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会計基準│結論の背景|目次

 

(注)本内容は、平成21年12月4日企業会計基準委員会が公表した「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」から、「結論の背景」部分を抜粋したものです。「目的」及び「会計基準」の部分は別に記載してあります。なお、実務への適用にあたっては念のためオリジナルの当該会計基準等を確認してください。

企業会計基準第24号

会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

(結論の背景)

平成21年12月4日

企業会計基準委員会

目次

目的及び会計基準は別に記載してあります。 

結論の背景

経緯

範囲

本会計基準が扱う範囲

個別財務諸表における適用上の論点に関する検討

重要性

用語の定義

会計上の取扱い

会計方針の変更の取扱い

会計方針の変更の分類

会計方針の変更に関する原則的な取扱い

原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い

会計方針の変更に関する注記

表示方法の変更の取扱い

表示方法の変更に関する原則的な取扱い

原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い

表示方法の変更に関する注記

会計上の見積りの変更の取扱い

会計上の見積りの変更に関する原則的な取扱い

会計上の見積りの変更に関する注記

会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の取扱い

過去の誤謬の取扱い

過去の誤謬に関する取扱い

過去の誤謬に関する注記

適用時期等

本会計基準の公表による他の会計基準等についての改正


結論の背景

経緯

27. 財務諸表の遡及処理(「遡及処理」とは、遡及適用、財務諸表の組替え又は修正再表示により、過去の財務諸表を遡及的に処理することをいう。以下同じ。)については、平成13年11月のテーマ協議会からの提言書において取り上げられていた。しかしながら、当時の状況の下では商法の制約から過去の財務諸表を遡って処理することはできないという考え方があり、この提言書では、「他の法制度との調整等が必要なテーマ案」として捉えるにとどめられていた。

一方、国際的な会計基準においては、企業が自発的に会計方針の変更を行った場合や財務諸表の表示方法を変更した場合には、過去の財務諸表を新たに採用した方法で遡及処理し、これを表示することが既に求められている。

こうした中、我が国においても、平成18年5月に施行された会社計算規則により、これまでの商法では明示されていなかった過年度事項の修正を前提とした計算書類の作成及び修正後の過年度事項の参考情報としての提供が妨げられないことが明確化されるなど、本テーマに関する会計基準開発を巡る環境は大きく変化している。また、これと並行して、国際会計基準審議会(IASB)との間の、我が国の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)との差異の縮小を目的とした共同プロジェクトの第3回会合(平成18年3月開催)においても、長期プロジェクト項目の中で、本テーマは、特に優先して取り組むべき項目の1つとして位置付けられた。

このような状況に鑑み、当委員会では、学識経験者を含むワーキング・グループを平成18年12月に立ち上げ、平成19年3月には、過年度遡及修正専門委員会を設置し、平成19年7月には、「過年度遡及修正に関する論点の整理」(以下「論点整理」という。)を公表して、これに寄せられた意見を分析した上で検討を重ねた。その間に、当委員会とIASB は、平成19年8月に「東京合意」(会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意)を公表し、過年度遡及修正のプロジェクトは既存の差異に係るプロジェクト項目として、平成23年6月末までにコンバージェンスを行うことが目標とされた。

28. さらに平成20年6月には、会計基準の具体的な検討の方向性を明示する形で、「会計上の変更及び過去の誤謬に関する検討状況の整理」(以下「検討状況の整理」という。)を公表し、寄せられた意見を参考に審議を行い、その内容を一部修正するとともに、適用時期等の取扱いを明示した上で、平成21年4月に、企業会計基準公開草案第33号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第32号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準の適用指針(案)」を公表した。

本会計基準は、公開草案に対して寄せられた意見を参考にさらに審議を行い、公開草案を一部修正した上で公表するに至ったものである。

範囲

本会計基準が扱う範囲

29. 国際財務報告基準では、平成15年12月に改訂された国際会計基準(IAS)第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」(以下「IAS 第8号」という。)において、会計方針の変更、会計上の見積りの変更及び誤謬の訂正を行う場合の取扱いが定められている。米国会計基準においても、財務会計基準審議会(FASB)から平成17年5月に国際財務報告基準とのコンバージェンスの一環として、財務会計基準書(SFAS)第154号「会計上の変更及び誤謬の訂正」(以下「SFAS 第154号」という。また現在は、FASB Accounting Standards CodificationTM(FASBによる会計基準のコード化体系。以下「ASB-ASC」という。)のTopic250「会計上の変更及び誤謬の訂正」(以下「FASB-ASC Topic250」という。)に含まれている。)が公表され、これらの扱いについてIAS 第8号と同様の内容が定められている。また、国際的な会計基準では、過去の財務諸表の修正の一類型として表示方法の変更があり、国際財務報告基準ではIAS 第1号「財務諸表の表示」(以下「IAS 第1号」という。)、米国会計基準ではFASB-ASC のTopic205「財務諸表の表示」(当初、米国公認会計士協会 会計手続委員会の会計調査公報(ARB)第43号「ARB の再説及び改訂」として公表)(以下「FASB-ASC Topic205」という。)の中で、過去の財務諸表の組替えに関する取扱いが定められている。

このため、我が国においても、会計方針の変更、表示方法の変更及び会計上の見積りの変更並びに過去の誤謬の訂正に関する会計上の取扱いを会計基準で定めることとし、これらを本会計基準で包括的に取り扱うこととした。

個別財務諸表における適用上の論点に関する検討

30. 本会計基準は、会計上の変更及び過去の誤謬の訂正に関する会計処理及び開示について適用することとしているが(第3項参照)、会計方針の変更等において、過去の財務諸表に遡及処理を求めることにより、財務諸表の期間比較可能性及び企業間の比較可能性が向上し、財務諸表の意思決定有用性を高めることができることについては、連結財務諸表に限らず、個別財務諸表についても同様と考えられる。

31. しかしながら、個別財務諸表における適用上の問題として、連結財務諸表を併せて開示している場合や、非上場会社が個別財務諸表を開示している場合などについても、一律にこのような処理を求めるか否かに関しては、コスト・ベネフィットの観点から、検討が必要ではないかという指摘がある。また、国際的な会計基準では、遡及処理に関する取扱いについて、個別財務諸表のみに関する特段の取扱いは明示されているわけではないものの、これらの基準を適用している国々の開示制度が、我が国とは異なっている場合があることを考慮すべきという指摘もある。これらの指摘を踏まえ、当委員会においては、過去の財務諸表への遡及処理を求める取扱いについて、個別財務諸表上の適用に関する特段の取扱いを設ける必要があるかどうかを検討した。

32. この点に関しては、会計方針の変更等を行った場合の過去の累積的影響額に関する当期の会計処理と、遡及処理を行った過去の財務諸表の表示の要否とに分けて検討を行った。

(会計方針の変更等を行った場合の過去の累積的影響額に関する当期の会計処理)

33. 会計方針の変更等に関する当期の会計処理としては、その累積的影響額を期首の利益剰余金に含めて処理を行うのか、それとも従来どおり当期の損益に計上するのかという論点がある。この点に関しては、当該影響額の算出に関する財務諸表作成者の負担も勘案する必要があるが、そのような計算自体はこれまでも、注記による開示などとの関係で、企業の規模や開示制度等にかかわらず、すべての企業で行っているものと考えられる。このため、その金額を当期の損益に計上する方法から、期首の利益剰余金に含めて計上する方法に変更した場合でも、企業の規模にかかわらず、新たな実務負担はそれほど大きくないのではないかとの見方がある。会計方針の変更等による過去の累積的影響額を当期の損益に計上すると、当期の業績に関連のない損益が計上されることになり、望ましくないという考え方もある。

また、金融商品取引法による財務諸表の開示が行われていない企業については、遡及処理を求める必要はないのではないかとの指摘があるが、これらの企業にも財務諸表の利用者は存在しており、それを考慮すると、特段の取扱いを設ける必要はないという考え方もある。

さらに、遡及処理のニーズが主に連結財務諸表にあると考えることができたとしても、連結決算手続上利用するために内部的に作成された子会社及び関連会社の財務諸表上で遡及処理を行うことにより連結財務諸表への遡及処理が可能であるなら、実務負担を考慮し、個別財務諸表においては遡及処理を必ずしも強制する必要はないのではないかという指摘がある。

ただし、これに対しても、個別財務諸表準拠性の観点などから子会社及び関連会社の個別財務諸表の期首の利益剰余金に、過去の累積的影響額を含めて処理すべきという考え方がある。

検討の結果、本会計基準では、会計方針の変更等を行った場合の過去の累積的影響額に関する当期の会計処理について、個別財務諸表上の適用に関する特段の取扱いを設けないこととし、遡及処理後の期首の利益剰余金に含めて会計処理することを求めることとした。

(遡及処理を行った過去の個別財務諸表の表示の要否)

34. 国際的な会計基準を適用している国々では、連結財務諸表を開示している場合、個別財務諸表の開示が求められていないこともあるため、我が国においても、とりわけ財務諸表作成者の負担が大きい遡及処理後の過去の期間における財務諸表の表示を、連結財務諸表のみならず、個別財務諸表にまで一律に求めようとするのは適切ではないという意見がある。その一方、連結財務諸表と併せて公表される個別財務諸表についても、過去の期間への遡及処理によって期間比較可能性及び企業間の比較可能性が向上し、財務諸表の意思決定有用性を高めることが期待されるのであれば、特段の取扱いを認めるべきではないという意見もある。

検討の結果、個別財務諸表について比較情報としての有用性を期待するという観点からは、個別財務諸表についても連結財務諸表と同様に、過去の財務諸表を表示する場合には、これを遡及処理して表示することが考えられることや、比較財務諸表の表示の要否は各開示制度の中で規定がなされていることを踏まえ、本会計基準では個別財務諸表上の適用に関する特段の取扱いは設けないこととした。

重要性

35. 本会計基準のすべての項目について、財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮される。重要性の判断は、財務諸表に及ぼす金額的な面と質的な面の双方を考慮する必要がある。金額的重要性には、損益への影響額又は累積的影響額が重要であるかどうかにより判断する考え方や、損益の趨勢に重要な影響を与えているかどうかにより判断する考え方のほか、財務諸表項目への影響が重要であるかどうかにより判断する考え方などがある。

ただし、具体的な判断基準は、企業の個々の状況によって異なり得ると考えられる。また、質的重要性は、企業の経営環境、財務諸表項目の性質、又は誤謬が生じた原因などにより判断することが考えられる。

用語の定義

(会計方針及び会計方針の変更)

36. 我が国において会計方針とは、これまで一般に、財務諸表作成にあたって採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他財務諸表作成のための基本となる事項を指すとされていた(企業会計原則注解(注1-2))。すなわち、会計処理の原則及び手続のみならず、表示方法を包括する概念であるとされていた。

一方、 国際財務報告基準では、IAS 第8号において、会計方針とは、企業が財務諸表を作成及び表示するにあたって適用する特定の原則、基礎、慣行、規則及び実務をいうとされており、財務諸表の表示の全般的な定め(表示の継続性に関する定めを含む。)については、別途IAS 第1号で扱われている。このため、国際財務報告基準では、会計方針には表示方法のすべてが含まれているわけではないと考えられる。

また、米国会計基準では、FASB-ASC のTopic235「財務諸表に対する注記」(当初、米国公認会計士協会 会計原則審議会(APB)意見書第22 号「会計方針の開示」として公表)において、会計方針とは、一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠して、企業の財政状態、キャッシュ・フロー及び経営成績の真実な表示を行うために最も適切であると経営者が判断し、それゆえ財務諸表を作成するために採用された特定の会計原則及び当該会計原則の適用方法をいうとされており、国際財務報告基準と同様、表示方法が包括的に含まれているものではないと考えられる。

37. 当委員会は、国際的な会計基準とのコンバージェンスを踏まえた遡及処理の考え方を導入するにあたり、会計方針の定義について、国際的な会計基準を参考に、表示方法を切り離して定義するか否かを検討した。

これについては、我が国の従来の会計方針の定義を変更しなくても、その中で会計処理の原則及び手続と表示方法とに分け、それぞれに取扱いを定めることで対応すれば足りるのではないかという意見がある。一方、国際的な会計基準も参考に、会計方針と表示方法の定義を見直すべきであるとの意見がある。

検討の結果、会計上の取扱いが異なるものは、別々に定義することが適当であると考えられることから、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、本会計基準においては会計方針と表示方法とを別々に定義(第4項(1)及び(2)参照)した上で、それぞれについての取扱いを定めることとした。

(会計上の見積り及び会計上の見積りの変更)

38. これまで、我が国の会計基準において会計上の見積り及び会計上の見積りの変更を定義したものはない。なお、監査上の取扱いとしては、日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書第26号「監査実務指針の体系」の「[付録2]用語集」の中で、「会計上の見積りとは、将来事象の結果に依存するために金額が確定できない場合、又は既に発生している事象に関する情報を適時にあるいは経済的に入手できないために金額が確定できない場合において、当該金額の概算額を算出することをいう」とされている。また、会計上の見積りの変更については、監査委員会報告第77号において、「過去に特定の会計事象等の数値・金額が会計処理を行う時点では確定できないため、見積りを基礎として会計処理していた場合において、損益への影響が発生する見積りの見直しをいう」とされている。

一方、国際的な会計基準では、会計上の見積りの定義は定められていないものの、会計上の見積りの変更については、定義が設けられている。国際財務報告基準では、IAS 第8号において、会計上の見積りの変更は、資産及び負債の現在の状況の評価の結果行われる、又は、資産及び負債に関連して予測される将来の便益及び義務の評価の結果行われる、それらの帳簿価額の修正又は資産の期間ごとの消費額の修正をいうとされ、これは新しい情報や事業展開から生じるものであり、誤謬の訂正ではないものとされている。

また、米国会計基準ではFASB-ASC Topic250 において、会計上の見積りの変更は、既存の資産又は負債の帳簿価額に影響を及ぼす変更や、既存又は将来の資産若しくは負債についての将来の会計処理に影響を及ぼす変更であるとされている。つまり、資産及び負債に関する現在の状況並びに予測される将来の便益及び義務を評価し、これに関連して期間ごとの財務諸表の表示を行ったことの必然の結果であり、新しい情報からもたらされた結果であるとされている。

39. 検討の結果、国際的な会計基準とのコンバージェンスを踏まえた会計上の変更に関する包括的な取扱いを定めるにあたり、会計上の見積りとその変更の定義についても、国際的な会計基準も参考に見直しを行うこととした(第4項(3)及び(7)参照)。会計上の見積りとその変更の定義については、基本的には従来の我が国における考え方を踏襲するものであり、従来の実務(注記による開示も含む。)に変更をもたらすものではないと考えられる。

40. 会計上の見積りの変更の事例としては、有形固定資産に関する減価償却期間(耐用年数)について、生産性向上のための合理化や改善策が策定された結果、従来の減価償却期間と使用可能予測期間との乖離が明らかとなったことに伴い、新たな耐用年数を採用した場合などが考えられる。

(誤謬)

41. 誤謬についても、我が国の会計基準において定義したものはない。なお、監査上の取扱いとして、日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書第35号「財務諸表の監査における不正への対応」では、財務諸表の虚偽の表示は不正又は誤謬から生じるとし、財務諸表の虚偽の表示の原因となる行為が意図的であるか意図的でないかで不正と誤謬を区別した上で、誤謬とは、財務諸表の意図的でない虚偽の表示であって、金額又は開示の脱漏を含むとしている。

一方、国際財務報告基準では、IAS 第8号において、過去の誤謬は、その時点で信頼性の高い情報を使用しなかったか、誤用があったことによる過去1 期間又はそれ以上の期間についての財務諸表における脱漏又は虚偽表示をいうものとし、これには、計算上の誤り、会計方針の適用の誤り、事実の見落としや解釈の誤りのほか、不正行為の影響も含まれるとされている。

また、米国会計基準ではFASB-ASC Topic250 において、過去の誤謬は、計算上の誤り、一般に公正妥当と認められる会計方針を適用する上での誤り、財務諸表作成時に存在した事実の見落とし若しくは誤用から生じる財務諸表における認識、測定、表示又は開示の誤謬をいうものとされ、一般に公正妥当と認められない会計方針から一般に公正妥当と認められる会計方針への変更も、誤謬の訂正とされている。

42. 検討の結果、会計上、誤謬については、それが意図的であるか否かにより、その取扱いを区別する必要性はないと考えられるため、本会計基準では国際的な会計基準と同様に、誤謬を不正に起因するものも含めて定義することとした(第4項(8)参照)。

なお、誤謬に関しては、国際財務報告基準と同様に「重要性」を定義し、重要な誤謬である場合に原則として修正再表示を求めることとするかどうかという論点がある。これに対しては、誤謬が重要であるか否かの判断は、一般的な重要性の判断に比べ、実務上高度な判断が求められる場面が多く、誤謬の重要性は他の一般的な重要性とは性格が異なるという理由から、誤謬の重要性について、別に考え方を定める必要があるとの意見があった。しかしながら、重要性は誤謬に限らず本会計基準のすべての項目について考慮されるべきものであることや、国際財務報告基準においても、IAS 第8号では、財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク及びIAS 第1号で規定されている重要性に基づいて会計方針の変更及び誤謬の訂正に関する重要性を定めていることも勘案し、誤謬の重要性については特段の記載は行わず、重要性に関する考え方を示すこととした(第35項参照)。

(会計上の変更)

43. 遡及処理については、それが過去の誤謬の訂正に関して行われたものであるのか、それとも、会計方針の変更及び表示方法の変更のように専ら比較可能性を担保する会計情報を提供するために行われたものであるのかの区別が、開示制度等との関係で重要であると考えられる。このため、本会計基準ではまず、会計方針の変更、表示方法の変更及び会計上の見積りの変更を「会計上の変更」と定義するとともに、過去の財務諸表における誤謬の訂正は、会計上の変更に含まれないことを明確にすることで、両者の区別をより明らかにすることとした(第4項(4)参照)。

(遡及処理)

44. 国際的な会計基準では、遡及処理を行うものを、会計方針の変更に関する「遡及適用」や表示方法の変更に関する「財務諸表の組替え」とは別に、過去の誤謬の訂正については「修正再表示」と定義して、明確に区別している。本会計基準でも、国際的な会計基準を参考に、「遡及適用」及び「財務諸表の組替え」と「修正再表示」とを分けて定義することとした(第4項(9)から(11)参照)。

会計上の取扱い

会計方針の変更の取扱い

会計方針の変更の分類

45. 国際的な会計基準と同様、我が国においても、「継続性の原則」(企業会計原則第一5)により、企業は同一の会計方針を継続して適用することが求められており、いったん採用した会計処理の原則又は手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各時期を通じて継続して適用しなければならないとされている(企業会計原則注解(注3))。

このため、本会計基準においても、会計方針の継続性に関する従来の考え方を踏襲し、正当な理由により変更を行う場合を、(1)会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合と、(2)(1)以外の正当な理由による会計方針の変更の場合に分類している(第5項参照)。(1)及び(2)は、原則として遡及適用が求められることなどの取扱いは同様であるが、(1)では該当の会計基準等に経過的な取扱いが定められている場合の取扱いを設ける必要があること(第6項(1)参照)や、注記で求められる情報の内容も異なること(第10項及び第11項参照)などから、本会計基準では、この2つの分類ごとに、その取扱いを定めることとした。。

なお、改正された会計基準等の適用について、会計方針の変更に該当するかどうかについては判断が明らかでない場合があるとの意見があるが、これについては、個々の会計基準等の改正の際に、取扱いが示されることになるものと考えられる。

会計方針の変更に関する原則的な取扱い

46. 我が国の従来の取扱いでは、財務諸表等規則等において、会計方針の変更を行った場合、会計方針の変更が当該変更期間の財務諸表に与えた影響に関する注記を求める定めはあるものの、過去の財務諸表に新しい会計方針を遡及適用することを求める定めはない。

一方、国際財務報告基準ではIAS 第8 号において、また米国会計基準ではFASB-ASC Topic250において、会計方針の変更に関し、新たに適用された会計基準等に経過的な取扱いが定められていない場合や自発的に会計方針を変更した場合には、原則として新たな会計方針の遡及適用を求めている。会計方針の変更を行った場合に過去の財務諸表に対して新しい会計方針を遡及適用すれば、原則として財務諸表本体のすべての項目(会計処理の変更に伴う注記の変更も含む。)に関する情報が比較情報として提供されることにより、特定の項目だけではなく、財務諸表全般についての比較可能性が高まるものと考えられる。また、当期の財務諸表との比較可能性を確保するために、過去の財務諸表を変更後の会計方針に基づき比較情報として提供することにより、情報の有用性が高まることが期待される。

検討の結果、本会計基準においても、会計方針の変更に関しては、遡及適用を行わず注記のみによる対応から、国際的な会計基準と同様に、過去の財務諸表への遡及適用による対応に転換することとした(第6項参照)。

なお、会計方針の変更が製造原価等に影響を与える場合は、棚卸資産及び売上原価等の金額の計算において新たな会計方針により算定することが原則であるが、簡便的に、まず製造原価における会計方針の変更前と変更後の差額を算出した上で、これを合理的な方法で棚卸資産及び売上原価等に配賦し、変更前の会計方針による金額に加算して算定する方法なども考えられる。また、当該差額に重要性が乏しいと考えられる場合には、これをすべて、売上原価に含めて処理する方法も認められるものと考えられる。

(会計基準等の改正時の取扱い)

47. 会計基準等の改正時における会計方針の変更に遡及適用を求めることが適当かどうかについては、遡及適用によってもたらされる過去の期間に関する情報の有用性と、遡及適用に伴う見積りの要素の度合や、遡及適用を行うために必要とされる情報収集等に係る負担との関係を考慮する必要があると考えられる。また、国際的な会計基準でも、会計基準等の改正時において、特定の経過的な取扱いが設けられている場合には、その取扱いを優先することとされている。

検討の結果、本会計基準では、国際的な会計基準と同様に、会計基準等の改正時における会計方針の変更についても遡及適用を原則としつつ、当該会計基準等に経過的な取扱いが設けられている場合には、その取扱いが本会計基準に優先して適用されるものとした(第6項(1)参照)。

原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い

48. 本会計基準では、国際的な会計基準と同様に、遡及適用が実務上不可能な場合があることを明示(第8項参照)した上で、そのような場合の具体的な取扱いを設けている。

過去の時点においては、企業は新たに採用する会計方針に基づいた会計処理を行うためのデータが必ずしも必要とされていないため、当期に遡及適用を行うのに必要なデータがその時点で収集されていない場合や、仮にその時点でこれらのデータが収集されていたとしても、当期まで保存がなされていない場合が想定される。このような状況のもとでは、企業が、合理的な努力を行っても、遡及適用を行うのに必要な影響額を算定できないことが考えられる(第8項(1)参照)。

また、例えば会計基準等の改正に伴って遡及適用を行う際に、資産の保有目的など、何らかの過年度の経営者の意図を仮定することを必然的に伴う場合には、経営者の意図が何であったかを後の期間に客観的に判断することはできないため、この場合も遡及適用が実務上不可能な場合に該当する(第8項(2)参照)。

さらに、会計方針を遡及適用する際に過去の会計事象等に関して見積りを行う場合、当該会計事象等が発生したときの状況を反映することが必要となるため、その後に判明した情報を見積りに用いることはできないが、見積りの対象となる事象が発生してから時が経過するほど、見積りに用いる情報について、過去の財務諸表が作成された時点で入手可能であったものと、その後判明したものとを、客観的に区別することが困難になると想定される。したがって、これらの情報を客観的に区別することが時の経過により不可能な場合も、遡及適用が実務上不可能な場合に該当することとした(第8項(3)参照)。

本会計基準では、国際的な会計基準と同様に、過去の期間のすべてに遡及適用が原則として必要であるとしつつも(第6項参照)、遡及適用が実務上不可能な場合について、遡及適用に関する当期の期首時点での累積的影響額が算定できるため、部分的な遡及適用を行う場合(第9項(1)参照)と、遡及適用に関する当期の期首時点での累積的影響額が算定できず、部分的な遡及適用もできないため、期首以前の実行可能な最も古い日から将来にわたり新たな会計方針を適用する場合(第9項(2)参照)とに分け、取扱いを明示することとした。

会計方針の変更に関する注記

49. 本会計基準では、会計方針の変更に関して、国際的な会計基準と同様に、原則として遡及適用を求めることとしたことから、会計方針の変更を行う場合の注記項目についても、国際的な会計基準の定めを参考に検討を行った。その結果、本会計基準においても、第50項で記述している事項を除き、国際的な会計基準とほぼ同様の注記項目を設けることとした(第10項及び第11項参照)。

(会計方針の変更による影響額の注記)

50. 会計方針の変更に関する注記の対象となる表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額の注記を定めている(第10項(5)及び第11項(3)参照)。当委員会では、表示期間のうち過去の期間についてだけではなく、当期におけるこれらの影響額の注記に関しても求めるべきかどうか検討を行った。

国際的な会計基準では、当期及び過去の期間における会計方針の変更による影響額の注記が求められている。また、当期における影響額を注記しない場合には、会計方針の変更を行った期間における影響額が不明となり、変更前の会計方針に基づいた期間比較が不可能となることから、当期における影響額も注記すべきという意見もある。

しかしながら、過去の期間について遡及適用を行う以上、新たに適用された会計方針に基づく情報での期間比較可能性は確保されることとなる。また、公表済みの過去の財務諸表と遡及適用後の当該財務諸表との比較を行うことや遡及適用に関する注記等により、会計方針の変更による公表済みの過去の財務諸表への影響額も明らかになることから、投資判断のための情報としては十分ではないかという意見がある。さらに、変更前の会計方針に基づいた期間比較のための情報を提供するには、当期の数値を変更前の会計方針を用いて新たに算定する必要があるため、財務諸表作成者の負担も勘案すると、当期における影響額を注記するメリットは少ないのではないかという指摘もある。

検討の結果、遡及適用に伴い比較情報としての過去の財務諸表及び当該過去の期間における影響額を開示することにより、期間比較可能性や会計方針の変更による影響額の情報が十分に提供し得ると考えられるため、本会計基準においては、原則として、当期における影響額の注記を求めないこととした。ただし、比較情報として表示する過去の財務諸表について遡及適用を行っていない場合には、新たに適用された会計方針に基づく情報での期間比較可能性が確保されないため、変更前の会計方針によった場合の当期における影響額の注記も求めることとした。

(未適用の会計基準等に関する注記)

51. 既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等に関する注記に関しては、国際財務報告基準ではIAS 第8号に取扱いが定められている一方、米国では会計基準に取扱いがなく、米国証券取引委員会(SEC)スタッフ会計公報により、その注記が求められている。

検討の過程においては、当該注記の内容は、会計基準によって求められるべき性格のものではなく、米国と同様に開示規則等において取扱いを設けることが適切ではないかという意見があった。しかしながら、国際財務報告基準では会計基準の中でこのような内容の注記が求められていることや、未適用の会計基準等が企業に及ぼす影響が開示されていれば、財務諸表に関連した情報として、投資の意思決定に有用であると考えられることから、本会計基準の中で、未適用の会計基準等に関する注記を求めることとした(第12項参照)。

なお、未適用の会計基準等に関する注記については、決算日までに新たに公表された会計基準等について注記を行うことになるが、決算日後に公表された会計基準等についても当該注記を行うことを妨げるものではない。この場合は、いつの時点までに公表された会計基準等を注記の対象としたかを記載することが考えられる。

表示方法の変更の取扱い

表示方法の変更に関する原則的な取扱い

52. 我が国の従来の取扱いでは、財務諸表等規則等において、原則として、財務諸表を作成する各時期を通じて、同一の表示方法を採用し、表示方法の変更を行った場合には、過去の財務諸表との比較を行うために必要な注記を行うこととされているが、比較情報として表示される過去の財務諸表の組替えは求められていない。一方、国際財務報告基準では、IAS 第1号において、財務諸表上の項目の表示及び分類は、原則として継続しなければならないとした上で、表示又は分類を変更した場合には、原則として比較情報を組み替えるものとし、当該組替えの内容や理由などの一定の注記を求めている。また、米国会計基準でもFASB-ASC Topic205 において、過去の財務諸表についても当期と同様に表示されること、つまり組替えが望ましいとされ、組替えやその他の理由によって表示方法が変更された場合には、当該変更に関する注記を行う必要があるとされている。

表示方法の変更を行った場合に過去の財務諸表の組替えを求めることは、会計方針の変更について原則として遡及適用を求めることと同様に、財務諸表全般についての比較可能性が高まり、情報の有用性がより高まるなどの効果が期待できる。

検討の結果、本会計基準では、表示方法は(1)表示方法を定めた会計基準又は法令等の改正により表示方法の変更を行う場合、又は(2)会計事象等を財務諸表により適切に反映するために表示方法の変更を行う場合を除き、毎期継続して適用し(第13項参照)、表示方法の変更を行った場合には、原則として、比較情報として表示される過去の財務諸表を、新たに採用した表示方法により遡及的に組み替えることとした(第14項参照)。このうち、(2)は、企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化などにより、会計事象等を財務諸表により適切に反映するために表示方法の変更を行う場合が該当すると考えられる。

なお、表示方法の変更に関しては、我が国と欧米の科目表記の細かさの違いを考慮すべきではないかという意見や、何らかの重要性の判断基準等を設けるべきではないかという意見もあったが、重要性は本会計基準のすべての項目について考慮されるべきものであると考えられることから、これらの点に関して特段の取扱いは設けないこととした。

原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い

53. 会計方針の変更に関する遡及適用の取扱いと同様に、表示方法の変更についても、財務諸表の組替えが実務上不可能な場合が想定される。IAS 第1号でも、例えば、過去においては組替えを可能にするような方法でデータが収集されていなかったため、情報の再構成ができない場合などがあるとされている。したがって、本会計基準では、財務諸表の組替えにおいても、国際的な会計基準と同様に、原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱いを設けることとした(第15項参照)。

表示方法の変更に関する注記

54. 表示方法の変更について、国際的な会計基準と同様に、原則として過去の財務諸表の組替えを求めることとしたことから、表示方法の変更を行う場合の注記項目についても、国際的な会計基準の定めを参考に検討を行った。

検討の結果、本会計基準では、会計方針の変更に関する注記と同様に、国際的な会計基準とほぼ同じ内容の注記項目を設けることとした(第16項参照)。

会計上の見積りの変更の取扱い

会計上の見積りの変更に関する原則的な取扱い

55. 我が国の従来の取扱いにおいては、会計上の見積りの変更をした場合、過去の財務諸表に遡って処理することは求められていない。また、国際的な会計基準においても、会計上の見積りの変更は、新しい情報によってもたらされるものであるとの認識から、過去に遡って処理せず、その影響は将来に向けて認識するという考え方がとられている。

検討の結果、本会計基準では、会計上の見積りの変更に関しては従来の取扱いを踏襲し、過去に遡って処理せず、その影響を当期以降の財務諸表において認識することとした(第17項参照)。

なお、我が国の従来の取扱いでは、企業会計原則注解(注12)において、過年度における引当金過不足修正額などを前期損益修正として特別損益に表示することとされている。本会計基準においては、引当額の過不足が計上時の見積り誤りに起因する場合には、過去の誤謬に該当するため、修正再表示を行うこととなる。一方、過去の財務諸表作成時において入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合には、当期中における状況の変化により会計上の見積りの変更を行ったときの差額、又は実績が確定したときの見積金額との差額は、その変更のあった期、又は実績が確定した期に、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識することとなる。

56. 会計上の見積りの変更のうち当期に影響を与えるものには、当期だけに影響を与えるものもあれば、当期と将来の期間の両方に影響を与えるものもある。例えば、回収不能債権に対する貸倒見積額の見積りの変更は当期の損益や資産の額に影響を与え、当該影響は当期においてのみ認識される。一方、有形固定資産の耐用年数の見積りの変更は、当期及びその資産の残存耐用年数にわたる将来の各期間の減価償却費に影響を与える。このように、当期に対する変更の影響は当期の損益で認識し、将来に対する影響があれば、その影響は将来の期間の損益で認識することとなる。

(臨時償却に関する検討)

57. 当委員会では、会計上の見積りの変更に関する全般的な取扱いの検討と並行して、従来の我が国の取扱いの中で認められている、固定資産の耐用年数の変更等に関する臨時償却の考え方を残すかどうかについても検討を行った。

臨時償却は、耐用年数の変更等に関する影響額を、その変更期間で一時に認識する方法(以下「キャッチ・アップ方式」という。)である。これまでは、キャッチ・アップ方式により、見積りの変更の実態により適合した会計処理が可能になる場合があると考えられていた。また、後述するように、仮にそのような場合があったとしても、減損処理の中に耐用年数の変更の影響も含めて処理できることが多いのではないかという指摘があるが、減損処理は、キャッシュ・フローの生成単位で資産をグルーピングした上で行うことから、すべての状況において、必ずしもそのような効果が期待できるわけではないという指摘もある。

一方、キャッチ・アップ方式に関しては、実質的に過去の期間への遡及適用と同様の効果をもたらす処理となることから、新たな事実の発生に伴う見積りの変更に関する会計処理としては、適切な方法ではないのではないかという指摘がある。また、現在、国際的な会計基準では、その採用は認められていないと解釈されている。さらに、キャッチ・アップ方式による処理が適切と思われる状況があったとしても、その場合には耐用年数の短縮に収益性の低下を伴うことが多く、減損処理の中で両方の影響を含めて処理できるという指摘や、そもそも臨時償却として処理されている事例の多くが、将来に生じる除却損の前倒し的な意味合いが強いのではないかという指摘もある。

検討の結果、本会計基準では、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、臨時償却は廃止し、固定資産の耐用年数の変更等については、当期以降の費用配分に影響させる方法(プロスペクティブ方式)のみを認める取扱いとすることとした。

会計上の見積りの変更に関する注記

58. 我が国の従来の取扱いでは、監査委員会報告第77号において、会計上の見積りの変更を行った場合、追加情報として、会計上の見積りを変更した旨、その内容及び当該変更が財務諸表等に及ぼす影響を注記することとされている。一方、国際的な会計基準においては、会計上の見積りの変更が当該変更期間及び将来の期間に与える影響と、その内容及び金額の注記を求めており、将来の期間に与える影響については見積りが困難な場合、その旨を注記することとしている。このため、会計上の見積りの変更を行った場合の注記については、国際的な会計基準を参考に、より具体的な取扱いを設けることとした(第18項参照)。

会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の取扱い

(減価償却方法の変更の取扱いに関する考え方の類型)

59. 国際的な会計基準においては、減価償却方法の変更は、会計上の見積りの変更と同様に取り扱うこととされているため、遡及適用の対象とはされていない。一方、我が国においては、これまで、企業会計原則注解(注1-2)にあるように、減価償却方法は会計方針の1 つとされており、また、その変更は会計方針の変更として取り扱われている。従来の取扱いでは、固定資産の取得原価を各期に配分する方法として、定率法や定額法などの一定の計画的・規則的な配分方法があることを所与とし、そのような複数の会計処理の中での選択の問題として捉えているものと考えられる。当委員会では、我が国において会計方針の変更に遡及適用の考え方を導入するにあたり、減価償却方法の変更についてどのように考えるべきであるかを検討した。

60. この点について国際財務報告基準では、まず減価償却方法自体は、資産に具現化された将来の経済的便益が消費されるにつれて減価償却を行うという会計方針を適用する際に使用する手法と位置付けた上で、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予測されるパターンを反映することとしている。さらに、適用される減価償却方法は毎期見直し、もし、予測された消費パターンに大きな変更があった場合は、当該パターンを反映するようにこれを変更し、会計上の見積りの変更として会計処理しなければならないとしている。すなわち、減価償却方法は、減価償却を認識するという会計方針を適用する際に使用する手法であるため、その手法の変更は会計方針の変更ではなく、資産に具現化された将来の経済的便益の予測消費パターンの変更を意味するものであることから、当該減価償却方法の変更は会計上の見積りの変更に該当するという考え方をとっているものと思われる。

他方、減価償却方法については、そもそも固定資産の経済的便益の消費パターンの見積りが固定資産の取得時点では難しいからこそ、計画的・規則的な償却を行っているのが歴史的な経緯であるという考え方がある。この考え方に基づけば、減価償却方法の変更は、見積りの要素とは直接的な関係を持たないため、何らかの理由で変更する場合には、会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従い、遡及適用を求めるということが考えられる。

また、上記とは別に、減価償却方法自体は会計方針を構成するが、減価償却方法の変更は、会計上の見積りの変更と同様に取り扱うとする考え方もある。米国会計基準では、会計方針の変更と会計上の見積りの変更とを区分することは、時として困難であるとし、その一例として減価償却方法の変更を挙げている。さらに、将来の経済的便益の予測消費パターンが変化したものと判断した上で、新しい減価償却方法が当該パターンをよりよく反映すると考えられる場合には、会計方針の変更によりもたらされる会計上の見積りの変更を行う正当性を示し得るとの考え方が示されている。

(本会計基準における減価償却方法の考え方)

61. 我が国に限らず、国際的にも、減価償却方法として実際に用いられている方法は、定率法、定額法、生産高比例法などの計画的・規則的な償却方法に限られている。減価償却方法の変更を会計上の見積りの変更の1つとして捉える場合には、経済的便益に関する消費のパターンに合致した減価償却方法が認められることが必要となるが、このような考え方は、現実に用いられている減価償却方法がいくつかの方法に限られている実態と整合していないのではないかという指摘がある。

また、仮にそのような実務が可能であったとしても、より実態に即した減価償却方法が選択されることによる便益よりも、会計方針であれば必要とされる継続性の原則による牽制効果が期待できなくなることや、実質的には複数の会計処理の選択の余地を増やすことになる弊害の方が大きいのではないかという指摘もある。さらに、会計上の見積りの変更と捉えれば、採用している減価償却方法が合理的な見積りを反映しているかどうか確認する必要があるが、その合理性を常時検証し続けるという対応は現実には不可能なのではないかという指摘もある。

一方、減価償却方法の変更にあたっては、固定資産に関する経済的便益の消費パターンに照らし、計画的・規則的な償却方法の中から最も適合的な方法を選択することは可能なのではないかという指摘もある。また、我が国においても、固定資産に関する経済的便益の消費パターンに変動があったことを減価償却方法の変更の理由としている実務がみられる。

62. 減価償却方法の変更は、前項で指摘されているように計画的・規則的な償却方法の中での変更であることから、その変更は会計方針の変更ではあるものの、その変更の場面においては固定資産に関する経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴うものと考えられる。

このため本会計基準においては、減価償却方法については、これまでどおり会計方針として位置付けることとする一方、減価償却方法の変更は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合(第19項参照)に該当するものとし、会計上の見積りの変更と同様に会計処理を行い、その遡及適用は求めないこととした。

ただし、減価償却方法は会計方針であることから、変更にあたって正当な理由が求められることや、米国会計基準において、会計方針の変更によりもたらされる会計上の見積りの変更については、会計方針の変更と同様の内容の注記を要するものとされていることから、本会計基準においても、第11項(1)及び(2)の注記に加え、第18項(2)に関する注記を行うこととした。

なお、無形固定資産の償却方法の変更に関しても、本会計基準においては米国会計基準と同じく、有形固定資産等の減価償却方法の変更と同様の取扱いを求めることとした(第20項参照)。

過去の誤謬の取扱い

過去の誤謬に関する取扱い

63. 我が国における会計上の誤謬の取扱いに関する定めとしては、前期損益修正項目に関して定めた企業会計原則注解(注12)がある。ここでいう前期損益修正項目は、過去の期間の損益に含まれていた計算の誤りあるいは不適当な判断を当期において発見し、その修正を行うことから生じる損失項目又は利得項目であると一般に考えられている。このように、我が国における従来の過去の誤謬の取扱いとしては、前期損益修正項目として当期の損益で修正する方法が示されており、修正再表示する方法は定められていなかった。

一方、国際財務報告基準では、IAS 第8号において、重要な誤謬を含む財務諸表、又は重要性はないものの意図的な誤謬を含む財務諸表は、国際財務報告基準に準拠していないこととし、後の期間に発見された誤謬については、後の期間の比較財務諸表の中で訂正することとされている。また、米国会計基準でもFASB-ASC Topic250 において、財務諸表の公表後に誤謬が発見された場合には、過去の財務諸表を修正再表示することとされている。

64. 我が国においては、財務諸表に重要な影響を及ぼすような過去の誤謬が発見された場合、当該誤謬が金融商品取引法上の訂正報告書の提出事由に該当するときには、財務諸表の訂正を行うことになるため、過去の誤謬の訂正の枠組みは開示制度において手当て済みであるという意見がある。また、訂正報告書の提出事由に該当しない誤謬についても、前期損益修正項目として特別損益に計上する従来の会計上の誤謬の取扱いを、特段変更する必要はないという意見もある。

65. しかしながら、会計上の誤謬の取扱いに関し、IAS 第8号及びFASB-ASC Topic250 における誤謬を修正再表示する考え方を導入することは、期間比較が可能な情報を開示するという観点からも有用であり、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図るという観点からも望ましいと考えられる。また、誤謬のある過去の財務諸表を修正再表示することは、会計方針の変更に関する遡及適用等とは性格が異なっており、比較可能性の確保や会計基準のコンバージェンスの促進という観点からではなく、当然の要請として会計基準に定めておくべきであるとの指摘がある。さらに、すべての企業に対して過去の誤謬の修正再表示を求めるのであれば、従来の会計上の誤謬の取扱いを変更することが必要であるという指摘もある。

検討の結果、過去の誤謬に関する取扱いについても、国際的な会計基準と同様に、会計基準においてその取扱いを設けることとした(第21項参照)。本会計基準の適用により、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する従来の取扱いは、比較情報として表示される過去の財務諸表を修正再表示する方法に変更されることになるが、重要性の判断に基づき、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識する処理が行われることになると考えられる。

なお、本会計基準は、当期の財務諸表及びこれに併せて比較情報として過去の財務諸表が表示されている場合を前提に誤謬の取扱いについて定めており、既に公表された財務諸表自体の訂正期間及び訂正方法は、各開示制度の中で対応が図られるものと考えられる。

(過去の誤謬の修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いに関する検討)

66. 国際財務報告基準では、IAS 第8号において、当期の期首時点における過去の誤謬の訂正による累積的影響額を算定することが実務上不可能な場合には、実務上可能となる最も古い日から将来に向かって比較情報を修正再表示することとされ、また、過去の誤謬の訂正による累積的影響額を算定することはできるものの、表示される過去の期間について部分的な修正再表示しか行うことができない場合の取扱いも定められている。一方、米国会計基準ではFASB-ASC Topic250 において、修正再表示が実務上不可能な場合についての取扱いは設けられていない。SFAS 第154号の開発時に、IAS 第8号と同様の定めを設けることについて検討されたが、過去の財務諸表に影響する誤謬を発見しつつも実務上不可能であるために修正しなかった場合には、当該期間の財務諸表が一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠して作成されたと企業が表明することと首尾一貫していないという理由から、このような取扱いは設けられなかった。

67. このように、会計基準上で過去の誤謬に関して修正再表示を求めることとした場合、修正再表示が実務上不可能な場合に関する定めを設けるかどうかには、次のような考え方がある。

1つは米国会計基準のように実務上不可能な場合の取扱いを設けないという考え方であり、誤謬を含んだ過去の財務諸表については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準への準拠性に問題があるという観点から、このような取扱いを認めるべきではないということを論拠とする。もう1 つは国際財務報告基準のように実務上不可能な場合の取扱いを設けるという考え方であり、これは事後に合理的な努力を尽くしても過去の誤謬の修正再表示が行えない事態があり得ることを想定する必要があることを論拠としている。

検討状況の整理においては、国際財務報告基準と同様に、過去の誤謬に関する修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いを示した上で、その採否についてコメントを求めたところ、このような取扱いを会計基準の中で定めることを求める意見が多く寄せられた。

しかしながら、過去の誤謬の修正再表示が実務上不可能という理由をもって過去の財務諸表を修正再表示しないこととする取扱いを会計基準として設けた場合、誤謬を含んだ財務諸表に関し、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準への準拠性に問題があると考えられることから、検討の結果、米国会計基準と同様に、そのような状況を想定した取扱いについては会計基準の中では明示しないこととした。ただし、このことは、稀に実務において誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性を否定するものではない。可能な限り誤謬を訂正した上でもなお、重要な未訂正の誤謬が存在する場合には、表示される財務諸表の有用性が損なわれることになるので、実務においては、例えば、どこまでが信頼性を確保できるかなど、その事実を明らかにするために、当該未訂正の誤謬の内容並びに訂正済の誤謬に関する訂正期間及び訂正方法を開示するなどの対応がなされるものと考えられる。

過去の誤謬に関する注記

68. 本会計基準では国際的な会計基準と同様に、過去の財務諸表の修正再表示を求めることから、過去の誤謬に関する注記項目についても、国際的な会計基準の定めを参考に検討を行った。検討の結果、本会計基準では、会計方針の変更等に関する注記の場合と同様に、国際的な会計基準とほぼ同様の内容の注記項目を設けることとした(第22項参照)。なお、その後の期間の財務諸表において当該注記を繰り返す必要はないと考えられる。

適用時期等

69. 本会計基準自体の適用は、本会計基準の定める会計基準等の改正(第5項(1)参照)に該当するものではないが、本会計基準を適用初年度の期首より前の会計上の変更又は過去の誤謬の訂正についても適用するのか、それとも適用初年度の期首以後の会計上の変更又は過去の誤謬の訂正から適用するのかについて検討を行った。

具体的には、本会計基準の適用初年度において、表示する財務諸表の期間比較可能性をより高める観点から、比較情報として表示される過去の財務諸表において、当該過去の事業年度に行われた会計方針の変更及びその時点で発見された過去の誤謬を、遡及処理を行っていたものとして表示することを認める取扱いを設けるかどうかについて検討を行った。

期間比較可能性をより高める観点からは、適用初年度においては比較情報として表示される過去の財務諸表について、このような取扱いを設けることが望ましいという意見もあった。

しかしながら、その場合には本会計基準が求める遡及処理の対象が複雑になってしまうことなどから、このような取扱いは設けず、本会計基準は適用初年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正について適用することとした(第23項参照)。

本会計基準の公表による他の会計基準等についての改正

70. 次の企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告については、本会計基準及びその他の会計基準等の公表に伴う改正を別途行うことが予定されている。

・企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」

・企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」

・企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」

・企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」

・企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」

・企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」

・企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」

・企業会計基準適用指針第4号「 1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」

・企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」

・企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」

・企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」

・企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」

・実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」

・実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」

・実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」

以上

 


INDEX

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