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目次

 

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成20年3月21日に公表した「セグメント情報等の開示に関する会計基準」から[結論の背景]の部分を抜粋したものです。「目的・会計基準」は別に記載してあります。なお、オリジナルと異なる表現をしている部分があります。実務への適用にあたっては念のためにオリジナルの基準等を確認してください。

企業会計基準第17号

セグメント情報等の開示に関する会計基準

(結論の背景)

昭和63年5月26日

企業会計審議会第一部会

改正平成20年3月21日

企業会計基準委員会

目次

目的・会計基準は別に記載してあります。

結論の背景

検討の経緯

目的

セグメント情報

関連情報

固定資産の減損損失及びのれんに関する情報

範囲

基本原則

セグメント情報の開示

事業セグメントの識別

報告セグメントの決定

セグメント情報の開示項目と測定方法

関連情報の開示

製品及びサービスに関する情報

地域に関する情報

主要な顧客に関する情報

固定資産の減損損失に関する報告セグメント別情報の開示

のれんに関する報告セグメント別情報の開示

適用時期等


結論の背景

検討の経緯

41. 我が国では、企業の経営の多角化、国際化等の傾向が急速に高まる中で、昭和63年5月、「セグメント情報の開示に関する意見書」(企業会計審議会第一部会)が公表された。このとき同時に公表された「セグメント情報の開示基準」を受けて、同年9月に「企業内容等の開示に関する省令」が改正され、セグメント情報の開示が義務付けられた。その後、平成5年3月に「企業内容等の開示に関する省令」及び「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という。)が改正され、セグメント情報は、連結財務諸表の注記事項となり、監査対象とされた。また、この改正により、より詳細な「所在地別セグメント情報」の開示とセグメント別の資産等に関連する項目の開示が新たに義務付けられるなど、順次、開示内容が拡大されてきた。なお、セグメント情報の開示内容の拡大に伴い、セグメント情報に関するセグメンテーションの方法、営業費用の配分方法、資産等の配分方法等の会計手法についての取扱いとして、平成7年4月に日本公認会計士協会会計制度委員会報告第1 号「セグメント情報の開示に関する会計手法」が公表されている。

42. その後、セグメント情報の開示に関しては、平成13年11月のテーマ協議会において、「現在、我が国を代表する大企業の2割近くが単一セグメント、もしくは重要性が低いとの理由で事業の種類別セグメントを作成しておらず、現行制度が十分に機能していないと思われる。米国の『マネジメント・アプローチ』の検討も含め、実効性のある事業区分の決定方法を検討する必要がある。」との提言がなされ、当委員会として今後検討すべき課題の1つとして位置付けられていた。

43. また、当委員会が現在進めている国際会計基準審議会(以下「IASB」という。)との会計基準の国際的なコンバージェンスに向けた共同プロジェクトの中でも、セグメント情報の開示は、平成17年3月に開催された共同プロジェクトの第1回会合において、第1フェーズの検討項目とされた。

44. こうした状況を受けて、当委員会は、平成17年5月にセグメント情報開示に関するワーキング・グループを設置し、セグメント情報の開示に関する実態調査と財務諸表利用者、財務諸表作成者等の市場関係者へのヒアリングの結果も踏まえ、我が国におけるマネジメント・アプローチの導入について検討した。これらの検討を経て、平成18年12月にセグメント情報開示専門委員会を設置し、従来の基準の見直しに向けた審議を行った。本会計基準は、平成19年9月に公表した公開草案に対して当委員会に寄せられたコメントを検討し、公開草案を一部修正した上で公表に至ったものである。

目的

セグメント情報

マネジメント・アプローチ

45. 国際的な会計基準においては、経営上の意思決定を行い、業績を評価するために、経営者が企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎とする「マネジメント・アプローチ」が導入されている。この方法は、米国財務会計基準書第131号「企業のセグメント及び関連情報に関する開示」(以下「SFAS 第131号」という。)において導入された方法である。

SFAS 第131号の公表以前、米国の実務においては、開示すべきセグメント区分の定義が不明確であったために、企業の恣意的な解釈がなされた結果、開示されているセグメントの数が少ないことや単一セグメントとして報告する企業が多いことなどの問題点が指摘されていた。SFAS 第131号のマネジメント・アプローチは、これらの問題点を解消することができるとされた方法である。また、IASB も、国際財務報告基準第8号「事業セグメント」(以下「IFRS 第8号」という。)を開発するにあたり、SFAS 第131号と同様の方法によってセグメント情報を開示することとした。

46. 国際的な会計基準におけるマネジメント・アプローチの特徴は次の点にある。

(1) 企業の組織構造、すなわち、最高経営意思決定機関が経営上の意思決定を行い、また、企業の業績を評価するために使用する事業部、部門、子会社又は他の内部単位に対応する企業の構成単位に関する情報を提供すること

(2) 最高経営意思決定機関が業績を評価するために使用する報告において、特定の金額を配分している場合にのみ、当該金額を構成単位に配分すること

(3) セグメント情報を作成するために採用する会計方針は、最高経営意思決定機関が資源を配分し、業績を評価するための報告の中で使用するものと同一にすること

47. 前項の特徴を有するマネジメント・アプローチに基づくセグメント情報には、次のような長所があると考えられている。

(1) 財務諸表利用者が経営者の視点で企業を見ることにより、経営者の行動を予測し、その予測を企業の将来キャッシュ・フローの評価に反映することが可能になる。

(2) 当該セグメント情報の基礎となる財務情報は、経営者が利用するために既に作成されており、企業が必要とする追加的費用が比較的少ない。

(3) 実際の企業の組織構造に基づく区分を行うため、その区分に際して恣意性が入りにくい。

当委員会の検討の過程では、特に本項(1)の長所を重視し、我が国においてもマネジメント・アプローチに基づくセグメント情報を導入すべきであるという意見があった。また、従来のセグメント情報の開示に対しては、セグメント区分が不十分であり、財務諸表利用者の期待を満たしていないのではないかという見方や、企業の経営の多角化を適切に反映した情報開示となっていないのではないかという批判的な見方もあった。マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の導入は、こうした状況を改善する上でも望ましいとする意見があった。

48. その一方、マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報は、米国会計基準の検討の際にも指摘されていたように、企業の組織構造に基づく情報であるため、企業間の比較を困難にし、また、同一企業の年度間の比較が困難になるという短所や、内部的に利用されている財務情報を基礎とした情報の開示を要求することは、企業の事業活動の障害となる可能性があるという短所があるとされている。

49. 当委員会が平成18年12月に公表した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」では、会計情報が有する財務諸表利用者の意思決定との関連性は、会計情報の基本的な特性である意思決定有用性を支える特性の1つとされており、会計情報の信頼性と共に、会計情報が財務諸表利用者の意思決定にとって有用であるか否かを直接判定する規準として機能するとされている。これに対して、会計情報の比較可能性は、会計情報が有用であるために必要とされる最低限の基礎的な条件とされ、意思決定有用性を直接的に判定する特性とは考えられていない。このように、会計情報の財務諸表利用者の意思決定との関連性は、比較可能性の確保に優先すると考えられている。

50. 当委員会は、マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の長所(第47項参照)と短所(第48項参照)を比較検討した結果、財務諸表利用者が経営者の視点で企業を理解できる情報を財務諸表に開示することによって、財務諸表利用者の意思決定により有用な情報を提供することができると判断し、我が国のセグメント情報開示にマネジメント・アプローチを導入することとした。

従来のセグメント情報との比較

51. 従来のセグメント情報と本会計基準に基づくセグメント情報を比較すると、従来は「事業の種類別セグメント情報」、「所在地別セグメント情報」及び「海外売上高」について企業の連結財務諸表を分解した情報の開示を企業に求めていた。一方、本会計基準が導入したマネジメント・アプローチでは、セグメントの区分方法あるいは測定方法が特定の方法に限定されておらず、経営者の意思決定や業績評価に使用されている情報に基づく一組のセグメント情報を開示することを求めている。このように、従来のセグメント情報と本会計基準に基づくセグメント情報の違いは、経営者の実際の意思決定や業績評価に使用されている情報に基づくか否かという違いである。なお、従来企業が開示してきたセグメント情報の事業の種類や地域による区分方法あるいは測定方法が、マネジメント・アプローチによるセグメントの区分方法や測定方法と異ならない場合には、本会計基準の適用後も従来と同様の方法により開示されることが考えられる。

事業活動上の障害

52. 当委員会では、公開草案に対するコメントを受けて、マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の開示が企業の事業活動上の障害を生じさせると考えられる場合において、開示を免除する取扱いを認めるべきかを再度検討した。公開草案に対するコメントの中で指摘された事業活動上の障害とは次のようなものであった。

(1) 細分化されたセグメント情報の開示を求められる企業は、そうでない競争相手に対して、事業活動上、不利になる可能性がある。

(2) 特定の顧客向け、もしくは特定の製品又はサービスに関するセグメント情報の開示を求められる企業は、顧客との価格交渉等を行う上で、不利になる可能性がある。

53. 国際的な会計基準の検討においても、セグメント情報の開示によって企業の事業活動に障害が生じる可能性が懸念され、対応が検討された。米国会計基準の検討の際には、こうした懸念に対し、次のような指摘がなされていた。

(1) 企業の事業活動上の障害を生じさせる場合でも、それはマネジメント・アプローチによるセグメント情報を開示しない企業に比べ、より資本市場のメリットを得るために当該企業が負担すべき義務である。

(2) 企業の競争相手の多くは、財務諸表の情報よりも詳細な当該企業に関するその他の情報を有しているため、セグメント情報の開示が、当該企業の事業活動の障害となることはない。

(3) 企業がセグメント情報において開示すべき情報は、単一の事業のみを行う小規模な企業が財務諸表において開示する情報よりも詳細な情報ではない。

米国会計基準の検討では、こうした指摘も踏まえ、企業の事業活動上の障害を生じさせる場合における一定の取扱いを定めることは、広い範囲にわたり会計基準に準拠しない開示を認めることになるとして、例外的な取扱いを定めないこととした。また、国際財務報告基準の検討においても、この問題が検討されたものの、最終的には米国会計基準と同様の取扱いとされている。

54. 企業の国際化や多角化の程度が異なれば、開示すべきセグメントの区分方法は異なることとなり、これは、マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報に限らず、従来のセグメント情報でも同様であると考えられる。例えば、事業がより多角化されている企業は、そうでない企業に比べ、より大きな単位に区分してセグメント情報を開示するものと考えられる。また、国際的な会計基準で採用されているマネジメント・アプローチは、企業の経営者が意思決定や業績評価に用いている情報そのものを開示することが財務諸表利用者にとって有用であるとする考え方に基づくものである。検討の結果、当委員会は、企業の事業活動に障害を生じさせると考えられる場合における例外的な取扱いを定めないこととした。

関連情報

55. 本会計基準では、製品及びサービスに関する情報並びに地域に関する情報の開示を、セグメント情報の関連情報として定めている(第29項(1)及び(2)参照)。従来、我が国ではセグメント情報として、「事業の種類別セグメント情報」、「所在地別セグメント情報」及び「海外売上高」の3つの情報が開示されてきた。これらの情報は、財務諸表利用者が多角化、国際化した企業の過去の業績及び将来の見込みについて適切な判断を下すために有用な情報を提供するものとされてきたが、マネジメント・アプローチを採用した場合、類似の製品及びサービス、あるいは地域によって分割されたセグメント情報が開示されない可能性がある。このため、当委員会は、国際的な会計基準と同様に、類似の製品及びサービス、あるいは地域を基礎としたセグメント情報を開示していない場合には、関連情報として一定の情報の開示を求めることとした。また、本会計基準では、主要な顧客に関する情報についても、国際的な会計基準と同様、関連情報として開示を求めることとした(第29項(3)参照)。これらの関連情報を開示することにより、マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の短所とされる比較可能性の問題に対処する補完的な情報を、財務諸表利用者に提供することができると考えられる。

固定資産の減損損失及びのれんに関する情報

56. 本会計基準では、セグメント情報及びその関連情報の開示に加えて、財務諸表利用者にとって有用な情報として、固定資産の減損損失及びのれんに関する報告セグメント別情報の開示についても定めている。

範囲

57. 従来、セグメント情報は、連結財務諸表の注記情報としてのみ要求されてきた。これは、連結財務諸表制度の見直しにより連結情報を中心とした開示制度への転換が図られる中で、特に子会社を通じて行われる経営の多角化、国際化に関する情報の充実が求められたことによるものと考えられる。一方、本会計基準で採用したマネジメント・アプローチは、企業内部で使用されている情報を基礎としたセグメント情報を財務諸表利用者に提供することを目的としていることから、企業の組織の形態によって、開示される情報を差別化することはもはや適当ではないと考えられる。このため、当委員会では、連結財務諸表を作成していない場合は、個別財務諸表の注記情報として本会計基準に基づくセグメント情報等の開示を求めることとした(第3項参照)。

基本原則

58. 本会計基準では、企業がセグメント情報等を開示するにあたっての基本的な考え方を、本会計基準の基本原則として示している(第4項及び第5項参照)。基本原則は、本会計基準の具体的な適用にあたって常に留意すべきものとして定められている。

59. 本会計基準の定めであっても、重要性が乏しく、財務諸表利用者の判断を誤らせる可能性がないと考えられる定めについては、これを適用することを要しない。

60. また、マネジメント・アプローチに基づき、最高経営意思決定機関の意思決定のために報告されている情報を基礎としている場合であっても、当該情報が財務諸表利用者の判断を誤らせる可能性があると考えられるときには、これを開示することは適当ではない。例えば、複数の企業を介在させて、各企業の帳簿上通過させるだけの取引のように、収益の総額表示が明らかに適当ではない取引について、損益計算書上は純額で処理しているにもかかわらず、最高経営意思決定機関に対して顧客からの対価の総額を報告していることを理由に、セグメント情報上、当該収益を総額により開示することは適当ではないと考えられる。

セグメント情報の開示

事業セグメントの識別

事業セグメントの定義

61. セグメント情報は、売上高、利益(又は損失)、資産その他の財務情報を、事業の構成単位に分別した情報である。本会計基準が採用したマネジメント・アプローチでは、経営者が経営上の意思決定を行い、また、業績を評価するために、企業の事業活動を区分した方法に基づいて、単一の区分方法によるセグメント情報を財務諸表に開示することとしているが、本会計基準では、当該目的で経営者の設定する企業の構成単位を「事業セグメント」というものとし、その定義を定めている(第6項参照)。

垂直に統合されている企業

62. 事業セグメントの収益及び費用には、同一企業内の他の構成単位との取引に関連する収益及び費用を含むこととしているため(第6項(1)参照)、事業セグメントには、企業内の他の事業セグメントに販売する企業の構成単位も含まれる。製造から販売までの各段階の構成単位に関する情報は、特定の事業のために垂直に統合した企業を理解するためには重要な場合がある。企業内部の事業活動であったとしても、その性質や経営環境がそれぞれ異なる場合には、こうした企業の構成単位が事業セグメントとなることがあると考えられる。

最高経営意思決定機関

63. 第8項に定める企業の最高経営意思決定機関は、取締役会、執行役員会議といった会議体である場合や、最高経営責任者(CEO)又は最高執行責任者(COO)といった個人である場合などが考えられる。

64. 事業セグメントは、企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、また、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するものとされている(第6項(2)参照)。企業が行う配分すべき資源に関する意思決定又は業績評価の方法は、当該企業の規模や業種等によって多様であるものの、企業が行う各事業活動に関する経営計画等の決定と、その成果の事後的な評価等からなる場合が多いと考えられる。

分離された財務情報

65. 企業の構成単位が事業セグメントの要件を満たすためには、当該構成単位について分離された財務情報が入手できる必要がある(第6項(3)参照)。当委員会では、この分離された財務情報に一定の条件を設けるべきかを検討した。特に、各構成単位の資産に関する情報については、分離された財務情報を入手できない場合があると考えられることから、分離された財務情報に資産に関する情報が含まれていることを条件とすべきかどうかについて検討した。

66. 従来のセグメント情報では、開示される各セグメントの売上高及び利益(又は損失)並びに資産について、一定の情報が開示されてきた。本会計基準においてマネジメント・アプローチを採用した結果、従来開示されていた項目が、セグメント情報上、開示されなくなることは適当ではないとする意見もあった。しかし、当委員会は、マネジメント・アプローチを採用した趣旨からすれば、企業は実際に最高経営意思決定機関に利用されている情報を基礎としてセグメント情報を開示すべきであり、開示のみを目的とした情報を作成することを要求すべきではないと判断し、事業セグメントの決定の基礎となる財務情報に、一定の情報が含まれていることを条件としないこととした。

セグメントの区分方法が複数ある場合の取扱い

67. 多くの場合、企業は事業セグメントの要件(第6項参照)に基づいて、事業セグメントの区分方法を特定することができる。しかしながら、企業において事業活動を様々な方法により分析した複数の報告書が作成され、最高経営意思決定機関がこれらを使用していることによって、事業セグメントの区分方法が複数ある場合がある。この場合、企業は、いずれの区分方法を事業セグメントとなる構成単位の区分方法とするかを決定する必要がある。本会計基準では、国際的な会計基準と同様に、この決定にあたっては、各構成単位の事業活動の特徴、それらについて責任を有する管理者の存在及び取締役会等に提出される情報などの要素を基準にして、企業の事業セグメントとなる構成単位の単一の区分方法を決定することとした(第9項参照)。

報告セグメントの決定

集約基準及び量的基準

68. 当委員会では、報告セグメントの決定方法として、識別した事業セグメントの集約基準及び量的基準が検討された。従来のセグメント情報の開示においても、企業が開示対象とすべきセグメントを決定するにあたって考慮すべき重要性の基準を定めており、また、「事業の種類別セグメント情報」の事業区分の決定について、製品の種類・性質、製造方法、販売市場等の類似性を考慮して、経営の多角化の実態を適切に反映した情報を開示できるようにしなければならないとされていた。

69. 識別されたすべての事業セグメントをセグメント情報として開示することが、経営者の視点を財務諸表利用者に提供するというマネジメント・アプローチの考え方と最も整合的であるという見方もある。しかし、こうした見方については、国際的な会計基準では、細分化され過ぎた構成単位の情報は、財務諸表利用者にとって有用ではなく、かつ企業が開示するにあたって負担になると考えられている。このため、国際的な会計基準では、報告すべきセグメントを決定するための集約基準及び量的基準を定めている。

70. 当委員会の検討においても、細分化され過ぎたセグメント情報は、財務諸表利用者にとって必ずしも有用な情報とはならないとの意見があった。このため、国際的な会計基準の取扱いを参考として、複数の事業セグメントをその経済的特徴の類似性等に基づいて集約するための基準が検討された。SFAS 第131号では、小売チェーン店が個別に10店の店舗を所有し、各店舗がそれぞれ事業セグメントの要件を満たしていたとしても、各構成単位が同質であると考えられる場合、集約すべきであるとの例示がある。

71. 当委員会の検討の過程では、国際的な会計基準に定められている事業セグメントの集約基準は厳格過ぎるため、より柔軟な取扱いとすることも検討すべきではないかという意見もあった。しかしながら、事業セグメントは企業の経営者が意思決定のために実際に用いている構成単位であり、マネジメント・アプローチが経営者の視点を財務諸表利用者に提供することを目的としている以上、事業セグメントの集約は、類似する事業上のリスクを有し、それらを集約しても財務諸表利用者の意思決定に重要な影響を与えない場合に限られるべきであるとされた。このため、本会計基準では、国際的な会計基準と同様に集約基準を定めることとした(第11項参照)。

72. また、マネジメント・アプローチを導入した結果、一部の企業において非常に多数の報告セグメントが開示される可能性があるとの意見があった。こうした指摘に対応するため、当委員会では、重要性の低い事業セグメントの開示を省略する際に考慮すべき量的基準についても検討した。検討の結果、本会計基準では、報告セグメントを決定する際に考慮すべき一定の基準値を定めることとした(第12項参照)。

73. 当委員会は、第12項の量的基準を満たさない複数の事業セグメントを結合して報告セグメントとすることができる要件についても定めることとした(第13項参照)。

74. 従来のセグメント情報の開示では、「その他」として一括されたセグメントを除く開示の対象となったセグメントの売上高合計が連結損益計算書の売上高の50%以下である場合には、その理由を明らかにするとともに「その他」として一括されたセグメントについて一定の事項を開示することとされていた。重要性の低い事業セグメントの開示を省略する際の基準値を検討するにあたっては、従来のセグメント情報開示の実務を考慮し、損益計算書の売上高の50%を基準値とすべきであるという意見がある一方で、区分されているセグメントの数が不十分という指摘があることからも、国際的な会計基準で定めている損益計算書の売上高の75%を基準値とすべきであるという意見があった。検討の結果、本会計基準では、国際的な会計基準と同様の基準値を定めることとした(第14項参照)。

75. 国際的な会計基準では、報告すべきセグメントの数には実務上一定の限度があると考えられており、その限度を正確に決定することはできないが、報告すべきセグメントの数が10を超える場合には、企業は当該区分によるセグメント情報を開示すべきか否かを検討すべきであるとされている。当委員会の検討においても、企業が報告すべきセグメント数の限度を定めることは、マネジメント・アプローチを採用する趣旨に反するのではないかという意見がある一方で、細分化され過ぎたセグメント情報は、財務諸表利用者にとって有用な情報とはならないと考えられることから、一定の限度を示すべきではないかという意見があった。検討の結果、報告セグメントの数が10を超えることは否定されないため、一定の限度を定めないこととした。ただし、セグメントの数が10を超える場合には、企業は、当該セグメント情報の区分方法が財務諸表利用者に適切な情報を提供するものであるかについて、慎重に判断することが必要になると考えられる。

76. 事業セグメントの量的な重要性が変化した結果、報告セグメントとして開示する事業セグメントの範囲を変更する場合には、その旨及びセグメント情報に与える影響を開示するものとした(第16項参照)。この場合、前年度のセグメント情報を、当年度の報告セグメントの区分により作り直したものと比較して開示することも考えられる。

セグメント情報の開示項目と測定方法

報告セグメントの概要

77. 企業は、報告セグメントの概要として、(1)報告セグメントの決定方法、(2)各報告セグメントに属する製品及びサービスの種類を開示しなければならない(第18項参照)。本会計基準で採用しているマネジメント・アプローチでは、報告セグメントを決定する方法は企業によって異なることとなる。したがって、財務諸表利用者が適切にセグメント情報を理解することができるように、報告セグメントの決定方法として、事業セグメントを識別するために用いた方法や複数の事業セグメントを集約したか否か等について開示する必要がある。

利益(又は損失)、資産及び負債等の額

78. 企業は、報告セグメントの利益(又は損失)の額を開示しなければならない(第19項参照)。この利益(又は損失)は、最高経営意思決定機関に報告される金額に基づいて開示される必要があるが(第23項参照)、本会計基準では当該利益(又は損失)の測定方法を特に定めていない。この取扱いは、各セグメントの営業利益(又は損失)や経常利益(又は損失)を開示するものとされていた従来のセグメント情報の開示の取扱いとは異なることに留意する必要がある。

79. 企業は、各報告セグメントの資産の額を開示しなければならない(第19項参照)。ただし、事業セグメントの財務情報として資産に関する情報がない場合には、事業セグメントに配分された資産がないものとして、その旨を開示することに留意する必要がある(第24項(3)なお書き参照)。

80. 各報告セグメントの負債の開示について、米国会計基準の検討では、企業は多くの場合に全社的な資金調達活動を目的とする借入金等の負債をセグメント別に配分しておらず、財務諸表利用者にとっても、各報告セグメントに関する負債の情報価値は比較的乏しいとされた。このため、SFAS 第131号では、報告セグメントの負債金額の開示は要求されていない。一方、国際財務報告基準の検討では、最高経営意思決定機関による事業セグメントの資源配分の意思決定や業績評価にあたって、セグメント別の負債が考慮されている場合に、その金額を開示することは、マネジメント・アプローチの趣旨に矛盾しないとされた。

このため、IFRS 第8号では、事業セグメントごとの負債に関する情報が、企業の最高経営意思決定機関に定期的に提供されている場合、企業は、当該金額をセグメント情報に開示する必要があるとし、SFAS 第131号とは異なる取扱いを定めている。

81. 当委員会においても、各報告セグメントの負債の開示についての取扱いを検討した。国際財務報告基準が検討された際にも指摘されたように、例えば、各事業セグメントの負債の額そのものの情報や、各事業セグメントの資産の額から負債の額を控除した額の情報が、財務諸表利用者にとって有用である場合もあると考えられる。検討の結果、本会計基準では、IFRS 第8号と同様、負債に関する情報が、最高経営意思決定機関に対して定期的に提供され、使用されている場合、企業は当該金額をセグメント情報で開示することとした(第20項参照)。

82. また、本会計基準では、セグメント情報として開示するその他の重要な項目の開示について定めている(第21項及び第22項参照)。公開草案では、第21項及び第22項の開示項目に関して、基本原則に照らして開示の必要性が乏しい項目については開示を省略することができる旨を明示していたが、この記載をしたことにより、この旨を明示していない他の項目に関しては重要性の取扱いが考慮されないのではないかと考える複数のコメントが寄せられる結果となった。当委員会では、重要性は本会計基準のすべての項目について考慮されるべきものであると考えているため、この記載を削除することとした。

測定方法に関する事項

83. マネジメント・アプローチは、企業の最高経営意思決定機関が意思決定のために使用する情報を基礎としてセグメント情報を開示する方法である。当委員会の検討では、財務諸表計上額との差異調整に関する情報が開示されるとしても、財務諸表と整合的でないセグメント情報は、財務諸表利用者の判断を誤らせる可能性があり、このため、第19項から第22項の定めに基づいて開示する項目の額については、財務諸表を作成するために採用される会計処理の原則及び手続に準拠した測定方法に基づくべきではないかとの意見もあった。

しかしながら、財務諸表とセグメント情報の整合性を重視する結果、企業がセグメント情報を開示するためだけに作成した情報を開示することは、マネジメント・アプローチを採用した趣旨から適当ではない。本会計基準では、セグメント情報の各項目の測定方法について、財務諸表を作成するために採用される会計処理の原則及び手続に準拠することを求めないこととした。

84. ただし、最高経営意思決定機関が意思決定のために使用している情報において、合理的ではない費用等の配分がなされている場合には、当該情報が、最高経営意思決定機関が意思決定のために使用している情報であったとしても、財務諸表利用者にとって有用な情報であるとはいえないと考えられる。このため、特定の収益、費用、資産又は負債を事業セグメントに配分する場合、企業は最高経営意思決定機関が使用する財務情報上、合理的な基準に従って配分する必要がある旨を定めている(第23項参照)。

85. また、本会計基準では、財務諸表利用者のセグメント情報の理解に資する情報として、第19項から第22項の定めに基づいて企業が開示する項目の額の測定方法について一定の事項を開示することとした(第24項参照)。当該事項として、企業は、財務諸表の計上額とセグメント情報の金額の差異についての情報や、当該開示項目の配分基準が相互に整合しているかなどについて記載する。企業は、事業セグメントに対して、特定の資産を配分することなく、関連する費用のみを配分することもあると考えられるが、このような場合には、その旨を開示するものとされている(第24項(6)参照)。

86. 事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法を前年度に採用した方法から変更した場合、当該変更がセグメント情報に与える影響を開示することとされているが(第24項(5)参照)、測定方法の変更がセグメント情報に重要な影響を与えるときには、前年度のセグメント情報との比較可能性を確保する観点から、測定方法の変更による影響額そのものを開示する方法に代えて、前年度のセグメント情報を当年度の事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法に基づき作り直した情報を開示することにより、その影響を開示することが望ましい。なお、事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法の変更は、会計方針の変更として取り扱わないことに留意する必要がある。これは、財務諸表における会計方針の変更に伴って事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法を変更した場合であっても同様である。

差異調整に関する事項

87. 本会計基準では、第19項から第22項の定めに基づいて企業が開示する項目について、それぞれ報告セグメントの合計額と財務諸表計上額との間に生じている差異に関する事項を開示することとしている(第25項参照)。国際的な会計基準では、報告セグメントの利益(又は損失)合計額と損益計算書の税引前当期純利益(又は損失)あるいは当期純利益(又は損失)の差異に関する事項を開示することとされている。当委員会の検討の過程では、経営者の経営上の意思決定において、我が国では、営業利益(又は損失)や経常利益(又は損失)を重視している企業が多いのではないかという意見があった。また、従来のセグメント情報が各セグメントの営業利益(又は損失)又は経常利益(又は損失)に関する情報を開示している取扱いも考慮し、本会計基準では、報告セグメントの利益(又は損失)の合計額と、損益計算書に開示される利益(又は損失)のうち、企業の事業内容等から適当と判断される科目の財務諸表計上額との間の差異に関する事項の開示を求めることとした(第26項参照)。

組織変更等によるセグメントの区分方法の変更

88. 本会計基準では、企業の組織構造の変更等により報告セグメントを変更する場合には、事実の変化によるセグメントの区分方法の変更として取り扱い、その旨及び前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示するものとするが、後者を開示することが実務上困難な場合には、当年度のセグメント情報を前年度の区分方法により作成した情報を開示することができるとしている(第27項参照)。ただし、企業が従来とは大きく異なる組織体制を採用した場合のように、当該情報を開示することが実務上困難な場合もあると考えられる。このような場合、本会計基準では、当該情報に代えて、その旨及びその理由を開示することとした(第28項参照)。

関連情報の開示

製品及びサービスに関する情報

89. 本会計基準は、製品・サービス区分に関して、外部顧客への売上高を開示することを定めている(第30項参照)。企業の製品又はサービス別の売上高の動向に関する情報は、財務諸表利用者が過去の業績と事業の成長可能性を評価するにあたり重要であると考えられる。

地域に関する情報

90. 本会計基準は、地域別の売上高及び有形固定資産の額を開示することを定めている(第31項参照)。異なる地域の顧客への売上高に関する情報は、財務諸表利用者が特定の地域における経済状況の悪化のリスクや経済状況の好転による事業の成長可能性を理解するために有用な情報であると考えられる。また、異なる地域に所在する有形固定資産に関する情報は、企業のリスクの集中(例えば、特定の地域における政治的リスク等)を理解するために有用な情報であると考えられる。

91. 従来のセグメント情報の「所在地別セグメント情報」や「海外売上高」においては、国又は近接する幾つかの国等をグルーピングした地域に区分した情報が開示されてきた。しかし、近接する幾つかの国等をグルーピングした場合、異なる経済状況や政治的リスクを有する国が1つの地域として集約されてしまう可能性がある。このため、本会計基準では、企業が事業活動を行う地域を国内と海外に大別した上で、海外のうち区分して開示すべき重要な国がある場合に、それを区分して開示することとしている。

92. 当委員会は、地域別の資産の情報として開示する資産の範囲について検討した。この検討にあたっては、地域に固有のリスクの影響は、必ずしも有形固定資産に限られるわけではなく、一部の流動資産にも関係すると考えられることから、各地域に配分される資産の総額を開示すべきであるという意見があった。一方で、配分される資産の総額を開示する場合、当該地域に固有のリスクとは必ずしも関係のない流動資産やその他の資産を含むことになり、当該関連情報の趣旨から適当ではないという意見があった。検討の結果、本会計基準では、地域別の資産の情報として、有形固定資産の額を開示することとした(第31項(2)参照)。この取扱いは、SFAS 第131号の取扱いと同様である。なお、資産の移動が困難であると考えられる流動資産、例えば、販売用不動産や未成工事支出金に関する地域別の情報が、財務諸表利用者にとって重要であると考えられる場合には、有形固定資産の額に加えて、これらに係る額についても開示することが望ましい。

主要な顧客に関する情報

93. 本会計基準では、主要な顧客に関する情報についても、国際的な会計基準の取扱いを参考に定めている(第32項参照)。なお、同一の企業集団に属する顧客への売上高については、企業が知り得る限り、これを集約して主要な顧客に該当するか否かを判断することが望ましい。

固定資産の減損損失に関する報告セグメント別情報の開示

94. 従来のセグメント情報の「事業の種類別セグメント情報」では、連結財務諸表規則に定める取扱いにより、重要な減損損失を企業が認識した場合には、各セグメントへの影響額を開示することとされていた。これは、重要な減損損失は、減価償却費と同様に、資産残高に重要な影響を及ぼすことから開示が求められたものと考えられる。

95. 米国会計基準では、米国財務会計基準書第144号「長期性資産の減損又は処分の会計処理」において、減損した長期性資産(又は資産グループ)がSFAS 第131号に基づき報告されているときには当該セグメントを開示しなければならないとされている。また、国際会計基準第36号「資産の減損」においても、報告セグメント別の減損損失の金額を開示することとされている。

96. 当委員会では、報告セグメント別の減損損失の開示を企業に求めることを検討した。マネジメント・アプローチによるセグメント情報において、経営者が実際に意思決定に用いている情報の中に減損損失が含まれていなければ、当該項目を開示することは求められていない。しかしながら、従来のセグメント情報において開示されてきた重要な項目について、本会計基準が適用された結果、開示されないこととなるのは適当ではないとする意見もある。また、国際的な会計基準においても、セグメント情報開示に関する会計基準以外の会計基準において、減損損失について報告セグメントと関連付けた開示が求められている。検討の結果、当委員会は、本会計基準において、固定資産の減損損失の報告セグメント別情報の開示について定めることとした(第33項参照)。

のれんに関する報告セグメント別情報の開示

97. 当委員会では、のれんに関する報告セグメント別の開示についても検討した。減損損失の場合とは異なり、従来のセグメント情報では、のれんについてセグメント別の情報の開示を求めていないため、こうした情報の開示を企業に求めるのであれば、財務諸表を作成する企業の負担は増加することとなる。しかし、当委員会の検討では、企業の当期純利益(又は損失)に含まれるのれん及び負ののれんの償却額について報告セグメント別の情報を開示することは、財務諸表利用者が企業の報告セグメント別の将来キャッシュ・フローを予測する上で有用な情報であると考えられるため、開示を求めるべきではないかとの意見があった。また、これとあわせて、将来の期間の損益となるのれん及び負ののれんの未償却残高についても、その償却額と同様に、有用であるとの意見があった。なお、米国会計基準では、米国財務会計基準書第142号「のれん及びその他の無形資産」において、のれんに関する一定の情報を報告セグメント別に提供すること、また、各報告セグメントののれんの配分額に重要な変動がある場合にはこれを開示することが定められている。検討の結果、当委員会は、本会計基準において、のれん及び負ののれんの償却額と未償却残高の報告セグメント別情報の開示について定めることとした(第34項参照)。

適用時期等

98. 本会計基準については、財務諸表作成者ほか各関係者における受入準備が必要であることを考慮して、平成22年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から適用することとしている(第35項参照)。

99. 適用初年度においては、財務情報の期間比較可能性を確保する観点から、当年度のセグメント情報とともに報告される前年度のセグメント情報について、本会計基準に準拠して作り直したセグメント情報を開示するものとするが、これを開示することが実務上困難な場合には、当年度のセグメント情報を前年度のセグメント情報の取扱いに基づき作成した情報を開示できることとした(第36項参照)。しかしながら、いずれの方法によることも実務上困難な場合が想定されるため、このような場合には、当該情報に代えて、その旨及びその理由を記載することとした(第37項参照)。

以上


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