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会計基準| 結論の背景|適用指針目次

(注)本内容は、企業会計基準委員会が平成20年3月31日に公表した「資産除去債務に関する会計基準」から「結論の背景部分」を抜粋したものです。「目的・会計基準」は別に記載してあります。なお、オリジナルと異なる表現をしている部分があります。実務への適用にあたっては念のためにオリジナルの基準等を確認してください。

企業会計基準第18号

資産除去債務に関する会計基準

(結論の背景)

平成20年3月31日

企業会計基準委員会

目次

結論の背景

経緯

用語の定義

会計処理

資産除去債務の負債計上

資産除去債務の算定

資産除去債務に対応する除去費用の資産計上と費用配分

資産除去債務の見積りの変更

開示

適用時期等


結論の背景

経緯

22. これまで我が国においては、例えば、電力業界で原子力発電施設の解体費用につき発電実績に応じて解体引当金を計上しているような特定の事例は見られるものの、国際的な会計基準で見られるような、資産除去債務を負債として計上するとともに、これに対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理は行われていなかった。企業会計基準委員会は、有形固定資産のこのような除去に関する将来の負担を財務諸表に反映させることは投資情報として役立つという指摘などから、資産除去債務の会計処理を検討プロジェクトとして取り上げることとした。

その検討の契機としては、国際会計基準審議会(IASB)との間で、日本の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)との差異を縮小することを目的とした両会計基準のコンバージェンスに向けた作業を取り進めており、その中で、資産除去債務は、検討すべき項目の1つとして、共同プロジェクトの第3 回会合(平成18年3月開催)において短期プロジェクト項目に追加されたことが挙げられる。

当委員会では、学識経験者を中心として平成18年7月に立ち上げたワーキング・グループでの検討を踏まえ、平成18年11月に資産除去債務専門委員会を設置し、学識経験者を含む専門委員による討議など幅広い審議を経て、資産除去債務に関する論点について検討を重ね、平成19年5月には、論点ごとに可能な限りの検討の方向性も示した「資産除去債務の会計処理に関する論点の整理」を取りまとめ、広く一般から意見を募集するために公表した。当委員会では、論点整理に寄せられた意見を踏まえ、さらに検討を重ね、平成19年12月には「資産除去債務に関する会計基準(案)」を公開草案として公表し、広く意見を求めた。その後、当該公開草案に対して寄せられた意見を参考にして、審議を行い、その内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。

用語の定義

(資産除去債務の定義)

23. 本会計基準でいう有形固定資産には、財務諸表等規則において有形固定資産に区分される資産のほか、それに準じる有形の資産も含む。したがって、建設仮勘定やリース資産のほか、財務諸表等規則において「投資その他の資産」に分類されている投資不動産などについても、資産除去債務が存在している場合には、本会計基準の対象となることに留意する必要がある。

24. 本会計基準においては、資産除去債務を有形固定資産の除去に関わるものと定義している(第3項(1)参照)ことから、これらに該当しないもの、例えば、有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕は対象とはならない。

25. 有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕も、資産の使用開始前から予想されている将来の支出であり、資産除去債務と同様に扱わないことは整合性に欠けるのではないかとの見方がある。しかし、修繕引当金は、収益との対応を図るために当期の負担に属する金額を計上するための貸方項目であり、債務ではない引当金と整理されている場合が多いことや、操業停止や対象設備の廃棄をした場合には不要となるという点で資産除去債務と異なる面があることから、本会計基準では取り扱わないものとした。

26. 本会計基準では、資産除去債務は有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用により生じるものとしている(第3項(1)参照)。通常の使用とは、有形固定資産を意図した目的のために正常に稼働させることをいい、有形固定資産を除去する義務が、不適切な操業等の異常な原因によって発生した場合には、資産除去債務として使用期間にわたって費用配分すべきものではなく、引当金の計上や「固定資産の減損に係る会計基準」(平成14年8月 企業会計審議会)(以下「減損会計基準」という。)の適用対象とすべきものと考えられる。

なお、土地の汚染除去の義務が通常の使用によって生じた場合で、それが当該土地に建てられている建物や構築物等の資産除去債務と考えられるとき(第45項参照)には、本会計基準の対象となる。

27. 有形固定資産の使用を終了する前後において、当該資産の除去の方針の公表や、有姿除却の実施により、除去費用の発生の可能性が高くなった場合に、資産除去債務の対象となるのかという議論が行われたが、有形固定資産を取得した時点又は通常の使用を行っている時点において法律上の義務又はそれに準ずるものが存在していない場合は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用により生じるものには該当しないと考えられる。ただし、このような場合には、減損会計基準の対象となるほか、引当金計上の対象となる余地もあるものと考えられる。

28. 本会計基準では、資産除去債務を法令又は契約で要求される法律上の義務及びこれに準ずるものと定義している(第3項(1)参照)。企業が負う将来の負担を財務諸表に反映させることが投資情報として有用であるとすれば、それは法令又は契約で要求される法律上の義務だけに限定されない。また、資産除去債務は、国際的な会計基準においても必ずしも法律上の義務に限定されていないことから、本会計基準では、資産除去債務の定義として、法律上の義務に準ずるものも含むこととした。

本会計基準における法律上の義務に準ずるものとは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指し、法令又は契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務が該当する。具体的には、法律上の解釈により当事者間での清算が要請される債務に加え、過去の判例や行政当局の通達等のうち、法律上の義務とほぼ同等の不可避的な支出が義務付けられるものが該当すると考えられる。したがって、有形固定資産の除去が企業の自発的な計画のみによって行われる場合は、法律上の義務に準ずるものには該当しないこととなる。

29. 企業が所有する有形固定資産に特定の有害物質が使用されており、有形固定資産を除去する際に当該有害物質を一定の方法により除去することが、法律等により義務付けられている場合がある。このような場合については、有形固定資産自体の除去について法律上の義務又はこれに準ずるものがあるときにのみ、資産除去債務に含めるべきであるとする見方もあるが、将来、有形固定資産の除去時点で有害物質の除去を行うことが不可避的であるならば、現時点で当該有害物質を除去する義務が存在しているものと考えざるを得ない。このため、有形固定資産自体を除去する義務はなくとも当該有形固定資産に使用されている有害物質自体の除去義務は資産除去債務に含まれるとの見方をとることとした。なお、この場合に資産除去債務の計上の対象となるのは、当該有形固定資産の除去費用全体ではなく、有害物質の除去に直接関わる費用である。

30. 転用や用途変更は企業が自ら使用を継続するものであり、当該有形固定資産を用役提供から除外することにはならないため、除去の具体的な態様には含めていない(第3項(2)参照)。

会計処理

資産除去債務の負債計上

(現行の会計基準における取扱い)

31. 我が国においては、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」(昭和35年6月大蔵省企業会計審議会)第三「有形固定資産の減価償却について」にあるとおり、有形固定資産の耐用年数到来時に、解体、撤去、処分等のために費用を要するときには、その残存価額に反映させることとされている。ただし、有形固定資産の減価償却はこれまで取得原価の範囲内で行われてきたこともあり、残存価額がマイナス(負の値)になるような処理は想定されず、実際に適用されてきてはいなかったと考えられる。また、当該費用の発生が当該残存価額の設定にあたって予見できなかった機能的原因等により著しく不合理になったことなどから残存価額を修正することとなった場合には、臨時償却として処理することも考えられるが、残存価額をマイナスにしてこのような会計処理を行うこともなかったと考えられる。

さらに、有形固定資産の取得後、当該有形固定資産の除去に係る費用が企業会計原則注解(注18)を満たす場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れることとなる。しかし、このような引当金処理は、計上する必要があるかどうかの判断規準や、将来において発生する金額の合理的な見積方法が必ずしも明確ではなかったことなどから、これまで広くは行われてこなかったのではないかと考えられる。

(資産除去債務の会計処理の考え方)

32. 有形固定資産の耐用年数到来時に解体、撤去、処分等のために費用を要する場合、有形固定資産の除去に係る用役(除去サービス)の費消を、当該有形固定資産の使用に応じて各期間に費用配分し、それに対応する金額を負債として認識する考え方がある。このような考え方に基づく会計処理(引当金処理)は、資産の保守のような用役を費消する取引についての従来の会計処理から考えた場合に採用される処理である。こうした考え方に従うならば、有形固定資産の除去などの将来に履行される用役について、その支払いも将来において履行される場合、当該債務は通常、双務未履行であることから、認識されることはない。

しかし、法律上の義務に基づく場合など、資産除去債務に該当する場合には、有形固定資産の除去サービスに係る支払いが不可避的に生じることに変わりはないため、たとえその支払いが後日であっても、債務として負担している金額が合理的に見積られることを条件に、資産除去債務の全額を負債として計上し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる処理(資産負債の両建処理)を行うことが考えられる。

33. 引当金処理に関しては、有形固定資産に対応する除去費用が、当該有形固定資産の使用に応じて各期に適切な形で費用配分されるという点では、資産負債の両建処理と同様であり、また、資産負債の両建処理の場合に計上される借方項目が資産としての性格を有しているのかどうかという指摘も考慮すると、引当金処理を採用した上で、資産除去債務の金額等を注記情報として開示することが適切ではないかという意見もある。

34. しかしながら、引当金処理の場合には、有形固定資産の除去に必要な金額が貸借対照表に計上されないことから、資産除去債務の負債計上が不十分であるという意見がある。また、資産負債の両建処理は、有形固定資産の取得等に付随して不可避的に生じる除去サービスの債務を負債として計上するとともに、対応する除去費用をその取得原価に含めることで、当該有形固定資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。この結果、有形固定資産に対応する除去費用が、減価償却を通じて、当該有形固定資産の使用に応じて各期に費用配分されるため、資産負債の両建処理は引当金処理を包摂するものといえる。さらに、このような考え方に基づく処理は、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資するものであるため、本会計基準では、資産負債の両建処理を求めることとした(第7項参照)。

(資産除去債務を合理的に見積ることができない場合)

35. 資産除去債務の履行時期を予測することや、将来の最終的な除去費用を見積ることが困難であるため、合理的に資産除去債務を算定できない場合がある。このような場合は、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合(第5項参照)に該当し、第16 項(5)に定める注記を行うことになる。

資産除去債務の算定

(資産除去債務の測定値の属性とそれに見合う割引率)

36. 資産除去債務の算定における割引前将来キャッシュ・フローについては、市場の評価を反映した金額によるという考え方と、自己の支出見積りによるという考え方がある。また、割引率についても、無リスクの割引率が用いられる場合と無リスクの割引率に信用リスクを調整したものが用いられる場合が考えられる。当委員会では、割引前将来キャッシュ・フローの測定値の属性とそれに見合う割引率の組合せについて検討を行った。

37. 市場の評価を反映した金額という考え方による場合、資産除去債務について、市場価格を観察することができれば、それに基づく価額を時価として用いることが考えられるが、通常、その市場価格を観察することはできないため、市場があるものと仮定して、そこで織り込まれるであろう要因を割引前将来キャッシュ・フローの見積りに反映するという考え方によることになる。この場合には、自己の信用リスクが高いときには市場の評価を反映した将来キャッシュ・フローの見積額が増加することとなるという見方と、将来キャッシュ・フローの見積額は信用リスクによって増加するものではないという見方がある。

前者の見方は、現時点で処理業者との間で、対象となる有形固定資産の除去の実行時に支払を行うという契約を締結することを想定すれば、将来の支払額は信用リスクの分だけ高い金額が要求されることになるとの考え方に基づくものである。しかし、この見方に対しては、そのような契約形態は、通常、市場がないために現実的な想定とは考えにくく、また、仮にそのような契約形態を採るとしても、自己の信用リスクについて市場の評価を反映した将来キャッシュ・フローの見積額は他の条件が一定の場合、除去を実行する時期が近づくにつれて、実際の除去に要する支出額に近づくこととなり、その算定を毎期末行うことは極めて煩雑であるといった意見もある。したがって、市場の評価を反映した金額という考え方をとったとしても、前者の見方のように自己の信用リスクを加味すべきものとは必ずしもいえないと考えられる。

38. 一方、自己の支出見積りによる場合には、原状回復における過去の実績や、有害物質等に汚染された有形固定資産の処理作業の標準的な料金の見積りなどを基礎とすることになると考えられ、前項の後者の見方と同様に、自己の信用リスクは将来キャッシュ・フローの見積りには影響を与えないものと考えられる。

自己の支出見積りと市場の評価を反映した金額との間に生じ得る相違として、前項のような自己の信用リスクの議論とは別に、市場が想定する支出額(として企業が見積る金額)よりも自ら処理する場合の支出見積額の方が低い場合が考えられるが、現実には市場の想定する支出額というものが客観的に明らかでないことが多いため、実務的には大きな相違とはならないことが多いものと考えられる。また、仮に市場が想定する支出額よりも自ら処理する場合の支出見積額の方が低い場合、自らの効率性による利益は、履行時に反映されるべきであるという考え方もあるが、企業の投資上、資産の除去は、通常、単独ではなく有形固定資産の投資プロジェクトの一環として行われるため、当該有形固定資産の耐用年数にわたり、その効率性を反映させていく方が妥当であると考えられる。

以上のことから、本会計基準では、将来における自己の支出見積りが資産除去債務の測定値の属性の基礎として適当であるものと判断した(第6項(1)参照)。

39. 割引前の将来キャッシュ・フローの見積金額には、生起する可能性の最も高い単一の金額(最頻値)又は生起し得る複数のキャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額(期待値)を用いる(第6項(1)参照)が、いずれにしても、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクを勘案する必要がある。将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクは、減損会計基準注解(注6)で言及されているリスクと同じ性質のものであり、リスク選好がリスク回避型である一般の経済主体にとってマイナスの影響を有するものであるため、資産除去債務の見積額を増加させる要素となる。

40. 割引前の将来キャッシュ・フローとして、自己の信用リスクの影響が含まれていない支出見積額を用いる場合に、無リスクの割引率を用いるか、信用リスクを反映させた割引率を用いるかという点については、割引前の将来キャッシュ・フローに信用リスクによる加算が含まれていない以上、割引率も無リスクの割引率とすることが整合的であるという考え方がある。この考え方は、@退職給付債務の算定においても無リスクの割引率が使用されていること、A同一の内容の債務について信用リスクの高い企業の方が高い割引率を用いることにより負債計上額が少なくなるという結果は、財政状態を適切に示さないと考えられること、B資産除去債務の性格上、自らの不履行の可能性を前提とする会計処理は、適当ではないこと、などの観点から支持されている。

一方、信用リスクを反映させた割引率を用いるべきであるという意見は、まず、割引前の将来キャッシュ・フローの見積額に自己の信用リスクの影響を反映させている場合には整合的であるという理由による。また、割引前の将来キャッシュ・フローに信用リスクの影響が含まれていない場合であっても、翌期以降に資金調達と同様に利息費用を計上することを重視する観点からは、信用リスクを反映させた割引率を用いる考え方がある。さらに、それが信用リスクに関わりなく生ずる支出額であるときには、信用リスクを反映させた割引率で割り引いた現在価値が負債の時価になると考えられることを論拠としている。

しかし、これについては、資産除去債務の計上額の算定において信用リスクを反映させた割引率を用いるとすることに、前述したAやBの問題を上回るような利点があるのかどうか疑問がある。有利子負債やそれに準ずるものと考えられるリース債務と異なり、明示的な金利キャッシュ・フローを含まない債務である資産除去債務については、退職給付債務と同様に無リスクの割引率を用いることが現在の会計基準全体の体系と整合的であると考えられる。

これらのことから、本会計基準においては、無リスクの割引率を用いるのが適当であると考えた(第6項(2)参照)。

資産除去債務に対応する除去費用の資産計上と費用配分

(資産除去債務に対応する除去費用の資産計上)

41. 資産除去債務を負債として計上する際、当該除去債務に対応する除去費用をどのように会計処理するかという論点がある。本会計基準では、債務として負担している金額を負債計上し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる処理を行うこととした。このような会計処理(資産負債の両建処理)は、有形固定資産の取得に付随して生じる除去費用の未払の債務を負債として計上すると同時に、対応する除去費用を当該有形固定資産の取得原価に含めることにより、当該資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味する。すなわち、有形固定資産の除去時に不可避的に生じる支出額を付随費用と同様に取得原価に加えた上で費用配分を行い、さらに、資産効率の観点からも有用と考えられる情報を提供するものである。

42. なお、資産除去債務に対応する除去費用を、当該資産除去債務の負債計上額と同額の資産として計上する方法として、当該除去費用の資産計上額が有形固定資産の稼動等にとって必要な除去サービスの享受等に関する何らかの権利に相当するという考え方や、将来提供される除去サービスの前払い(長期前払費用)としての性格を有するという考え方から、資産除去債務に関連する有形固定資産とは区別して把握し、別の資産として計上する方法も考えられた。

しかし、当該除去費用は、法律上の権利ではなく財産的価値もないこと、また、独立して収益獲得に貢献するものではないことから、本会計基準では、別の資産として計上する方法は採用していない。当該除去費用は、有形固定資産の稼動にとって不可欠なものであるため、有形固定資産の取得に関する付随費用と同様に処理することとした(第7項参照)。

43. 資産除去債務に対応する金額を有形固定資産の取得原価に含めて資産計上する場合、実務上の負担等を勘案すると、関連する有形固定資産と区分して別の資産として管理することは妨げられないが、その場合でも、財務諸表上は、有形固定資産として表示することが必要である。

44. 本会計基準適用後の減損会計基準の適用にあたっては、資産除去債務が負債に計上されている場合には、除去費用部分の影響を二重に認識しないようにするため、将来キャッシュ・フローの見積りに除去費用部分を含めないこととなる。

(費用配分の方法)

45. 資産除去債務に関連する有形固定資産の帳簿価額の増加額として資産計上された金額は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分されることになる(第7項参照)。なお、資産計上された除去費用が有形固定資産の減価償却を通じて各期に費用配分されるとすると、土地に関連する除去費用(土地の原状回復費用等)は当該土地が処分されるまでの間、費用計上されないことになるのではないかという意見もある。しかし、土地の原状回復等が法令又は契約で要求されている場合の支出は、一般に当該土地に建てられている建物や構築物等の有形固定資産に関連する資産除去債務であると考えられる。

このため、土地の原状回復費用等は、当該有形固定資産の減価償却を通じて各期に費用配分されることとなる。

(資産除去債務が使用の都度発生する場合の費用配分の方法)

46. 有形固定資産の使用に応じて汚染等が発生し、将来、原状回復のための除去の支出が生じると考えられるような場合には、当該有形固定資産に係る資産除去債務は各期において負債の増加分として認識される。この場合、第7項に従えば資産除去債務に対応する除去費用も各期においてそれぞれ資産計上し、関連する有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分することになる(第8項参照)。ただし、本会計基準では、当該費用配分の合理的な方法として、米国会計基準と同様に、除去費用を資産計上し、当該計上時期と同一の期間に、資産計上額と同一の金額を費用処理することも認められることとした(第8項なお書き参照)。

この場合においても、当該資産除去債務は割引後の金額で計上することとなる。

なお、通常、資産除去債務は有形固定資産の取得、建設又は開発の時点で発生するものであり、このように使用の都度発生する場合は極めて例外的と考えられる。

47. 資産除去債務が使用の都度発生する場合の費用配分に関して、第7項に従った処理方法(第8項参照)は除去費用に係る費用配分が有形固定資産の使用期間の後半に著しく偏ることとなるため妥当とはいえないとして、第8項なお書きの方法(除去費用をいったん資産計上し、当該計上時期と同一の期間に、資産計上額と同一の金額を費用処理する方法)のみを認めることとすべきであるとの意見があった。また、結果が大きく異なり得る2 つの方法を認めることは比較可能性を損なうおそれがあるとの意見もあった。しかし、本会計基準における原則的な費用配分方法である第7項の考え方の適用を否定すべきではないと考えられるとともに、なお書きの方法が合理的な費用配分となる場合もあると考えられることから、2つの方法を認めることが適切と判断した。

(時の経過による資産除去債務の調整額の処理)

48. 時の経過による資産除去債務の調整額は、期首現在の負債の帳簿価額に負債計上時の割引率を乗じて算定し、発生時の費用として処理する(第9項参照)。この調整額は、退職給付会計における利息費用と同様の性格を有するものといえる。

(割引率の固定)

49. 割引率については、米国会計基準と同様に、変更を行わずに負債計上時の割引率を用いる方法によることとした。割引率を毎期見直すとした場合、毎期末において変更後の負債額を貸借対照表に反映させることになるが、このような負債の計上に割引率の変更を反映させることについては、他の負債の取扱いとの整合性に問題があるとの意見があった。また、割引率を負債計上時の割引率に固定する方法は、時の経過によって一定の利息相当額を配分するものであり、関連する有形固定資産について減価償却という費用配分が行われることとも整合的であると考えられる。

資産除去債務の見積りの変更

(将来キャッシュ・フローの見積りの変更)

50. 資産除去債務の見積りの変更から生じる調整を、会計上どのように処理するかについては、資産除去債務に係る負債及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して、減価償却を通じて残存耐用年数にわたり費用配分を行う方法(プロスペクティブ・アプローチ)、資産除去債務に係る負債及び有形固定資産の残高の調整を行い、その調整の効果を一時の損益とする方法(キャッチアップ・アプローチ)又は資産除去債務に係る負債及び有形固定資産の残高を過年度に遡及して修正する方法(レトロスペクティブ・アプローチ)の3 つの方法が考えられる。

51. このような会計上の見積りの変更については、国際的な会計基準において、将来に向かって修正する方法が採用されていることに加え、我が国の現行の会計慣行においても耐用年数の変更については影響額を変更後の残存耐用年数で処理する方法が一般的であることなどから、プロスペクティブ・アプローチにより処理することとした。この場合、割引前の将来キャッシュ・フローの見積りの変更による調整額は、資産除去債務に係る負債の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して取り扱うことになる(第10項参照)。

52. 資産除去債務が法令の改正等により新たに発生した場合は、会計処理の対象となる新たな事実の発生であるが、将来キャッシュ・フローの見積りの変更と同様に処理する(第10項参照)。ただし、この場合、影響が特に重要であれば、重要な法律改正又は規制強化による法律的環境の著しい悪化(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第14項(3))として、「減損の兆候」に該当することとなる。

また、これまで合理的に見積ることができなかった資産除去債務の金額を合理的に見積ることができるようになった場合についても、将来キャッシュ・フローの見積りの変更と同様に処理する(第5項参照)が、この場合も、資産に係る将来キャッシュ・フローに関する不利な予想が明確になったものであることから、減損の兆候として扱うべきものと考えられる。

(割引前将来キャッシュ・フローの見積りの変更による調整額に適用する割引率)

53. 割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合、その調整額に適用する割引率は、米国会計基準と同様に、キャッシュ・フローの増加部分については新たな負債の発生と同様のものとして、その時点の割引率を適用し、キャッシュ・フローが減少する場合は負債計上時の割引率を適用することとした(第11項参照)。

開示

(損益計算書上の表示:時の経過による資産除去債務の調整額)

54. 時の経過による資産除去債務の調整額の損益計算書上の区分について、営業費用又は営業外費用のいずれに含めるか検討を行った。時の経過による資産除去債務の調整額は、資産除去債務の履行に関する資金調達費用と見ることができるため、財務費用として営業外費用に含めることが適切であるという見方もある。また、国際財務報告基準においては財務費用としての処理を求めている。

55. しかしながら、時の経過による資産除去債務の調整額は、実際の資金調達活動による費用ではないこと、また、同種の計算により費用を認識している退職給付会計における利息費用が退職給付費用の一部を構成するものとして整理されていることを考慮し、本会計基準では、資産除去債務に係る費用は、時の経過による資産除去債務の調整額部分も含め、対象となる有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上することがより適切であるとした(第14項参照)。

(損益計算書上の表示:資産除去債務の履行時に認識される差額)

56. 資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務計上額と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額の損益計算書上の区分について、営業費用又は特別損益(又は営業外損益)のいずれに含めるか検討を行った。当該差額は、固定資産除却損と同様、営業費用に含めて処理するのは適切ではなく、また、過年度における見積りの誤差部分も多く含まれていることから、特別損益又は営業外損益として処理すべきであるとの見方もあった。

57. しかしながら、除去費用の総額が固定資産の利用期間にわたって配分され、将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合には資産除去債務の計上額が見直されることを前提とすれば、資産除去債務の履行時に認識される差額についても、固定資産の取得原価に含められて減価償却を通じて費用処理された除去費用と異なる性格を有するものではないといえる。

58. そのため、本会計基準では、資産除去債務計上額と実際の支出額との差額は、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上することを原則とした(第15項参照)。

なお、当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなった場合等、当該差額が異常な原因により生じたものである場合には、特別損益として処理することに留意する。

(注記事項)

59. 資産除去債務の見積りにあたっては、将来における有形固定資産の除去時に生ずる支出額を当該有形固定資産の取得時に見積ることから、多くの仮定に基づき、不確実な要素も考慮することになるため、米国会計基準の定めにならって、支払金額及び支払時期についての不確実性の内容の注記を求めるべきだとする見方もあった。しかしながら、不確実性の内容の注記が財務諸表の利用者の理解への助けになり得るのか明確でないこと、見積りにあたっての諸要素の設定において、その不確実性を考慮するとすれば、むしろその見積りに関する情報の開示を行うことがより有用であると考えられることなどから、支出発生までの見込期間、見積りにあたって適用した割引率その他の前提条件の注記を求めることとした(第16項(2)参照)。

60. 資産除去債務の将来における債務履行を確実に行うための対応をどのように準備しているかという情報は有用であるとの観点から、貸借対照表に計上された資産の中に資産除去債務の履行に関連して法的に制限されたものがある場合は、通常の担保資産に関する注記と同様の注記を求めるべきだとする見方もある。海外においては資産除去債務の履行のための資金の積立てが制度化されているところもあり、米国基準ではこのような資産に係る注記が要求されている。しかし、我が国ではそのような資金積立の制度は一般的ではないことなどから、基準に明記する必要性は乏しいと判断した。ただし、そのような資産の存在が重要であれば、「資産除去債務の内容についての簡潔な説明」(第16項(1)参照)の中で記載することが適当と考えられる。

適用時期等

(適用初年度における期首残高の算定)

61. 本会計基準を最初に適用する際に、どの時点での見積りを使用するかが問題となる。資産除去債務の発生時から本会計基準を適用していたのと同様の結果となるべきであるという考え方によるならば、その時点に遡って当時の経営環境等に基づいて各種の見積りを行うことが妥当といえる。

しかしながら、固定資産の取得時点の情報を十分な信頼性をもって収集するのは現実的ではないと考えられること、また、固定資産の取得時点から本会計基準適用開始時までの間の変化を織り込む際に相当の恣意性が介入する余地があることを考慮すると、本会計基準の適用初年度の期首時点における合理的な見積りを用いて資産除去債務を算定するのが実務的にも合理的であると判断した(第18項参照)。

(期首残高の調整方法)

62. 適用初年度における期首残高の調整の方法としては、将来キャッシュ・フローの見積りの変更に関する調整の方法(第50項参照)と同様に3つの方法が考えられるが、本会計基準ではキャッチアップ・アプローチを採用し、資産除去債務に対応する除去費用の期首残高は資産除去債務の発生後の期間の減価償却額に相当する金額を控除した金額によるものとしている。

将来キャッシュ・フローの見積りの変更と同じくプロスペクティブ・アプローチによって、適用初年度の期首において資産及び負債を同額だけ計上する方法の採用も検討の対象とした。

しかし、適用初年度においては、使用開始後相当の期間を経過した有形固定資産が対象となる場合が多いことから、プロスペクティブ・アプローチを採用した場合に資産の残高が回収可能価額を大きく上回る結果となる可能性を無視できないため、プロスペクティブ・アプローチを採用する場合には、減損損失の認識の要否の検討を要求する必要があると考えられる。

適用初年度においては、検討対象とすべき資産が多数にのぼることが考えられ、そのような取扱いは実務上過大な負担となるおそれがあることなどを考慮した結果、適用初年度の期首残高の調整方法としては、キャッチアップ・アプローチがより適切と判断した。

キャッチアップ・アプローチにおいても対象資産の帳簿価額が回収可能価額を超過する可能性は皆無ではないが、その可能性は低くなるものと考えられることから、他に減損の兆候がない限り、適用初年度において減損損失の認識の要否を検討する必要はない。

なお、適用初年度の期中において、資産除去債務の金額の合理的な見積りがはじめて可能となった場合(第5項参照)や、法令の改正等により資産除去債務が新たに発生した場合(第10項参照)には、見積りの変更として、プロスペクティブ・アプローチによって処理することとなる。

(本会計基準適用による期首差額の取扱い)

63. 適用初年度の期首において新たに負債として計上される資産除去債務の金額は、時の経過により当初発生時よりも増加する。さらに、適用初年度の期首残高の調整をキャッチアップ・アプローチで行うことから、資産に追加計上される除去費用の金額は、過年度の減価償却費相当額だけ当初発生時よりも減少するため、負債の増加額の方が資産の増加額よりも大きくなる。

この差額をどのように取り扱うかについては、適用初年度の損失として一時に計上する方法のほかに、将来の一定期間にわたって費用処理する方法や、適用初年度の期首利益剰余金の調整項目とする方法も検討の対象とした。

将来の一定期間にわたって費用処理する方法は、「退職給付に係る会計基準」(平成10年6月 企業会計審議会)の適用時に採用された方法であるが、その後に公表された減損会計基準が適用時の影響額の分割計上を容認しなかった経緯などを考慮すると、本会計基準において採用することは適当でないと考えられる。

また、適用初年度の期首利益剰余金の調整項目とする方法は、本来的には過年度の財務諸表に対する新たな会計基準の遡及適用が前提となるものであり、本会計基準においてそのような処理を妥当とする事情は見出せない。

したがって、本会計基準においては、適用初年度の期首差額については当該年度の損益として一時に計上する方法によることとした(第18項参照)。

以上


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