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会計基準結論の背景│適用指針│設例目次

 

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成20年12月26日に公表した「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」から「設例」部分を除いたものです。「設例」の部分は別に記載してあります。なお、実務への適用にあたっては、念のためにオリジナルの当該適用指針等を確認してください。

企業会計基準適用指針第10号

企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針

(目的・適用指針・結論の背景)

平成17年12月27日

改正平成18年12月22日

改正平成19年11月15日

最終改正平成20年12月26日

企業会計基準委員会

目次

目的

適用指針

T.範囲

U.用語の定義

V.取得の会計処理

1.取得の会計処理の概要

2.取得企業の決定

取得企業の決定規準の考え方

3.本適用指針で取り扱う取得とされた組織再編の形式ごとの会計処理

4.取得とされた吸収合併、吸収分割、事業譲受及び現物出資の会計処理

5.取得原価の算定方法

(1)取得原価の算定方法の概要

(2)支払対価が現金以外の場合の取得の対価の算定

(3)支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定

(4)支払対価が取得企業の種類株式の場合の取得の対価の算定

(5)支払対価が現金の場合の取得の対価の算定

(6)支払対価が自社以外の株式(例えば親会社株式)の場合の取得の対価の算定

(7)取得が複数の取引により達成された場合(段階取得)の取得の対価の算定

(8)条件付取得対価の会計処理

(9)取得に直接要した支出額の会計処理

(10)株式交付費の取扱い

(11)吸収合併存続会社が新株予約権等を交付したときの会計処理

6.取得原価の配分方法

(1)取得原価の配分方法の概要

(2)識別可能資産及び負債の範囲

(3)識別可能資産及び負債への取得原価の配分額の算定

(4)取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い

(5)時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例

(6)無形資産への取得原価の配分

(7)企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分

(8)退職給付引当金への取得原価の配分

(9)被取得企業においてヘッジ会計が適用されていた場合の取得原価の配分

(10)取得原価の配分における暫定的な会計処理の対象となる科目

(11)暫定的な会計処理の確定又は見直し処理

(12)取得企業の税効果会計

(13)のれんの会計処理

(14)負ののれんの会計処理

7.取得企業の増加資本の会計処理

(1)新株を発行した場合の会計処理

(2)自己株式を処分した場合の会計処理

(3)取得企業の株式以外の財産を交付した場合の会計処理

(4)子会社が親会社株式を交付した場合(いわゆる三角合併などの場合)の会計処理

8.吸収合併消滅会社の最終事業年度の会計処理

9.逆取得となる吸収合併の会計処理

(1)吸収合併存続会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(2)結合後企業の連結財務諸表上の会計処理

(3)結合後企業が連結財務諸表を作成しない場合の注記事項の算定基礎

10.逆取得となる吸収分割又は現物出資の会計処理

(1)吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(2)吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の会計処理

11.分離元企業の会計処理

(1)移転した事業に係る適正な帳簿価額の算定

(2)事業分離に要した支出額の会計処理

(3)受取対価の時価

12.分離先企業における企業結合が取得とされた場合の分離元企業の会計処理

(1)受取対価が現金等の財産のみである場合(事業譲渡など)の分離元企業の会計処理

(2)受取対価が分離先企業の株式のみである場合(会社分割など)の分離元企業の会計処理

(3)受取対価が現金等の財産と分離先企業の株式である場合の分離元企業の会計処理

(4)分離元企業の税効果会計

13.取得とされた株式交換の会計処理

(1)株式交換完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

(2)株式交換完全子会社の個別財務諸表上の会計処理

(3)株式交換完全親会社の連結財務諸表上の会計処理

(4)株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

14.逆取得となる株式交換の会計処理(株式交換完全子会社が取得企業となる場合)

(1)株式交換完全親会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(2)株式交換完全子会社(取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(3)株式交換後の連結財務諸表上の会計処理

15.取得とされた株式移転の会計処理

(1)株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

(2)株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

(3)株式移転設立完全親会社の連結財務諸表上の会計処理

W.共同支配企業の形成の判定

1.共同支配企業の形成の判定規準

(1)共同支配企業の形成の判定規準の概要

(2)一般投資企業が含まれる場合における共同支配企業の形成の判定

2.独立企業要件の取扱い

3.契約要件の取扱い

(1)共同支配となる契約等の要件

(2)株主間の事前承認規定

4.対価要件の取扱い

5.その他の支配要件の取扱い

X.共同支配企業の形成の会計処理

1.共同支配企業の形成の会計処理の概要

2.本適用指針で取り扱う共同支配企業の形成と判定された組織再編の形式ごとの会計処理

3.共同支配企業の形成と判定された合併(吸収合併)の会計処理

(1)吸収合併存続会社(共同支配企業)の会計処理

(2)合併会社の株主(共同支配投資企業)の会計処理

(3)合併会社の株主(一般投資企業)の会計処理

4.共同支配企業の形成と判定された会社分割(吸収分割又は共同新設分割)の会計処理

(1)吸収分割承継会社等(共同支配企業)の会計処理192

(2)吸収分割会社等(共同支配投資企業)の会計処理

(3)吸収分割会社等(一般投資企業)の会計処理

Y.共通支配下の取引等の会計処理

1.共通支配下の取引等の会計処理の概要

2.共通支配下の取引の範囲

3.共通支配下の取引等に係る対価

(1)本適用指針における共通支配下の取引等に係る対価の前提

(2)完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

4.本適用指針で取り扱う共通支配下の取引等の組織再編の形式ごとの会計処理

5.親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

6.子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

7.子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が親会社株式のみの場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

8.子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

9.親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理(事業譲渡の対価が現金等の財産のみの場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

10.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

11.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式と現金等の財産の場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

12.親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理233

(2)連結財務諸表上の会計処理

13.親会社が子会社を株式交換完全子会社とする場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

(3)株式交換直前に子会社(株式交換完全子会社)が自己株式を保有している場合の取扱い

14.親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

(3)株式移転直前に子会社(株式移転完全子会社)が自己株式を保有している場合の取扱い

15.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理 (合併対価が現金等の財産のみである場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

16.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理 (合併対価が吸収合併存続会社の株式のみである場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

17.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理 (合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

18.同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理

18−2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)吸収分割会社である子会社の連結財務諸表上の会計処理

19.子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

20.単独で株式移転設立完全親会社を設立した場合の会計処理

21.単独で新設分割設立子会社を設立した場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

22.単独で分割型の会社分割が行われた場合の会計処理

(1)新設分割会社の個別財務諸表上の会計処理

(2)新設分割設立会社の個別財務諸表上の会計処理

Z.結合当事企業の株主に係る会計処理

1.被結合企業の株主に係る会計処理

(1)受取対価の時価

(2)受取対価が現金等の財産のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

(3)受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

(4)受取対価が現金等の財産と結合企業の株式である場合の被結合企業の株主に係る会計処理

2.結合企業の株主に係る会計処理

(1)結合企業の株主に係る会計処理の考え方

(2)子会社を結合企業とする企業結合の場合

(3)関連会社を結合企業とする企業結合の場合

(4)子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合の場合

3.分割型の会社分割における吸収分割会社及び新設分割会社の株主に係る会計処理

(1)受取対価が新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式のみである場合の新設分割会社又は吸収分割会社の株主に係る会計処理

(2)受取対価が現金等の財産と新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式である場合の新設分割会社又は吸収分割会社の株主に係る会計処理

4.現金以外の財産の分配を受けた場合の株主に係る会計処理

5.いわゆる三角合併などにおける結合当事企業の株主に係る会計処理

[.開示

1.貸借対照表における表示

共同支配企業への投資の表示

2.損益計算書における表示

(1)企業結合に係る特定勘定の取崩益の表示

(2)段階取得に係る損益の表示

3.注記事項

(1)企業結合に関する注記事項

(2)事業分離に関する注記事項

4.企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額の開示

(1)基本的な考え方

(2)前提条件の例示

\.適用時期等

].議決

結論の背景

検討の経緯

T.取得の会計処理

1.取得企業の決定

結合後企業に支配株主が存在する場合の取得企業の決定の考え方

2.取得原価の算定方法

(1)支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定

(2)吸収合併存続会社が新株予約権等を交付したときの会計処理

3.取得原価の配分方法

(1)識別可能資産及び負債への取得原価の配分額の算定

(2)取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い

(3)時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例

(4)無形資産への取得原価の配分

(5)無形資産の認識要件を満たさないものの例

(6)いわゆるブランドの取扱い

(7)企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分

(8)企業結合に係る特定勘定に計上できる費用又は損失の範囲

(9)取得の対価の算定に反映されている場合

(10)企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理

(11)取得原価の配分における暫定的な会計処理

(12)繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分

(13)繰延税金資産に対する取得原価の配分額の確定

(14)のれんの会計処理

4.取得企業の増加資本の会計処理

(1)新株を発行した場合の会計処理

(2)自己株式を処分した場合の会計処理

(3)取得企業の株式又は現金以外(例えば親会社株式)を対価とする場合の会計処理

5.吸収合併消滅会社の最終事業年度の会計処理

6.分離元企業の会計処理

(1)分離元企業における受取対価の時価

(2)分離元企業における移転損益の認識

(3)分離元企業の連結財務諸表上においてパーチェス法が適用されることにより計上されるのれん

(4)分離元企業の税効果会計

7.取得とされた株式交換及び株式移転の会計処理

(1)株式交換完全親会社等の税効果会計の取扱い

(2)株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合等の結合当事企業の個別財務諸表上の会計処理

(3)株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の子会社株式(取得企業株式)の取得原価の算定の簡便的な取扱い

U.取得以外の会計処理

1.結合当事企業から引き継ぐ資産及び負債に含み損益がある場合の取扱い

2.吸収合併存続会社等が新株を発行した場合の増加資本の会計処理

3.吸収分割承継会社等が新株を発行した場合の増加資本の会計処理

4.吸収合併存続会社が自己株式を処分した場合の増加資本の会計処理

5.吸収合併消滅会社が保有していた当該会社の自己株式及び抱合せ株式の消滅の会計処理

V.共同支配企業の形成の判定

1.共同支配企業の形成の判定要件

(1)共同支配企業に対する各企業の議決権比率が相違している場合の取扱い

(2)一般投資企業が含まれる場合における共同支配企業の形成の判定

2.独立企業要件の取扱い

3.契約要件の取扱い

(1)共同支配となる契約等の要件

(2)契約上の取決めの形態

4.対価要件の取扱い

5.その他の支配要件の取扱い

W.共同支配企業の形成の会計処理

1.共同支配投資企業の会計処理

2.共同支配投資企業の子会社が共同支配企業に投資している場合の会計処理

X.共通支配下の取引等の会計処理

1.共通支配下の取引の範囲

2.共通支配下の取引と少数株主との取引

2−2.完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

3.親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理

4.親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理

5.子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

(2)連結財務諸表上の会計処理

6.子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

7.子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

8.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1)親会社(吸収分割会社)における個別財務諸表上の会計処理

(2)子会社(吸収分割承継会社等)における個別財務諸表上の会計処理

9.親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

9−2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

9−3.株式交換等の直前に子会社(株式交換完全子会社等)が自己株式を保有している場合の取扱い

10.共通支配下の取引等により発生したのれんの会計処理

Y.開 示451

1.企業結合に係る特定勘定の表示

2.連結財務諸表を作成しない場合の逆取得に係る注記事項

3.企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額の開示

設例の部分は別に記載してあります。 


目的

1. 本適用指針は、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)及び企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」(以下「事業分離等会計基準」という。)の2つの会計基準を適用する際の指針を定めることを目的とする(第334項から第336項参照)。

なお、本適用指針は、平成17年12月27日に公表された企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」について、平成18年及び平成19年に所要の改正を行ったものである(第338-2項及び第338-3項参照)。

また、平成20年に企業結合会計基準及び事業分離等会計基準を改正したことに伴い、本適用指針についても改正を行っている(第338-4項参照)。

2. 本適用指針の構成は、原則として、企業結合の会計上の分類(取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引)ごと、かつ、代表的な組織再編の形式(合併、会社分割、事業譲渡・譲受、株式交換、株式移転等)ごとに個別財務諸表上及び連結財務諸表上の会計処理を示している(第334項参照)。

適用指針

T.範 囲

3. 本適用指針は、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表について適用する。

U.用語の定義

4. 本適用指針における用語の定義は、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準における用語の定義と同様とする。

5. 前項の他に、本適用指針では、以下の用語を定義する。

(1) 「吸収合併存続会社」とは、吸収合併後存続する会社をいう(会社法第749条第1項)。

(2) 「吸収合併消滅会社」とは、吸収合併により消滅する会社をいう(会社法第749条第1項第1号)。

(3) 「新設合併設立会社」とは、新設合併により設立する会社をいう(会社法第753条第1項)。

(4) 「新設合併消滅会社」とは、新設合併により消滅する会社をいう(会社法第753条第1項第1号)。

(5) 「吸収分割承継会社」とは、吸収分割において、ある会社が事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社をいう(会社法第757条)。

(6) 「吸収分割会社」とは、吸収分割において、事業に関して有する権利義務の全部又は一部をある会社に承継させる会社をいう(会社法第758条第1号)。

(7) 「新設分割設立会社」とは、新設分割により設立する会社をいう(会社法第763条)。

(8) 「新設分割会社」とは、新設分割をする会社をいう(会社法第763条第5号)。

(9) 「株式交換完全親会社」とは、株式交換において、ある株式会社の発行済株式の全部を取得する会社をいう(会社法第767条)。

(10)「株式交換完全子会社」とは、株式交換において、発行済株式の全部を取得される株式会社をいう(会社法第768条第1項第1号)。

(11)「株式移転設立完全親会社」とは、株式移転により設立する株式会社をいう(会社法第773条第1項第1号)。

(12)「株式移転完全子会社」とは、株式移転において、株式移転設立完全親会社に発行済株式の全部を取得させる株式会社をいう(会社法第773条第1項第5号)。

(13)「吸収合併存続会社等」とは、吸収合併存続会社及び新設合併設立会社をいう。

(14)「吸収合併消滅会社等」とは、吸収合併消滅会社及び新設合併消滅会社をいう。

(15)「吸収分割承継会社等」とは、吸収分割承継会社及び新設分割設立会社をいう。

(16)「吸収分割会社等」とは、吸収分割会社及び新設分割会社をいう。

(17)「株式交換完全親会社等」とは、株式交換完全親会社及び株式移転設立完全親会社をいう。

(18)「株式交換完全子会社等」とは、株式交換完全子会社及び株式移転完全子会社をいう。

6. (以下、第28項まで削除)

V.取得の会計処理

1.取得の会計処理の概要

29. パーチェス法では、被取得企業から受け入れる資産及び負債の取得原価を、原則として、対価として交付する現金及び株式等の時価とする。

30. パーチェス法は、取得企業の観点から企業結合をみるもので、取得企業は企業結合日において被取得企業が企業結合日前に認識していなかったものも含めて、受け入れた資産及び引き受けた負債のうち識別可能なものに取得原価を配分する。取得原価と取得原価の配分額との差額がのれん(又は負ののれん)であり、のれんについては20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり、合理的な方法により規則的に償却する。

31. 取得企業は、被取得企業の経営成績及びキャッシュ・フローの状況を企業結合日から損益計算書及びキャッシュ・フロー計算書に取り込むことになる。

なお、企業結合日とは、被取得企業若しくは取得した事業に対する支配が取得企業に移転した日、又は結合当事企業の事業のすべて若しくは事実上すべてが統合された日(企業結合会計基準第15項)をいい、会社法における組織再編の効力が発生する日と同じ日となる。本適用指針では、企業結合日を、合併の場合には合併期日、会社分割の場合には分割期日、株式交換の場合には株式交換日、株式移転の場合には株式移転日と記載している。

31-2. 企業結合に適用すべき会計基準として、企業結合会計基準及び平成20年12月26日に公表された企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下「連結会計基準」という。)がある。従来、企業結合会計基準は、合併、株式交換・株式移転、会社分割、事業譲渡・譲受、現物出資等に対して適用され、連結会計基準は、現金を対価とした子会社株式の取得に対して適用されるものとされていた。

平成20年改正の企業結合会計基準及び連結会計基準において、企業結合に該当する取引はすべて企業結合会計基準が適用されることとされたため、現金を対価とする子会社株式の取得についても連結会計基準に定めのない企業結合及び事業分離等に関する事項については、連結財務諸表上、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準並びに本適用指針の定めに従って会計処理及び注記をすることとなる。

なお、企業とは、会社及び会社に準ずる事業体をいう(企業結合会計基準第4項及び事業分離等会計基準第2-2項)が、本適用指針では、企業が株式会社の場合を前提としており、それ以外の場合においては、株式会社の場合に準じて取り扱う。

2.取得企業の決定

取得企業の決定規準の考え方

連結会計基準の考え方の利用

32. 取得企業を決定するためには、連結会計基準の考え方を用いることとされている(企業結合会計基準第18項)。これには、結合後企業に支配株主が存在するとき、当該株主により企業結合前から支配されていた結合当事企業(子会社)を取得企業とすることも含まれる(第354項参照)。

総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ

32-2.主な対価の種類が株式である企業結合の場合、総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ(企業結合会計基準第20項(1))についても、一般に組織再編は様々な形態をとることが考えられる(企業結合会計基準第80項)ことから、他の要素とともに総合的に勘案することによって、取得企業を最終的に決定することとなる。

また、当該議決権比率の判断にあたっては、潜在株式の存在についても考慮しなければならないとされているが、権利行使の可能性がないと見込まれる場合には、これを考慮しないことが適切と考えられる。

最も大きな議決権比率を有する株主の存在

32-3.企業結合会計基準第20項(2)では、ある株主又は株主グループ以外には重要な議決権比率を有していない場合を前提としているが、これは、関連会社にあたる程度にまで議決権比率を有しているような株主又は株主グループが他には存在しない場合が該当する。

株式の交換条件

32-4.ある結合当事企業が他の結合当事企業の企業結合前における株式の時価を超えるプレミアムを支払う場合(企業結合会計基準第20項(5))とは、例えば、株式の交換比率の算定にあたり、企業結合の主要条件が合意された日などの企業結合前における株式の市場価格(株価)に加えて、支配する対価としてのプレミアムが反映されている場合が該当する。

会社分割の場合の取扱い

32-5.組織再編の形式が会社分割(共同新設分割又は吸収分割)の場合には、取得企業としては、分離先企業における分離元企業から移転された事業自体を指すことがある。

33. (削 除)

3.本適用指針で取り扱う取得とされた組織再編の形式ごとの会計処理

34. 本適用指針では、取得とされた企業結合を大きく2 つに分けて整理している。

(1) 企業又は事業の直接取得

ある結合当事企業が他の結合当事企業又は事業を直接取得する組織再編の形式には、合併、会社分割、事業譲受及び現物出資が含まれる。

(2) 企業の間接取得

ある結合当事企業が他の結合当事企業の株式の取得を通じて、他の結合当事企業を間接取得する組織再編の形式には、株式交換及び株式移転が含まれる(株式移転の場合には、株式移転設立完全親会社を経由した株式の取得)。

このような企業又は事業の直接取得と間接取得、あるいは、組織再編の形式の相違は、原則として、連結財務諸表上の会計処理には影響しないものの、個別財務諸表上の会計処理には影響がある。

このため、本適用指針では、代表的な組織再編の形式として次の3つを取り上げ、それぞれの会計処理を示している。

@ 吸収合併、吸収分割、事業譲受及び現物出資(第35項から第88項参照)

なお、吸収分割による企業結合が取得とされた場合の吸収分割会社(分離元企業)の会計処理は、第89項から第109項にて示している。

また、共同新設分割が取得とされた場合の新設分割設立会社の会計処理は、単独新設分割により設立された複数の新設分割設立会社が、その設立直後に合併したものとみなして会計処理する。具体的には、最初に単独新設分割の会計処理を行い(新設分割設立会社の会計処理は第261項(第227項)参照。なお、新設分割会社の会計処理は第260項(第226項)参照)、次に、取得企業とされた新設分割設立会社が他の新設分割設立会社を被取得企業として合併の会計処理を行うことになる。

A 株式交換(第110項から第119項参照)

B 株式移転(第120項から第126項参照)

4.取得とされた吸収合併、吸収分割、事業譲受及び現物出資の会計処理

本適用指針における取得企業の取扱い

35. 第36項から第83項までの定めは、吸収合併存続会社、吸収分割承継会社、事業譲受会社及び現物出資の受入会社が取得企業となる場合を前提としている。なお、「逆取得」の会計処理は第84項から第88項にて示している。

5.取得原価の算定方法

(1)取得原価の算定方法の概要

36. 被取得企業(吸収合併消滅会社)又は取得した事業(会社分割、事業譲受又は現物出資により移転された事業)の取得原価は、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定するとされている(企業結合会計基準第23項及び第26項)。

(2)支払対価が現金以外の場合の取得の対価の算定

37. 「支払対価が現金以外の資産の引渡し、負債の引受け又は株式の交付の場合には、支払対価となる財の時価と被取得企業又は取得した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定する」(企業結合会計基準第23項)とされている。支払対価が取得企業の株式の交付の場合には、第38項から第43項に従い、取得の対価を算定する。

(3)支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定

38. 支払対価として取得企業の株式が交付された場合の取得の対価の算定は、次のように行う(取得企業の種類株式が交付された場合は第42項も参照のこと)。

(1) 取得企業の株式に市場価格(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品会計実務指針」という。)第48項)がある場合には、「企業結合日における株価」(企業結合会計基準第24項)に交付株式数を乗じた額(第356項参照)。なお、企業結合日の株価については金融商品会計実務指針第60項に準じることとなる。

(2) (1)がない場合で、取得企業の株式に合理的に算定された価額(金融商品会計実務指針第54項)を得られるときは、企業結合日における当該価額に交付株式数を乗じた額(第356項参照)。

合理的に算定された価額には、類似会社比準方式による評価額(金融商品会計実務指針第54項(1))、割引将来キャッシュ・フロー法による評価額(同項(2))などが含まれる。複数の評価額が利用されているときは、これらを加重平均するなど、当該価額を合理的に算定する。当該取扱いは、(3)にも適用する。

(3) (2)が得られない場合で、被取得企業の株式に合理的に算定された価額があるときは、企業結合日における当該価額に交付株式数(交換比率考慮後)を乗じた額(第356項参照)。

(4) (3)が得られない場合には、被取得企業から受け入れた識別可能資産及び負債の企業結合日の時価を基礎とした正味の評価額(第357項参照)。

39. 前項(2)又は(3)において、株式の交換比率を算定する目的で算定された価額であっても、被取得企業又は取得した事業の時価や取得の対価となる財の時価に適切に調整しており、かつ企業結合日までに重要な変動が生じていないと認められる場合には、合理的に算定された価額とみなすことができる。

40. (削 除)

41. (削 除)

(4)支払対価が取得企業の種類株式の場合の取得の対価の算定

42. 支払対価として取得企業の種類株式が交付された場合の取得の対価は、次のように算定する。

(1) 取得企業の種類株式に市場価格がある場合には、企業結合日における市場価格に交付株式数を乗じた額(第38項(1)参照)。

なお、種類株式自体は市場で取引されていなくとも転換を請求できる権利を行使して、容易に市場価格のある普通株式に転換し取引できるような場合には、市場価格のある株式として取り扱われることがある(実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」Q2のA(1))。

(2) (1)がない場合で、取得企業の種類株式について合理的に算定された価額を得られるときは、企業結合日における当該価額に交付株式数を乗じた額(第38項(2)参照)。

なお、合理的に算定された価額には、割引将来キャッシュ・フロー法やオプション価格モデルなどの評価モデルを利用した価額が含まれる(実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」Q3のA(1))。

43. 前項(2)の場合において、取得企業が交付する種類株式が支払対価のほとんどを占める場合で、当該種類株式の価額を合理的に算定することが困難なときは、被取得企業から受け入れた識別可能資産及び負債の企業結合日の時価を基礎とした正味の評価額により、取得の対価を算定する(第357項参照)。

(5)支払対価が現金の場合の取得の対価の算定

44. 支払対価が現金の場合には、取得の対価は現金の支出額とするとされている(企業結合会計基準第84項)。

(6)支払対価が自社以外の株式(例えば親会社株式)の場合の取得の対価の算定

45. 支払対価が自社以外の株式(例えば親会社株式)の場合の取得の対価は、第38項に準じて算定する。

(7)取得が複数の取引により達成された場合(段階取得)の取得の対価の算定

個別財務諸表上の会計処理

46. 取得が複数の取引により達成された場合(以下「段階取得」という。)、個別財務諸表上、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって、被取得企業の取得原価とする(企業結合会計基準第25項(1))とされている。

例えば、取得企業(吸収合併存続会社)の株式が交付され、取得企業が吸収合併直前に被取得企業の株式を保有していた場合の取得の対価は、取得企業が交付する取得企業の株式の時価(第38項参照)と合併期日の被取得企業の株式の帳簿価額(金融商品会計実務指針第57項(4))を合算して算定される。[設例4]

なお、企業結合日直前の被取得企業の株式の帳簿価額については、以下の点に留意する必要がある。

(1) 被取得企業の株式をその他有価証券に分類し、期末に時価による評価替えを行っていても、被取得企業の株式の帳簿価額は、時価による評価前の価額となる。ただし、その他有価証券の評価差額の会計処理として部分純資産直入法を採用しており、当該有価証券について評価差損を計上している場合には、時価による評価後の価額となる。

(2) 被取得企業の株式に対して投資損失引当金を計上している場合には、当該金額を控除した価額となる。

(3) 被取得企業の株式を企業結合日前に減損処理している場合には、減損処理後の帳簿価額を基礎とする。

連結財務諸表上の会計処理

46-2. 段階取得の場合、連結財務諸表上、支配を獲得するに至った個々の取引すべての企業結合日における時価をもって、被取得企業の取得原価を算定する。なお、当該被取得企業の取得原価と、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理する(企業結合会計基準第25項(2))とされている。

例えば、取得企業(吸収合併存続会社)の株式が交付され、取得企業が吸収合併直前に被取得企業の株式を保有していた場合の取得の対価は、取得企業が交付する取得企業の株式の時価(第38項参照)と吸収合併直前の被取得企業の株式の時価(第38項に準じて算定)を合算して算定され、吸収合併直前の被取得企業の株式の帳簿価額と合併期日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理される。また、これに見合う金額は、個別財務諸表において計上されたのれん(又は負ののれん)の修正として処理される。[設例4]

投資会社が持分法適用関連会社と企業結合した場合には、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価は持分法による評価額を指す(企業結合会計基準第25項(2)なお書き)ため、その場合には、企業結合日直前の被取得企業の株式(関連会社株式)の持分法による評価額と企業結合日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益とし、これに見合う金額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される。なお、企業結合日直前の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される。[設例4]

また、持分法による評価額には、関連会社株式に含めて処理されているのれんの未償却残高、未実現損益に関する修正額が含まれる。

(8)条件付取得対価の会計処理

47. 条件付取得対価の会計処理は、次のように行うものとされている。

(1) 将来の業績に依存する条件付取得対価[設例5]

「企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付又は引き渡される取得対価」(企業結合会計基準(注2))(以下「条件付取得対価」という。)が、「被取得企業又は取得した事業の企業結合契約締結後の特定事業年度における業績の水準に応じて、取得企業が対価を追加で交付する条項がある場合等」(企業結合会計基準(注3))、企業結合契約合意後の将来の業績に依存する場合には、「条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれん又は負ののれんを追加的に認識する」(企業結合会計基準第27項(1))とされている。

「追加的に認識するのれん又は負ののれんは、企業結合日時点で認識されたものと仮定して計算し、追加認識する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理する」(企業結合会計基準(注4))とされている。

なお、条件付取得対価は、企業結合日後に追加的に交付又は引渡されるものに限定されるものと解される。

(2) 特定の株式又は社債の市場価格に依存する条件付取得対価[設例5]

「特定の株式又は社債の特定の日又は期間の市場価格に応じて当初合意した価額に維持するために、取得企業が追加で株式又は社債を交付する条項がある場合等」(企業結合会計基準(注5))、「条件付取得対価が特定の株式又は社債の市場価格に依存する場合には、条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、次の処理を行う」(企業結合会計基準第27項(2))とされている。

@ 追加で交付可能となった条件付取得対価を、その時点の時価に基づき認識する。

A 企業結合日現在で交付している株式又は社債をその時点の時価に修正し、当該修正により生じた社債プレミアムの減少額又はディスカウントの増加額を将来にわたって規則的に償却する。

(9)取得に直接要した支出額の会計処理

48. 企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められるものは取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用として処理するとされている(企業結合会計基準第26項)。

取得原価に含める支出額とは、次の(1)及び(2)を満たしたものをいう。

(1) 企業結合に直接要した支出額

企業結合を成立させるために取得企業が外部のアドバイザー(例えば投資銀行のコンサルタント、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士等の専門家)に支払った交渉や株式の交換比率の算定に係る特定の報酬・手数料等をいう。社内の人件費(例えば社内のプロジェクト・チームの人員に係る人件費)等は、これに含まれない。

(2) 取得の対価性が認められるもの

現実に契約に至った企業結合に関連する支出額のことをいう。したがって、契約に至らなかった取引や単なる調査に関連する支出額は、企業結合に直接要した費用であっても取得原価に含めることはできない。

なお、企業結合に直接要した支出額であっても、被取得企業が支出した額については、取得企業の支出ではないため、それらを取得原価に含めることはできない。事業分離を伴う企業結合(共同新設分割又は吸収分割)の場合には、分離元企業が負担する取得の対価性が認められる取得に直接要した支出額は、分離元企業が取得する分離先企業(吸収分割承継会社等)の株式の取得原価に含めて処理される場合がある(第91項参照)。

また、企業結合に直接要した支出額として、現金に代えて自社の株式又は新株予約権を交付した場合には、その測定は、企業会計基準第8 号「ストック・オプション等に関する会計基準」第14項及び第15項に準じて行う。

(10)株式交付費の取扱い

49. 企業結合の際の株式の交付に伴い発生する費用(登録免許税、証券会社への業務委託手数料等)は、企業結合の対価というよりは、支払対価の種類に影響される財務的な活動としての性格が強い支出と考えられるため、取得原価には含めず、別途、株式交付費として会計処理する。

(11)吸収合併存続会社が新株予約権等を交付したときの会計処理

50. 吸収合併が取得とされた場合において、吸収合併存続会社が、新株予約権等を交付したときの会計処理は次のように行う。

(1) 吸収合併消滅会社の株主に対して、当該吸収合併消滅会社株式と引き換えに、吸収合併存続会社の新株予約権を交付したときは、取得の対価として処理する。このとき、吸収合併存続会社が交付した新株予約権に付すべき帳簿価額は、合併期日の時価(第38項に準じて算定)による。

(2) 吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して、吸収合併消滅会社の新株予約権と引き換えに、吸収合併存続会社の新株予約権又は現金を交付したときは、取得に直接要した支出額に準じて取得原価に含める(第361項参照)。新株予約権に付すべき帳簿価額は、原則として、合併期日の時価による。ただし、吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して、吸収合併存続会社の新株予約権を交付する際に交付した新株予約権の時価と吸収合併消滅会社が付していた新株予約権の帳簿価額との差異が重要でないと見込まれるときには、吸収合併存続会社は、当該帳簿価額をもって交付した新株予約権の帳簿価額とすることができる。

これらの取扱いは、吸収合併以外の取得とされた組織再編についても適用する。

6.取得原価の配分方法

(1)取得原価の配分方法の概要

51. 取得原価(第36項参照)は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)に対して、その企業結合日における時価を基礎として配分し、取得原価と取得原価の配分額との差額はのれん(又は負ののれん)とするとされている(企業結合会計基準第28項から第31項)(第448項参照)。

(2)識別可能資産及び負債の範囲

52. 識別可能資産及び負債の範囲は、「被取得企業の企業結合日前の貸借対照表において計上されていたかどうかにかかわらず、企業がそれらに対して対価を支払って取得した場合、原則として、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識されるものに限定する」(企業結合会計基準第99項)とされている。

(3)識別可能資産及び負債への取得原価の配分額の算定

53. 識別可能資産及び負債への取得原価の配分額は、企業結合日における次の時価を基礎として、算定するとされている(企業結合会計基準第102項及び第103項)(第362項参照)。

(1) 観察可能な市場価格に基づく価額

(2) (1)がない場合には、合理的に算定された価額

合理的に算定された価額による場合には、市場参加者が利用するであろう情報や前提等が入手可能である限り、それらに基礎を置くこととし、そのような情報等が入手できない場合には、見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置くものとされている。

合理的に算定された価額は、一般に、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどの見積方法が考えられ、資産の特性等により、これらのアプローチを併用又は選択して算定することとなる(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「減損会計適用指針」という。)第28項(2))。

なお、金融商品、退職給付引当金など個々の識別可能資産及び負債については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準において示されている時価等の算定方法が利用されることとなる。

(4)取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い

54. 前項にかかわらず、次のいずれの要件も満たす場合には、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価の配分額を算定できる(第363項参照)。

(1) 被取得企業が、企業結合日の前日において、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って資産及び負債の適正な帳簿価額を算定していること

(2) (1)の帳簿価額と企業結合日の当該資産又は負債の時価との差異が重要でないと見込まれること

(5)時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例

55. 受け入れた資産に大規模工場用地や近郊が開発されていない郊外地のように時価が一義的には定まりにくい資産が含まれ、これを評価することにより、負ののれんが多額に発生することが見込まれる場合には、「その金額を当該固定資産等に合理的に配分した評価額も、ここでいう合理的に算定された時価であると考える」(企業結合会計基準第103項)とされている。

したがって、当該資産に対する取得原価の配分額は、負ののれんが発生しない範囲で評価した額とすることができる。ただし、企業結合条件の交渉過程で取得企業が利用可能な独自の情報や前提など合理的な基礎に基づき当該資産の価額を算定しており、それが取得の対価の算定にあたり考慮されている場合には、その価額を取得原価の配分額とする(第364項参照)。[設例6]

(6)無形資産への取得原価の配分

56. (削 除)

57. (削 除)

法律上の権利

58. 企業結合会計基準第29項にいう「法律上の権利」とは、特定の法律に基づく知的財産権(知的所有権)等の権利をいう。特定の法律に基づく知的財産権(知的所有権)等の権利には、産業財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)、著作権、半導体集積回路配置、商号、営業上の機密事項、植物の新品種等が含まれる。

分離して譲渡可能な無形資産

59. 企業結合会計基準第29 項にいう「分離して譲渡可能な無形資産」とは、受け入れた資産を譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、企業又は事業と独立して売買可能なものをいい、そのためには、当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならない(第367項参照)。

59-2. 特定の無形資産に着目して企業結合が行われた場合など、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、当該無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱う。したがって、このような場合には、企業結合会計基準第28項及び第29項により、当該無形資産を識別可能資産として、取得原価を配分することとなる(第367-2項参照)。

60. (削 除)

61. (削 除)

(7)企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分

62. 「取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用又は損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には、負債として認識する」(企業結合会計基準第30項)とされている(第372項参照)。

当該負債(以下「企業結合に係る特定勘定」という。)の計上は、次項及び第64項を満たしている場合に限られる。なお、認識の対象となった事象が貸借対照表日後1年内に発生することが明らかなものは流動負債として表示する(第451項参照)。

企業結合に係る特定勘定に計上できる費用又は損失の範囲

63. 「取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用又は損失」(前項参照)は、企業結合日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準(ただし、当該企業結合に係る特定勘定に適用される基準を除く。)の下で認識される識別可能負債に該当しないもののうち、企業結合日後に発生することが予測され、被取得企業に係る特定の事象に対応した費用又は損失(ただし、識別可能資産への取得原価の配分額に反映されていないものに限る。)をいう(第374項参照)。

取得の対価の算定に反映されている場合

64. 「取得の対価の算定に反映されている場合」(第62項参照)とは、次のいずれかの要件を満たしている場合をいう(第375項参照)。

(1) 当該事象及びその金額が契約条項等(結合当事企業の合意文書)で明確にされていること

(2) 当該事象が契約条項等で明確にされ、当該事象に係る金額が取得の対価(株式の交換比率など)の算定にあたり重視された資料に含まれ、当該事象が反映されたことにより、取得の対価が減額されていることが取得企業の取締役会議事録等により確認できること

(3) 当該事象が取得の対価の算定にあたって考慮されていたことが企業結合日現在の事業計画等により明らかであり、かつ当該事象に係る金額が合理的に算定されること(ただし、この場合には、のれんが発生しない範囲で評価した額に限る。)

65. (削 除)

企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理

66. 企業結合に係る特定勘定は、認識の対象となった事象が発生した事業年度又は当該事象が発生しないことが明らかになった事業年度に取り崩すことになる。ただし、企業結合日以後、引当金又は未払金など、他の負債としての認識要件を満たした場合には、企業結合に係る特定勘定から他の適当な負債科目に振り替えることが必要になる(第377項参照)。

また、当該事象が発生しないことが明らかになった場合の取崩額は、原則として、特別利益に計上する(第303項参照)。

(8)退職給付引当金への取得原価の配分

67. 確定給付制度による退職給付引当金は、企業結合日において、受け入れた制度ごとに退職給付に係る会計基準に基づいて算定した退職給付債務及び年金資産の正味の価額を基礎として取得原価を配分する。したがって、被取得企業における未認識項目を取得企業で引き続き未認識項目とすることはできない。

退職給付債務については、原則として、企業結合日において受け入れる従業員等の分について、企業結合日の計算基礎により数理計算をするが、企業結合日前の一定日における被取得企業が計算した退職給付債務を基礎に、取得企業が適切に調整して算定した額を用いることができる。

なお、被取得企業の退職給付制度について、制度の改訂が予定されている場合であっても、退職給付債務に関する測定は、企業結合日における適切な諸条件に基づいて行う。また、企業結合により、被取得企業の従業員に関する退職一時金や早期割増退職金の支払予定額が取得の対価の算定に反映されているときなど、第63項及び第64項の要件のすべてを満たしている場合には、「企業結合に係る特定勘定」として取得原価の配分の対象となる。

(9)被取得企業においてヘッジ会計が適用されていた場合の取得原価の配分

68. 被取得企業でヘッジ会計を適用していたか否かにかかわらず、受け入れた金融資産又は引き受けた金融負債(デリバティブを含む。)は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)に従って算定した時価を基礎として取得原価を配分する。したがって、被取得企業においてヘッジ会計が適用されており、繰延ヘッジ損失及び繰延ヘッジ利益が計上されていても、取得企業はそれらを引き継ぐことはできない。

取得企業において、受け入れた資産又は引き受けた負債に対してヘッジ会計を適用する場合は、企業結合日において新たにヘッジ指定を行うこととする。キャッシュ・フローを固定するヘッジ取引とする場合には、企業結合日に取得原価が配分されたデリバティブの時価相当額を前受利息等に振り替え、ヘッジ対象が損益として実現する期間の損益として処理する。[設例7]

(10)取得原価の配分における暫定的な会計処理の対象となる科目

69. 取得原価の配分は、企業結合日以後1年以内に行わなければならないとされ(企業結合会計基準第28項)、また、「企業結合日以後の決算において、配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる」(企業結合会計基準(注6))とされている。

暫定的な会計処理の対象となる項目は、繰延税金資産及び繰延税金負債のほか(第73項参照)、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られる。[設例8]

ただし、企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算日までの期間が短い場合など、被取得企業から受け入れた識別可能資産及び負債への取得原価の配分額が確定しない場合(被取得企業の適正な帳簿価額の算定が企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算には間に合わない場合等)も想定されるので、このような場合には、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のすべてを暫定的な会計処理の対象とすることができる(第378項参照)。

(11)暫定的な会計処理の確定又は見直し処理

70. 暫定的な会計処理の確定又は見直しにより取得原価の配分額を修正した場合には、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額が修正されたものとして会計処理を行う。

なお、取得原価の配分は、企業結合日以後1年以内に行わなければならないとされていることから(企業結合会計基準第28項)、暫定的な会計処理の確定又は見直しが、企業結合年度ではなく企業結合年度の翌年度において行われた場合には、企業結合年度の財務諸表は既に確定しているため、企業結合年度に当該修正が行われたとしたときの損益影響額(のれんの償却額等)を、企業結合年度の翌年度において、原則として、特別損益(前期損益修正)に計上する。[設例8]

(12)取得企業の税効果会計

繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分

71. 組織再編の形式が、事業を直接取得することとなる合併、会社分割等の場合には、取得企業は、企業結合日において、被取得企業又は取得した事業から生じる一時差異等(取得原価の配分額(繰延税金資産及び繰延税金負債を除く。)と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額並びに取得企業に引き継がれる被取得企業の税務上の繰越欠損金等)に係る税金の額を、将来の事業年度において回収又は支払が見込まれない額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する。繰延税金資産及び繰延税金負債は、暫定的な会計処理の対象とする。[設例32]

72. のれん(又は負ののれん)は取得原価の配分残余であるため、のれん(又は負ののれん)に対する税効果は認識しない(第378-2項参照)。

繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の確定

73. 企業結合日に認識された繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の見直しは、次の場合がある。

(1) 暫定的な会計処理の対象としていた識別可能資産及び負債の取得原価への配分額の見直しに伴うもの

(2) 将来年度の課税所得の見積りの変更等による繰延税金資産の回収見込額の修正によるもの

(1)については、第70項に従い会計処理する。

(2)の繰延税金資産の回収見込額の修正のうち、企業結合年度における修正は、第70項に従い、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額を修正し、企業結合年度の翌年度における修正は、第70項の定めにかかわらず、原則として、翌年度の損益(法人税等調整額)に計上する。ただし、企業結合年度の翌年度における修正であっても、その修正内容が、明らかに企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の修正と考えられるとき(企業結合日以後1年以内に行われたものに限る。)は、企業結合日におけるのれん(又は負ののれん)の額を修正する(第379項参照)。[設例32]

74. 前項(2)の繰延税金資産の回収見込額の修正は、企業結合日と取得企業の事業年度との関係から、具体的には次のように処理することになる。

(1) 企業結合日が取得企業の事業年度期首の場合

企業結合日の1年後(企業結合年度末)に繰延税金資産への取得原価の配分額を確定し、その額が企業結合日の繰延税金資産への取得原価の配分額となる。

企業結合年度の中間会計期間末又は四半期会計期間末においては、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき計上する。これは基本的に「暫定的な会計処理」(第69項参照)として取り扱う。

(2) 企業結合日が取得企業の事業年度の期首の翌日以降の場合

企業結合年度の中間会計期間末又は四半期会計期間末及び企業結合年度末においては、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき計上する。これは基本的に「暫定的な会計処理」(第69項参照)として取り扱う。

企業結合日から1年を経過した日(実務上は、1年経過後最初に到来する中間会計期間末、四半期会計期間末又は事業年度末)において、企業結合日における繰延税金資産への取得原価の配分額が確定する。企業結合日において計上した繰延税金資産の額を修正する場合は前項に従い会計処理する。

(3) (削 除)

繰延税金資産の回収可能性

75. 繰延税金資産の回収可能性は、取得企業の収益力に基づく課税所得の十分性等により判断し、企業結合による影響は、企業結合年度から反映させる。

将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を過去の業績等に基づいて判断する場合には、企業結合年度以後、取得した企業又は事業に係る過年度の業績等を取得企業の既存事業に係るものと合算した上で課税所得を見積る。[設例32]

(13)のれんの会計処理

76. 「のれんは、資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する」(企業結合会計基準第32項)とされている。

のれんの償却にあたり、次の事項に留意する必要がある(第380項から第382-2項及び第448項参照)。

(1) のれんの償却開始時期は、企業結合日となる。なお、みなし取得日(第117項及び第121項また書き参照)による場合には、当該みなし取得日が四半期首であるときには、償却開始は四半期首からであり、四半期末であるときには翌四半期首からとなる。

(2) のれんを企業結合日に全額費用処理することはできない(ただし(4)の場合を除く。)。

(3) のれんの償却額は販売費及び一般管理費に計上することとし、減損処理以外の事由でのれんの償却額を特別損失に計上することはできない。

(4) 「のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる」(企業結合会計基準第32項)とされている。当該費用の表示区分は販売費及び一般管理費とする。

(5) 関連会社と企業結合したことにより発生したのれんは、持分法による投資評価額に含まれていたのれん(平成20年12月26日に改正された企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」(以下「持分法会計基準」という。)第11項)の未償却部分と区別せず、企業結合日から新たな償却期間にわたり償却する。

(6) のれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定する。

77. のれんの未償却残高は、減損処理の対象となる(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という。)一 及び 二 8.)。特に、次の場合には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられるときがあるとされている(企業結合会計基準第109項)。

(1) 取得原価のうち、のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になる場合

(2) 被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合や、取得時に明らかに識別可能なオークション又は入札プロセスが存在していた場合

なお、のれんの減損損失を認識すべきであるとされた場合には、減損損失として測定された額を特別損失に計上することになる。

在外子会社株式の取得等により生じたのれんの会計処理

77-2. 在外子会社株式の取得等により生じたのれんは、在外子会社等の財務諸表項目が外国通貨で表示されている場合には、当該外国通貨で把握し、決算日の為替相場により換算する。

なお、当該外国通貨で把握されたのれんの当期償却額については、当該在外子会社等の他の費用と同様に換算することとなる(外貨建取引等会計処理基準三)(第382-2項参照)。

(14)負ののれんの会計処理

78. 負ののれんの会計処理にあたり、次の事項に留意する必要がある。

(1) 負ののれんは、原則として、特別利益に計上する(企業結合会計基準第48項)。

(2) 関連会社と企業結合したことにより発生した負ののれんは、連結会計基準第64項なお書きにより、持分法による投資評価額に含まれていたのれん(持分法会計基準第11項)の未償却部分と相殺し、のれん(又は負ののれん)が新たに計算される。

7.取得企業の増加資本の会計処理

(1)新株を発行した場合の会計処理

79. 企業結合の対価として、取得企業が新株を発行した場合には、払込資本(資本金又は資本剰余金)の増加として会計処理する。

なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(第384項、第385項、第408項及び第409項参照)。

また、増加すべき株主資本の額は、第38項の取得の対価の算定に準じて算定する。

(2)自己株式を処分した場合の会計処理

80. 企業結合の対価として、取得企業が自己株式を処分した場合(新株の発行を併用した場合を含む。以下同じ。)には、増加すべき株主資本の額(自己株式の処分の対価の額。新株の発行と自己株式の処分を同時に行った場合には、新株の発行と自己株式の処分の対価の額。)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少)として会計処理する(第388項参照)。[設例9]

なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。また、増加すべき株主資本の額は、第38項の取得の対価の算定に準じて算定する。

(3)取得企業の株式以外の財産を交付した場合の会計処理

81. 企業結合の対価として、取得企業が自社の株式以外の財産を交付した場合には、当該交付した財産の時価と企業結合日の前日における適正な帳簿価額との差額を損益に計上する(第389項参照)。

(4)子会社が親会社株式を交付した場合(いわゆる三角合併などの場合)の会計処理

82. 子会社が親会社株式を支払対価として他の企業と企業結合する場合(いわゆる三角合併などの場合)には、次のように会計処理する(第390項参照)。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

前項に準じて会計処理を行う。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

個別財務諸表において計上された損益を、連結財務諸表上は資本取引として自己株式処分差額に振り替え、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下「自己株式等会計基準」という。)第9項、第10項及び第12項の定めに従って処理する。

8.吸収合併消滅会社の最終事業年度の会計処理

83. 吸収合併が取得とされた場合の吸収合併消滅会社の最終事業年度の財務諸表は、吸収合併消滅会社が継続すると仮定した場合の適正な帳簿価額による(第391項参照)。

9.逆取得となる吸収合併の会計処理

(1)吸収合併存続会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

増加資本の会計処理

(自社の株式を交付した場合の会計処理)

84. 企業結合が合併の形式をとる場合において、取得企業が法律上存続する会社(吸収合併存続会社)と異なる場合、吸収合併存続会社の個別財務諸表では、吸収合併消滅会社(取得企業)の資産及び負債を合併直前の適正な帳簿価額により計上し(企業結合会計基準第34項)、当該資産及び負債の差額を次のように会計処理する。[設例10]

なお、吸収合併存続会社が受け入れた自己株式(吸収合併消滅会社が保有していた吸収合併存続会社株式)は、吸収合併消滅会社における適正な帳簿価額により、吸収合併存続会社の株主資本からの控除項目として表示する。

(1) 新株を発行した場合の会計処理(第408項参照)

@ 株主資本項目の取扱い

ア 原則的な会計処理

吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。なお、抱合せ株式等がある場合には、第84-2項による。

また、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合及び抱合せ株式等の会計処理(第84-2項参照)により株主資本の額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

イ 認められる会計処理

合併の対価として吸収合併存続会社(被取得企業)が新株のみを発行している場合には、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目(ただし、積立目的の趣旨は同じであるが、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社の間でその名称が形式上異なる場合に行う積立金の名称変更を除く。)を、抱合せ株式等の会計処理(第84-2項参照)を除き、そのまま引き継ぐことができる。当該取扱いは、吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合も同様である。

また、吸収合併の手続とともに、株主資本の計数の変動手続(会社法第447条から第452条)が行われ、その効力が合併期日に生じる場合には、合併期日において、企業の意思決定機関で定められた結果に従い、株主資本の計数を変動させることができる。なお、株主資本の計数の変動に際しては、資本剰余金と利益剰余金の混同とならないように留意する必要がある(自己株式等会計基準第19項)。

A 株主資本以外の項目の取扱い

吸収合併存続会社(被取得企業)は、吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の評価・換算差額等及び新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぐ。したがって、例えば、吸収合併消滅会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額もそのまま引き継ぐことになる。

(2) 自己株式を処分した場合の会計処理(第410項参照)

@ 株主資本項目の取扱いにおける原則的な会計処理

吸収合併存続会社(被取得企業)は、吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額から処分した自己株式の帳簿価額を控除した差額を払込資本の増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少)として会計処理する。なお、抱合せ株式等がある場合には、第84-3項による。

A 株主資本項目の取扱いにおける認められる会計処理

合併の対価として吸収合併存続会社(被取得企業)の自己株式を処分した場合には、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の株主資本の構成をそのまま引き継ぎ、処分した自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除する(第410項参照)。なお、抱合せ株式等がある場合には、第84-3項による。

なお、株主資本以外の項目については、(1)Aに準じて会計処理する。

(抱合せ株式等の会計処理)

84-2. 逆取得となる吸収合併において新株を発行した場合、次の株式(抱合せ株式等)の額については、(1)又は(2)の処理を行う。

・吸収合併消滅会社等が保有していた当該会社の自己株式

・吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社株式(抱合せ株式)

(1) 株主資本項目の取扱いにおける原則的な会計処理(第84項(1)@ア参照)を行う場合、当該抱合せ株式等の額については、払込資本から減額する。

(2) 株主資本項目の取扱いにおける認められる会計処理(第84項(1)@イ参照)を行う場合、当該抱合せ株式等の額については、その他資本剰余金から減額する(第411項参照)。

84-3. 逆取得となる吸収合併において自己株式を処分した場合、抱合せ株式等(第84-2項参照)の額については、(1)又は(2)の処理を行う。

(1) 株主資本項目の取扱いにおける原則的な会計処理(第84項(2)@参照)を行う場合、当該抱合せ株式等の額については、第84項(2)@の差額から減額する。

(2) 株主資本項目の取扱いにおける認められる会計処理(第84項(2)A参照)を行う場合、当該抱合せ株式等の額については、その他資本剰余金から減額する(第411項参照)。

(吸収合併消滅会社の新株予約権者に新株予約権等を交付した場合の会計処理)

84-4. 吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社における新株予約権の適正な帳簿価額を引き継いだうえで、合併期日において、次のように処理する(第361項参照)。

(1) 吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して吸収合併存続会社等の新株予約権を交付する場合

吸収合併存続会社が交付した新株予約権は、吸収合併消滅会社から引き継いだ新株予約権の適正な帳簿価額を付す。

(2) 吸収合併消滅会社等の新株予約権者に対して現金を交付する場合

吸収合併消滅会社から引き継いだ新株予約権の適正な帳簿価額と交付した現金との差額は、新株予約権消却損益等、適切な科目をもって、損益に計上する。

会計処理方法の統一

84-5. 吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社との間で会計処理方法に違いがある場合には、同一の環境下で行われた同一の性質の取引等については会計処理方法の変更に準じて、適切と考えられる方法に統一する。会計処理方法の統一は、日本公認会計士協会 監査・保証実務委員会報告第56号「親子会社間の会計処理の統一に関する当面の監査上の取扱い」に準じて行う。

なお、退職給付引当金に係る会計基準変更時差異の費用処理年数が吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社の間で異なっていても、当該差異は「同一の環境下で行われた同一の性質の取引等」には該当せず、会計処理方法の統一は求められないと解される。したがって、企業結合後においても各結合当事企業が採用していた費用処理年数をそのまま引き継ぐものとする。

84-6. 会計処理方法の統一のための会計処理の変更は、原則として、吸収合併存続会社(結合後企業)が行い、会計処理方法の変更により生じた差額は企業結合年度の損益に計上する。

この場合、吸収合併存続会社は、原則として、合併期日に会計処理方法を変更し、変更により生じた差額は特別損益に計上する。

会計処理方法の統一は、吸収合併存続会社又は吸収合併消滅会社が合併計画の中で合併期日前に行うことも正当な理由に基づく会計方針の変更として認められるが、この場合には、変更に伴う損益等の影響額を適切に開示する。

複数の会計処理方法を統一する必要がある場合には、原則として、同一の事業年度に行うこととする。同一の事業年度に会計処理方法を統一できない場合には、その旨及び理由を開示する。

企業結合(合併)に要した支出額の会計処理

84-7. 株式交付費を含む合併に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として処理する。

(2)結合後企業の連結財務諸表上の会計処理

85. 第84項の逆取得となる吸収合併が行われた後に、結合後企業が連結財務諸表を作成する場合には、吸収合併存続会社を被取得企業としてパーチェス法を適用する。具体的には、吸収合併消滅会社(取得企業)の合併期日の前日における連結財務諸表上の金額(吸収合併消滅会社が連結財務諸表を作成していない場合には個別財務諸表上の金額をいう。)に、次の手順により算定された額を加算する。[設例10]

(1) 取得原価の算定

第36項(取得原価の算定方法の概要)と同様、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する。具体的な算定方法は、第37項から第50項に準じる。

ただし、取得の対価となる財の時価は、吸収合併存続会社(被取得企業)の株主が合併後の会社(結合後企業)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の吸収合併消滅会社(取得企業)の株式を、吸収合併消滅会社(取得企業)が交付したものとみなして算定する(企業結合会計基準(注1))。

なお、吸収合併消滅会社(取得企業)が吸収合併直前に吸収合併存続会社(被取得企業)の株式を保有していた場合には、合併期日の吸収合併存続会社の株式の時価と吸収合併消滅会社が交付したものとみなされた株式の時価を合算して取得の対価を算定し、吸収合併直前の吸収合併存続会社の株式の帳簿価額と合併期日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理されることとなる(第46-2項参照)。

投資会社である吸収合併消滅会社(取得企業)が持分法適用関連会社である吸収合併存続会社(被取得企業)と合併した場合には、吸収合併直前の被取得企業の株式(関連会社株式)の持分法による評価額と合併期日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益とし、これに見合う金額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される。

なお、合併期日直前の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される(第46-2 項参照)。

(2) 取得原価の配分

吸収合併存続会社(被取得企業)から受け入れた資産及び引き受けた負債の会計処理は第51項から第78項に準じて処理する。

(3) 増加すべき株主資本の会計処理

(1)で算定された取得の対価を払込資本に加算する。ただし、連結財務諸表上の資本金は吸収合併存続会社(被取得企業)の資本金とし、これと合併直前の連結財務諸表上の資本金(吸収合併消滅会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替える。

(3)結合後企業が連結財務諸表を作成しない場合の注記事項の算定基礎

86. 逆取得となる吸収合併が行われた後に、結合後企業が連結財務諸表を作成しない場合には、第85項に準じて算定された額を基礎として、パーチェス法を適用したとした場合に個別貸借対照表及び個別損益計算書に及ぼす影響額を注記する(企業結合会計基準第50項)。

10.逆取得となる吸収分割又は現物出資の会計処理

(1)吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

増加資本の会計処理

(自社の株式を交付した場合の会計処理)

87. 企業結合が吸収分割又は現物出資による子会社化の形式をとる場合(逆取得となる場合)、吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)の個別財務諸表上は、吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額により計上し、当該資産及び負債の差額を次のように会計処理する。なお、吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社が受け入れた自己株式(吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)から移転された吸収分割承継会社株式又は現物出資の受入会社株式)は、吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)における適正な帳簿価額により、吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)の株主資本からの控除項目として表示する。

(1) 新株を発行した場合の会計処理(第409項参照)

@ 移転事業に係る株主資本相当額の取扱い

吸収分割承継会社等に移転された(又は吸収分割会社等が移転した)事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額による差額からAの移転事業に係る評価・換算差額等及び新株予約権を控除した額(以下「移転事業に係る株主資本相当額」という。)を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。なお、抱合せ株式等がある場合には、第84-2項に準じて処理する。

また、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスになる場合及び抱合せ株式等の会計処理(第84-2項参照)により株主資本の額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

A 移転事業に係る評価・換算差額等の取扱い

吸収分割承継会社等に移転された(又は吸収分割会社等が移転した)事業に係る評価・換算差額等及び新株予約権(以下「移転事業に係る評価・換算差額等」という。)については、吸収分割会社又は現物出資会社の移転直前の適正な帳簿価額を引き継ぐ。

したがって、移転された事業にその他有価証券や土地再評価差額法に基づき再評価した土地が含まれ、吸収分割会社等が当該その他有価証券や土地を時価又は再評価額をもって分割期日の前日の貸借対照表価額としている場合には、吸収分割承継会社等は、分割期日の前日のその他有価証券及び土地の貸借対照表価額並びにその他有価証券評価差額金及び土地再評価差額金もそのまま引き継ぐことになる。

(2) 自己株式を処分した場合の会計処理

逆取得となる吸収合併における自己株式の原則的な会計処理(第84項(2)@参照)に準じて処理する。なお、抱合せ株式等がある場合には、第84-3項に準じて処理する。

会計処理方法の統一

87-2. 吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)と吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)から移転される事業の間で会計処理方法に違いがある場合には、同一の環境下で行われた同一の性質の取引等については会計処理方法の変更に準じて、適切と考えられる方法に統一する。具体的な会計処理方法の統一は第84-5項及び第84-6項に準じて行う。

分割期日の前日までの結合当事企業間の取引の会計処理

87-3. 分割期日又は現物出資の給付日の前日までの吸収分割承継会社又は現物出資の受入会社(被取得企業)と吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の間の取引は、原則として、第三者間取引として取り扱う。

会社分割又は現物出資に要した支出額の会計処理

87-4. 会社分割又は現物出資に要した支出額(株式交付費を含む。)は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(2)吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の会計処理

88. 企業結合が吸収分割又は現物出資による子会社化の形式をとる場合(逆取得に該当する場合)の吸収分割会社又は現物出資会社(取得企業)の個別財務諸表上及び連結財務諸表上の会計処理は、第98項及び第99項に従う。

11.分離元企業の会計処理

(1)移転した事業に係る適正な帳簿価額の算定

89. 分離元企業において、事業分離により移転した事業に係る資産及び負債の帳簿価額は、事業分離日の前日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した適正な帳簿価額のうち、移転する事業に係る金額を合理的に区分して算定する(事業分離等会計基準第10項)。

なお、適正な帳簿価額には、時価(又は再評価額)をもって貸借対照表価額としている場合の当該価額及び対応する評価・換算差額等の各内訳科目(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金)の額が含まれることに留意する必要がある。

90. 前項の適正な帳簿価額の算定にあたり、投資が継続しているとみる場合には、次のように事業分離が行われないものと仮定して、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を適用することとなる。

(1) 繰延税金資産の回収可能性

移転する事業に係る繰延税金資産の回収可能性を検討するにあたり、収益力に基づく課税所得等により判断する場合には、事業分離が行われないものと仮定した場合の将来年度の課税所得の見積額による(第107項参照)。

(2) 固定資産の減損処理

移転する事業に係る固定資産の減損の検討にあたり、将来キャッシュ・フローを見積る場合には、事業分離が行われないものと仮定した場合の経済的残存使用年数による。

(3) 退職給付引当金

移転する事業に係る退職給付引当金は、退職給付制度の終了の例外として、事業分離が行われないものと仮定した場合の適正な帳簿価額による。

(2)事業分離に要した支出額の会計処理

91. 事業分離に要した支出額は、分離元企業において、発生時の事業年度の費用として処理する(事業分離等会計基準第11項)。

ただし、次の場合のように、取得の対価性が認められる取得に直接要した支出額(第48項参照)は、新たな投資に係る取得原価(分離先企業から交付された株式等の取得原価)に含める。

(1) 分離先企業における企業結合が逆取得とされた場合の分離元企業が負担した当該企業結合に直接要した外部への支出額

(2) 移転した事業に関する投資が清算されたとみる場合において、現金以外の財の受取りに直接要した外部への支出額

(3)受取対価の時価

92. 移転損益を認識する場合の受取対価となる財の時価は、受取対価が現金以外の資産等の場合には、受取対価となる財の時価と移転した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定することとなる(事業分離等会計基準第12項)。

93. 市場価格のある分離先企業の株式が受取対価とされる場合には、受取対価となる財の時価は、事業分離日の株価を基礎にして算定する(事業分離等会計基準第13項)。

94. 分離先企業の株式などの受取対価又は移転した事業のいずれについても、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、次のいずれかを用いて算定された額を受取対価の額とすることができる(第393項参照)。

(1) 事業分離日の前日における分離先企業の識別可能な資産及び負債の時価に基づく正味の評価額のうち、受取対価相当額

(2) 事業分離日の前日における移転した事業に係る分離元企業の識別可能な資産及び負債の時価に基づく正味の評価額

この場合、識別可能な個々の資産及び負債の時価について、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、該当する資産及び負債について、その適正な帳簿価額を用いることができる。

12.分離先企業における企業結合が取得とされた場合の分離元企業の会計処理

(1)受取対価が現金等の財産のみである場合(事業譲渡など)の分離元企業の会計処理

子会社を分離先企業として行われた事業分離の場合

95. 分離元企業の子会社に事業分離し、その対価として現金等の財産のみを受け取った場合には、共通支配下の取引として取り扱う(事業分離等会計基準第14項)(第223項及び第225項参照)。

なお、分離元企業の会計処理において、現金等の財産とは、移転した事業と明らかに異なる資産が該当し、分離先企業の株式は含まれない(この点については、事業分離等会計基準第10項(1)を参照のこと)。これには、分離先企業の支払能力に左右されない資産や、分離先企業の支払能力の影響を受けるものの、代金回収条件が明確かつ妥当であり、回収が確実と見込まれる資産が含まれる。ただし、分割比率等に端数があるために生じた交付金は現金等の財産に含めないこととする。また、利益配当の代替としての交付金の部分は、受取対価には含まれない。

子会社以外を分離先企業として行われた事業分離の場合

96. 分離元企業の子会社以外に事業分離し、その対価として現金等の財産のみを受け取った場合には、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準第15項及び第16項)。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、時価に対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算した額により計上し、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)との差額は、移転損益として認識する。

ただし、一般的な売却や交換と同じように、次のような分離元企業の重要な継続的関与によって、分離元企業が移転した事業に係る成果の変動性を従来と同様に負っている場合には、移転損益を認識することはできないことに留意する必要がある(本適用指針において、移転損益を認識するとしている場合には、同様の留意が必要となる。)(事業分離等会計基準第10項及び第76項)。

@ 移転した事業に対し買戻しの条件が付されている場合

A 移転した事業から生じる財貨又はサービスの長期購入契約により当該事業のほとんどすべてのコスト(当該事業の取得価額相当額を含む。)を負担する場合

(2) 連結財務諸表上の会計処理

分離元企業の関連会社に事業を移転したことにより認識された移転損益は、持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。

(2)受取対価が分離先企業の株式のみである場合(会社分割など)の分離元企業の会計処理

97. 会社分割等、事業分離の対価として分離先企業の株式のみを受け取った場合には、当該分離先企業に対する分離元企業の株式の持分比率等により、分離先企業は次のように分類される。

(1) 事業分離により分離先企業が子会社となる場合(第98項から第99項参照)

(2) 事業分離により分離先企業が関連会社となる場合(第100項から第102項参照)

(3) 事業分離により分離先企業が共同支配企業の形成となる場合(第196項及び第197項参照)

(4) 事業分離により分離先企業が(1)から(3)以外となる場合(第103項参照)

なお、(1)の場合には、分離先企業の企業結合が分離元企業を取得企業とする「逆取得」に該当することとなる。

97-2. 資産を移転し移転先の企業の株式を受け取る場合(事業分離に該当する場合を除く。)において、移転元の企業の会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて行う(事業分離等会計基準第31項)。このため、実務対応報告第6号「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い」にかかわらず、移転先の企業が子会社又は関連会社となる場合及び共通支配下の取引には、本適用指針の定めが優先して適用される。

分離先企業が子会社となる場合

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合)

98. 事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合には、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準第17項)。[設例11-1]

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する。したがって、分離元企業は、移転損益を認識しない。分離先企業の株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(第108項(2)参照)とともに、対価性が認められる取得に直接要した支出額を加算する(第91項参照)ことに留意する必要がある。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、当該マイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する(第394項参照)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

子会社(分離先企業)に係る分離元企業(親会社)の持分の増加額(Aイの金額)と移転した事業に係る分離元企業(親会社)の持分の減少額(@アの金額)との差額は、原則として、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)に区分して会計処理する。ただし、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)のいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて会計処理することができる。

@ 持分変動差額の計上

次のアとイの差額を持分変動差額とし、原則として事業分離日の属する事業年度の特別損益に計上する。(連結会計基準第30項及び同(注9))。

ア 移転した事業に係る分離元企業(親会社)の持分の減少額(移転事業に係る株主資本相当額に移転した事業に係る減少した親会社の持分比率を乗じた額)

イ 分離元企業(親会社)の事業が移転されたとみなされる額(移転した事業の事業分離直前の時価に移転した事業に係る減少した親会社の持分比率を乗じた額)

なお、持分変動差額は、子会社株式(分離先企業の株式)の取得原価とこれに対応する分離元企業(親会社)の持分との差額として算定することもできる。

A のれん(又は負ののれん)の計上

次のアとイの差額をのれん(又は負ののれん)とし、第72項及び第76項から第78項並びに資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第396項及び第397項参照)。

ア 分離先企業に対して投資したとみなされる額(子会社となる分離先企業(被取得企業)の事業分離直前の時価に事業分離により増加する親会社の持分比率を乗じた額であり、@イの金額と同額となる。)に、対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算した額

イ これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(子会社となる分離先企業(被取得企業)の企業結合日における識別可能資産及び負債の時価に事業分離に関して生じた親会社の持分比率を乗じた額)

ただし、共同新設分割による子会社の設立のように、子会社となる分離先企業の個別財務諸表上、被取得企業の事業を取得し、のれん(又は負ののれん)が計上されている場合には、分離先企業(子会社)の個別財務諸表に計上されているのれん(又は負ののれん)を連結財務諸表上もそのまま計上することができる。なお、この方法による場合ののれん(又は負ののれん)の額と、Aの方法により算定されたのれん(又は負ののれん)との差額が、少数株主持分の金額に影響を与えることになる。[設例11-2]

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していた場合)

99. 事業分離により分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合において、分離元企業が事業分離前に分離先企業の株式をその他有価証券(売買目的有価証券の場合を含む。以下同じ。)又は関連会社株式として保有していた場合には、前項に準じて処理するが、次の点に留意する。[設例11-3]

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業が追加的に受け取った分離先企業の株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する(事業分離等会計基準第18項(1))。

また、分離元企業の個別財務諸表上、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、まず、事業分離前から保有していた分離先企業の株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する(第394項参照)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

分離元企業の連結財務諸表上、のれん(又は負ののれん)については、次の@とAの差額として算定する(持分変動差額については、第98項(2)@に準じて処理する。)(事業分離等会計基準第18項(2))。

@ 分離先企業に対して投資したとみなされる額

第98項(2)Aアに相当する金額に、事業分離前に分離元企業が保有していた分離先企業の株式の事業分離日の時価を加算して算定する。なお、その時価と適正な帳簿価額との差額(その他有価証券としていた場合)又はその持分法による評価額との差額(関連会社株式としていた場合)は、当期の段階取得に係る損益として処理される(第46-2項参照)。

A これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(第98 項(2)Aイに相当する金額となる。)

なお、分離元企業が事業分離前に分離先企業の株式を子会社株式として保有しており、事業分離により分離先企業の株式(子会社株式)を追加取得した場合には、共通支配下の取引として取り扱う(事業分離等会計基準第19項)(第226項及び第229項参照)。

分離先企業が関連会社となる場合

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合)

100. 事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合には、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準第20 項)。[設例12-1]

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業が受け取った分離先企業の株式(関連会社株式)の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する。したがって、分離元企業は、移転損益を認識しない。分離先企業の株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(第108項(2)参照)とともに、対価性が認められる取得に直接要した支出額を加算する(第91項参照)ことに留意する必要がある。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、第98項(1)なお書きに準じて処理する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

連結財務諸表の作成にあたり、関連会社(分離先企業)に対する持分法適用において、関連会社に係る分離元企業(投資会社)の持分の増加額と、移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額との間に生じる差額は、原則として、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)に区分して会計処理する。ただし、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)のいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて処理することができる。

なお、持分法適用において、関連会社に係る分離元企業の持分の増加額は、持分法会計基準及び日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」(以下「持分法実務指針」という。)に従い、関連会社(分離先企業)に対する投資に対応する分離先企業の事業分離直前の資本(分離先企業の事業分離直前の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)に事業分離により増加する分離元企業の持分比率を乗じた額であり、Aイに相当する金額)として算定される。

@ 持分変動差額の計上

次のアとイの差額を持分変動差額とし、原則として事業分離日の属する事業年度の特別損益に計上する(連結会計基準第30項及び同(注9))。

ア 移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額(移転事業に係る株主資本相当額に移転した事業に係る減少した分離元企業の持分比率を乗じた額)

イ 分離元企業の事業が移転されたとみなされる額(移転した事業の事業分離直前の時価に移転した事業に係る減少した分離元企業の持分比率を乗じた額)

A のれん(又は負ののれん)の計上

次のアとイの差額をのれん(又は負ののれん)として、第72項及び第76項から第78項に準じて処理する。

ア 分離先企業に対して投資したとみなされる額(分離先企業の事業分離直前の時価に事業分離により増加する分離元企業の持分比率を乗じた額であり、@イの金額と同額となる。)

イ これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(関連会社に係る分離元企業の持分の増加額)

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式(その他有価証券)を保有していた場合)

101. 事業分離により分離先企業が新たに分離元企業の関連会社となる場合において、分離元企業が事業分離前に分離先企業の株式を有していた場合(事業分離前に分離先企業の株式をその他有価証券として保有していた場合)には、前項に準じて処理する。[設例12-2]

ただし、分離元企業の個別財務諸表上、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、第99項(1)また書きに準じて処理する。

また、分離元企業の連結財務諸表上、のれん(又は負ののれん)については、次の(1)と(2)の差額として算定する(持分変動差額については、前項(2)@に準じて処理する。)(事業分離等会計基準第21項)。

(1) 分離先企業に対して投資したとみなされる額(前項(2)Aアに相当する金額に、事業分離前に分離元企業がその他有価証券として保有していた分離先企業の株式の帳簿価額を加算した金額)

(2) これに対応する分離先企業の事業分離直前の資本(その取引ごとに対応する分離先企業の資本の合計額)

なお、この(2)の額は、持分法会計基準及び持分法実務指針に従い、その取引ごとに対応する分離先企業の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、取得日ごとに資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)に増加する分離元企業の持分比率を乗じた額の合計として算定される。

(事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式(関連会社株式)を保有していた場合)

102. 事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を関連会社株式として有しており、事業分離により分離先企業の株式(関連会社株式)を追加取得した場合には、第100項に準じて処理する(事業分離等会計基準第22項)。[設例12-3]

分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合

103. 事業分離により分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合(分離先企業の株式がその他有価証券に分類される場合)には、分離元企業の個別財務諸表上、原則として、移転損益を認識する。また、当該分離先企業の株式の取得原価は、移転した事業に係る時価又は当該分離先企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価に基づいて算定する(事業分離等会計基準第23項)。

分離先企業の株式の取得原価の算定にあたっては、対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算することに留意する必要がある。

(3)受取対価が現金等の財産と分離先企業の株式である場合の分離元企業の会計処理

分離先企業が子会社となる場合

104. 子会社へ事業分離する場合や事業分離により分離先企業が新たに子会社となる場合において、その対価として現金等の財産(第95項参照)と分離先企業の株式を受け取った場合には、共通支配下の取引又はこれに準じて取り扱う(事業分離等会計基準第24項)(第230項及び第232項参照)。なお、事業分離前に分離先の企業の株式を保有していた場合には、第99項に準じて処理する(事業分離等会計基準第24項(2)なお書き)。

分離先企業が関連会社となる場合

105. 関連会社へ事業分離する場合や事業分離により分離先企業が新たに関連会社となる場合において、その対価として現金等の財産と分離先企業の株式を受け取った場合、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準第25項)。[設例13]

(1) 個別財務諸表上の会計処理

分離元企業で受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上する。この結果、当該時価が移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を上回る場合には、原則として、当該差額を移転利益として認識(受け取った分離先企業の株式の取得原価はゼロとする。)し、下回る場合には、当該差額を受け取った分離先企業の株式の取得原価とする。分離先企業から受け取った現金以外の財産(分離先企業の株式を含む。)の取得原価の算定にあたっては、対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算することに留意する必要がある。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合、受け取った現金等の財産の時価と等しい金額については、移転利益に計上し、マイナスとなる移転事業に係る株主資本相当額については、まず、事業分離前から保有している分離先企業の株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する(第395項参照)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

事業分離により分離先企業が新たに関連会社となる場合や関連会社に事業を移転したことにより認識された移転利益は、持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。また、関連会社に係る分離元企業の持分の増加額と移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額との間に生じる差額は、第100項から第102項に準じ、原則として、のれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分して処理する。

分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合

106. 子会社、関連会社及び共同支配企業以外へ事業分離した後も引き続き分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外である場合や事業分離により分離先企業が子会社、関連会社及び共同支配企業以外となる場合(分離先企業の株式がその他有価証券に分類される場合)において、その対価として現金等の財産と分離先企業の株式を受け取った場合、分離元企業は、原則として、移転損益を認識する。

また、当該分離先企業の株式の取得原価は、移転した事業に係る時価又は当該分離先企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価に基づいて算定する(事業分離等会計基準第26項)。なお、その時価が移転した事業に係る時価の場合、当該分離先企業の株式の取得原価は、当該移転した事業に係る時価と対価として受け取った現金等の財産の時価との差額として算定する。

分離先企業から受け取った現金以外の財産(分離先企業の株式を含む。)の取得原価の算定にあたっては、対価性が認められる取得に直接要した支出額(第91項参照)を加算することに留意する必要がある。

(4)分離元企業の税効果会計

分離元企業の繰延税金資産の回収可能性

107. 事業分離日の属する事業年度の前期末(事業分離日の前日における仮決算を含む。)において、分離元企業から移転する事業に係る資産及び負債の一時差異に対して計上する繰延税金資産の回収可能性は、次のように判断する。

(1) 分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断し、分離先企業の将来年度の収益力に基づく課税所得等は勘案しない(第399項参照)。

(2) ただし、投資が継続しているとみる場合には、事業分離が行われないものと仮定した移転する事業に係る将来年度の収益力に基づく課税所得等を勘案して判断する。

具体的には、事業分離が行われないものと仮定したときの分離元企業の将来年度の収益力に基づく課税所得等の見積額を、移転する事業に係る額と残存する事業に係る額とに区分し、移転する事業に係る課税所得等を基礎として回収可能性の判断を行う。また、移転する事業において課税所得等と相殺し切れなかった将来減算一時差異が生じ、残存する事業では相殺後に課税所得等の残余が生じている場合には、原則としてこれらを相殺することにより移転する事業に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する。

なお、分離元企業に残存する事業に係る資産及び負債の一時差異に対して計上する繰延税金資産の回収可能性については、事業分離を考慮した実際の分離元企業における将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断する(第400項参照)。[設例36]

分離元企業の繰延税金資産及び繰延税金負債の計上額

108. 分離元企業において、事業分離により移転する事業に係る資産及び負債が、分離先企業の株式など現金以外の受取対価と引き換えられ、新たに貸借対照表上、当該受取対価が計上される場合において、これらの金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額(税務上の帳簿価額)との間に生じる差額(一時差異)に対する税効果会計の適用については、次のように取り扱う。

(1) 原則として、事業分離日以後最初に到来する事業年度末に適用する。したがって、期末に繰延税金資産及び繰延税金負債が計上され、その差額を期首と期末で比較した増減額が法人税等調整額として計上されることとなる(第401項参照)。

(2) ただし、投資が継続しているとみる場合には、移転損益を認識せず、事業分離日において移転する繰延税金資産及び繰延税金負債(移転した事業に係る資産及び負債の一時差異及び当該事業分離に伴い新たに生じた一時差異(税務上の移転損益相当額)に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の適正な帳簿価額であって、繰延税金資産については第107項(2)に準じて回収可能性があると判断されたもの。以下同じ。)の額を、分離先企業の株式の取得原価に含めずに、分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として計上する(第402項参照)。[設例37]

この場合、当該分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産については、従来の事業に係る投資が継続しているものとみて、事業分離日において移転する繰延税金資産を置き換えるものであるため、日本公認会計士協会 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」5(2)を参考として、例示区分@の会社に加え、例示区分A、B及びCただし書きの会社についても、その回収可能性があると判断できるものとする。このように取り扱う場合であっても、当該分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産については、事業分離後に事業分離日において移転する繰延税金資産の額以上に計上されることはないものとする。また、事業分離後、分離元企業が例示区分C(ただし書きの場合を除く。)の会社となった場合には、翌期における解消額に係る繰延税金資産の額を除き、当該繰延税金資産の回収可能性はないものと判断し、例示区分Dの会社となった場合には、当該繰延税金資産の回収可能性はないものと判断することに留意する必要がある。

分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の取扱い

109. 分割期日が分離元企業の期首である分割型の会社分割において、適格組織再編(適格合併等、税務上、簿価引継又は簿価譲渡として取り扱われる組織再編をいう。以下同じ。)に該当しない場合、分割期日の前日である前期末において、税務上の移転損益に係る未払法人税等と当該一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債が計上されるが、当該繰延税金資産の回収可能性の判断についても、原則として、第107項(1)と同様に、分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断する(第403項参照)。

13.取得とされた株式交換の会計処理

(1)株式交換完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

子会社株式の取得原価の算定

110. 株式交換完全親会社が取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、第36項(取得原価の算定方法の概要)と同様、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する。具体的な算定は、第37項から第50項に準じて行う。[設例14]

ただし、株式交換完全親会社が作成する連結財務諸表において、みなし取得日に株式交換が行われたものとして会計処理する場合(第117項参照)には、個別財務諸表上も第38項における企業結合日をみなし取得日と読み替えることとする。

また、株式交換完全親会社が、株式交換日の前日に株式交換完全子会社となる企業の株式を保有していた場合、株式交換日の前日の適正な帳簿価額により、子会社株式に振り替える(第46項参照)。

株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

110-2.株式交換に際して、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、第50項に準じて、当該新株予約権又は新株予約権付社債の時価を子会社株式の取得原価に加算するとともに、同額を新株予約権又は新株予約権付社債として純資産の部又は負債の部に計上する(第404-2項参照)。

増加資本の会計処理

(株式交換完全親会社が新株を発行した場合の会計処理)

111. 企業結合の対価として、株式交換完全親会社が新株を発行した場合には、払込資本(資本金又は資本剰余金)の増加として会計処理する。

なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

また、増加すべき株主資本の額は、第110 項の取得の対価の算定に準じて処理する。

(株式交換完全親会社が自己株式を処分した場合の会計処理)

112. 企業結合の対価として、株式交換完全親会社が自己株式を処分した場合には、増加すべき株主資本の額(自己株式の処分の対価の額。新株の発行と自己株式の処分を同時に行った場合には、新株の発行と自己株式の処分の対価の額。)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少)として会計処理する(第388項参照)。

なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

また、増加すべき株主資本の額は、第110項の取得の対価の算定に準じて算定する。

(株式交換完全親会社が自社の株式以外の財産を交付した場合の会計処理)

113. 企業結合の対価として、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主に対して、株式交換完全親会社の株式以外の財産を交付した場合は、当該交付した財産の時価と企業結合日の前日における適正な帳簿価額との差額を株式交換日において、株式交換完全親会社の損益に計上する。

(子会社が親会社の株式を対価として株式交換した場合の会計処理)

114. 子会社が親会社株式を支払対価として他の企業と株式交換を行う場合には、次のように会計処理する。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

前項に準じて会計処理を行う。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

個別財務諸表において計上された損益を、連結財務諸表上は資本取引として自己株式処分差額に振り替え、自己株式等会計基準第9項、第10項及び第12項の定めに従って処理する。

株式交換完全親会社の税効果会計

115. 株式交換完全親会社が受け入れた子会社株式(株式交換完全子会社の株式)に係る一時差異(取得のときから生じていたものに限る。)に関する税効果は認識しない(第404項参照)。

ただし、予測可能な期間に当該子会社株式を売却する予定がある場合(一部売却で売却後も子会社又は関連会社にとどまる予定の場合には売却により解消する部分の一時差異に限る。)、又は売却その他の事由により当該子会社株式がその他有価証券として分類されることとなる場合には、当該一時差異に対する税効果を認識する。

なお、株式交換後に当該子会社株式に生じた一時差異は、通常の税効果会計の取扱いによる。

(2)株式交換完全子会社の個別財務諸表上の会計処理

115-2.株式交換に際して、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式交換日の前日に株式交換完全子会社で付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

(3)株式交換完全親会社の連結財務諸表上の会計処理

投資と資本の消去

116. 株式交換による企業結合が取得とされた場合の資本連結手続は、連結会計基準に従い、次の(1)と(2)を相殺消去する(連結会計基準第23項)。また、両者の消去差額であるのれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項から第78項に準じて会計処理する。[設例14]

(1) 株式交換完全親会社の投資

株式交換完全親会社の投資は、第110 項により算定された子会社株式の取得原価とする。

なお、株式交換完全親会社が、株式交換日の前日に株式交換完全子会社となる企業の株式を保有していた場合、株式交換日の時価に基づいて子会社株式に振り替えて取得原価に加算し、その時価と適正な帳簿価額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理される(第46-2項参照)。[設例14-2][設例14-3]

投資会社が持分法適用関連会社と企業結合した場合には、株式交換日の前日の被取得企業の株式(関連会社株式)の持分法による評価額と株式交換日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益とし、これに見合う金額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される。なお、株式交換日の前日の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される(第46-2項参照)。

(2) 株式交換完全子会社の資本

株式交換完全子会社の資本は、取得原価の配分方法(第51項から第78項参照)に準じて算定された識別可能資産及び負債の差額とする。

(4)株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

117. 株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合には、連結会計基準(注5)に従い、株式交換日の前後いずれかの決算日(みなし取得日)に株式交換が行われたものとみなして会計処理することができる。この場合、第38項の企業結合日をみなし取得日と読み替える。ただし、みなし取得日は、企業結合の主要条件が合意されて公表された日以降としなければならない。

14.逆取得となる株式交換の会計処理(株式交換完全子会社が取得企業となる場合)

(1)株式交換完全親会社(被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

増加資本の会計処理

(株式交換完全親会社が新株を発行した場合の会計処理)

117-2.企業結合の対価として、株式交換完全親会社が新株を発行した場合には、払込資本(資本金又は資本剰余金)の増加として会計処理する。

なお、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

また、増加すべき株主資本の額は、第118項の株式交換完全子会社株式(取得企業株式)の取得原価に準じて算定する。

(株式交換完全親会社が自己株式を処分した場合の会計処理)

117-3.逆取得となる吸収合併における自己株式の原則的な会計処理(第84項(2)@参照)に準じて処理する。

子会社株式の取得原価の算定

118. 組織再編が株式交換の形式をとる場合において、逆取得となるとき(株式交換完全親会社が被取得企業となり、株式交換完全子会社が取得企業となるとき)には、株式交換完全親会社の個別財務諸表上、当該株式交換完全親会社が取得する株式交換完全子会社株式(取得企業株式)の取得原価は、株式交換日の前日における株式交換完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する(企業結合会計基準第36項)。

株式交換完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

118-2.株式交換に際して、株式交換完全親会社(被取得企業)が株式交換完全子会社(取得企業)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社(被取得企業)が新株予約権付社債を承継する場合には、株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社(取得企業)の株式交換日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額(第118項参照)に、株式交換完全子会社(取得企業)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して、子会社株式の取得原価を算定する。また、株式交換完全親会社(被取得企業)は、株式交換日の前日に株式交換完全子会社(取得企業)で付されていた適正な帳簿価額により新株予約権又は新株予約権付社債の適正な帳簿価額を純資産の部又は負債の部に計上する(第404-2項参照)。

(2)株式交換完全子会社(取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

118-3.株式交換に際して、株式交換完全親会社(被取得企業)が株式交換完全子会社(取得企業)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社(被取得企業)が新株予約権付社債を承継する場合、株式交換完全子会社(取得企業)は、株式交換日の前日に付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

118-4.株式交換に際して、株式交換完全子会社(取得企業)が株式交換日の前日に株式交換完全親会社(被取得企業)となる企業の株式を保有していた場合、株式交換完全親会社(被取得企業)の株式を株式交換日の前日の適正な帳簿価額により、取得原価とする。

(3)株式交換後の連結財務諸表上の会計処理

119. 株式交換完全子会社(取得企業)は、株式交換完全親会社(被取得企業)を被取得企業としてパーチェス法を適用する。具体的には、株式交換日の前日における株式交換完全子会社(取得企業)の連結財務諸表上の金額(連結財務諸表を作成していない場合には個別財務諸表上の金額)に、次の手順により算定された額を加算する。

(1) 取得原価の算定

第36項(取得原価の算定方法の概要)と同様、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する。具体的な算定方法は、第37項から第50項に準じる。

ただし、取得の対価となる財の時価は、株式交換完全親会社(被取得企業)の株主が結合後企業(株式交換完全親会社)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の株式交換完全子会社(取得企業)の株式を、株式交換完全子会社(取得企業)が交付したものとみなして算定する(企業結合会計基準(注1))。

なお、株式交換完全子会社(取得企業)が株式交換日の前日に株式交換完全親会社(被取得企業)となる企業の株式を保有していた場合には、株式交換日の時価に基づく額を取得原価に加算し、その時価と適正な帳簿価額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理される(第46-2項参照)。

投資会社が持分法適用関連会社と企業結合した場合には、株式交換日の前日の被取得企業の株式(関連会社株式)の持分法による評価額と株式交換日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益とし、これに見合う金額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される。なお、株式交換日の前日の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される(第46-2項参照)。

(2) 取得原価の配分

株式交換完全親会社(被取得企業)となる企業から受け入れた資産及び引き受けた負債の会計処理は第51 項から第78 項に準じて処理する。

(3) 増加すべき株主資本の会計処理

(1)で算定された取得の対価を払込資本に加算する。

ただし、連結財務諸表上の資本金は株式交換完全親会社(被取得企業)の資本金とし、これと株式交換直前の連結財務諸表上の資本金(株式交換完全子会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替える。

15.取得とされた株式移転の会計処理

(1)株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

子会社株式の取得原価の算定

120. 株式移転による共同持株会社の設立の形式をとる企業結合が取得とされた場合には、取得企業の決定規準に従い、いずれかの株式移転完全子会社を取得企業として取り扱う。

121. 株式移転設立完全親会社が受け入れた株式移転完全子会社株式(取得企業株式及び被取得企業株式)の取得原価は、それぞれ次のように算定する。[設例15]

(1) 子会社株式(取得企業株式)

@ 原則的な取扱い

株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。

A 簡便的な取扱い

株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日に算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が受け入れた子会社株式(取得企業株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができる(第404-3項参照)。

(2) 子会社株式(被取得企業株式)

被取得企業株式の取得原価については、第36項(取得原価の算定方法の概要)と同様、取得の対価に、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する。具体的な算定方法は、第37項から第50項に準じる。

ただし、取得の対価となる財の時価は、株式移転完全子会社(被取得企業)の株主が株式移転設立完全親会社(結合後企業)に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な数の株式移転完全子会社(取得企業)の株式を、株式移転完全子会社(取得企業)が交付したものとみなして算定する。

また、株式移転設立完全親会社が作成する連結財務諸表において、みなし取得日に株式移転が行われたものとして会計処理する場合(第126項参照)には、個別財務諸表上も第38項における企業結合日をみなし取得日と読み替えることとする。

株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

121-2. 株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転設立完全親会社は、株式移転完全子会社株式(取得企業株式又は被取得企業株式)の取得原価を次のように算定する(第404-2項参照)。

(1) 子会社株式(取得企業株式)

@ 原則的な取扱い(第121項(1)@参照)

第121項(1)@により算定された子会社株式の取得原価に、株式移転完全子会社(取得企業)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算する。また、株式移転設立完全親会社は、株式移転日の前日に株式移転完全子会社(取得企業)で付されていた新株予約権又は新株予約権付社債の適正な帳簿価額を純資産の部又は負債の部に計上する。

A 簡便的な取扱い(第121項(1)A参照)

第121項(1)Aにより子会社株式の取得原価を算定する場合であっても、株式移転完全子会社(取得企業)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額に加算する。

(2) 子会社株式(被取得企業株式)

第121項(2)により算定された子会社株式の取得原価に、当該新株予約権又は新株予約権付社債の時価を加算するとともに、同額を新株予約権又は新株予約権付社債として純資産の部又は負債の部に計上する(第50項参照)。

株式移転設立完全親会社の増加資本の会計処理

122. 株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は、払込資本(資本金又は資本剰余金)とし、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本の額は第121項の取得の対価の算定に準じる。

株式移転設立完全親会社の税効果会計

123. 株式移転設立完全親会社が受け入れた子会社株式(取得企業及び被取得企業の株式)に係る一時差異(取得のときから生じていたものに限る。)に関する税効果の取扱いは第115項に準じる。[設例33]

(2)株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理

123-2. 株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合、株式移転完全子会社は、株式移転日の前日に付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

123-3. 株式移転に際して、株式移転完全子会社(取得企業)が株式移転日の前日に他の株式移転完全子会社(被取得企業)となる企業の株式を保有していた場合、株式移転日の前日の適正な帳簿価額により、取得原価とする。

(3)株式移転設立完全親会社の連結財務諸表上の会計処理

投資と資本の消去

124. 株式移転による企業結合が取得とされた場合の資本連結の手続は、連結会計基準に従い、次の(1)@とA及び(2)@とAをそれぞれ相殺消去する(連結会計基準第23項)。また、(2)の消去差額であるのれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項から第78項に準じて会計処理する。[設例15]

(1) 株式移転完全子会社(取得企業)に関する会計処理

@ 株式移転設立完全親会社の取得企業に対する投資

株式移転設立完全親会社の投資は、第121 項(1)により算定された子会社株式の取得原価とする。

A 株式移転完全子会社(取得企業)の資本

株式移転完全子会社(取得企業)の資本は、取得企業の適正な帳簿価額による株主資本とする。

両者はいずれも取得企業の適正な帳簿価額を基礎とした金額のため、消去差額は生じない。

(2) 株式移転完全子会社(被取得企業)に関する会計処理

@ 株式移転設立完全親会社の被取得企業に対する投資

株式移転設立完全親会社の投資は、第121項(2)により算定された子会社株式の取得原価とする。

なお、株式移転完全子会社(取得企業)が株式移転日の前日に他の株式移転完全子会社(被取得企業)となる企業の株式を保有していた場合、株式移転日の時価に基づく額を取得原価に加算し、その時価と適正な帳簿価額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理される(第46-2項参照)。

投資会社である取得企業が持分法適用関連会社である被取得企業と企業結合した場合には、株式移転日の前日の被取得企業の株式(関連会社株式)の持分法による評価額と株式移転日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益とし、これに見合う金額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される。なお、株式移転日の前日の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額を、のれん(又は負ののれん)の修正として処理される(第46-2項参照)。

A 株式移転完全子会社(被取得企業)の資本

株式移転完全子会社(被取得企業)の資本は、取得原価の配分(第51項から第78項参照)に準じて算定された識別可能資産及び負債の差額とする。

株式移転完全子会社(取得企業)の資産及び負債の引継ぎ

125. 連結財務諸表上、株式移転設立完全親会社は株式移転完全子会社(取得企業)の資産及び負債の適正な帳簿価額を、原則として、そのまま引き継ぐ。ただし、株式移転完全子会社(取得企業)が連結財務諸表を作成している場合には、株式移転完全子会社の連結財務諸表上の帳簿価額で受け入れる。[設例15]

ただし、連結財務諸表上の資本金は株式移転設立完全親会社の資本金とし、これと株式移転直前の株式移転完全子会社(取得企業)の資本金が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替える。

株式移転日が株式移転完全子会社(被取得企業)の決算日以外の日である場合の取扱い126. 第117項(株式交換日が株式交換完全子会社の決算日以外の日である場合の取扱い)と同様に取り扱う。

127. (以下、第174項まで削除)

W.共同支配企業の形成の判定

1.共同支配企業の形成の判定規準

(1)共同支配企業の形成の判定規準の概要

175. 企業結合のうち、次の要件のすべてを満たすものは共同支配企業の形成と判定するとされている(企業結合会計基準第37項)。[付録:フローチャート参照]

(1) 共同支配投資企業となる企業は、複数の独立した企業から構成されていること(以下「独立企業要件」という。)(第177項参照)

(2) 共同支配投資企業となる企業が共同支配となる契約等を締結していること(以下「契約要件」という。)(第178項及び第179項参照)

(3) 企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であること(以下「対価要件」という。)(第180項参照)

(4) (1)から(3)以外に支配関係を示す一定の事実が存在しないこと(以下「その他の支配要件」という。)(第181項参照)

(3)の対価要件については、共同支配投資企業となる企業に支払われた対価を前提とした定めであり、一般投資企業(第176項参照)に対するものは含まれない。

(2)一般投資企業が含まれる場合における共同支配企業の形成の判定

176. 共同支配投資企業となる企業の有する議決権の合計が、共同支配企業となる結合後企業の議決権の過半数を占めており、かつ、共同支配投資企業となる企業が第175 項の要件のすべてを満たす場合には、共同支配企業へ投資する企業の中に次のいずれかに該当する企業(以下「一般投資企業」という。)が含まれていても、当該企業結合は共同支配企業の形成に該当するものとして取り扱う(第422項参照)。

(1) 共同支配となる契約等を締結していないが共同支配企業へ投資する企業

(2) 共同支配となる契約等を締結し、共同支配企業へ投資する企業の役割が契約書に明示されていても、事実上、共同支配企業の重要な役割を担っていないと認められる当該企業(第178項(1)参照)

2.独立企業要件の取扱い

177. 共同支配企業の形成の判定にあたり、共同支配企業へ投資する企業とその子会社、緊密な者及び同意している者は単一企業とみなす(緊密な者及び同意している者については、企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」第8項を参照のこと。)(第423項参照)。

したがって、共同支配企業へ投資する企業がこれらの者のみから構成されている場合には、共同支配企業の形成には該当しない。

3.契約要件の取扱い

(1)共同支配となる契約等の要件

178. 共同支配企業の形成の判定にあたり、契約要件を満たすためには、契約等は文書化されており、次のすべてが規定されていなければならない(第424項及び第428項参照)。

(1) 共同支配企業の事業目的が記載され、当該事業遂行における各共同支配投資企業の重要な役割分担が取り決められていること(第425項参照)

なお、各共同支配投資企業の重要な役割分担が契約書に記載されていても、実態が伴っていない場合には本要件を満たしたことにはならない。

(2) 共同支配企業の経営方針及び財務に係る重要な経営事項の決定は、すべての共同支配投資企業の同意が必要とされていること(第426項参照)

重要な経営事項とは、一般に取締役会及び株主総会の決議事項とされるものをいい、例えば、予算及び事業計画、重要な人事、多額の出資、多額の資金調達・返済、第三者のための保証、株式の譲渡制限、取引上重要な契約、重要資産の取得・処分、事業の拡大又は撤退等があげられる。

なお、ある重要な経営事項の決議の際に賛成しなくとも積極的に反対しない限りは、その決議事項につき賛成したものとみなすこととしている場合には、原則として、「すべての共同支配投資企業の同意が必要とされていること」に該当せず、本要件を満たしたことにはならない。ただし、共同支配企業の経営への関与の仕方が他の共同支配投資企業となる企業と異ならないと認められるような場合(例えば、ある重要な経営事項の決議に係る上記の取扱いが当該共同支配投資企業の役割((1)参照)とは関連性の薄い経営事項に限定されている場合など)には、本要件を満たしたものとして取り扱う(第427項参照)。

(2)株主間の事前承認規定

179. 重要な経営事項を共同支配企業の意思決定機関で決議する前に、すべての共同支配投資企業の事前承認が必要である旨、規定されている場合には、第178 項(2)の要件を満たすものとして取り扱う。

4.対価要件の取扱い

180. 共同支配企業の形成の判定にあたり、「議決権のある株式」(企業結合会計基準第37項(1))(第175項(3)参照)とは、株主総会において、第178項(2)に規定されている重要な経営事項に関する議決権が制限されていない株式をいう。

したがって、一般に、共同支配企業となる結合後企業が、企業結合の対価として、共同支配投資企業となるすべての企業に対し、議決権に関して同一の権利内容を有する株式を交付していない場合には、共同支配企業の形成には該当しないことになる(第429項参照)。

なお、企業結合の対価として、議決権のある株式以外の財産が交付された場合であっても、それが次に掲げる現金等の財産のときは、対価要件を満たしたものとして取り扱う。

(1) 企業結合比率の端数調整のための現金

(2) 株主からの買取請求権に基づく現金

また、最終事業年度の配当金見合いの合併交付金等は取得の対価に該当しないため、当該交付金等が交付された場合にも、対価要件を満たしたものとして取り扱う。

180-2. 対価要件の判定の前提として、同時に次の要件のすべてが満たされていなければならないとされている(企業結合会計基準(注7))(第429-2項参照)。

(1) 企業結合が単一の取引で行われるか、又は、原則として、1事業年度内に取引が完了する。

(2) 交付株式の議決権の行使が制限されない。

なお、議決権については、第180 項を参照のこと。

(3) 企業結合日において対価が確定している。

(4) 交付株式の償還又は再取得の取決めがない。

(5) 株式の交換を事実上無効にするような結合当事企業の株主の利益となる財務契約がない。

なお、これには、交付株式を担保とする貸付保証契約や一方の結合当事企業の株主に実質的に一定の利回りを保証するような契約等が含まれる。

(6) 企業結合の合意成立日前1年以内に、当該企業結合を目的として自己株式を受け入れていない。

ここで、企業結合の合意成立日とは、企業結合に関する契約書を承認する株主総会において議決権を行使できる株主が確定する日をいう。なお、企業結合を目的として自己株式を受け入れるとは、自己株式の受入れを当該企業結合の目的としていることが内部文書等により明らかな場合をいう。

また、一方の結合当事企業が他の結合当事企業の株式を受け入れる行為も同様に取り扱う。

5.その他の支配要件の取扱い

181. 共同支配企業の形成の判定にあたり、次のいずれにも該当しない場合には、その他の支配要件を満たしたものとされる(企業結合会計基準(注8))(第430項参照)。

(1) いずれかの結合当事企業の役員若しくは従業員である者又はこれらであった者が、結合後企業の取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)を事実上支配していること

事実上支配しているかどうかについては、構成員の過半数を占めているかどうかが重要な判断要素として考えられるため、企業結合日において、次のすべての人数等を勘案して判定する。ただし、企業結合日において構成員の変更が予定されている場合や構成員の間に緊密な関係がある場合などには、それらについても加味して判定する。

@ 委員会設置会社の場合には、取締役の人数。なお、結合後企業に執行役会等、重要な経営事項に関する意思決定機関が設置された場合には、その構成員の人数。

A @以外の会社の場合、取締役の人数。なお、結合後企業に常務会、経営会議等、重要な経営事項の意思決定機関が設置された場合には、その構成員の人数。

ただし、いずれかの企業の役員等が代表取締役(又は代表執行役)や常勤取締役(又は執行役)の大半を占めるなど、重要な経営事項の意思決定機関において、主として業務執行に携わる役員の割合が大幅に異なる場合には、その実態を踏まえて判定する。

(2) 重要な財務及び営業の方針決定を支配する契約等により、結合当事企業のうち、いずれかの企業が他の企業より有利な立場にあること

例えば、次のような株式が企業結合日に存在する場合には、保有者の属性、潜在株式又は種類株式の発行の経緯及び現実的な議決権の行使可能性等を踏まえ、当該株式の存在と効果を考慮して、本要件を実質的に判定する。

@ 共同支配投資企業となる企業のうち、特定の企業に発行している潜在株式

A 拒否権を行使できる株式(会社法第108条第1 項第8号)

(3) 企業結合日後2年以内にいずれかの結合当事企業が投資した大部分の事業を処分する予定があること

「大部分の事業を処分」に該当するかどうかは、共同支配企業の売上、利益及びキャッシュ・フロー並びに資産及び負債に与える影響を勘案して判断する。なお、企業結合日後2年以内にいずれかの共同支配投資企業となる企業の大部分の事業を関連会社に移転する予定がある場合又は大部分の事業を分離して関連会社とする予定がある場合には、大部分の事業の処分に該当するものとして取り扱う。

また、「処分する予定」とは、いずれかの共同支配投資企業となる企業が投資した大部分の事業を処分する計画が、企業結合の一環として、あらかじめ、当該企業の取締役会等の意思決定機関で決定されている場合をいう。

X.共同支配企業の形成の会計処理

1.共同支配企業の形成の会計処理の概要

182. 共同支配企業の形成において、共同支配企業は、共同支配投資企業から移転する資産及び負債を、移転直前に共同支配投資企業において付されていた適正な帳簿価額により計上する(企業結合会計基準第38項)。

182-2. 共同支配企業の形成において、共同支配企業に事業を移転した共同支配投資企業は次の会計処理を行う(企業結合会計基準第39項)。

(1) 個別財務諸表上、当該共同支配投資企業が受け取った共同支配企業に対する投資の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、共同支配投資企業は、共同支配企業に対する投資について持分法を適用する。

2.本適用指針で取り扱う共同支配企業の形成と判定された組織再編の形式ごとの会計処理

183. 本適用指針では、代表的な組織再編の形式として次の2つを取り上げ、それぞれの会計処理を示している。

(1) 合併(吸収合併)(第184 項から第191 項参照)

(2) 会社分割(吸収分割又は共同新設分割)(第192項から第199項参照)

3.共同支配企業の形成と判定された合併(吸収合併)の会計処理

(1)吸収合併存続会社(共同支配企業)の会計処理

資産及び負債の会計処理

184. 親会社を異にする子会社同士の吸収合併による共同支配企業の形成にあたり、吸収合併存続会社(共同支配企業)は、移転された資産及び負債を企業結合日の前日における吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額により計上する(企業結合会計基準第38項)(第407項参照)。[設例18]

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

185. 吸収合併存続会社(共同支配企業)は、合併期日の前日における吸収合併消滅会社の純資産の部の各項目を次のように処理する(第408項参照)。なお、吸収合併存続会社が受け入れた自己株式(吸収合併消滅会社が保有していた吸収合併存続会社株式)は、吸収合併消滅会社における適正な帳簿価額により、吸収合併存続会社の株主資本からの控除項目として表示する(第84項なお書き参照)。また、抱合せ株式等がある場合には、第84-2項に準じて処理する。

(1) 株主資本項目の取扱い

@ 原則的な会計処理

吸収合併存続会社は吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として会計処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

なお、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスの場合及び抱合せ株式等の会計処理(第84-2 項参照)により株主資本の額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

A 認められる会計処理

合併が共同支配企業の形成と判定される場合には、合併の対価は原則として自社の株式のみであり、吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益準備金及びその他利益剰余金の内訳科目(ただし、積立目的の趣旨は同じであるが、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社の間でその名称が形式上異なる場合に行う積立金の名称変更を除く。)を、抱合せ株式等の会計処理(第84-2項参照)を除き、そのまま引き継ぐことができる。当該取扱いは、吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額がマイナスとなる場合も同様である。

また、吸収合併の手続とともに、株主資本の計数の変動手続(会社法第447条から第452条)が行われ、その効力が合併期日に生じる場合には、合併期日において、会社の意思決定機関で定められた結果に従い、株主資本の計数を変動させることができる。なお、株主資本の計数の変動に際しては、資本剰余金と利益剰余金の混同とならないように留意する必要がある(自己株式等会計基準第19項)。

(2) 株主資本以外の項目の引継ぎ

吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の合併期日の前日の評価・換算差額等及び新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぐ。したがって、例えば、吸収合併消滅会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額もそのまま引き継ぐことになる。

(自己株式を処分した場合の会計処理)

186. 吸収合併存続会社(共同支配企業)は、合併期日の前日における吸収合併消滅会社の純資産の部の各項目を次のように処理する。なお、抱合せ株式等がある場合には、第84-3項に準じて処理する。

(1) 株主資本項目の取扱いにおける原則的な会計処理

吸収合併消滅会社の合併期日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金の減少)として会計処理する。

(2) 株主資本項目の取扱いにおける認められる会計処理

吸収合併消滅会社の合併期日の前日の株主資本の構成をそのまま引き継ぎ、処分した自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除する(第410項参照)。

なお、株主資本以外の項目については、前項(2)に準じて会計処理する。

吸収合併存続会社(共同支配企業)のその他の会計処理

187. 吸収合併存続会社(共同支配企業)の個別財務諸表におけるその他の会計処理は、逆取得となる吸収合併の会計処理(第84-4項から第84-7項参照)に準じて会計処理する。

結合当事企業の中に一般投資企業が含まれている場合の取扱い

188. ある企業結合が共同支配企業の形成と判定された場合において、吸収合併消滅会社の株主の中に一般投資企業(第176項参照)が含まれているときは、共同支配企業が一般投資企業から取得した事業(資産及び負債)に対して、パーチェス法を適用する。

(2)合併会社の株主(共同支配投資企業)の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

189. ある企業の子会社と他の企業との吸収合併が共同支配企業の形成と判定された場合の合併会社の株主(合併前の親会社)の個別財務諸表上の会計処理は、次のように行う。

(1) 当該子会社が吸収合併存続会社(結合企業)の場合

当該子会社株式の適正な帳簿価額を、そのまま共同支配企業株式へ振替処理する。

(2) 当該子会社が吸収合併消滅会社(被結合企業)の場合

結合後企業の株式(共同支配企業株式)の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(子会社株式)に係る移転直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。したがって、合併会社の株主の個別財務諸表上、交換損益は認識されない。

連結財務諸表上の会計処理

190. 連結財務諸表上、これまで連結していた子会社については、共同支配企業の形成時点の持分法による投資評価額にて共同支配企業株式へ振替処理し、持分法を適用する(企業結合会計基準第39項(2))(第431項から第433項参照)。[設例18]

(3)合併会社の株主(一般投資企業)の会計処理

191. 合併会社の株主のうち、一般投資企業(第176項参照)の共同支配企業の形成時(企業結合時)の会計処理は、結合当事企業の株主の会計処理に従う。

4.共同支配企業の形成と判定された会社分割(吸収分割又は共同新設分割)の会計処理

(1)吸収分割承継会社等(共同支配企業)の会計処理

資産及び負債の会計処理

192. 共同支配企業の形成にあたり、吸収分割承継会社等(共同支配企業)は、移転された資産及び負債を分割期日の前日における適正な帳簿価額により計上する(企業結合会計基準第38項)(第407項参照)。[設例19]

増加資本の会計処理

(新株を発行した場合の会計処理)

193. 吸収分割承継会社等(共同支配企業)は、移転された資産及び負債の差額を次のように会計処理する(第409項参照)。

(1) 移転事業に係る株主資本相当額の取扱い

移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

(2) 移転事業に係る評価・換算差額等の取扱い

移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)については、吸収分割会社等の移転直前の適正な帳簿価額をそのまま引き継ぐ。

したがって、移転された事業にその他有価証券や土地再評価法に基づき再評価した土地が含まれ、吸収分割会社等が当該その他有価証券や土地を時価又は再評価額をもって分割期日の前日の貸借対照表価額としている場合には、吸収分割承継会社等は、分割期日の前日のその他有価証券及び土地の貸借対照表価額並びにその他有価証券評価差額金及び土地再評価差額金もそのまま引き継ぐことになる。

(自己株式を処分した場合の会計処理)

193-2. 会社分割の対価として吸収分割承継会社等が自己株式を処分した場合には、第186項(1)に準じて会計処理する。

吸収分割承継会社等(共同支配企業)のその他の会計処理

194. 吸収分割承継会社等(共同支配企業)の個別財務諸表におけるその他の会計処理は、逆取得となる吸収分割又は現物出資の会計処理(第87 項なお書き及び第87-2項から第87-4項参照)に準じて会計処理する。

投資企業の中に一般投資企業が含まれている場合の取扱い

195. ある企業結合が共同支配企業の形成と判定された場合において、吸収分割会社等の中に一般投資企業(第176項参照)が含まれているときは、共同支配企業が一般投資企業から取得した事業(資産及び負債)に対して、パーチェス法を適用する。

(2)吸収分割会社等(共同支配投資企業)の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

196. 吸収分割会社等(共同支配投資企業)は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて吸収分割承継会社等に対する投資(共同支配企業株式)の取得原価を算定することとされている(企業結合会計基準第39項(1))。

具体的には、吸収分割会社等が受け入れる共同支配企業株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(第108項(2)参照)ことに留意する必要がある。

なお、当該金額がマイナスとなる場合は、当該マイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目により負債に計上する。

連結財務諸表上の会計処理

197. 吸収分割会社等(共同支配投資企業)は、共同支配企業の形成にあたり事業を移転した場合には、共同支配企業に対する投資について持分法を適用する(企業結合会計基準第39項(2))(第431項から第433項参照)。[設例19]

共同支配投資企業の子会社が共同支配企業に投資している場合の会計処理

198. ある吸収分割会社等(共同支配投資企業)の子会社が、同一の吸収分割承継会社等(共同支配企業)に投資している場合には、当該子会社も共同支配投資企業とみなし、第196項及び第197項に準じて会計処理する(第434項参照)。

(3)吸収分割会社等(一般投資企業)の会計処理

199. 吸収分割会社等のうち一般投資企業(第176項参照)の共同支配企業の形成時(事業移転時)の会計処理は、分離先企業における企業結合が取得とされたときの分離元企業の会計処理に準じる(第100項から第103項参照)。

Y.共通支配下の取引等の会計処理

1.共通支配下の取引等の会計処理の概要

200. 企業集団内における組織再編の会計処理には、共通支配下の取引と少数株主との取引(以下合わせて「共通支配下の取引等」という。)がある。

共通支配下の取引は、親会社の立場からは内部取引と考えられるため、個別財務諸表上、事業の移転元の適正な帳簿価額を基礎として会計処理され、連結財務諸表上は、すべて消去されることになる。

一方、少数株主との取引は、親会社が子会社を株式交換により完全子会社とする場合など、親会社が少数株主から子会社株式を追加取得する取引等に適用される。当該取引は、親会社の立場からは外部取引と考えられるため、個別財務諸表上及び連結財務諸表上のいずれも時価を基礎として会計処理され、連結財務諸表上は、のれん(又は負ののれん)が計上されることとなる。

なお、少数株主との取引は、企業集団の最上位に位置する会社(以下「最上位の親会社」という。)が少数株主から子会社株式を追加取得する取引等に適用され、最上位の親会社以外の親会社が少数株主から子会社株式を追加取得する取引等には適用されない。

本適用指針では、組織再編の形式が異なっていても、組織再編後の経済的実態が同じであれば、連結財務諸表上(合併の場合には個別財務諸表上)も同じ結果が得られるように会計処理を定めている(第437項参照)。

2.共通支配下の取引の範囲

201. 共通支配下の取引とは、親会社と子会社との合併や親会社の支配下にある子会社同士の合併など、「結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいう」(企業結合会計基準第16項)とされている。なお、支配の主体である「同一の株主」には企業に限定されず、個人も含まれる。[設例23]

また、投資会社とその関連会社との企業結合は、共通支配下の取引には該当しない(第435項参照)。

202. 「同一の株主」により支配されている会社の判定にあたっては、ある株主と緊密な者(自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者をいう。)及び同意している者(自己の意思と同一の議決権を行使することに同意している者をいう。)が保有する議決権を合わせて、結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配されているかを実質的に判定する。この支配の判定は、企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」に準じて行う(第436項参照)。

3.共通支配下の取引等に係る対価

(1)本適用指針における共通支配下の取引等に係る対価の前提

203. 本適用指針では、共通支配下の取引等に係る会計処理の定めの記載の簡略化のため、組織再編の対価について、特に断りのない限り、次の前提をおくこととする。

(1) 組織再編の形式が合併、会社分割(分割型の会社分割を含む。)、株式交換及び株式移転の場合の対価は、特に断りのない限り、結合企業の時価のある株式(新株の発行)のみとする。

なお、自己株式を処分した場合で、自己株式の処分の対価を、時価を基礎として会計処理するとき(自己株式を少数株主に交付するとき)は、取得の会計処理における該当する組織再編の形式に係る会計処理(例えば、第80項参照)に準じて処理する。また、適正な帳簿価額を基礎として会計処理する場合において、払込資本とする処理を適用するときは、自己株式の帳簿価額を控除した額を払込資本として処理し、吸収合併消滅会社の株主資本をそのまま引き継ぐ処理又は分割型の会社分割において株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上する処理を適用するときは、自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除して会計処理する。

このほか、結合企業の時価のある株式以外の財を交付した場合であって、それを少数株主に交付したことにより、時価を算定する必要がある場合には、企業結合会計基準第45項により、追加取得する子会社株式又は事業の取得原価は、当該株式又は事業の時価と、その取得の対価となる財の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定することとなる。また、いずれの時価の算定も困難な場合には第229項(2)に従うこととなる。

(2) 組織再編の形式が事業譲渡の場合の対価は、現金等の財産(第95項参照)とする。

(2)完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

203-2.組織再編の対価が支払われない場合であっても、以下の組織再編の形式であって、結合当事企業のすべてが同一の株主に株式のすべてを直接又は間接保有されているとき(完全親子会社関係にあるとき)は、結合当事企業は、次のように処理する(第437-2項及び第437-3項参照)。

(1) 合併の場合(子会社と他の子会社との合併の場合)

吸収合併存続会社の株主資本項目については、合併が共同支配企業の形成と判定された場合における「認められる会計処理」(第185項(1)A参照)に準じて処理する。増加すべき払込資本の内訳項目は、会社法の規定に基づき決定する。

なお、結合当事企業の株主(親会社)は、吸収合併消滅会社の株式の帳簿価額を吸収合併存続会社の株式の帳簿価額に加算する。

(2) 会社分割の場合

@ 親会社の事業を子会社に移転する場合

吸収分割会社である親会社は、第233項に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させる(第446項参照)。

吸収分割承継会社である子会社は、親会社で変動させた株主資本の額を、会社法の規定に基づき計上する(第234項参照)。

なお、親会社の株主は会計処理を要しない。

A 子会社の事業を他の子会社に移転する場合

吸収分割会社である子会社は、第255項に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させる(第446項参照)。

吸収分割承継会社である他の子会社は、吸収分割会社である子会社で変動させた株主資本の額を、会社法の規定に基づき計上する(第256項参照)。

なお、吸収分割承継会社である他の子会社が分割期日に吸収分割会社である子会社の株式を保有している場合には、当該吸収分割後の吸収分割会社の財務内容等を勘案して、期末において、当該吸収分割会社の株式の帳簿価額について、相当の減額の要否を検討することとなる。

また、吸収分割会社の株主(親会社)は、受け取る吸収分割承継会社の株式とこれまで保有していた吸収分割会社の株式が実質的に引き換えられたものとみなし(第295項参照)、分割型の会社分割における吸収分割会社等の株主に係る会計処理(第294項参照)に準じて処理する。

B 子会社の事業を親会社に移転する場合

吸収分割承継会社である親会社は、子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の親会社の会計処理(第218項から第220項参照)に準じて処理する。ただし、移転する事業に子会社株式(親会社からみて孫会社株式)や関連会社株式が含まれている場合には、親会社は、当該子会社株式等の受入れについて、子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の株主(親会社)の会計処理(第257項)に準じて処理する。

吸収分割会社である子会社は、子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の子会社の会計処理(第221項参照)に準じて処理する。

4.本適用指針で取り扱う共通支配下の取引等の組織再編の形式ごとの会計処理

204. 本適用指針では、共通支配下の取引等として、次の組織再編を取り上げ、それぞれの会計処理を定める。

(1) 親会社と子会社との組織再編

@ 吸収合併(親会社(存続会社)、子会社(消滅会社))(第205項から第208項参照)

A 吸収合併(親会社(消滅会社)、子会社(存続会社))(第209項から第213項参照)

B 会社分割(子会社の事業を親会社に移転する場合)(第214項から第217項参照)

C 分割型の会社分割(子会社の事業を親会社に移転する場合)(第218項から第222項参照)

D 事業譲渡(親会社の事業を子会社に移転する場合)(第223項から第225項参照)

E 会社分割(親会社の事業を子会社に移転する場合)

(対価:吸収分割承継会社の株式のみの場合)(第226項から第229項参照)

F 会社分割(親会社の事業を子会社に移転する場合)

(対価:吸収分割承継会社の株式と現金等の財産からなる場合)(第230項から第232項参照)

G 分割型の会社分割(親会社の事業を子会社に移転する場合)(第233項から第235項参照)

H 株式交換(親会社(完全親会社)、子会社(完全子会社))(第236項から第238-3項参照)

I 株式移転(親会社と子会社が共同で完全親会社を設立する場合)(第239項から第241-3項参照)

(2) 子会社間の組織再編

@ 吸収合併(同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併)

(対価:現金等の財産のみである場合)(第242項から第245項参照)

A 吸収合併(同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併)

(対価:吸収合併存続会社の株式のみである場合)(第246項から第249項参照)

B 吸収合併(同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併)

(対価:吸収合併存続会社の株式と現金等の財産からなる場合)(第250項から第253項参照)

C 吸収合併(同一の株主(個人)により支配されている企業同士の合併)(第254項参照)

D 会社分割(ある子会社から他の子会社に事業を移転する場合)(第254-2項から第254-4項参照)

E 分割型の会社分割(ある子会社から他の子会社に事業を移転する場合)(第255項から第257項参照)

(3) 企業集団内における組織再編のうち、企業結合に該当しない取引

@ 単独株式移転による完全親会社の設立(第258項及び第259項参照)

A 単独新設分割による子会社の設立(第260項から第262項参照)

なお、本適用指針では、共通支配下の取引等ではないが、単独で行われる分割型の会社分割における新設分割会社の会計処理(第263項参照)及び新設分割設立会社の会計処理(第264 項参照)についても定めている。

5.親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

子会社(吸収合併消滅会社)の会計処理

205. 子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び純資産の適正な帳簿価額を算定する。

親会社(吸収合併存続会社)の会計処理

206. 親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う(第438項参照)。[設例20]

(1) 資産及び負債の会計処理

親会社が子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。[設例35]

(2) 増加すべき株主資本及びのれんの会計処理

@ 株主資本の取扱い

親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額のうち株主資本の額を合併期日直前の持分比率に基づき、親会社持分相当額と少数株主持分相当額に按分し、それぞれ次のように処理する。

ア 親会社持分相当額の会計処理

親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、特別損益に計上する。

イ 少数株主持分相当額の会計処理

少数株主持分相当額と、取得の対価(少数株主に交付した親会社株式の時価)(第37項から第47項参照)に取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)(第48項及び第49項参照)を加算した額との差額をのれん(又は負ののれん)とする。のれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項から第78項並びに資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。合併により増加する親会社の株主資本の額は、払込資本とし、第79項から第82項に準じて会計処理する。

A 株主資本以外の項目の取扱い

親会社は子会社の合併期日の前日の評価・換算差額等(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く。)及び新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぐ。したがって、例えば、子会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額のうち、支配獲得後に当該子会社が計上したものをそのまま引き継ぐことになる。

(3) 中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱い

(2)において、子会社(吸収合併消滅会社)の株式を保有する親会社(吸収合併存続会社)の他の子会社(中間子会社)に合併の対価を交付する場合には、子会社から受け入れた資産と負債の差額のうち株主資本の額に合併期日の前日の持分比率を乗じて中間子会社持分相当額を算定し、その額を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(第408項参照)。

なお、この場合、中間子会社が、子会社(吸収合併消滅会社)の株式と引き換えに受け入れた親会社株式の取得原価は、当該子会社株式の適正な帳簿価額により算定する。

(4) 子会社と孫会社との合併の場合(子会社が吸収合併存続会社となる場合)

(1)から(3)(ただし、(2)@イ(少数株主持分相当額の会計処理)を除く。)は、子会社を吸収合併存続会社としたその子会社(以下「孫会社」という。)との合併(子会社と孫会社との合併)についても、同様に適用する(第438-2項参照)。

この場合、子会社が孫会社株式を少数株主から追加取得する取引は、最上位の親会社と子会社の株主との取引ではないため、第200 項なお書きによる少数株主との取引を適用せず、(2)@イの少数株主持分相当額は、(3)の中間子会社持分相当額に準じて処理する。[設例29-5]

(親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理)

207. 親会社と子会社が合併する場合には、親会社の個別財務諸表では、原則として、子会社の適正な帳簿価額により資産及び負債を受け入れるが(前項(1)参照)、親会社が作成する連結財務諸表において、当該子会社の資産及び負債の帳簿価額を修正しているときは、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む。)により計上する(企業結合会計基準(注9))。

当該取扱いは、子会社とその子会社との合併(例えば、子会社と孫会社との合併)についても適用し、この場合の連結財務諸表上の帳簿価額とは、子会社にとっての連結財務諸表上の帳簿価額をいう。[設例29-5]

子会社の資産及び負債の帳簿価額を修正しているときの具体例及びその会計処理は、次のとおりである(第439項参照)。

(1) 連結精算表上のみの修正事項[設例20]

資本連結にあたり子会社の資産及び負債を時価評価している場合には、親会社の個別財務諸表上、時価評価後の金額により受け入れる。また、連結財務諸表上、子会社株式の取得に係るのれんの未償却残高が計上されている場合には、親会社の個別財務諸表上も当該金額をのれんとして引き継ぐ。

なお、親会社が株式の取得により、ある会社を子会社化し、当該子会社をその直後に合併した場合には、親会社は、当該子会社を連結子会社とした連結財務諸表を作成していないことが考えられる。このような親会社と子会社の合併は、株式の取得と合併が一体の取引と考えられるので、親会社の個別財務諸表上は、合併期日において当該子会社を連結子会社とした場合の連結財務諸表上の帳簿価額(支配獲得時点における時価評価替後の帳簿価額をいい、当該子会社に対するのれん(又は負ののれん)の額を含む。)により資産及び負債を引き継ぐことになる。なお、子会社が他の会社の株式を取得して子会社(親会社からみて孫会社)とし、その直後に子会社が孫会社を吸収合併した場合も同様に処理する。

(2) 未実現損益に関する修正事項[設例21]

連結財務諸表の作成にあたり、子会社の資産又は負債に含まれる未実現損益(親会社の個別財務諸表上、損益に計上された額に限る。)を消去している場合には、親会社の個別財務諸表上も、未実現損益消去後の金額で当該資産又は負債を受け入れる。親会社の個別財務諸表上、当該修正に伴う差額は、特別損益に計上する。

ただし、実務上の観点から、企業結合後、短期間に第三者に処分される見込みの棚卸資産に係る未実現損益や金額的重要性が低いものについては、未実現損益の消去をせず、子会社の適正な帳簿価額をそのまま受け入れることができる。

(連結財務諸表上の帳簿価額が算定されていない場合の取扱い)

207-2.親会社(子会社とその子会社との合併の場合における子会社を含む。)が、連結財務諸表を作成していないことにより、「連結財務諸表上の帳簿価額」が算定されていない場合であっても、「連結財務諸表上の帳簿価額」を合理的に算定できるときには当該帳簿価額を用いることとし、「連結財務諸表上の帳簿価額」を合理的に算定することが困難と認められるときは、子会社の適正な帳簿価額を用いることとする。

なお、親会社が他の会社の株式を取得して子会社化した直後に合併した場合(子会社が他の会社の株式を取得して子会社(親会社からみて孫会社)とし、その直後に子会社が孫会社を吸収合併した場合も含む。)は、通常、連結財務諸表上の帳簿価額を合理的に算定できる場合に該当するものと考えられる。

(2)連結財務諸表上の会計処理

208. 吸収合併が行われた後も親会社が連結財務諸表を作成する場合には、第206項(2)@アの損益は連結財務諸表上、過年度に認識済みの損益となるため、相殺消去する。子会社とその子会社との合併(子会社と孫会社の合併)においても、当該取扱いに準じて処理する。[設例20]

6.子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収合併消滅会社)の会計処理

209. 親会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び純資産の適正な帳簿価額を算定する。

子会社(吸収合併存続会社)の会計処理

210. 子会社が吸収合併存続会社となり、親会社が吸収合併消滅会社となる合併は、共通支配下の取引に該当するため、子会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う(第440項参照)。[設例22]

(1) 資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41 項により、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。子会社は、親会社が所有していた子会社株式を自己株式として株主資本から控除する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

移転された資産及び負債の差額は、純資産として処理する(企業結合会計基準第42項)。具体的には、第84項(逆取得となる吸収合併の会計処理)に準じて会計処理する(第408項参照)。

(子会社が親会社から受け入れる資産及び負債の修正処理)

211. 子会社(吸収合併存続会社)が親会社(吸収合併消滅会社)と合併する場合には、子会社の個別財務諸表上、原則として、親会社の適正な帳簿価額により資産及び負債を受け入れる(前項(1)参照)が、当該合併前に子会社が親会社に資産等を売却しており、当該取引から生じた未実現損益を連結財務諸表上、消去しているときは、子会社の個別財務諸表上、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額により親会社の資産及び負債を受け入れる(第439項参照)。

ただし、実務上の観点から、企業結合後、短期間に第三者に処分される見込みの棚卸資産に係る未実現損益や金額的重要性が低いものについては、未実現損益を消去せず、親会社の適正な帳簿価額をそのまま受け入れることができる。

なお、合併前に親会社が連結財務諸表を作成していない場合には、「連結財務諸表上の帳簿価額」に代えて、親会社の適正な帳簿価額を用いることができる。

(2)連結財務諸表上の会計処理

212. 吸収合併が行われた後に子会社が連結財務諸表を作成する場合には、子会社の個別財務諸表における処理を振り戻し、親会社が子会社の少数株主から株式を取得したものとした会計処理を行う。[設例22]

具体的には、時価評価替後の資産及び負債を連結財務諸表上の帳簿価額として受け入れ、また、合併に際し子会社が受け入れた自己株式とそれに対する増加すべき株主資本は内部取引として消去する。子会社の少数株主が保有していた子会社株式は、当該合併に際して、親会社株式との交換はないものの、連結財務諸表上、親会社株式との交換があったものとみなして、時価を基礎として取得原価を算定する(第441項参照)。

なお、連結財務諸表上の資本金は、吸収合併存続会社(子会社)の資本金とし、これと合併直前の連結財務諸表上の資本金(親会社の資本金)が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替える。

子会社が連結財務諸表を作成しない場合の注記事項の算定基礎

213. 吸収合併が行われた後に、子会社が連結財務諸表を作成しない場合は、前項に準じて算定された額を基礎として、親会社が吸収合併存続会社であるとみなした場合の個別貸借対照表及び個別損益計算書に及ぼす影響の概算額を注記する(第311項及び第441項参照)。

7.子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(会社分割の対価が親会社株式のみの場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割承継会社)の会計処理

214. 親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う(第442項参照)。[設例24]

(1) 資産及び負債の会計処理

親会社が子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く。)を引き継ぐとともに、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)は払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(第409項参照)。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する(第445項参照)。

(3) 企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理)

215. 親会社が子会社(吸収分割会社)から受け入れる資産及び負債は、原則として適正な帳簿価額により計上することになるが(第214項(1)参照)、親会社が作成する連結財務諸表において、当該移転事業に係る資産及び負債の帳簿価額を修正しているときは、第207項及び第207-2項に準じて会計処理する。また、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む。)により資産及び負債を受け入れる。

子会社(吸収分割会社)の会計処理

216. 子会社が受け入れる親会社株式の取得原価は、企業結合会計基準第43項により、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定する。

具体的には、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)の親会社の会計処理(第226項参照)に準じて処理する。

また、事業分離(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(2)連結財務諸表上の会計処理

217. 連結財務諸表上の会計処理は、次のように行う(第442項参照)。[設例24]

(1) 内部取引の消去

子会社が会社分割の対価として受け入れた親会社株式のうち、分割期日の前日における親会社持分相当額とこれに対応する親会社の払込資本の増加額は、企業結合会計基準第44 項により、内部取引として消去する。

(2) 親会社株式のうち少数株主持分相当額の振替処理

子会社が受け入れた親会社株式のうち、分割期日の前日における少数株主持分相当額は、自己株式等会計基準第15 項に従い少数株主持分から控除する。

(3) のれん(又は負ののれん)の追加計上及び資本剰余金の加減

連結財務諸表上、次の@とAの差額をのれん(又は負ののれん)に計上するとともに、資本剰余金を同額加減する(第448項参照)。

@ 子会社に対して追加投資したとみなされる額(交付した親会社株式の時価に少数株主持分割合を乗じた金額と当該企業結合(会社分割)に直接要した支出額(取得の対価性のあるものに限る。)(第48項及び第50項参照)を加算した額)

A これに対応する子会社の事業分離直前の資本(追加取得持分)(親会社に移転された適正な帳簿価額による資産及び負債の差額のうち分割期日の前日における少数株主持分相当額)

ただし、当該企業結合(会社分割)に直接要した支出額(取得の対価性のあるものに限る。)に重要性が乏しい場合には、個別財務諸表上の会計処理と同様、発生した事業年度の費用に計上することができる。

8.子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割承継会社)の会計処理

218. 親会社の個別財務諸表上の会計処理は、次のように行う(第443項参照)。[設例25]

(1) 資産及び負債の会計処理

親会社が子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加すべき株主資本及びのれんの会計処理

親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額を第206項に準じて会計処理する(第448項参照)。この場合、同項(2)@アの「子会社株式の適正な帳簿価額」は親会社が会社分割直前に保有していた子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額(次項参照)と読み替える。

なお、当該組織再編において、親会社は、子会社に対して新株を発行(又は自己株式を処分)すると同時に、子会社から当該株式を配当として受け取ることとなるため、親会社は発行した新株(又は処分した自己株式)を自己株式として保有することになる。

会計上、親会社による新株の発行(又は自己株式の処分)と当該自己株式の取得は一体の取引とみて、親会社が受け入れた自己株式の帳簿価額はゼロとする(自己株式を処分した場合には、当該自己株式に対応する適正な帳簿価額を付す。)。

(3) 中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱い

(2)において、対価を中間子会社に交付する場合には、第206項(3)に準じて処理する。

(4) 孫会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合(子会社が吸収分割承継会社となる場合)

(1)から(3)(ただし、第206項(2)@イ(少数株主持分相当額の会計処理)を除く。)は、子会社を吸収分割承継会社としたその子会社(孫会社)からの分割型の会社分割についても、同様に適用する。

この場合、子会社が、孫会社株式を少数株主から追加取得する取引等は、第200項なお書きの少数株主との取引を適用せず、第206項(2)@イの少数株主持分相当額は、(3)の中間子会社持分相当額に準じて処理する。

(分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額の算定)

219. 分割に係る抱合せ株式の適正な帳簿価額のうち、受け入れた資産及び負債と引き換えられたものとみなされる額は、次のいずれかの方法のうち合理的と認められる方法により算定する(第443項参照)。

(1) 関連する時価の比率で按分する方法

分割された移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)の時価と会社分割直前の子会社の株主資本の時価との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(2) 時価総額の比率で按分する方法

会社分割直前直後の子会社の時価総額の差額を分割された事業の時価とみなし、会社分割直前の子会社の時価総額との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(3) 関連する帳簿価額(連結財務諸表上の帳簿価額を含む。)の比率で按分する方法

分割された移転事業に係る株主資本相当額の適正な帳簿価額と会社分割直前の子会社の株主資本の適正な帳簿価額との比率により、子会社の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理)

220. 親会社が子会社から会社分割により受け入れる資産及び負債は、原則として適正な帳簿価額により計上することになるが(第218項参照)、親会社が作成する連結財務諸表において、当該子会社の資産及び負債の帳簿価額を修正しているときは、第207項及び第207-2項に準じて会計処理する。また、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む。)により資産及び負債を受け入れる。

子会社(吸収分割会社)の会計処理

221. 事業分離等会計基準第63項により、分割型の会社分割は、会社分割(従来は物的分割ともいわれた分社型の会社分割をいう。)と、これにより受け取った吸収分割承継会社の株式の分配という2つの取引と考えられている。このため、次のように会計処理する。[設例25]

(1) 会社分割の会計処理

吸収分割会社である子会社は、最初に第226 項に準じた会計処理を行う。

(2) 現物配当の会計処理(株主に比例的に割当を行う場合)

次に子会社は、受け取った親会社株式(吸収分割承継会社の株式)の取得原価により株主資本を減少させる。減少させる株主資本の内訳は、取締役会等の企業の意思決定機関において定められた結果に従う(企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)第10項)。

(2)連結財務諸表上の会計処理

222. 親会社が減少させた子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額及び発生した抱合せ株式消滅差額(第218項(2)参照)は、企業結合会計基準第44項により、内部取引として消去する。[設例25]

9.親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理

(事業譲渡の対価が現金等の財産のみの場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(事業譲渡会社)の会計処理

223. 事業譲渡会社である親会社は、事業分離等会計基準第14項により、子会社から受け取った現金等の財産(第95項参照)を移転前に付された適正な帳簿価額により計上し、当該価額と移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)との差額は、原則として、移転損益として認識する。[設例26-1]

当該取扱いは、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合も同様である。

また、当該企業結合(事業分離)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

子会社(事業譲受会社)の会計処理

224. 事業譲受会社である子会社の個別財務諸表上の会計処理は、次のように行う。

(1) 受け入れた資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、親会社における移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額により計上する。

また、移転事業に係る株主資本相当額と交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額は、のれん(又は負ののれん)として処理する。のれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項並びに第78項及び資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。[設例26-1]

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合にも同様に処理する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

株式を交付していないため、株主資本の額は増加しない。

なお、移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)は、対価が現金等の財産のみの場合においても、引き継ぐことになる。

(3) 企業結合(事業譲受)に要した支出額の会計処理

企業結合(事業譲受)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(2)連結財務諸表上の会計処理

225. 親会社の個別財務諸表上認識された移転損益は、親会社の連結財務諸表上、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。[設例26-1]

10.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

226. 親会社が会社分割により追加取得する子会社株式の取得原価は、企業結合会計基準第43項及び事業分離等会計基準第19項(1)により、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する。したがって、当該会社分割により移転損益は生じない(第444項参照)。[設例26-2] 子会社株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(第108項(2)参照)ことに留意する必要がある。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、まず、事業分離前から保有している子会社株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する。

また、当該企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

227. 子会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例26-2]

(1) 受け入れた資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)を引き継ぐとともに、移転事業に係る株主資本相当額は、払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(第409項参照)。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する(第445項参照)。

(3) 企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(子会社が親会社から受け入れる資産及び負債の修正処理)

228. 子会社(吸収分割承継会社)が親会社(吸収分割会社)から会社分割により事業を受け入れる場合には、子会社が親会社を吸収合併する場合の子会社が親会社から受け入れる資産及び負債の修正処理(第211項参照)に準じて処理する。

(2)連結財務諸表上の会計処理

229. 親会社の連結財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例26-2]

(1) 内部取引の消去

事業の移転取引及び子会社の増資に関する取引は、企業結合会計基準第44 項により、内部取引として消去する。

(2) のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額の会計処理

親会社は、事業分離等会計基準第19項(2)により、会社分割により追加取得した子会社に係る親会社の持分の増加額(追加取得持分)と移転した事業に係る親会社の持分の減少額との差額を、のれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分し、それぞれ次のように処理する。

ただし、持分変動差額とのれん(又は負ののれん)のいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて処理することができる。

また、親会社が移転した事業の時価又は子会社株式の時価の算定がいずれも困難な場合には、両者をまとめて、持分変動差額とすることができる。

@ 持分変動差額の計上

次の差額を持分変動差額とし、原則として分割期日の属する事業年度の特別損益に計上する(連結会計基準第30項及び同(注9))。

ア 移転した事業に係る親会社の持分の減少額(移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に、移転した事業に係る減少した親会社の持分比率を乗じた額)

イ 分離元企業(親会社)の事業が移転されたとみなされる額(移転した事業の時価に、移転した事業に係る減少した親会社の持分比率を乗じた額)

A のれん(又は負ののれん)の計上

次の差額をのれん(又は負ののれん)とし、第72項及び第76項から第78項並びに資本連結実務指針第40 項に準じて会計処理する(第448項参照)。

ア 分離先企業に対して追加投資したとみなされる額(分離先企業(子会社)の時価に会社分割により増加する親会社の持分比率を乗じた額で、@イの金額と同額となる。)

イ これに対応する分離先企業の会社分割直前の資本(追加取得持分)

なお、追加取得持分は、企業結合会計基準第46 項並びに連結会計基準第28項及び同(注8)に従って算定する。

(3) 会社分割に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)の会計処理

当該会社分割に直接要した支出額(第91項参照)は、次のように会計処理する。

@ 親会社にとって子会社株式の取得としての性格が強いと認められる場合

個別財務諸表上、費用処理されている支出額をのれんに計上する。ただし、その支出額に重要性が乏しいと認められるときは、発生時の費用として会計処理することができる。

A 親会社にとって事業分離としての性格が強いと認められる場合

個別財務諸表上の会計処理と同様、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

11.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(会社分割の対価が子会社株式と現金等の財産の場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

230. 親会社が子会社に事業を移転し、受取対価に子会社株式のほか、現金等の財産(第95項参照)が含まれている場合には、次のように処理する(事業分離等会計基準第24項)。[設例26-3] [設例26-4]

(1) 移転事業に係る株主資本相当額(第87 項(1)@参照)がプラスの場合

@ 受け取った現金等の財産の適正な帳簿価額が移転事業に係る株主資本相当額より小さい場合

当該差額を子会社株式の取得原価とする。

A 受け取った現金等の財産の適正な帳簿価額が移転事業に係る株主資本相当額より大きい場合

当該差額を移転利益に計上する。

(2) 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合

現金等の財産の適正な帳簿価額と等しい金額については移転利益に計上し、マイナスとなる移転事業に係る株主資本相当額については、まず、事業分離前から保有している子会社株式の適正な帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する。

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

231. 親会社が子会社に事業を移転し、子会社が、支払対価として、自社の株式の他に現金等の財産を交付した場合、当該子会社の個別財務諸表上の会計処理は、次のように行う。[設例26-3][設例26-4]

(1) 受け入れた資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41 項により、移転直前に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

移転事業に係る評価・換算差額等(第87項(1)A参照)については、親会社の移転直前の適正な帳簿価額を引き継いだうえで、次のように会計処理する。

@ 移転事業に係る株主資本相当額が交付した現金等の財産の適正な帳簿価額より大きい場合

当該差額を払込資本の増加として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。

A 移転事業に係る株主資本相当額が交付した現金等の財産の適正な帳簿価額より小さい場合

払込資本をゼロとし、当該差額をのれんに計上する。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、当該マイナス金額をその他利益剰余金のマイナスとして処理する。また、交付した現金等の財産の適正な帳簿価額と等しい金額をのれんに計上する。

のれんは、第72項及び第76項から第78項並びに資本連結実務指針第40 項に準じて会計処理する(第448項参照)。

(3) 企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

(2)連結財務諸表上の会計処理

232. 個別財務諸表上認識された移転利益は、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。また、子会社に係る分離元企業の持分の増加額と、移転した事業に係る分離元企業の持分の減少額との間に生じる差額は、第229項に準じ、原則としてのれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分して処理する。[設例26-3][設例26-4]

12.親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(吸収分割会社)の会計処理

233. 事業分離等会計基準第63項により、分割型の会社分割は、会社分割(従来は物的分割ともいわれた分社型の会社分割をいう。)と、これにより受け取った吸収分割承継会社の株式の分配という2つの取引と考えられている。このため、次のように会計処理する。

(1) 会社分割の会計処理

吸収分割会社である親会社は、最初に第226項に準じた会計処理を行う。

(2) 現物配当の会計処理(株主に比例的に割当を行う場合)

次に親会社は、受け取った子会社株式(吸収分割承継会社の株式)の取得原価により株主資本を変動させる。変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額(自己株式等会計適用指針第10 項、株主資本の内訳の配分については第446項参照)とする。

子会社(吸収分割承継会社)の会計処理

234. 吸収分割承継会社である子会社は、個別財務諸表上、次の処理を行う。

(1) 資産及び負債の会計処理

子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

子会社における増加すべき株主資本は、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)における子会社の会計処理(第227項及び第228 項参照)に準じて会計処理する(第445項参照)。

ただし、受け入れた資産及び負債の対価として子会社の株式のみを交付している場合には、親会社で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができる(第446項参照)。この場合、株主資本の内訳の配分額は、親会社が減少させた株主資本の内訳の額と一致させる(第409項参照)。

(3) 企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理

企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として処理する。

(2)連結財務諸表上の会計処理

235. 子会社が親会社から受け入れた事業の対価として親会社の株主に子会社株式を交付したことにより減少する親会社持分の金額は、連結財務諸表上の帳簿価額により少数株主持分に振り替えることとする(第447項参照)。

13.親会社が子会社を株式交換完全子会社とする場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(株式交換完全親会社)の会計処理

236. 親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例27]

(1) 株式交換完全子会社株式の取得原価の算定

親会社が追加取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、企業結合会計基準 (注11)により、取得の対価(少数株主に交付した株式交換完全親会社株式の時価)に取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定することとされている(第110項参照)。

(2) 株式交換完全親会社の増加すべき株主資本の会計処理

株式交換により増加する株式交換完全親会社の資本は、払込資本とし、第111項から第114項に準じて会計処理する。

親会社(株式交換完全親会社)が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

(親会社(株式交換完全親会社)の会計処理)

236-2.株式交換に際して、親会社が子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、親会社は、株式交換完全子会社等で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して子会社株式の取得原価を算定する。また、親会社は株式交換日の前日に子会社で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を純資産の部又は負債の部に計上する(第404-2項参照)。

(子会社(株式交換完全子会社)の会計処理)

236-3.親会社が子会社の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、子会社は、株式交換日の前日に株式交換完全子会社で付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

中間子会社に対価を支払う場合の取扱い

236-4.株式交換に際して、親会社(株式交換完全親会社)が、株式交換完全子会社以外の子会社(中間子会社)に対価を支払う場合、親会社が中間子会社から追加取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、株式交換日の前日に株式交換完全子会社が付していた適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式交換日の前日の持分比率を乗じた中間子会社持分相当額により算定する。また、その額を払込資本として処理する。

中間子会社が、株式交換完全子会社株式と引き換えに受け入れた親会社株式の取得原価は、当該株式交換完全子会社株式の適正な帳簿価額により算定する。

子会社が孫会社を株式交換完全子会社とする場合の取扱い

236-5.子会社がその子会社(孫会社)を株式交換完全子会社とする場合、子会社が追加取得する株式交換完全子会社株式(孫会社株式)の取得原価は、最上位の親会社と子会社の株主との取引ではないため、前項の中間子会社に対価を支払う場合における中間子会社持分相当額に準じて算定する。また、その額を払込資本として処理する。

(2)連結財務諸表上の会計処理

子会社株式の追加取得の会計処理(投資と資本の消去)

237. 追加取得した子会社株式の取得原価と追加取得により増加する親会社の持分(追加取得持分)又は減少する少数株主持分の金額との差額は、企業結合会計基準第46項により、のれん(又は負ののれん)に計上し、のれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項から第78項並びに資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する。[設例27]

株式交換日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

238. 株式交換日が子会社の決算日以外の日である場合には、当該株式交換日の前後いずれかの決算日(みなし取得日)に株式交換が行われたものとみなして処理することができる(連結会計基準(注5))。この場合、第38項の企業結合日をみなし取得日と読み替える。ただし、みなし取得日は、主要条件が合意されて公表された日以降としなければならない。

(3)株式交換直前に子会社(株式交換完全子会社)が自己株式を保有している場合の取扱い

親会社(株式交換完全親会社)の会計処理

238-2.株式交換直前に子会社が自己株式を保有しており、株式交換日において、親会社が当該自己株式(子会社株式)の取得と引き換えに子会社に対して自社の株式(親会社株式)を交付した場合の親会社の会計処理は、第236 項に準じて処理するものとする。

なお、連結財務諸表上は、最初に第237項に従い会計処理し、次に、第238-3項に従い算定された株式交換完全子会社が保有する親会社株式の取得原価を自己株式に振り替える(第447-3項参照)。

子会社(株式交換完全子会社)の会計処理

238-3.自己株式と引き換えに受け入れた親会社株式の取得原価は、親会社が付した子会社株式の取得原価を基礎として算定する。また、親会社株式の取得原価と自己株式の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額としてその他資本剰余金に計上する(第447-3項参照)。

14.親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理

239. 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例28]

(1) 株式移転完全子会社株式の取得原価の算定

株式移転設立完全親会社が受け入れた株式移転完全子会社の株式(旧親会社の株式と旧子会社の株式)の取得原価は、それぞれ次のように算定する。

@ 株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)

ア 原則的な取扱い

株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。

イ 簡便的な取扱い

株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額と、直前の決算日において算定された当該金額との間に重要な差異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が受け入れる子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、第121項(1)Aと同様に、株式移転完全子会社(旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができる(第404-3項参照)。

A 株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)

株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日における持分比率に基づき、旧親会社持分相当額と少数株主持分相当額に区分し、次の合計額として算定する。

ア 旧親会社持分相当額については、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。

イ 少数株主持分相当額については、企業結合会計基準第45項により、取得の対価(旧子会社の少数株主に交付した株式移転設立完全親会社の株式の時価相当額)に取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を加算して算定する(第121項参照)。株式移転設立完全親会社の株式の時価相当額は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株主が株式移転設立完全親会社に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の数を、株式移転完全子会社(旧親会社)が交付したものとみなして算定する。

なお、株式移転設立完全親会社は、受け入れた株式移転完全子会社(旧子会社)以外の子会社(中間子会社)が有していた株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価についても、旧親会社持分相当額(Aア参照)に準じて算定することとなる。

(2) 株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本の会計処理

株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は、払込資本とし、第122項に準じて会計処理する。

親会社(株式移転設立完全親会社)が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱い

(親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理)

239-2.株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(旧親会社又は旧子会社)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転設立完全親会社は、株式移転完全子会社の株式(旧親会社の株式と旧子会社の株式)の取得原価を次のように算定する(第404-2項参照)。

(1) 株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)

@ 原則的な取扱い(第239項(1)@ア参照)

株式移転完全子会社(旧親会社)の適正な帳簿価額による株主資本の額に、株式移転完全子会社(旧親会社)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を加算して子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価を算定する。また、株式移転設立完全親会社は、株式移転日の前日の株式移転完全子会社で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を純資産の部又は負債の部に計上する。

A 簡便的な取扱い(第239項(1)@イ参照)

前項(1)@イにより子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価を算定する場合であっても、株式移転完全子会社(旧親会社)で認識された新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を、株式移転完全子会社(旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額に加算する。

(2) 株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)

株式移転設立完全親会社は、株式移転日の前日に株式移転完全子会社(旧子会社)が付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価に加算する。また、株式移転設立完全親会社は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日の適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を純資産の部又は負債の部に計上する。

(子会社(株式移転完全子会社)の会計処理)

239-3.株式移転に際して、株式移転設立完全親会社が株式移転完全子会社(旧親会社又は旧子会社)の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合には、株式移転完全子会社(旧親会社又は旧子会社)は株式移転日の前日に付していた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第404-2項参照)。

子会社(旧親会社である株式移転完全子会社)の会計処理

239-4.株式移転に際して、株式移転完全子会社(旧親会社)が、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式と引き換えに受け入れた株式移転設立完全親会社株式の取得原価は、株式移転完全子会社(旧子会社)株式の株式移転直前の適正な帳簿価額により計上する。[設例28]

(2)連結財務諸表上の会計処理

240. 連結財務諸表上の会計処理は、次のように行う。[設例28]

(1) 投資と資本の消去

@ 株式移転完全子会社(旧親会社)への投資

株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の取得原価と株式移転完全子会社(旧親会社)の株主資本を相殺する。

A 株式移転完全子会社(旧子会社)への投資

企業結合会計基準第46項により、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式の取得原価と株式移転完全子会社(旧子会社)の株主資本を相殺し、消去差額はのれん(又は負ののれん)に計上する。のれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項から第78項並びに資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する。

なお、追加取得持分は、企業結合会計基準第46項並びに連結会計基準第28項及び同(注8)に従って算定する。

(2) 連結上の自己株式への振替

株式移転完全子会社(旧親会社)が株式移転完全子会社(旧子会社)の株式との交換により受け入れた株式移転設立完全親会社株式は、連結財務諸表上、自己株式に振り替える。

(3) 株主資本項目の調整

株式移転設立完全親会社の株主資本の額は、株式移転直前の連結財務諸表上の株主資本項目に少数株主との取引により増加した払込資本の額を加算する。

株式移転日が子会社の決算日以外の日である場合の取扱い

241. 第238項(株式交換におけるみなし取得日)と同様に取り扱うこととする。

(3)株式移転直前に子会社(株式移転完全子会社)が自己株式を保有している場合の取扱い

親会社(株式移転設立完全親会社)の会計処理

241-2.株式移転直前に子会社が自己株式を保有している場合の親会社の会計処理は、株式交換直前に子会社が自己株式を保有している場合の親会社の会計処理(第238-2項参照)に準じて処理する。

子会社(株式移転完全子会社)の会計処理

241-3.株式移転直前に子会社が自己株式を保有している場合の子会社の会計処理は、株式交換直前に子会社が自己株式を保有している場合の子会社の会計処理(第238-3項参照)に準じて処理する。

15.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が現金等の財産のみである場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

242. 吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準第41項)。[設例29-1]

吸収合併存続会社の会計処理

243. 吸収合併存続会社である子会社は、次の処理を行う。

(1) 受け入れた資産及び負債の会計処理

吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上し、吸収合併消滅会社の株主資本の額と取得の対価として支払った現金等の財産(第95項参照)(いわゆる三角合併のように子会社が親会社株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合における親会社株式を含む。以下、本項において同じ。)の適正な帳簿価額との差額を、のれん(又は負ののれん)として計上する。のれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項から第78項並びに資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。[設例29-1]

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

株式を交付していないため、株主資本の額は増加しない。なお、吸収合併消滅会社の評価・換算差額等は、対価が現金等の財産のみの場合においても、引き継ぐことになる。

(3) 企業結合に要した支出額の会計処理

企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

244. 事業分離等会計基準第35項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が受け取った現金等の財産は、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。この結果、当該価額と引き換えられた吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。[設例29-1]

ただし、いわゆる三角合併のように子会社が親会社株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合において、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が自己株式を受け入れる場合は、引き換えられた吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額により算定する(自己株式等会計適用指針第7項)。

(2)連結財務諸表上の会計処理

245. 吸収合併消滅会社の株主(親会社)の個別財務諸表上認識された交換損益は、親会社の連結財務諸表上、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。[設例29-1]

なお、いわゆる三角合併のように子会社が親会社株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合は、企業集団からみると、親会社が合併の対価として自己株式を処分する取引と同様に考えることができるため、連結財務諸表上、少数株主に交付した自己株式の時価と適正な帳簿価額との差額は、資本取引として自己株式処分差額に振り替える。また、連結財務諸表上、少数株主に交付した自己株式の時価と追加取得持分又は減少する少数株 主持分との差額をのれんとして計上する。

16.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式のみである場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

246. 吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準第41項)。[設例29-2]

吸収合併存続会社の会計処理

247. 吸収合併存続会社である子会社は、次の処理を行う。[設例29-2]

(1) 受け入れた資産及び負債の会計処理

吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

合併が共同支配企業の形成と判定された場合の吸収合併存続会社の会計処理(第185項参照)に準じて処理する(第408項参照)。

(3) 抱合せ株式の会計処理

吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である子会社の株式(関連会社株式又はその他有価証券)を保有している場合で、新株を発行したときの吸収合併存続会社の増加すべき株主資本の会計処理は、次のいずれかの方法による。

@ 吸収合併消滅会社の株主資本の額から当該抱合せ株式の適正な帳簿価額を控除した額を払込資本の増加(当該差額がマイナスの場合にはその他利益剰余金の減少)として処理する。

A 吸収合併消滅会社の株主資本を引き継いだ上で、当該抱合せ株式の適正な帳簿価額をその他資本剰余金から控除する。

(4) 企業結合に要した支出額の会計処理

企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

248. 事業分離等会計基準第38項及び第39項により、交換損益は認識されず、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が受け取った吸収合併存続会社の株式(子会社株式)の取得原価は、引き換えられた吸収合併消滅会社の株式(子会社株式)に係る企業結合日直前の適正な帳簿価額に基づいて計上する。[設例29-2]

(2)連結財務諸表上の会計処理

249. 事業分離等会計基準第38項及び第39項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)は、連結財務諸表上、吸収合併存続会社に係る当該株主(親会社)の持分の増加額(吸収合併消滅会社の株主としての持分比率が増加する場合は、吸収合併消滅会社に係る当該株主(親会社)の持分の増加額)と吸収合併消滅会社に係る株主(親会社)の持分の減少額(吸収合併存続会社の株主としての持分比率が減少する場合は、吸収合併存続会社に係る当該株主(親会社)の持分の減少額)との間に生じる差額を、のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額として取り扱う。[設例29-2]

17.同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)

(1)個別財務諸表上の会計処理

吸収合併消滅会社の会計処理

250. 吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準第41項)。 [設例29-3] [設例29-4]

吸収合併存続会社の会計処理

251. 吸収合併存続会社である子会社は、次の処理を行う。[設例29-3] [設例29-4]

(1) 受け入れた資産及び負債の会計処理

吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である他の子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

企業結合会計基準第42 項により、次のように会計処理する。

@ 吸収合併消滅会社の株主資本の額がプラスの場合

吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額から、合併の対価として支払った現金等の財産(第95項参照)(いわゆる三角合併のように子会社が親会社株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合における親会社株式を含む。以下、本項において同じ。)の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該金額を控除する。)を控除した額がプラスとなる場合には、当該差額を払込資本とする。

当該差額がマイナスとなる場合には、払込資本はゼロとし、のれんを計上する。

なお、のれん(又は負ののれん)は、第72項及び第76項から第78項並びに資本連結実務指針第40項に準じて会計処理する(第448項参照)。

A 吸収合併消滅会社の株主資本の額がマイナスの場合

合併の対価として支払った現金等の財産の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該適正な帳簿価額を控除する。)と等しい金額をのれんに計上する(第448項参照)。

また、吸収合併存続会社の増加すべき株主資本については払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。

なお、いずれの場合においても、評価・換算差額及び新株予約権の適正な帳簿価額は、吸収合併存続会社にそのまま引き継ぐ。

(3) 企業結合に要した支出額の会計処理

企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。

結合当事企業の株主(親会社)に係る会計処理

252. 事業分離等会計基準第45項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が吸収合併存続会社から受け取った現金等の財産は、原則として、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。この結果、当該価額が吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額を上回る場合には、原則として、当該差額を交換利益として認識(受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価はゼロとする。)し、下回る場合には、当該差額を受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価とする。 [設例29-3] [設例29-4]

ただし、いわゆる三角合併のように、子会社が親会社株式と自社(吸収合併存続会社である子会社)の株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が受け入れる自己株式の取得原価は、吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額のうち引き換えられた部分に相当する額により算定する。この結果、吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額から当該自己株式の取得原価を控除した額が、受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価となる。

(2)連結財務諸表上の会計処理

253. 吸収合併消滅会社の株主(親会社)が個別財務諸表上認識した交換利益は、親会社の連結財務諸表上、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。また、吸収合併存続会社に係る株主(親会社)の持分の増加額(吸収合併消滅会社の株主としての持分比率が増加する場合は、吸収合併消滅会社に係る当該株主(親会社)の持分の増加額)と吸収合併消滅会社に係る株主(親会社)の持分の減少額(吸収合併存続会社の株主としての持分比率が減少する場合は、吸収合併存続会社に係る当該株主(親会社)の持分の減少額)との間に生じる差額を、のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額として取り扱う。[設例29-3] [設例29-4]

なお、いわゆる三角合併のように、子会社が親会社株式と吸収合併存続会社である子会社の株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合は、連結財務諸表上、親会社株式を対価とした部分について資本取引として扱う。

18.同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理

254. 第201項により、同一の株主により支配されている企業同士の吸収合併は、共通支配下の取引に該当するため、吸収合併存続会社は次のように処理する。[設例23]

(1) 受け入れた資産及び負債の会計処理

吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準第41項により、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。

(2) 増加すべき株主資本の会計処理

合併が共同支配企業の形成と判定された場合の吸収合併存続会社の会計処理(第185項参照)に準じて処理する(第408項参照)。ただし、合併の対価に当該子会社株式以外の財産が含まれるときは、第251項に準じて処理する。

(3) 抱合せ株式の会計処理

吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の株式(関連会社株式又はその他有価証券)を保有している場合には、第247項(3)に準じて処理する。

18−2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

吸収分割会社の会計処理

254-2. 吸収分割会社である子会社の会計処理は、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の親会社の会計処理(第226項参照)に準じて処理する(第447-2項参照)。[設例11-4]

吸収分割承継会社の会計処理

254-3. 吸収分割承継会社である他の子会社の会計処理は、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の子会社の会計処理(第227項及び第231項参照)に準じて処理する。[設例11-4]

(2)吸収分割会社である子会社の連結財務諸表上の会計処理

254-4. 吸収分割会社である子会社が連結財務諸表を作成する場合の会計処理は次のように行う。[設例11-4]

(1) 吸収分割承継会社である他の子会社が吸収分割会社の子会社となる場合

@ 内部取引の消去

事業の移転取引及び子会社の増資に関する取引は、企業結合会計基準第44 項により、内部取引として消去する。

A 持分変動差額の計上

吸収分割会社は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定された取得した子会社株式の取得原価(第254-2項参照)と、これに対応する吸収分割承継会社の事業分離直後の資本(企業結合日における適正な帳簿価額による子会社となる吸収分割承継会社等の資本に事業分離により増加する吸収分割会社等の持分比率を乗じた額)との差額を、持分変動差額として処理する。なお、当該会社分割により、のれん(又は負ののれん)は計上されない(第447-2項参照)。

(2) 吸収分割承継会社である他の子会社が吸収分割会社の関連会社となる場合

吸収分割会社は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定された受け入れた関連会社株式の取得原価(第254-2項参照)と、これに対応する吸収分割承継会社の事業分離直後の資本(企業結合日における適正な帳簿価額による関連会社となる吸収分割承継会社等の資本に事業分離により増加する吸収分割会社等の持分比率を乗じた額)との差額を、持分変動差額として処理する。なお、当該会社分割により、のれん(又は負ののれん)は計上されない(第447-2項参照)。

19.子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

吸収分割会社の会計処理

255. 吸収分割会社である子会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社の会計処理(第233 項参照)に準じて処理する。

吸収分割承継会社の会計処理

256. 吸収分割承継会社である他の子会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社の会計処理(第234項参照)に準じて処理する(第409項参照)。

吸収分割会社の株主(親会社)に係る会計処理

257. 事業分離等会計基準第49項及び第51項と同様に、吸収分割会社の株主(親会社)が受け取った吸収分割承継会社の株式は、受け取る吸収分割承継会社の株式と、これまで保有していた吸収分割会社株式とが実質的に引き換えられたものとみなし、被結合企業の株主に係る会計処理(第294項から第296項参照)に準じて処理する。

20.単独で株式移転設立完全親会社を設立した場合の会計処理

株式移転設立完全親会社の会計処理

個別財務諸表上の会計処理

258. 単独株式移転により株式移転設立完全親会社を設立した場合の株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理は、親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価の算定(第239項(1)@参照)に準じて処理する。

連結財務諸表上の会計処理

259. 親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合の会計処理(第240項参照)に準じて処理する。

21.単独で新設分割設立子会社を設立した場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

親会社(新設分割会社)の会計処理

260. 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割会社(親会社)の会計処理は、会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社(吸収分割会社)の会計処理(第226項参照)に準じて処理する。

子会社(新設分割設立会社)の会計処理

261. 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割設立会社(子会社)の会計処理は、会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)の会計処理(第227項参照)に準じて処理する(第409項参照)。

(2)連結財務諸表上の会計処理

262. 単独新設分割により子会社を設立した場合の新設分割会社(親会社)の連結財務諸表上、事業の移転取引及び子会社の増加すべき株主資本に関する取引は、企業結合会計基準第44項により、内部取引として消去する。

22.単独で分割型の会社分割が行われた場合の会計処理

(1)新設分割会社の個別財務諸表上の会計処理

263. 単独で分割型の会社分割が行われた場合の新設分割会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社(吸収分割会社)の会計処理(第233項参照)に準じて処理する。

(2)新設分割設立会社の個別財務諸表上の会計処理

264. 単独で分割型の会社分割が行われた場合の新設分割設立会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社から子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)(第234項参照)に準じて処理する(第409項参照)。

Z.結合当事企業の株主に係る会計処理

1.被結合企業の株主に係る会計処理

(1)受取対価の時価

265. 交換損益を認識する場合の受取対価となる財の時価は、受取対価が現金以外の資産等の場合には、受取対価となる財の時価と引き換えた被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定する(事業分離等会計基準第33項)。

266. 市場価格のある結合企業の株式が受取対価とされる場合には、受取対価となる財の時価は、原則として、企業結合日の株価を基礎にして算定する。

267. 被結合企業の株主に係る会計処理上、結合企業の株式などの受取対価の時価又は移転した事業の時価の算定が必要な場合には、当該時価を算定する。

ただし、結合企業の株式などの受取対価又は引き換えられた被結合企業の株式のいずれについても、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、次のいずれかを用いて算定された額を受取対価の額とすることができる。

(1) 企業結合日の前日における結合企業の識別可能な資産及び負債の時価に基づく正味の評価額のうち受取対価相当額

(2) 企業結合日の前日における被結合企業の識別可能な資産及び負債の時価に基づく正味の評価額のうち受取対価相当額

この場合、識別可能な個々の資産及び負債の時価が、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、該当する資産及び負債について、その適正な帳簿価額を用いることができる。

(2)受取対価が現金等の財産のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理子会社を被結合企業とした企業結合の場合

268. ある子会社を被結合企業とし他の子会社を結合企業とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、共通支配下の取引として取り扱う(第244項及び第245項参照)。

なお、被結合企業の株主に係る会計処理において、現金等の財産とは、引き換えられた被結合企業の株式と明らかに異なる資産が該当し、結合企業の株式は含まれない(この点については、事業分離等会計基準第32項(1)を参照のこと)。これには、結合企業の支払能力に左右されない資産や、結合企業の支払能力の影響を受けるものの、代金回収条件が明確かつ妥当であり、回収が確実と見込まれる資産が含まれる。ただし、合併比率等に端数があるために生じた交付金は現金等の財産に含めないこととする。また、利益配当の代替としての交付金の部分は、受取対価には含まれない。

269. 子会社を被結合企業とし子会社以外を結合企業とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、当該被結合企業の株主(親会社)に係る会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて、次の処理を行う(事業分離等会計基準第35項)。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

被結合企業の株主(親会社)が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上し、引き換えられた被結合企業の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。

ただし、交換した株式に対する買戻しの条件などの被結合企業の株主の重要な継続的関与によって、交換した株式に係る成果の変動性を従来と同様に負っている場合には、交換損益を認識することはできないことに留意する必要がある(本適用指針において、交換損益を認識するとしている場合には、同様の留意が必要となる。)(事業分離等会計基準第32項及び第119項)。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

関連会社を結合企業とする場合には、子会社株式である被結合企業の株式が現金等の財産のみと引き換えられたことにより認識された交換損益は、持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。

子会社以外を被結合企業とした企業結合の場合

270. 子会社以外を被結合企業とする企業結合により、被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合、被結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第36項及び第37項)。

(1) 個別財務諸表上の会計処理

被結合企業の株主が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上し、引き換えられた被結合企業の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。

(2) 連結財務諸表上の会計処理

子会社又は関連会社を結合企業とする場合には、被結合企業の株式が現金等の財産のみと引き換えられたことにより認識された交換損益は、連結会計基準及び持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。

(3)受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理

271. 結合企業の株式のみと引き換えられる企業結合において、当該被結合企業に対する持分比率等により、当該企業結合は次のように分類される。

(1) 子会社を被結合企業とする企業結合(第272項から第276項参照)

(2) 関連会社を被結合企業とする企業結合(第277項から第279項参照)

(3) 共同支配企業の形成となる企業結合(第189項から第191項参照)

(4) 子会社や関連会社以外の投資先(共同支配企業を除く。)を被結合企業とする企業結合(第280項から第281-2項参照)

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

272. 子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業に対する持分比率が減少する場合、当該被結合企業の株主(親会社)に係る会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて行う(事業分離等会計基準第38項)。企業結合前に、被結合企業の株主が被結合企業の株式(子会社株式)に加え、結合企業の株式も有しており、当該結合企業の株主としての持分比率が増加する場合、当該被結合企業の株主としての持分の増加については、追加取得に準じて処理し、当該結合企業の株主としての持分の減少については、子会社の時価発行増資等における親会社の会計処理に準じて行う(事業分離等会計基準第39項)。

273. 子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が被結合企業の株主の新たな子会社となる場合(子会社株式から子会社株式)、被結合企業の株主(親会社)は、事業分離における分離元企業の会計処理(第98項及び第99項参照)に準じて、次の処理を行う。

(1) 個別財務諸表上、交換損益は認識せず、結合後企業の株式(子会社株式)の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(子会社株式)に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、結合後企業に係る株主(親会社)の持分の増加額(企業結合直前の結合企業の時価のうち、被結合企業の株主の持分比率の増加に対応する金額)と被結合企業に係る株主(親会社)の持分の減少額との間に生じる差額については、のれん(又は負ののれん)及び持分変動差額として取り扱う。

なお、被結合企業の株主は、結合企業を取得することになるため、連結財務諸表上、パーチェス法を適用する。

274. ある子会社を被結合企業とし他の子会社を結合企業とする企業結合により、結合後企業が引き続き被結合企業及び結合企業の株主の子会社である場合、共通支配下の取引として取り扱う(第248項及び第249項参照)。

275. 子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が関連会社となる場合(子会社株式から関連会社株式)(共同支配企業の形成の場合は含まれない。)、被結合企業の株主(親会社)は、事業分離における分離元企業の会計処理(第100項から第102項参照)に準じて、次の処理を行う。

(1) 個別財務諸表上、第273項(1)と同様に、交換損益は認識せず、結合後企業の株式(関連会社株式)の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(子会社株式)に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、これまで連結していた被結合企業の株式については、持分法へ修正するとともに、結合後企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額との間に生じる差額は、次のように処理する。

@ 結合企業に対して投資したとみなされる額(企業結合直前の結合企業の時価に増加する被結合企業の株主の持分比率を乗じた額)と、これに対応する企業結合直前の結合企業の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)との間に生じる差額については、のれん又は負ののれんとして処理する。

A 被結合企業に対する持分が交換されたとみなされる額(交換された被結合企業の時価に減少したその株主の持分比率を乗じた額であり、@の結合企業に対して投資したとみなされる額と同額となる。)と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額との間に生じる差額については、持分変動差額として取り扱う。

276. 子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が子会社や関連会社、共同支配企業以外となる場合(子会社株式からその他有価証券)、被結合企業の株主は、事業分離における分離元企業の会計処理(第103項参照)に準じて、次の処理を行う。

(1) 個別財務諸表上、原則として交換損益を認識し、結合後企業の株式の取得原価は、その時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、これまで連結していた被結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価)をもって評価する。

関連会社を被結合企業とした企業結合の場合

277. 関連会社を被結合企業とする企業結合により、当該被結合企業(関連会社)に対する持分比率が減少するが、引き続き結合後企業が当該被結合企業の株主の関連会社である場合(関連会社株式から関連会社株式)、被結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第40項)。[設例30]

(1) 個別財務諸表上、交換損益は認識せず、結合後企業の株式(関連会社株式)の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(関連会社株式)に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、持分法適用において、関連会社となる結合後企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額との間に生じる差額は、次のように処理する。

なお、持分法適用において、関連会社となる結合後企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額は、持分法会計基準及び持分法実務指針の追加取得の処理に従い、企業結合直前の結合企業の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。)に増加する被結合企業の株主の持分比率を乗じた額(@参照)として算定される。

@ 被結合企業に対する持分が交換されたとみなされる額(企業結合直前の結合企業の時価に増加する被結合企業の株主の持分比率を乗じた額)と、これに対応する企業結合直前の結合企業の資本(原則として、部分時価評価法の原則法により、資産及び負債を時価評価した後の評価差額を含む。関連会社となる結合後企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額)との間に生じる差額については、のれん又は負ののれんとして処理する。

A 被結合企業の株式が交換されたとみなされる額(被結合企業の時価のうちその株主の持分の減少額であり、@の被結合企業に対する持分が交換されたとみなされる額と同額となる。)と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額(被結合企業の株式に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に減少した被結合企業の持分比率を乗じた額)との間に生じる差額については、持分変動差額として取り扱う。

ただし、@とAのいずれかの金額に重要性が乏しいと考えられる場合には、重要性のある他の金額に含めて処理することができる。

278. 関連会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が被結合企業の株主の関連会社及び共同支配企業以外となる場合(関連会社株式からその他有価証券)、被結合企業の株主は次の処理を行う(事業分離等会計基準第41項)。

(1) 個別財務諸表上、原則として交換損益を認識し、結合後企業の株式の取得原価は、その時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、これまで持分法を適用していた被結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価)をもって評価する。

279. 関連会社を被結合企業とする企業結合において、企業結合前に、被結合企業の株主が被結合企業の株式(関連会社株式)に加え、結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該被結合企業の株主としての持分比率が増加(結合企業の株主としての持分比率は減少)する場合(関連会社株式から子会社株式又は関連会社株式)、当該被結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第42項)。

(1) 個別財務諸表上、交換損益は認識せず、当該被結合企業の株主が受け取った結合企業の株式の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(関連会社株式)に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、結合後企業に係る被結合企業の株主としての持分の増加については、結合後企業が関連会社となる場合には持分法適用会社の株式の追加取得に準じ、子会社となる場合には段階取得により関連会社が連結子会社になった場合における連結手続に準じて会計処理する。また、結合企業の株主としての持分の減少については、子会社又は関連会社の時価発行増資等における親会社又は投資会社の会計処理に準じ、持分変動差額を認識する。

子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合の場合

280. 子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が引き続き、子会社株式や関連会社株式にも該当しない場合(その他有価証券からその他有価証券)、被結合企業の株主の個別財務諸表上、交換損益は認識されず、結合後企業の株式の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する(事業分離等会計基準第43項)。

281. 子会社や関連会社以外の投資先(その他有価証券)を被結合企業とする企業結合において、企業結合前に、被結合企業の株主が被結合企業の株式に加え結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該被結合企業の株主としての持分比率が増加(結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業が当該株主の関連会社となる場合(その他有価証券から関連会社株式)、当該被結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第44項)。

(1) 個別財務諸表上、交換損益は認識せず、当該被結合企業の株主が受け取った結合企業の株式の取得原価は、引き換えられた被結合企業の株式(その他有価証券)に係る企業結合日直前の適正な帳簿価額に基づいて算定する。

(2) 連結財務諸表上、結合後企業に係る被結合企業の株主としての持分の増加については、段階取得による持分法の適用に準じて会計処理する。また、結合企業の株主としての持分の減少については、子会社又は関連会社の時価発行増資等における親会社又は投資会社の会計処理に準じ、持分変動差額を認識する。

281-2. 子会社や関連会社以外の投資先(その他有価証券)を被結合企業とする企業結合において、企業結合前に、被結合企業の株主が被結合企業の株式に加え結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該被結合企業の株主としての持分比率が増加(結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業が当該株主の子会社となる場合(その他有価証券から子会社株式)、当該被結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第44項)。

(1) 個別財務諸表上、当該被結合企業の株主が受け取った結合企業の株式は、企業結合日の前日の適正な帳簿価額に基づいて子会社株式に振り替える。

(2) 連結財務諸表上、当該結合企業の株式の取得原価は企業結合日の時価に基づくこととし、その時価と適正な帳簿価額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理する。なお、結合後企業に係る被結合企業の株主としての持分の増加については、段階取得による連結手続に準じて会計処理する。また、結合企業の株主としての持分の減少については、子会社又は関連会社の時価発行増資等における親会社又は投資会社の会計処理に準じ、持分変動差額を認識する。

(4)受取対価が現金等の財産と結合企業の株式である場合の被結合企業の株主に係る会計処理

子会社を被結合企業とした企業結合の場合

282. 現金等の財産(第268項参照)と結合企業の株式を対価とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が引き換えられた場合、当該被結合企業の株主(親会社)に係る会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて行う(事業分離等会計基準第45項)ため、当該被結合企業の株主は次の処理を行う。

(1) 結合後企業が子会社となる場合や結合企業が子会社である場合、共通支配下の取引として取り扱う(第252項及び第253項参照)。

(2) 結合後企業が関連会社となる場合、事業分離における分離元企業の会計処理(第105項参照)に準じて行う。[設例31]

(3) 結合後企業が子会社及び関連会社、共同支配企業以外となる場合には、事業分離における分離元企業の会計処理(第106項参照)に準じて行う。また、連結財務諸表上、これまで連結していた被結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価又は被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価)をもって評価する。

関連会社を被結合企業とした企業結合の場合

283. 関連会社を被結合企業とする企業結合により、現金等の財産と結合企業の株式を対価として関連会社株式である被結合企業の株式が引き換えられ、当該被結合企業(関連会社)に対する持分比率が減少するが、結合後企業が引き続き当該被結合企業の株主の関連会社である場合(関連会社株式から関連会社株式)、被結合企業の株主は次の処理を行う(事業分離等会計基準第46項)。

(1) 個別財務諸表上、被結合企業の株主が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上する。この結果、当該時価が引き換えられた被結合企業の株式に係る適正な帳簿価額を上回る場合には、原則として、当該差額を交換利益として認識(取得する結合企業の株式の取得原価はゼロとする。)し、下回る場合には、当該差額を取得する結合企業の株式の取得原価とする。

(2) 連結財務諸表上、交換利益は、持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。また、関連会社となる結合企業に係る被結合企業の株主の持分の増加額と、従来の被結合企業に係る被結合企業の株主の持分の減少額との間に生じる差額は、原則として、のれん(又は負ののれん)と持分変動差額に区分して処理する。

子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合の場合

284. 子会社や関連会社以外の投資先(共同支配企業を除く。)を被結合企業とする企業結合により、対価として子会社株式や関連会社株式以外の被結合企業の株式が、現金等の財産と結合企業の株式とに引き換えられた場合、被結合企業の株主は、金融商品会計基準に準じて会計処理する(事業分離等会計基準第47項)。

この場合、現金等の財産は新たな資産として、結合企業の株式は残存部分として取り扱われる。このため、当該現金等の財産の時価と消滅部分の適正な帳簿価額(当該被結合企業の株式の消滅直前の適正な帳簿価額を消滅部分に対応する現金等の財産の時価と残存部分である結合企業の株式の時価の比率により按分して、消滅部分に配分された金額)との差額を当期の損益として処理する。

2.結合企業の株主に係る会計処理

(1)結合企業の株主に係る会計処理の考え方

285. 結合企業の株主に係る会計処理は、子会社や関連会社を結合企業とする企業結合により、当該結合企業の株主の持分比率が減少する場合には、子会社又は関連会社の時価発行増資等における親会社の会計処理に準じて処理する(事業分離等会計基準第48項(1)@)。企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式に加え被結合企業の株式も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業は当該株主の子会社又は関連会社となる場合には、受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理における被結合企業の株主としての持分比率が減少する場合の処理(第286項、第291項、第293項及び第293-2項参照)による(事業分離等会計基準第48項(2)@)。

(2)子会社を結合企業とする企業結合の場合

286. ある子会社を結合企業とし他の子会社を被結合企業とする企業結合により、結合後企業が引き続き被結合企業及び結合企業の株主の子会社である場合、共通支配下の取引として取り扱う(第248項及び第249項参照)。

287. 子会社を結合企業とする企業結合によっても、結合企業の株主(親会社)は、当該結合

企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合により結合企業の株主(親会社)としての持分比率が減少し、結合後企業が引き続き子会社である場合(子会社株式から子会社株式)や関連会社となる場合(子会社株式から関連会社株式)、結合企業の株主(親会社)は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(1)@)。

(1) 個別財務諸表上、結合企業が子会社から関連会社に該当することとなった場合には、子会社株式から関連会社株式に帳簿価額で振り替える。

(2) 連結財務諸表上、親会社の持分の一部が少数株主持分に振り替わることから生じる差額は、持分変動差額とする。

なお、結合企業が子会社から関連会社に該当することとなった場合には、連結から持分法への修正を行う。

288. 子会社を結合企業とする企業結合によっても、結合企業の株主(親会社)は当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合により結合企業の株主(親会社)の持分比率が減少し、結合後企業が子会社及び関連会社、共同支配企業以外となる場合(子会社株式からその他有価証券)、結合企業の株主(親会社)は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(1)@)。

(1) 個別財務諸表上、その他有価証券に時価で振り替え、原則として損益を認識する。

(2) 連結財務諸表上、これまで連結していた結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価)をもって評価する。

(3)関連会社を結合企業とする企業結合の場合

289. 関連会社を結合企業とする企業結合によっても、結合企業の株主は当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合により結合企業の株主としての持分比率が減少し、結合後企業が引き続き関連会社である場合(関連会社株式から関連会社株式)、結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(1)@)。

(1) 個別財務諸表上、何も会計処理しない。

(2) 連結財務諸表上、当該結合企業の株主の持分の一部が他の株主の持分に振り替わることから生じる差額は、持分変動差額とする。

290. 関連会社を結合企業とする企業結合によっても、結合企業の株主は、当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合により結合企業の株主としての持分比率が減少し、結合後企業が関連会社及び共同支配企業以外となる場合(関連会社株式からその他有価証券)、結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(1)@)。

(1) 個別財務諸表上、関連会社株式からその他有価証券に時価で振り替え、原則として損益を認識する。

(2) 連結財務諸表上、これまで持分法を適用していた結合企業の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額(結合後企業の株式の時価)をもって評価する。

291. 関連会社を結合企業とする企業結合において、企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式(関連会社株式)に加え被結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業は当該株主の子会社又は関連会社となる場合(関連会社株式から子会社株式又は関連会社株式)、結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(2)@)。[設例30]

(1) 個別財務諸表上、結合企業が関連会社から子会社に該当することとなった場合には、関連会社株式から子会社株式に帳簿価額で振り替える。

(2) 連結財務諸表上、結合企業の株主が被結合企業の株式を子会社株式として有しており、結合後企業が子会社となる場合には段階取得により関連会社が連結子会社となった場合における連結手続に準じて会計処理を行い、関連会社となる場合には第275項(2)の処理を行う。結合企業の株主が被結合企業の株式を関連会社株式として有しており、関連会社となる場合には第277項(2)の処理を行う。

(4)子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合の場合

292. 子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合により、結合後企業が引き続き子会社株式や関連会社株式に該当しない場合(その他有価証券からその他有価証券)、結合企業の株主は、何も会計処理しない(事業分離等会計基準第48項(1)A又は(2)A)。

293. 子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合において、企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式(その他有価証券)に加え被結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業が当該株主の関連会社となる場合(その他有価証券から関連会社株式)、結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(2)@)。

(1) 個別財務諸表上、金融商品会計実務指針第88項に準じ、その他有価証券から関連会社株式に振り替える。

(2) 連結財務諸表上、結合企業の株主が、被結合企業の株式を子会社株式として有しており、結合後企業が関連会社となる場合には第275項(2)の処理を行う。結合企業の株主が被結合企業の株式を関連会社株式として有しており、関連会社となる場合には第277項(2)の処理を行う。

293-2. 子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合において、企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式(その他有価証券)に加え被結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業が当該株主の子会社となる場合(その他有価証券から子会社株式)、結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準第48項(2)@)。

(1) 個別財務諸表上、当該結合企業の株式は、企業結合日の前日の適正な帳簿価額に基づいて子会社株式に振り替える。

(2) 連結財務諸表上、当該結合企業の株式の取得原価は企業結合日の時価に基づくこととし、その時価と適正な帳簿価額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理する。なお、結合企業の株主が、被結合企業の株式を子会社株式として有しており、結合後企業が子会社となる場合には第273項(2)の処理を行う。

3.分割型の会社分割における吸収分割会社及び新設分割会社の株主に係る会計処理

(1)受取対価が新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式のみである場合の新設分割会社又は吸収分割会社の株主に係る会計処理

294. 分割型の会社分割における吸収分割会社等の株主に係る会計処理は、受け取る新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式と、これまで保有していた吸収分割会社等の株式とが実質的に引き換えられたものとみなして、受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主の会計処理(第272項から第281-2項参照)に準じて行う(事業分離等会計基準第49項)。

295. 第294項及び第296項を適用するにあたっては、被結合企業の株主の会計処理における被結合企業の株式に係る企業結合直前の適正な帳簿価額に代えて、会社分割直前の吸収分割会社等の株式の適正な帳簿価額のうち、合理的に按分する方法によって算定した引き換えられたものとみなされる部分の価額を用いる(事業分離等会計基準第50項)。

合理的に按分する方法には、次のような方法が考えられ、実態に応じて適切に用いる。

(1) 関連する時価の比率で按分する方法

分割された移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)の時価と会社分割直前の吸収分割会社等の株主資本の時価との比率により、吸収分割会社等の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(2) 時価総額の比率で按分する方法

会社分割直前直後の吸収分割会社等の時価総額の増減額を分割された事業の時価とみなし、会社分割直前の吸収分割会社等の時価総額との比率により、吸収分割会社等の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(3) 関連する帳簿価額(連結財務諸表上の帳簿価額を含む。)の比率で按分

分割された移転事業に係る株主資本相当額の適正な帳簿価額と会社分割直前の吸収分割会社等の株主資本の適正な帳簿価額との比率により、吸収分割会社等の株式の適正な帳簿価額を按分する。

(2)受取対価が現金等の財産と新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式である場合の新設分割会社又は吸収分割会社の株主に係る会計処理

296. 分割型の会社分割により吸収分割会社等の株主が、現金等の財産(第268項参照)と新設分割設立会社又は吸収分割承継会社の株式を受け取った場合、当該吸収分割会社等の株主に係る会計処理は、被結合企業の株主の会計処理(第282項から第284項参照)に準じて行う(事業分離等会計基準第51項)。

4.現金以外の財産の分配を受けた場合の株主に係る会計処理

297. 株主が現金以外の財産の分配を受けた場合、企業結合に該当しないが、当該株主に係る会計処理は、原則として、これまで保有していた株式が実質的に引き換えられたものとみなして、被結合企業の株主の会計処理(第268項から第281-2項参照)に準じて行う。

この際、これまで保有していた株式のうち実質的に引き換えられたものとみなされる額は、分配を受ける直前の株式の適正な帳簿価額を合理的な方法(第295項参照)によって按分し算定する(事業分離等会計基準第52項)。

5.いわゆる三角合併などにおける結合当事企業の株主に係る会計処理

298. ある企業の子会社が、結合企業として、当該ある企業(親会社)の株式を対価として他の企業と企業結合する場合、当該取引の実質は、親会社と当該他の企業との企業結合である。このため、その実質に従い、当該他の企業(被結合企業)の株主は、ある企業の子会社ではなく、当該ある企業(親会社)を結合企業とみなして、被結合企業の株主の会計処理を適用する。

[.開示

1.貸借対照表における表示

299. (削 除)

300. (削 除)

共同支配企業への投資の表示

301. 共同支配投資企業は、共同支配企業に対する投資(共同支配企業株式)を次のように表示する。

(1) 個別財務諸表上の表示

関係会社株式等の適切な科目をもって表示する。

なお、共同支配投資企業が連結財務諸表を作成していない場合には、損益等からみて重要性の乏しい共同支配企業に対する投資を除き、当該共同支配企業を形成した事業年度以後において、持分法を適用した場合の投資の金額及び投資損益を個別財務諸表に継続的に注記する。

(2) 連結財務諸表上の表示

投資有価証券等の適切な科目をもって表示し、当該投資額を連結貸借対照表に注記する。

2.損益計算書における表示

302. (削 除)

(1)企業結合に係る特定勘定の取崩益の表示

303. 企業結合に係る特定勘定の取崩益が生じた場合には、原則として、特別利益に計上する。また、重要性が乏しい場合を除き、その内容を連結損益計算書及び個別損益計算書に注記する。

304. (削 除)

305. (削 除)

(2)段階取得に係る損益の表示

305-2. 連結財務諸表上、段階取得に係る損益は、原則として、特別損益に計上する。

3.注記事項

(1)企業結合に関する注記事項

取得とされた企業結合の注記事項

306. 取得原価の配分が完了していない場合の注記(企業結合会計基準第49項(4)B)について、繰延税金資産及び繰延税金負債に対する取得原価の配分額は、暫定的な会計処理の対象となるが、税効果会計の注記(繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳)にあわせて記載することができる。

連結財務諸表を作成しない場合の逆取得に係る注記事項

307. 連結財務諸表を作成しない場合の逆取得に係る注記事項(企業結合会計基準第50項)における「影響額」の記載は、次のいずれかの方法による(第453項参照)。

(1) パーチェス法を適用した場合との差額による記載

@ 貸借対照表項目

資産合計、流動資産合計、固定資産合計、負債合計、流動負債合計、固定負債合計、純資産合計及びのれん

A 損益計算書項目

売上高、営業損益、経常損益、税引前当期純損益、当期純損益、のれんの償却額(又は負ののれん)及び1 株当たり当期純損益

(2) パーチェス法を適用した場合の貸借対照表及び損益計算書の主要項目による記載

307-2.企業結合会計基準第49 項(1)に準じた注記事項(企業結合会計基準第50項)は、次の事項とする。

取得企業の名称及び事業の内容、事業の場合は相手企業の名称及び事業の内容、企業結合を行った主な理由、企業結合日、企業結合の法的形式、結合後企業の名称、取得された議決権比率及び取得企業を決定するに至った主な根拠

308. (削 除)

企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額

309. 取得とされた企業結合の注記事項のうち、企業結合会計基準第49項(5)比較情報における「企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額」とは、取得企業の業績推移の把握が可能となるように、次のいずれかの方法により算定されたものをいう。

(1) 企業結合が当期首に完了したと仮定した場合の売上高及び損益情報と取得企業の連結損益計算書上の売上高及び損益情報に係る各々の差額による記載

(2) 企業結合が当期首に完了したと仮定して算定された当該企業結合年度の売上高及び損益情報による記載

損益情報については、例えば、営業損益、経常損益、税金等調整前当期純損益、当期純損益及び1株当たり当期純損益などであり、実務的に算定可能な項目を開示する。

なお、企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額の算定における基本的な考え方と前提条件の例示については、第326項及び第327項で示している。

310. (以下、第314項まで削除)

子会社が親会社を吸収合併した場合で、子会社が連結財務諸表を作成しないときの注記事項

315. 子会社が親会社を吸収合併した場合で、子会社が連結財務諸表を作成しないときの注記事項(企業結合会計基準第53項)における「影響額」の記載は、次のいずれかの方法による。

(1) 親会社が子会社を吸収合併したものとした場合との差額による記載

@ 貸借対照表項目

資産合計、流動資産合計、固定資産合計、負債合計、流動負債合計、固定負債合計、純資産合計及びのれん

A 損益計算書項目

売上高、営業損益、経常損益、税引前当期純損益、当期純損益、のれんの償却額(又は負ののれん)及び1 株当たり当期純損益

(2) 親会社が子会社を吸収合併したものとした場合の貸借対照表及び損益計算書の主要項目による記載

316. (削 除)

316-2.(削 除)

(2)事業分離に関する注記事項

317. 事業分離が共通支配下の取引等や共同支配企業の形成に該当しない場合において、分離元企業が当該事業分離に関する注記(事業分離等会計基準第28項)を記載するにあたっては次のとおりとする。

(1) 実施した会計処理の概要については、次の事項を記載する。

@ 個別財務諸表においては、次の内容

ア 移転損益を認識した場合には、その金額、移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額並びにその主な内訳

イ 移転損益を認識しなかった場合には、その旨、受取対価の種類、移転した事業に係る資産及び負債の適正な帳簿価額並びにその主な内訳

A 連結財務諸表においては、段階取得に係る損益の金額、持分変動差額の金額及び会計処理

(2) 当期の損益計算書に計上されている分離した事業に係る損益の概算額については、売上高及び営業損益の概算額を記載する。

(3) 分離先企業の株式を子会社株式又は関連会社株式として保有すること以外に、分離元企業の継続的関与があるものの移転損益を認識した場合については、当該継続的関与の主な概要を記載する。ただし、軽微なものについては、注記を省略することができる。なお、当該継続的関与については、例えば、次のような場合が考えられる。

@ 分割時の財産額を限度として弁済の責任を負うこととなる個別催告を受けなかった吸収分割会社の債権者に対する重要な債務がある場合(その旨及び金額)

A 移転した事業に係る出向者に対して出向差額を負担する場合(ただし、明らかに移転する事業の時価の調整項目である場合を除く。)

B 移転した事業から生じる財又はサービスの長期購入契約がある場合

企業結合に該当しないため結合当事企業にはあたらない分離先企業における注記

318. 分割型の単独新設分割における新設会社のように、企業結合に該当しないため結合当事企業にはあたらない分離先企業においても、引き継いだ資産、負債及び資本(純資産)の内訳並びに企業結合会計基準第52項(1)及び(2)に準じた注記をする。

319. (以下、第325項まで削除)

4.企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額の開示

(1)基本的な考え方

326. 当該企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額(以下、本項及び次項において「連結損益計算書への影響の概算額」という。)の算定にあたっては、次の事項に留意する必要がある(第454項参照)。なお、過年度の期首に企業結合が行われたものと仮定した当期の連結損益計算書への影響の概算額を追加的な情報として任意に開示する場合(企業結合会計基準第121項なお書き)も同様の考え方による。

(1) 連結損益計算書への影響の概算額算定にあたり、金額的に重要性があると見込まれるものについては、前提条件を設定する。

この場合、取得企業の業績推移の把握に役立つ情報を提供するという趣旨を踏まえて、どのような項目について前提条件を設けるかを判断する。

(2) 取得企業における恣意的な判断を排除する。

@ 期首から企業結合日までの期間に被取得企業が計上した特別損益は、原則としてそのまま反映する。この場合、特別損益に重要性がある場合には、その内容を注記する?/p>

A 企業結合のシナジー効果を期首に遡って算定しない。

(3) 取得企業が通常の努力で入手可能な情報を使用する。

@ 取得企業の期首時点における被取得企業の資産・負債の時価の再測定は行わない。(例えば、企業結合時に生じたのれんや持分変動差額については、再計算を行う必要はない。)

A 被取得企業の当期首から企業結合日までの期間において適正に算定された収益及び期間損益を基礎とする。なお、1株当たり当期純損益を注記する場合(第309項参照)には、通常の1株当たり当期純損益に次の額を適切に調整する。

ア 連結損益計算書への影響の概算額として加算した被取得企業の損益

イ アに対応した期間における被取得企業の平均株式数に企業結合による株式の交換比率を調整した株式数

(2)前提条件の例示

327. 連結損益計算書への影響の概算額の算定の前提条件の例示としては、次のものがあげられる。

(1) 取得企業と被取得企業の決算期が同じ場合

@ 当期首から企業結合日までの間の結合当事企業間における取引については消去する(内部利益相当額も消去)。

A 被取得企業から受け入れた重要な資産及び負債については、取得後の会計方針に基づいた調整計算(減価償却費、退職給付費用等)を行う。B 企業結合時に新たに認識された重要なのれん等の無形固定資産の償却額、負ののれんの調整計算(例:企業結合時の当該のれん等の金額に基づく年間の償却額等を算定し、結合企業が計上した償却額等を控除)を行う。

C 現金を対価とした企業結合において、現金調達のための借入金額が重要である場合では、金利費用の調整計算を行う。D 当期純損益への影響額算定のために適用する税率は、取得企業の見積実効税率とする。

(2) 取得企業と被取得企業の決算期が異なる場合

@ 取得企業と被取得企業の決算期が同じ場合の考え方を基礎としつつ、被取得企業の期間損益を月数按分等の合理的な方法により、取得企業の期首から企業結合日までの期間に対応した被取得企業の適正な収益、期間損益を算定し、その上で一定の調整を行う?/p>

A 調整項目は、決算期が同じ場合と同様とする。なお、決算期の差異が3か月を超えない場合で、企業結合後の連結財務諸表の作成において連結会計基準(注4)(決算期の異なる子会社がある場合の取扱いについて)に従う場合は、比較可能性の確保の観点から、影響の概算額の算定期間も同様の取扱いとする。

例えば、X2年2月に株式交換(株式交換完全親会社(取得企業)の決算期が3月期、株式交換完全子会社(被取得企業)の決算期が12月期とする。)が行われた場合には、株式交換完全親会社(取得企業)は、株式交換完全子会社(被取得企業)の直前期(X1年1月〜X1年12月)の業績を基礎に連結損益計算書への影響の概算額を算定することになる?/p>

328. (削 除)

329. (削 除)

330. (削 除)

\.適用時期等

331. 平成18年改正の本適用指針の適用時期は、次のとおりとする。

(1) (2)の事項を除き、平成18年4月1日以後開始する事業年度から適用する(企業結合会計基準第56項)(事業分離等会計基準第57項)。ただし、平成18年改正の本適用指針公表日前の組織再編については、平成17年公表の本適用指針(平成18年改正前の本適用指針をいう。以下同じ。)によることができる。

(2) 第203-2項、第206項(4)、第218項(4)、第247項(3)及び第254項(3)の取扱いは、「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(平成18年法務省令第87号)により改正後の会社計算規則(平成18年法務省令第13号)が適用される組織再編から適用する。

331-2. 平成19年改正の本適用指針は、平成20年4月1日以後の組織再編について適用する。ただし、平成19年改正の本適用指針は、その改正日以後終了する事業年度における平成20年3月31日以前の組織再編についても適用することができる(この場合、第331項(2)の事項に係る適用時期については、同項の定めによる。)。

331-3. 平成20年改正の本適用指針は、平成22年4月1日以後の組織再編について適用する。ただし、平成21年4月1日以後開始事業年度において最初に実施される組織再編から適用することができる。

なお、平成20年改正の本適用指針の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理(持分プーリング法、株式を対価とする場合の当該対価の時価の測定日、負ののれん、段階取得、在外子会社株式の取得等により生じたのれん、取得企業の決定、共同支配投資企業の持分法に準じた処理及び取得対価の一部を研究開発費に配分し費用とする処理等)の従前の取扱いについては、同適用指針の適用後においても継続することとし、同適用指針の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないものとする。

332. 平成17年公表の本適用指針の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理については、同適用指針の適用後においても継続することとし、同適用指針の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な修正は行わないものとする。

].議 決

333. 平成17年公表の本適用指針は、第95回企業会計基準委員会に出席した委員12名全員の賛成により承認された。

333-2. 平成18年改正の本適用指針は、第118回企業会計基準委員会に出席した委員11名全員の賛成により承認された。

333-3. 平成19年改正の本適用指針は、第140回企業会計基準委員会に出席した委員11名全員の賛成により承認された。

333-4. 平成20年改正の本適用指針は、第168回企業会計基準委員会に出席した委員12名全員の賛成により承認された。

結論の背景

検討の経緯

334. 企業会計審議会から平成15年10月31日に公表された「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書」 四 3.により、企業結合会計基準を「実務に適用する場合の具体的な指針等については、今後、関係府令を整備するとともに」、「企業会計基準委員会において適切に措置していくことが適当である」とされ、また、その指針については、「合併、株式交換・株式移転、会社分割、営業譲渡・譲受等、企業再編の形式ごとの連結財務諸表上及び個別財務諸表上の適用方法」を含むとされていた。

335. また、当委員会は、事業分離における分離元企業の会計処理及び結合当事企業の株主に係る会計処理等を定めるため、平成17年12月27日に事業分離等会計基準を公表した。

336. 当委員会では、これらの2つの会計基準の適用に関する指針を企業再編(組織再編)の形式ごとに統合したものとして、本適用指針を示している。これは、ある1つの組織再編は、企業結合及び事業分離、さらには関連する株主の会計処理にも関係することが多いため、2つの会計基準の適用に関する指針を一体として示した方が利用者の便宜に資すると考えたことによる。

337. 当委員会では、平成17年7月に企業会計基準適用指針公開草案第8号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(案)」を公表し、広く各界の意見を求めた。当委員会では、寄せられた意見も参考にしてさらに審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、本適用指針を公表することとした。

338. (削 除)

338-2. 平成18年には、平成18年5月1日に会社計算規則が施行されたことに伴う改正(自己株式等会計基準の改正に対応する改正及び共通支配下の取引等に関する会計処理の一部改正)や、株式交換等に伴う株式交換完全子会社等の会計処理に関する定めを新設するなどの改正を行った。

338-3. 平成19年には、会社法における合併等対価の柔軟化に関する規定が平成19年5月に施行されたことに伴う改正や、株式交換に伴う株式交換完全子会社の会計処理に関する定めを追加するなどの改正を行った。

338-4. 平成20年には、同年改正の企業結合会計基準、事業分離等会計基準及び連結会計基準等に対応した改正や、在外子会社株式の取得等により生じたのれんの会計処理に関する定めを追加するなどの改正を行った。

339. (以下、第353項まで削除)

T.取得の会計処理

1.取得企業の決定

結合後企業に支配株主が存在する場合の取得企業の決定の考え方

354. 結合後企業に支配株主が存在するときは、次の理由により、当該株主により企業結合前から支配されていた結合当事企業(子会社)を取得企業とすることとした(第32項参照)。

(1) 当該企業結合は、結合後企業を支配する株主の意思により行われたと考えることが合理的であり、企業結合前から子会社である結合当事企業を取得企業とすることが企業結合の実態に適合していると考えられること

(2) 連結財務諸表上の取得企業と個別財務諸表上の取得企業とを整合させることが適当と考えられること

2.取得原価の算定方法

(1)支払対価が取得企業の株式の場合の取得の対価の算定

355. 本適用指針では、企業結合会計基準の趣旨に従って、支払対価として取得企業の株式が交付された場合の取得の対価の算定における優先順位を示している(第38項参照)。

356. 企業結合会計基準第84項により、「公開企業が自己の株式を交付して非公開企業を取得した場合には、通常、その公開企業株式の時価の方が非公開企業の時価よりも高い信頼性をもって測定できることから、取得原価は公開企業株式の時価を基礎にして算定されることになる」とされている。このため、取得企業が公開企業の場合には、第38項(1)に従い、原則として、交付した株式の市場価格を基礎に取得の対価を算定することとした。

次に、取得企業の株式に市場価格がない場合には、取得企業の株式の「合理的に算定された価額」を基礎として取得の対価を算定し、それができない場合には、被取得企業の株式の「合理的に算定された価額」を基礎として取得の対価を算定することとした。このように本適用指針では、取得企業又は被取得企業の株式の時価の算定において「合理的に算定された価額」も時価の1つとして取り扱っている。これは、独立第三者間取引として行われる株式の交換においては、「合理的に算定された価額」が利用されている場合があり、当該価額が取引時点の時価を表していると考えられるからである。

この点に関して、金融商品会計実務指針第63項では、「市場で売買されない株式について、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価(合理的に算定された価額)とはしない」としているが、これは期末における評価を前提とした定めと考えられるので、取引価額の測定である取得の対価の算定においては、このような「合理的に算定された価額」を得られる場合、それも時価として取り扱うことが合理的である。

なお、取得企業が非公開企業、被取得企業が公開企業の場合の取得の対価の算定は、原則として、被取得企業株式の市場価格に基づいて取得の対価を算定する。

以上の評価方法により取得の対価を算定した場合には、取得原価の算定と取得原価の配分(第51項参照)とは別個の手続として行われるため、通常、のれん(又は負ののれん)が生じることになる。

357. 最後に、取得の対価の算定方法として上記のいずれの方法によることも困難な場合には、被取得企業から受け入れた識別可能資産及び負債の正味の評価額により取得の対価を算定することとした。これは、非公開企業同士の株式の交換において、企業結合会計上の測定値として妥当と認められる時価純資産額が算定されている場合には、その時価純資産額を基礎にして被取得企業の時価を算定することも合理的であると考えられるためである。この方法によった場合には、取得原価の算定と取得原価の配分が一体の手続となるため、取得に直接要した支出額(取得の対価性が認められるものに限る。)を除き、のれん(又は負ののれん)は発生しない。

358. (削 除)

359. (削 除)

360. (削 除)

(2)吸収合併存続会社が新株予約権等を交付したときの会計処理

361. 吸収合併消滅会社が新株予約権を発行している場合、当該新株予約権は合併の効力発生日に消滅することになるが(会社法第750条第4項)、吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる吸収合併存続会社の新株予約権又は現金に関する事項を、合併契約において定めなければならないとされた(会社法第749条第1項第4号及び第5号。なお、会社法上、新設合併又は吸収合併以外の組織再編においては対価として現金を交付することはできない。)。

当該吸収合併が取得とされた場合、吸収合併存続会社(取得企業)が吸収合併消滅会社の新株予約権者に交付した新株予約権又は現金は、取得に直接要した支出額に準じて会計処理することが適当と考えられる(第50項(2)参照)。なお、当該吸収合併が共通支配下の取引等の場合には、子会社である吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額を引き継ぐこととなる(第206項(2)A参照)。

また、当該吸収合併が逆取得又は共同支配企業の形成と判定された場合、吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額を引き継ぐことになる。このため、会計上は、新株予約権の法的な取扱いにかかわらず、吸収合併存続会社は、合併期日において、吸収合併消滅会社の新株予約権の適正な帳簿価額をいったん引き継いだうえで、吸収合併存続会社が自社の新株予約権を交付した場合には、吸収合併存続会社が交付した新株予約権は吸収合併消滅会社の新株予約権の適正な帳簿価額を付すこととし、吸収合併存続会社が現金を交付した場合には、その差額を損益に計上することとした(第84-4項参照)。

当該取扱いは、吸収合併のほか、新設合併、会社分割における新株予約権に関する会計処理にも適用する。

3.取得原価の配分方法

(1)識別可能資産及び負債への取得原価の配分額の算定

362. 識別可能資産及び負債の時価は、企業結合日の時価を基礎として算定される。企業結合会計基準第102項では、「時価は、強制売買取引や清算取引ではなく、いわゆる独立第三者間取引に基づく公正な評価額であり、通常、それは観察可能な市場価格に基づく価額であるが、市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額が時価となる」とされている。

合理的に算定された価額は、一般に、次に示すような見積方法が考えられ、資産の特性等により、これらのアプローチを併用又は選択して算定する(減損会計適用指針第28項(2)及び第109項)(第53項参照)。

(1) コスト・アプローチ

同等の資産を受け入れるのに要するコストをもって評価する方法をいい、例えば原価法が該当する。

(2) マーケット・アプローチ

同等の資産が市場で実際に取引される価格をもって評価する方法をいい、例えば取引事例比較法が該当する。

(3) インカム・アプローチ

同等の資産を利用して将来における期待される収益をもって評価する方法をいい、例えば収益還元法や割引将来キャッシュ・フロー法が該当する。

(2)取得原価の配分額の算定における簡便的な取扱い

363. 取得原価の配分額は、受け入れた資産及び引き受けた負債の企業結合日における時価を基礎として算定することが原則であるが、実務の負担を考慮して、被取得企業の帳簿価額が適正であり、かつ、その帳簿価額と時価との差異が重要でないと見込まれる場合には、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価の配分額を算定できることとした。

したがって、例えば、土地など、通常、適正な帳簿価額と時価等との差異が重要になると想定される項目については、当該方法の適用について慎重に判断する必要がある。

(3)時価が一義的に定まりにくい資産への配分額の特例

364. 取得原価の配分額の算定にあたり、時価が一義的に定まりにくい土地をはじめとした固定資産等の資産を何らかの仮定に基づき評価すると、多額の負ののれんの発生が見込まれる場合には、企業結合条件の交渉過程で当該資産はもともと低く評価されていたと考えられるので、当該資産の評価を改めて行う意義は見出しづらい。

このため、当該資産に対する取得原価の配分額は、負ののれんが発生しない範囲で評価した額(当該資産を何らかの仮定に基づき評価した額から追加的に発生することが見込まれる負ののれんを控除した額)とすることができる。

ただし、時価が一義的に定まりにくい資産であっても、取得企業は企業結合条件の交渉過程で、利用可能な独自の情報や前提など合理的な基礎に基づき、一定の評価を行っていることが想定される。このため、本適用指針では、取得の対価の算定にあたり、その評価額が考慮されている場合には、その評価額を基礎に取得原価を配分することとした。したがって、このような場合には、当該資産に対する取得原価の配分額を備忘価額とすることは適当ではない。

なお、当該取扱いは、時価が一義的に定まりにくい資産に限定したものであるので、合理的な評価が可能である資産について、当該取扱いを適用することは認められない。

(4)無形資産への取得原価の配分

365. 我が国においては、無形資産に係る包括的な会計基準が存在しないため、本適用指針では、無形資産に関連する会計基準及び現在の実務慣行を参考にして無形資産に関する取扱いを示している。したがって、今後、無形資産に関する会計基準が整備された時点で、本適用指針の関連箇所は見直されることがあり得る。

366. (削 除)

367. 分離して譲渡可能な無形資産(第59項参照)であるか否かは、対象となる無形資産の実態に基づいて判断すべきであるが、例えば、ソフトウェア、顧客リスト、特許で保護されていない技術、データベース、研究開発活動の途中段階の成果(最終段階にあるものに限らない。)等についても分離して譲渡可能なものがある点に留意する。

367-2. 企業結合の目的の1つが、特定の無形資産の受入れにあり、その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には、取得企業は、利用可能な独自の情報や前提等を基礎に一定の見積方法(第53項参照)を利用し、あるいは外部の専門家も関与するなどして、通常、取締役会その他の会社の意思決定機関において、当該無形資産の評価額に関する多面的かつ合理的な検討を行い、それに基づいて企業結合が行われたと考えられる。このような場合には、当該無形資産については、識別して資産計上することが適当と考えられ、分離して譲渡可能なものとして取り扱うこととした(第59-2項参照)。

367-3.企業結合により受け入れた研究開発の途中段階の成果について資産として識別した場合には、当該資産は企業のその後の使用実態に基づき、有効期間にわたって償却処理されることとなるが、その研究開発が完成するまでは、当該無形資産の有効期間は開始しない点に留意する。

(5)無形資産の認識要件を満たさないものの例

368. 法律上の権利など分離して譲渡可能という認識要件を満たさないため、無形資産として認識できないものの例としては、被取得企業の法律上の権利等による裏付けのない超過収益力や被取得企業の事業に存在する労働力の相乗効果(リーダーシップやチームワーク)がある。これらは識別不能な資産としてのれん(又は負ののれんの減少)に含まれることになる。

369. (削 除)

(6)いわゆるブランドの取扱い

370. 企業結合によって受け入れた、いわゆるブランドについて、のれんと区分して無形資産として認識可能かどうかという論点がある。

ブランドは、プロダクト・ブランドとコーポレート・ブランド(企業又は企業の事業全体のブランド)に分けて説明されることがある。両者は商標権又は商号として、ともに法律上の権利の要件を満たす場合が多いと考えられるが、無形資産として認識するためには、その独立した価額を合理的に算定できなければならない。このうち、コーポレート・ブランドの場合には、それが企業又は事業と密接不可分であるため、無形資産として計上することは通常困難であるが、無形資産として取得原価を配分する場合には、事業から独立したコーポレート・ブランドの合理的な価額を算定でき、かつ、分離可能性があるかどうかについて留意する必要がある。

371. (削 除)

(7)企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分

372. 企業結合に係る特定勘定の計上は、一定の費用又は損失を負債として認識した方が、「その後の投資原価の回収計算を適切に行い得る」(企業結合会計基準第99 項)ためである。

すなわち、企業結合の条件交渉の過程で、被取得企業に関連して発生する可能性のある将来の費用又は損失が取得の対価に反映されている場合(取得の対価がそれだけ減額されている場合)には、被取得企業が企業結合日前に当該費用又は損失を負担したと考えられるので、これらの費用等を企業結合日以後の取得企業の業績に反映させない方が取得企業の投資原価の回収計算を適切に行うことができると考えられるからである。

373. 企業結合に係る特定勘定として負債計上する費用又は損失としては、例えば、次が考えられる。

・人員の配置転換や再教育費用

・割増(一時)退職金

・訴訟案件等に係る偶発債務

・工場用地の公害対策や環境整備費用

・資産の処分に係る費用(処分費用を当該資産の評価額に反映させた場合で、その処分費用が処分予定の資産の評価額を超過した場合には、その超過額を含む。)

なお、これらの費用又は損失を企業結合に係る特定勘定に計上する場合は、第63項及び第64項を満たした場合に限られることに留意する必要がある。

(8)企業結合に係る特定勘定に計上できる費用又は損失の範囲

374. 第63項で示されているように、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識される識別可能負債に該当する場合には、当該識別可能負債として取得原価を配分しなければならないので、企業結合に係る特定勘定として認識することはできないことに留意する必要がある。

なお、平成15年公表の企業結合会計基準では、「取得後短期間で発生することが予測される」ものとされていたことから、平成17年公表の本適用指針では、企業結合日後5年以内に発生するものであることとされていた。そのような費用又は損失の発生は通常5年程度以内と考えられるものの、平成20年改正の企業結合会計基準を踏まえて、その後の投資原価の回収計算を適切に行いうるという観点から、平成20 年改正の本適用指針では、このような限度期間は示さないこととした。

また、第63項における「特定の事象に対応した費用又は損失(ただし、識別可能資産への取得原価の配分額に反映されていないものに限る。)」により、具体的な事象が特定されていない将来の営業損失については当該負債の認識の対象とはならないことと、特定の事象に対応した費用又は損失が識別可能資産への取得原価の配分額に反映されている場合には、資産の評価額がすでに減額されているため該当しないことに留意する必要がある。

さらに「被取得企業に係る費用又は損失」とされているように、パーチェス法は取得企業の観点から会計処理を行うものであること、取得の対価の算定に反映される事象は、被取得企業に関連した費用又は損失と考えることが合理的であることから、取得企業に係る将来の費用又は損失は当該負債の対象とはならず、企業結合日後に発生する被取得企業に係る費用又は損失に限定されることとなる。

(9)取得の対価の算定に反映されている場合

375. 企業結合に係る特定勘定に関して、実務上、企業結合条件の交渉の過程で当該事象に係る金額が対価の算定に反映されていたことが契約条項等から明らかな場合は少ないと考えられるが、第64項(1)から(3)では、「その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合」の要件を示している。平成17年公表の本適用指針は(1)と(2)のいずれかの要件を満たしている場合とされていたが、平成20年改正の本適用指針では、同年改正の企業結合会計基準第33項を踏まえて、(3)の要件を満たす場合についても、「その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合」に含めることとした。

376. (削 除)

(10)企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理

377. 企業結合に係る特定勘定は、企業結合に係る「未決算勘定」としての性格が強いと考えられるので、当該負債の計上後に、引当金又は未払金など、他の負債項目としての認識要件を満たした場合には、当該負債から他の適当な負債科目に振り替える必要がある(第66項参照)。

したがって、例えば、当該負債の認識の対象が被取得企業に係る偶発損失の場合には、当該偶発損失が発生したとき、又は発生しないことが明らかとなったときに当該負債を取り崩し、また偶発損失引当金の要件を満たしたときに当該引当金に振り替えることになる。

なお、当該負債は、取得の対価に反映されている場合(第62項参照)を前提として計上されるため、暫定的な会計処理の対象外となる。

(11)取得原価の配分における暫定的な会計処理

378. 企業結合会計基準第104項により、「識別可能資産及び負債を特定し、それらに対して取得原価を配分する作業は、企業結合日以後の決算前に完了すべきであるが、それが困難な状況も考えられる」とされ、また、企業結合会計基準第49項(4)Bでは、「取得原価の配分が完了していない場合は、その旨及びその理由」を(連結)財務諸表に注記することが求められている。このように、暫定的な会計処理は取得原価の配分作業について困難な理由があるときに限り容認されるものと考えられる。

また、本適用指針では、第54項(取得原価の簡便的な配分処理)の要件を満たす場合には、識別可能資産及び負債に対し、その適正な帳簿価額を基礎として取得原価を配分することができるとしている。取得企業が、このような簡便的な取得原価の配分処理を適用した場合には、取得原価の配分作業について困難な理由があるときには該当しない。

よって、暫定的な会計処理が認められる項目とは、原則として、識別可能資産及び負債の企業結合日における時価と被取得企業の適正な帳簿価額が大きく異なることが想定され、その時価の算定に時間を要するものに限られると考えた。

なお、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価を売上債権に配分した後に発生した貸倒損失(設定された貸倒引当金を上回る損失額)は、取得企業の貸倒損失として費用計上しなければならず、当該損失をのれんに振り替え、資産計上することは認められない。

(12)繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分

378-2.のれん(又は負ののれん)については、配分残余という性格上、税効果を認識しても同額ののれん(又は負ののれん)が変動する結果となるため、あえて税効果を認識する意義は薄いと考えられる(第72項参照)。

なお、平成18年度税制改正により、非適格合併等における税務上ののれん(資産調整勘定又は差額負債調整勘定)に関する規定が定められているが、当該税務上ののれんが認識される場合においては、その額を一時差異とみて、第71項に基づき繰延税金資産又は繰延税金負債を計上した上で、配分残余としての会計上ののれん(又は負ののれん)を算定することに留意する必要がある。

(13)繰延税金資産に対する取得原価の配分額の確定

379. 本適用指針では、繰延税金資産の回収可能額を修正した場合、企業結合年度における修正は、企業結合日ののれんを修正し、企業結合年度の翌年度における修正は、原則として、翌年度の損益(法人税等調整額)に計上するものの、その修正内容が、明らかに企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の修正と考えられるときは、企業結合日に遡及してのれんを修正することとしている(第73項参照)。これは、次の理由による。

(1) 繰延税金資産の回収可能性は、将来年度の課税所得の見積額等により判断することとなるが、取得した事業について取得した当初に合理的な見積りを行うことは困難な場合が多いと考えられる。したがって、企業結合年度末における繰延税金資産の回収見込額の修正は、すべて企業結合日ののれんの修正として処理することが適当であること

(2) 企業結合年度の翌年度(ただし、企業結合日以後1年以内に限る。)に繰延税金資産の回収見込額の修正が行われた場合にも(1)と同様に処理する考え方もあり得るが、企業結合年度末における繰延税金資産の回収見込額の判断を重視するとともに、企業結合年度の翌年度の修正のうち、企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の修正と考えられるときは、企業結合日に遡及してのれんを修正するとすることにより、企業結合年度の繰延税金資産の回収見込額は適正なものとなること

(14)のれんの会計処理

380. 本適用指針において、のれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに決定することを明確にした(第76項(6)参照)。これは企業結合ごとにのれんの発生原因が異なるためである。

また、のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示することとなる(企業結合会計基準第47項)。これは、次の理由によるものと考えられる。

(1) のれんの規則的な償却を行う方法を採用した理由として、企業結合会計基準第105項では、「企業結合の成果たる収益と、その対価の一部を構成する投資消去差額の償却という費用の対応が可能になる」こと、また、「のれんは投資原価の一部であることに鑑みれば、のれんを規則的に償却する方法は、投資原価を超えて回収された超過額を企業にとっての利益とみる考え方とも首尾一貫している」とされている。したがって、企業結合後の収益が営業収益に計上される限り、のれんを含む投資原価の償却分も営業費用に計上し、投資原価の回収状況を営業損益として表示することが企業結合会計基準の趣旨に合致するものと考えられたからである。

(2) 従来から、連結調整勘定(借方)の当期償却額は、販売費及び一般管理費の区分に表示するとされていたことによる。

381. 検討状況の整理(平成17年1月)に対するコメントの中には、企業結合に伴って発生するのれんを、発生時に一括償却し、その償却額を特別損失に計上する会計処理を認めるべきであるとの意見が寄せられた。当該意見は、のれんの効果の及ぶ期間を合理的に算定するのは困難であることから、特別損失での一括償却を認めることで、償却期間に対する恣意性の排除及び貸借対照表の健全性の早期確保が可能であること(保守主義の原則)等を論拠とするものである。

しかしながら、次の理由から、のれんを企業結合日に全額費用処理し、これを特別損失に計上することは適当ではないと考えた。

(1) 取得企業は、被取得企業との企業結合にあたって、受け入れる資産及び引き受ける負債の純額を超える何らかの価値(例えば、被取得企業の継続企業としての要素の価値や企業結合により期待されるシナジーなど)を見出し、それに対して自社の株式等の対価を支払ったと考えられる。一方、企業結合日にのれんを全額費用処理することは、会計上、のれんの価値が消滅したものとすることと同じである。のれんに資産価値があると考えられるにもかかわらず、その価値が消滅したものとして会計処理することは、過度の保守主義(企業会計原則注解(注4))に該当し適当ではない。また、のれんは、その効果の及ぶ期間にわたり償却するとしている企業結合会計基準の定めに反することになる。

(2) 繰延税金資産の回収見込額の算定、引当金の計上額の算定など、合理的な見積りが必要とされる会計処理は、多数存在する。また、償却期間の算定が容易ではないのは、有形固定資産の耐用年数を見積る場合にも当てはまる。一般に、償却の基礎となる資産の有効期間は、売却による回収額と利用による回収額が等しくなると考えられる時点までの期間であり、それは資産に含まれるのれんの価値が消滅するまでの期間を見積っていることにほかならない。したがって、のれんの償却期間の見積りが困難であることを理由にのれんを企業結合日に全額費用処理することは、現行の他の会計処理との整合性が図れないことになる。

(3) 投資家に開示する企業結合後の損益情報は、取得企業が投資原価(取得原価)と比べてどれだけの利益を獲得しているかを示すことが重要である。のれんを減損処理以外の事由で企業結合日に全額費用処理し、これを特別損失に計上した場合、それ以後、のれんの償却額が発生しないため、企業結合の投資原価がその後の営業損益には反映されないことになる。この結果、企業結合後の営業損益は、企業結合の成否に関する情報としての有用性を欠くことになる。

382. のれんの効果の及ぶ期間を合理的に見積った結果として、稀ではあるが、のれんの償却額が企業結合年度に全額計上されることはあり得ると考えられる。ただし、この場合には、企業結合年度の営業収益でのれんにあたる無形価値への投資原価(取得原価)の回収が期待されているため、のれんの償却額は特別損失ではなく、営業費用(販売費及び一般管理費)に計上されることになる(第380項(1)参照)。

なお、実務上、のれんの償却期間の決定にあたり、企業結合の対価の算定の基礎とした投資の合理的な回収期間を参考にすることも可能である。

382-2. 在外子会社株式の取得により、在外子会社を資本連結する際に生じたのれんについては、従来、親会社の通貨である円貨額で固定されていると考え、為替相場の変動による影響を受けないとしていた。これに対して、のれんの主要な部分は実質的に個別の認識の要件を満たさない資産を構成するものと考えられるため、在外子会社株式の取得により生じるのれんは当該在外子会社の他の資産と同様に、在外子会社の現地通貨で発生したものとみて換算することが整合的であるとする考え方がある。また、在外子会社の子会社(在外孫会社)の連結においては、親会社が在外孫会社の財務諸表を直接換算する場合と、在外子会社の連結財務諸表として換算する場合があるが、在外孫会社を資本連結する際に生じたのれんを決算日の為替相場で換算することにより整合的に取り扱うことができることとなる。これらの考え方を踏まえて、国際的な会計基準と同様に、平成20年改正の本適用指針では決算日の為替相場で換算することとした(第77-2項参照)。

なお、この場合でも、在外子会社の個別財務諸表には当該のれんを計上する必要はなく、在外子会社の資産の換算と同様に連結財務諸表の作成上の処理として行うこととなる。

383. (削 除)

4.取得企業の増加資本の会計処理

(1)新株を発行した場合の会計処理

384. 企業結合の対価として、取得企業が新株を発行した場合には、払込資本、すなわち、資本金又は資本剰余金を増加させることとした(第79項参照)。パーチェス法の会計処理においては、取得企業の増加すべき株主資本は払込資本を増加させることが適当と考えられるためである。したがって、留保利益である利益剰余金を増加させることはできない(第408項及び第409項参照)。

385. 取得企業の増加すべき株主資本は、会計上、払込資本に限定した上で、具体的にどの株主資本項目を増加させるかは、分配可能額を定める会社法の規定に基づき決定することとなる。

従来の実務では、合併又は分割型の会社分割(人的分割)において、吸収合併存続会社又は吸収分割承継会社は企業結合日において時価以下で評価された吸収合併消滅会社又は分割会社の資産及び負債を承継し、また、吸収合併消滅会社又は分割会社の分配可能な剰余金を利益剰余金等として引き継ぐ処理が一般的に行われてきた。これは、旧商法の下では、合併及び分割型の会社分割(人的分割)において剰余金の引継ぎに関する制度があり、また、企業結合に関する会計基準が整備されていなかったためと思われる。

386. この点に関し、会社法においては、剰余金の引継ぎに関する制度は原則として廃止され、企業結合が取得とされた場合、企業結合による増加すべき株主資本のうち、どの株主資本項目を増加させるかは、吸収合併消滅会社又は分割会社の資本構成にかかわりなく、吸収合併存続会社又は吸収分割承継会社が任意に決定できることとされた。

387. 本適用指針では、第384項の考え方に従い、企業結合の手続の中で剰余金が直接増加したとしても、会計上は分配可能な払込資本が増加したものと考えて、その他資本剰余金を増加させることとした。

(2)自己株式を処分した場合の会計処理

388. 平成17年公表の本適用指針では、自己株式の処分のみの場合と新株の発行と併用される場合の2つの定めを設け、前者については、増加すべき株主資本の額を自己株式の処分の対価として自己株式の処分の会計処理を行い、後者については、増加すべき株主資本の額を新株の発行及び自己株式の処分の株式数の比率により按分し、処分した自己株式に相当する額については自己株式の処分の会計処理を行うこととしていた。

平成18年改正の本適用指針では、対価が新株のみの場合の処理及び会社計算規則との整合性を考慮し、増加すべき株主資本の額(自己株式の処分の対価の額)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額について、払込資本(資本金又は資本剰余金)を増加(当該差額がマイナスとなる場合にはその他資本剰余金を減少)させることとし(第80項及び第112項参照)、会計上、取得企業の増加すべき株主資本を払込資本に限定した上で、具体的にどの株主資本項目を増加させるかは、分配可能額を定める会社法の規定に基づき決定することとした。

(3)取得企業の株式又は現金以外(例えば親会社株式)を対価とする場合の会計処理

389. 会社法では、吸収合併、吸収分割又は株式交換の場合において、吸収合併消滅会社の株主、吸収分割会社若しくはその株主又は株式交換完全子会社の株主に対して、吸収合併存続会社、吸収分割承継会社又は株式交換完全親会社の株式を交付せず、金銭その他の財産を交付することができるとされている。

企業結合会計基準第84項では、「取得原価は対価の形態にかかわらず、支払対価となる財の時価で算定される」としているため、企業結合の対価として、取得企業の株式又は現金以外の財産を交付した場合にも、取得の対価は交付した財産の時価を基礎として算定することになる。この場合、交付した財産の時価とその適正な帳簿価額との差額をどのように処理するかの論点がある。

本適用指針では、取得企業が企業結合の対価として取得企業の株式又は現金以外の財産を交付した場合には、資産の処分取引として考え、その差額は取得企業の損益に計上することとした(第81項参照)。

390. 子会社が親会社株式を支払対価として他の企業と企業結合する場合には、企業集団からみると、親会社が企業結合の対価として自己株式を処分する取引と同様に考えることができるため、連結財務諸表上は資本取引として取り扱うことが適当である。このため、子会社の個別財務諸表上、損益に計上した親会社株式の処分差額を連結財務諸表上は自己株式処分差額に振り替えることとした(第82項参照)。

5.吸収合併消滅会社の最終事業年度の会計処理

391. 合併による逆取得又は共同支配企業の形成の場合、吸収合併消滅会社は消滅するものの、会計上は持分が継続しているため、吸収合併消滅会社は、最終事業年度に資産及び負債の適正な帳簿価額を算定し、その額が吸収合併存続会社に引き継がれることになる。

これに対して、合併による企業結合が取得とされた場合、吸収合併消滅会社は会計上も清算されたとみるため、吸収合併消滅会社の最終事業年度の財務諸表は、正味売却価額に基づくことが考えられる。しかしながら、実務における費用対効果を勘案して、吸収合併消滅会社の最終事業年度の財務諸表は、吸収合併消滅会社が継続すると仮定した場合の適正な帳簿価額によることとした(第83項参照)。

6.分離元企業の会計処理

(1)分離元企業における受取対価の時価

392. 分離元企業において、移転した事業に対する投資が清算されたと考えられる場合でも、交付された分離先企業の株式の時価又は移転した事業の時価の算定が困難なときには、分離元企業において移転損益を認識することは適当ではないという意見がある。

しかしながら、企業結合・事業分離においては様々な事業価値評価がなされており、特に、投資が清算されたと考えられる場合は、第三者との間の外部取引であるため、何らかの形で事業の価値を算定していると考えられること、企業結合会計基準では、取得とされた企業結合(少数株主との取引も含む。)に対して、時価の算定の困難性を理由として、帳簿価額によることができる旨の定めはないことなどから、事業分離に関する会計処理上、分離先企業の株式の時価又は移転した事業の時価の算定が必要なとき(例えば、移転損益を認識するとき)には、原則として、当該時価を算定することとした。

393. 分離先企業の株式などの受取対価又は移転した事業のいずれについても、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、代替的に、識別可能な分離先企業又は移転した事業に係る資産及び負債の時価に基づく正味の評価額を用いることができる。

これは、受取対価又は移転した事業全体の公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合の取扱いであるため、当該正味の評価額にのれん(又は負ののれん)は含まれない。

(2)分離元企業における移転損益の認識

394. 分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離において、分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合、経済実態として、分離元企業における当該事業に関する投資がそのまま継続していると考えられる(事業分離等会計基準第87項)。また、分離先企業が新たに関連会社となる場合も、現行の会計基準等における考え方を踏まえれば、事業分離により分離先企業が新たに子会社となる場合と同様に、移転された事業に関する投資が継続しているとみることが適当と考えられる(事業分離等会計基準第98項から第100項)。

したがって、当該取引においては、移転損益は認識されず、当該分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定する(第98項(1)及び第100項(1)参照)。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合、資産の貸借対照表価額はマイナスにならないことから分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)の取得原価はゼロとし、当該マイナスの金額(事業分離前に分離先企業の株式を有していた場合には、まず、当該分離先企業の株式の適正な帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナス金額)は株式の評価的な勘定として「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上することが適当と考えられる。当該負債の事業分離後の会計処理は、分離元企業が当該分離先企業の株式を処分したときには損益に振り替え、現物配当(分割型の会社分割を含む。)を行ったときは株主資本を直接変動させるなど、通常の有価証券の会計処理に従うこととなる。

395. 事業分離等会計基準では、現金等の財産(第95項参照)と分離先企業の株式を受取対価とする事業分離において、分離元企業は、個別財務諸表上、次の処理を行うとしている。

(1) 子会社へ事業分離する場合や分離先企業が子会社となる場合には、共通支配下の取引又は共通支配下の取引に準ずる取引として取り扱う(第104項参照)ため、分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、移転前に付された適正な帳簿価額により計上し、当該価額が移転事業に係る株主資本相当額を上回る場合には、当該差額を移転利益として認識することとなる(第230項参照)。

(2) 関連会社へ事業分離する場合や事業分離により分離先企業が新たに関連会社となる場合には、共通支配下の取引にあたらないため、分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、時価で計上し、当該時価が移転事業に係る株主資本相当額を上回る場合には、原則として、当該差額を移転利益として認識することとなる(第105項参照)。

なお、これらの場合において、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)がマイナスのときには、前項と同様に、分離元企業が受け取った分離先企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)の取得原価をゼロとしても、現金等の財産を受け取ったため、当該差額の取扱いが問題となる。受け取った分離先企業の株式が子会社株式又は関連会社株式となる場合について投資は継続しているという事業分離等会計基準の考え方を踏まえ、(1)又は(2)のように移転利益を認識するとしても、積極的に認識するわけではないため、受け取った現金等の財産の額を超えて移転利益を計上することは適当ではないと考えられる。したがって、受け取った分離先企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)の取得原価をゼロとしても、受け取った現金等の財産の額(分離先企業が子会社の場合は移転前に付された適正な帳簿価額、分離先企業が関連会社の場合は時価)と等しい金額については、移転利益として認識せざるを得ないが、マイナスの移転事業に係る株主資本相当額(事業分離前に分離先企業の株式を有していた場合には、まず、当該分離先企業の株式の適正な帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナス金額)については、当該分離先企業の株式の評価的な勘定として「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上することとした。

(3)分離元企業の連結財務諸表上においてパーチェス法が適用されることにより計上されるのれん

396. 分離先企業が新たに分離元企業の子会社となる場合、分離先企業については分離元企業の連結財務諸表上、パーチェス法を適用することとなる。このため、原則として、分離元企業(親会社)の持分に相当する取得原価(分離先企業に対して投資したとみなされる額)と受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額(対応する分離先企業の事業分離直前の資本)との差額は、のれんに計上されることとなる。

例えば、共同新設分割(従来の分社型)により、分離元企業(新設分割会社)A社はa事業(当該事業に係る諸資産の適正な帳簿価額480、当該事業の時価800)を、B社はb事業(当該事業に係る諸資産の適正な帳簿価額100、当該事業に係る諸資産の時価150、当該事業の時価200)を新設分割承継会社Y社に移転し、A社はY社を子会社(持分比率80%)、B社はY社を関連会社(持分比率20%)とするものとする。

A社はB社から受け入れた事業の80%を取得するため、B社の資産(及び負債)は100%支配することとなるが、のれんは80%しか買い入れていないとみる見方が考えられる。この場合には、A社の連結財務諸表上、パーチェス法を適用するにあたり、のれんは40(B社のb事業の時価200の80%と識別可能な資産(及び負債)に配分された純額150の80%との差額)(借方)が計上されることとなる。これは少数株主持分に相当する部分ののれんについては問題があるといわれていることにも対応するものと考えられる。

ただし、共同新設分割による子会社の設立のように、まず、子会社となる分離先企業の個別財務諸表上で、取得した事業につきパーチェス法の適用により買入れのれん50が計上され、その後、分離元企業(親会社)の連結財務諸表上、子会社となった当該分離先企業の80%持分を有したと考える場合には、子会社となった分離先企業で計上した買入れのれん50をそのまま計上することができるのではないかという見方がある。

この見方においては、A社の連結財務諸表上、パーチェス法の適用による取得原価は200とみるものであり、この取得原価と識別可能な資産(及び負債)に配分された純額150との差額50(借方)としてのれんが算定されることとなることは企業結合会計基準の考え方に従っているものと考えられる。また、この場合、のれんは有償取得されているとみなされることや、当該のれんは連結会計基準が指摘するような親会社の持分について計上した額から推定して計上するわけではないこと、さらに、少数株主持分に相当する部分10ののれんの償却額は少数株主損益に含まれることとなるため、当期純損益の算定における償却額の負担についても問題となるわけではないと考えられる。

397. この論点は、@子会社となる分離先企業への事業の移転と、A分離先企業の株式を対価として受け取ることにより当該分離先企業が子会社化することとが、同時であることによって生じるものと思われる。すなわち、それらが同時ではない場合(例えば、子会社となる企業において他から取得した事業に係るのれんが計上されており、当該企業を取得し子会社化した場合)には、既に子会社で計上されているのれん全額を親会社の連結財務諸表において計上することとなるが、それらが同時である場合には、親会社の持分に対応するのれんの計上しか認められないかどうかという論点である。

このような場合、原則として、親会社の持分に対応するのれん40を計上するものと考えられるが、共同新設分割による子会社の設立のように、まず、子会社となる分離先企業の個別財務諸表上で、取得した事業につきパーチェス法の適用によりのれん50が計上され、その後、分離元企業(親会社)の連結財務諸表上、子会社となった当該分離先企業の持分を有したと考えられるような場合には、それらが同時に生じていても、いわば子会社で取得した事業(のれんを含む。)について持分を有するものと捉える見方も否定できないものとして、本適用指針では、子会社となった分離先企業で計上したのれんをそのまま計上することができるものとした。

なお、前者の場合には、分離元企業(親会社)の連結財務諸表上、親会社ののれんとして40が計上されているため、その償却額は少数株主持分に負担させないが、後者の場合には、子会社となった分離先企業ののれんとして50が計上されているため、その償却額の一部は少数株主持分に負担させることとなる。

(4)分離元企業の税効果会計

398. 分離元企業において、事業分離により移転する事業に係る資産及び負債が、現金以外の受取対価と引き換えられ、新たに当該受取対価が計上される場合には、一般的な交換の場合と同様に、新たに貸借対照表に計上された資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額(税務上の帳簿価額)との間に差額(一時差異)が生じる場合がある。例えば、分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離では、次のような場合がある。

(1) 分離元企業において移転損益が認識されない場合、分離先企業株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定される(第98項参照)。適格組織再編に該当する場合、税務上も、分離先企業株式の取得原価は、移転した事業に係る資産及び負債の税務上の帳簿価額に基づくため、この場合には、分離先企業株式に関して、移転した事業に係る資産及び負債の一時差異と同額の一時差異が生じる。

(2) 分離元企業において移転損益が認識されないが、適格組織再編に該当しない場合には、税務上、分離先企業株式の取得原価は、当該株式の時価に基づくため、この場合には、基本的に、分離先企業株式に関して、移転した事業に係る資産及び負債の一時差異と同額の一時差異に加え、新たに税務上の移転損益相当額が一時差異として生じる。

(3) 分離元企業において移転損益が認識される場合、分離先企業株式の取得原価は、当該株式の時価又は移転した事業の時価に基づいて算定される。これが適格組織再編に該当する場合、税務上、分離先企業株式の取得原価は、移転した事業に係る資産及び負債の税務上の帳簿価額に基づくため、この場合には、分離先企業株式に関して、当該株式の時価又は移転した事業の時価と移転した事業に係る資産及び負債の税務上の帳簿価額との差額が、一時差異として生じる。

(4) 分離元企業において移転損益が認識され、適格組織再編に該当しない場合には、分離先企業株式の取得原価は時価となるが、当該株式の時価の測定時点が企業会計と課税所得計算とでは異なるなどの場合には、一時差異が生じる。

399. 分離元企業における税効果会計の主な論点としては、まず、事業分離日の属する事業年度の前期末(事業分離日の前日における仮決算を含む。)において、分離元企業が移転する事業に係る資産及び負債の一時差異に対して計上する繰延税金資産の回収可能性の判断をどのように行うかという論点がある。これについては、一般的な売却や交換の場合と同様に、分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断する(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第21項)こととなり、分離先企業の将来年度の収益力に基づく課税所得等は勘案しないものと考えられる。

400. ただし、投資が継続しているとみる場合(第398項(1)及び(2)参照)には、事業分離日において分離元企業で認識された繰延税金資産及び繰延税金負債は、通常、分離先企業において引き継がれるため、分離元企業から分離先企業に移転することとなる。事業分離日の直前において、分離元企業は、移転する繰延税金資産及び繰延税金負債の適正な帳簿価額を算定するが、その回収可能性は、事業分離が行われないものと仮定したときの分離元企業における将来年度の収益力に基づく課税所得等に基づき判断することとなる。

なお、事業分離が行われないものと仮定して回収可能性を判断するのは移転する事業に係る繰延税金資産であって、残存する事業に係る繰延税金資産については、事業分離日以後は移転する事業から生じる課税所得等が分離元企業に帰属しないことから、同様の仮定をおいた課税所得等に基づいて判断するわけではなく、事業分離を考慮した実際の分離元企業における将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断することに留意する必要がある(第107項(2)参照)。

401. 次に、事業分離により移転する事業に係る資産及び負債が、分離先企業の株式など現金以外の受取対価と引き換えられ、新たに貸借対照表上、当該受取対価が計上される場合において、これらの金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額(税務上の帳簿価額)との間に生じる差額(一時差異)に対して税効果会計をいつ適用するかが論点として挙げられる。これについては、一般的な交換の場合と同様に、分離先企業の株式のみを受取対価とする事業分離でも、原則として、事業分離日以後最初に到来する事業年度末に適用するものと考えられる。したがって、期末に繰延税金資産及び繰延税金負債が計上され、その差額を期首と期末で比較した増減額が法人税等調整額として計上されることとなる(税効果会計に係る会計基準 第二 二 3)。

402. しかしながら、投資が継続しているとみる場合には、事業分離日において分離元企業で認識された繰延税金資産及び繰延税金負債が分離先企業に移転することとなる(第400項参照)ため、これと同時に、分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として、同額計上することが適当と考えられる(第108項(2)参照)。

これは、投資が継続しているとみるため、連結財務諸表上は、当該繰延税金資産及び繰延税金負債を含めた移転する事業に係る帳簿価額が子会社に対する投資原価となるものの、個別財務諸表上、分離先企業の株式の取得原価は、移転する事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額とし、税効果については、事業分離日において移転する事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債が引き換えられた分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債に置き換わったとみるものである。仮に個別財務諸表上、同額の繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しない場合には、分離元企業で認識された繰延税金資産及び繰延税金負債が分離先企業に移転するため、当該金額が分離先企業株式の取得原価を構成することとなり、期末に計上される分離先企業株式に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債や、それに関連する法人税等調整額が適切に算定されなくなってしまうという弊害が生じる。このため、個別財務諸表上はこのような弊害を避けるため、事業分離日において移転する事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債は、分離先企業の株式等に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として同額計上することとした。

403. 分割型の会社分割において適格組織再編に該当しない場合、税務上は分割期日の前日において移転損益に課税されることとなり、分離元企業が移転する事業に係る資産及び負債は時価に評価替えされたものと同様と考えられるため一時差異が生じ、翌日の分割期日に当該一時差異は解消することとなる。

特に、分割期日が分離元企業の期首である場合には、分割期日の前日である前期末において、税務上の移転損益に係る未払法人税等と当該一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債が計上されるが、当該繰延税金資産の回収可能性の判断についても、原則として、分離元企業における事業分離日以後の将来年度の収益力に基づく課税所得等により判断することとなると考えられる。

7.取得とされた株式交換及び株式移転の会計処理

(1)株式交換完全親会社等の税効果会計の取扱い

404. 株式交換又は株式移転により株式交換完全親会社等は株式交換完全子会社等の株式を取得することになるが、当該企業結合にパーチェス法が適用される場合、取得した子会社株式に係る一時差異に対する税効果を認識するかどうかが論点となる。

本適用指針では、次の理由から、株式交換完全親会社等が株式交換完全子会社等の株式を継続保有する方針の場合には、株式交換又は株式移転のときから生じている子会社株式に係る一時差異について、税効果を認識しないこととした。

(1) 継続保有を前提として新規に子会社株式を取得したにもかかわらず、税効果を通じて株式の取得時に損益を認識することは適当ではないこと

(2) 将来における投資の売却により解消する一時差異は、親会社が売却時期を決定でき、かつ予測可能な将来期間に売却を行う意思がない場合は税効果を認識しない(連結税効果実務指針第32項及び第37項)という連結財務諸表における税効果の取扱いと整合的であること

(2)株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合等の結合当事企業の個別財務諸表上の会計処理

404-2.株式交換又は株式移転に際し、株式交換完全親会社等が株式交換完全子会社等の新株予約権者に新株予約権を交付する場合、又は株式交換完全親会社等が新株予約権付社債を承継する場合の結合当事企業の会計処理は、次のようになる。なお、これらは株式移転を前提として記載するが、株式交換の場合も同様の考え方となる。

(1) 株式移転完全子会社の個別財務諸表上の会計処理

株式移転完全子会社は、新株予約権又は新株予約権付社債に係る義務の履行を免れたため、株式移転日の前日に純資産の部又は負債の部に計上していた新株予約権又は新株予約権付社債の額を利益に計上する(第115-2項、第118-3項、第123-2項、第236-3項及び第239-3項参照)。

(2) 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理

@ 株式移転完全子会社の株式を株式移転完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本に基づいて算定する場合(第118-2項、第121-2項(1)、第236-2項及び第239-2項参照)

株式移転完全子会社が株式移転日に認識した新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額(税効果調整後)を株式移転日の前日の適正な帳簿価額による株主資本の額に加算して、株式移転完全子会社の株式の取得原価を算定することとした。

これは、株式移転と新株予約権の交付及び新株予約権付社債の承継が同時に行われたものと考えられるため、新株予約権の消滅に伴う利益又は新株予約権付社債の承継に伴う利益の額を株式移転日の前日の株式移転完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額に反映させることが適当と考えられるためである。

また、株式移転設立完全親会社では、株式移転完全子会社で付されていた適正な帳簿価額による新株予約権又は新株予約権付社債を純資産の部又は負債の部に計上することになる。

A 株式移転完全子会社の株式を時価で評価すべき場合(第110-2項及び第121-2項(2)参照)

当該新株予約権又は新株予約権付社債の時価を子会社株式の取得原価に含めるとともに、同額を新株予約権又は新株予約権付社債として純資産の部又は負債の部に計上することになる。

ただし、株式移転設立完全親会社と株式移転完全子会社が、新株予約権付社債の承継の対価等として債権債務を認識すべき契約を株式移転計画の作成と同時(実質的に同時と考えられる場合を含む。)に締結することも想定される。このような場合には、実質的に当該債権債務の額だけ承継された新株予約権付社債等に係る義務の履行を免れたことにはならないため、会計上は、新株予約権付社債の承継等と当該債権債務の認識を一体として処理することが適当と考えられる。具体的には、株式移転設立完全親会社では債権を認識するとともに、同額を子会社株式の取得原価から控除し、株式移転完全子会社では債務を認識するとともに、同額を新株予約権付社債の承継等に伴う利益から控除することが適当と考えられる。

また、株式移転設立完全親会社では、株式移転完全子会社の株式の取得原価から新株予約権又は新株予約権付社債として計上すべき額を控除した額が払込資本として計上される。

(3)株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の子会社株式(取得企業株式)の取得原価の算定の簡便的な取扱い

404-3.株式移転設立完全親会社が受け入れる株式移転完全子会社(取得企業)の株式の取得原価は、原則として、株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することになるが、株式移転は株式の取得による企業結合となるため、実務上、株式移転日の前日における株式移転完全子会社(取得企業)の適正な帳簿価額による株主資本の額を算定することが困難な場合が考えられる。

このため、株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日後に、多額の増資、自己株式の取得等の資本取引や、重要な減損損失の認識がないなど、株式移転日の前日までの間に適正な帳簿価額による株主資本の額に重要な変動が生じていないと認められる場合には、簡便的に、株式移転設立完全親会社が受け入れる子会社株式(取得企業株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(取得企業)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額により算定することができることとした(第121項(1)A参照)。

U.取得以外の会計処理

405. (削 除)

406. (削 除)

1.結合当事企業から引き継ぐ資産及び負債に含み損益がある場合の取扱い

407. 結合当事企業(吸収合併の場合には吸収合併消滅会社)において付された適正な帳簿価額を引き継ぐ場合(第184項及び第192項参照)、結合後企業が結合当事企業から引き継ぐ適正な帳簿価額による資産総額が負債総額を下回る場合もあり得るが、このような場合であっても、結合後企業はその適正な帳簿価額により個々の資産及び負債を引き継ぐ必要があり、企業結合に際して資産及び負債を評価替えすることは認められない。

なお、適正な帳簿価額とは、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して算定された帳簿価額をいうため、例えば、減損会計基準などが適用されていることが前提であることに留意する必要がある。

2.吸収合併存続会社等が新株を発行した場合の増加資本の会計処理

408. 吸収合併存続会社の増加すべき株主資本の取扱いについて、本適用指針では、次の企業結合の類型ごとに定めている。

(1) 取得の場合(第79項参照)

吸収合併存続会社(取得企業)は、受け入れる資産及び負債の取得原価を、対価として交付する株式の時価で測定することになる。このため、払込資本(資本金又は資本剰余金)は、発行した新株の時価により増加することになり(第384項から第387項参照)、

また、吸収合併消滅会社の株主資本以外の各項目である評価・換算差額等は吸収合併存続会社には引き継がれないことになる。

(2) (削 除)

(3) 吸収合併消滅会社等の資産及び負債を適正な帳簿価額で引き継ぐ場合

@ 株主資本項目の会計処理

吸収合併存続会社等の増加すべき株主資本の会計処理は、原則として、払込資本を増加させることになると考えられる。したがって、本適用指針では、吸収合併消滅会社等の適正な帳簿価額により資産及び負債を引き継ぐこととなる場合であっても、吸収合併存続会社等は、原則として、払込資本を増加させることとした。

ただし、次の場合には、吸収合併消滅会社等の合併期日の前日の株主資本を引き継ぐことができることとした。

ア 逆取得又は共同支配企業の形成の場合

吸収合併が逆取得となる場合(第84項(1)参照)又は共同支配企業の形成と判定された場合(第185項参照)には、移転する資産及び負債は、移転直前に移転元において付された適正な帳簿価額により計上する(企業結合会計基準第34項及び第38項)が、必ずしも、吸収合併消滅会社等の株主資本の各項目の引継ぎを禁止しているわけではないと考えられる。このため、吸収合併の対価が吸収合併存続会社の株式のみである場合には、吸収合併消滅会社の株主資本の各項目をそのまま引き継ぐことができることとした。

イ 共通支配下の取引の場合

共通支配下の取引については、企業集団内における資産及び負債の移転であり、企業結合会計基準において株主資本の引継ぎ方法については、特に示されていないことなどから、少数株主との取引や抱合せ株式が生じる場合(例えば、親会社が子会社を吸収合併した場合(第206項(2)参照))を除き、アと同様、吸収合併の対価が吸収合併存続会社の株式のみであるときは、吸収合併消滅会社の株主資本をそのまま引き継ぐことができることとした。

このような会計処理が適用される場合としては、子会社が親会社を吸収合併した場合(第84項を参照した第210項(2)及び第440項参照)、同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の場合(第185項を参照した第247項(2)参照)及び同一の株主(個人)により支配されている企業同士の合併の場合(第185項を参照した第254項(2)参照)がある。

A 株主資本以外の項目の会計処理

資産及び負債の適正な帳簿価額には、時価(又は再評価額)をもって貸借対照表価額としている場合の当該価額及び対応する評価・換算差額等の各内訳科目(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金)の額が含まれると解されることから、吸収合併存続会社が交付する対価の種類にかかわらず、株主資本以外の項目については、原則として、そのまま引き継ぐこととした。

3.吸収分割承継会社等が新株を発行した場合の増加資本の会計処理

409. 吸収分割承継会社等の増加すべき株主資本の取扱いについて、本適用指針では、次の企業結合の類型ごとに定めている。

(1) 取得の場合(第79項参照)

吸収分割承継会社等(取得企業)は、受け入れる資産及び負債の取得原価を、対価として交付する株式の時価で測定することになる。このため、払込資本(資本金又は資本剰余金)は、発行した新株の時価により増加することになり(第384項から第387項参照)、また、吸収分割会社等の株主資本以外の各項目である評価・換算差額等は吸収分割承継会社等には引き継がれないことになる。

(2) 吸収分割会社等の資産及び負債を適正な帳簿価額で引き継ぐ場合

@ 株主資本項目の会計処理

吸収分割承継会社等は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。これは、吸収分割会社等では、事業移転の対価として吸収分割承継会社等の株式を受け入れ、その取得原価として移転事業に係る株主資本相当額を付すことになるため、吸収分割会社等の株主資本の額に変動はなく、吸収分割承継会社等は、吸収分割会社等の株主資本の各項目を引き継ぐことはできないためである。

吸収分割承継会社等が移転事業に係る株主資本相当額を払込資本として会計処理する場合としては、例えば、逆取得の場合(第87項(1)参照)、共同支配企業の形成の場合(第193項参照)、共通支配下の取引のうち、子会社が親会社に会社分割した場合(第214項(2)参照)、親会社が子会社に会社分割した場合(第227項(2)参照)、単独で新設分割設立子会社を設立した場合(第227 項を参照した第261 項参照)がある。

A 株主資本以外の項目の会計処理

吸収合併の会計処理の考え方(第408項(3)A参照)と同様、吸収分割承継会社等が交付する対価の種類にかかわらず、株主資本以外の項目については、原則として、そのまま引き継ぐこととした。

(3) 分割型の会社分割において株主資本の内訳を適切に配分した額で計上できる場合

共通支配下の取引(共通支配下の取引に係る会計処理に準じて処理する新設分割による子会社の設立を含む。)において、吸収分割承継会社等が受け入れた資産及び負債の対価として吸収分割承継会社の株式のみを交付している場合には、吸収分割会社等で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができるものとしている(第446項参照)。

このような場合として、親会社が子会社に分割型の会社分割した場合(第234項(2)ただし書き参照)、子会社が他の子会社に分割型の会社分割した場合(第234項を参照した第256項参照)、単独で分割型の会社分割をした場合(第234項を参照した第264項参照)がある。

なお、これらの場合において、吸収分割会社等は、通常の分割型の会社分割や現物配当の処理と異なり、受け取った吸収分割承継会社等の株式の取得原価に、これに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を加減した額により、吸収分割会社等の株主資本を変動させることになる。

これは、吸収分割承継会社等は、移転前に付された吸収分割会社等の適正な帳簿価額で受け入れた資産及び負債を計上し、かつ、吸収分割会社等で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額で株主資本の内訳を計上することになるが、この処理を行うにあたって、吸収分割承継会社等の株主資本の額は、吸収分割会社等が変動させた株主資本の額と一致することとなるためである(第234項(2)ただし書き参照)。

4.吸収合併存続会社が自己株式を処分した場合の増加資本の会計処理

410. 吸収合併消滅会社等の資産及び負債を適正な帳簿価額で引き継ぐ場合、吸収合併存続会社は合併期日の前日における株主資本の構成を、そのまま引き継ぐことが認められている。

このときに吸収合併の対価として自己株式を処分する場合には、処分する当該自己株式の帳簿価額及び処分差額の処理が問題となる。特に、新株の発行と併用された場合に、この問題は顕著となる。

平成17年公表の本適用指針では、自己株式の処分のみの場合と新株の発行と併用される場合の2つの定めを設け、後者においては、@増加すべき株主資本の額を新株の発行及び自己株式の処分の株式数の比率により按分し、処分した自己株式に相当する額については自己株式の処分の会計処理を行う方法と、A吸収合併消滅会社の合併期日の前日における株主資本の構成をそのまま引き継いだ上で、処分した自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から控除する方法を認めていた。

ここで@の方法を採用した場合には、吸収合併消滅会社の株主資本のうち払込資本だけではなくそれ以外の部分(利益剰余金)の構成に影響が及ぶことになるが、対価が新株のみであるときと同様に吸収合併消滅会社の株主資本の構成をそのまま引き継いだ上で、処分した自己株式の帳簿価額を払込資本の中で処理(その他資本剰余金から控除)することがより整合的と考え、平成18年改正の本適用指針では、合併の対価に自己株式が含まれる場合には、Aの方法のみを認めることとした。これは、自己株式等会計基準により、募集株式の発行等の手続による自己株式の処分に係る差額は払込資本(その他資本剰余金)の中で処理される(自己株式等会計基準第9項及び第10項)ことや、平成18年改正の自己株式等会計適用指針において、募集株式の発行等の手続により自己株式の処分及び新株の発行が同時に行われた場合にも払込資本の中で処理されることが明記された(自己株式等会計適用指針第11項)ことなどによる。

5.吸収合併消滅会社が保有していた当該会社の自己株式及び抱合せ株式の消滅の会計処理

411. 吸収合併消滅会社等の資産及び負債を適正な帳簿価額で引き継ぐ場合(第84項参照)、平成15年公表の企業結合会計基準では、抱合せ株式(吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社の株式)の適正な帳簿価額を、吸収合併存続会社の増加すべき株主資本の額と相殺するとされていた。平成17年公表の本適用指針では、抱合せ株式の適正な帳簿価額を合併により増加するどの株主資本項目から減額すべきかは一義的には決まらないと考えられるが、持分の結合と判定された合併の場合には、結合当事企業は過年度から1つの企業に統合されていたものと仮定し、次の4つの株式保有の類似性を検討していた。

@ 抱合せ株式(吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社の株式)(第84-2項(2)参照)

A 吸収合併存続会社が受け入れた自己株式(吸収合併消滅会社が保有していた吸収合併存続会社の株式)(第84項なお書き参照)

B 合併により消滅した吸収合併消滅会社の自己株式(吸収合併消滅会社が保有していた当該会社の自己株式)(第84-2項(2)参照)

C 吸収合併存続会社が保有する当該会社の自己株式

これらは、外部株主(結合当事企業以外)から株式を取得し、1つの企業とみた結合当事企業の株主資本を払い戻しているという点で経済実態は同じであり、また、法律上、どちらの企業が吸収合併存続会社になるかにより@とA及びBとCの状態は入れ替わることとなり、これらの4つの株式保有の状態について本質的な差異はないものと考えられていた。このため、平成17年公表の本適用指針では、Cの自己株式を消却した場合の会計処理に照らして、自己株式又は抱合せ株式の消滅に対応して減額する株主資本の項目は、結合後企業(吸収合併存続会社)の取締役会等、企業の意思決定機関で定められた結果に従うこととしていたが、平成18年の自己株式等会計基準の改正に伴い、平成18年改正の本適用指針では、その他資本剰余金とすることとした。

また、@の抱合せ株式の消滅とBの吸収合併消滅会社が保有する当該会社の自己株式の消滅の会計処理について、平成17年公表の本適用指針においては、最初に吸収合併消滅会社から引き継ぐ剰余金から控除し、控除しきれない場合には吸収合併存続会社の剰余金から控除することとしていた。しかし、平成18年改正の本適用指針では、持分の結合と判定された合併の場合には、結合当事企業は過年度から1つの企業に統合されていたものと仮定することを踏まえ、自己株式の消滅に対応して減額する株主資本項目は、自己株式を消却した場合の会計処理に照らし、その他資本剰余金のみであることを定め、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社のそれを区別せずに取り扱うこととした。

なお、上記会計処理の結果、その他資本剰余金の残高がマイナスとなった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金をゼロとし、当該マイナスの金額をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額することとなる(自己株式等会計基準第12項)。

412. (以下、第419項まで削除)

V.共同支配企業の形成の判定

1.共同支配企業の形成の判定要件

420. 共同支配企業の形成の判定要件として、本適用指針では、共同支配及び共同支配企業の定義並びに企業結合会計基準第8項の趣旨を踏まえ、独立企業要件及び契約要件を明示することとした。したがって、共同支配企業の形成の判定要件は、対価要件及びその他の支配要件を加えた4つの要件となる(第175項参照)。

(1)共同支配企業に対する各企業の議決権比率が相違している場合の取扱い

421. 企業結合会計基準により、共同支配企業に対する議決権比率は、共同支配企業の形成の判定の対象外とされているため、第175項の要件を満たしている場合には、共同支配企業に対する各企業の議決権比率が相違しても、当該企業結合を共同支配企業の形成と判定することになるが、これは、次の理由による。

(1) 共同支配企業の意思決定に関する関与については、共同支配となる契約を締結していることから、議決権比率の大小にかかわりなく、他の共同支配投資企業と同等の取扱いとなること

(2) 共同支配企業に対する投資資金の回収は、配当による回収のほか、共同支配企業との取引による回収(例えば、ある共同支配投資企業が共同支配企業とライセンス契約を締結し、その使用料によりリターンを得る場合)など様々な形態が考えられるため、共同支配企業に対する持分割合が相違することをもって共同支配企業の形成に該当しない(又は共同支配企業へ投資する企業が共同支配投資企業に該当しない)とすることは適当ではないこと

(2)一般投資企業が含まれる場合における共同支配企業の形成の判定

422. 共同支配企業は、複数の独立した企業により共同で支配されることとなるが、当該共同支配企業に投資する企業には、共同支配投資企業の他に、共同支配となる契約等を締結していないため、当該共同支配企業を共同支配しないこととなる企業(一般投資企業)が含まれている場合がある。

本適用指針では、このような一般投資企業が存在していても、共同支配投資企業となる企業の有する議決権の合計が、共同支配企業となる結合後企業の議決権の過半数を占めており、かつ、共同支配投資企業となる企業が第175項の要件のすべてを満たす場合には、当該企業結合を共同支配企業の形成と判定することとした(第176項参照)。これは共同支配企業の株主の中には、主として資金調達の役割を担うのみで、経営に関与することを目的としていないものが存在する場合(一般投資企業にとっては純投資を目的としている場合)もあり得ることから、このような株主が存在することのみをもって、共同支配企業の形成に該当しないと判定することは適当ではないと考えたためである。

2.独立企業要件の取扱い

423. 本適用指針では、次の理由により、共同支配企業の形成の要件の1つとして独立企業要件を明示することとした(第175項(1)参照)。

(1) 共同支配企業とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業(企業結合会計基準第11項)とされ、定義上、共同支配企業へ投資する企業に複数の独立した企業が含まれていること

(2) 複数の独立した企業の存在は、重要な経営事項の決定はすべての共同支配投資企業の同意によるという契約要件の前提となるものであること

ここで、独立した企業とは、連結会計基準及び企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」による現行の連結の範囲との整合性を図ることとし、子会社、緊密な者及び同意している者のいずれにも該当しない者とした(第177項参照)。

3.契約要件の取扱い

(1)共同支配となる契約等の要件

424. 「共同支配企業の形成か否かの判定については、共同支配となる契約等を締結していることが必要」(企業結合会計基準第76項)とされ、議決権比率による判定の代わりに共同支配となる契約等の有無により判定することとされている。このため、契約要件は共同支配企業の形成の判定にあたり本質的な要件と考えられ、契約書等の記載を踏まえ、実質的な判定を行う必要がある。

425. 独立した企業同士が共同支配企業を形成する場合には、共同支配企業の事業目的を明確にした上で、各共同支配投資企業は、通常、共同支配企業における重要な役割分担に関する取決めを行い、それぞれ技術、営業網、人的資源、資金等の経営資源を拠出することが想定される。

したがって、本適用指針では、共同支配となる契約等には、共同支配企業の事業の目的及び各企業の当該事業遂行における重要な役割分担に関する取決めが明記されており、また、実態を伴っていることが必要と考えた。なお、共同支配となる契約等を締結し、共同支配投資企業の役割が契約書に明示されていても、実態が伴っていないと認められる企業は一般投資企業として取り扱われることになる。

426. 共同支配企業の形成の判定要件から議決権比率要件が排除されていること及びいずれの企業も単独ではその支配を獲得しないという共同支配の形態から、本適用指針では、共同支配企業の重要な経営事項の決定は、多数決による議決ではなく、すべての共同支配投資企業の同意を求めることとした。ここで、重要な経営事項とは、株主総会及び取締役会における決議事項をいう。これは、企業結合会計基準(注8)では、重要な経営事項が決議される意思決定機関として取締役会が挙げられており、これとの整合性を図るためである。

427. 共同支配企業の形成の判定にあたり、共同支配企業に対する各共同支配投資企業の議決権比率は要件とされていないが、共同支配企業の経営に対する各共同支配投資企業の関与の仕方は、原則として、同じであることが必要と考えられる。このため、共同支配企業へ投資する企業のうち、ある重要な経営事項の決議の際に賛成しなくとも積極的に反対しない限りはその決議事項につき賛成したものとみなすこととされた企業は、他の企業に比べ、共同支配企業への経営の関与の仕方が異なると考えられ、原則として、契約要件を満たしたことにはならない。

ただし、各共同支配投資企業は、共同支配企業の事業遂行に対してそれぞれ異なる役割を担っている場合が想定されるため、そのような取扱いが、当該共同支配投資企業の役割とは関連性の薄い経営事項に関するものに限られることなどが契約等により確認できる場合には、共同支配企業の経営への関与の仕方が異なるとはいえないと考えられるため、契約要件を満たすものとして取り扱うこととした。

(2)契約上の取決めの形態

428. 共同支配となる契約等は、文書化されていなければならない。当該文書は、合弁事業基本契約書、株主間協定書、株主間の覚書、共同支配企業の定款等のさまざまな名称・形態が考えられ、共同支配となる契約等は、これらのいずれかに明記されることになる。

なお、共同支配となる契約の要件ではないが、共同支配となる契約等には、本適用指針でいう重要な経営事項に関する規定のほか、通常、次のような事項が規定される。

(1) 共同支配企業の企業形態、存続期間及び報告義務

(2) 共同支配企業の資本金、共同支配投資企業の出資比率

(3) 成果の配分方法

4.対価要件の取扱い

429. 共同支配投資企業は、共同支配企業の重要な経営事項に関する意思決定に直接参加することになるため、議決権のある株式とは、第178項(2)に規定されている重要な経営事項に関する議決権が制限されていない株式とすることとした(第180項参照)。

また、共同支配投資企業に交付する共同支配企業の株式の議決権の内容について、差異(優劣)を設けることは共同支配の趣旨に反すると考えられるため、共同支配企業の形成に該当するためには、共同支配投資企業となるすべての企業に対し、議決権に関して同一の権利内容を有する株式を交付しなければならないことになる。

429-2. 企業結合会計基準(注7)に示されている対価要件の判定の前提(第180-2項参照)は、企業結合の対価として、形式的には議決権のある株式を交付していても、実質的には議決権のある株式以外の財産を交付していると認められる場合には、対価要件を満たさなかったものとして取り扱う趣旨と考えられる。

このうち、企業結合の合意成立日前1年以内に当該企業結合を目的として自己株式を受け入れていないことが前提の1つとされている。企業結合会計基準(注7)で定められている対価要件の判定の前提は、限定列挙であるが、一方の結合当事企業が他の結合当事企業の株式を受け入れる行為も自己株式を受け入れることと経済効果は同様と考えられるため、本適用指針では、当該取引を自己株式を受け入れる取引に準じて取り扱うこととした(第180-2項(6)また書き参照)。

5.その他の支配要件の取扱い

430. その他の支配要件の取扱いのうち、結合後企業の取締役会を事実上支配していることについては、社外取締役、非常勤取締役も含む構成員の過半数を占めているかどうかを判断要素とすることに加えて、いずれかの結合当事企業の役員等が常勤取締役あるいは執行役の大半を占めるなど、主として業務執行に携わる役員の割合が大幅に異なる場合には、その実態を踏まえて判定することとした(第181項(1)参照)。また、いずれかの企業の代表者の割合が大幅に異なる場合にも、上記の取扱いに準ずることになる。代表者は単独では重要案件を決定できないものの、法律上も実務上も業務執行に関する広範な権限を有していることを考慮したためである。

W.共同支配企業の形成の会計処理

1.共同支配投資企業の会計処理

431. 平成15年公表の企業結合会計基準では、共同支配投資企業における共同支配企業への投資の性質は、これまでの関連会社に対する影響力とも異なるものであるという観点から、共同支配企業への投資の連結財務諸表上の会計処理は子会社に適用される会計処理(連結法)、あるいは、関連会社に適用される会計処理(持分法)とは異なるものとされていた。

しかしながら、平成20年改正の企業結合会計基準では、事業分離等基準における分離元企業及び結合当事企業の株主に係る会計処理との整合性を重視することとし、国際的な会計基準と同様に、連結財務諸表上、通常の持分法により処理することに変更した。

432. このため、共同支配投資企業は、連結財務諸表上、通常の持分法により、次の(1)と(2)の差額を処理することとなる(第190項及び第197項参照)。

(1) 共同支配企業に対する投資の取得原価(第196 項参照)

(2) 共同支配企業の資本(第193 項参照)のうち共同支配投資企業の持分比率に対応する額

433. 共同支配投資企業の会計処理については、比例連結法によることも認められるのではないかという論点がある。しかし、従来から、混然一体となっている合弁会社の資産、負債等を一律に持分比率で按分して連結財務諸表に計上することは不適切であるとの指摘がなされていること等を考慮して、比例連結は導入しないとされているため、企業結合会計基準でも想定されていない(企業結合会計基準第117項)。

2.共同支配投資企業の子会社が共同支配企業に投資している場合の会計処理

434. 共同支配投資企業の子会社が共同支配となる契約等を締結していないことをもって一般投資企業として取り扱うと、実質的に当該子会社は共同支配投資企業と一体であるにもかかわらず、共同支配企業の形成時に子会社では事業の移転損益を計上することが可能となる場合がある。このため、ある共同支配投資企業の子会社が、同一の共同支配企業に投資している場合には、当該子会社も共同支配投資企業とみなすものとした(第198項参照)。

X.共通支配下の取引等の会計処理

1.共通支配下の取引の範囲

435. 企業結合会計基準では、企業集団内における企業結合を独立企業間の企業結合と区別し、共通支配下の取引として個別財務諸表上の会計処理を定めている。これは、企業結合会計基準第119項で示されているとおり、共通支配下の取引が、「親会社の立場からは企業集団内における純資産等の移転取引として内部取引」と考えられるため、連結財務諸表と同様に、個別財務諸表の作成にあたっても企業結合の前後で当該純資産等の帳簿価額が相違することにならないよう、企業集団内における移転先の企業は移転元の適正な帳簿価額により計上するためである。

このような趣旨を考えると、共通支配下の取引として扱う範囲、すなわち、支配の主体である「企業」には、親会社が公開企業である場合のほか、非公開企業や外国企業の場合も含まれるものと考えられる。また、企業集団は支配により形成されていることを考えると、支配の主体が企業であれ、個人であれ本質的な差異はない。

なお、関連会社との企業結合は、親会社及び子会社から形成される企業集団内における企業結合ではないと解されるため、共通支配下の取引には該当しない。したがって、関連会社との企業結合は、取得(第29項参照)又は共同支配企業の形成(第175項参照)のいずれかに識別されることになる。

436. 支配の主体が企業であれ、個人であれ本質的に差異はないとする考えから、支配の主体が個人の場合でも企業の場合と同様に支配力基準により判定が行われることになると考えられる。このため、同一の株主による支配の判定には、ある株主と緊密な者及び同意している者による議決権の保有を考慮することにより、支配の判定を実態を踏まえて行うこととした(第202項参照)。

なお、株主が個人の場合、同一の株主とみなす者の範囲として、近親者等の血縁関係を含めることが適当であるとの考え方もある。しかし、近親者等の血縁関係であれば一律に同一の株主とみなすと、共通支配下の取引を拡大しすぎる可能性もあることから、そのような考え方は採用しなかった。

2.共通支配下の取引と少数株主との取引

437. 企業結合会計基準では、企業集団内における組織再編の会計処理として共通支配下の取引と少数株主との取引(共通支配下の取引等)を定めている。

共通支配下の取引は、親会社の立場からは企業集団内における内部取引であるが、少数株主との取引は、企業集団を構成する子会社の株主と、当該子会社を支配している親会社との間の取引であって、それは企業集団内の取引ではなく、親会社の立場からは外部取引とされている(企業結合会計基準第120項)。

ただし、企業集団内における組織再編のうち、例えば、親会社(吸収合併存続会社)と子会社(吸収合併消滅会社)との合併において、親会社が子会社の資産及び負債を受け入れることは企業集団内における内部取引であるが、親会社が合併の対価として交付する株式の交付先は子会社の株主(少数株主)となるなど、それらの区別は必ずしも明確ではない。したがって、企業集団内における組織再編のうち、どの取引を外部取引と考え、少数株主との取引に準じた会計処理を適用し、のれん(又は負ののれん)を認識するのかが主要な論点となる。

この論点について、本適用指針では、組織再編の形式が異なっていても、組織再編後の経済的実態が同じであれば、連結財務諸表上(合併の場合には個別財務諸表上)も同じ結果が得られるように会計処理を検討した。

このため、本適用指針では、企業結合会計基準により会計処理が定められている株式交換等の会計処理を共通支配下の取引等の会計処理の基本とし、この他の代表的な組織再編と考えられる取引について、それと整合的な会計処理を検討した。

2−2.完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

437-2.同一の親会社に支配されている子会社同士(兄弟会社同士)が吸収合併し、吸収合併存続会社となる子会社が吸収合併消滅会社の株主(吸収合併存続会社の親会社)に対価を支払わない場合には、原則として、吸収合併存続会社は受け入れた資産及び負債の差額のうち株主資本の額を負ののれん(又はのれん)として会計処理することになる(第243項(1)参照)。

しかし、当該吸収合併において完全親子会社関係にある場合には、実務上、合併の対価(例えば吸収合併存続会社の株式)を吸収合併消滅会社の株主(親会社)に支払わない場合がある。これは、合併の対価を支払うか否かにかかわらず、親会社の当該子会社に対する持分比率は合併の前後で100%と変化はなく、企業集団の経済的実態には何ら影響がないためと考えることができる。

このため、完全親子会社関係にある子会社同士の吸収合併においては、対価の支払の有無が会計処理に大きな影響を与えることは適当ではないと考え、吸収合併存続会社が、吸収合併消滅会社の株主に対価を支払わなかった場合には、吸収合併消滅会社の株主資本の額を引き継ぐこととした。

なお、会社法上、吸収合併存続会社が、合併に際して株式を発行していない場合には、資本金及び準備金を増加させることは適当ではないと解されるため、会計上は、吸収合併消滅会社の株主資本の各項目を原則として引き継ぐこととしたうえで、増加すべき払込資本の内訳項目は、会社法の規定に従い、吸収合併消滅会社の資本金及び資本準備金はその他資本剰余金として引き継ぎ、利益準備金はその他利益剰余金として引き継ぐことになる。

437-3.実務上、親会社に株式の100%を保有されている子会社が2 社あり、一方の完全子会社(吸収分割会社)から他の完全子会社(吸収分割承継会社)に事業の移転を行い、他の完全子会社は対価を支払わないとき、あるいは親会社(吸収分割会社)が完全子会社(吸収分割承継会社)に対して事業の移転を行い、完全子会社は対価を支払わないときがある。

このような場合にも、前項と同様の理由から、吸収分割会社で取り崩した株主資本の額を吸収分割承継会社は引き継ぐこととした。

また、完全子会社(吸収分割会社)が親会社(吸収分割承継会社)に対して事業の移転を行い、親会社が対価を支払わないときには、完全子会社に対する投資が回収されたものとみて、親会社の個別財務諸表上、分割会社の株式分割及び合併により、子会社が親会社に事業を移転する場合の会計処理に準じて処理することとした。ただし、移転する事業に子会社株式や関連会社株式が含まれている場合には、完全子会社に対する投資と受け入れた当該子会社株式等は、投資が継続したまま引き換えられたものとみることが適当と考えられることから、子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の株主(親会社)の会計処理に準じて処理することとした。

前項及び上記の会計処理は、組織再編の対価が支払われるか否かは企業集団の経済的実態には影響を与えないことが前提であるため、完全親子会社関係にある場合に限り、適用することに留意する必要がある。

3.親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理

438. 共通支配下の取引等となる合併の会計処理においては、まず、子会社から受け入れた資産及び負債の差額を親会社持分相当額と少数株主持分相当額に按分し、共通支配下の取引として扱う部分(内部取引として扱う部分)と少数株主との取引に準じて扱う部分(外部取引として扱う部分)とを区分することとした。

これは、企業集団内における合併と株式交換は、組織再編後の経済的実態は同じと考え、合併後の財務諸表と株式交換後の連結財務諸表との整合性を図ることとしたためである。

具体的には、まず、株式交換の会計処理において少数株主との取引(外部取引)として取り扱われるのは、子会社の資本のうち少数株主持分相当額の取得に関する部分であるため、合併の会計処理においても当該少数株主持分相当額の取得を少数株主との取引に準じて処理し、親会社が少数株主に交付する株式を時価で算定し、これと当該少数株主持分相当額との差額をのれん(又は負ののれん)として計上することとした(第206項(2)@イ参照)。

次に、親会社持分相当額とこれに対する投資原価である子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額(抱合せ株式消滅差額)は、株主との資本取引から生じたものではないため、次の理由から、損益に計上した上で利益剰余金を増減させることとなる。

(1) 抱合せ株式消滅差額が差益の場合は、投資額を上回る回収額を表し、逆に、差損の場合には投資額を下回る回収額を表すことになるので、合併を契機に、このような子会社を通じた事業投資の成果を親会社の個別損益計算書に反映させることが適当と考えられること

(2) 抱合せ株式消滅差額が差益の場合には、子会社から配当金を受け取った後に合併した場合と、また、差損の場合には、子会社投資に係る評価損を計上した後に合併した場合と組織再編の経済的実態が同じと考えられるので、それらの取引と同様の結果が得られるように会計処理することが望ましいと考えられること

(3) 利益剰余金の増減は、原則として当期純利益に反映されたもののみから構成されることが適当であること

438-2.子会社が保有する孫会社株式は、最上位の親会社が保有する子会社株式と同様、事業投資の一形態と考えることができる。このため、子会社(吸収合併存続会社)とその子会社(吸収合併消滅会社)が合併した場合(子会社と孫会社が合併した場合)には、最上位の親会社(吸収合併存続会社)とその子会社(吸収合併消滅会社)が合併したときと同様に処理することが、共通支配下の取引の会計処理として首尾一貫しているものと考えられる。

このため、子会社の孫会社に対する投資原価(吸収合併存続会社が保有する吸収合併消滅会社の株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額)と合併に伴い子会社が受け入れる資産及び負債の差額のうち当該投資原価に見合う株主資本の額との差額を損益(抱合せ株式消滅差損益)に計上することとした(第206項(4)参照)。

4.親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理

439. 企業結合会計基準(注9)において、「親会社と子会社が企業結合する場合において、子会社の資産及び負債の帳簿価額を連結上修正しているときは、親会社が作成する個別財務諸表においては、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む。)により計上する。」とされている。

本適用指針では、当該修正の対象には、未実現損益が含まれるものとし、さらに、修正対象となる未実現損益は、親会社が子会社に対して行った資産等の処分により、親会社の個別財務諸表上、損益に計上したものに限定している。したがって、次の点に留意する必要がある。

(1) 親会社(吸収合併存続会社)から子会社に資産を売却し、さらに当該子会社がこれを他の子会社(吸収合併消滅会社)に売却した後に親会社が他の子会社を吸収合併した場合には、修正対象となる未実現損益は、親会社が子会社に資産を売却したことによる損益のみとなり、子会社が他の子会社へ資産を売却したことによる損益は、修正の対象とはならない。

(2) 親会社(吸収合併存続会社)と子会社(吸収合併消滅会社)が企業結合する場合でも、親会社が当該子会社から受け入れた資産及び負債の帳簿価額を連結財務諸表上、修正していても、親会社の適正な帳簿価額を基礎として会計処理することとなる。なお、連結財務諸表上は、当該内部取引に係る修正を引き続き行うことに留意する必要がある(企業結合会計基準第44項)。

(3) 子会社と他の子会社との企業結合(子会社とその子会社の企業結合を除く。第207項ほか参照)においては、連結財務諸表上、当該子会社の資産又は負債の帳簿価額を修正していても、子会社の適正な帳簿価額を基礎として会計処理することとなる(企業結合会計基準第41項)。

なお、子会社(吸収合併存続会社)が親会社(吸収合併消滅会社)を吸収合併した場合には、子会社が親会社に処分した資産を合併により子会社が再び受け入れることとなる点を重視し、企業結合前に子会社が親会社に資産等を処分したことにより生じた未実現損益を連結財務諸表上、消去している場合には、子会社は、連結財務諸表上の帳簿価額により親会社の資産及び負債を受け入れることとした(第211項参照)。

5.子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理

(1)個別財務諸表上の会計処理

440. 親会社と子会社との合併において、子会社が吸収合併存続会社となる場合であっても、共通支配下の取引に該当するため、子会社は親会社から受け入れた資産及び負債の差額は、純資産として処理することになる(企業結合会計基準第42項)。

本適用指針では、当該合併により子会社における増加すべき株主資本について、原則として、払込資本を増加させることとした。ただし、子会社が吸収合併存続会社となるのは、特殊な事情による限られた場合であると考えられること、また、子会社にとっては吸収合併により投資の回収を行ったわけではないと考えられることにより、合併が共同支配企業の形成と判定された場合の取扱いと同様に親会社の資本構成を引き継ぐことも認められることとした(第210項及び第408項参照)。

(2)連結財務諸表上の会計処理

441. 親会社と子会社との合併において、子会社が吸収合併存続会社(親会社が吸収合併消滅会社)となる場合は、企業集団の観点から取引の実態をみると、親会社を吸収合併存続会社とみなした吸収合併と同様に考えることができる。したがって、子会社が連結財務諸表を作成する場合は、子会社において行った個別財務諸表上の処理を振り戻し、当該合併以前の連結財務諸表における処理を合併後も継続するように会計処理することが適当と考えた。

このため、本適用指針では、時価評価替後の資産及び負債を連結財務諸表上の帳簿価額として受け入れ、また、合併に際して子会社が受け入れた自己株式(子会社が親会社から受け入れた子会社株式)とそれに対する子会社の増加すべき株主資本については内部取引として消去することとした(第212項参照)。また、合併後に子会社が連結財務諸表を作成しない場合は、経済的実態に即した情報が開示されなくなること、及び合併後も連結財務諸表を作成する場合との比較から、親会社を吸収合併存続会社とみなした場合の財務情報のうち、一定の事項について注記を求めることとした(第213項参照)。

6.子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

442. 会社分割により子会社(吸収分割会社)が親会社(吸収分割承継会社)に事業を移転する場合の連結財務諸表上の会計処理は、実質的に少数株主持分相当額の取得と考えられる部分については、次の理由により、少数株主との取引に準じて処理することとした。具体的には、子会社に交付する親会社株式のうち実質的に少数株主に交付したものと考えられる部分を時価で測定し、これと親会社が受け入れた資産及び負債の差額のうち少数株主持分相当額との差額をのれん(又は負ののれん)として計上することになる。

(1) 当該会社分割は、形式上、親会社と少数株主との間で取引は行われていないものの、両者は、親会社に移転された事業と子会社に交付する親会社株式が等価となるように取引条件が決定されており、その経済的効果の観点から、実質的に少数株主持分相当額の取得と考えられる部分があること

(2) 企業集団内における当該会社分割と分割型の会社分割(第218項参照)は組織再編後の経済的実態は同じと考えられ、会社分割後の連結財務諸表と分割型の会社分割後の連結財務諸表との整合性を図ることが適当であること

一方、個別財務諸表における当該会社分割の会計処理は、少数株主の出資比率にかかわらず、すべて共通支配下の取引として取り扱い、移転先企業(親会社)は移転元企業(子会社)の適正な帳簿価額に基づいて会計処理することとした。これは、親会社と子会社との取引において、少数株主の出資比率により個別財務諸表上の会計処理を区別することは、現行の会計慣行にはないことを考慮したためである(第214項参照)。

なお、会社分割の実施と同時に子会社が受け入れた親会社株式を現物分配すると分割型の会社分割と同様の組織再編となる。したがって、会社分割後の連結財務諸表と分割型の会社分割後の連結財務諸表との整合性を図るということは、当該現物分配は連結財務諸表には影響を与えない取引であることが説明されなければならない。現行の会計基準では、連結財務諸表上、連結子会社が保有する親会社株式のうち親会社持分相当額は自己株式として株主資本から控除し、少数株主持分相当額は少数株主持分から控除することとされている(自己株式等会計基準第15項)。したがって、当該会社分割により子会社が受け入れた親会社株式のうち少数株主持分相当額は、連結財務諸表上、もともと少数株主持分から控除されているため(親会社持分相当額は、内部取引として消去される(第217項(1)参照))、子会社が、親会社株式を少数株主に分配しても連結財務諸表の資産総額、純資産額(株主資本項目の内訳を含む。)等には影響を与えないことになる。したがって、本適用指針の会社分割の連結財務諸表上の会計処理は、現行会計基準と整合しているものと考えられる。

7.子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

443. 分割型の会社分割により子会社(吸収分割会社)が親会社(吸収分割承継会社)に事業を移転する場合の会計処理は、合併の会計処理に準じて、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を親会社持分相当額と少数株主持分相当額に按分し、当該少数株主持分相当額の会計処理について少数株主との取引に準じた取引として取り扱い、親会社持分相当額は内部取引として取り扱うこととした。これは、企業集団内における合併と当該分割型の会社分割は、組織再編後の経済的実態は類似しており、合併後の財務諸表と事業の移転部分に応じた分割後の連結財務諸表との整合性を図ることとしたためである。

ただし、分割型の会社分割の場合には、合併と異なり、会社分割後も分離元企業(子会社)が存在し、その子会社では移転した事業に係る純資産が減少することになるため、親会社では、受け入れた事業と保有していた子会社株式の部分的な引き換えが行われたとみて、親会社が保有する子会社株式(分割に係る抱合せ株式)の適正な帳簿価額のうち、引き換えられたものとみなされる額を減額する会計処理が必要になる(第218項参照)。

8.親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

(1)親会社(吸収分割会社)における個別財務諸表上の会計処理

444. 会社分割により親会社が子会社に事業を移転する取引は、共通支配下の取引に該当するため、分離先企業(子会社)の株式のみを受取対価とする場合には、分離元企業(親会社)が受け取った分離先企業の株式(子会社株式)の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)に基づいて算定することとなり、移転損益は認識されない(第226項参照)。

なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、まず、事業分離前の子会社株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナス金額については、当該子会社株式の評価的な勘定として「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上することとした(第394項参照)。

(2)子会社(吸収分割承継会社等)における個別財務諸表上の会計処理

445. 会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合においては、分離先企業(子会社)は、分離元企業(親会社)の株主資本の内訳を引き継ぐことができないため、払込資本を増加させることとなる(第227項(2)参照)。

ただし、分離先企業である子会社において、分離元企業(親会社)の移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合、どのように会計処理するかが問題となる。これについては、払込資本をマイナスとして表示することはないと考えられるため、移転事業に係る株主資本相当額のマイナスを過去の損益の修正とするか、当期の損益とするか、将来に繰り延べるかという見方がある。共通支配下の取引は、企業結合の前後で純資産の帳簿価額が相違することにならないような配慮がなされていること、取得以外の場合には株主資本項目の内訳を引き継ぐことも認められることなどを考慮して、移転に係る対価が当該子会社の株式のみである場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとすることとした。

9.親会社が子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理

446. 分割型の会社分割は、会社分割(従来は物的分割ともいわれた分社型の会社分割をいう。)とこれにより受け取った吸収分割承継会社又は新設分割設立会社の株式の分配という2つの取引と考えられていることから、まず、吸収分割会社である親会社も吸収分割承継会社である子会社も、吸収分割会社又は吸収分割承継会社の会計処理を行うこととなる(第233項及び第234項参照)。このため、吸収分割承継会社である子会社においては、移転事業に係る株主資本相当額(第87項(1)@参照)を払込資本とすることとなる。

しかし、吸収分割承継会社である子会社における増加すべき株主資本の会計処理においては、従来のように吸収分割会社自体が分割したものと捉え、親会社で計上されていた株主資本の内訳を配分することも認めてはどうかという実務上の要請を考慮し、本適用指針では、受け入れた資産及び負債の対価として吸収分割承継会社(子会社)の株式のみを交付している場合には、親会社で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができるものとした(第234項(2)ただし書き参照)。この場合には、配分に際して用いた適切な方法を吸収分割会社において注記することが望ましい。

なお、事業分離日(分割期日)後に吸収分割承継会社(子会社)の株式が吸収分割会社の株主に交付されていたり、受け入れた資産及び負債の対価として吸収分割承継会社(子会社)の株式以外の現金等の財産(第95項参照)が含まれていたりする場合には、前段のような取扱いは認められないことに留意する必要がある(第409項参照)。

447. 分割型の会社分割により親会社(吸収分割会社)が子会社(吸収分割承継会社)に事業を移転する場合の連結財務諸表上の会計処理は、増加する少数株主持分と同額の親会社持分(剰余金)を減らすのみとなり、持分変動損益は認識しない。また、子会社に対する持分比率も増加しないため、のれんも認識しないことになる。したがって、連結財務諸表上の帳簿価額のうち、少数株主に移転した金額を直接、少数株主持分に振り替えることになる(第235項参照)。

9−2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理

447-2.子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合(会社分割の対価が吸収分割承継会社である他の子会社の株式である場合)、共通支配下の取引であるため、吸収分割会社である子会社が受け入れる、吸収分割承継会社である他の子会社の株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定することとなる。したがって、吸収分割承継会社である他の子会社が、吸収分割会社である子会社の子会社及び関連会社となる場合のほか、それ以外となる場合(他の子会社の株式がその他有価証券に分類される場合)でも、移転損益を認識しない(第254-2項参照)。

また、この場合において、吸収分割会社である子会社の連結財務諸表上、会社分割前後における当該吸収分割会社である子会社の持分の差額は、持分変動差額として取り扱うこととなる。これは、子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合は、企業集団を構成する子会社を支配している最上位の親会社と当該子会社の企業集団外の株主との間の取引である少数株主との取引に該当しないためである。このため、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合(第229項参照)と異なり、のれん(又は負ののれん)は計上されないこととなる(第254-4項参照)。

9−3.株式交換等の直前に子会社(株式交換完全子会社等)が自己株式を保有している場合の取扱い

447-3.株式交換又は株式移転の直前に子会社(株式交換完全子会社等)が自己株式を保有している場合、会社法上、親会社(株式交換完全親会社等)は、株式交換日又は株式移転日に当該自己株式(子会社株式)を取得し、これと引き換えに対価(親会社株式など)を子会社に交付しなければならない。この場合、子会社が受け入れた親会社株式及び親会社が取得した子会社株式に付すべき帳簿価額には、次の2つの考え方がある。

(1) 子会社における自己株式の帳簿価額とする考え方

(2) 親会社株式の時価とする考え方

(1)の考え方は、当該株式交換又は株式移転を共通支配下の取引として捉えるものであるが、本適用指針では、次の理由から、(2)の考え方によることとした(第238-2項参照)。

@ 当該株式交換又は株式移転にあたり、会社法上、親会社は、子会社が保有する自己株式に対して対価(親会社株式など)を交付し、子会社株式を取得することとなるが、もともと、株式交換日又は株式移転日に子会社が自己株式を保有するかどうか(株式交換日又は株式移転日の直前までに自己株式を消却するかどうか)は結合当事企業の意思決定の結果に依存する。このため、親会社と子会社との間で行う株式の交換は、当該株式交換又は株式移転と一体の取引として捉える必要はなく、会計上は、共通支配下の取引として処理する必然性はないこと

A 子会社にとっては、当該株式交換又は株式移転により、資本控除されている自己株式が親会社株式という資産に置き換わり(資本取引の対象から損益取引の対象に変わり)、その連続性はなくなることになる。このため、子会社が受け入れる親会社株式の帳簿価額に自己株式の帳簿価額を付すのではなく、新たに受け入れる親会社株式の時価を基礎として処理することによって、株式交換又は株式移転後の子会社の損益を適切に算定することができること

10.共通支配下の取引等により発生したのれんの会計処理

448. 企業結合が行われた場合、のれん(又は負ののれん)は、例えば、次の場合に発生する。

(1) 取得(第51項参照)

(2) 共通支配下の取引のうち、親会社が子会社と合併する場合(第206項(2)@イ参照)、子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合(連結財務諸表上の会計処理)(第217項(3)参照)及び子会社が親会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合(第218項(2)参照)等における少数株主との取引又はそれに準じた取引

(3) (2)以外の共通支配下の取引

@ 吸収合併消滅会社の株主資本の額又は移転事業に係る株主資本相当額が、交付した現金等の財産の適正な帳簿価額を上回る場合(対価が現金等の財産のみ)の当該差額としての負ののれん

ア 親会社から子会社へ事業譲渡(第224項(1)参照)

イ 同一の株主により支配されている子会社同士の合併(第243項(1)参照)

A 吸収合併消滅会社の株主資本の額又は移転事業に係る株主資本相当額が、交付した現金等の財産の適正な帳簿価額を下回る場合(対価が株式のみである場合以外)

ア 吸収合併消滅会社の株主資本の額又は移転事業に係る株主資本相当額がゼロ以上のときの交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額としてののれん

・親会社から子会社へ事業譲渡(対価は現金等の財産のみ)(第224項(1)参照)

・親会社から子会社へ会社分割(対価は現金等の財産と株式)(第231項(2)A参照)

・同一の株主により支配されている子会社同士の合併(対価は現金等の財産のみ)(第243項(1)参照)

・同一の株主により支配されている子会社同士の合併(対価は現金等の財産と株式)(第251項(2)@参照)

イ 吸収合併消滅会社の株主資本相当額又は移転事業に係る株主資本相当額がゼロ未満であるときの交付した現金等の財産の適正な帳簿価額と同額ののれん

・親会社から子会社へ会社分割(対価は現金等の財産と株式)(第231項(2)A参照)

・同一の株主により支配されている子会社同士の合併(対価は現金等の財産と株式)(第251項(2)A参照)

(1)ののれん(又は負ののれん)は、時価を基礎として算定された取得原価と識別可能資産及び負債の時価を基礎とした取得原価の配分額との差額として算定される。

(2)ののれん(又は負ののれん)は、時価を基礎として算定された取得原価と、受け入れた資産及び負債の移転元の適正な帳簿価額との差額として算定されるため、当該資産及び負債の企業結合日における時価と適正な帳簿価額との差額(含み損益)も、のれん(又は負ののれん)に含まれることになる。

(3)ののれん(又は負ののれん)は、受け入れた資産及び負債の移転元の適正な帳簿価額と、対価として交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額として算定される。なお、共通支配下において、現金のみを対価として子会社株式だけを受け取る場合には、これまでの実務上の取扱いに照らして、個別財務諸表上、企業結合会計基準ではなく、金融商品会計基準の定めを優先して適用することが適当と考えられる。したがって、この場合には、個別財務諸表上、のれん(又は負ののれん)は生じないこととなる。

また、逆取得の場合(第84項、第87項及び第118項参照)において現金等の財産を対価として交付したときには、個別財務諸表上、(3)に準じてのれん(又は負ののれん)が生じるものと考えられる。

本適用指針では、上記ののれん(又は負ののれん)は、その性格がそれぞれ異なるものの、企業結合会計基準の定めに従い、いずれも第72項及び第76項から第78項に準じて会計処理するものとした。

Y.開 示

1.企業結合に係る特定勘定の表示

449. (削 除)

450. (削 除)

451. 企業結合に係る特定勘定の流動・固定区分の取扱いは、実務を考慮して、認識の対象となった事象が、貸借対照表日後1年内に発生することが明らかな場合にのみ流動負債に計上することとした(第62項参照)。

2.連結財務諸表を作成しない場合の逆取得に係る注記事項

452. (削 除)

453. 企業結合会計基準第50項では、連結財務諸表を作成していない場合において、逆取得となる企業結合に、当該取得企業の資産及び負債を企業結合直前の適正な帳簿価額により計上する方法を適用した場合には、パーチェス法を適用したとした場合に個別貸借対照表及び個別損益計算書に及ぼす影響額を注記するとされている。これは、追加的な情報開示を要求しないと、経済的実態に即したパーチェス法を適用した場合の情報が一切開示されず、投資情報としての有用性が確保されないこと、また、連結財務諸表を作成している会社との比較可能性も確保されないこととなることなどから、パーチェス法を適用した場合の重要な情報について注記を求めていると解される。これらの趣旨を踏まえ、「影響額」の記載は、貸借対照表及び損益計算書の主要項目について、被取得企業に対してパーチェス法を適用した場合との差額又はパーチェス法を適用した場合の貸借対照表及び損益計算書の主要項目を記載することとした。また、企業結合年度における注記事項と同様の情報を、重要性が乏しくなった場合を除き、継続的に開示することとした(第307項参照)。

3.企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額の開示

454. 企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額(以下、本項及び次項において「連結損益計算書への影響の概算額」という。)の算定にあたっては、その前提条件等が企業結合ごとに異なることが想定され、詳細な方法を示すことは困難と考えられる。

このため、本適用指針では、連結損益計算書への影響の概算額の算定の基本的な考え方を示すとともに、実務に配慮し、前提条件を例示している(第320項及び第327項参照)。

したがって、当該情報を開示する場合には、本適用指針に示されている考え方に則して、企業結合ごとに一定の判断を加えることが必要になる。

455. 連結損益計算書への影響の概算額の開示(企業結合会計基準第49項(5))は、企業結合により企業業績が大きく変化することが予想されることから、結合後企業の業績推移の把握に役立つ情報の開示が目的と解される。

これらの点を踏まえて、連結損益計算書への影響の概算額の記載は、次のいずれかの方法による開示を求めることとした(第309項参照)。

(1) 企業結合が当期首に完了したと仮定した場合の売上高及び損益情報と取得企業の連結損益計算書上の売上高及び損益情報に係る各々の差額による記載

(2) 企業結合が当期首に完了したと仮定して算定された当該企業結合年度の売上高及び損益情報による記載

(1)については、例えば、3月決算のA社(取得企業)が9月末にB社(被取得企業)を取得した場合、A社の実際の連結損益計算書(B社の業績は10月から翌年3月末までの6か月間が反映される。)と、A社が当該事業年度の期首にB社を取得したと仮定したときのA社の連結損益計算書(B社の業績は期首から翌年3月末までの12か月間が反映される。)との差額を開示することになる。また、連結損益計算書への影響の概算額に関する開示項目としては、財務諸表利用者が収益及び利益動向を適切に推定できるように、売上高だけでなく、実務上可能な範囲で、当期純損益や1株当たり当期純損益などの損益情報を記載することとした。なお、金額表示については、取得企業の業績推移の把握に役立つ情報という観点から、財務諸表における金額の表示単位よりも大きい単位で表示することも可能であると考えられる。

なお、連結損益計算書への影響の概算額の開示の重要性の判断については、我が国では今まで当該情報の開示慣行がないことや作成者の負担を勘案して数値基準によるガイドラインを設けるべきであるという意見もあるが、海外の基準でも数値基準によるガイドラインを設けておらず、また、我が国において、重要性の判断基準に数値基準を設けないこととしてきた経緯もあることから、業績推移の把握に役立つ情報を開示するという注記の趣旨を踏まえて判断していくこととし、数値基準によるガイドラインを設けないこととした。

456. (削 除)

457. (削 除)

458. (削 除)

459. (削 除)


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