見方と、投資が継続しているものとみて移転損益を認識しないという見方がある。

97. 投資の清算に該当するという見方は、次のような理由によるものと考えられる。

(1) 事業分離により分離先企業の株式(子会社株式)を受け取る場合とは異なり、この場合には、分離元企業の事業の多くと分離先企業の事業の多くとが引き換えられるため、事前に期待していた当該投資の成果が事実に転化されたとみることができる。

(2) 移転された事業に関する分離元企業の支配が失われることをもって投資の清算と考えることは、支配をより重視する最近の国際的な動向にも配慮した企業結合会計基準の考え方にも沿っている。

(3) 事業分離により分離先企業が関連会社となる場合には、分離先企業のこれまでの株主が、総体として当該事業を支配することとなるため取得と判断される。分離先企業において取得と判断されるときに、分離元企業において売却とすることは理解しやすい。

(4) 投資の継続とみる場合、新たに関連会社となる事業分離のみならず、関連会社への事業分離による関連会社株式の追加取得でも移転損益は生じないこととなるが、企業結合会計基準では、共通支配下の取引についてのみ、特段の定めをしているにすぎない。

98. これに対し、本会計基準では、次のような理由から、投資の継続に該当するという見方によっている(第20項(1)参照)。

(1) 関連会社株式は、関連会社への影響力の行使を目的として保有することから、子会社株式の場合と同じく事実上の事業投資と同様の会計処理を行うこととされている(「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「金融商品会計意見書」という。)V 四2(3)A)(金融商品会計基準第74項)。これを踏まえれば、事業分離により、移転された事業に対する支配は失われているが、関連会社への影響力の行使を通じて、子会社と同様に、移転された事業に関する事業投資を引き続き行っているとみることができることから、当該事業に関する投資が継続していると考えられることとなる。

(2) 事業分離により分離先企業が子会社となる場合と関連会社となる場合には、分離元企業の事業の一部と分離先企業の事業の一部が引き換えられる程度が、基本的に過半になるか否かに違いがある。いずれの場合も投資のリスクは変質しているものの、過半になるか否かという程度によって、事前に想定されていた当該投資の成果がリスクから解放され、期待に対応する事実が生じたと言える積極的な理由はない。また、移転された事業に対する分離元企業の支配(事業の財務及び経営方針を左右する能力)が失われることをもって投資の清算と考えることは、事前の期待が支配自体にあった場合には該当するが、移転された事業の活動から便益を享受することが事前の期待であれば、支配の有無は投資の清算を考える際の絶対的な要件とは言えない。

むしろ、現行の会計基準等における考え方からは、事業分離により子会社株式を保有する場合と同様に関連会社株式の保有によっても、その投資の性質は変わらないものとみて、移転された事業に関する投資が継続していると考える方が適当と考えられる。

(3) 分離先企業において取得のときに分離元企業において売却と解することは理解しやすいが、もともと分離先企業の取扱いにより分離元企業の会計処理が必ずしも決まる必要はない。

(4) 企業結合会計基準では、共通支配下の取引を定めているが、これと矛盾した考え方でない限り、企業結合会計基準が他の取扱いを妨げているわけではないため、第97項(4)のような指摘はあたらない。

99. 事業分離により分離先企業が新たに関連会社となる場合における分離元企業の会計処理は、現行の会計基準等における考え方を踏まえれば、事業分離により分離先企業が新たに子会社となる場合と同様に、移転された事業に関する投資が継続しているとみることが適当と考えられる。

すなわち、現行の金融商品会計基準において、関連会社株式は、子会社株式の場合と同じく事実上の事業投資と同様の会計処理を行うことが適当であるため、取得原価をもって貸借対照表価額とすること、現行の連結原則や持分法会計基準等において、持分法は、一行連結といわれるように、その当期純利益及び純資産に与える影響は同一であり、連結(完全連結)のいわば簡便的な会計処理であるととらえられていることから、事業分離において、分離先企業が新たに関連会社となる場合には、子会社となる場合と同様に、投資は継続しているとみる考え方が整合的である。

100. この論点は、現行の会計基準等との整合性を重視するか、それよりも、移転された事業に対する分離元企業の支配の喪失が、当該事業投資のリスクから解放され、移転損益を認識するという不可逆的な成果が得られた状態を指すものと考えられるかどうかという問題ともいえる。

もし、支配の喪失によって移転損益を認識することが、事業分離を伴う投資の実態や本質であると判断された場合には、その考え方を通じ、前述したような持分法の位置付けや関連会社株式の貸借対照表価額等、他の会計処理を今後、これと整合的になるよう改廃していくことが考えられる。

事業分離の会計処理を考えるにあたっては、移転された事業に対する分離元企業の支配が継続しているか失われたかが最も重要であるという立場も有力であるが、本会計基準では、その立場をとってまで他の会計基準等を含む体系に影響を与える意義は薄いという考え方により、必ずしも支配が失われることをもって投資の清算とみることとはしていない。

(分離元企業の連結財務諸表上において生ずる差額について)

101. 投資の継続に該当するという見方において、分離元企業の連結財務諸表上、持分法適用により、関連会社に係る分離元企業の持分の増加額と、移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額との間に生ずる差額については、次のような考え方がある。

(1) 当該差額は、のれん(又は負ののれん)とする。

(2) 当該差額は、持分変動差額とする。

(3) 当該差額のうち、移転した事業に係る分は持分変動差額として、持分が増加した事業に係る分はのれん(又は負ののれん)とする。

本会計基準では、(3)の見方が適当であると考えている(第20 項(2)参照)。これは、事業分離により分離先企業が新たに分離元企業の関連会社となる場合は、新たに子会社となる場合と同様に、移転した事業に係る差額は持分変動差額とすることが整合的であり、また、持分法適用(原則として、部分時価評価法の原則法による。)において、持分が増加した事業に係る差額はのれん(又は負ののれん)とすべきことによる。

102. 前項の会計処理と、企業結合会計基準における共同支配企業の形成における会計処理とは異なる。共同支配企業の形成の場合には、共同支配企業を共同で支配する企業は、連結原則と異なる会計処理として、当該差額は処理しないこととしているが、それは例外的処理として、企業結合会計基準において特段の定めがなされているものと考えられる(第91項参照)。

103. 事業分離により分離先企業が新たに分離元企業の関連会社となる場合に、分離元企業の連結財務諸表上、共同支配企業の形成以外の企業結合であるが持分の結合と判定されたときには、当該関連会社に関する投資の取得原価(移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定する。)と、関連会社の資本のうち分離元企業の持分比率に対応する部分との差額については、共同支配企業の形成と同様に、当該差額は処理しないこととするという考え方がある。

しかしながら、分離先企業の株式のみを受取対価とする企業結合が持分の結合と判定された場合には、共同支配企業の形成に該当しないため、企業結合会計基準に基づき共同支配企業の形成とはせず、事業分離により分離先企業が新たに分離元企業の関連会社となる場合の会計処理を行うこととなる(第20項(2)参照)。

分離先企業が子会社や関連会社以外となる場合

104. 分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離により分離先企業が子会社や関連会社以外となる場合(共同支配企業の形成の場合を除く。)、分離元企業の財務諸表において、分離先企業の株式はその他有価証券に分類されることとなる。

事業分離により受け取る分離先企業の株式が子会社株式や関連会社株式に分類される場合、支配又は重要な影響により、移転した事業を含む当該株式の保有を通じて、移転した事業に関する事業投資としての性格が継続しているとみるが、その他有価証券に分類されることとなる場合には、これとは異なり、もはや移転した事業に関する投資は継続していないものとみて、原則として、移転損益を認識する(第23項参照)。

受取対価が現金等の財産と分離先企業の株式である場合の分離元企業の会計処理

分離先企業が子会社となる場合

105. 事業分離の受取対価が分離先企業の株式のみであり、分離先企業の株式が子会社株式となるときには、移転損益が認識されない。しかし、分離先企業が子会社となる場合において、受取対価に現金等の財産を一部含む場合に移転損益を認識するかどうかについては、一般的な売却や交換の会計処理と同様に、次のような考え方がある。

(1) 投資が継続しているとみるためには、受取対価のすべてが、原則として、分離先企業の株式であることが要件となるという考え方(したがって、受取対価に現金等の財産が含まれている場合には、原則として、移転損益が認識されることになる。)(第106項参照)

(2) 投資が継続しているとみるためには、受取対価に含まれる現金等の財産が一定の割合以下であることが要件となるという考え方(したがって、受取対価のうち現金等の財産が一定の割合を超える場合には、移転損益が認識されることになる。)(第107項参照)

(3) 投資が継続しているかどうかは、受取対価の種類ごとに区別して判断するという考え方(したがって、受取対価のうち、分離先企業の株式に対応する部分は移転損益が認識されず、受取対価が現金等の財産に対応する部分は移転損益が認識されることになる。)(第108項参照)

106. 企業結合会計基準では、持分の結合と判定されるための要件として、対価の種類の観点からは、企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であることとしている(企業結合会計基準 三 1.(1)@)。この点を考慮すると、分離元企業において投資が継続しているとみるためには、第105項(1)のように、受取対価のすべてが分離先企業の議決権のある株式であることが要件となるという考え方が整合的である。

107. しかしながら、一般的な売却や交換の会計処理に照らせば、事業分離の場合には、第105項(2)のように、受取対価に現金等の財産が含まれていても、それが一定の割合以下の場合、移転損益は認識されないという会計処理が考えられる。もっとも、一定の割合以下とはどの程度を指すか、共通支配下の取引にあたる場合に現金等の財産が一定の割合を超えれば当該現金等の財産を時価とすることは企業結合会計基準の定めとは異なるのではないかという問題がある。

108. 第105項(1)や(2)は、受取対価に現金等の財産が、少しでも含まれているか一定割合以上含まれているかという違いはあるが、投資の清算とみる場合には一括して移転損益を認識し、投資の継続とみる場合には移転損益をまったく認識しないという点では共通である。

これに対し、第105項(3)のように、受取対価の種類ごとに区別し、受取対価のうち現金等の財産に対応する部分について移転損益を認識する場合には、現金等の財産の比率に応じて移転損益が認識されることとなる。しかしながら、このような会計処理は必ずしも一般的ではない。また、この場合には、取得した分離先企業の株式の取得原価が、移転損益の認識に応じて増減し、共通支配下の取引にあたる場合には、移転された資産及び負債の適正な帳簿価額による純資産額に基づいて算定されたとは言えないため、企業結合会計基準の定めと異なるのではないかという問題がある。

109. 本会計基準では、これらの考え方ではなく、まず、企業結合会計基準における共通支配下の取引の会計処理の定めに従い、現金等の財産と分離先企業の株式を受取対価とする事業分離において、分離先企業が子会社となる場合や子会社へ事業分離する場合、分離元企業が受け取った現金等の財産は、移転前に付された適正な帳簿価額により計上するものとした。次に、分離元企業が受け取った現金等の財産の移転前に付された適正な帳簿価額が、移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額を上回る場合には、当該差額を移転利益として認識するものとした(第24項(1)参照)。

これは、分離先企業の株式を受け取っていることや共通支配下の取引であることから積極的に損益を認識するわけではないが、移転した事業と明らかに異なる現金等の財産も受け取っているため、子会社株式の保有以外に重要な継続的関与(第76項参照)がない限り、移転利益とするという考えによるものである。

なお、受け取った現金等の財産の価額が移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額を下回る場合に生ずる差額は、共通支配下の取引の会計処理の定めに従い、分離先企業の株式の取得原価とすることとなる(第24項(1)参照)。

このような取引の場合には、移転損失は生じないこととなるが、事業分離直前に移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額を算定するにあたって、分離元企業は、減損損失等を適切に計上する必要があることに留意する。また、適正な帳簿価額を算定するために計上された減損損失等は、分離元企業の連結財務諸表上、消去される内部取引に該当しない。

分離先企業が関連会社となる場合

110. 本会計基準では、受取対価が分離先企業の株式のみであって、分離先企業が関連会社となる場合や関連会社へ事業分離する場合には、投資は継続しているものとみている。現金等の財産と分離先企業の株式を受取対価とする事業分離においても、その考え方を踏まえているが、この場合には共通支配下の取引にあたらないため、分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、時価で計上することが適当と考えられる。この結果、当該現金等の財産の時価が、移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による純資産額を上回る場合には、原則として、当該差額を移転利益として認識する(第25項(1)参照)。

開 示

損益計算書における表示

111. 移転損益は、通常、臨時的に生ずる損益であるため、原則として、特別損益に計上する。

注記事項

112. 諸外国の会計基準では、損益計算書上、過年度分も含めて、分離した事業に係る損益を非継続事業による損益として区分掲記することが求められている。我が国においては、財務諸表の開示が1年を単位として独立しており過年度の修正再表示の慣行はないこと等を考慮して、本会計基準では、当期の損益計算書に計上されている分離した事業に係る損益の概算額を注記するものとした(第28項(4)参照)。

なお、本会計基準は、その適用範囲を超えて、事業分離前後の比較可能性を高める追加的な情報を任意で開示することを妨げるものではない。

113. 分離元企業は、継続的関与があるものの移転損益を認識した場合、継続的関与が軽微であるものを除き、当該継続的関与の主な概要を注記することが適当と考えられる(第28項(5)参照)。なお、継続的関与があり、それが重要である場合には、移転損益を認識することはできないと考えられることに留意する(第76項参照)。

資産の現物出資等における移転元の企業の会計処理

114. 財を受入れ自社の株式を引き渡す場合には、受入れた財が資産であれば、のれん(又は負ののれん)は計上されないが、事業であれば企業結合となり、通常、のれん(又は負ののれん)が計上されることとなる。しかしながら、財を移転し移転先の企業の株式を受け取る場合には、移転した財が資産か事業かの相違によって、移転元の企業の会計処理が大きく異なる理由は見当たらない。

また、各企業の会計処理は、取引の相手企業の会計処理と常に対称となるわけではなく、個々の企業の判断によって行われる。このため、移転元の企業の会計処理と移転先の企業の会計処理とは、必ずしも対称的になる必要はないと考えられる。

したがって、現物出資や現金以外の財産による移転先の自己株式の処分により、資産を移転し移転先の企業の株式を受け取る移転元の企業の会計処理は、事業分離に該当しない場合であっても、共通支配下の取引の会計処理を含む事業分離における分離元企業の会計処理に準じて行うことが適当であると考えられる。

結合当事企業の株主に係る会計処理

被結合企業の株主に係る会計処理の基本的な考え方

交換損益を認識するかどうかの判定

115. 本会計基準では、一般に事業の成果をとらえる際の投資の継続・清算という概念に基づき、実現損益を認識するかどうかという観点から、分離元企業の会計処理(第74項参照)と同様に、被結合企業の株主に係る会計処理を考えている。したがって、企業結合により、保有していた被結合企業の株式が、結合企業の株式などの財と引き換えられた場合に、その投資が継続しているとみるか清算されたとみるかによって、被結合企業の株主に係る会計処理でも、一般的な売却や交換に伴う損益認識と同様に、交換損益が認識されない場合と認識される場合が考えられる(第32項参照)。

なお、金融商品会計基準では、金融資産の交換について直接取り扱ってはいないが、金融資産の譲渡に係る消滅の認識は財務構成要素アプローチによること(金融商品会計意見書 V 二2(2))(金融商品会計基準第57項及び第58項)とされている。株式は金融資産であることから、金融商品会計基準との関係も考慮する必要がある。

被結合企業の株主において交換損益を認識する場合の時価

116. 被結合企業の株主において、保有していた株式に関する投資が清算されたと考えられる場合、通常、企業結合日において交換損益を認識する。この際、受取対価の金額の算定は、一般的な交換取引における考え方と同様に、引き渡された被結合企業の株式の時価と取得した結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で測定される(企業結合会計意見書 三 3.(2) @)。

117. 交換損益は企業結合日に認識するとしても、企業結合の合意公表日の時価で測定されるべきか、企業結合日の時価で測定されるべきかという論点がある。本会計基準では、結合企業や分離元企業の会計処理と同様にとらえ、原則として、企業結合の合意公表日の時価に基づいて算定するものとした。

受取対価が現金等の財産のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

118. 事業分離における分離元企業の会計処理と同様に、当該株主が保有していた被結合企業の株式がそれとは明らかに異なる現金等の財産と引き換えられた場合、通常、被結合企業の株主の投資が清算されたとみなされる(第35項から第37項参照)。

また、株主が投資先から現金等の財産を受け取る場合には、投資の清算とみるか投資の継続とみたうえで投資成果の分配とみるかという論点がある。企業結合により、保有していた被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、投資先自体が企業結合により消滅し、被結合企業の株主は現金等の財産を受け取り、保有していた株式と引き換えられるものであるため、一般的には、投資が清算されたとみなされる。

119. 事業分離(第76項参照)と同様に、例えば、被結合企業の株式を買戻す条件が付されているときのように、被結合企業の株主の継続的関与があり、それが重要であるため、交換した株式に係る成果の変動性を従来と同様に負っていると考えられる場合には、交換損益を認識することはできない。結合後企業が子会社や関連会社にあたるかどうかを判断する際、持分比率以外の要素も加味するため、一定の継続的関与は考慮されるものと考えられるが、継続的関与には様々な態様があるため、交換損益の認識にあたっては、実現概念や投資のリスクからの解放という考え方(第71項参照)に照らして実質的に判断する。

受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

120. 被結合企業の株主が保有していた被結合企業の株式は、企業結合により、現金等の財産のみと引き換えられるよりも、結合企業の株式と引き換えられることが多く、この場合には、当該株式を通じて引き換えられた株式と引き続き関係を有することとなるため、投資の継続とみなされる可能性がある。

121. 本会計基準では、結合当事企業が子会社又は関連会社の場合における被結合企業の株主に係る会計処理については、個別財務諸表上の取扱いと連結財務諸表上の取扱いをそれぞれ定めている。

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

122. 事業分離における分離元企業と、100%子会社を被結合企業とする企業結合における当該被結合企業の株主(親会社)とでは、経済的効果が実質的に同じであることから、これらの会計処理は整合的であることが適当と考えられる。その上で、被結合企業の株式をすべて保有している場合(被結合企業が100%子会社の場合)と整合性を保つように、被結合企業の株式のすべては保有していないが子会社である場合(被結合企業が100%子会社以外の子会社の場合)において、被結合企業の株主に係る会計処理を考慮することが適当と考えられる(第73項参照)。

123. 金融商品会計基準では、被結合企業の株主の個別財務諸表上、子会社株式は金融資産としており、当該金融商品会計基準による会計処理との関係では、企業結合により、保有していた子会社株式の消滅を認識し、対価として受け取る結合企業の株式は、新たな資産又は残存部分として取り扱われる(金融商品会計基準 第二 二3第11項から第13項。当該結合企業の株式は、交換損益が認識される場合には新たな資産として、交換損益が認識されない場合には残存部分として取り扱われることとなる。

関連会社を被結合企業とした企業結合の場合

124. 企業結合前に被結合企業の株主が結合企業の株式を有していないものとすると、企業結合により、被結合企業の株主の結合後企業に対する持分比率は、従来の被結合企業に対する持分比率より減少する。このため、被結合企業がその株主の関連会社であった場合、当該株主にとって結合後企業は、関連会社になる場合(第40項参照)もあるが、関連会社に該当しない場合(第41項参照)もある。このような場合に、被結合企業の株主の投資は清算されたとみるか継続しているとみるかが論点となる。

なお、被結合企業が関連会社であった場合、被結合企業の株主は、もともと当該被結合企業を支配していないため、支配の有無をもって投資の継続にあたるかどうかを判断することはできない。

125. 受取対価が現金等の財産であれば、一般に、重要な継続的関与がない限り、期待が事実に転化したと考えられ、損益が認識される。しかしながら、他の財との引き換えがあっても、以前と同様の資産を獲得した場合には、期待が事実に転化していないと判断され、損益は認識されない。このような例は、次のような場合に見られる。

(1) 一般的な非貨幣財同士の交換において、獲得したのは同種の資産の場合

(2) 金融商品会計基準における消滅の認識において、受取対価が残存部分の場合このような他の会計処理に鑑み、本会計基準では、これまでの被結合企業の株式への投資の性格が、企業結合により、当該被結合企業を含む結合後企業の株式と引き換えられたことによっても同じであるかどうか、具体的には、事業投資と同様の性格を引き続き有しているか否かによって判断することとした。これは、収益認識の有力な考え方である投資のリスクからの解放、すなわち、企業の期待がどれだけ事実に転化したのかに着目して成果をとらえる考え方に通ずるものである。

126. 関連会社株式は、子会社株式の場合と同じく事実上の事業投資と同様の会計処理を行うこととされている(金融商品会計意見書 V 四2(3)A)(金融商品会計基準第74項)。このため、企業結合により、関連会社である被結合企業の株式が当該被結合企業を含む結合後企業の株式と引き換えられたことによっても、結合後企業が関連会社である場合には、当該株式を通じて、被結合企業に関する事業投資を引き続き行っているとみられることから、交換損益は認識されないことが考えられる。

もっとも、関連会社という分類は同じであっても、まったく異なる事業を営んでいたりその規模が大きく異なったりするなどのために、異種の資産と引き換えられたと考えられるときがあるのではないかという意見がある。しかしながら、金融商品会計基準では、子会社株式の場合と同じく事実上の事業投資と同様の会計処理を行うこととされている。企業結合の前後で子会社である場合には、その株主は被結合企業に関する事業投資を引き続き行っており、したがって、投資が継続しているとみるものとすれば、被結合企業がその株主の関連会社であって当該株主にとって結合後企業は関連会社である場合にも同様に考え、交換損益は認識されないものとみることとなる(第40項参照)。

127. 一方、本会計基準では、企業結合により、関連会社である被結合企業の株式が当該被結合企業を含む結合後企業の株式と引き換えられたことによって、結合後企業は関連会社に該当しないこととなる場合には、もはや被結合企業に関する事業投資は継続していないものとみて、交換損益を認識することとした(第41項参照)。

128. なお、被結合企業の株主にとって、当該企業結合の前後において投資の継続にあたるかどうかについては、次のように他にもいくつかの判断規準が考えられるが、本会計基準では必ずしも適当とは考えていない。

(1) 被結合企業が被取得企業であるかどうか

これは、結合当事企業が取得企業となる場合と被取得企業となる場合の会計処理とに整合性をもたせ、取得企業の株主は交換損益を認識しないが、被取得企業の株主は交換損益を認識することとなるという考え方である。

しかしながら、企業結合において取得か否かを区別する持分の継続・非継続という考え方は、企業結合の会計処理に固有のものではなく、むしろ一般に事業の成果をとらえる際の投資の継続・清算と整合した概念であり、実現概念に通ずる考え方である(第69項及び第71項参照)。また、一般的な売買又は交換取引において、資産の譲受者と譲渡者が必ず対称的に会計処理を行うとは限らない。このため、取得にあたる事業分離において、分離元企業が移転損益の認識を行うとは限らないし、同様に、結合当事企業の個々の株主が交換損益の認識を行うとは限らない。個々の株主の会計処理は、総体としての株主ではなく、個々の株主の観点から別途、判断することが適当と考えられる(第72項参照)。

(2) 事業に連続性があるかどうか

これは、個々の株主の会計処理は、個々の株主の観点から、一般の非貨幣財同士の交換や金融商品会計基準に照らして、被結合企業の事業と結合企業の事業に連続性があるかどうか(事業の継続)により判断する考え方である。

しかしながら、投資先が大規模な事業の入れ替え等を行い、事業に連続性がない場合でも、株式が引き換えられないときには、通常、株主は損益を認識しないこと、また、株式が引き換えられた場合でも、個々の株主が、投資先の事業に連続性があるかどうかを判断することが可能かどうかなどの問題があると考えられる。

129. また、現行の金融商品会計基準の適用においては、子会社株式又は関連会社株式の売却により持分比率が減少し、子会社株式又は関連会社株式に該当しなくなった場合(子会社株式又は関連会社株式からその他有価証券)には,帳簿価額をもって変更後の区分に振り替えることから、子会社又は関連会社である被結合企業の株式が当該被結合企業を含む結合後企業の株式と引き換えられたことによって、結合後企業が子会社や関連会社に該当しないこととなっても、交換損益は認識されないのではないかという意見がある。

しかしながら、株主が同一の株式を売却し持分比率が減少した場合と、投資先の企業が他の企業又は事業を受入れたことに伴い持分比率が減少した場合とは、必ずしも同じ状況ではないため、同じ会計処理を行う必要はないものと考えられる。本会計基準では、子会社又は関連会社の企業結合により、被結合企業の株式が当該被結合企業を含む結合後企業の株式と引き換えられたことによって、子会社株式又は関連会社株式に該当しなくなった場合には、異種の資産と引き換えられたものとみなして、交換損益を認識するものとした。

子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合の場合

130. 企業結合前に被結合企業の株主が結合企業の株式を有していないものとすると、企業結合により、被結合企業の株主の結合後企業に対する持分比率は、従来の被結合企業に対する持分比率より減少する。このため、被結合企業がその株主の子会社や関連会社以外の投資先であった場合、当該株主にとって結合後企業の株式は、引き続き、子会社株式や関連会社株式に該当しないこととなる(その他有価証券からその他有価証券)。

131. 本会計基準では、被結合企業がその株主の子会社や関連会社以外の投資先であった場合において、当該企業結合が被結合企業の株主にとって投資の継続にあたるかどうかにつき、被結合企業が関連会社であった場合(第125項参照)と同様に、企業結合により被結合企業を含む結合後企業の株式と引き換えられたことによっても、これまでの被結合企業の株式(その他有価証券)への投資の性格が同じと考えられるかどうかによって判断することを考えている。

この場合、企業結合によって持分比率が減少しても、被結合企業の株主は、当該被結合企業を含む結合後企業の株式(その他有価証券)の保有を通じた投資を行っている。それは、売買目的有価証券(金融投資)と子会社株式及び関連会社株式(事業投資)との中間的な性格を有するものとしてとらえられており(金融商品会計意見書 V 四2(4)@)(金融商品会計基準第75項)、当該企業結合によって、企業が事前に考えていた当該投資の成果が期待されていたような結果になったとは必ずしも言えないため、交換損益を認識しないことが考えられる。

132. さらに、企業結合により、被結合企業の株式が、仮に異種の資産と考えられる結合企業の株式と引き換えられたときでも、その他有価証券に分類している場合には、当該被結合企業の株主自身の積極的な意思によるものとは言い難いため、実務上、交換損益を認識することは適当ではないという考え方がある。

133. これらの考え方に対して、その他有価証券という分類は同じであっても、株式自体の流動性が大きく異なっていたり株式を通じた業務上の関係等が変化したりするなど、異種の資産と引き換えられたと考えられるときがあるのではないかという意見がある。これは、その他有価証券が、業務上の関係を有する企業の株式等から市場動向によっては売却を想定している有価証券まで多様な性格を有しており、保有目的等自体も多義的であり、かつ、変遷していく面があること等から、金融投資と事業投資との中間的な性格を有するものとして一括してとらえられており、様々な性格を有することによるものである。

しかしながら、金融商品会計基準では、その多様な性格に鑑み保有目的等を識別・細分化する客観的な基準を設けることが困難であるため、一括してその他有価証券としており、改めて、個々の保有目的等に応じてその性格付けをさらに細分化してそれぞれの会計処理を定めることは容易ではない。さらに、いわゆる財務構成要素アプローチが採られている現行の金融商品会計基準の適用において、被結合企業の株式をその他有価証券とし、結合後企業の株式がその他有価証券とされる場合でも、結合後企業の株式を新たな資産とはせず、したがって、損益は認識されていないと考えられる。

134. また、結合当事企業が取得企業となる場合と被取得企業となる場合との会計処理に整合性をもたせ、取得企業の株主は交換損益を認識しないが、被取得企業の株主は交換損益を認識するという意見もある。しかし、第128項(1)にて示されたように、個々の株主の会計処理は、総体としての株主ではなく、個々の株主の観点から別途、判断することが適当と考えられる。この際、取得企業となる場合でも被取得企業となる場合でも、個々の株主にとって投資のリスクは変質しているものの、その他有価証券に分類した投資先が他社を取得したか他社に取得されたかによって、個々の株主の期待に対応する事実が生じたと言えるかどうか疑問と考えられる。

135. 本会計基準では、これらを総合的に考え、企業結合によって被結合企業の株式が、当該被結合企業を含む結合後企業の株式と引き換えられたことによっても、結合後企業の株式がその他有価証券という同じ分類となる場合には、その投資の性格に変化がないとみて、投資の継続に該当するものとしている。

なお、引き換えの前後においてその他有価証券という同じ分類となる場合でも、企業結合とは別に、単純な株式同士の交換のように、ある企業の株式が他の企業の株式と引き換えられた場合には、異種の資産を受け取ったものとみて投資の清算に該当すると考え、通常、交換損益が認識されるものと考えられる。

受取対価が現金等の財産と結合企業の株式である場合の被結合企業の株主に係る会計処理

136. 被結合企業の株式が、結合企業の株式と引き換えられる場合であっても、分離元企業の会計処理と同様に、受取対価に現金等の財産が一部含まれているときの被結合企業の株主に係る会計処理には、いくつかの考え方がある。

137. 子会社株式や関連会社株式は、金融商品であるものの事業投資と同様の性格を有しているため、金融商品会計基準の定めにかかわらず、これらを被結合企業とする企業結合により、その株式が引き換えられた場合の会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理と整合的に行うことが適当と考えられる(第45項及び第46項参照)。

138. これに対して、子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とする企業結合により、子会社株式や関連会社株式以外の被結合企業の株式が引き換えられた場合は、金融商品会計基準に準じて処理することが適当と考えられる(第47 項参照)。

結合企業の株主に係る会計処理

139. 結合当事企業の株主のうち、結合企業の株式を保有している株主は、企業結合によっても当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合に伴い、当該結合企業に対する持分比率が変動する。この場合における結合企業の株主に係る会計処理は、連結原則や金融商品会計基準等に従えば、次のように考えられる。

(1) 結合企業の株主の個別財務諸表

結合企業の株主が結合企業を子会社としていたが、企業結合により当該株主(親会社)の持分比率が減少し子会社に該当しなくなった場合には、結合企業の株主の個別財務諸表上、子会社株式から関連会社株式やその他有価証券に取得原価で振り替え、損益を認識しない。

また、結合企業の株主が結合企業を関連会社としていたが、企業結合により当該株主(投資会社)の持分比率が減少し関連会社に該当しなくなった場合には、関連会社株式からその他有価証券に取得原価で振り替え、損益を認識しないこととなる。

(2) 結合企業の株主の連結財務諸表

結合企業の株主が結合企業を子会社としており、企業結合により当該株主(親会社)の持分比率が減少した場合、親会社の持分の一部が少数株主持分に振り替わることから生ずる差額は、持分変動差額として処理することとなる。

また、結合企業の株主が結合企業を関連会社としており、企業結合により当該株主(投資会社)の持分比率が減少した場合、連結上の処理と同様に、投資会社の持分の一部が他の持分に振り替わることから生ずる差額は、原則として、持分変動差額として処理することとなる。

これらの会計処理は、企業結合によっても結合企業の株主においては、結合企業の株式を直接、他の財とは引き換えられないことを前提としているように考えられる。

140. これに対し、個々の株主にとっては、企業結合により、被結合企業の株主が新たに結合企業の株主となっても、引き続き結合企業の株主であっても、同様の経済的効果を有する場合がある。例えば、子会社であった被合併会社が合併により消滅し、被合併会社の株主は新たに合併会社を関連会社とする場合と、子会社であった合併会社が、合併により持分比率が減少し関連会社となった場合とは、結合当事企業の株主にとって、それぞれの合併による経済的効果は実質的に同じであるものと考えられる。このような場合には、被結合企業の株主に係る会計処理と結合企業の株主に係る会計処理とは、同様になるべきであると考えられる。このため、結合企業の株主に係る会計処理は、被結合企業の株主に係る会計処理に準じて行うものとした(第48項参照)。

分割型の会社分割における分割会社の株主に係る会計処理

141. 分割型の会社分割では、分割会社の株主が保有していた分割会社の株式は、新設会社又は承継会社の株式と直接引き換えられない。このため、当該分割会社の株主は、被結合企業の株主には該当しない。しかしながら、分割会社の株主が新たに取得した新設会社又は承継会社の株式は、分割会社の事業が新設会社又は承継会社に移転されたことにより受け取るものと考えられる。したがって、被結合企業の株主に準じ、これまで保有していた分割会社の株式と実質的に引き換えられたものとみなすことが適当であると考えられる。

その上で、分割会社の株主が保有していた分割会社の株式に関する投資が清算されたとみる場合には、交換損益を認識し、投資が継続しているとみる場合には、交換損益を認識しないこととなる(第49項参照)。

142. 株主が、投資先から現金等の財産を受け取った場合、一般に、当該投資が清算されたとみて損益が認識される場合のほか、投資が継続しているとみるときにおいて、投資先から投資成果の分配を受けたとみなされ損益が認識される場合がある(第144項また書き参照)。

しかしながら、分割型の会社分割において、分割会社の株主が新設会社又は承継会社の株式を受け取ることは、投資先である分割会社の事業分離により、投資先から財産を受け取ることを意味し、投資先から投資成果の分配を受けたものとはみなされない。このため、投資が継続しているとみる場合には、交換損益を認識しないこととなる。

現金以外の財産の分配を受けた場合の株主に係る会計処理

143. 株主が現金以外の財産の分配を受けた場合、これまでの現金配当の実務にあわせた処理を考慮すれば、当該株主の会計処理は、分配側の原資(払込資本か留保利益か)に従って区別することが考えられる。しかしながら、そもそも分配側の原資により、自動的に受取側の会計処理(投資の払戻か投資成果の分配か)が決定されるわけではない。現金以外の財産の分配を受けた株主の会計処理は、むしろ、交換等の一般的な会計処理の考え方に準じて、会計処理することが適当である。したがって、本会計基準では、原則として、これまで保有していた株式が実質的に引き換えられたものとみなして、被結合企業の株主に係る会計処理に準じて行うものとした(第52項参照)。

144. 被結合企業の株主は、被結合企業の株式と明らかに異なる資産を対価として受け取る場合には、通常、投資が清算されたとみなされる(第32項(1)参照)。このため、現金以外の財産の分配を受けた株主は、原則として、現金以外の財産の時価と受け取った部分に係る株式の適正な帳簿価額との差額を損益として認識することとなる。

しかしながら、当初から現金以外の財産での分配を期待している場合など、投資が継続しているとみなされるときもあり、この場合には、分配された財産の取得価額は、これまで保有していた株式のうち実質的に引き換えられたものとみなされる額とすることとなる。

また、投資後に生じた利益の分配など、投資が継続しているとみなされる中で当該投資の成果として現金以外の財産の分配が行われた場合には、分配された財産の時価をもって収益として計上することが合理的と考えられる。

開 示

損益計算書における表示

145. 交換損益は、通常、臨時的に生ずる損益であるため、原則として、特別損益に計上する。

注記事項

146. 本会計基準では、事業分離における分離元企業と、企業結合において、100%子会社を被結合企業とする当該被結合企業の株主(親会社)とでは、経済的効果が実質的に同じであり、また、被結合企業の株主が親会社である場合の会計処理は、被結合企業が100%子会社の場合でも100%子会社以外の子会社の場合でも整合的に行うものとしている(第73項及び第122項参照)。このため、注記事項についても、子会社を結合当事企業とする株主(親会社)は、事業分離における分離元企業と同様の開示を行うことが適当である。

適用時期

147. 本会計基準は、企業結合会計基準と合わせて適用することが適当であると考えられるため、平成18年4月1日以後開始する事業年度から適用する。

以上


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