[設例3-1]
公正な評価単価に影響を及ぼす条件変更:
行使価格の引下げ(条件変更日のストック・オプションの公正な評価単価が、付与日の公正な評価単価を上回る場合) |
(注)本設例は、企業会計基準委員会が平成17年12月27日に公表した「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」から
抜粋したものです。
なお、オリジナルとは異なる表現や省略した部分があります。
1 前提条件
H社は、X3年6月の株主総会において、従業員のうちマネージャー以上の者75名に対して以下の条件のストック・オプションを付与することを決議し、同年7月1日に付与した。
@ ストック・オプションの数:従業員1名当たり160個(合計12,000個)であり、ストック・オプションの一部行使はできないものとする。
A ストック・オプションの行使により与えられる株式の数:合計12,000株
B ストック・オプションの行使時の払込金額:1株当たり75,000円
C ストック・オプションの権利確定日:X5年6月末日
D ストック・オプションの行使期間:X5年7月1日からX7年6月末日
E 付与されたストック・オプションは、他者に譲渡できない。
F 付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価は、8,000円/個である。
G H社の株式は全体的な株式相場の下落の影響を受け、ストック・オプションの付与日からX4年3月まで株価は、一度も75,000円を上回らないだけでなく、その間のH社の平均株価は30,000円であり、インセンティブ効果が大幅に失われたと考えられた。
そこで、ストック・オプションの価値を復活させ従業員のインセンティブを高めるために、X4年6月の株主総会において行使時の払込金額を1株当たり75,000円から1株当たり31,000円に行使条件の一部変更を行った。
H 条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価は、9,000円/個である。
I X5年6月末までに実際に退職したのは、5名であった。
J 年度ごとのストック・オプション数の実績は以下のとおりである。(なお、本設例では、従業員の退職による失効見込みはゼロとする。)
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|
未行使数
(残数) |
失効数
(累計) |
行使分
(累計) |
摘要 |
付与時 |
12,000 |
― |
― |
|
X4/3月期 |
11,840 |
160 |
― |
退職者1名 |
X5/3月期 |
11,520 |
480 |
― |
退職者2名 |
X6/3月期 |
8,000 |
800 |
3,200 |
X5/4〜6月の退職者2名、行使20名 |
X7/3月期 |
4,000 |
800 |
7,200 |
行使25名 |
X8/3月期 |
― |
1,120 |
10,880 |
行使23名、失効2名 |
|
K 新株予約権が行使された際、新株を発行する場合には、権利行使に伴う払込金額及び行使された新株予約権の金額の合計額を資本金に計上する。
2 仕訳例
(1) X4年3月期
<人件費の計上>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
35,520,000 |
新株予約権 |
35,520,000 |
|
(注) 8,000 円/個×160個/名×(75名−1名)×9月/24月=35,520,000円
・ 対象勤務期間:24月(X3年7月−X5年6月)
・ 対象勤務期間のうちX4年3月末までの期間:9月(X3年7月−X4年3月)
(2) X5年3月期
条件変更日のストック・オプションの公正な評価単価(9,000円/個)は、付与日のストック・オプションの公正な評価単価(8,000円/個)を上回っている。
<人件費の計上>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
53,760,000 |
新株予約権 |
53,760,000 |
|
(注) 8,000円/個×160個/名×(75名−3名) ×21月/24月−35,520,000円=45,120,000円(付与分)
・付与日からの対象勤務期間:24月(X3年7月−X5年6月)
・付与日からの対象勤務期間のうちX5年3月末までの期間:21月(X3年7月−X5年3月)(9,000円/個−8,000円/個)×160個/名×(75名−3名)×9月/12月=8,640,000円(条件変更による価値増加分)
・条件変更後の対象勤務期間:12月(X4年7月−X5年6月)
・条件変更後の対象勤務期間のうちX5年3月末までの期間:9月(X4年7月−X5年3月)45,120,000円(付与分)+8,640,000円(条件変更による価値増加分)=53,760,000円
(3) X6年3月期
<X5年6月までの人件費の計上>
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
株式報酬費用 |
11,520,000 |
新株予約権 |
11,520,000 |
|
(注) 8,000円/個×160個/名×(75名−5名) ×24月/24月−(35,520,000円+45,120,000円) =8,960,000
円(付与分)(9,000円/個−8,000円/個)×160個/名×(75名−5名)
×12月/12月−8,640,000円=2,560,000円(条件変更による価値増加分)8,960,000円(付与分)+2,560,000円(条件変更による価値増加分)=11,520,000
円
<ストック・オプションの行使>
ストック・オプションの行使を受け、H社は新株を発行する。
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(仕訳)
借方 |
貸方 |
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
現金預金 |
99,200,000 |
資本金 |
128,000,000 |
新株予約権 |
28,800,000 |
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(注1) 払込金額
31,000 円/株×160 株/名×20 名=99,200,000 円
(注2) 行使されたストック・オプションの金額
9,000 円/個×160 個/名×20 名=28,800,000 円
(4) X7年3月期以後
(以下、省略)
3 参考
(会計基準第10項)
・ストック・オプションにつき、行使価格を変更する等の条件変更により、公正な評価単価を変動させた場合には、次のように会計処理する。
(1) 条件変更日(条件変更が行われた日のうち、特に条件変更以後をいう。)におけるストック・オプションの公正な評価単価が、付与日における公正な評価単価を上回る場合には、第5項の定めに基づき条件変更前から行われてきた、付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価に基づく公正な評価額による費用計上を継続して行うことに加え、条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が付与日における公正な評価単価を上回る部分に見合う、ストック・オプションの公正な評価額の増加額につき、以後追加的に第5 項の定めに基づく費用計上を行う。
(2) 条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が付与日における公正な評価単価以下となる場合には、条件変更日以後においても、第5 項の定めに基づき条件変更前から行われてきた、ストック・オプションの付与日における公正な評価単価に基づく公正な評価額による費用計上を継続する。
なお、新たな条件のストック・オプションの付与と引換えに、当初付与したストック・オプションを取り消す場合には、実質的に当初付与したストック・オプションの条件変更と同じ経済実態を有すると考えられる限り、ストック・オプションの条件変更とみなして会計処理を行う。
INDEX
■仕訳処理目次
■ストック・オプションの取引
■[設例 1] 基本設例
ストック・オプションと業務執行や労働サービスとの対応関係の認定
■[設例2-1] 権利確定条件が付されておらず、付与と同時に権利行使可能な場合
■[設例2-2] 権利確定条件として業績条件のみが付されている場合
■[設例2-3] 権利確定条件として株価条件のみが付されている場合
■[設例2-4] 権利確定条件として勤務条件と業績条件が付されており、いずれかを達成すれば権利が確定する場合
■[設例2-5] 権利確定条件として業績条件と株価条件が付されている場合
■[設例2-6] 段階的に権利行使が可能となるストック・オプション
ストック・オプションに係る条件変更
■[設例3-1] 公正な評価単価に影響を及ぼす条件変更:行使価格の引下げ(条件変
更日のストック・オプションの公正な評価単価が、付与日の公正な評価単価を上回る場合)
■[設例3-2] 行使価格の引下げ(条件変更日のストック・オプションの公正な評価
単価が、付与日の公正な評価単価を下回る場合)
■[設例3-3] ストック・オプション数を変動させる条件変更
■[設例3-4] 費用の合理的な計上期間を変動させる条件変更
■[設例4]未公開企業における取扱い
親会社が自社株式オプションを子会社の従業員等に付与する場合
■[設例5-1] 子会社の従業員等に対する親会社株式オプションの付与が、子会社の
報酬としては位置付けられていない場合
■[設例5-2] 子会社の従業員等に対する親会社株式オプションの付与が、子会社の
報酬として位置付けられている場合
財貨又はサービスの取得の対価として、自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引
■[設例6-1] 財貨等の公正な評価額の方が、自社株式オプションの公正な評価額よ
り高い信頼性をもって測定可能な場合
■[設例6-2] 自社株式オプションの公正な評価額の方が、財貨等の公正な評価額よ
り高い信頼性をもって測定可能な場合
■[設例6-3] 未公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として自己株式を用いる場合
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