ホーム

会社法

会計基準

仕訳処理

実務メモ

財務分析

税額表

会社書式

法令集

 

目次

 

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成17年12月27日に公表した「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」から「設例及び参考」部分を除いたものです。「設例・参考」は別に記載してあります。なお、オリジナルとは異なる表現をしている部分や省略した部分があります。実務への適用にあたっては念のためにオリジナルの適用指針等を確認してください。

 

企業会計基準適用指針第11号

ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

(目的・適用指針・結論の背景)

平成17年12月27日

企業会計基準委員会

目次

目的

適用指針

用語の定義

株式オプション価格算定モデル

株式がグリーン・シート市場で取引されている企業

株式分割、株式併合、第三者割当増資に伴う調整

ストック・オプションに関する会計処理

権利確定日以前の会計処理

ストック・オプションの公正な評価単価の算定方法

ストック・オプションの公正な評価単価の算定技法が満たすべき要件

株式オプションに共通する特性の算定技法への反映

ストック・オプションに共通する特性の算定技法への反映

算定技法の変更

基礎数値の見積り

株価変動性

公開後の日が浅い企業における株価変動性の算定上の留意点

ストック・オプションの予想残存期間

無リスクの利子率

予想残存期間等における配当額

ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定

複数の権利確定条件が付されている場合

段階的に権利行使が可能となるストック・オプション

未公開企業における取扱い

未公開企業が会計基準適用開始前に付与し、会計基準適用開始後、条件変更を行う場合の取扱い

親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合の取扱い

財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引の会計処理

いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額の判定

開示

会計基準の適用による財務諸表への影響額の注記

ストック・オプションを付与する取引についての注記

ストック・オプションの内容、規模及びその変動状況

集約した記載及び簡便な算定方法

ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法

ストック・オプションの権利確定数の見積方法

未公開企業におけるストック・オプションの公正な評価単価の見積方法

単位当たりの本源的価値によった場合の開示に関する簡便な算定方法

ストック・オプションの条件変更の状況

財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる場合

連結財務諸表において開示が求められるストック・オプション等の範囲

議決

結論の背景

用語の定義

株式オプション価格算定モデル

ストック・オプションに関する会計処理

権利確定日以前の会計処理

ストック・オプションの公正な評価単価の算定方法

株式オプションに共通する特性の算定技法への反映

ストック・オプションに共通する特性の算定技法への反映

算定技法の変更

基礎数値の見積り

株価変動性の算定に関して検討された点

株価変動性の予測手法

公開後の日が浅い企業における株価変動性の算定

ストック・オプションの予想残存期間

ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定

株価条件と勤務条件がともに付されており、そのいずれかが達成されれば権利確定する場合

対象勤務期間中の会社都合退職により権利行使が妨げられないストック・オプションの取扱い

待機期間が設定されていても対象勤務期間がないと判断される場合

役員の任期満了後にはじめて権利行使が可能となるストック・オプション

権利確定条件が付されていない場合及び権利確定日を合理的に予測することができない場合

権利行使の可否が直前の期の業績に依存する場合の取扱い

段階的に権利行使が可能となるストック・オプション

未公開企業における取扱い

公正な評価単価によることができる場合

未公開企業における自社の株式価値の評価方法

親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合等の取扱い

親会社が自社株式オプションを直接子会社の従業員等に付与する場合

親会社が自社株式オプションを子会社経由でその従業員等に付与する場合

子会社が自社の従業員等に報酬として親会社株式オプションを付与する場合

子会社の従業員等以外に付与する場合

財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引の会計処理

いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額の判定

開示

ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法

未公開企業における自社の株式の評価方法についての注記

連結財務諸表において開示が求められるストック・オプション等の範囲

設例・参考は別に記載してあります。


目的

1. 本適用指針は、ストック・オプション等に関する会計基準(以下「会計基準」という。)を適用する上での指針を示すことを目的とする。

適用指針

用語の定義

株式オプション価格算定モデル

2. 本適用指針における用語の定義は次のとおりである。

(1) 「離散時間型モデル」とは、株式オプション価格算定モデル等の株式オプション価値の算定技法のうち、将来の株価の変動が、一定間隔の時点において一定の確率に基づいて生じると仮定する方法をいう。離散時間型モデルの典型例として、1期間後の株価が一定の確率に基づいて上昇するか下落するかの2つのケースのみを想定する二項モデルがある。

(2) 「連続時間型モデル」とは、株式オプション価格算定モデル等の株式オプション価値の算定技法のうち、将来の株価の変動が、一定の確率的な分布に基づいて常時連続的に生じると仮定する方法をいう。連続時間型モデルの典型例として、ブラック・ショールズ式がある。

株式がグリーン・シート市場で取引されている企業

3. 企業の株式がいわゆるグリーン・シート市場において取引されていても、組織された店頭市場に登録されている企業には該当せず、会計基準第2項(14)にいう「公開企業」にはあたらない。

株式分割、株式併合、第三者割当増資に伴う調整

4. 株式分割、株式併合、又は株式の第三者割当増資が行われた場合に、付与されたストック・オプションの実質的内容を維持するための調整として行われた行使価格やストック・オプション数の変更は、会計基準第2項(15)にいう、ストック・オプションに係る「条件変更」にはあたらない。

ストック・オプションに関する会計処理

権利確定日以前の会計処理

ストック・オプションの公正な評価単価の算定方法

(ストック・オプションの公正な評価単価の算定技法が満たすべき要件)

5. ストック・オプションの公正な評価単価の算定に用いる算定技法は、次の要件を満たさなければならない。

(1) 確立された理論を基礎としており、実務で広く適用されていること

(2) 権利確定の見込数(すなわち、ストック・オプションの付与数から失効の見込数を控除した数)に関するものを除き、算定の対象となるストック・オプションの主要な特性をすべて反映していること(会計基準第6項(2))

ストック・オプションの特性は、次のように整理することができる。

@ 株式オプションに共通する特性

A ストック・オプションに共通する特性

B 算定対象である個々のストック・オプションに固有の特性このうち、Bに属する特性の多くは、ストック・オプションの失効の見込数に関するものである。

(株式オプションに共通する特性の算定技法への反映)

6. 株式オプションに共通する特性を、ストック・オプションの公正な評価単価の算定に用いる算定技法に反映するためには、使用する算定技法において少なくとも次の基礎数値が考慮されている必要がある。

(1) オプションの行使価格

(2) オプションの満期までの期間

(3) 算定時点における株価(算定時点は付与日又は条件変更日)

(4) 株価変動性

(5) (2)の期間における配当額

(6) 無リスクの利子率(割引率)

なお、株価変動性及び配当額については、将来の予想値に関する最善の見積値である点に留意する必要がある。

(ストック・オプションに共通する特性の算定技法への反映)

7. ストック・オプションに共通する、譲渡が禁止(又は制限)されているという特性は、次の方法により、公正な評価単価の算定に用いる算定技法に反映する。

(1) 連続時間型モデルによる算定技法を用いる場合には、第6項(2)のオプションの満期までの期間に代えて、算定時点から権利行使されると見込まれる平均的な時期までの期間(以下「予想残存期間」という。)を用いる。

(2) 離散時間型モデルによる算定技法を用いる場合には、算定時点から第6項(2)のオプションの満期までの期間全体の株価変動を想定した上で、株価が一定率以上に上昇した時点で権利行使が行われるなど、従業員等の権利行使等に関する行動傾向を想定する。

(算定技法の変更)

8. 算定技法の変更が認められるのは、原則として次の場合に限られる。

(1) 従来付与したストック・オプションと異なる特性を有するストック・オプションを付与し、その特性を反映するために必要な場合

(2) 新たにより優れた算定技法が開発され、これを用いることで、より信頼性の高い算定が可能となる場合

(基礎数値の見積り)

9. 算定技法で用いる基礎数値の見積りにあたっては、原則として、当該企業に係る客観的な過去の情報を基礎としつつ、個別のケースに応じて合理的な調整を行う。

(株価変動性)

10. 第7項(1)又は(2)の期間における株価変動性(ボラティリティとも呼ばれる。)を見積る際には、過去の株価実績に基づく予測(ヒストリカル・ボラティリティとも呼ばれる。)を基礎としつつ、次のような要因を考慮する。

(1) 株価情報を収集する期間(以下「株価情報収集期間」という。)

第7項(1)又は(2)の期間に対応する直近期間の株価情報を用いる。

(2) 価格観察の頻度

一定の観察頻度で、一定の観察時点に規則的に価格を観察することとし、これをみだりに変更してはならない。観察頻度は、信頼性のある測定を行うために十分な情報量を確保できる限り、日次、週次又は月次のいずれを用いてもよい。

(3) 異常情報

収集した株価情報の中に、明らかな異常情報が含まれていると認められる場合には、(1)の株価情報収集期間に代え、次のいずれかの株価情報収集期間を用い、当該異常情報を除外して見積りを行う。

@ 第7項(1)又は(2)の期間に対応する過去の連続した期間で、異常情報を含まない直近の期間

A 異常情報の含まれる期間を除いた期間が、全体として第7項(1)又は(2)の期間に対応する過去の直近期間

(4) 企業を巡る状況の不連続的変化

(1)の株価情報収集期間内に、当該企業の業態が全く変わってしまうなど、企業を巡る状況に連続性を絶たれるような大きな変化が生じた場合(そのような変化の予定が公表された場合を含む。)には、当該株価情報収集期間内の株価情報であっても、そのような企業を巡る不連続的な変化が生じる前の情報が、将来の株価変動性を見積る基礎とはならない場合があることに留意する必要がある。

この場合には、利用可能な期間の株価情報に基づいて株価変動性を見積り、特に利用可能な期間が第7項(1)又は(2)の期間に比べて著しく短い場合には、第12項(2)の方法により不足する情報量を補うこともできる。

11. 株価変動性の算定にあたり、当該企業の株式オプション(株式オプションが組み込まれた金融商品を含む。)が市場で取引されている場合には、その市場価格から逆算される株価変動性(インプライド・ボラティリティとも呼ばれる。)の算定値に十分な信頼性があると認められるときに限り、これを利用することができる。算定値に十分な信頼性があると認められるためには、次の要件を満たす必要がある。

(1) 当該株式オプションの市場価格が、活発に取引されている市場において形成されたものであること

(2) 算定対象であるストック・オプションの公正な評価単価の算定日に十分に近い時点で測定された株式オプションの市場価格に基づいて計算されたものであること

(3) 算定対象であるストック・オプションと、株価変動性の計算に使用する株式オプションが、次のような点で類似していること

@ 権利行使価格

A 算定対象であるストック・オプションの第7項(1)又は(2)の期間と、株価変動性の計算に使用する株式オプションの満期までの期間

(公開後の日が浅い企業における株価変動性の算定上の留意点)

12. 公開後の日が浅い企業における株価変動性の見積りに関しては、次の点に留意する必要がある。

(1) 少なくとも2年分の株価情報収集期間を確保でき、その期間内に、十分な量の株価情報を収集することができれば、それらの実績情報に基づき、適切に株価変動性を見積ることができるものと推定する。

(2) (1)に該当しない場合には、当該株価情報収集期間内に収集された株価情報を基礎としつつも、次の方法で、不足する情報量を補うことができる。

@ 当該企業の類似の株式オプションの市場価格から株価変動性を逆算することができる場合には、その情報

A @以外の場合には、当該企業と類似する企業に関する株価変動性の見積りなお、Aの情報を用いて不足する情報量を補う場合には、業種、企業の発展段階や規模、各種の財務指標等を考慮して、当該企業と最も類似性の高い企業を選定する。選定された企業は、その後みだりに変更してはならない。

(ストック・オプションの予想残存期間)

13. ストック・オプションの予想残存期間の見積りに際しては、次の要因を考慮する。

(1) 権利確定までの期間

(2) ストック・オプションの権利行使に関する従業員等の行動傾向(過去の実績から観察される権利行使の状況や時期、権利確定後の退職や満期時の権利失効等に関する傾向)

従業員の年齢、勤続年数、職位等によって、これらの傾向に大きな差異が認められる場合には、これらのグループごとにこの要因を考慮する。

(3) 株価変動性

14. 前項に基づき、ストック・オプションの予想残存期間を合理的に見積ることができない場合には、ストック・オプションの予想残存期間は、算定時点から権利行使期間の中間点までの期間と推定する。

(無リスクの利子率)

15. 無リスクの利子率には、第7項(1)又は(2)の期間に対応する期間の国債、政府機関債又は優良社債の利回りを用いる。

(予想残存期間等における配当額)

16. 第7項(1)又は(2)の期間に予想される配当額の見積りは、原則として、過去の実績に基づいて行う。

ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定

17. 各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定することとされている(会計基準第5項)。すなわち、ストック・オプションの公正な評価額を、これと対価関係にあるサービスの受領に対応させて、対象 勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づいて費用計上することになる。対象勤務期間は、付与日から権利確定日までの期間であり(会計基準第2項(9))、権利確定日は次のように判定する。

(1) 勤務条件が付されている場合には、勤務条件を満たし権利が確定する日

(2) 勤務条件は明示されていないが、権利行使期間の開始日が明示されており、かつ、 それ以前にストック・オプションを付与された従業員等が自己都合で退職した場合に権利行使ができなくなる場合には、権利行使期間の開始日の前日(会計基準第2項(7))。この場合には、勤務条件が付されているものとみなす。

(3) 条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合には、権利確定日として合理的に予測される日

18. 権利確定条件が付されていない場合(すなわち、付与日にすでに権利が確定している場合)には、対象勤務期間はなく、付与日に一時に費用を計上する。

前項(3)の場合において、株価条件が付されている等、権利確定日を合理的に予測することが困難なため、予測を行わないときには、対象勤務期間はないものとみなし、付与日に一時に費用を計上する。

(複数の権利確定条件が付されている場合)

19. 複数の権利確定条件が付されている場合には、権利確定日は次のように判定する。

(1) それらのうち、いずれか1つを満たせばストック・オプションの権利が確定する場合には、最も早期に達成される条件が満たされる日

(2) それらすべてを満たさなければストック・オプションの権利が確定しない場合には、達成に最も長期を要する条件が満たされる日

なお、ストック・オプションの権利が確定するために、ともに満たすべき複数の条件と、いずれか1つを満たせば足りる複数の条件とが混在している場合には、上記(1)と(2)を組み合わせて判定する。

また、株価条件等、条件の達成に要する期間が固定的でなく、かつ、その権利確定日を合理的に予測することが困難な権利確定条件(前項後段)が付されているため、予測を行わない場合については、本項の適用上は、当該権利確定条件は付されていないものとみなす。

(段階的に権利行使が可能となるストック・オプション)

20. 付与されたストック・オプションの中に、権利行使期間開始日の異なるストック・オプションが含まれているため、時の経過とともに付与されたストック・オプションの一定部分ごとに段階的に権利行使が可能となる場合がある。このような場合には、原則として、権利行使期間開始日の異なるごとに別個のストック・オプションとして会計処理を行う。ただし、付与された単位でまとめて会計処理を行うことも妨げない。

未公開企業における取扱い

未公開企業が会計基準適用開始前に付与し、会計基準適用開始後、条件変更を行う場合の取扱い

21. 会計基準の適用開始前に付与したストック・オプションの条件を、会計基準の適用開始後に変更した場合には、ストック・オプションの条件変更日における「公正な評価単価」が、付与日における「公正な評価単価」を上回った部分に見合うストック・オプションの公正な評価額の増加額につき、条件変更日以後、会計基準を適用して会計処理を行うこととされているが(会計基準第18項)、未公開企業が会計基準の適用開始前に付与していたストック・オプションに関し、会計基準の適用後に条件変更を行った場合には、次のように取り扱う。

(1) 条件変更時にも未公開企業である場合には、当該企業の選択に従い、単位当たりの本源的価値又は公正な評価単価に基づいて、付与日と条件変更日におけるストック・オプションの単価を比較する。

(2) 条件変更時に公開企業となっている場合には、付与日における単位当たりの本源的価値又は公正な評価単価と、条件変更日における公正な評価単価を比較する。

親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合の取扱い

22. 親会社が、自社株式オプションを子会社の従業員等に付与した場合には、次の会計処理を行う。

(1) 親会社が自社株式オプションを付与した結果、これに対応して、親会社が子会社において享受したサービスの消費を、親会社の個別財務諸表において費用として計上する(「株式報酬費用」等の科目名称を用いる。)。

(2) 子会社の従業員等に対する当該親会社株式オプションの付与が子会社の報酬体系に組み入れられている等、子会社においても自社の従業員等に対する報酬として位置付けられている場合には、その付与と引換えに従業員等から提供された上記サービスの消費を、子会社の個別財務諸表においても費用として計上する(「給料手当」等の科目名称を用いる。)。

この場合、子会社の個別財務諸表においては、同時に、報酬の負担を免れたことによる利益を特別利益として計上する(「株式報酬受入益」等の科目名称を用いる。)。

(3) 子会社の従業員等に対する当該親会社株式オプションの付与が子会社の報酬としては位置付けられていない場合には、子会社の個別財務諸表において会計処理を要しない。

財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引の会計処理

いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額の判定

23. 取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社株式オプション(又は対価として用いられた自社の株式)の公正な評価額若しくは取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額により算定することとされているが(会計基準第14項(2)及び第15項(2))、いずれの側の評価額で算定するかの判断は次のように行う。

(1) 公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自社の株式を用いる取引に関しては、通常、自社の株式の市場価格による信頼性のある測定が可能であり、これに基づいて算定する。

(2) 公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプションを対価として用いる取引に関しては、通常、自社の株式の市場価格を基礎として、自社株式オプションの公正な評価額を信頼性をもって測定することが可能であり、自社株式オプションの公正な評価額に基づいて算定を行う。ただし、特に取得する財貨等が市場価格とより直接的に結びついているような場合には、財貨等の市場価格で測定することで、より信頼性の高い測定が可能となる場合があり得る。

(3) 未公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプションを用いた場合、これと対価関係にある財貨又はサービスの市場価格を参照できる場合には、その市場価格で算定を行う。財貨又はサービスの市場価格を直接参照できない場合にも、その市場価格を合理的に見積ることにより、自社株式オプションより信頼性の高い測定が可能となる場合が多く、そのような場合には、その合理的に見積られた市場価格で算定を行う。

(4) 未公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自社の株式を用いた場合であって、第三者割当増資や株式の売買がなされており、これらの情報をもとに、一定程度の信頼性をもって自社の株式の公正な評価額を見積ることができる場合には、これに基づいて算定する。

開示

会計基準の適用による財務諸表への影響額の注記

24. 会計基準の適用対象となっている取引について、会計基準を適用したことによる財務諸表への次の影響額を注記する。

(1) サービスを取得した場合には、当該会計期間において計上した費用の額とその科目名称(ストック・オプションを付与した場合は、これに該当する。当該会計期間に新たに付与したストック・オプション等に係る当期の費用計上額と、当該会計期間より前に付与されたストック・オプション等に係る当期の費用計上額の双方を含む。)

(2) 財貨を取得した場合には、その取引による当初の資産計上額(又は費用計上額)と科目名称

(3) 権利不行使による失効が生じた場合には、利益として計上した額

ストック・オプションを付与する取引についての注記

(ストック・オプションの内容、規模及びその変動状況)

25. 当該会計期間において存在したストック・オプションについて、ストック・オプションの内容、規模及びその変動状況として、次の事項を注記する。

(1) 付与対象者の区分(役員、従業員、などの別)及び人数

(2) ストック・オプションの数(権利行使された場合に交付することとなる株式の数で表示する。当該企業が複数の種類の株式を発行している場合には、株式の種類別に記載を行う。)

(3) 付与日

(4) 権利確定条件(付されていない場合にはその旨)

(5) 対象勤務期間(定めがない場合にはその旨)

(6) 権利行使期間

(7) 権利行使価格

(8) 付与日における公正な評価単価

(9) 権利行使時の株価の平均値(当該会計期間中に権利行使されたものを対象とする。)

26. 前項(2)のストック・オプションの数に関しては、下記の区分ごとに記載する(A、B、D及びEについては、当該会計期間中の数を記載し、C及びFについては、期首及び期末の数を記載する。)?/p>

@ 付与数

A 権利不確定による失効数

B 権利確定数

C 権利未確定残数

D 権利行使数

E 権利不行使による失効数

F 権利確定後の未行使残数

(集約した記載及び簡便な算定方法)

27. 第25項の注記は、次のいずれかの方法で記載する。

(1) 契約単位で記載する方法

(2) 複数の契約を集約して記載する方法

付与対象者の区分、権利確定条件の内容、対象勤務期間や権利行使期間の長さが概ね類似しているものに関しては、(2)の記載方法によることができる。

ただし、株式の公開前に付与したストック・オプションと、公開後に付与したストック・オプションを集約して記載することはできない。権利行使価格の設定方法が著しく異なるものについても、集約して記載することはできない。

なお、第25項(9)の計算については、月中の平均株価を用いる等、簡便で合理的な算定方法によることができる。

28. 前項(2)により記載を行う場合、第25項(7)、(8)及び(9)の項目に関する集約の方法は次による。

(1) 権利行使時の株価の平均値については当該会計期間中の権利行使数に基づく加重平均値

(2) 付与日における公正な評価単価及び権利行使価格については当該会計期間中の権利行使数に基づく加重平均値と当該会計期間末の残存数(権利未確定数と権利確定未行使数との合計)に基づく加重平均値

(ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法)

29. 当該会計期間中に付与されたストック・オプション及び当該会計期間中の条件変更により公正な評価単価が変更されたストック・オプションにつき、公正な評価単価の見積方法として使用した算定技法並びに使用した主な基礎数値及びその見積方法を記載する。使用した算定技法と使用した主な基礎数値の見積方法に関し、内容が同一のものについては集約して記載することができる。

(ストック・オプションの権利確定数の見積方法)

30. ストック・オプションの権利確定数の見積方法として、勤務条件や業績条件の不達成による失効数の見積方法を記載する。

(未公開企業におけるストック・オプションの公正な評価単価の見積方法)

31. 未公開企業においてストック・オプションを付与している場合には、ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法(会計基準第16 項(3))として、その価値算定の基礎となる自社の株式の評価方法についても注記する。

(単位当たりの本源的価値によった場合の開示に関する簡便な算定方法)

32. 未公開企業において、ストック・オプションの公正な評価単価に代え、単位当たりの本源的価値によった場合には、各会計期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額を注記しなければならない(会計基準第16項(5))が、この計算は、月中の平均株価を基礎として算定する等の簡便で合理的な算定方法によることができる。

(ストック・オプションの条件変更の状況)

33. ストック・オプションの条件変更を行った結果、ストック・オプションの内容として注記した事項に変更が生じた場合は、その変更内容について注記する。

条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が付与日の公正な評価単価以下となったため、公正な評価単価の見直しを行わなかった場合(会計基準第10項(2)の場合)にも、その旨を注記する。

財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる場合

34. 財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いた場合には、該当する項目につき、ストック・オプションの場合の注記に準じて開示を行う。

この場合、取得した財貨又はサービスの内容及び財貨又はサービスの取得価額の算定を当該財貨又はサービスの公正な評価額によった場合には、その旨を併せて注記する。

連結財務諸表において開示が求められるストック・オプション等の範囲

35. 連結財務諸表においては、親会社が付与したストック・オプション等の他、連結子会社が付与したストック・オプション等についても開示の対象となる。

議決

36. 本適用指針は、第95回企業会計基準委員会に出席した委員12名全員の賛成により承認された。

結論の背景

用語の定義

株式オプション価格算定モデル

37. 今日、実務で広く利用されている株式オプション価格算定モデル等の算定技法においては、株価が時間とともに確率的にどのように変化していくかを想定し、その株式オプションを保有し続けることにより、保有者が将来得るであろうキャッシュ・フローの期待値の現在価値を求めることにより、株式オプションの価値を算定している。

モデルを設計する上で、こうした将来の株価の変動が、離散した一定間隔の時点において生じると仮定するか、常時連続的に生じると仮定するかにより、離散時間型モデルと、連続時間型モデルに大別されるが、現在実務で広く利用されている株式オプション価値の算定技法は、このいずれかのモデルに属していると考えられる。

ストック・オプションに関する会計処理

権利確定日以前の会計処理

ストック・オプションの公正な評価単価の算定方法

38. 「公正な評価額」とは、一般に、市場価格に基づく価額をいい(会計基準第2項(12))、ストック・オプションの公正な評価単価は、本来はストック・オプションの市場価格をいう。

しかし、ストック・オプションは、通常、譲渡が禁止されており、市場で取引されていないため市場価格が存在しない。したがって、ストック・オプションの公正な評価単価を見積るためには、株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている株式オプション価格算定モデル等の算定技法を利用することが必要になる(会計基準第6項(2))。

このように、市場価格がない場合に、当該ストック・オプションの原資産である自社の株式の市場価格に基づき、合理的に算定された価額を入手することができるときには、当該合理的に算定された価額は公正な評価額と認められる(会計基準第2項(12))。

しかし、ブラック・ショールズ式等の株式オプション価格算定モデルは、市場で取引される通常の株式オプションの価格を算定するために開発されたものであり、従業員等に報酬として付与されるストック・オプション固有の特性(ストック・オプションに共通する特性や、当該ストック・オプションに固有の特性)を反映した価値算定を行うようには設計されていない。そこで、算定技法の利用にあたっては、付与するストック・オプションの特性や条件等を適切に反映するよう、必要に応じて調整を加えることとされている(会計基準第6項(2))。

39. 算定技法は今後も進化していくものと考えられるため、適用指針において、特定の算定技法の採用を具体的に定めることは必ずしも適切とはいえない。

しかし、無条件にどのような算定技法でも許容できるものでもない。そこで、本適用指針では、他の国際的な会計基準と同様に、会計基準の適用上、採用することができる算定技法が満たすべき一般的な条件を示すこととした(第5項)。

(株式オプションに共通する特性の算定技法への反映)

40. ブラック・ショールズ式等の株式オプション価格算定モデルは、株式オプションに共通する特性を反映して、その公正な評価単価を求めるよう開発された算定技法である。

したがって、株式オプションに共通する特性を反映するためには、少なくともこれらのモデルに共通する基礎数値が考慮されていることが必要と考えられる。

(ストック・オプションに共通する特性の算定技法への反映)

41. ストック・オプションに共通する特性として、譲渡が禁止(又は制限)されていることや権利不確定による失効の可能性を挙げることができるが、後者の特性に関しては、ストック・オプション数として見積ることとなるため(会計基準第6項(2))、ストック・オプションの公正な評価単価の算定に反映しなければならないのは前者の特性である。

この特性の結果、ストック・オプションを譲渡することができなければ、ストック・オプションの権利行使時点において残存する時間的価値、すなわち権利行使時点から権利行使期間の満了日(満期日)までの期間に対応するストック・オプションの時間的価値を実現する方法がなく、これを放棄せざるを得ないため、譲渡可能な自社株式オプションに比べ、その分だけ公正な評価単価は低下すると考えられる。

このため、連続時間型モデルの算定技法を用いた場合に、ストック・オプションの公正な評価単価の算定値にこの特性を反映するためには、基礎数値のうち、第6項(2)の当該ストック・オプションの満期までの期間に代えて、実際にその時間的価値を享受できる、ストック・オプションの予想残存期間を用いるのが合理的であると考えられる。

これに対して、離散時間型モデルの算定技法を用いる場合には、モデルの性格上、ストック・オプションの満期までの期間全体の株価変動を想定した上で、従業員等の権利行使等に関する行動傾向(例えば、行使価格をどの程度上回った場合に、権利行使される傾向があるか等)を織り込むことで譲渡禁止(又は制限)の特性を反映することになる。ただし、この場合にも、ストック・オプションの予想残存期間は、このような算定の過程において、結果的に見積られていることになる。

(算定技法の変更)

42. 第5項(2)では、ストック・オプションの公正な評価単価の算定に用いる算定技法が満たすべき要件として、算定の対象となるストック・オプションの主要な特性をすべて反映することが求められている。したがって、従来付与していたストック・オプションと異なる特性を有するストック・オプションが新たに付与された場合には、その特性を適切に反映するために必要な算定技法の変更は、当然認められる。

また、本適用指針は、算定技法が進化することによる恩恵を享受できるよう、あえて特定の算定技法を指定していない(第39 項)。この趣旨から、より優れた算定技法が開発された場合には、新たに付与されるストック・オプションから、当該算定技法を採用することも認められる。

しかし、以上のような合理的な理由がない場合に、みだりに算定技法の変更を行うことは認められないと考えられる。

(基礎数値の見積り)

43. 市場で取引されている株式オプションが存在するか、原資産たる株式が市場で十分に取引されているか、企業そのものの事業構造が大幅に変化していないかどうか等、ストック・オプションを巡る条件は多様と考えられる。このため、基礎数値の算定方法そのものを一律に定めることは必ずしも最善の見積りには結びつかず、本適用指針においては、合理的な見積りを行うために考慮すべき事項を示しつつ、このような点を踏まえて最善の見積りを行うよう求めることとした。

44. 将来の予測値である基礎数値の見積りに関しても、最も客観的な基礎を提供できるのは過去の実績値である。したがって、株価変動性やストック・オプションの残存期間等の基礎数値の見積りにあたって、基本的には、過去の実績値を基礎とすることが適当である。

(株価変動性の算定に関して検討された点)

45. 株価変動性の予測方法については、一般に、過去の株価実績に基づく方法と、類似の当該企業の株式オプションが市場で取引されている場合に、その市場価格から株式オプション価格算定モデルを用いて、逆算で求める方法とが用いられている。

このうち、過去の株価実績に基づく方法は、公開企業など株式が市場で取引されている企業について広く利用可能な方法であるが、情報の収集期間としてどのような期間を選択することが適切であるのか、その期間中に、当該企業を巡る状況に連続性を絶つような変化があった場合の取扱いをどうすべきか、あるいは、将来、当該企業を巡る状況に連続性を絶つような変化の生じることが見込まれる場合にはどうすべきか、さらに、価格観察の頻度の選択をどうすべきか、収集した情報の中に異常値が含まれている場合にはどうすべきか、といった点の検討がなされた。また、公開企業であっても、公開後の日が浅いため、十分な情報量が得られない場合の取扱いも検討された。

一方、自社株式オプションが市場で取引されており、逆算により株価変動性を求めることが可能な場合には、このようにして求められる株価変動性と、過去の株価実績で求めた株価変動性のいずれを優先すべきか、このような逆算による株価変動性が妥当性を有するには、どのような条件を満たす必要があるのかといった点についても検討がなされた。

(株価変動性の予測手法)

46. ストック・オプションの算定日現在における公正な評価単価を求めるために必要な株価変動性は、第7項の(1)又は(2)の期間における将来の株価変動性の算定日現在での予測値である。予測の手法としては、一般に、過去の株価実績に基づいて将来の株価変動性を予測する方法と、類似の株式オプションの市場価格から株価変動性を逆算する方法とが考えられる。

過去の株価実績に基づいて将来の株価変動性を予測する方法は、公開企業において広く利用可能であり、株価変動性の基礎情報である客観的な株価情報そのものに基づいて予測を行うため、一般的には、この方法が最も適切であると考えられる(第44項)。しかし、過去の株価情報に異常値が含まれている場合や、十分な量の情報が確保できない場合、さらには、事業構造等企業を巡る状況が不連続的に変化する場合等は、このような手法で求めた株価変動性に合理的な修正を加える必要がある。

一方、類似の株式オプションの市場価格から株価変動性を逆算する方法を用いれば、理論的には、市場の期待を直接反映した株価変動性の予測を得ることができる。しかし、この方法が利用できるのは、類似の株式オプションの市場価格を参照できる場合に限られる。公正な評価単価の算定対象であるストック・オプションと異なる条件を持つ株式オプションをもとにしたり、取引量の少ない株式オプションをもとにしたりしてこの方法に基づく計算を行っても、信頼できる予測ができる保証はない。このため、本適用指針においては、このような手法によって、一定の信頼性をもって株価変動性を算定できると考えられる場合の一般的要件を示すこととした(第11項)。そうした条件が満たされる場合には、市場の期待を直接反映した将来の株価変動性の予測が得られることになり、特に、過去の株価実績に基づく予測値に合理的な修正を加える必要がある場合には、重要な参考資料となると考えられる。

このように、本適用指針では、過去の株価実績に基づいて見積る方法を基礎としつつも、類似の株式オプションの市場価格から一定の信頼性をもって株価変動性を逆算できる場合には、過去の株価実績に基づく情報を補足する資料としてこれを利用できることとした。

(公開後の日が浅い企業における株価変動性の算定)

47. 公開後の日が浅い企業については、自社に関する株価情報に基づき公正な評価単価の見積りが可能であり、単位当たりの本源的価値による方法の採用は認めていないが、自社に関する株価情報の量が十分でなく、これを他の情報で補うことが必要な場合も想定される。ただし、そのような企業においても、株価変動性の見積りにあたっては、まず、自社の株価情報を参照すべきであり、その上で、それだけでは信頼性のある測定を行うための情報量として不足する場合にのみ、同じ公開企業の中から、業種、企業の発展段階や規模、各種の財務諸表等を考慮して比較可能な類似企業を選定し、その情報を参考にすることができることとした(第12項)。

(ストック・オプションの予想残存期間)

48. ストック・オプションの予想残存期間の見積りに際し考慮すべき要因(第13項)のうち、権利確定までの期間に関しては、予想残存期間が少なくともこれよりも長い期間となること、また、株価変動性に関しては、高くなるほど一般に早く行使される傾向があること等に留意する必要がある。

49. 連続時間型モデルによる算定技法で用いられる予想残存期間についても、他の項目と同様に、適用指針として、合理的な見積りを行うために考慮すべき要因を示すにとどめることも考えられる。

しかし、ストック・オプションの行使状況に最も大きな影響を与える要因は将来の株価そのものの状況であると考えられるため、合理的な見積りを行うためには、十分な統計データの蓄積が必要になるものと考えられる。

そのため、合理的な見積りが実際に困難である場合が考えられることから、このような場合には、付与したストック・オプションが権利行使期間中に一様に分散的に行使されるものと仮定し、平均値としての予想残存期間を算定時点から権利行使期間の中間点までの期間と推定することとした(第14項)。

ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定

50. 企業がその従業員等に対し業務執行や労働サービスの対価としてストック・オプションを付与した場合には、その後、これに対応して企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上することとされており(会計基準第4項)、各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額を、これと対価関係にあるサービスの提供期間である対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定することとされている(会計基準第5項)。

したがって、会計基準の適用にあたっては、ストック・オプションと対応するサービスの提供期間を判定することが重要となる。その対応関係は、当該ストック・オプションに係る企業と従業員等との間の契約によって決まり、その合理的な解釈によって判断すべきものと考えられる。

51. 勤務条件等、条件達成に要する期間が固定的である権利確定条件が付されている場合には、付与日からその期間の末日までが対象勤務期間である。

勤務条件が明示されていなくても、権利行使期間の開始日が明示されており、かつ、ストック・オプションを付与された従業員等が権利行使期間の開始日より前に自己都合で退職すれば権利行使できない場合には、実質的に、権利行使期間開始日の前日までの勤務の継続を権利確定条件(勤務条件)として要求しているものと理解することができる。

また、業績条件等、条件達成に要する期間が固定的でない権利確定条件が付されている場合であっても、権利確定日を合理的に予測することができる場合には、この予測により対象勤務期間を判定することになると考えられる(第17項)。

(株価条件と勤務条件がともに付されており、そのいずれかが達成されれば権利確定する場合)

52. 勤務条件が付されているストック・オプションについて、さらに株価条件が付されており、その株価条件を達成すれば、勤務条件の達成を待たずにストック・オプションの権利が確定することとされている場合であって、株価条件による権利確定日の予測を行わない場合には、勤務条件のみが付されているものとして会計処理を行うこととされている(第19項また書き)。

ただし、この場合でも、勤務条件の達成を待たずに権利確定した場合には、対象勤務期間のうち、残りの期間に計上する予定であった費用を権利確定時に一時に計上することになるので、留意が必要である。

(対象勤務期間中の会社都合退職により権利行使が妨げられないストック・オプションの取扱い)

53. 勤務条件が付されているストック・オプション(第17項(2)において、勤務条件が付されているとみなされる場合を含む。)において、これを付与された者がその通常の対象勤務期間の途中で会社都合により退職した場合であっても権利行使が妨げられないこととされている場合がある。この場合、そのような事象が生じたストック・オプションについては、その事象が生じた日に権利確定すると考えることができる。定年退職の場合等、その日をあらかじめ合理的に予測することができる場合には、ストック・オプションの付与日から、その合理的に予測された日までの対象勤務期間に基づいて会計処理を行うことになる。

(待機期間が設定されていても対象勤務期間がないと判断される場合)

54. 税制適格要件を満たすため待機期間が設定されている場合であっても、当該ストック・オプションの被付与者が、税制適格オプションであることに伴う税制上の優遇措置を放棄すれば、待機期間の終了を待たずいつでも権利行使が可能である旨の定めがあるような場合には、対象勤務期間がないものと考えられるため、付与時に一時に費用を計上することになる。

(役員の任期満了後にはじめて権利行使が可能となるストック・オプション)

55. 役員就任時に付与され、その任期の長短のいかんにかかわらず、任期満了後にはじめて権利行使が可能となるストック・オプションは、他の条件から対象勤務期間が明らかである場合を除き、権利行使のために業務執行を最低限継続する必要のある、就任後の最初の任期におけるサービス提供と対価関係にあるものと推定する。

(権利確定条件が付されていない場合及び権利確定日を合理的に予測することができない場合)

56. 権利確定条件が付されていない場合、すなわち、付与日に既に権利が確定している場合には、対象勤務期間はなく、付与日に一時に費用計上することになる。このような場合には、付与日以前のサービス提供に対する対価として付与されたものと理解される。

また、株価条件等、権利確定日を合理的に予測することが困難な権利確定条件が付されており、予測を行わない場合にも、対象勤務期間がないものとみなし、権利確定条件が付されていない場合と同様に、付与日に一時に費用計上を求めることが適切であると判断した(第18項)。

(権利行使の可否が直前の期の業績に依存する場合の取扱い)

57. 業績による条件の中には、権利行使の可否を直前の期の業績に係らしめているものがあり、このような場合の会計処理が検討された。このような条件が付されている場合、条件を満たしていったん権利行使が可能となった後も、業績悪化により権利行使できなくなったり、その後の業績回復により再び権利行使可能となったりというように、権利行使の可否が変動する可能性がある。

このような条件が付されている場合にも、企業は取引の対象として従業員等から一定の企業業績に結びつくようなサービスの提供がなされることを期待しているものと考えられ、最初に条件を満たすまではストック・オプションとしての権利は確定していないと考えられることから、このような条件も一種の権利確定条件(業績条件)であるということができる。

しかし、いったん権利行使が可能となった後、実際に権利行使を行えばその権利行使は確定し、その後の業績変動のいかんによって、その権利行使が取り消されることはない。その意味において、会計基準の適用上は、最初に条件を満たした段階で権利が確定し、その後の業績の変動により確定した権利が取り消され、再び権利の確定しない状態に逆戻りすることはないと考えるべきである。したがって、いったん権利行使可能となった後に権利行使を行わないまま権利行使期間の末日を経過した場合には、権利不行使による失効として会計処理することが適当であると考えられる。

(段階的に権利行使が可能となるストック・オプション)

58. 同時に付与された一団のストック・オプションの中に、権利行使期間開始日の異なるストック・オプションが含まれている場合には、内容の異なる複数のストック・オプションが同時に付与されたものと考え、内容が同一のストック・オプションごとにそれぞれ会計処理を行うことが原則と考えられる。

また、同時にまとめて付与されるストック・オプションは、全体として一定期間のサービス提供に対する報酬として付与されているとの見方もあることから、付与した単位でまとめて計算を行う方法も認めることとした。この場合には、付与した単位で公正な評価額を、最後に到来する権利行使期間開始日の前日までの期間にわたって費用計上することになる。

未公開企業における取扱い

公正な評価単価によることができる場合

59. 未公開企業の取扱いに関する適用指針に関しては、第21 項に規定した事項の他、ストック・オプションの単価について、「公正な評価単価」を見積る方法と、「単位当たりの本源的価値」を見積る方法がともに認められているが、常に両者の選択が可能なのかという問題(本項)及び未公開企業における自社の株式価値の評価方法(第60項及び第61項)について検討がなされた。

前者については、公開草案に対して寄せられたコメントの中には、未公開企業であっても、信頼性をもって、ストック・オプションの公正な評価単価を見積ることができると考える意見もあったが、自社の株価を参照できない以上、未公開企業については、そのような信頼性をもった見積りが困難であると考える意見もあった。

この点、例えば、未公開企業の場合に、専ら公開企業である他社の情報のみを用いて、これに基づく仮定の計算を行うことは、通常、当該企業自身のストック・オプションの公正な評価単価を計算することにはならないと考えられる。

しかし、本適用指針では、未公開株式の価値や、ストック・オプション価値の算定技法の今後の進化も想定しており、企業の置かれた状況と、用いる算定技法のいかんによっては、十分な信頼性をもってストック・オプションの公正な評価単価の見積りを行う可能性も想定されることから、未公開企業についても、本来原則である公正な評価単価によるストック・オプション価値の測定と、単位当たりの本源的価値を見積る方法をともに認めることが適当であると考えられる。

未公開企業における自社の株式価値の評価方法

60. 未公開企業の取扱いに関する適用指針に関しては、自社の株式価値の評価方法についても検討項目に掲げられた。一般に、市場価格を参照できない場合の株式価値の評価方法として、純資産法、キャッシュ・フロー法、配当還元法、取引事例比準法等、実務上様々な方法が用いられているが、公開草案に寄せられたコメントの中には、未公開企業において、自社の株式価値の評価方法について、本適用指針において明らかにするよう求めるものがあった。

しかし、どのような評価方法が最も適切であるかは、それぞれの企業の置かれた状況や、評価のための技法の発展状況等、様々な条件によって異なり得るため、あらかじめ適用指針において、評価方法を定めることは必ずしも適切とはいえない。しかし、ここで利用すべき評価方法は、例えば、当該株式を第三者に新規に発行する場合の価格を決定する際に用いられるような合理的な評価方法である必要があると考えられる。

61. 一般に、会計処理に関して採用する方法は、その結果として開示される情報の時系列的な比較可能性を高め、また、開示情報についての恣意的な操作を排除する等の観点から、特段の事情のない限り、継続的な適用を求めることが多い。

しかし、企業価値の実態を最もよく表し得る株式価値の評価方法は、企業の発展段階に応じて異なり得る。したがって、株式価値の評価方法に関しては、その開示を条件に、それぞれの評価時点において、企業価値を最もよく表し得ると考えられる方法を採用すればよいと考えられる。

親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合等の取扱い

62. 子会社の従業員等に、親会社株式を原資産とする株式オプションを付与する取引は、企業集団としてみれば、従業員等へのストック・オプションの付与に該当し、会計基準が適用される。しかし、同時に親会社及び子会社の個別財務諸表における会計処理も明らかにする必要がある。このような取引にも、次のようないくつかの態様が考えられるため、その態様ごとに会計処理が検討された。

(1) 親会社が自社株式オプションを、直接子会社の従業員等に付与する場合

(2) 親会社が自社株式オプションを、子会社経由でその従業員等に付与する場合

(3) 子会社が自社の従業員等に、報酬として親会社株式オプションを付与する場合

(4) (1)から(3)の各場合において、子会社の従業員等に代えて、子会社の従業員等以外の者に自社株式オプションを付与する場合

親会社が自社株式オプションを直接子会社の従業員等に付与する場合

63. 親会社が自社株式オプションを、直接子会社の従業員等に付与する場合には、親会社がこれをサービスの対価として付与するものと考えられ(会計基準第24 項)、親会社の個別財務諸表においては、この自社株式オプション付与に対応して、親会社が子会社において享受したサービスの消費を費用として計上することになると考えられる(第22項(1))。

この子会社従業員等に対する親会社株式オプションの付与が、同時に子会社においてその報酬体系に組み入れられている等、子会社においても、自社の従業員等に対する報酬として位置付けられている場合には、その報酬と引換えに子会社が受領したサービスの消費を子会社の個別財務諸表において、費用として計上することになると考えられる。

その場合には、子会社は、自らその報酬を負担しているわけではないため、子会社の財務諸表において、報酬の負担を免れたことによる利益を同時に計上する必要がある(第22項(2))。

一方、子会社従業員等に対する親会社株式オプションの付与が、子会社においては、報酬と位置付けられていない場合には、これと引換えに子会社が従業員等からサービスを受領したという関係にはないため、たとえ子会社がそのサービスを消費したとしても、子会社の財務諸表上、費用として計上することにはならず、何らの会計処理を要しないものと考えられる(第22項(3))。

親会社が自社株式オプションを子会社経由でその従業員等に付与する場合

64. 子会社がその従業員等に親会社株式オプションを付与する場合であっても、実質的に、親会社が自社株式オプションを、子会社経由でその従業員等に付与している場合には、通常、子会社は親会社からその株式オプションを無償で取得することになると考えられ、単に付与の経路が異なるだけで、前項と同じく、親会社がサービスの対価として自社株式オプションを付与したものと考えられる。したがって、親会社のみならず、子会社の個別財務諸表においても、前項と同様の会計処理を行うことになる(第22項)。

子会社が自社の従業員等に報酬として親会社株式オプションを付与する場合

65. 前項と同じく、子会社がその従業員等に、親会社株式オプションを付与する場合であっても、子会社自身の報酬として付与されている場合も考えられる。この場合には、子会社がその会社財産たる親会社株式オプションで報酬を支払ったものと理解でき、子会社の個別財務諸表において費用を計上することになる。しかし、この場合には、子会社が従業員等に付与する親会社株式オプションは、親会社が消費するサービスの対価ではないため、親会社の個別財務諸表において、子会社従業員等のサービス提供に関する費用を計上する必要はない。子会社は、様々な経緯で親会社株式オプションを取得することがあり得るが、報酬として用いるためこれを取得する場合には、通常、有償で取得することになるものと思われる。

子会社の従業員等以外に付与する場合

66. 第63項から第65項の取引においては、親会社株式オプション付与の対象が、その子会社の従業員等である場合が想定されている。しかし、付与の相手方が持分法適用会社の従業員等である場合であっても、それぞれの個別財務諸表における会計処理は、基本的には第63 項から第65 項の取扱いと変わらないものと考えられる。

財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引の会計処理

いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額の判定

67. 取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社株式オプションや自社の株式の公正な評価額と、これによって取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額で算定することとされている(会計基準第14項及び第15項)。

従業員等から提供されるサービスの対価としてストック・オプションが付与される取引に関しても基本的には同じ考え方を背景としているが、この場合には、ストック・オプションを付与した結果、従業員等から量又は質の面で、追加的に提供されるサービスの価値を信頼性をもって測定することが困難であるため、一律にストック・オプションの公正な評価額で算定することとされている(会計基準第5項)。

これに対して、ストック・オプション以外の場合、対価として用いられた自社株式オプションや自社の株式の公正な評価額と、これによって取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれの測定値の信頼性がより高いかの判定は、具体的な取引の諸要因を考慮して総合的に判定することになると考えられる。

自社の株式の市場価格を参照できる公開企業と、これのできない未公開企業では、自社株式オプションや自社の株式に関する価値の測定額の信頼性に大きな差があると考えられる。また、自社の株式そのものの価値測定額と、それを基礎としつつもこれに時間的価値の要因を加味して算定される自社株式オプション価値の測定額の信頼性にもまた差があると考えられる。本適用指針では、これらの要因に着目しつつ考え方の整理を行った(第23項)。

68. 公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自社の株式を用いる取引に関しては、通常、自社の株式の市場価格による信頼性のある測定が可能であるため、これに基づいて算定すべきものと考えられる(第23項(1))。公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプションを用いる取引に関しても、自社の株式の市場価格を基礎として、自社株式オプションの公正な評価額を、信頼性をもって測定することが可能であるため、通常はこれによる算定が適当であると考えられる。ただし、対価関係にある財貨等の内容いかんによっては、その客観的な市場価格をより直接的に観察できる場合も考えられ、このような場合には、これに基づいて算定を行う方が適切な場合もあり得る(第23項(2))。

69. 未公開企業においては、公開企業の場合と異なり、自社株式オプションの価値やその基礎となっている自社の株式の市場価格を参照することができない。このため、特に財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプションを用いる場合においては、対価関係にある財貨又はサービスの市場価格を直接参照できる場合にはその市場価格によることとし、さらに、財貨又はサービスの市場価格を直接参照できない場合であっても、その市場価格を合理的に見積ることができる場合が多いと考えられ、そのような場合には、その合理的に見積られた市場価格によるべきであると考えられる(第23項(3))。

70. 未公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として、自社の株式を用いる場合にも前項の場合と状況は類似しているが、自社株式オプションを対価として用いる場合と異なり、その価値の中に時間的価値は含まれておらず、未公開の段階であっても、株価算定に基づいて第三者割当増資や株式の売買がなされている場合には、これらの情報をもとに、一定程度の信頼性をもって、自社の株式の公正な評価額を見積ることができる場合も多いと考えられる(第23項(4))。

開示

71. 会計基準においては、その適用対象のうち、企業が従業員等に対してストック・オプションを付与する取引を中心的なものと想定しており、開示に関しても、まずこの取引を想定した注記内容を明らかにしている。

また、会計基準の適用対象であるその他の取引についても、該当する範囲内で、ストック・オプションの取引に準じた注記が求められている。

ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法

72. ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法(会計基準第16項(3))の具体的な内容として、使用した評価技法及び主な基礎数値とその見積方法についての注記が必要となるが(第29項)、例えば、ブラック・ショールズ式によった場合の主な基礎数値には、株価変動性、予想残存期間、配当、無リスクの利子率がある。なお、これら以外に、当該ストック・オプション固有の特性を反映するために特に使用した基礎数値がある場合については、それらについても記載を行うことになる。

未公開企業における自社の株式の評価方法についての注記

73. 会計基準では、ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法を注記することとされている(会計基準第16項(3))。未公開企業でストック・オプションを付与しており、その単価の算定を単位当たりの本源的価値の見積りによる場合には、公正な評価単価を単位当たりの本源的価値と読み替えることとなるため(会計基準第13項)、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積方法を注記することになるが、本源的価値は、算定時点における自社の株式の評価額から行使価格を控除したものであるため、実際には、自社の株式価値の評価方法を注記することになる。

また、未公開企業が付与したストック・オプションの単価の算定を公正な評価単価の見積りによる場合にも、その算定の基礎数値である自社の株式の評価額を見積ることになるため、やはり自社の株式価値の評価方法の注記が必要となる(第31項)。

連結財務諸表において開示が求められるストック・オプション等の範囲

74. 連結財務諸表においては、親会社が付与したストック・オプション等の他、連結子会社が付与したストック・オプション等についても、会計基準で開示が求められているすべての項目について開示の対象となる。

なお、持分法が一行連結である趣旨に鑑み、持分法適用会社が付与したストック・オプション等の開示までは求める必要はないと考えられる。


INDEX

ストック・オプション等に関する会計基準目次

ホーム会社法会計基準仕訳処理実務メモ財務分析税額表会社書式法令集

免 責リンクポリシープライバシーポリシー