[設例2-2] 権利確定条件として業績条件のみが付されている場合 |
(注)本設例は、企業会計基準委員会が平成17年12月27日に公表した「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」から
抜粋したものです。
なお、オリジナルとは異なる表現や省略した部分があります。
1 前提条件
C社は、X3年6月の株主総会において、取締役11名及び従業員14名に対して以下の条件のストック・オプション(新株予約権)を付与することを決議し、同年7月1日に付与した。
@ 新株予約権の数:(取締役)200個/名×11名+(従業員)160個/名×14名=4,440個
A 新株予約権の行使により与えられる株式の数:合計4,440株
B 新株予約権の行使時の払込金額:1株当たり75,000円
C 新株予約権の行使期限:X7年6月末日まで
D 行使する会計期間の直前会計期間の利益がX3年3月期の利益に比して110%以上である場合のみ新株予約権の行使が認められる(7月1日から翌年6月末日まで)。
E X5年3月期における行使見込み:直前会計期間(X4年3月期)の利益は、X3/3期比105%と予想され、新株予約権は行使されないと見込んでいる。
F X6年3月期における行使見込み:直前会計期間(X5年3月期)の利益は、X3/3期比115%と予想され、新株予約権が行使可能と見込んでいる。
G X7年3月期における行使見込み:直前会計期間(X6年3月期)の利益は、X3/3期比120%と予想され、新株予約権が行使可能と見込んでいる。
H X8年3月期における行使見込み:直前会計期間(X7年3月期)の利益は、X3/3期比120%と予想され、新株予約権が行使可能と見込んでいる。
I 付与日における新株予約権の時価は、8,000円/個である。
J 行使条件として、新株予約権を保有する者は、行使時において取締役又は従業員であることを要し、退職した時点で新株予約権は失効する。
K 本設例においては、従業員の退職による失効見込み及び業績条件が達成されないことによる失効見込みは、ゼロとする。
L 新株予約権が行使された際、新株を発行する場合には、全額資本金に計上する。
2 仕訳例
(1) X4年3月期
当会計期間において、従業員1名が退職した。当会計期間の利益実績は、X3年3月期比で105%であり、また、X5年3月期、X6年3月期及びX7年3月期の利益見込みは、X3年3月比で変わっていないため、X5年7月1日から権利行使が可能であると想定される。
<人件費の計上>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
12,840,000 |
新株予約権 |
12,840,000 |
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(注) 8,000円/個×(200個/名×11名+160個/名×13名)×9月/24月=12,840,000円
・ 対象勤務期間:24月(X3年7月−X5年6月)
・ 対象勤務期間のうちX4年3月末までの期間:9月(X3年7月−X4年3月)
(行使時において取締役又は従業員であることが行使条件であるので、権利行使が可能になる直前のX5年6月末日まで勤務条件が付されているものとみなす。)
(2) X5年3月期
当会計期間において、取締役1名が退職した。当会計期間の利益実績は、X3年3月期比で114%であり、また、X6年3月期及びX7年3月期の利益見込みは変わっていないため、X5年7月1日から権利行使が可能であると想定される。
<人件費の計上>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
15,720,000 |
新株予約権 |
15,720,000 |
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(注) 8,000円/個×(200個/名×10名+160個/名×13名)×21月/24月−12,840,000円=15,720,000円
・ 対象勤務期間:24月(X3年7月−X5年6月)
・ 対象勤務期間のうちX5年3月末までの期間:21月(X3年7月−X5年3月)
(3) X6年3月期
当会計期間の利益実績は、X3年3月期比で108%であったため、翌会計期間においては新株予約権の行使ができない。ただし、X7年3月期に関する利益見込みは変わっていないため、X8年3月期において権利行使が可能であると想定される。
<人件費の計上>
X5年6月末日までに退職した取締役、従業員はいない。3か月間の人件費を計上する。
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
4,080,000 |
新株予約権 |
4,080,000 |
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(注)
8,000円/個×(200個/名×10名+160個/名×13名)×24月/24月−(12,840,000円+15,720,000円)=4,080,000円
<新株予約権の行使>
X5年7月1日からX6年3月末日までに新株予約権を権利行使したのは、取締役8名及び従業員10名であった。その結果期末時点で新株予約権を行使していない取締役は2名及び従業員は3名である。
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
現金預金 |
240,000,000 |
資本金 |
265,600,000 |
新株予約権 |
25,600,000 |
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(注1) 払込金額
75,000円/株×(200株/名×8名+160株/名×10名)=240,000,000円
(注2)
行使された新株予約権の金額
8,000円/個×(200個/名×8名+160個/名×10名)=25,600,000円
(4) X7年3月期
当会計期間の利益実績も昨年度に引き続き、X3年3月期比107%であるため、翌会計期
間において権利行使することができないことが明らかになった。新株予約権の未行使残に
ついては、権利行使期間中に権利行使されないことが明らかとなったため、新株予約権の
残額を新株予約権戻入益として利益に計上する。
<新株予約権の失効>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
新株予約権 |
7,040,000 |
新株予約権戻入益 |
7,040,000 |
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(注) 8,000円/個×(200個/名×2名+160個/名×3名)=7,040,000円
(5) X8年3月期
仕訳なし
3 参考
(適用指針第17項)
・
各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定することとされている。
すなわち、ストック・オプションの公正な評価額を、これと対価関係にあるサービスの受領に対応させて、対象
勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づいて費用計上することになる。対象勤務期間は、付与日から権利確定日までの期間であり、権利確定日は次のように判定する。
(1)
勤務条件が付されている場合には、勤務条件を満たし権利が確定する日
(2)
勤務条件は明示されていないが、権利行使期間の開始日が明示されており、かつ、
それ以前にストック・オプションを付与された従業員等が自己都合で退職した場合に権利行使ができなくなる場合には、権利行使期間の開始日の前日。この場合には、勤務条件が付されているものとみなす。
(3) 条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合には、権利確定日として合理的に予測される日
INDEX
■仕訳処理目次
■ストック・オプションの取引
■[設例 1] 基本設例
ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定
■[設例2-1] 権利確定条件が付されておらず、付与と同時に権利行使可能な場合
■[設例2-2] 権利確定条件として業績条件のみが付されている場合
■[設例2-3] 権利確定条件として株価条件のみが付されている場合
■[設例2-4] 権利確定条件として勤務条件と業績条件が付されており、いずれかを達成すれば権利が確定する場合
■[設例2-5] 権利確定条件として業績条件と株価条件が付されている場合
■[設例2-6] 段階的に権利行使が可能となるストック・オプション
ストック・オプションに係る条件変更
■[設例3-1] 公正な評価単価に影響を及ぼす条件変更:行使価格の引下げ(条件変
更日のストック・オプションの公正な評価単価が、付与日の公正な評価単価を上回る場合)
■[設例3-2] 行使価格の引下げ(条件変更日のストック・オプションの公正な評価
単価が、付与日の公正な評価単価を下回る場合)
■[設例3-3] ストック・オプション数を変動させる条件変更
■[設例3-4] 費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更
■[設例4]未公開企業における取扱い
親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合
■[設例5-1] 子会社の従業員等に対する親会社株式オプションの付与が、子会社の
報酬としては位置付けられていない場合
■[設例5-2] 子会社の従業員等に対する親会社株式オプションの付与が、子会社の
報酬として位置付けられている場合
財貨又はサービスの取得の対価として、自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引
■[設例6-1] 財貨等の公正な評価額の方が、自社株式オプションの公正な評価額よ
り高い信頼性をもって測定可能な場合
■[設例6-2] 自社株式オプションの公正な評価額の方が、財貨等の公正な評価額よ
り高い信頼性をもって測定可能な場合
■[設例6-3] 未公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自己株式を用いる場合
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