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目次

 

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成20年1月24日に公表した「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」から「設例」部分を除いたものです。「設例」は別に記載してあります。

なお、記載を省略した部分があります。実務に適用するにあたっては念のために最新の適用指針等を確認してください。

企業会計基準適用指針第6号

固定資産の減損に係る会計基準の適用指針

(目的・適用指針・結論の背景)

平成15年10月31日

改正平成20年 1月24日

企業会計基準委員会

 

本適用指針は、平成20年3月10日までに公表された次の会計基準等による修正が反映されている。

(1) 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(平成20年3月10日改正)

(2) 企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」(平成20年3月10日公表)

目次

目的

適用指針

範囲

用語の定義

対象資産

資産のグルーピング

減損の兆候

営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合

使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合

経営環境の著しい悪化の場合

市場価格の著しい下落の場合

共用資産の減損の兆候

のれんの減損の兆候

減損損失の認識の判定

割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積り

経済的残存使用年数

主要な資産

減損損失の測定

回収可能価額の算定

正味売却価額

使用価値

将来キャッシュ・フロー

使用価値の算定に際して用いられる割引率

共用資産及びのれんの取扱い

共用資産の取扱い

のれんの取扱い

減損処理後の会計処理

開示

貸借対照表における表示

注記

その他

借手側が所有権移転外ファイナンス・リース取引について、リース資産の計上額を算定する上でリース料総額から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法によっている場合の取扱い

借手側が所有権移転外ファイナンス・リース取引について通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている場合の取扱い

中間会計期間において減損処理を行った資産に係る取扱い

再評価を行った土地について減損処理を行った場合の土地再評価差額金の取扱い

実施時期等

議決

結論の背景

対象資産

資産のグルーピング

減損の兆候

営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合

使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合

経営環境の著しい悪化の場合

市場価格の著しい下落の場合

共用資産の減損の兆候

のれんの減損の兆候

減損損失の認識の判定

割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積り

経済的残存使用年数

主要な資産

減損損失の測定

回収可能価額の算定

正味売却価額

使用価値

将来キャッシュ・フロー

使用価値の算定に際して用いられる割引率

共用資産及びのれんの取扱い

共用資産の取扱い

のれんの取扱い

減損処理後の会計処理

開示

貸借対照表における表示

注記

その他

借手側が所有権移転外ファイナンス・リース取引について通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている場合の取扱い

中間会計期間において減損処理を行った資産に係る取扱い

再評価を行った土地について減損処理を行った場合の土地再評価差額金の取扱い

設例は別に記載してあります。 


目的

1.  企業会計審議会によって平成14年8月に公表された「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という。)では、減損会計基準を「実務に適用する場合の具体的な指針等については、今後、関係府令を整備するとともに、企業会計基準委員会において適切に措置していくことが適当である。」(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という。)五 2.)とされている。このため、当委員会は、具体的な指針を取りまとめるために、平成14年9月以降、審議を続けてきた。

当委員会では、専門委員会を設置し、専門委員による討議や参考人からの意見聴取など幅広く検討を行い、また、広く各界の意見を求めるため、平成15年3月に、それまでの議論をまとめた「『固定資産の減損に係る会計基準の適用指針』の検討状況の整理」を公表した。

当委員会は、この検討状況の整理に対する意見も踏まえて審議を行い、平成15年8月に企業会計基準適用指針公開草案第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(案)」を公表した。本適用指針は、これらに対する意見も参考に、さらに審議を重ねて取りまとめられたものである。

2.  固定資産の減損会計は、多種多様な事業を営むそれぞれの企業が、当該企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて将来キャッシュ・フローを見積ることとするなど、その程度や判断を一律に示すことは困難な場合が多い。その中で、本適用指針は、減損の兆候をはじめとして、必要と考えられる範囲において一定の目安や例示を示している。企業は、減損会計基準及び本適用指針の定めに従って減損処理を行うものとするが、これらに定めがないため状況に応じ個々の実態を考慮して適用する場合には、減損会計基準及び本適用指針の趣旨を適切に斟酌する必要がある。

適用指針

範囲

3.  本適用指針は、減損会計基準が適用される財務諸表について適用される。

用語の定義

4.  本適用指針における用語の定義は、減損会計基準における用語の定義(減損会計基準 注解(注1)参照)と同様とする。

対象資産

5.  本適用指針は、固定資産を対象に適用する(減損会計基準 一参照)。

固定資産には、有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が含まれる(第68項参照)。

6.  他の基準に減損処理に関する定めがある以下の資産については、対象資産から除く(減損会計基準 一参照)。

(1) 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)における金融資産

(2) 「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産

(3) 「研究開発費等に係る会計基準」において無形固定資産として計上されている市場販売目的のソフトウェア(第69項参照)

なお、前払年金費用についても、「退職給付に係る会計基準」において評価に関する定めがあるため、対象資産から除かれる(減損会計意見書 四 1.参照)。また、長期前払利息など財務活動から生ずる損益に関する経過勘定項目も、対象資産から除かれる。

資産のグルーピング

7.  資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う(減損会計基準 二 6.(1)参照)こととされており、企業は、経営の実態が適切に反映されるよう配慮して行う。様々な事業を営む企業における資産のグルーピングの方法を一義的に示すことは困難であり、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む。)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられる(減損会計意見書 四 2.(6)@参照)。具体的には、第8項の場合のほかは、例えば、以下のような手順により資産のグルーピングが行われると考えられる(第70項参照、[設例1])。

(1) 企業は、例えば、店舗や工場などの資産と対応して継続的に収支の把握がなされている単位を識別し、グルーピングの単位を決定する基礎とする。この際、以下のような点を考慮する。

@ 収支は必ずしも企業の外部との間で直接的にキャッシュ・フローが生じている必要はなく、例えば、内部振替価額や共通費の配分額であっても、合理的なものであれば含まれる。

A 継続的に収支の把握がなされているものがグルーピングの単位を決定する基礎になる。このため、収支の把握が、通常は行われていないが一時的に設定される単位について行われる場合(例えば、特殊原価調査)は該当しない。

B 例えば、賃貸不動産などの1つの資産において、一棟の建物が複数の単位に分割されて、継続的に収支の把握がなされている場合でも、通常はこの1つの資産がグルーピングの単位を決定する基礎になる。

(2) 企業は、(1)のグルーピングの単位を決定する基礎から生ずるキャッシュ・イン・フローが、製品やサービスの性質、市場などの類似性等によって、他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的であり、当該単位を切り離したときには他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすと考えられる場合には、当該他の単位とグルーピングを行う。

8.  取締役会や常務会等(以下「取締役会等」という。)において、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を行い、その代替的な投資も予定されていないときなど、これらに係る資産を切り離しても他の資産又は資産グループの使用にほとんど影響を与えない場合がある。

このような場合に該当する資産のうち重要なものは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う(第71項参照)。

将来の使用が見込まれていない遊休資産も、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を行った資産と同様の趣旨で、通常、当該遊休資産を切り離しても他の資産又は資産グループの使用にほとんど影響を与えないため、重要なものについては、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う(第72項参照)。なお、企業が将来の使用を見込んでいる遊休資産は、その見込みに沿って、グルーピングを行うことになる。

9.  当期に行われた資産のグルーピングは、原則として、翌期以降の会計期間においても同様に行う(第74項参照)。

10. 個別財務諸表上は、資産のグルーピングが当該企業を超えて他の企業の全部又は一部とされることはないが、連結財務諸表においては、連結の見地から、個別財務諸表において用いられた資産のグルーピングの単位が見直される場合がある(減損会計意見書 四 2.(6)@なお書き参照)。これは、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位の設定等が複数の連結会社(在外子会社を含む。)を対象に行われており、連結財務諸表において、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位が、各連結会社の個別財務諸表における資産のグルーピングの単位と異なる場合をいう(第75項参照、[設例1-6])。

減損の兆候

11. 減損の兆候(資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象)がある場合には、当該資産又は資産グループについて、減損損失を認識するかどうかの判定を行う(減損会計基準 二 1.参照)。企業は、通常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングにおいて利用可能な情報に基づき、例えば、第12項から第17項に示されるような減損の兆候がある資産又は資産グループを識別する(第76項及び第77項参照)。

営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合

12. 資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、又は、継続してマイナスとなる見込みである場合には、減損の兆候となる(減損会計基準 二 1.@参照)。

(1) 「営業活動から生ずる損益」は、営業上の取引に関連して生ずる損益であり、これには、当該資産又は資産グループの減価償却費や本社費等の間接的に生ずる費用が含まれ、また、損益計算書上は原価性を有しないものとして営業損益に含まれていない項目でも営業上の取引に関連して生じた損益(例えば、たな卸資産の評価損)であれば含まれる。ただし、支払利息など財務活動から生ずる損益や利益に関連する金額を課税標準とする税金は含まれない。また、大規模な経営改善計画等により生じた一時的な損益も含まれない。実務上、営業活動から生ずる損益は、このような考え方を反映した管理会計上の損益区分に基づいて行われるものと考えられる(第78項参照)。

(2) 「継続してマイナス」とは、おおむね過去2 期がマイナスであったことを指すが、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は該当しないと考えることが適当である。

また、「継続してマイナスとなる見込み」とは、前期と当期以降の見込みが明らかにマイナスとなる場合を指すものと考えられる(第79項参照)。

(3) 減損の兆候の把握には「営業活動から生ずる損益」によることが適切であるが、管理会計上、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」だけを用いている場合には、それが、継続してマイナスとなっているか、又は、継続してマイナスとなる見込みであるときに減損の兆候となる(第80項参照)。

(4) 事業の立上げ時など予め合理的な事業計画が策定されており、当該計画にて当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合、実際のマイナスの額が当該計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しない(第81項参照)。

使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合

13. 資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、例えば、以下のような当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合には、減損の兆候となる(減損会計基準 二 1.A及び注解(注2)参照)。

(1) 資産又は資産グループが使用されている事業を廃止又は再編成すること。事業の再編成には、重要な会社分割などの組織再編のほか、事業規模の大幅な縮小などが含まれる(第82項参照)。

(2) 当初の予定よりも著しく早期に資産又は資産グループを除却や売却などにより処分すること。この事象は償却資産に限らない(第83項参照)。

(3) 資産又は資産グループを当初の予定又は現在の用途と異なる用途に転用すること。

「異なる用途への転用」は、これまでの使い方による収益性や成長性を大きく変えるように使い方を変えることと考えられ、例えば、事業を縮小し余剰となった店舗を賃貸するような場合が該当する(第84項参照)。

(4) 資産又は資産グループが遊休状態になり、将来の用途が定まっていないこと(第85項参照)。

(5) 資産又は資産グループの稼働率が著しく低下した状態が続いており、著しく低下した稼働率が回復する見込みがないこと。

(6) 資産又は資産グループに著しい陳腐化等の機能的減価が観察できること(第86項参照)。

(7) 建設仮勘定に係る建設について、計画の中止又は大幅な延期が決定されたことや当初の計画に比べ著しく滞っていること。

なお、資産グループについては、資産グループ全体について以上のような変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合のみならず、主要な資産(第22項参照)が使用されている範囲又は方法について、以上のような変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合も含まれる(第87項参照)。

経営環境の著しい悪化の場合

14. 資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、又は、悪化する見込みである場合には、減損の兆候となる(減損会計基準 二 1.B参照)。

この場合、「経営環境が著しく悪化した」場合とは、例えば、以下のようなものが考えられる(第88項参照)。

(1) 材料価格の高騰や、製・商品店頭価格やサービス料金、賃料水準の大幅な下落、製・商品販売量の著しい減少などが続いているような市場環境の著しい悪化

(2) 技術革新による著しい陳腐化や特許期間の終了による重要な関連技術の拡散などの技術的環境の著しい悪化

(3) 重要な法律改正、規制緩和や規制強化、重大な法令違反の発生などの法律的環境の著しい悪化

市場価格の著しい下落の場合

15. 資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したことは、減損の兆候となる(減損会計基準 二 1.C参照)。「市場価格が著しく下落したこと」には、少なくとも市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当する(第89項参照)。

また、「市場価格」とは、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他の相場(金融商品会計基準第6項)と考えられるが、固定資産については、市場価格が観察可能な場合は多くないため、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標が容易に入手できる場合(容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものも含まれる。)には、これらを、減損の兆候を把握するための市場価格とみなして使用する(第90項参照)。

なお、資産グループについては、資産グループ全体の市場価格が把握できない場合でも、主要な資産(第22項参照)の市場価格が著しく下落した場合や、資産グループの帳簿価額のうち土地の帳簿価額が大きな割合を占め、当該土地の市場価格が著しく下落した場合も含まれる(第91項参照)。

共用資産の減損の兆候

16. 以下のいずれかに該当する場合には、共用資産に減損の兆候があることとなり、共用資産を含む、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行う(減損会計基準 注解(注7)及び第92項参照)。

(1) 共用資産を含む、より大きな単位について、第12項から第15項における事象がある場合

(2) 共用資産そのものについて、第13項又は第15項における事象がある場合

共用資産は、単独の資産である場合のほか、複数の資産である場合もある。後者の場合には、共用資産全体について第13項又は第15項における事象がある場合のほか、共用資産全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占める資産について、第13項又は第15項における事象がある場合には減損の兆候に含まれる。

なお、共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法を採用した場合には、共用資産に減損の兆候があるかどうかにかかわらず、その帳簿価額を各資産又は資産グループに配分することとなり(減損会計意見書 四 2.(7)Aただし書き参照)、当該配分された各資産又は資産グループに第12項から第15項における事象がある場合、減損の兆候があることとなる。

のれんの減損の兆候

17. のれんを含む、より大きな単位について、第12項から第15項における事象がある場合は、のれんに減損の兆候があることとなり、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行う(減損会計基準 注解(注7)及び第95項参照)。

なお、のれんについては、共用資産と異なり、通常、のれんは独立してそれ自体では減損の兆候があるかどうかを判断できないため、原則として、のれんを含む、より大きな単位で判断されることとなる。

また、のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法を採用した場合には、のれんに減損の兆候があるかどうかにかかわらず、その帳簿価額を各資産グループに配分することとなり(減損会計意見書 四 2.(8)Aただし書き参照)、当該配分された各資産グループに第12項から第15項における事象がある場合、減損の兆候があることとなる。

減損損失の認識の判定

割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積り

18. 減損の兆候がある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識する(減損会計意見書 四 2.(2)@及び減損会計基準 二 2.(1)参照)。減損損失を認識するかどうかを判定するために見積る割引前将来キャッシュ・フローの総額は、以下のように算定される(第96項から第98項参照、[設例2] [設例3])。

(1) 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数(第21項参照)が20年を超えない場合には、当該経済的残存使用年数経過時点における資産又は資産グループ中の主要な資産の正味売却価額を、当該経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する。

(2) 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合には、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに基づいて算定された20年経過時点における回収可能価額(第32項参照)を、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する(減損会計基準 注解(注4))。

(3) 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超えない場合には、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額を、主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フロー(当該構成資産の経済的残存使用年数が20年を超えるときには21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フロー)に加算する。

(4) 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超える場合には、当該主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額(第33項参照)を、(1)のときには主要な資産の経済的残存使用年数経過時点までの割引前将来キャッシュ・フローに加算し(減損会計意見書 四 2.(2)B参照)、(2)のときには21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに加算する。

19. 減損損失を認識するかどうかを判定するために見積られる割引前将来キャッシュ・フローは、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクを反映させず(減損会計基準 注解(注6)参照)、第36項から第42項の考え方に基づいて見積る。

また、この際、将来時点における回収可能価額(第18項(2)及び(4)参照)を算定するにあたっては、将来時点における正味売却価額の算定(第29項参照)及び将来時点における使用価値等の算定(第32項及び第33項参照)の考え方に基づいて行うこととなる。

20. 将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合、第18項及び第19項に基づいて算定された外貨建ての将来キャッシュ・フローを、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算し、減損損失を認識するかどうかを判定するために見積られる割引前将来キャッシュ・フローに含める。

経済的残存使用年数

21. 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数は、当該資産が今後、経済的に使用可能と予測される年数と考えられ、対象となる当該資産の材質・構造・用途等の物理的な要因のほか、使用上の環境、技術の革新、経済事情の変化による陳腐化の危険の程度、その他当該企業の特殊的条件も検討し、見積られることとなる(第99項参照)。

なお、資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が、当該資産の減価償却計算に用いられている税法耐用年数等に基づく残存耐用年数と著しい相違がある等の不合理と認められる事情のない限り、当該残存耐用年数を経済的残存使用年数とみなすことができる(第100項参照)。

主要な資産

22. 資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産である主要な資産(減損会計基準 注解(注3)参照)は、資産のグルーピングを行う際に決定され、当期に主要な資産とされた資産は、原則として、翌期以降の会計期間においても当該資産グループの主要な資産となる(第101項参照)。

23. 企業は、主要な資産を決定するにあたって、以下のような要素も含めて総合的に判断する(第102項参照)。

(1) 企業は、当該資産を必要とせずに資産グループの他の構成資産を取得するかどうか。

(2) 企業は、当該資産を物理的及び経済的に容易に取り替えないかどうか。

なお、土地等の非償却資産や建物等の経済的残存使用年数が20年を超える資産を主要な資産とする場合にも、当該資産が資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産であるかどうかに留意する必要がある(第103項参照)。

24. 共用資産やのれんは、原則として、主要な資産には該当しない(第104項参照)。

減損損失の測定

25. 減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とする(減損会計基準二 3.参照)。回収可能価額を算定するにあたっては、正味売却価額の算定(第28項参照)及び使用価値の算定(第31項参照)の考え方に基づいて行う。

26. 資産グループについて認識された減損損失は、帳簿価額に基づいて比例配分する方法のほか、各構成資産の時価を考慮した配分等合理的であると認められる方法により、当該資産グループの各構成資産に配分する(減損会計意見書 四 2.(6)A、減損会計基準 二 6.(2)及び第105項参照)。

27. 資産グループが複数の建設仮勘定から構成されている場合、資産グループについて認識された減損損失は、資産グループの帳簿価額から控除するが、減損損失の測定時には各建設仮勘定に配分せず、完成時にそれまでの総支出額等の合理的な方法に基づいて配分する[設例4]

回収可能価額の算定

正味売却価額

28. 回収可能価額とは、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(減損会計基準 注解(注1)1.参照)。通常、使用価値は正味売却価額より高いと考えられるため、減損損失の測定において、明らかに正味売却価額が高いと想定される場合や処分がすぐに予定されている場合などを除き、必ずしも現在の正味売却価額を算定する必要はないが、正味売却価額を算定する場合には、以下のようにして求められた資産又は資産グループの時価から処分費用見込額を控除して行われることとなる(減損会計基準 注解(注1)2.参照)。

(1) 時価とは公正な評価額をいい、通常、それは観察可能な市場価格をいう(減損会計基準 注解(注1)3.参照)。このような市場価格(第15項また書き参照)が存在する場合には、原則として、市場価格に基づく価額を時価とする(第108項参照)。

(2) 市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額が時価となる(減損会計基準 注解(注1)3.参照)。合理的に算定された価額は、市場価格に準ずるものとして、合理的な見積りに基づき、以下のような方法で算定される(第109項及び第110項参照)。

@ 不動産については、「不動産鑑定評価基準」(国土交通省、平成14年7月3日全部改正)に基づいて算定する。自社における合理的な見積りが困難な場合には、不動産鑑定士から鑑定評価額を入手して、それを合理的に算定された価額とすることができる。

なお、重要性が乏しい不動産については、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標(この点については、第15項また書き及び第90項を参照)を、合理的に算定された価額とみなすことができる。

A その他の固定資産については、コスト・アプローチやマーケット・アプローチ、インカム・アプローチによる見積方法が考えられるが、資産の特性等によりこれらのアプローチを併用又は選択して算定する。自社における合理的な見積りが困難な場合には、製造業者や販売業者、物件売買仲介会社など適切と考えられる第三者から、前述した方法に基づき算定された価格を入手して、それを合理的に算定された価額とすることができる。

なお、重要性が乏しいその他の固定資産についても、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標(この点については、第15項また書き及び第90項を参照)を、合理的に算定された価額とみなすことができる。

(3) 処分費用見込額は、企業が、類似の資産に関する過去の実績や処分を行う業者からの情報などを参考に、現在価値として見積る(第112項参照)。

29. 将来時点(例えば、経済的残存使用年数経過時点)における正味売却価額を算定する必要がある場合(第107項参照)には、当該時点以後の一期間の収益見込額をその後の収益に影響を与える要因の変動予測や予測に伴う不確実性を含む当該時点の収益率(最終還元利回り)で割り戻した価額から、処分費用見込額の当該時点における現在価値を控除して算定する(第113項参照)。

ただし、このような方法によって将来時点の正味売却価額を算定することが困難な場合には、現在の正味売却価額(第28項参照)(償却資産の場合には、現在の正味売却価額から適切な減価額を控除した金額)を用いることができる(第113項ただし書き参照)。

この場合、現在の市場価格や合理的に算定された価額である時価を容易に入手することができないときには、現在の時価に代えて、現在における一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標(この点については、第15項また書き及び第90項を参照)を利用して、現在の正味売却価額を算定することができる(第114項参照)。

また、資産の減価償却計算に用いられている税法規定等に基づく残存価額に重要性が乏しい場合には、当該残存価額を、当該資産の経済的残存使用年数経過時点における正味売却価額とみなすことができる(第115項参照)。

なお、減損損失の認識の判定における割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積るにあたって、主要な資産以外の構成資産が償却資産のときには、将来時点の正味売却価額に代えて、現在の当該構成資産の帳簿価額から主要な資産の経済的残存使用年数までの適切な減価額を控除した金額を用いることができる(第33項また書き参照)。

30. 正味売却価額が外貨建てで見積られる場合には、減損損失の認識の判定及び測定時の為替相場により円換算するものとする。

使用価値

31. 使用価値は、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値(減損会計基準 注解(注1)4.参照)として、以下のように算定される。

(1) 資産又は資産グループの継続的使用によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローは、第36項から第42項に基づいて算定する。

(2) 資産又は資産グループの使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローは、将来時点の正味売却価額となるため、第29 項に基づいて算定する。

(3) (1)及び(2)により算定された資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローは、第43項から第47項に基づいて算定された割引率によって、現在価値に割り引く。

32. 減損損失の認識の判定において、割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積るにあたり、20年経過時点の回収可能価額を算定する場合(第18項(2)参照)、当該時点における使用価値は、20年経過時点以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに基づいて、当該時点の現在価値として算定される(第116項参照)。

共用資産やのれんに関しても、より大きな単位でグルーピングを行う場合、減損損失を認識するかどうかを判定するために割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積るにあたり、これらの経済的残存使用年数が20年を超える場合(第37項(3)及び(4)参照)には、20年経過時点の回収可能価額を、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに加算することとなる。当該時点における回収可能価額の算定も、20年経過時点以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに基づいて、当該時点の現在価値として算定される。

33. 減損損失の認識の判定において、割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積るにあたり、主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の回収可能価額(第18項(4)参照)は、原則として、当該時点における構成資産の正味売却価額(第29項参照)となる。

ただし、主要な資産の経済的残存使用年数経過後、新たに主要な資産になると考えられる資産の使用に係る合理的な計画が存在している場合には、当該時点における構成資産の正味売却価額に代えて、当該合理的な計画に従って算定した将来キャッシュ・フローの主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における現在価値を用いることができる(第117項ただし書き参照、[設例3])。

また、主要な資産以外の構成資産が償却資産のときには、現在の構成資産の帳簿価額から主要な資産の経済的残存使用年数までの適切な減価額を控除した金額を用いることができる(第29項なお書き及び第117項ただし書き参照、[設例3])。

共用資産やのれんに関しても、より大きな単位でグルーピングを行う場合、減損損失を認識するかどうかを判定するために割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積るにあたり、共用資産やのれんの経済的残存使用年数経過時点における他の資産の回収可能価額は、原則として、当該時点における他の資産の正味売却価額となるが、上述のただし書き及びまた書きの取扱いを準用することができる。

34. 使用価値を算定する場合、将来キャッシュ・フローを見積る期間(第37項参照)経過時点においても、経済的残存使用年数が存在する他の資産について、当該経過時点における回収可能価額は、原則として、当該時点における他の資産の正味売却価額となる。

ただし、当該経過時点後に、将来キャッシュ・フローの見積りに用いた資産の使用に係る合理的な計画が存在している場合には、当該時点における他の資産の正味売却価額に代えて、当該合理的な計画に従って算定した将来キャッシュ・フローの当該経過時点における現在価値を用いることができる。

35. 使用価値の算定において見積られる将来キャッシュ・フローが外貨建ての場合、第31項(1)及び(2)に基づいて算定された外貨建ての将来キャッシュ・フローを、当該通貨に関して第31項(3)に基づき算定された割引率によって現在価値に割り引き、当該外貨建ての将来キャッシュ・フローの現在価値を減損損失の測定時の為替相場により円換算することにより、使用価値を算定するものとする。

ただし、使用価値の算定において見積られる将来キャッシュ・フローの一部のみが外貨建ての場合には、第31項(1)及び(2)に基づいて外貨建ての将来キャッシュ・フローを減損損失の測定時の為替相場により円換算し、他の円貨建ての将来キャッシュ・フローと合算した金額を、第31項(3)に基づき算定された割引率によって現在価値に割り引くことにより、使用価値を算定することができる。

将来キャッシュ・フロー

36. 減損損失を認識するかどうかの判定及び使用価値の算定において見積られる将来キャッシュ・フローを、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積る(減損会計基準 二 4.(1)参照)にあたっては、以下のような点に留意する(第118項参照)。

(1) 企業は、取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値を、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報(例えば、予算やその修正資料、業績評価の基礎データ、売上見込みなど。以下同じ。)と整合的に修正し、各資産又は資産グループの現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して、将来キャッシュ・フローを見積る。

(2) 中長期計画が存在しない場合、企業は、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報に基づき、各資産又は資産グループの現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して、将来キャッシュ・フローを合理的に見積る。これには、過去の一定期間における実際のキャッシュ・フローの平均値に、これまでの趨勢を踏まえた一定又は逓減する成長率(ゼロやマイナスになる場合もある。)の仮定をおいて見積ることも含む。

(3) 中長期計画の見積期間を超える期間の将来キャッシュ・フローを算定する場合、企業は、原則として、取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値(経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報と整合的に修正した後のもの)に、合理的な反証がない限り、それまでの計画に基づく趨勢を踏まえた一定又は逓減する成長率(ゼロやマイナスになる場合もある。)の仮定をおいて見積る。この結果、中長期計画の見積期間を超える期間の成長率がプラスの仮定の場合には、当該将来キャッシュ・フローの金額は逓増し、成長率がマイナスの仮定の場合、逓減することとなる。

(4) 資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの見積りに際しては、現金基準に基づいて見積る方法のほか、発生基準に基づいて見積った金額に当該資産又は資産グループの減価償却費などの重要な非資金損益項目を加減した金額を用いることができる。

37. 減損損失を認識するかどうかの判定及び使用価値の算定に際して、将来キャッシュ・フローを見積る期間は、以下とする(第119項参照)。

(1) 資産又は資産グループについて、減損損失を認識するかどうかを判定するために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方とする(減損会計基準二 2.(2)参照)。

(2) 資産又は資産グループについて、使用価値の算定のために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数とする。

(3) 共用資産に関して、より大きな単位でグルーピングを行う場合、減損損失を認識するかどうかを判定するために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、共用資産の経済的残存使用年数(共用資産が複数ある場合には、共用資産全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占める共用資産の経済的残存使用年数)と20年のいずれか短い方とする。また、その場合に、使用価値の算定のために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、共用資産の経済的残存使用年数(共用資産が複数ある場合には、共用資産全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占める共用資産の経済的残存使用年数)とする。

(4) のれんに関して、より大きな単位でグルーピングを行う場合、減損損失を認識するかどうかを判定するために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、原則として、のれんの残存償却年数(のれんが複数ある場合には、のれん全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占めるのれんの残存償却年数)と20年のいずれか短い方とする。また、その場合に、使用価値の算定のために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、原則として、のれんの残存償却年数(のれんが複数ある場合には、のれん全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占めるのれんの残存償却年数)とする。

38. 将来キャッシュ・フローは、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・イン・フローから、継続的使用と使用後の処分のために生ずると見込まれる将来キャッシュ・アウト・フローを控除して見積る。これらの見積りに含められる範囲は、以下のようにする[設例2] [設例3]

(1) 将来キャッシュ・フローの見積りに際しては、資産又は資産グループの現在の使用状況及び合理的な使用計画等を考慮する(減損会計基準 二 4.(2)参照)。このため、計画されていない将来の設備の増強や事業の再編の結果として生ずる将来キャッシュ・フローは、見積りに含めない(減損会計基準 注解(注5)参照)。

(2) 資産又は資産グループの現在の使用状況及び合理的な使用計画等を考慮し、現在の価値を維持するための合理的な設備投資に関連する将来キャッシュ・フローは、見積りに含める(減損会計意見書 四 2.(4)A参照)。したがって、資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超えない場合(第18項(3)参照)でも、現在の価値を維持するための合理的な設備投資により、構成資産が引き続き存在するものと仮定して、将来キャッシュ・フローを見積る。この場合、当該設備投資に関連する将来キャッシュ・フローには、当該設備投資による将来キャッシュ・アウト・フローや、主要な資産の経済的残存使用年数経過時点において存在すると仮定された構成資産の正味売却価額も含まれる。

(3) 将来の用途が定まっていない遊休資産については、現在の状況に基づき将来キャッシュ・フローを見積る(減損会計基準 注解(注5)参照)。なお、資産グループについては、資産グループ全体について将来の用途が定まっていない遊休状態である場合のみならず、主要な資産(第22項参照)が将来の用途が定まっていない遊休資産である場合にも、現在の状況に基づき将来キャッシュ・フローを見積ることとなる。

(4) 建設仮勘定については、使用に供されていないが、その将来キャッシュ・フローは、合理的な建設計画や使用計画等を考慮して、完成後に生ずると見込まれる将来キャッシュ・イン・フローから、完成まで及び完成後に生ずると見込まれる将来キャッシュ・アウト・フローを控除して見積る[設例4]

39. 将来キャッシュ・フローの見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額(最頻値)又は生起しうる複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの確率で加重平均した金額(期待値)(減損会計基準 二 4.(3)参照)とされているが、いずれの場合でも、使用価値の算定においては、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクについて、将来キャッシュ・フローの見積りと割引率のいずれかに反映させる必要がある(減損会計基準 注解(注6)参照、[設例5])。

(1) 当該リスクは、実務上、割引率に反映させる場合が多く、この場合には、当該リスクを反映させない将来キャッシュ・フローと第45項による割引率により、使用価値を算定する。

(2) 当該リスクを将来キャッシュ・フローの見積りに反映させた場合には、貨幣の時間価値だけを反映した無リスクの割引率(第46項参照)を用いて使用価値を算定する。なお、この場合には、算定された使用価値と減損損失の認識の判定に用いられた当該リスクを反映させない割引前将来キャッシュ・フロー(第19項参照)から求められる割引率に相当する率が、第45項による割引率と大きく相違しないことを確認する必要がある(第120項なお書き参照)。

40. 資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの見積りに際し控除する間接的に生ずる支出(減損会計基準 二 4.(4)参照)は、当該資産又は資産グループが使用されている営業活動に関連して生ずる将来キャッシュ・アウト・フローと考えられるが、現金基準に基づいて見積る方法のほか、発生基準に基づいて見積る方法(ただし、この場合でも、共用資産の減価償却費は間接的に生ずる支出には含まれないことに留意する。)によることもできる(第121項参照)。

なお、間接的に生ずる支出を関連する各資産又は資産グループに配分するための合理的な方法には、「原価計算基準」の「33 間接費の配賦」や「セグメント情報の開示に関する会計手法」の「2 (2)直課できない営業費用」に準ずる方法が含まれる。

41. 将来キャッシュ・フローの見積りには、利息の支払額並びに法人税等の支払額及び還付額を含めない(減損会計基準 二 4.(5)参照)。ただし、固定資産の建設に要する支払利息で稼動前の期間において取得原価に算入されている場合は、完成時まで算入されると考えられる利息の支払額を、将来キャッシュ・アウト・フローの見積りに含める(第122項参照)。

42. 将来キャッシュ・フローの見積りには、利息の受取額を含めない。ただし、賃貸不動産の預り保証金の運用益相当額のように、固定資産の使用に伴って直接的に生ずると考えられる利息等の受取額は、将来キャッシュ・フローの見積りに含めることができる(第123項参照)。

使用価値の算定に際して用いられる割引率

43. 減損損失の測定にあたり、使用価値を算定する際に用いられる割引率は、減損損失の測定時点の割引率を用い(第124項参照)、原則として、翌期以降の会計期間においても同一の方法により算定される。また、将来キャッシュ・フローが税引前の数値であることに対応して、割引率も税引前の数値を用いる必要がある(減損会計意見書 四 2.(5)参照)。

44. 使用価値を算定する際に用いられる割引率は、実務上、単一の割引率を使用すると考えられるが、将来キャッシュ・フローが見積られる期間のうち異なる期間において、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づき将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクや貨幣の時間価値が相違するため、異なる期間について異なる割引率を見積る場合には、当該割引率を用いることができる(第125項参照)。

45. 資産又は資産グループに係る将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクについて、将来キャッシュ・フローの見積りに反映されていない場合、使用価値の算定に際して用いられる割引率は、貨幣の時間価値と将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映したもの(減損会計基準 二 5.参照)であり、以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものとなる(第124項から第127項参照、[設例6])。

(1) 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率。企業は、内部管理目的の経営資料や使用計画等、企業が用いている内部の情報に基づき、当該資産又は資産グループに係る収益率を算定する。

(2) 当該企業に要求される資本コスト。資本コストは、借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コストを用いることが適当である。

(3) 当該資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率。

(4) 当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積られる利率。

46. 資産又は資産グループに係る将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクについて、将来キャッシュ・フローの見積りに反映させた場合(第39項(2)参照)には、使用価値の算定に際して用いられる割引率は、貨幣の時間価値だけを反映した無リスクの割引率となる(減損会計意見書 四 2.(5)参照)。したがって、この場合には、将来キャッシュ・フローが得られるまでの期間に対応した国債の利回りを割引率として用いることとなる。

47. 連結財務諸表において、連結の見地から、個別財務諸表において用いられた資産のグルーピングの単位が見直された場合(第10項参照)、原則として、使用価値の算定に際して用いられる割引率も資産のグルーピングに応じて見直されることとなる(第128項参照)。

共用資産及びのれんの取扱い

共用資産の取扱い

48. 共用資産に減損の兆候がある場合(第16項参照)、減損損失の認識の判定及び測定は、原則として、以下のように、共用資産が関連する複数の資産又は資産グループに共用資産を加えた、より大きな単位で行う(減損会計基準 二 7.参照、[設例7-1])。

(1) 減損損失を認識するかどうかの判定は、まず、共用資産が関連する資産又は資産グループに減損の兆候がある場合、当該資産又は資産グループごとに行い、その後、より大きな単位で行う(減損会計基準 注解(注7)参照)。共用資産を含まない資産又は資産グループに減損の兆候がない場合でも、共用資産に減損の兆候があるときには、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行う。

(2) 共用資産を含む、より大きな単位について減損損失を認識するかどうかを判定するに際しては、共用資産を含まない各資産又は資産グループにおいて算定された減損損失控除前の帳簿価額に共用資産の帳簿価額を加えた金額と、より大きな単位から得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額(第37項(3)参照)とを比較する。割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額の合計額を下回る場合には、減損損失を認識する。

(3) 減損損失の測定も、まず、資産又は資産グループごとに行い、その後、より大きな単位で行う(減損会計基準 注解(注7)参照)。

(4) 減損損失を認識すべきであると判定された共用資産を含む、より大きな単位については、共用資産を含まない各資産又は資産グループにおいて算定された減損損失控除前の帳簿価額に共用資産の帳簿価額を加えた金額を、より大きな単位の回収可能価額まで減額する。

(5) 共用資産を加えることによって算定される減損損失の増加額は、原則として、共用資産に配分する。ただし、共用資産に配分される減損損失が、共用資産の帳簿価額と正味売却価額の差額を超過することが明らかな場合には、当該超過額を各資産又は資産グループに合理的な基準により配分する(減損会計基準 注解(注8)参照)。これは、以下のように行う(第129項参照)。

@ 各資産又は資産グループの回収可能価額が容易に把握できる場合には、当該回収可能価額を下回る結果とならないように、当該超過額を、各資産又は資産グループの帳簿価額と回収可能価額の差額の比率等により配分する。

A 各資産又は資産グループの回収可能価額が容易に把握できない場合には、当該超過額を、各資産又は資産グループの帳簿価額の比率等により配分する。ただし、各資産又は資産グループの一部の回収可能価額が容易に把握できる場合には、当該回収可能価額を下回る結果とならないように、合理的な基準により、回収可能価額が容易に把握できない構成資産に減損損失を配分することができる。

49. 共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法(減損会計基準 二 7.参照)を採用するにあたっては、以下の点に留意する(第130項参照)。

(1) 共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分して管理会計を行っている場合や、共用資産が各資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に密接に関連し、その寄与する度合いとの間に強い相関関係を持つ合理的な配賦基準が存在する場合には、共用資産の帳簿価額を当該共用資産に関連する各資産又は資産グループに当該合理的な配賦基準で配分することができる。

(2) 当期に共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法を採用した場合には、翌期以降の会計期間においても同じ方法を採用する必要がある。ただし、事実関係が変化した場合(例えば、資産のグルーピングの変更、主要な資産の変更、資産グループ内での設備の増強や大規模な処分、資産グループ内の構成資産の経済的残存使用年数の変更、共用資産自体の設備の増強や経済的残存使用年数の変更など)には、この限りではない。

(3) 当該企業の類似の資産又は資産グループにおいては、同じ方法を採用する必要がある。

50. 共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法(第49項参照)を採用する場合には、配分された各資産又は資産グループに減損の兆候があるとき(第16項なお書き参照)に、以下のように減損損失の認識の判定及び測定を行う[設例7-2]

(1) 共用資産の帳簿価額を、当該共用資産に関連する各資産又は資産グループに配分したうえで減損損失を認識するかどうかを判定する。

(2) 各資産又は資産グループの帳簿価額に共用資産の帳簿価額を配分した額を加えた金額を回収可能価額まで減額する。

(3) 共用資産の帳簿価額を配分した各資産グループにおいて認識された減損損失は、帳簿価額に基づく比例配分等の合理的な方法により、共用資産の配分額を含む当該資産グループの各構成資産に配分する(第26項参照)。

のれんの取扱い

51. のれんを認識した取引において取得された事業の単位が複数である場合には、のれんの帳簿価額を合理的な基準に基づき分割する(減損会計基準 二 8.参照)。

(1) のれんの帳簿価額を分割し帰属させる事業の単位は、取得の対価が概ね独立して決定され、かつ、取得後も内部管理上独立した業績報告が行われる単位とする(減損会計基準 注解(注9)参照)。

(2) のれんの帳簿価額の分割は、のれんが認識された取引において取得された事業の取得時における時価の比率に基づいて行う方法その他合理的な方法による(減損会計基準 注解(注10)参照)。その他合理的な方法には、取得された事業の取得時における時価と当該事業の純資産(資産総額と負債総額の差額)の時価との差額の比率に基づいて行う方法等が含まれる。

52. 分割されたのれんを含む、より大きな単位に減損の兆候がある場合(第17項参照)、減損損失の認識の判定及び測定は、原則として、のれんが帰属する事業に関連する複数の資産グループにのれんを加えた、より大きな単位で行う(減損会計基準 二 8.参照、[設例8])。

(1) 減損損失を認識するかどうかの判定は、まず、のれんが帰属する事業に関連する資産グループに減損の兆候がある場合、当該資産グループごとに行い、その後、より大きな単位で行う(減損会計基準 注解(注7)参照)。のれんを含まない資産グループに減損の兆候がない場合でも、のれんを含む、より大きな単位に減損の兆候があるときには、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行う。

(2) のれんを含む、より大きな単位について減損損失を認識するかどうかを判定するに際しては、のれんを含まない各資産グループにおいて算定された減損損失控除前の帳簿価額にのれんの帳簿価額を加えた金額と、より大きな単位から得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額(第37項(4)参照)とを比較する。割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額の合計額を下回る場合には、減損損失を認識する。

(3) 減損損失の測定も、まず、資産グループごとに行い、その後、より大きな単位で行う(減損会計基準 注解(注7)参照)。

(4) 減損損失を認識すべきであると判定されたのれんを含む、より大きな単位については、のれんを含まない各資産グループにおいて算定された減損損失控除前の帳簿価額にのれんの帳簿価額を加えた金額を、より大きな単位の回収可能価額まで減額する。

(5) のれんを加えることによって算定される減損損失の増加額は、原則として、のれんに配分する。ただし、のれんに配分された減損損失が、のれんの帳簿価額を超過する場合には、当該超過額を合理的な基準により各資産グループに配分する(減損会計基準 注解(注11)参照)(この際の合理的な基準については、第48項(5)参照)。

53. のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法(減損会計基準 二 8.参照)を採用するにあたっては、以下の点に留意する(第133項参照)。

(1) のれんの帳簿価額を各資産グループに配分して管理会計を行っている場合や、のれんが帰属する事業が、各資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に密接に関連し、その寄与する度合いとの間に強い相関関係を持つ合理的な配賦基準が存在する場合には、のれんの帳簿価額を各資産グループに当該合理的な配賦基準で配分することができる。

(2) 当期にのれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法を採用した場合には、翌期以降の会計期間においても同じ方法を採用する必要がある。ただし、事実関係が変化した場合(例えば、資産のグルーピングの変更、主要な資産の変更、資産グループ内での設備の増強や大規模な処分、資産グループ内の構成資産の経済的残存使用年数の変更など)には、この限りではない。

(3) 当該企業の類似の資産グループにおいては、同じ方法を採用する必要がある。

54. のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法(第53項参照)を採用する場合には、配分された各資産グループに減損の兆候があるとき(第17項また書き参照)に、以下のように減損損失の認識の判定及び測定を行う。

(1) のれんの帳簿価額を、当該のれんが帰属する事業に関連する各資産グループに配分したうえで減損損失を認識するかどうかを判定する。

(2) 各資産グループの帳簿価額にのれんの帳簿価額を配分した額を加えた金額を回収可能価額まで減額する。

(3) のれんの帳簿価額を配分した各資産グループにおいて認識された減損損失は、のれんに優先的に配分し、残額は、帳簿価額に基づく比例配分等の合理的な方法により、当該資産グループの各構成資産に配分する(第26項参照)。

減損処理後の会計処理

55. 減損損失の戻入れは行わず、また、減損処理を行った資産については、減損損失を控除した帳簿価額に基づき減価償却を行う(減損会計基準 三 1.及び2.参照)。したがって、減損損失を控除した帳簿価額から残存価額を控除した金額を、企業が採用している減価償却の方法に従って、規則的、合理的に配分することとなる(第134項及び第135項参照)。

また、減損処理後、販売目的で保有するために流動資産に振り替える場合(第136項参照)を除き、処分が予定されているときでも、残存価額まで減価償却を行う(第137項参照)。

56. 減損処理を行った遊休資産(第72項参照)について、減損処理後の減価償却費は、原則として、営業外費用として処理する。なお、減損処理を行うこととはされなかった遊休資産についても減価償却を行うこととなるが、当該遊休資産の減価償却費についても、原則として、営業外費用として処理する(第138項参照)。

開示

貸借対照表における表示

57. 減損処理を行った資産の貸借対照表における表示は、以下のように行う(減損会計基準 四1.参照)。

(1) 原則として、減損処理前の取得原価から減損損失を直接控除し、控除後の金額をその後の取得原価とする形式(以下「直接控除形式」という。)で表示する。

(2) ただし、減価償却を行う有形固定資産については、当該資産に対する減損損失累計額を、取得原価から間接控除する形式(以下「独立間接控除形式」という。)で表示することもできる。

(3) (2)の場合、減損損失累計額を減価償却累計額に合算して表示(以下「合算間接控除形式」という。)することができる。

減損処理を行った資産の貸借対照表における表示形式は、例えば、減価償却累計額については各資産科目に対する控除項目として掲記する(間接控除形式)が、減損損失については直接控除形式を採るなど、減価償却累計額の表示形式と同じものである必要はない(第139項参照)。

注記

58. 重要な減損損失を認識した場合には、損益計算書(特別損失)に係る注記事項として、以下の項目を注記する(減損会計基準 四 3.及び第140 項参照)。

(1) 減損損失を認識した資産又は資産グループについては、その用途、種類、場所などの概要

(2) 減損損失の認識に至った経緯

(3) 減損損失の金額については、特別損失に計上した金額と主な固定資産の種類ごとの減損損失の内訳

(4) 資産グループについて減損損失を認識した場合には、当該資産グループの概要と資産をグルーピングした方法

(5) 回収可能価額が正味売却価額の場合には、その旨及び時価の算定方法、回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率(第141項参照)

ただし、減損会計基準を初めて適用した事業年度においては、減損損失を計上していなくとも、全般的な資産のグルーピングの方針等を注記することができる(第140項参照)。

59. 前項で示された注記事項は、資産グループごとに記載する。ただし、多数の資産グループにおいて重要な減損損失が発生している場合には、資産の用途や場所等に基づいて、まとめて記載することができる。

その他

借手側が所有権移転外ファイナンス・リース取引について、リース資産の計上額を算定する上でリース料総額から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法によっている場合の取扱い

59-2. 借手側が、所有権移転外ファイナンス・リース取引について、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行っている場合、ファイナンス・リース取引により使用している資産(以下「リース資産」という。)及びリース債務の計上額を算定するにあたっては、原則として、リース料総額からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除する方法によるが、リース資産総額に重要性が乏しいと認められるときには、利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法によることができる(企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下「リース適用指針」という。)第31項(1)参照)。

当該利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法によっている場合でも、リース資産又は当該リース資産を含む資産グループに関する減損損失の認識の判定及び減損損失の測定にあたっては、その時点における利息相当額の合理的な見積額をリース資産から控除して行うことができる。

上記の取扱いにより、リース資産に関する減損損失を計上する上でリース資産から利息相当額の合理的な見積額を控除する場合、同額をリース債務から控除する。当該リース債務から控除された利息相当額については、原則として、残存リース期間にわたり利息法により配分するが、定額法により配分することができる。

借手側が所有権移転外ファイナンス・リース取引について通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている場合の取扱い

60. 借手側が、所有権移転外ファイナンス・リース取引について、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている場合、リース資産又は当該リース資産を含む資産グループの減損処理を検討するにあたっては、当該リース資産の未経過リース料の現在価値を、当該リース資産の帳簿価額とみなして、減損会計基準を適用する(減損会計基準 注解(注12)1.及び第143項参照)。

その結果、リース資産に配分された減損損失は、重要性がある場合には負債の部において「リース資産減損勘定」等適切な科目をもって計上する。当該負債は、リース契約の残存期間にわたり定額法によって取り崩され、当該取崩額は、各事業年度の支払リース料と相殺する(減損会計基準 注解(注12)2.及び第143項参照)。

61. リース資産及びリース資産を含む資産グループに関する減損の兆候の把握、減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定は、通常の資産に準じて行う。当該資産グループについて認識された減損損失は、通常の場合と同様に、合理的な方法により資産グループの各構成資産(オペレーティング・リース取引により使用している資産を除く。)に配分する(第26項参照、[設例9])。

なお、当該リース資産の帳簿価額とみなされる金額(第144項参照)と比較される将来キャッシュ・アウト・フローには、将来の支払リース料が含まれないことに留意する。また、減損会計基準の対象とはされないオペレーティング・リース取引を含む資産グループの将来キャッシュ・アウト・フローには、当該取引に係る将来の支払リース料が含まれる。

62. 未経過リース料の現在価値に代えて、割引前の未経過リース料を、リース資産の帳簿価額とみなすことができるというリース資産の重要性が低い場合(減損会計基準 注解(注12)1.ただし書き参照)とは、リース資産総額に重要性が乏しいと認められる場合(リース適用指針付録(注2)参照))を指す。ただし、この場合でも、減損損失を測定する際の回収可能価額の算定においては、現在価値に割り引くことに留意する。

また、個々のリース資産(当該リース資産に係るリース取引開始日が企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「リース会計基準」という。)適用初年度開始後か否かは問わない)に重要性が乏しいと認められる場合(リース適用指針第35項参照)、当該リース資産は減損会計基準の対象とはしないことができる。

中間会計期間において減損処理を行った資産に係る取扱い

63. 中間会計期間において減損処理を行った場合には、年度決算までに資産又は資産グループに新たな減損の兆候があり追加的に減損損失を認識すべきであると判定される場合を除き、年度決算において、中間会計期間を含む事業年度全体を対象として改めて会計処理を行わない(第145項参照)。

再評価を行った土地について減損処理を行った場合の土地再評価差額金の取扱い

64. 「土地の再評価に関する法律」により再評価を行った土地については、再評価後の帳簿価額に基づいて減損会計を適用する(減損会計意見書 五 3.参照)。この場合、減損処理を行った部分に係る土地再評価差額金は取り崩すこととなる(「土地の再評価に関する法律」第8条第2項参照)と解されるが、法律の定めのもとで計上された土地再評価差額金は、売却した場合と同様に、剰余金修正を通して未処分利益に繰り入れる(第146項参照、[設例10])。

実施時期等

65. 本適用指針の適用は、次のとおりとする。

(1) 平成15年10月公表の本適用指針(以下「改正前適用指針」という。)は、減損会計基準の実施(減損会計意見書 五 1.参照)にあわせて適用されることとなる。

なお、減損会計基準を早期に適用した場合でも、正当な理由による会計方針の変更に該当することに留意する。

(2) 平成20年1月24日改正の本適用指針(以下「改正適用指針」という。)の適用時期は、リース会計基準と同様とする。

66. 減損会計基準及び本適用指針を適用するにあたっては、これまで行われてきた会計処理と整合しない場合がある。したがって、以下の日本公認会計士協会から公表されている指針等については改廃を検討することが適当である。

(1) 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針について」の第33項

(2) 会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」の第9項

(3) 監査第二委員会報告第2号「休止固定資産の会計処理及び表示と監査上の取扱い」

(4) 監査委員会報告第69号「販売用不動産等の強制評価減の要否の判断に関する監査上の取扱い」

議決

67. 改正前適用指針は、第43回企業会計基準委員会に出席した委員12名全員の賛成により承認された。

67-2. 改正適用指針は、第144回企業会計基準委員会に出席した委員12名全員の賛成により承認された。

結論の背景

対象資産

68. 減損会計基準及び本適用指針の対象となる固定資産には、有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が含まれる(第5項参照)。したがって、国際会計基準の動向に則して時価評価や時価情報の注記の必要性が検討されたいわゆる投資不動産も含まれ(減損会計意見書 六 1.参照)、また、有形固定資産に属する建設仮勘定(第13項(7)、第27項及び第38項(4)参照)や、のれん(第17項参照)、長期前払費用(ただし、長期前払利息など財務活動から生ずる費用に関する経過勘定項目は除く。)も含まれる。また、所有権移転外ファイナンス・リース取引のうち、借手側が当該ファイナンス・リース取引により使用しているリース資産を通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている場合(リース適用指針第34項及び第79項参照)、貸借対照表上、固定資産に計上されていないリース資産も対象に含まれる(減損会計基準 注解(注12)及び第60項参照)。繰延資産は、貸借対照表上、固定資産に分類されていないため、本適用指針の対象とはならないと考えられるが、支出の効果が期待されなくなった場合には、一時的に償却されることとなる(財務諸表等規則ガイドライン95 の2 2 参照)。

なお、貸借対照表上、固定資産という科目を用いていない業種においても、その内容から、一般の企業における有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産に該当するものは、本適用指針の対象となる固定資産に含まれることに留意する。

69. 他の基準に減損処理に関する定めがある資産は対象資産から除かれる(減損会計基準 一参照)が、これは必ずしも「減損処理」という文言が用いられてはいないが類似した会計処理が規定されているという意味と解される。また、他の会計基準ではなくとも具体的な指針等において、すでに減損処理に類似した会計処理が規定されている場合は、対象資産から除くことが適当である。したがって、「研究開発費等に係る会計基準」において無形固定資産として計上されている市場販売目的のソフトウェアは、未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を上回った場合、当該超過額は一時の費用又は損失として処理する(会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」第20項参照)ため、対象資産からは除かれることとなる(第6項(3)参照)。

なお、自社利用のソフトウェアについては、臨時償却に類似した処理が定められている(「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」第21項参照)が、減損処理に類似した会計処理は規定されていないため、対象資産となると考えられる。また、自社利用のソフトウェアのうち、ソフトウェアを用いて外部へ業務処理等のサービスを提供する契約等が締結されている場合等、市場販売目的のソフトウェアに準じて、見込販売数量や見込販売収益に基づく方法で償却を行っていても、通常、未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を上回ったときに当該超過額を一時の費用又は損失として処理されていないため、その場合には対象資産となる。

資産のグルーピング

70. 複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合には、減損の兆候の把握、減損損失の認識の判定及び減損損失の測定に際して、合理的な範囲で資産のグルーピングを行う必要がある(減損会計意見書 四 2.(6)@参照)。様々な事業を営む企業における資産のグルーピングの方法を一義的に示すことは困難であり、実務的には管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む。)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられる。本適用指針では、資産のグルーピングを行う手順を例示することにより、実務的な指針として役立てることを考えている(第7項参照)。

(1) 例示において、本適用指針では、企業は、資産と対応して継続的に収支の把握がなされている単位を識別し、グルーピングの単位を決定する基礎とするものとしている。

一般に、管理会計上の区分は、事業別、製品別、地域別などの区分を基礎にして行われていると考えられるが、継続的に収支の把握がなされている単位は、予算や業績評価の単位より小さい場合もある。収支の把握は、必ずしも現金基準に基づくものではなく、発生基準に基づく損益の把握でもよい。

また、賃貸ビルや小売用店舗のように、資産の利用とキャッシュ・フローが直接的に関連づけられやすい資産については、当該資産ごとに継続的な収支の把握が行われている場合が多いと考えられる。

なお、事業の種類や業態によっては、当該資産から生ずるキャッシュ・イン・フローが他の資産から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的(第7項(2)参照)であるため、管理会計上も合理的な内部振替価額を用いて収入の把握を行うことが困難な場合がある。また、当該資産に係るキャッシュ・フローに見積要素が極めて多いため、管理会計上、資産ごと又は複数の資産をまとめた単位では継続的な収支の把握に意義を見出せない場合がある。このような場合、企業の継続的な収支は、当該事業を行っている大きさでしか把握されていないことがあるが、管理会計上の目的や効果から合理性を有するものに限られることに留意する必要がある。

さらに、本適用指針では、資産のグルーピングの単位を決定する基礎は、原則として、小さくとも物理的な1つの資産になると考えている。これは、固定資産の減損会計は、資産を対象とするため、1つの資産において、継続的に収支の把握がなされている単位が複数存在する場合でも、1つの資産を細分化して減損処理の対象とすることは適切ではないと考えられることによる。

ただし、物理的な1つの資産でも仕様が異なる等のため、複数からなる資産と考えられる場合もある。これには、商業ビルにおいて仕様が異ならなくとも、自社利用部分と外部賃貸部分とが長期継続的に区分されるような場合も含めることができるものと考えられる。

(2) 継続的に収支の把握がなされているグルーピングの単位を決定する基礎が、特定の製品やサービスと関連していると想定される場合でも、複数のグルーピングの単位を決定する基礎が生み出す製品やサービスの性質、市場などに類似性等があり(これには、販売方法として契約に基づく継続的な一括販売などを含む。)、それらから生ずるキャッシュ・イン・フローが相互に補完的な影響を及ぼしあっている場合には、当該単位を切り離したときに他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすことがある。このような場合には、当該単位を切り離すことにより、企業の実態を適切に反映しない結果となることが考えられるため、これらの複数の単位をグルーピングすることが適当である。

なお、グルーピングの単位を決定する基礎において内部取引が存在し、合理的な内部振替価額(例えば、企業が外部からの収入価額に基づく適切な内部振替価額)により管理会計上、キャッシュ・イン・フローを擬制している場合、他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的でなければ、当該単位を切り離したときに他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすものとしては取り扱わず、他の単位とグルーピングを行わないこととなる。

また、稀ではあるが、法規制によって企業に製品やサービスの供給義務が課されており、このため、販売価格の認可制や広い安全管理義務があり、拡張撤退が自由にできないような場合には、供給義務が課されている資産又は複数の資産を切り離したときに他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすものと考えられるため、当該資産から生ずるキャッシュ・イン・フローには相互補完的な影響があることに該当すると考えられる。

71. 資産のグルーピングは、実務的には、投資の意思決定を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられている。それには、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む(減損会計意見書 四 2.(6)@参照)。このため、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を行い、その代替的な投資も予定されていない場合における資産が他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位に該当すると考えられる(第8項参照)。

なお、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定は、取締役会等において行われるほか、社内規定等に基づき、他に決定権限が委譲されている場合には、当該決定権限に従った権限者の承認により行われる。

また、実務上の負担を考慮し、重要性の乏しい資産は、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う必要はなく、これまでの使用状況等に鑑みて、資産グループに含めて取り扱うことができると考えられる。

72. 遊休状態は、企業活動にほとんど使用されていない状態であって、過去の利用実態や将来の用途の定めには関係がない現在の状態である。また、このような状態にある資産が遊休資産である。このうち、将来の使用が見込まれていない遊休資産は、当該資産を切り離しても他の資産又は資産グループの使用にほとんど影響を与えないと考えられるため、処分の意思決定を行った資産や廃止の意思決定を行った事業に係る資産について、代替的な投資が予定されていない場合などと同様に、重要なものについては、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱うことが適当である(第8項参照)。

なお、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を行った資産と同様に、将来の使用が見込まれていない遊休資産のうち、重要性の乏しいものは、これまでの使用状況等に鑑みて、資産グループに含めて取り扱うことができると考えられる。

また、処分の意思決定を行った重要な資産や、廃止の意思決定を行った事業に係る重要な資産、将来の使用が見込まれていない重要な遊休資産は、これら同士の将来キャッシュ・フローを合算して減損損失を認識するかどうかの判定を行ったり、減損損失を測定したりしないことに留意する。

73. 業種や規模にかかわりなく、企業には複数の資産又は資産グループが存在すると考えられる。また、連結財務諸表における資産グループは、どんなに大きくとも、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられる。

74. 当期に行われた資産のグルーピングは、事実関係が変化した場合(例えば、事業の再編成による管理会計上の区分の変更、主要な資産の処分、事業の種類別セグメント情報におけるセグメンテーションの方法等の変更など)を除き、翌期以降の会計期間においても同様に行う(第9項参照)。

75. 連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が作成した個別財務諸表を基礎として作成される(減損会計意見書 四 2.(6)@なお書き参照)ため、個別財務諸表上は、資産のグルーピングが当該企業を超えて他の企業の全部又は一部とされることはなく、また、連結財務諸表においても、原則として、個別財務諸表における資産のグルーピングが用いられる。しかしながら、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う単位の設定等が複数の連結会社(在外子会社を含む。)を対象に行われており、連結財務諸表において、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位が、各連結会社の個別財務諸表における資産のグルーピングと異なる場合には、連結財務諸表において資産のグルーピングの単位が見直されることとなる(第10項参照)。

このように、連結財務諸表における資産のグルーピングの単位の見直しは、必ず行わなければならないものではなく、また、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う単位の設定等が複数の連結会社を対象に行われていない場合には、見直されるわけではない。また、複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合に必要となる資産のグルーピングの考え方(減損会計意見書 四 2.(6)@参照)から、当該見直しは、連結上、固定資産が計上される連結会社が対象であり、持分法が適用されている非連結子会社や関連会社は含まれないことに留意する必要がある。

なお、連結の見地から資産のグルーピングの単位が見直された場合には、個別財務諸表における減損損失が、連結上、修正されることとなる。すなわち、連結財務諸表において計上される減損損失が、個別財務諸表における減損損失の合計額を下回る場合には、連結上、当該差額を消去し、上回る場合には、連結上、当該差額を追加計上することとなる。

減損の兆候

76. 減損の兆候として、第12項から第17項に示されるような事象は例示であるため、減損の兆候はこれらに限られない。例えば、株式の交換による企業結合において、被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われたため、取得原価のうちのれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になるときには、減損の兆候があると判定される場合もある。

しかしながら、減損の兆候の把握は、対象資産すべてについて減損損失を認識するかどうかの判定を行うことが、実務上、過大な負担となるおそれがあることを考慮したためであることから、企業は、内部管理目的の損益報告や事業の再編等に関する経営計画などの企業内部の情報及び経営環境や資産の市場価格などの企業外部の要因に関する情報など、通常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングにおいて利用可能な企業内外の情報に基づき、減損の兆候がある資産又は資産グループを識別することとなる(第11項参照。

なお、この点については、減損会計意見書 四 2.(1)も参照のこと)。

77. 減損の兆候があるかどうかについて、その程度は必ずしも画一的に数値化できるものではない。したがって、状況に応じ個々の企業において判断することが必要である。また、減損の兆候は、資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象(減損会計基準二 1 参照)であって、厳格に定められるものではない。しかしながら、一定の目安を設けることも実務上の指針として役立つ側面もあることから、本適用指針では、必要と考えられる範囲において、その目安を示している。

営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合

78. 資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、又は、継続してマイナスとなる見込みである場合(第12項参照)に関して、「営業活動から生ずる損益」の把握は、基本的に企業が行う管理会計上の損益区分に基づいて行われる。

79. 「継続して」とは、有価証券の減損処理や繰延税金資産の回収可能性に鑑みて3期程度を指すという見方がある。しかし、減損の兆候の把握が行われるのは、対象資産すべてについて減損損失を認識するかどうかの判定を行うことが、実務上、過大な負担となるおそれがあることを考慮したためである(減損会計意見書 四 2.(1)参照)ものの、減損の兆候がある場合に必ず減損損失の認識や測定を行うわけではないため、過度にその事象を制限することは適当ではないという見方もある。本適用指針では、これらの意見を勘案して、減損の兆候における「継続してマイナス」とは、おおむね過去2期を指すものとした。ただし、資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象という減損の兆候の意義に鑑み、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は該当しないと考えることが適当である。また、「継続してマイナスとなる見込み」とは、実績としては前期しかマイナスではないが、当期以降の見込みが明らかにマイナスとなる場合を指すものと考えられる(第12項(2)参照)。

80. 単年度の財務情報を基礎にして減損の兆候があるかどうかを判断するためには、企業が生み出す将来のキャッシュ・フロー予測において、現金基準に基づく利益よりも発生基準に基づく利益が有用と考えられていることと同様に、通常、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」ではなく、「営業活動から生ずる損益」が適切であると考えられる。また、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」については、その把握が、管理会計上も「営業活動から生ずる損益」の把握と比べ一般的ではない。このため、「営業活動から生ずる損益」と「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」の両方から減損の兆候を把握することとすると、実務上、過度な負担となるおそれがある。したがって、減損会計基準の定めは、管理会計上、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」だけを把握している企業の場合には、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」によって減損の兆候を把握することも可能であることを示しているものと解される(第12項(3)参照)。

その場合における設備の大規模な増強のための支出は、減損の兆候があるかどうかを判断するための「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」に含める必要はないと考えられる。また、管理会計上「営業活動から生ずる損益」と「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」の両方を把握している場合には、「営業活動から生ずる損益」によって、減損の兆候が判断される。

81. 事業の立上げ時など当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合には、投資後の収益性の低下により減損が生じている可能性を示す事象ではないため、減損の兆候には該当しないのではないかという考え方と、そのような場合であっても、実務上、過大な負担となるおそれは少ないと考えられるため区別せず、減損の兆候に該当するとしても差し支えないという考え方がある。本適用指針では、減損の兆候の意義に照らし、予め合理的な事業計画(当該計画の中で投資額以上のキャッシュ・フローを生み出すことが実行可能なもの)が策定されており、実際のマイナスの額が当該計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しないものとしている(第12項(4)参照)。

使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合

82. 資産又は資産グループが使用されている事業を廃止又は再編成することは、一般に、減損の兆候となる資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合に該当する(第13項(1)参照)が、例えば、新技術の開発に伴い従来よりも明らかに回収可能価額を増加させるために行われる事業の拡大などは、必ずしも減損の兆候には該当しないと考えられる。

ただし、その場合でも、当該資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなる見込みや当該資産又は資産グループの市場価格の著しい下落など、他の減損の兆候に該当する場合があることに留意する。

また、減損の兆候は、資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象(減損会計基準 二 1 参照)であり、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生ずる見込みである場合も該当する。このため、実際に変化が生じた場合のみならず、取締役会等において決定された段階で減損の兆候に該当することとなる。社内規定等に基づき、他に決定権限が委譲されている場合には、当該決定権限に従った権限者の承認の時点で減損の兆候となる。

83. 当初の予定よりも著しく早期に資産又は資産グループを処分すること(第13項(2)参照)は、通常、償却資産に関し、当初の経済的使用年数の予定よりも著しく早期に資産又は資産グループを処分することと考えられる。土地等の非償却資産についても、例えば、土壌汚染のおそれなどにより、当初の予定よりも著しく早期に処分することとなった場合も含まれると考えられる。

84. 異なる用途への転用は、通常、資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化に該当する(第13項(3)参照)が、例えば、ある土地を平面駐車場から最有効使用と考えられる賃貸ビルへ転用した場合のように、従来よりも明らかに回収可能価額を増加させる事象などは、必ずしも減損の兆候には該当しないと考えられる。

ただし、その場合でも他の減損の兆候に該当する場合があることに留意する必要がある(この考え方については第82項参照)。

85. 資産又は資産グループが遊休状態になり、将来の用途が定まっていない場合も、その使用範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化に該当する(第13項(4)参照)。これには、例えば、設備の操業を停止し、その後の操業開始の目途が立っていない場合などが含まれる。

なお、現在の遊休状態が、資産をほとんど利用しなくなってから間もない場合であって、将来の用途を定めるために必要と考えられる期間にある場合には、減損の兆候に該当しないと考えられる。

86. 正規の減価償却計算に適用している耐用年数又は残存価額が、設定にあたって予見することのできなかった機能的原因等により、著しく不合理になった場合には、これらを見直して臨時償却を行う(監査第一委員会報告第3号「減価償却に関する会計処理及び監査上の取扱い」U参照)必要があるが、このような機能的原因等は通常、減損処理をもたらす可能性のある収益性の低下を伴う。減損損失を認識するかどうかの判定は、減価償却の見直しに先立って行う(減損会計意見書 四 2.(2)@参照)とされているため、著しい機能的減価が観察できる場合(第13項(6)参照)には、まず、減損の兆候がある資産又は資産グループとして減損損失の認識の判定を行うことが適当であると考えられる。

なお、正規の減価償却計算に適用している耐用年数又は残存価額が、設定にあたって予見することのできなかった機能的原因等により著しく不合理となった場合には、減損損失の認識の判定後、減損損失の計上の有無にかかわらず、耐用年数の短縮又は残存価額の修正による臨時償却の検討が行われることに留意する。

87. 資産グループについては、資産グループ全体について第13項のような変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合のほか、資産グループの一部について同様の変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合も少なくないと考えられる。この場合には、どの程度の変化をもって減損の兆候があると考えるかが問題となるが、資産グループの主要な資産が使用されている範囲又は方法について第13項のような変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合をもって、当該資産グループに減損の兆候があると考えることが適当であると考えられる(第13項なお書き参照)。

経営環境の著しい悪化の場合

88. 資産又は資産グループが使用されている事業に関連した経営環境の著しい悪化は、個々の企業において大きく異なるため、本適用指針では、考えられる例示を示すにとどめている(第14項参照)。したがって、その具体的な内容は、個々の企業の状況に応じて判断することが必要と考えられる。

市場価格の著しい下落の場合

89. 「市場価格が著しく下落したこと」については、減損の兆候の把握が、対象資産すべてについて減損損失を認識するかどうかの判定を行うことが、実務上、過大な負担となるおそれがあることを考慮したためであることに加え、有価証券や販売用不動産等と異なり、固定資産については、通常、市場平均を超える成果を期待して事業に使われているため、市場の平均的な期待で決まる市場価格が変動しても、企業にとっての投資の価値がそれに応じて変動するわけではないこと(減損会計意見書 三 1.参照)から、少なくとも市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当するとしている(第15項参照)。

ただし、減損の兆候は、資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象(減損会計基準 二 1.参照)であって、その程度は必ずしも画一的に数値化できるものではない。このため、50%程度以上下落していない場合でも、例えば、処分が予定されている資産で、市場価格の下落により、減損が生じている可能性が高いと見込まれるときのように、状況に応じ個々の企業において判断することが必要なときがある(第77項参照)。

90. 対象資産すべてについて減損損失を認識するかどうかの判定を行うことが、実務上、過大な負担となるおそれがあることを考慮したため、減損の兆候がある場合に減損損失を認識するかどうかの判定を行うこととした趣旨を踏まえると、資産又は資産グループの市場価格がない場合には、合理的に算定された価額(減損会計基準 注解(注1)3.参照)を算定する必要は必ずしもないと考えられる。したがって、資産又は資産グループの市場価格がない場合には、他の事象により、減損の兆候があるかどうかを判断することとなる。

一般に、固定資産については、市場価格が観察可能である場合は多くない。このため、例えば、いわゆる実勢価格や査定価格などの評価額や、土地の公示価格や路線価など適切に市場価格を反映していると考えられる指標が容易に入手できる場合には、それらを減損の兆候を把握するための市場価格とみなして使用し、資産又は資産グループの当該価格が著しく下落した場合には、減損の兆候があるものとして扱うことが適当と考えられる(第15項また書き参照)。この際、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標には、容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものも含まれると考えられる。

なお、現在、容易に入手できると考えられる土地の価格指標の概要は、以下のとおりである。

 

種類

公示価格

都道府県基準地

価格

路線価による

相続税評価額

固定資産税評価額

評価時点

毎年1月1日

毎年7月1日

毎年1月1日

3年ごとに基準年を置き、その年の1月1日

公表時期

毎年3月下旬頃

毎年9月下旬頃

毎年8月中旬頃

基準年の3月頃

評価目的

・一般の土地取引価格に指標を与える

・公共用地の取得価格算定の規準

 

・国土利用計画法による規制の適正化・円滑化

・公示価格の補完

 

・相続税や贈与税の課税標準

・固定資産税等の課税標準

地点数

約31,000地点

約28,000地点

路線価地区すべて

課税土地すべて

備考

都市計画区域のみ

ほぼ公示価格と同一価格水準(都市計画区域外含む)

公示価格の80%程度

公示価格の70%程度

 

91. 資産グループについては、資産グループ全体の市場価格が把握できない場合でも、資産グループの一部について市場価格が著しく下落した場合も少なくないと考えられる。この場合には、どの程度の範囲の資産の市場価格の著しい下落をもって減損の兆候があると考えるかが問題となるが、資産グループの主要な資産の市場価格が著しく下落した場合や、土地が主要な資産ではなくとも資産グループの帳簿価額のうち土地の帳簿価額が大きな割合を占め、当該土地の市場価格が著しく下落した場合には、当該資産グループに減損の兆候があると考えることが適当であると考えられる(第15項なお書き参照)。

共用資産の減損の兆候

92. 共用資産については、共用資産を含む、より大きな単位に減損の兆候がある場合、及び、共用資産そのものに減損の兆候がある場合(例えば、共用資産を当初の予定よりも著しく早期に処分することや当初の予定又は現在の用途と異なる用途へ転用すること、遊休状態になり将来の用途が定まっていないこと、共用資産の市場価格が著しく下落したことなど)に、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行うことになる(第16項参照)。

のれんの減損の兆候

93. のれんは、ある企業又は企業を構成する事業の取得原価が、取得した資産及び引受けた負債に割当てられた純額を上回る額をいう(企業結合に係る会計基準 三2.(3)参照)。

これに対し、負ののれんのように、ある企業又は企業を構成する事業の取得原価が、取得した資産及び引受けた負債に割当てられた純額を下回る額が生ずる場合がある。貸借対照表の表示上、負ののれんは、のれんと相殺して記載することができるが、減損処理にあたっては、関連する複数の資産グループに対して生じたのれんと負ののれんのみを相殺し、相殺後の純借方残高が減損処理の対象となる。相殺後の純貸方残高は、減損処理の対象とはならないことに留意する。

94. 持分法の適用において、投資会社の投資日における投資と、これに対応する持分法適用会社の資本との間の差額(以下「持分法適用会社に関するのれん」という。)は、関連会社株式などの投資に含められ、連結子会社に関するのれんと同様に処理されている(企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」第11項及び会計制度委員会報告第9号「持分法に関する実務指針」第9項参照)。このため、持分法適用会社に関するのれんは、減損の兆候の把握においても、連結子会社に関するのれんと同様に取り扱われる。ただし、持分法は投資額を修正する会計処理であり、連結子会社に関するのれんと異なり、持分法適用会社に関するのれんを持分法適用会社の各事業へ分割する必要はないと考えられる。したがって、持分法適用会社に関するのれんの減損処理は、原則として、当該持分法適用の出資全体に関して適用されると考えられる。

なお、個別財務諸表において、取得原価をもって貸借対照表価額とされている子会社株式及び関連会社株式にも、のれん相当額は含まれているが、それは別途、把握されておらず、したがって償却もされていない。このため、当該のれん相当額は減損会計基準及び本適用指針でいうのれんには含まれず、当該株式は金融商品会計基準に従って会計処理されることとなる。

95. のれんについても、のれんを含む、より大きな単位に減損の兆候がある場合には、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行うことは共用資産と同様であるが、通常、のれん自体では減損の兆候があるかどうかを判断できないため、この点では共用資産と異なると考えられる(第17項参照)。

減損損失の認識の判定

割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積り

96. 減損の兆候がある資産又は資産グループについて、これらの帳簿価額とそれらが生み出す割引前の将来キャッシュ・フローの総額を比較する減損損失の認識の判定を行うことは、成果の不確定な事業用資産の減損における測定が主観的にならざるを得ない点を考慮して、減損の存在が相当程度に確実であるかどうかを確認するために用いられている(減損会計意見書 四 2.(2)@参照)。

この際、減損損失を認識するかどうかを判定するために割引前将来キャッシュ・フローを見積る期間は、以下のような理由により、資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方とすることとされている(減損会計意見書 四2.(2)A及び減損会計基準 二 2.(2)参照)。

(1) 少なくとも土地については使用期間が無限になりうることから、その見積期間を制限する必要があること

(2) 一般に、長期間にわたる将来キャッシュ・フローの見積りは不確実性が高くなること

97. 資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合、以下を当該主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する。

(1) 主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における主要な資産の正味売却価額(第18項(1)参照)

(2) 主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超える場合には、当該主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額(第18項(4)参照)

(3) 主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超えない場合には、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額(第18項(3)参照)

なお、これらのイメージ図は次の通りである(横軸は経済的残存使用年数、矢印は割引前将来キャッシュ・フローに加算する金額を示す。)

 

イメージ図は省略してある。

 

98. 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに、20年経過時点の回収可能価額を加算することとなるため、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローも、その割り引かれた金額が減損損失を認識するかどうかを判定するために見積られる割引前の将来キャッシュ・フローに含まれることに留意する必要がある(第18項(2)参照)。

資産グループ中の主要な資産のほか、それ以外の構成資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合には、以下を21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに加算する。

(1) 当該構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超える場合には、当該主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額(第18項(4)参照)

(2) 当該構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超えない場合には、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額(第18項(3)参照)

また、資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数は20 年を超えるが、それ以外の構成資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額を、主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する(第18項(3)参照)。

なお、これらのイメージ図は次の通りである(横軸は経済的残存使用年数、矢印は割引前将来キャッシュ・フローに加算する金額を示す。)

 

イメージ図は省略してある。

 

経済的残存使用年数

99. 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数とは、現在時点から、売却による回収額である正味売却価額と使用による回収額である使用価値が等しくなると考えられる時点までの期間であり、その時点で代替的な投資による使用価値がその時価を上回る場合、当該資産は処分され、代替的な投資に取り替えられることとなる。このような経済的残存使用年数は、償却資産の取得時点であれば、当該資産の耐用年数(単なる物理的使用可能期間ではなく、経済的使用可能予測期間に見合った年数(この点については、監査第一委員会報告第32号「耐用年数の適用、変更及び表示と監査上の取扱い」T1参照))と同じものと考えられるため、当該経済的残存使用年数は、耐用年数を見積る際の要素を考慮して決定されると考えられる(第21項参照)。

100.資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が、これらの耐用年数と同じものである以上、これまでの取扱いと同様に、これらの税法耐用年数に基づく残存耐用年数と著しい相違がある等の不合理と認められる事情のない限り、税法耐用年数に基づく残存耐用年数を経済的残存使用年数とみなすことができると考えられる(この点については、監査第一委員会報告第32号「耐用年数の適用、変更及び表示と監査上の取扱い」V 2 @参照)(第21項なお書き参照)。

このような簡便的な方法による経済的残存使用年数は、減損損失の認識の判定を行う資産又は資産グループが複数存在する場合、各資産又は資産グループ中の主要な資産ごとに見積られる。このため、それぞれの見積りにおいて、簡便的な方法が用いられるかどうか判断されることとなる。

なお、資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と減価償却計算に用いられている残存耐用年数との乖離が明らかになったときには、これまでの取扱いに従って、耐用年数を変更しなければならないと考えられる(この点については、監査第一委員会報告第32号「耐用年数の適用、変更及び表示と監査上の取扱い」T3参照)。

主要な資産

101.主要な資産は、資産のグルーピングを行う際に決定され、当期に主要な資産と判定された資産は、事実関係が変化した場合(例えば、資産のグルーピングの変更、資産グループ内での設備の増強や大規模な処分、資産グループ内の構成資産の経済的残存使用年数の変更など)を除き、翌期以降の会計期間においても当該資産グループの主要な資産になる(第22項参照)。

102.一般に、企業は、当該資産を必要とせずに資産グループの他の構成資産を取得するか、当該資産を物理的及び経済的に容易に取り替えないかなどを考慮して、主要な資産は決定されると考えられるが、資産グループの他の構成資産と比較して、当該資産の経済的残存使用年数の長さや取得原価及び帳簿価額の大きさなども勘案される場合があると考えられる。

企業は、これらの要素を考慮して、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産である主要な資産を、総合的に判断する(第23項参照)。

なお、資産グループの主要な資産を決定するにあたり、個々の資産ではなく、経済的残存使用年数は異なるが物質的性質や用途等において共通性を有する複数の償却資産の集合体が、最も適当であると判断される場合がある。そのような場合には、当該集合体を資産グループの主要な資産とし、複数の償却資産の経済的残存使用年数を平均した年数を当該主要な資産の経済的残存使用年数とすることができる。

103.我が国における土地等の比重に鑑みると、前項で示したような要素を考慮すれば、実務上、賃貸ビルや倉庫などに限らず、土地等を幅広く主要な資産と判断するケースが想定される。

土地等の非償却資産や建物等の経済的残存使用年数が20年を超える資産を主要な資産とする場合にも、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産であるかどうかに留意する必要がある(第23項なお書き参照)。

104.共用資産は、複数の資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する資産(減損会計基準 注解(注1)5.参照)であり、資産グループには含まれず、また、共用資産の帳簿価額を当該共用資産に関連する資産又は資産グループに合理的な基準で配分することができる場合(減損会計基準 二 7.参照)でも、物理的には1つである資産を減損処理の観点から計算上、各資産又は資産グループに配分したにすぎない。このため、例えば、ある特許権が複数の資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与するため共用資産に該当し、当該特許権がいずれの資産グループにおいても、それぞれの資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産であるような場合を除き、共用資産は、原則として、主要な資産には該当しないと考えられる。

のれんも、それ自体では独立したキャッシュ・フローを生まず、また、購入した事業等の超過収益力を示すとしても資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にどの程度貢献しているか不明確な場合が多いと考えられる。このため、例えば、固定資産をほとんど含まない営業の譲受から生じた営業権が、当該資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産であるような場合を除き、のれんは、原則として、主要な資産に該当しないと考えられる(第24項参照)。

減損損失の測定

105.資産グループについて認識された減損損失は、合理的な方法により、当該資産グループの各構成資産に配分する(第26項参照)。これには、共用資産を加えることによって算定される減損損失の増加額の配分の考え方(第48項(5)参照)にならって、各構成資産に配分される減損損失は、当該資産グループの構成資産の全部又は一部の正味売却価額が容易に把握できる場合には、当該正味売却価額を下回る結果とならないように、合理的な基準により、他の各構成資産に減損損失を配分することができることも含まれる。

106.資産グループについて認識された減損損失を当該資産グループの各構成資産に配分するにあたっては、明確な方法により配分できる場合を除き、配分した減損損失を各構成資産の帳簿価額から控除し減価償却を行っていくこと等が実務上の負担となるため、資産グループ全体において処理する方法(例えば、各構成資産の減価償却は、減損損失認識前の帳簿価額に基づいて行い、資産グループとしての減損損失累計額は、減価償却の実施にあわせて、将来キャッシュ・フローの見積期間で取り崩すような方法)を簡便的に認めるべきではないかという見解もある。

しかしながら、そのような簡便的な方法は、適当ではないと考えられる。このように考えられる理由としては、簡便的な方法が、資産グループについて認識された減損損失を合理的な方法により当該資産グループの各構成資産に配分すること(減損会計基準 二 6.(2)参照)にはならないこと、また、減損処理後の実務上の負担については、すでに減損損失の戻入れは行わないことの考慮にも含まれていること(減損会計意見書 四 3.(2)参照)、仮に簡便的な方法を用いたとしても、構成資産を部分的に売却したり除却したりする際には、資産グループとしての減損損失累計額を合理的な方法により配分する必要があることが挙げられる。

もっとも、当該資産グループの帳簿価額のほとんどが主要な資産の帳簿価額である場合のように、帳簿価額に基づく比例配分を行っても、前述したような資産グループ全体において処理する方法によっても、その後の会計処理の結果が大きく相違しないと想定されるときには、実務上、資産グループ全体において処理する方法も考えられる。また、帳簿価額に基づく比例配分を行っても、当該資産グループの帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占めることとなる複数の資産にのみ帳簿価額に基づく比例配分を行っても、その後の会計処理の結果が大きく相違しないと想定されるときには、実務上、その帳簿価額が大きな割合を占めることとなる複数の資産にのみ帳簿価額に基づく比例配分を行う方法も考えられる。

回収可能価額の算定

正味売却価額

107.正味売却価額は、以下のような金額を求める場合に算定される。

(1) 減損損失の認識の判定において、割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積るにあたり、

@ 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合(第97項参照)における以下の金額

イ 当該経済的残存使用年数経過時点における資産又は資産グループ中の主要な資産の正味売却価額(第18項(1)参照)

ロ 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が主要な資産の経済的残存使用年数を超えないときには、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額(第18項(3)参照)

ハ 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が主要な資産の経済的残存使用年数を超えるときには、当該主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額(第18項(4)参照)

A 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合(第98項参照)における以下の金額

イ 20年経過時点の回収可能価額(第18項(2)参照)

ロ 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が主要な資産の経済的残存使用年数を超えないときには、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額(第18項(3)参照)

ハ 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が主要な資産の経済的残存使用年数を超えるときには、当該主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額(第18項(4)参照)

(2) 減損損失の測定における回収可能価額(第25項参照)

(3) 減損損失の測定において、回収可能価額のうち使用価値を算定するにあたり、使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フロー(第31項(2)参照)正味売却価額の算定は、(2)のように現在時点において行われる場合のみならず、(1)及び(3)のように、将来時点において行われる場合もある(第29項参照)。

108.正味売却価額を算定するにあたって、固定資産においては、観察可能な市場価格が存在する場合は多くはないが、存在するときには、金融資産と同様に、原則として、市場価格に基づく価額を時価とする(第28項(1)参照)。当該市場価格は、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」第48項から第52項に準ずる。

109.市場価格が観察できない場合に求められる資産又は資産グループの合理的に算定された価額は、一般に、以下に示すようなコスト・アプローチやマーケット・アプローチ、インカム・アプローチによる見積方法が考えられ、資産の特性等によりこれらのアプローチを併用又は選択して算定することとなると考えられる(第28項(2)参照)。

(1) コスト・アプローチは、同等の資産を取得するのに要するコスト(再調達原価)をもって評価する方法である。例えば、不動産の鑑定評価においては原価法が相当し、この手法による試算価格は積算価格と呼ばれている(「不動産鑑定評価基準」第7章 第1節 U参照)。

(2) マーケット・アプローチは、同等の資産が市場で実際に取引される価格をもって評価する方法である。例えば、不動産の鑑定評価においては取引事例比較法が相当し、この手法による試算価格は比準価格と呼ばれている(「不動産鑑定評価基準」第7章 第1節 V参照)。

(3) インカム・アプローチは、同等の資産を利用して将来において期待される収益をもって評価する方法である。例えば、不動産の鑑定評価においては収益還元法が相当し、この手法による試算価格は収益価格と呼ばれている(「不動産鑑定評価基準」第7章 第1節 W参照)。不動産が直接的にキャッシュ・フローを生み出している場合には、当該方法が重視され、具体的には、直接還元法や割引キャッシュ・フロー(DCF)法などがある。

110.「不動産鑑定評価基準」において、不動産の鑑定評価によって求める価格のうち、減損処理を行うにあたって時価に対応するものは正常価格(市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格)である(「不動産鑑定評価基準」第5章 第3節 T参照)。正常価格を求めるにあたっても、第109項に掲げられた 3手法の適用により求められた価格(試算価格)を調整して、鑑定評価額を決定する(「不動産鑑定評価基準」第8章参照)。 その他の固定資産についても、例えば、船舶・航空機、建設機械等、同種の資産に中古市場があればマーケット・アプローチを基礎として、また、その資産に汎用性があれば第三者の利用を前提としたインカム・アプローチを基礎として、合理的に算定された価額を見積ることが考えられる。

111.減損損失の測定において、企業は、市場価格や合理的に算定された価額である時価を得て、現在時点の正味売却価額(第25項、第28項及び第107項(2)参照)を算定することとなると考えられる。この際、現在時点の正味売却価額を算定する場合にも、将来時点の正味売却価額を算定するときと同様に、代替的な手法(第29項ただし書き以降参照)を認めるべきではないかという意見がある。

しかしながら、以下のような理由により、現在時点の正味売却価額を算定する場合には、重要性が乏しい場合を除き(第28項(2)参照)、代替的な手法は適当ではないと考えられる。

(1) 現在時点の正味売却価額は、将来時点の正味売却価額と異なり、より厳密に企業が売却等により受け取ることのできる価額であると考えられること。

(2) 回収可能価額は、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額であり、正味売却価額が使用価値より高い場合、企業は資産又は資産グループを既に売却していると考えられるため、通常、使用価値は正味売却価額より高いと考えられる。したがって、減損損失の測定において、明らかに正味売却価額が高いと想定される場合やすぐに処分が予定されている場合などを除き、必ずしも現在時点の正味売却価額を算定する必要はないと考えられること。

112.処分費用見込額は、現在時点でキャッシュ・フローとして支払わなければならない価額と考えられるため、売却等による回収額である正味売却価額を算定するにあたり、時価からその現在価値が控除される(第28項(3)参照)。ただし、重要性に乏しい場合には、将来時点に生ずると見込まれる処分費用額を現在価値に割り引く必要はないと考えられる。

113.「不動産鑑定評価基準」では、DCF法における復帰価格(保有期間の満了時点における対象不動産の価格)を、その後の一期間の純収益と最終還元利回りから算定することとしており、これを踏まえれば、例えば、経済的残存使用年数経過時点における正味売却価額は、経済的残存使用年数経過後の一期間の収益見込額を当該時点の収益率(最終還元利回り)で割り戻した価額から、処分費用見込額の当該時点における現在価値を控除して算定することが考えられる。

ただし、将来の純収益、当該収益に影響を与える要因の変動予測や予測に伴う不確実性を求めることは容易ではない場合が多いため、このような方法によって将来時点における正味売却価額を算定することが困難な場合には、現在の正味売却価額を用いることができる(第29項ただし書き参照)。その場合、償却資産については、現在の正味売却価額から適切な減価額を控除した金額を用いることができる。減価額は、将来時点までの物理的、機能的、経済的な要因を考慮して算定するが、実務上、適切と考えられる定額法や定率法などの方法によって簡便的に算定することも認められると考えられる。

114.減損損失の認識の判定は、成果の不確定な事業用資産の減損における測定が主観的にならざるを得ない点を考慮して、減損の存在が相当程度に確実であるかどうかを確認するために用いられていると考えられる(第96項参照)。このため、減損の兆候がある資産又は資産グループについて、これらが生み出す割引前の将来キャッシュ・フローの総額を見積るにあたって算定される正味売却価額(第107項(1)参照)は、必ずしも厳密に企業が売却等により受け取ることのできる価額である必要はないと考えられる。このため、割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積る際の正味売却価額を算定するにあたって、市場価格や合理的に算定された価額である時価を容易に入手することができない場合には、現在の時価に代えて、現在における一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標を用いて、現在の正味売却価額を算定することができるものと考えられる(第29項参照)。

また、減損損失の測定においても、将来時点において正味売却価額の算定を行う場合(第107項(3)参照)には、将来の純収益、当該収益に影響を与える要因の変動予測や予測に伴う不確実性を求めることは容易ではないときが多いため、現在の正味売却価額から適切な減価額を控除した金額を用いることができると考えられる(第29項ただし書き参照)。このような代替的な方法による場合、現在の正味売却価額は、必ずしも厳密に企業が売却等により受け取ることのできる価額である必要はないと考えられる。したがって、このような場合も、市場価格や合理的に算定された価額である時価を容易に入手することができないときには、現在における一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標を用いて、現在の正味売却価額を算定することができるものと考えられる(第29項参照)。

115.本適用指針では、将来時点における正味売却価額を算定するにあたって、さらに実務上の負担等に配慮して、資産の減価償却計算に用いられている税法規定等に基づく残存価額に重要性が乏しい場合には、当該残存価額を、当該資産の経済的残存使用年数経過時点における正味売却価額として用いることができるとしている(第29項また書き参照)。このような簡便的な方法は、資産ごとに用いられるため、それぞれの正味売却価額の見積りにおいて、簡便的な方法が用いられるかどうか判断されることとなる。

なお、資産又は資産グループ中の主要な資産の将来時点における正味売却価額と減価償却計算に適用されている残存価額との乖離が明らかになったときには、耐用年数の変更(第100項なお書き)に準じ、これまでの取扱いに従って、残存価額を変更しなければならない。

使用価値

116.減損損失の認識の判定において、20年経過時点の回収可能価額を算定する場合に当該時点における使用価値を用いるときには、20年経過時点以降に見込まれる将来キャッシュ・フローは、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ることとなる(第32項参照)。ただし、長期間経過後の将来キャッシュ・フローを合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ることは困難な場合が多く、その場合、回収可能価額は、当該時点の正味売却価額(第29項参照)となる。

117.減損損失の認識の判定において、資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が主要な資産の経済的残存使用年数を超える場合(第18項(4)参照)に、割引前将来キャッシュ・フローに加算する主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における主要な資産以外の構成資産の回収可能価額は、もはや主要な資産が存在しないため、原則として、当該時点における構成資産の正味売却価額を意味することとなる。

ただし、減損会計意見書四 2.(2) Bにおける記述は、その場合でも、主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における構成資産の正味売却価額以外の金額が含まれることを示唆していると考えられるため、本適用指針では、減損会計意見書の趣旨に鑑み、適当と考えられるものを示している(第33項ただし書き及びまた書き参照)。

将来キャッシュ・フロー

118.減損会計における将来キャッシュ・フローは、資産又は資産グループの時価を算定するためではなく、企業にとって資産又は資産グループの帳簿価額が回収可能かどうかを判定するため、又は、企業にとって資産又は資産グループがどれだけの経済的な価値を有しているかを算定するために見積られることから、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ることとされている(減損会計意見書 四 2.(4)@参照)。 このため、将来キャッシュ・フローは画一的に見積られるわけではないが、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づき見積られる必要があるため、本適用指針では、実務上、必要と考えられる留意点を列挙している(第36項参照)。

119.減損損失を認識するかどうかを判定するために見積られる割引前の将来キャッシュ・フローは、土地については使用期間が無限になりうること等から、その見積期間を制限し、資産の経済的残存使用年数又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方とされている(減損会計意見書 四 2.(2)A及び減損会計基準 二 2.(2)参照)。これに対して、使用価値の算定のために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、減損会計基準において明示されていないものの、使用価値が将来キャッシュ・フローの現在価値として算定されるため、その見積期間を制限する必要はないと考えられる(第37項(2)参照)。

また、共用資産及びのれんに関して、より大きな単位でグルーピングを行う場合には、加えられた共用資産及びのれんに着目し、減損損失を認識するかどうかを判定するために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、原則として、それらの経済的残存使用年数又は残存償却年数と20年のいずれか短い方とされ、使用価値の算定のために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、原則として、それらの経済的残存使用年数又は残存償却年数とされている(第37項(3)及び(4)参照)。

120.将来キャッシュ・フローの見積りの方法には、最頻値法(生起する可能性の最も高い単一の金額を見積る方法)と、期待値法(生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの確率で加重平均した金額を見積る方法)がある。期待値法は、不確実性のある将来キャッシュ・フローの生起しうる金額とその確率によって、その期待値を見積るため、確率分布を考慮しているという点で最頻値法よりも理論的には優れている。特に、企業が固定資産の使用や処分に関して、いくつかの選択肢を検討している場合や、生じ得る将来キャッシュ・フローの幅を考慮する必要がある場合には、期待値法は有用であると考えられる。

しかし、実務上は、不確実性を確率として捉えることは困難であり、最頻値法により企業の合理的な使用計画等に基づいて単一の金額を見積ることが一般的であると考えられるため、いずれの方法も適用できることとされている(減損会計意見書 四 2.(4)B参照)。

いずれの場合でも、使用価値の算定においては、見積られる将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクについて、将来キャッシュ・フローの見積りと割引率のいずれかに反映させる必要があるが、実務上、割引率に反映させる場合が多いと考えられる(第39項(1)参照)。

なお、本適用指針では、当該リスクを将来キャッシュ・フローの見積りに反映させる実務的な手法を示すことは困難であるため、そのような手法を示す代わりに、当該リスクを将来キャッシュ・フローの見積りに反映させたことの妥当性の確認を求めている(第39項(2)参照)。

121.資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの見積りにあたっては、当該資産又は資産グループが将来キャッシュ・フローを生み出すために必要な本社費等の間接的に生ずる支出も、将来キャッシュ・フローの見積りに際し控除する(減損会計意見書 四 2.(4)D参照)。この際、間接的に生ずる支出は、現金基準に基づいて見積ることとなるが、実務上、発生基準に基づいて見積られた使用計画や予算を用いることが多いと考えられることから、発生基準に基づいて見積ることができると考えられる。ただし、すでに支出された共用資産の取得価額に基づいて算定される減価償却費は、間接的に生ずる支出に含まれないと考えられる(第40項参照)。これは、減損会計基準における共用資産の減損損失の認識の判定及び測定が、より大きな単位でグルーピングを行う方法を原則としているものの、当該資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの見積りに際して、共用資産の減価償却費を控除することとした場合には、共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法を採用する考え方と近く、原則的な方法となじまないこととなるためと考えられる。

122.利息の支払額については、通常、固定資産の使用又は処分から直接的に生ずる項目ではないことから、将来キャッシュ・フローの見積りには含めないこととした(減損会計意見書 四2.(4)E参照)とされている。これは、資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの見積りが、企業の資金調達手段やその構成には左右されないということも考慮されていると考えられる。

ただし、固定資産の建設に要する支払利息で稼動前の期間において取得原価に算入されている場合は、利息の支払額は当該資産の帳簿価額の回収可能性に影響を及ぼしているため、完成までの期間に関する利息の支払額は、将来キャッシュ・アウト・フローの見積りに含めることが適当であると考えられる(第41項ただし書き参照)。

123.利息の受取額は、通常、固定資産の使用又は処分から直接的に生ずる項目ではないことから、利息の支払額と同様に、将来キャッシュ・フローの見積りには含めない。

ただし、受取賃料の水準と関連し、固定資産の使用に伴って直接的に生ずると考えられる賃貸不動産の預り保証金の運用益相当額のような項目は、将来キャッシュ・フローの見積りに含めることができる(第42項ただし書き参照)。なお、預り保証金自体は、返済義務を伴う負債であるため、将来キャッシュ・フローの見積りには含めないことに留意する。

使用価値の算定に際して用いられる割引率

124.減損処理とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理であるため、回収可能価額のうち使用価値を算定する場合には、現在から将来にわたる回収可能性を反映することとなる。このため、減損損失を測定する際に算定される使用価値は、今後生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローを、現在時点の割引率を用いて割り引いた現在価値とすることが適当である(第43項参照)。

125.使用価値を算定する際に用いられる割引率は、実務上、単一の割引率を使用すると考えられる。しかし、将来キャッシュ・フローが見積られる期間のうち、現在時点から近い場合と遠い場合では、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクや貨幣の時間価値が大きく異なることもある。資産又は資産グループの合理的な使用計画等により、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づき当該リスクや貨幣の時間価値が相違するため、異なる期間について異なる割引率を見積る場合には、当該割引率を用いることができる(第44項参照)。

126.資産又は資産グループに係る将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクについて、将来キャッシュ・フローの見積りに反映されていない場合、貨幣の時間価値と将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクの両方を反映した使用価値の算定に際して用いられる割引率は、将来キャッシュ・フローの見積りと同様に、企業に固有の事情を反映して見積られるものと考えられる。したがって、企業は、内部管理目的の経営資料や使用計画等、企業が用いている内部の情報を用いたり(第45項(1)参照)、当該企業に要求される資本コストを用いたり(第45項(2)参照)して、当該割引率を算定することになると考えられる。前者に関しては、例えば、類似した設備投資の意思決定を継続的にハードル・レートを用いて行っている場合や、事業部別資本コストを活用している場合には、これらを基礎として、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報に照らし修正を加え、当該収益率を計算することが考えられる?/p>

また、類似の賃貸用不動産における還元利回りなどのように当該資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率(第45項(3)参照)や、当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積られる利率(第45項(4)参照)が得られる場合には、このような収益率や利率を割引率として用いることも考えられる。さらに、企業は、これらを総合的に勘案して、使用価値の算定に際して用いられる割引率を見積ることも考えられる。

なお、企業によって算定される収益率(第45項(1)参照)は、企業に固有の事情を反映して見積られるが、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく必要がある。実務上、このような要請に応えることが容易ではない場合も考えられるが、収益性を極大化する企業行動を踏まえれば、通常、当該企業に要求される資本コスト(第45項(2)参照)と大きく相違することは少なく、また、市場平均と考えられる合理的な収益率(第45項(3)参照)を下回ることはないと考えられるため、このような関係を考慮することも合理的で説明可能な仮定及び予測を行うにあたっては有意義であると考えられる。

127.借入資本の比率が極めて高い企業や、大型プロジェクトであって、そのほとんどを借入金で賄っているような場合には追加借入利子率を割引率とするという意見がある。しかし、借入資本の比率が高い場合には通常、自己資本コストが高く、追加借入利子率のみを割引率とした場合には、当該企業における当該資産に固有のリスクを反映した収益率より著しく低くなることは明らかであるため、原則として、追加借入利子率を用いることはできないと考えられる。ただし、当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積られる利率が得られる場合には、当該利率を用いて割引率を算定することができる(第45項(4)参照)。

128.連結財務諸表において、連結の見地から、個別財務諸表において用いられた資産のグルーピングの単位が見直された場合(第10項参照)、個別財務諸表における資産グループと連結財務諸表における資産グループとが異なる以上、それら資産グループの収益率等も異なることとなる。また、そのように資産のグルーピングの単位が見直される場合は、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う単位の設定等が複数の連結会社を対象に行われていることが必要であるため、当該単位で収益率等を把握している場合が多いと考えられる。このため、使用価値の算定に際して用いられる割引率も資産のグルーピングに応じて見直すことが適当である(第47項参照)。

ただし、個別財務諸表において当該企業(親会社)の資本コストを用いており、連結財務諸表上、それが明らかに不合理である場合(例えば、見直し後の資産グループの中で、子会社の資産が大部分を占める場合など)を除いて、親会社で用いた資本コストを割引率として用いることも考えられる。

共用資産及びのれんの取扱い

共用資産の取扱い

129.一般に、共用資産の帳簿価額を合理的な基準で各資産又は資産グループに配分することは困難であると考えられるため、共用資産を含む、より大きな単位又は共用資産自体に減損の兆候がある場合の共用資産に係る減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定は、共用資産が関連する複数の資産又は資産グループに共用資産を加えた、より大きな単位で行うこととされている(減損会計意見書 四 2.(7)A及び減損会計基準 二 7.参照)。

この際、共用資産を加えることによって算定される減損損失の増加額は、共用資産に配分するが、共用資産に配分される減損損失が、共用資産の帳簿価額と正味売却価額の差額を超過することが明らかな場合には、当該超過額を各資産又は資産グループに合理的な基準により配分することとなる(第48項(5)参照)。ここで合理的な基準については、資産グループについて認識された減損損失が、帳簿価額に基づく比例配分の方法のほか、各構成資産の時価を考慮した配分等の方法が合理的と認められる場合には、当該方法によることができる(減損会計意見書四 2.(6)A参照)とされていることから、この方法に準じて、各資産又は資産グループの回収可能価額が容易に把握できる場合には、当該超過額を、各資産又は資産グループの帳簿価額と回収可能価額の差額の比率等により配分することが考えられる(第48項(5)参照)。

130.共用資産とは、複数の資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する資産をいい(減損会計基準 注解(注1)5.参照)、本社の建物や試験研究施設などの全社的な資産のみならず、複数の資産又は資産グループに係る福利厚生施設や開発、動力、修繕、運搬等を行う設備なども該当する(減損会計意見書 四 2.(7)@参照)。共用資産の帳簿価額を当該共用資産に関連する各資産又は資産グループに合理的に配分することができる場合には、共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法を採用することができる(減損会計基準 二 7.参照)が、それは、共用資産に係る費用を配分しているのみならず共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分して管理会計を行っている場合や、共用資産であっても、各資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に密接に関連し、例えば、動力設備における合理的に見込まれる総消費量の比率など、その寄与する度合いとの間に強い相関関係を持つ合理的な配賦基準が存在する場合が該当すると考えられる。このような場合には、共用資産の帳簿価額を当該共用資産に関連する各資産又は資産グループに当該合理的な配賦基準で配分することができる(第49項(1)参照)。

なお、共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法を採用する場合には、原則として、翌期以降の会計期間においても同じ方法を採用する必要があり、また、当該企業の類似の資産又は資産グループにおいては、同じ方法を採用する必要がある(第49項(2)及び(3)参照)。

のれんの取扱い

131.のれんの帳簿価額を分割し帰属させる事業の単位は、取得の対価が概ね独立して決定され、かつ、取得後も内部管理上独立した業績報告が行われる単位(減損会計基準 注解(注9)参照)であり、通常、資産グループよりは大きいが、開示対象セグメントの基礎となる事業区分と同じか小さいこととなると考えられる(第51項(1)参照)。

132.共用資産と同様に、一般に、のれんの帳簿価額を合理的な基準で各資産グループに配分することは困難であると考えられるため、のれんを含む、より大きな単位に減損の兆候がある場合ののれんに係る減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定は、のれんが関連する複数の資産グループにのれんを加えた、より大きな単位で行うこととされている(減損会計意見書 四 2.(8)A及び減損会計基準 二 8.参照)。

この際、のれんを加えることによって算定される減損損失の増加額が生じた場合には、当該判定単位の超過収益力がもはや失われていると考えられるため、当該減損損失の増加額は、のれんに配分する。ただし、のれんに配分された減損損失が、のれんの帳簿価額を超過する場合には、当該超過額を各資産グループに合理的な基準により配分することとなる(減損会計基準 注解(注11)参照)。

133.のれんの帳簿価額を当該のれんが帰属する事業に関連する各資産グループに合理的に配分することができる場合には、のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法を採用することができる(減損会計基準 二 8.参照)。のれんも、共用資産と同様に、のれんの帳簿価額を各資産グループに配分して管理会計を行っている場合や、各資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に密接に関連し、その寄与する度合いとの間に強い相関関係を持つ合理的な配賦基準が存在する場合には、のれんの帳簿価額を当該のれんに関連する各資産グループに当該合理的な配賦基準で配分することができると考えられる(第53項(1)参照)。

なお、のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法を採用する場合には、原則として、翌期以降の会計期間においても同じ方法を採用する必要があり、また、当該企業の類似の資産グループにおいては、同じ方法を採用する必要がある(第53項(2)及び(3)参照)。

減損処理後の会計処理

134.減損処理は、固定資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態が相当程度に確実な場合に限って、回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理であり(減損会計意見書 三 3.及び四 2.(2)@参照)、直接的に貸借対照表価額を求めるものではないと考えられる。したがって、中間期末や年度末のみならず、期中において減損処理が行われる場合がある。減価償却は、減損損失を控除した帳簿価額に基づき行われ(第55項参照)、減価償却後の未償却残高が貸借対照表価額となる。

135.減損処理を行った資産についても、通常の資産と同様に、企業が採用している減価償却の方法に従って、減損損失を控除した帳簿価額と残存価額、残存耐用年数に基づき減価償却を行う(第55項参照)。

なお、残存価額は、耐用年数到来時において予想される当該資産の正味売却価額となるが、減価償却費の計算においては現在時点まで割り引かれないことに留意する。

また、残存価額がゼロと見積られた場合、残存価額を10パーセントとして定率法の償却率を計算する方法を採用することはできない。この場合には、残存価額を10パーセントとして計算した金額に簡便的に9分の10を乗じた額を各期の減価償却費として計上する方法も認められる(この点については、リース適用指針第112項参照)。

136.従来、自社使用又は賃貸事業用目的のために保有していた固定資産を、減損処理後、合理的な理由に基づき、販売目的で保有することに変更した場合には、当該固定資産の帳簿価額を固定資産から流動資産に振り替えることとなる。保有目的の変更が、財務諸表に重要な影響を与える場合は、追加情報として、その旨及び金額を貸借対照表に注記することとなると考えられる(この点については、監査委員会報告第69号「販売用不動産等の強制評価減の要否の判断に関する監査上の取扱い」10 参照)。なお、販売目的で保有することとは、当該資産の売買やあっ旋を業とする企業が当該営業活動を遂行するために保有することを指すと考えられる(第55項また書き参照)。

137.処分がすぐに予定されている資産について減損処理が行われた場合、回収可能価額は通常、売却による回収額である正味売却価額となるため、減損処理後の帳簿価額と残存価額は一致していると考えられる。しかしながら、減損処理を行い一定期間経過後に処分する予定であるときのように、減損処理後の帳簿価額が残存価額と異なるときには、処分が予定されている場合でも、残存価額まで減価償却を行うこととなる(第55項また書き参照)。

138.減損処理を行った資産が遊休資産であっても、残存価額まで減価償却を行うこととなるが、当該減価償却費は、原則として、営業外費用として処理することとなる。なお、これまで、監査第二委員会報告第2号「休止固定資産の会計処理及び表示と監査上の取扱い」に基づき、いわゆる休止固定資産についても減価償却を行い、当該減価償却費については、原則として、営業外費用として処理するものとされてきた。減損処理を行うこととはされなかった遊休資産についても減価償却を行うこととなるが、当該遊休資産の減価償却費の表示についても、これまでの取扱いに準じて、原則として、営業外費用として処理することが適当である(第56項参照)。

開示

貸借対照表における表示

139.減損処理を行った資産の貸借対照表における表示は、原則として、直接控除形式によるが、減価償却を行う有形固定資産については、独立間接控除形式又は合算間接控除形式によることもできる。この際、減損損失累計額と減価償却累計額の性格は異なると考えられることから、貸借対照表において、減価償却累計額の表示形式と同じものとなる必要はないと考えられる(第57項参照)。

注記

140.減損会計基準 四 3.では、重要な減損損失を認識した場合には、減損損失を認識した資産、減損損失の認識に至った経緯、減損損失の金額、資産のグルーピングの方法、回収可能価額の算定方法等の事項について注記するとしている。これらは、特別損失に計上される減損損失に係る注記事項であるため、損益計算書に係る注記事項とすることが適当であると考えられる(第58項参照)。

なお、減損損失を認識していない場合でも、資産のグルーピングの方法や減損の兆候があった資産又は資産グループなどについて注記すべきであるという意見がある。しかしながら、減損会計基準及び本適用指針に従い減損損失を認識する必要のない場合にまで注記しなければならないとすることは、過度な開示を求めるものであるため、本適用指針では、そのような場合にまで注記を必ず行うこととはしていない。

ただし、固定資産の減損処理を行うにあたっては、企業の見積りに基づく要素が多く、また、見積りの前提として重要と考えられる資産のグルーピングの方法については、事業の種類や業態の特性、管理会計の方法などにより異なるため一律に定められるものではない。このため、減損会計基準及び本適用指針を適用したものの、減損損失を計上することとはならなかった場合でも、関連する情報の開示を行うことが有用と考えられるときがある。このような点を考慮して、本適用指針では、減損会計基準を初めて適用した事業年度においては、減損損失を計上していなくとも、全般的な資産のグルーピングの方針等を注記することができるものとした(第58項なお書き参照)。

141.使用価値の算定に際して用いられた割引率については、注記事項に必ずしも含める必要はないという意見があるが、当該割引率は、企業に固有の事情を反映して見積られることから開示を行うことが適当であり、また、翌期以降、当該資産又は資産グループの収益性を反映する情報であることから、注記事項に含めることとした(第58項(5)参照)。ただし、対外競争上の企業秘密を開示することにつながるおそれがあるとの指摘もあることから、少なくとも割引率のみ開示すれば足り、その算定方法の開示までは求められないと考えられる。

なお、見積られる将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクを将来キャッシュ・フローの見積りに反映させた場合には、貨幣の時間価値だけを反映した無リスクの割引率を用いて使用価値を算定するため、当該割引率を開示する。ただし、この場合においても、算定された使用価値と減損損失の認識の判定に用いられた当該リスクを反映させない将来キャッシュ・フローとから求められる割引率に相当する率(第39項(2)参照)を開示することは妨げない。

142.回収可能価額の算定方法の注記事項に関して、回収可能価額が使用価値の場合にはその旨及び割引率(第58項(5)参照)に加えて、経済的残存使用年数(資産グループの場合は、主要な資産の経済的残存使用年数)も注記すべきであるという意見がある。しかしながら、必ずしも個別の固定資産の耐用年数は開示することとはされていないことや、国際的な基準においても減損処理後の価値の算定に関連する経済的残存使用年数の開示は求められていないことから、本適用指針では経済的残存使用年数を注記事項には含めていない。

その他

借手側が所有権移転外ファイナンス・リース取引について通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている場合の取扱い

143.リース会計基準では、ファイナンス・リース取引について、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととしており、この場合、借手で計上されるリース資産が減損会計基準の対象となる。なお、個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合及びリース会計基準適用初年度開始前のリース取引については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用することが認められているが(リース適用指針第34項及び第79項参照)、この場合においても、減損処理と同様の効果を有するように減損会計基準において取扱いが定められている(第60項から第62項参照)。

この場合、リース資産に配分された減損損失は負債として計上され、リース契約の残存期間にわたり取り崩される。当該取崩額は、特別利益に計上されるのではなく、各事業年度の支払リース料と相殺される。これは、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行う場合でも減損処理と同様の効果を有するように定められている以上、減損損失の戻入れは行わない(減損会計基準 三2.参照)ことに準ずることによるものと考えられる。

なお、複数のリース資産を含む資産グループの場合の負債の取崩しは、リース契約ごとに行う。

144.減損会計基準では、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っているリース資産について、減損処理を検討するにあたって帳簿価額とみなされる金額は、重要性が低い場合を除き、リース資産の取得原価相当額と減価償却累計額相当額によって算定するのではなく、未経過リース料の現在価値によるとしている。これは、実務上の負担を考慮したものと考えられるため、未経過リース料の現在価値を算定する利子率は、リース契約時点の貸手の計算利子率や借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率のほか、減損処理を検討する時点の当該利率を用いることができると考えられる。

中間会計期間において減損処理を行った資産に係る取扱い

145.年度決算では、中間会計期間を含む事業年度全体を対象として改めて会計処理が行われる(中間財務諸表作成基準 注解(注1)参照)。ただし、減損処理は、固定資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態が相当程度に確実な場合に限って、回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理であり(減損会計意見書 三 3.及び四 2.(2)@参照)、たな卸資産の評価基準としての低価基準等とは異なり、直接的に貸借対照表価額を求めるものではない。このため、本適用指針では、中間会計期間において減損処理を行った場合でも、年度決算までに資産又は資産グループに新たな減損の兆候があり追加的に減損損失を認識すべきであると判定されるときを除いて、年度決算において、中間会計期間を含む事業年度全体を対象として改めて会計処理を行わないものとした(第63項参照)。

再評価を行った土地について減損処理を行った場合の土地再評価差額金の取扱い

146.減損処理を行った場合には、予測することができない減損が生じたことによる帳簿価額の減額と解されるため、再評価を行った土地に係る再評価差額金は取り崩されることとした(「土地の再評価に関する法律」第8条第2項参照)。土地再評価差額金の取扱いについては、その他有価証券の評価差額の取扱いと同様に、当該取崩額を当期の損益として処理するという見解や、国際的な基準に鑑み、貸方残高であった場合には当該取崩額を特別利益として計上するという見解も考えられるが、本適用指針では、剰余金修正を通して未処分利益に繰り入れることとなると考えている(第64項参照)。これは、法律の定めのもとで 1回限りの臨時的かつ例外的に計上された土地再評価差額金は、すでに一部が自己株式の消却に用いられている場合もあり、また、土地再評価差額金に関する現在の会計慣行における土地の売却と同様の考え方を採ることが適当と考えられることによる。

なお、取り崩すこととなる減損処理を行った部分に係る土地再評価差額金の金額は、以下のように算定される。

(1) 減損処理後の土地の帳簿価額が増額した直前の帳簿価額以上である場合、当該土地再評価差額金のうち、減損処理した金額に相当する金額(「土地の再評価に関する法律」第8条第2項第1号参照)

(2) 減損処理後の土地の帳簿価額が増額した直前の帳簿価額に満たない場合及び減額した土地を減損処理した場合、当該土地再評価差額金の全額(「土地の再評価に関する法律」第8条第2項第2号及び第3号参照)

147.減損処理を行った場合に取り崩される土地再評価差額金との関連で、利益処分により積み立てられた圧縮積立金、特別償却準備金、その他租税特別措置法上の諸準備金(以下「諸準備金等」という。)についても、減損処理を行った場合、取り崩すのではないかという見解も考えられる。しかしながら、会計上は任意積立金として積み立てられたものの取崩しであるから、一般の任意積立金と同様の考え方に従って処理されることになり、また、一般に、税務上の益金算入に準拠して行われる諸準備金の取崩しは、目的取崩しではないと考えられている(日本公認会計士協会審理室情報No.3「利益処分により積み立てられた租税特別措置法上の諸準備金の取崩しについて」参照)。このため、株主総会の利益処分の決議として処理された場合以外は、取り崩されないと考えられる。


INDEX

固定資産の減損に係る会計基準目次

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