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会計基準|結論の背景|適用指針設例目次

 

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成19年12月27日に公表した「工事契約に関する会計基準」から「結論の背景」部分を抜粋したものです。「目的・会計基準」は別に記載してあります。なお、オリジナルと異なる表現をしている部分があります。実務への適用にあたっては念のためにオリジナルの基準等を確認してください。

企業会計基準第15号

工事契約に関する会計基準

(結論の背景)

平成19年12年27日

企業会計基準委員会

目 次

目的・会計基準は別に記載してあります。

結論の背景

経緯

範囲

用語の定義

(工事原価の範囲)

(決算日における工事進捗度)

会計処理

工事契約に係る認識の単位

工事契約に係る認識基準

(工事収益総額の信頼性をもった見積り)

(工事原価総額の信頼性をもった見積り)

(工期との関係)

(工事原価回収基準)

(完成に近づいたことによる成果の確実性の改善)

工事進行基準の会計処理

(見積りの変更)

(工事進行基準の適用により計上される未収入額)

工事契約から損失が見込まれる場合の取扱い

開示

注記事項

適用時期等


結論の背景

経緯

29. これまで我が国では、長期請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを選択適用することができるとされてきた(企業会計原則注解 (注7))。このため、同じような請負工事契約であっても、企業の選択により異なる収益等の認識基準が適用される結果、財務諸表間の比較可能性が損なわれる場合があるとの指摘がなされていた。こうした指摘を踏まえ、当委員会においては、初期の段階から、工事契約に関する収益認識の方法が中長期的な検討課題として認識されてきた。

その後、四半期財務報告制度が導入されるなど、より適時な財務情報の提供への関心が高まり、この面からも工事契約に関する収益認識の方法について見直しの必要性が指摘されていた。また、工事契約に関する収益認識の方法に関しては、当委員会と国際会計基準審議会(IASB)との間で進められている会計基準のコンバージェンスに向けた協議の中でも、共同プロジェクトの第3回会合(平成18年3月開催)において短期プロジェクト項目における検討項目の1つに追加された。

こうした状況を受けて、当委員会は、平成18年7月に学識経験者を中心としたワーキング・グループを設置して本格的な検討の準備作業に着手した。その後、平成18年11月には工事契約専門委員会を設置し、理論的な側面からの検討とともに、実務上の問題点についても幅広く検討を重ね、平成19年8月には公開草案を公表して広く意見を求めた。さらに、当該公開草案に対して寄せられた意見を参考にして審議を行い、本会計基準を公表することとした。

範囲

30. 従来、工事進行基準と工事完成基準の選択適用が認められていた結果、同様の請負工事契約に関して適用される収益の認識基準が企業の選択により異なる可能性があった。本会計基準はそのような可能性を排除して、工事契約ごとに会社が適用すべき認識基準を明らかにすることとした。そのため、本会計基準は、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行う工事契約(第4項参照)を適用範囲としている。

このため、請負契約ではあっても専らサービスの提供を目的とする契約や、外形上は工事契約に類似する契約であっても、工事に係る労働サービスの提供そのものを目的とするような契約に関しては、本会計基準は適用されないことに留意する必要がある。本会計基準の適用範囲となる工事契約は、当事者間で既に合意されたものを指し、交渉中のものやそれ以前の段階のものは含まれない。

なお、本会計基準は、その適用対象外となる取引に係る収益の会計処理等については、従来の取扱いに対していかなる影響を及ぼすことも意図していない。

31. 工事は、典型的には土木・建築工事等、建設業において行われている取引を指すものとして用いられることが多い。しかし、本会計基準でいう工事契約はこれよりも広く、造船や、基本的な仕様や作業内容について顧客の指図に基づいて行う機械装置の製造に係る契約も含んでいる。このため、機械装置の製造であっても標準品を製造するような場合(特定の顧客からの受注であっても、あらかじめ主要な部分について仕様の定まったものを量産する場合には、これに含まれる。)には、たとえその付随的な部分について顧客に一定の選択が認められているようなときであっても、適用範囲に含まれないことに留意する必要がある。

また、移設や据付、試運転といった作業は、土木、建築、機械装置の製造等の工事契約に作業内容の一部として付随的に含まれることがあるが、単に物の引渡しを目的とする契約に付随してこうした作業が行われることもある。前者の場合には、一体として工事契約に該当し本会計基準の適用範囲に含まれるが、後者の場合には、本会計基準の適用範囲に含まれない(第44項参照)。ただし、例えば、構築物等に関する移設や据付を目的とする工事が、土木工事や建築工事等として独立に取引された場合には、本会計基準の適用範囲に含まれることになる。

32. 受注制作のソフトウェアの制作費については、「研究開発費等に係る会計基準」(平成10年3月 企業会計審議会)四1において、請負工事の会計処理に準じて処理することとされていることから、本会計基準は、このような取引についても、契約の形態(請負契約の形態をとるか、準委任契約の形態をとるか等)を問わず適用範囲に含めることとした。なお、受注制作のソフトウェアの範囲については、「研究開発費等に係る会計基準」を踏襲しており、従来と変わるものではない。その範囲は具体的には、実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」に示されている。

用語の定義

(工事原価の範囲)

33. 工事原価総額には、工事契約に係る認識の単位に含まれる施工者の義務を果たすためのすべての原価が含まれる。例えば、ある工事契約により、施工者が目的物を完成し、顧客に引き渡す義務を負っている場合には、目的物の完成に必要な原価のみならず、その引渡しの作業に要する原価も含まれる。

34. また、企業会計原則では、「長期の請負工事については、販売費及び一般管理費を適当な比率で請負工事に配分し、売上原価及び期末たな卸高に算入することができる。」とされている(企業会計原則 第二 3Fただし書き)。しかし、工事原価の範囲は、適正な原価計算基準に基づいて合理的に定まると考えられることなどから、この定めについては適用しないこととした。

(決算日における工事進捗度)

35. 決算日における工事進捗度は、工事契約に係る認識の単位に含まれている施工者の履行義務全体のうち、決算日までに遂行した部分の割合である。したがって、施工者が工事契約の義務を履行するために、単に目的物を完成させるだけでなく、その移設や据付等、引渡しのための作業が必要となる場合には、そのような付随的な作業内容を含む施工者の履行義務全体のうち、決算日までに遂行した部分の割合をいうことになる。

会計処理

36. 収益の認識に関しては、一般に、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものを対象とすることとされている(企業会計原則 第二 3B、同注解 (注6))。しかし、長期の未完成請負工事等については、工事が完成し、その引渡しが完了した日に工事収益の認識を行う方法(工事完成基準)とともに、工事の完成・引渡しより前の時点においても、決算期末に工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によって合理的な収益を見積って工事収益の認識を行う方法(工事進行基準)が認められてきた(企業会計原則 第二 3Bただし書き、同注解 (注7))。当委員会は、どのような場合に、どのような時点で収益認識を行うのが適切であるかを検討する上で、このような従来の取扱いの背景にある考え方を確認する必要があると考えた。

37. 財務報告の目的は、財務諸表の利用者が不確実な将来の成果である企業の将来キャッシュ・フローの予測、ひいては企業価値の評価に役立つ財務情報を提供することにあると考えられる。このためには、企業が資金をどのように投資し、投資にあたって期待された成果に対して実際にどれだけ成果を上げているかについての情報を提供することが重要である。すなわち、実績としての成果は、投資にあたって事前に期待されていた成果が事実となったと認められる時点で把握されることになる。

一般に、商品等の販売又は役務の給付によって実現した段階で収益を認識するという企業会計原則の考え方も、収益はこのように成果の確実性が得られた段階で認識すべきであるとの考え方に基づいているものと解される。

38. 供給者側が契約上の義務をすべて履行した段階では、通常、成果の確実性が認められる。具体的には、物の引渡しを目的とする売買契約においては引渡しを行った時点、工事の完成と完成した物の引渡しを目的とする請負工事契約においては完成・引渡しを行った時点がこれに相当する。

39. しかし、企業会計原則において、長期の請負工事に関して工事完成基準のほか工事進行基準が認められているのは、このような取引については、一定の条件が整えば当該工事の進捗に応じて対応する部分の成果の確実性が認められる場合があるためと考えられる。すなわち、当事者間で基本的な仕様や作業内容が合意された工事契約について、施工者がその契約上の義務のすべてを果たし終えておらず、法的には対価に対する請求権を未だ獲得していない状態であっても、会計上はこれと同視し得る程度に成果の確実性が高まり、収益として認識することが適切な場合があるためと考えられる。同じ長期の請負工事であっても、例えば、その工事に必要とされる技術が確立されていて完成の確実性が高い状況と、そうでない状況とでは、適用すべき収益の認識基準は必ずしも同一ではないと考えられる。このため、当委員会は、前述の一定の条件が何であるかについての検討を行った。

40. 検討の過程では、当委員会が平成18年12月に公表した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」(以下「討議資料」という。)も参照した。討議資料では、収益及び費用は、投下資金が投資のリスクから解放された時点で把握されるとされている。投資のリスクとは、投資の成果の不確定性を意味し、投資にあたって期待された成果が事実となれば、それはリスクから解放されることになるとされている。このように、収益や費用は、投資にあたって期待された成果に対比される事実が生じ、投資がリスクから解放された時点で把握される。工事契約による事業活動は、工事の遂行を通じて成果に結び付けることが期待されている投資であり、そのような事業活動を通じて、投資のリスクから解放されることになる。そして、当委員会において検討すべき点は、工事契約に係る事業活動に投下した資金は、どのような条件があれば、投資のリスクから解放されることになるのかという問題であると整理された。

第37 項でも述べたように、成果の確実性が得られた時点、すなわち投資のリスクから解放された時点で収益及び費用を把握するという考え方の背景には、投資家は、投資にあたって期待された成果に対して実際にどれだけの成果が得られたのかについての情報を求めている(討議資料 第3章第23項)との理解がある。

工事契約に係る認識の単位

41. ある取引を行う場合、取引の内容をどのようなものとするのか、取引の単位をどのようなものとするのか等の事項は、すべての当事者間の契約において合意される事項である。会計処理も合意された取引の実態を忠実に反映するように、実質的な取引の単位に基づいて行う必要がある。工事契約について認識に関する判断を行う単位も、このように当事者間で合意された実質的な取引の単位に基づくべきである。

42. 取引に関する合意の確証として交わされる契約書は、一般に、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映していることが多い。しかし、契約書が当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映していない場合には、工事収益及び工事原価は、形式的な契約書上の取引にとらわれることなく、実質的な取引の単位に基づいて認識される必要がある。このように、本会計基準では、実質的な取引の単位に基づくためには、契約書上の取引を分割し、又は複数の契約書の単位を結合して、会計処理を行う単位とすることが必要となる場合もあるとしている(第7項参照)。

43. 工事契約の実質的な取引の単位が有する特徴は、施工者がその範囲の工事義務を履行することによって、顧客から対価に対する確定的な請求権を獲得すること(既に対価の一部又は全部を受け取っている場合には、その受け取った額について、確定的に保有する権限を獲得すること)である。

44. 実質的な取引の単位の中に、工事に係る部分とそれ以外の部分とが含まれていても、全体として、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行う工事を目的とする契約であれば、実質的な取引の単位の全体について、工事契約として本会計基準を適用することが適当である。しかし、契約内容に工事を伴っていても、その工事が全体として物の引渡しを目的とする契約に付随して行われるに過ぎない場合には、本会計基準の適用対象となる工事契約とはならない点に留意する必要がある。

工事契約に係る認識基準

45. 工事契約に基づく工事の進捗に応じて、それに対応する部分について成果の確実性が認められるような場合には工事進行基準を適用し、この要件に当てはまらない場合には、工事完成基準を適用することになる(第9項参照)。このため、当該工事契約が割賦販売と同様に長期にわたって代金回収されることとなっていても、代金の回収期限到来の日や入金の日をもって、工事収益及び工事原価を認識することは認められていない点に留意する必要がある。

46. 成果の確実性が認められるためには、決算日までの工事の進捗が最終的に対価に結び付き、工事収益総額、工事原価総額及びそのうち決算日までに成果として確実になった部分の割合、すなわち決算日における工事進捗度について、信頼性をもって見積ることができなければならない。このように、工事進行基準を適用するためには、国際的な会計基準と同様に、工事結果の信頼性のある見積りができることが必要である。

47. これらの要件を満たす前提として、対象となる工事契約には実体がなければならないことに留意する必要がある。形式的に工事契約書が存在していても、容易に解約されてしまうような場合には、工事契約の実体があるとはいえない。前提となる工事契約に実体があるといえるためには、工事契約が解約される可能性が少ないこと、又は、仮に工事途上で工事契約が解約される可能性があっても、解約以前に進捗した部分については、それに見合う対価を受け取ることの確実性が存在することが必要である。

(工事収益総額の信頼性をもった見積り)

48. 信頼性をもって工事収益総額を見積るためには、その前提として、最終的にその工事が完成することについての確実性が求められる。そのためには、施工者には当該工事を完成させるに足りる能力が求められる。また、工事が完成するのに必要な環境条件も整っていなければならない。したがって、施工者自身に係るものであるか否かを問わず、工事の完成を妨げる可能性のある重要な要因が存在する場合には、この要件を満たさないことになる。

49. 工事契約においては、対価の額があらかじめ固定額で定められることが多い。しかし、対価の一部又は全部を、将来の不確実な事象(例えば、将来の資材価格等)に関わらせて定めることもある。工事進行基準の適用に際しては、工事収益総額について信頼性をもって見積ることができることが前提となっており、このような場合には、工事進行基準を適用する上で、工事収益総額について合理的な見積りを行うことになる。

(工事原価総額の信頼性をもった見積り)

50. 工事進行基準を適用するためには、工事原価総額についても、信頼性をもって見積ることができる必要がある。しかし、工事原価総額は、工事契約に着手した後も様々な状況の変化により変動することが多い。このため、信頼性をもって工事原価総額の見積りを行うためには、こうした見積りが工事の各段階における工事原価の見積りの詳細な積上げとして構成されている等、実際の原価発生と対比して適切に見積りの見直しができる状態となっており、工事原価の事前の見積りと実績を対比することによって、適時・適切に工事原価総額の見積りの見直しが行われる必要がある。この条件を満たすためには、当該工事契約に関する実行予算や工事原価等に関する管理体制の整備が不可欠であると考えられる。このため、工事契約に金額的な重要性がない等の理由により、個別にこうした管理が行われていない工事契約については、第9 項に定める工事進行基準の適用要件を満たさないことに留意する必要がある。

51. 受注制作のソフトウェアについては、工事原価総額の信頼性のある見積りの可否が特に問題となる。ソフトウェアの制作を受注する場合、当初に仕様の詳細まで詰められない場合もあり、また、想定外の事象の発生などによって、追加的な工数が生じやすいなど、適切な原価総額の見積りが困難な場合も少なくない。一般的に、ハードウェアの供給を目的とする取引と比較すると、ソフトウェアの開発途上において信頼性をもって工事原価総額を見積るためには、原価の発生やその見積りに対するより高度な管理が必要と考えられる。

(工期との関係)

52. 第29 項で述べたように、企業会計原則においては、長期の請負工事に関する収益認識について、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかの選択適用が可能なものとされてきた。しかし、長期の請負工事でなくとも、会計期間をまたぐ工事については工事進行基準を適用すべき場合があると考えられる。このため、本会計基準では、工事契約に係る認識基準を識別する上で、特に工期の長さには言及していない。

53. しかし、工期がごく短いものは、通常、金額的な重要性が乏しいばかりでなく、工事契約としての性格にも乏しい場合が多いと想定される。このような取引については、工事進行基準を適用して工事収益総額や工事原価総額の按分計算を行う必要はなく、通常、工事完成基準を適用することになると考えられる。

(工事原価回収基準)

54. 成果の確実性が認められない場合の工事契約に係る認識基準としては、工事完成基準のほか、工事原価を発生した期間に費用として計上しつつ、工事原価のうち回収可能性が高い部分についてのみ工事収益を計上するという方法(例えば、工事原価回収基準)についても検討を行った。検討の結果、成果の確実性がないと判断されたにもかかわらず収益を認識する方法には合理性がないと考えられたため、本会計基準ではこれを採用しなかった。

(完成に近づいたことによる成果の確実性の改善)

55. 工事進行基準を適用する要件を満たさないため工事完成基準を適用している工事契約について、その後、単に工事の進捗に伴って完成が近づいたために成果の確実性が相対的に増すことがある。しかし、このことのみをもって途中で工事契約に係る認識基準の変更を容認することは、収益認識の恣意的な操作のおそれがあり、適切ではないと考えられた。ただし、長期に及ぶ工事契約において、成果の確実性が事後的に変動する状況は、この他にも様々なケースが考えられることから、それらについては、本会計基準の適用指針において取り扱うこととした。

工事進行基準の会計処理

56. 従来、決算日における工事進捗度の合理的な見積方法としては、工事契約の内容のいかんにかかわらず、広く適用可能な原価比例法が用いられてきた。しかし、工事契約の内容によっては、原価比例法以外にも決算日における工事進捗度をより合理的に把握する方法もあり得ると考えられる。このような場合には、原価比例法以外の方法が適用されることがある。

また、原価比例法による場合であっても、発生した工事原価が工事原価総額との関係で、決算日における工事進捗度を合理的に反映しない場合には、これを合理的に反映するように調整が必要となる。

57. 工事の進捗度を合理的に反映する方法として原価比例法以外の方法が適用される場合の例としては、例えば、工事の進捗が工事原価総額よりも直接作業時間とより関係が深いと考えられる状況では、直接作業時間比率が決算日における工事進捗度の見積方法として原価比例法よりも適切となり得る。また、工事原価の発生よりも施工面積の方がより適切に工事の進捗度を反映していると考えられる状況では、施工面積比率の方がより適切となり得る。

(見積りの変更)

58. 見積りの変更の影響額を財務諸表に反映する方法としては、影響額を将来に向かって調整する方法と、変更した期にすべての影響額を反映する方法とが考えられる。いずれの方法を採用することが適切であるかは、当該見積りの変更の影響が、いずれの期間と関係したものであるのかにより異なる。前述のいずれの実態も存在し得るため、一概にいずれの方法がより優れているということは難しいが、見積りの変更は、事前の見積りと実績とを対比した結果として求められることが多く、こうした場合には、修正の原因は当期に起因することが多いと考えられることや実務上の便宜も考慮して、見積りの変更が行われた期にその影響額をすべて反映させることとした。

(工事進行基準の適用により計上される未収入額)

59. 工事進行基準を適用した結果、工事の進捗に応じて計上される未収入額は、法的には未だ債権とはいえない。しかし、第39 項で述べたように、工事進行基準は、法的には対価に対する請求権を未だ獲得していない状態であっても、会計上はこれと同視し得る程度に成果の確実性が高まった場合にこれを収益として認識するものであり、この場合の未収入額は、会計上は法的債権に準ずるものと考えることができる。このため、工事進行基準の適用により計上される未収入額は、金銭債権として取り扱うこととした。

この結果、例えば工事契約に関する入金があった場合には、計上されている未収入額から入金相当額を減額することになる。また、当該未収入額について、回収可能性に疑義がある場合には、貸倒引当金の計上が必要となる(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第14項)。さらに、当該未収入額が外貨建てである場合には、原則として決算時の為替相場による円換算額を付すことになる(「外貨建取引等会計処理基準」(最終改正平成11年10月 企業会計審議会)一 2(1)A)。

工事契約から損失が見込まれる場合の取扱い

60. 工事契約を履行することによって、最終的に損失が発生すると見込まれることがある。このような場合、我が国においては、発生の可能性が高い損失に対して引当金を計上する実務が相当程度行われてきている。また、国際的な会計基準においても、このような場合には、当該工事契約から発生すると見込まれる損失について、見込まれた期の損失として処理することが求められている。

61. 正常な利益を獲得することを目的とする企業行動において、投資額を回収できないような事態が生じた場合には、将来に損失を繰り延べないための会計処理が求められている。有価証券や固定資産の減損処理、通常の販売目的で保有する棚卸資産の簿価切下げ等がこれに当たり、財務諸表利用者に有用な情報を提供することができるものと考えられてきた。工事契約において損失が見込まれる場合に、当該損失を見込まれた期の損失として計上する会計処理も、そのような事態において、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理であると考えられる。

62. 当委員会は、工事損失の発生が見込まれる場合において上述のような引当金を計上する会計処理について改めて検討した。すなわち、このような場合に引当金計上のための要件を満たすか否かという点である。

企業会計原則注解 (注18)は、次の要件をすべて満たす場合に、当期の負担に属する金額を引当金に繰り入れ、費用又は損失として計上することとしている。

(1) 将来の特定の費用又は損失であること

(2) その発生が当期以前の事象に起因すること

(3) 発生の可能性が高いこと

(4) その金額を合理的に見積ることができること

63. 企業会計原則注解 (注18)は、将来の特定の費用に加え、将来の特定の損失についても引当金の計上を求めており、その例として、債務保証損失引当金や損害補償損失引当金が挙げられている。このような特定の損失の引当金については、将来の発生が見込まれる損失の全額について、発生が見込まれた期の負担に属する金額として、引当金の計上が行われている。工事契約から将来発生が見込まれる損失についても、引当金計上の要件を満たせば、同様の処理が必要になると考えられる。特定の工事契約の履行により発生すると見込まれる損失は将来の特定の損失に当たるが、そのような損失が発生すると見込まれることになる原因は様々である。しかし、いずれの原因による場合であっても、過去の事象に起因するものと考えることができる。例えば、工事契約の締結以後に生じた施工者に起因する設計変更や、工事の進捗遅延による経費の増加、想定外の資材価格の高騰等、そのいずれもが過去の事象に起因するものである。さらに、工事契約を締結した当初から損失が見込まれるような場合であっても、損失の発生はそのような工事契約を締結したという過去の事象に起因していると考えることができる。

このため、工事損失の発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、工事契約の全体から見込まれる工事損失(販売直接経費を含む。)から、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額(すなわち、当該工事契約に関して、今後見込まれる損失の額)について、工事損失引当金を計上することとした。

64. 工事損失引当金は、工事の進捗や完成・引渡しにより、工事損失が確定した場合又は工事損失の今後の発生見込額が減少した場合には、それに対応する額を取り崩すこととなる。

65. さらに、工事損失が見込まれることとなった段階で、工事契約について、未成工事支出金等の棚卸資産が計上されている場合の取扱いを検討した。ここで問題とされたのは、工事損失引当金の計上に先立ち、まず企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「棚卸資産会計基準」という。)に基づく棚卸資産の簿価の切下げが必要となるか否かという点である。

66. 工事損失が見込まれた段階で工事損失引当金の計上を求める趣旨は、第61項で述べたように、棚卸資産会計基準が通常の販売目的で保有する棚卸資産の簿価の切下げを求める趣旨とも共通していると考えられる。

しかし、棚卸資産会計基準は、必ずしも工事損失の会計処理を念頭に置いて定められたものではない。このため、工事損失が見込まれる場合において、仮に棚卸資産会計基準で定める会計処理をそのままの形で適用すると、棚卸資産の評価に切放し法を選択した場合の会計処理が、本会計基準による工事損失の会計処理に必ずしもなじまないことが指摘された。また、たとえ工事損失の見込額が変動しない場合においても、工事の進捗にしたがって、工事損失引当金から棚卸資産(簿価の切下げ)への振替えが必要となるが、取引内容によっては棚卸資産の種類が多岐にわたり得るため、実務上の負担に対する懸念も指摘された。

67. このため、本会計基準においては、実務上の過重な負担を回避しつつ、必要な情報の提供が図られるように、工事損失のうち既に計上された損益の額を除いた残額の全体について工事損失引当金として計上することを求める一方で、当該工事契約について未成工事支出金等として計上されている棚卸資産がある場合には、その旨及び当該棚卸資産の額のうち、工事損失引当金に対応する額の注記を求めることとした(第22項(4)@参照)。

68. 同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されている場合には、実務に配慮して、貸借対照表上相殺して表示することも認められるものとした。

ただし、この場合においても、棚卸資産と工事損失引当金を総額で表示した場合と同じ情報が提供される必要があると考えられる。このため、工事契約に係る棚卸資産が相殺後の額で表示されていることを明示した上で、その内容を示すため、相殺表示した棚卸資産の額の注記が必要となる(第22項(4)A参照)。

なお、信頼性をもった見積りと合理的な見積りという類似の要素が含まれていても、工事進行基準を適用するための要件と、工事損失について工事損失引当金を計上するための要件とは異なっている。第19 項の会計処理は、その要件を満たす限りにおいて、当該工事契約について適用されている工事契約に係る認識基準を問わず適用される点に留意する必要がある。

69. 第9項に基づいて工事進行基準を適用している工事契約について、第19 項により工事損失引当金を計上する場合であっても、第9 項に定める工事進行基準適用の要件を満たしている限りは、引き続き工事進行基準を適用することになる。

また、工事進行基準が適用されている工事契約について、工事の進捗に伴って新たな損益が計上された場合には、その時点における工事損失引当金の残高は、工事損失の見込額のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を除いた残額(すなわち、当該工事契約に関して今後見込まれる損失の額)となる点に留意する必要がある。

開示

注記事項

70. 第22項(2)の注記に関しては、原価比例法を適用している場合にはその旨を注記することになり、原価比例法以外の見積方法を適用している場合には、適用した方法についての具体的な説明を注記することになる。

適用時期等

71. 本会計基準は、本会計基準公表日以後、平成21年3月31日以前に開始する事業年度から適用することができる。この場合、当該事業年度の期首から本会計基準を適用するのであり、当該事業年度の途中からの適用は認められないことに留意する必要がある。

72. 第24項にいう工事契約への着手とは、当該工事契約に係る工事原価の発生が開始することをいう。どの工事契約から本会計基準を適用するかについては、本会計基準を適用する最初の事業年度に着手する工事契約ではなく、当該事業年度に工事契約を締結したものを基準として判断することも検討した。しかし、本会計基準を適用するために必要な準備は会計処理を開始することとなる着手時期までに整えられれば足りると考えられることから、本会計基準の適用開始事業年度より前に締結された工事契約であっても、工事契約への着手が本会計基準の適用開始事業年度以後となる場合には、本会計基準の適用対象とすることが適当と考えた。

73. 第25項の定めを適用しない場合には、適用初年度より前に着手された工事契約の会計処理については、なお従前の処理を継続することになる。この結果、例えば適用初年度より前に着手された工事契約であって、従来、工事進行基準により適正に会計処理されていたものについては、従前の処理を継続することになる。

74. 工事損失引当金の繰入額は売上原価に含めることとされている(第21項参照)。これは、本会計基準を適用する最初の事業年度に計上される工事損失引当金繰入額についても同様である点に留意が必要である。

以上


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