[設例3-3]
ストック・オプション数を変動させる条件変更 |
(注)本設例は、企業会計基準委員会が平成17年12月27日に公表した「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」から
抜粋したものです。
なお、オリジナルとは異なる表現や省略した部分があります。
1 前提条件
K社は、X3年6月の株主総会において、取締役11名及び従業員14名に対して以下の条件の新株予約権を付与することを決議し、同年7月1日に付与した。
@ 新株予約権の数:(取締役)200個/名×11名+(従業員)160個/名×14名=4,440個
A 新株予約権の行使により与えられる株式の数:合計4,440株
B 新株予約権の行使時の払込金額:1株当たり75,000円
C 権利確定のためには、以下の条件をともに達成した場合である。いったん権利確定した場合、権利行使期間末日(X8年3月末日)まで、無条件に行使可能である。
・勤務条件:X3年7月1日からX6年6月末日まで在籍すること(3年間)
・業績条件:行使する会計期間の直前会計期間の利益がX3年3月期の利益に比して110%以上である場合のみ新株予約権の行使が各会計年度の7月1日以降に認められる。
D 業績条件を達成できると見込まれるのは、X6年3月期である。
E 付与日における新株予約権の公正な評価単価は、8,000円/個である。
F 本設例においては、各会計期間における人件費の計算に際して、従業員の退職による失効見込みは、ゼロとする。
2 仕訳例
(1) X4年3月期
当会計期間において対象者のうち、退職した者はいない。また、業績条件の達成見込みも付与時と変わっていない。この前提条件下では、勤務条件の達成時期の方が遅いと見込まれるので、勤務条件月数で費用配分する。
<人件費の計上>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
8,880,000 |
新株予約権 |
8,880,000 |
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(注)8,000円/個×(200個×11名+160個×14名) ×9月/36月=8,880,000円
・対象勤務期間:36月(X3年7月−X6年6月)
・対象勤務期間のうちX4年3月末までの期間:9月(X3年7月−X4年3月)
(2) X5年3月期
当会計期間において対象者のうち退職した者はいない。なお、当期末において、業績条件の達成可能性がないと見込まれた。その結果、X4年3月期に計上された費用を戻し入れた。
<過年度人件費の戻入>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
新株予約権 |
8,880,000 |
株式報酬費用 |
8,880,000 |
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(3) X6年3月期
上記のとおり、権利確定条件の達成の可能性はないと見込まれたため、当該ストック・オプションは、インセンティブ効果が失われたと考えられた。そこで、取締役及び従業員のインセンティブを高めるために、X5年6月の株主総会において、権利確定条件を直前会計期間の利益がX3/3期比
105%以上であることに変更した。X5年6月時点において条件変更後の業績条件の達成見込みはX6年3月期である。この前提条件下では、勤務条件の達成時期の方が業績条件の達成時期より遅いと見込まれるので、勤務条件月数で費用配分する。
当会計期間の利益実績は、X3年3月期比で107%であったため、業績条件は達成された。
当会計期間において対象者のうち、退職した者はいない。
当初条件による費用とともに、ストック・オプション数の変動に基づく費用を、条件変更後の費用配分期間の条件変更日以降の残存期間にわたって期間配分する。
<人件費の計上>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
26,640,000 |
新株予約権 |
26,640,000 |
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(注) (8,000円/個×(200個×11名+160個×14名)−0円)×9月/12月=26,640,000円
・条件変更後の対象勤務期間:12月(X5年7月−X6年6月)
・条件変更後の対象勤務期間のうちX6年3月末までの期間:9月(X5年7月−X6年3月)
(4) X7年3月期
<人件費の計上>
X6年6月までに退職した取締役、従業員はいない。3か月間の人件費を計上する。
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
8,880,000 |
新株予約権 |
8,880,000 |
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(注) 8,000円/個×(200個×11名+160個×14名)×12月/12月−26,640,000円=8,880,000円
(以下、省略)
3 参考
(会計基準第11項)
・ストック・オプションにつき、権利確定条件を変更する等の条件変更により、ストック・オプション数を変動させた場合には、条件変更前から行われてきた、第5項の定めに基づく費用計上を継続して行うことに加え、条件変更によるストック・オプション数の変動に見合う、ストック・オプションの公正な評価額の変動額を、以後、合理的な方法に基づき、残存期間にわたって計上する。
(適用指針第19項)
・複数の権利確定条件が付されている場合には、権利確定日は次のように判定する。
(1) それらのうち、いずれか1つを満たせばストック・オプションの権利が確定する場合には、最も早期に達成される条件が満たされる日
(2) それらすべてを満たさなければストック・オプションの権利が確定しない場合には、達成に最も長期を要する条件が満たされる日
なお、ストック・オプションの権利が確定するために、ともに満たすべき複数の条件と、いずれか1つを満たせば足りる複数の条件とが混在している場合には、上記(1)と(2)を組み合わせて判定する。
また、株価条件等、条件の達成に要する期間が固定的でなく、かつ、その権利確定日を合理的に予測することが困難な権利確定条件(前項後段)が付されているため、予測を行わない場合については、本項の適用上は、当該権利確定条件は付されていないものとみなす。
INDEX
■仕訳処理目次
■ストック・オプションの取引
■[設例 1] 基本設例
ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定
■[設例2-1] 権利確定条件が付されておらず、付与と同時に権利行使可能な場合
■[設例2-2] 権利確定条件として業績条件のみが付されている場合
■[設例2-3] 権利確定条件として株価条件のみが付されている場合
■[設例2-4] 権利確定条件として勤務条件と業績条件が付されており、いずれかを達成すれば権利が確定する場合
■[設例2-5] 権利確定条件として業績条件と株価条件が付されている場合
■[設例2-6] 段階的に権利行使が可能となるストック・オプション
ストック・オプションに係る条件変更
■[設例3-1] 公正な評価単価に影響を及ぼす条件変更:行使価格の引下げ(条件変
更日のストック・オプションの公正な評価単価が、付与日の公正な評価単価を上回る場合)
■[設例3-2] 行使価格の引下げ(条件変更日のストック・オプションの公正な評価
単価が、付与日の公正な評価単価を下回る場合)
■[設例3-3] ストック・オプション数を変動させる条件変更
■[設例3-4] 費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更
■[設例4]未公開企業における取扱い
親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合
■[設例5-1] 子会社の従業員等に対する親会社株式オプションの付与が、子会社の
報酬としては位置付けられていない場合
■[設例5-2] 子会社の従業員等に対する親会社株式オプションの付与が、子会社の
報酬として位置付けられている場合
財貨又はサービスの取得の対価として、自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引
■[設例6-1] 財貨等の公正な評価額の方が、自社株式オプションの公正な評価額よ
り高い信頼性をもって測定可能な場合
■[設例6-2] 自社株式オプションの公正な評価額の方が、財貨等の公正な評価額よ
り高い信頼性をもって測定可能な場合
■[設例6-3] 未公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自己株式を用いる場合
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